海龍のアルペジオ ーArpeggio of LEVIATHANー   作:satos389a

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今作は超アルウス、超播磨に超ストレインジ・デルタが登場します、ですが噛ませ犬と言わんばかりに呆気なく瞬殺です。
あと今作後半に出てくる鋼鉄の咆哮2の没超兵器、グロース・シュタットの扱いについてですが、スペックを見るに超ヴォルケンクラッツァーを上回る性能を持っているということから、果てなき欲望と結びついた物作りの力がやがて自分達人類に破滅を齎してしまうという展開にしてみました。
少なくともリヴァイアサンごと海神智史はこの世界を直接的には滅ぼしてはいません、引けば破壊的結末に至るように仕向けられた『引き金』は引きましたが。
それでは今作もじっくりとお楽しみください。


第52話 鋼鉄の世界巡り その2

「何?未確認の軍艦だと?」

「は、突如として特殊船団(超腐心船)が未確認の軍艦が出現したという報告を残して通信を途絶しました。」

「異世界から転移した艦か?そして、第零遊撃部隊との関連性は?」

「第零遊撃部隊との通信記録は確認されていません、救援要請も、です。おそらく我々の攻撃を弾き飛ばすような力を持っている可能性が確実と思われます。」

「となると、超兵器を複数投入せねば勝ち目はないと?」

「それ以上の可能性があります。」

ここは、連合軍艦隊総司令部の最高司令室の中である、そこで最高司令官と参謀が例の未確認艦ーーもうわかりきっているので割愛するーーについて報告と会話をしていた。そして彼らは対応策を練ろうとした、と、その時ーー

「アリューシャン沖を哨戒中の超アルウスより入電、未確認の高エネルギー反応とノイズを検出!こちらに向かって接近中とのこと!」

「何と…、奴は第零遊撃部隊に味方するというのか?」

「まだ、わかりません、ですが少なくとも我々と同盟する気は無いという事は先の報告で確かになりつつあります、恐らくは…。」

 

「何だありゃ…。何か、飛行機みたいな軍艦だぞ?」

「あれが超アルウスという超兵器だ。」

「そして、お前が使ってた航空機みたいの飛ばしてくるんだが…、あれって、もう対応されたとかそういうパターンか?」

「いや違う。これは元々彼ら自身の世界にあった奴なのだろう。単に似ていただけだ。それに我々のデータを調べて対抗していないという事は既に調べて確認済みだ。さ、攻撃開始だ。」

そしてリヴァイアサンのミサイルVLS群から小爆弾を大量に内蔵したミサイルが一斉に放たれる、それは超アルウスの上空で次々と炸裂し内蔵していた小爆弾を解き放つ。

そしてその小爆弾は超アルウスの飛行甲板に命中するなり飛行甲板の表面に自分からめり込むようにして食い込んだ後、一コンマ置いて、一斉に炸裂した、一瞬で超アルウスの飛行甲板は無数の鋼鉄の破片が舞い飛び、次の瞬間には一面が紅蓮の火の海と化し、大小合わせて無数の破口が開いた。これでは航空機の発着艦は不可能である、しかし智史の本当の目的は彼女の飛行甲板を使用不能にして航空優勢を確保することではない、そもそも実力差ーー航空機、兵装をはじめとしたあらゆるスペック差がやり過ぎというべき進化のお陰で懸絶している為に飛行甲板が使えても彼女が負けるという結末は全く変わらない。そうだからこそ智史には相手を適度に甚振り変化を楽しむという余裕ーー油断ではないーーが自然と出来ていた。

そして、彼の思惑通り…。

「つ、翼が生えたぁ‼︎まさかこいつ空を飛ぶ気か⁉︎」

「そんなわけないだろう。第一反重力で浮かぶシステムも、飛行艇のようにその巨大な船体を飛ばすような強力な推進機構も確認されていないし、これらがない以上、どうやって飛ぶんだ?それにこいつは先の攻撃で上の飛行甲板が破壊されたから普段は格納していた予備の飛行甲板を展開しただけだ。」

「は、ははぁ…。ホントだ、航空機がそこから飛び立ってる。」

「でも、何かかっこいいなぁ…。ひょっとして、君はこれを見せたくてわざわざと?」

「そういう事だ。超兵器の魅力というものは、ある程度矛盾点と突っこみどころーーリアルとロマンを混在させたところにある。あまりにリアルだと超兵器特有のぶっ飛んだデザインーーロマンという魅力に満ちたデザインが出来ないからなあ。」

「ロマン、かぁ…。霧の超兵器達もそういうものはそこそこあったけどこいつはまた格別だな。今にも空を飛びそうって感じでなんかかっこいい。」

「そして本気出したみたいかな?でもこっちとの接近戦をやろうとは考えてはないみたい。」

「そうだな、だが逃す気は微塵も無い。」

超アルウスは先の攻撃で飛行甲板を大破したものの予備が生き残っていたのか、そこから航空機が飛び立ってくる。

それに彼女は飛行甲板を破壊されただけでそれ以外に特に大きな損傷は受けていなかった。彼女は航空機を出して応戦しつつリヴァイアサンとの距離を取ろうとする。

 

「追撃だ。蜂の巣の名の如く、その体を蹂躙し蜂の巣にしてくれよう。」

そしてリヴァイアサンの砲塔レールガンの砲身が超アルウスに照準を定める、しかし砲身の中が甲高い機械のような音とともに紫の光で満たされていく。

 

ーーピシュゥゥゥン!

 

次の瞬間砲身から紫の螺旋状の光束が放たれた、そして光束は超アルウスの上空で一筋の光の球となって集まっていく。

そして一コンマ置いて光の球は突如として爆発するように無数の紫の光束を撒き散らした、それは超アルウスの船体を体を覆う鋼鉄の鎧もろとも串刺しにするかのように次々と貫いていく、それに呼応して無数の爆発が胎内で生じる、艦内の穴という穴から茶褐色の煙が吹き出し、すぐにそれは紅蓮の業火と化す。

 

「ついでに推進器も捥いでやろう。一応、「霧」である以上、雷撃も使えないわけでは無いからなぁ…。」

既に超アルウスは戦力たる価値を失った、ただ浮くだけの活火山の如く燃え上がる鉄塊と化していた、更に艦底からの浸水も始まっており、先の攻撃で防水隔壁、注排水システムやダメージコントロールシステムが完黙してしまった以上、沈没は時間の問題だった。

これだけでも十分だというのに智史は相変わらず容赦ない。リヴァイアサンは普段収納されている艦首の魚雷発射管を開放し、彼女に対し複数の波動魚雷と超音速魚雷を放った、先の攻撃で動きが鈍っている彼女の推進器に魚雷は吸い込まれるようにして面白いように命中する、その度に数百メートルはあろうかという巨大な水柱が彼女の艦尾に幾本も立つ、鋼鉄の船体が歪み、悲鳴をあげ、破片が次々と飛び散り、そしてどうしようもない規模の破口が生成される。

 

「トドメだ。戯れの締めには丁度いい。」

「え、えげつない…。」

智史は最早断末魔というべき最期を遂げようとしている超アルウスに対しレールガンの照準を定めた、最早オーバーキルだというのに。そんな時にオープンで通信回線が開く。その声は大層焦燥し、怯えきったような感じだった。

 

「“お、お前は何者なんだ‼︎ 我々が何をした‼︎”」

「おや、通信機器が運良く生き残っていたか。お前達は私に何もしていないのは確かだ。ただ単にお前達を壊したくなってなあ…。」

「“そ、それだったら第零遊撃部隊を狙え!我々よりは骨がある!”」

「別のところに行けと?ぷっ…、はははははははは…‼︎」

「“な、何がおかしい!”」

「言い訳が逃れる術とはなあ…。これで必ずと言っていいほど逃れられると思ったのか?そしてこれで私が満足するというのか?残念だったな。これでお前達を始末する方へますます肝が固まったよ。」

「“な、なに⁉︎”」

「沈め」

 

ーーキュォォン!

ーーバゴォォォン!

 

「ふう、次だ次。超アルウスを両断した際に立った水柱が打ち水の如く降ってくる。これで艦も少しは冷えるだろうか。」

「それジョークで言ってるのか?わざわざ艦に水掛けなくても大丈夫だというのに。それに艦の外そんなに暑いってレベルじゃないぞ。むしろひんやりしてる。」

智史は命乞いに満ちた声に優越感を感じながらも少しうんざりしていた、そして彼はもう命乞いを聞くのは十分だと言わんばかりにレールガンを放つ、その際に甲高い飛翔音が轟く、そして超アルウスはレールガンの青白い弾頭が着弾するや否や玩具のように引き裂かれて巨大な水柱を残して消えた、彼は冗談気分でその際に生じた水柱が雨のように降ってくるのを見て、艦が冷えそうだと言った、当然リヴァイアサンの冷却システムには何の問題も無いという事実を前提の上で言っているのだが。

 

「さて、次行くとしよう。」

「は、早いなあ…。あ、何か火山が噴火してる。」

「あの陸地は…、カムチャッカ半島か。あそこは緑がたくさんある自然の宝庫だからなあ。元の世界では一度も行った事がない。よし、行ってみるとするか。勿論敵のレーダーサイトもあるだろうからそいつらを掘り繰り返して粉砕した上で鑑賞だ。」

この発言の後、大型貫通爆弾mop2やデイジーカッターといった爆弾という荷物を腹に大量に詰め込んだXB-70ヴァルキリーやB-3ビジランティⅡ、B-2スピリッツにB-52スーパーフォートレスといった鋼鉄の鳥達が左舷飛行甲板から続々と飛び立ち、いつも通りに監視の業務についていたレーダー施設も引っくるめた軍事施設に対し、大空を跋扈しながら、迎撃せんという努力さえ跡形も無く吹っ飛ばしてしまう程に猛烈かつ一方的な鋼鉄の雹ーーもはや蹂躙劇の為と言うべきかーーをやりたい放題と言わんばかりに無数叩きつけ、そこに居た人員もろとも跡形も無く次々と根こそぎ掘りくり返し、悉く沈黙させ、廃墟へと変えてしまうのであった。逃げた者達が何名か居たようだが彼らもまた新たな鳥ーーA-10 サンダーボルトやAC-130H スペクターといった対地攻撃機やガンシップに追われ、そして鳥達の機関砲や榴弾砲の猛射を雨霰と、しかも正確無比に浴びせられて悉くミンチにされてしまう。

そして鋼鉄の嵐が過ぎ去り、蠢く物も悉く消えた後、智史達はゴムボートでゆったりと上陸するのであった、航空機でさっさと入るのもいいが船で入るのもまた楽しいと彼が判断したためだ。

 

「こんなに…、緑があったのか。何か、落ち着いてきたなぁ…。」

「やっぱり、人工物があまり無く、木々や自然があるところは何処か落ち着くわね。」

「そうだろうな、しかしそうなるのは何故だろうな。やはり、自然があるところは落ち着くようにとDNAに刻まれているのだろうか。そしてそれは動物の本能なのだろうか。」

「そうかもな。私も人間を知ろうとしているうちにそれが染み付いたのかもしれない。」

そこに広がっていたのは元の日本では見ることも出来ないような雄大な北方の自然だった、雪をかぶって美しい姿の火山の山々が遠くに見えた。

 

「そう遠くないところに温泉がある、そこでゆっくり浸かって更に自然を楽しむのも良かろう。ただ、65度とかなりの高水温の温泉がいくつか含まれていてな、水でぬるめないと少しまずい。」

「そうね、近くに水場がないとまずいわねーー」

「おーい、温泉の話阻んで済まないんだけど、何かぞろぞろとやってきたぞ…。ってこいつら軍隊だぁぁぁぁ!」

「恐らくさっきの爆撃でコテンパンにされた恨みを晴らしたいんだろうね、でも僕らはそんな恨みを喜んで味わう気にはなれない。」

「だったら蹴散らしそのまま温泉に直行するまでだ。行くぞ!」

『智史達がリヴァイアサンからゴムボートで上陸した』、その報告を聞きつけた軍隊がリヴァイアサンからの爆撃で基地を蹂躙され、そこに居た同胞を殺された恨みを晴らさんとばかりに智史達に群がってくる、しかしそれを見た智史は事前に見通していたこともあったのか、やって来ましたかという風に嬉しそうに微笑む、すかさず彼はレオパルド2a7+戦車を目の前に生成する。

彼らはサッサとその戦車の中に飛び乗りドアを閉める、程なくして対戦車ミサイルが複数着弾した、しかしそれは当然のことながら智史が作って使役しているものである、攻撃は呆気なく吸収されて無効化されてしまった、そしてレオパルド2a7+は平然と無傷でその爆煙の中から飛び出して来た。

 

「やはり、その程度でしかなかったか。まあいい、反撃だ。我々を見た目で侮った代償、骨の髄までとくと味わうがいい。」

そしてレオパルド2a7+の120㎜滑腔砲が咆哮する、一発一発が着弾する度に巨大な爆発と土煙を巻き起こし、カムチャッカの大自然を薙ぎ払い、消し飛ばすかのようにクレーターが生まれて行く、その際に敵軍がギャク漫画を思わせんばかりの面白い勢いで吹っ飛んで行く。

この光景を目の当たりにした敵は何が起きているのかが分からず恐怖する、しかし智史はそんなことは知らないとばかりにゲーム感覚で次々と虐殺していった。

勿論オリジナルのそのまんまではこんな滑稽な事を引き起こすだけの力などない。攻撃を始める前に数で叩き込まれて木っ端微塵だ。単に海神智史という最早『神』という言葉ですら生温い化け物の手により作られたからこそこんな事が出来ただけのことだ。

それはともあれ、戦闘は上記の如く、智史による一方的な殺戮が終始するという様であった、智史側が圧倒的優勢なのは言うまでもない。戦闘が終わった後、辺りには動く物など一つもおらず、ただそこには黒煙と焦土、無数の鋼鉄の骸と兵士達の亡骸が転がっていた、それはまるで無謀な攻撃を為した軍隊が辿る凄絶な最期を物語っているかのようであった。

 

「おおう、やり過ぎだぁ…、とはいってもそもそも軍隊が出て来たからこうなるんだよな。」

「さ、温泉温泉。もうすぐ着くぞ。」

「ねえ、土が、赤いね…。」

「そうだな、酸化した鉄が土にたくさん含まれているからな。」

この後彼らは温泉に到着した、予想通り源泉は熱かった。が幸か不幸か、既に何者かが先に、水場から水を注ぎ込まれていた状態へと造り変えていたので温泉の方はさほど熱くは無かった。

そして彼らは温泉に浸かる、温泉は一つしか無かったのか、混浴(?)の如き有様であった。智史はあまりの恥ずかしさのあまりに顔を赤らめてしまった、偶々この温泉はクマが多く訪れる場所だった、そこにあった風光明媚な景色と、そこにたたずむクマを見ながら皆が温泉につかっているという中で。

 

「星、綺麗ね。地上で見る時と宇宙で見たのではこんなに感じが違うなんて。」

「そうだな、それらを見る場所が違っているからこそ、こういった感動も有るのだろう。」

温泉に楽しく浸かった後、自然を楽しもうと散策しているうちに陽が落ちてしまった、夜の星空が綺麗だったので、今夜はそこでキャンプを展開して野宿をする事にした、とはいっても満足な食料は転がっているわけではないのでリヴァイアサンからヘリで輸送して来たのだが。そして翌朝、智史達は一泊の寄り道を済ませ、改めてリヴァイアサンに戻るのであった。

 

「カムチャッカという場所、こんなに綺麗な場所だったなんて、知らなかった。この世界も意外と捨てたものじゃないな。」

「ふっ、そうだな。こういう所で寄り道をするのも楽しい。さあ、改めてナマモノ狩りの再開だ。」

そしてリヴァイアサンはスラスターを吹かして動き始めた、しかしーー

 

ーーボゴォォン!

ーーズゴォォォォン!

 

「ば、爆発⁉︎何がーー」

「特殊弾頭機雷や反物質機雷を海中に散布していたか。私の船体(リヴァイアサン)が動きを止めた隙をついてこの機雷源を仕掛けたのか。その隙をつく動きは褒めてやる、だがそんな策など無駄だ、折角根気を置いて仕掛けたものが悉く無力化されて効かないのではな。このまま一気に突っ切る、中部太平洋に向けて進軍だ。」

「それは通常の艦艇だと非常に無謀だけど、智史くんだからこそ十二分に通用しうる選択肢ね。」

「まあ智史がアホみたいに強すぎるからこそ罷り通る選択肢だな。しかし外はこの有様だというのに、大きな衝撃が一つも身に伝わってこないなんて…。」

リヴァイアサンは自艦を取り巻くようにして形成された特殊弾頭機雷と反物質機雷で構成された機雷源に接触したようだ、接触した機雷が起爆したのを皮切りとして連鎖反応で次々と機雷が誘爆していく。辺りの海は一瞬で消し飛び閃光が程走り、海底が露出し、その際に高さが500mはあろうかという巨大な津波が生じる。

しかしリヴァイアサンはけろりとし、平然と爆煙の中から飛び出してきた、何故そうなったのかは言うまでもない。異常というべき学習・進化能力ーー自己再生強化・進化システムのお陰でこれらが成り立っている事は確かなのだが。

 

「今この世界が自滅しては詰まらん。此方はまだこの世界を楽しめていないというのに。」

 

そして彼のエネルギーベクトル操作能力により巨大な津波がみるみるうちに収束し、辺りは元の気配を取り戻していく。

 

「な、なんて奴だ…。この攻撃を耐え凌いだだけでなく津波も収束させただと…‼︎」

「地球を、半壊させる覚悟でこの攻撃を行ったというのに…‼︎」

「クソォ、バケモノめ‼︎」

彼に対しこの攻撃を仕掛けた将官達は自分達にしてみればあまりに理不尽過ぎる結末に戦慄し憤った、しかしこれで彼が止まる訳がない、彼は順調に中部太平洋へ向かっていたーー

 

ーー中部太平洋

 

「司令官、偵察機より報告、我が艦隊の北西350㎞に未確認の巨艦を確認、超アルウスを沈めたモノと同一の模様!偵察機が追随できない程のスピードで接近中!」

「な、我が軍の偵察機より速いだと⁉︎我が同盟国ドイツの超兵器シュトルムヴィント級ですらこんなスピードは出ないぞ!」

「ですが、紛れも無い事実です!このままでは30分も経たないうちに我が艦隊と接触します!」

日本海軍第六艦隊の旗艦、超播磨のCICは大騒ぎとなっていた、超アルウスを血祭りにあげた巨艦ーーリヴァイアサンが此方に真っ直ぐ向かって来るからだ。

程なくしてリヴァイアサンのものと思われる巨大なノイズが超播磨のレーダーに確認された、逃げようにもあまりに艦速が違うのでは逃げられないと彼らは悟る、彼らの艦隊は播磨型超巨大双胴戦艦の改良型である駿河型2隻に超球磨型、改秋月型といった史実よりも遥かに強力な艦艇で構成されたものだったが所詮は程度の問題であった、第一相手は彼らより遥かに強力な超腐心船の船団ーー彼らは知らなかったのだがーーを打ち破っていたのだから。

そしてリヴァイアサンに向けて一斉に雷撃、砲撃が雨霰と叩き込まれる、たとえ無駄でも大人しく殺られる気は彼等には無い。狙いはとても精密だった。彼らは日本海軍の軍人であるが以前に1人の軍人なのだから。

しかしそれはリヴァイアサン=海神智史にしてみればただの鬱陶しい光景でしか無かった、脅威などそこには全く無い、当たったものを悉く無力化して己の力にしてしまう程の余裕があったのでは。しかも非情な事にその余裕とやらはどんどん増大し今では量子コンピューターはおろか、ベヒモス達ですらその規模は全く把握不能な程である。当然その余裕を奪うには彼らの火力では全く足りない。

彼はゴミに用は無いと言わんばかりに重力子X線レーザー発振基から青白いレーザーを放ち海を軽く一薙した、その一薙で第六艦隊の艦艇はロウソクが溶けるように海水も巻き込み次々と赤々と溶けて蒸発していく、そして巨大な水蒸気爆発がその後に続々と巻き起こる。

 

「す、水雷艦隊、消滅…‼︎」

「直衛艦隊、今の一撃で全滅しました…‼︎」

「残るは…、この超播磨だけか…‼︎」

この超常的な光景を見た超播磨の人間達は絶句し、そして恐怖した、先の一撃だけで彼らの目の前であっという間に艦隊が呆気なく消滅し、レーダーからも彼らが消え失せてしまったからだ、何の有効な一撃も与えられずに、だ。彼ら全員がこの光景を観れたのは智史が先の攻撃をワザと外しただけの事であった。何れにしても智史は彼らを見逃す気は無い、一つ残らず喰らい尽くすつもりでいた。ただ死ぬ順番が早いか遅いか、それだけだった。

 

「“て、敵艦、接近してきます!”」

「“う、撃て、撃て…、撃ちまくれぇぇぇぇ‼︎”」

「くくく、圧倒的な力による死というモノを受け容れられずに死に物狂いか…。まあよい、とくと後悔しろ…。今日我が遊戯の材料として喰らい尽くされる立場に生まれた事を。私という化け物と出会ってしまった事を。なあに、私は慈悲深いぞ、一撃では殺さぬ、じわじわと、な…。」

「実際は慈悲深いってどころか、残虐さがじわじわと滲み出てるぞ…。言葉遣いがえげつない…。そしてあちこちで片端から蹂躙、蹂躙、蹂躙…。何という蹂躙ラッシュだ…。」

「それにしても私が見たモノとはちょっと違う感じがするわ…。何なのかしら、装甲板みたいな物が…。これ、展開するのかな?」

「まあ見ていろ琴乃。その予測の結末を今から明かしてやる。」

リヴァイアサンはゆっくりと超播磨に接近する、超播磨に乗っている者達は恐怖のあまり死に物狂いで抵抗する、もうこれは戦闘という枠を越えた一方的な蹂躙なのだからこの様で落ち着いていられるとなると死ぬという覚悟を決めた時ぐらいだ。

しかし当然の如くこの攻撃も無力化され、雨露が散るのかのように消え果てて終わった、当然リヴァイアサンの外殻には傷一つない。

そんな中で智史は彼らの恐怖と絶望に満ちた悲鳴と絶叫を楽しく聞き嬉しそうに微笑む、そして返礼が放たれる、リヴァイアサンからタナトミウム弾頭を搭載したミサイルが超播磨目掛けて放たれた、ミサイルは超播磨の甲板前部上空で炸裂し、赤い侵食球が超播磨の上部構造物を抉り取るかのように飲み込んで行く、そして侵食球が消えた後には綺麗な断面を残して抉り取られた上部構造物の姿があった、そしたらーー

「やっぱり…。船全体を覆う為にこの装甲板があったのね。でもこれではせっかくの自慢の武装を満足に撃てないと思うわ。」

「そうだな。「実弾防御装甲」とやらを展開し船体を覆ったお陰で主砲や副砲が使えなくなっている。まあその代替えとして60cm噴進砲や超音速魚雷、ミサイル、超怪力線による攻撃を主に使ってくるのだが。しかし、己が不利になるや否や盾を展開してまるで亀のような姿になるとは…、実に嫌らしいな。折角なら最初から展開していればいいのに。」

「お前が前甲板の構造物、侵食弾頭一発で吹っ飛ばしたからこうなるんだろ…。」

「そうだったな。だが盾を展開し殻に閉じこもろうが無駄だ。徹底的に剥ぎ取った上で奈落に叩き落とそうではないか。」

「その笑み…、バーニングゴジラのインフィニット熱線もどきをまた撃つ気だな…。まあこういうの清々しいからいいけど。」

そしてリヴァイアサンの重力子X線レーザー発振基から、船体からの周りのありあらゆる物を焼き尽くさんばかりのフレアの如き強烈なエネルギーの放射の後に複数の紅雷を纏ったこれまた強烈に赤々と輝く太く、とても力強い熱線が放たれた、それはもどきであるからこそ、大層手加減されていた、(前述したように今もなおも強く強大に、進化しすぎている影響で度を超えない程度にリアリティを出すための必要とされる手加減のレベルはどんどん上がってしまっている、もはや戦闘をどう加減して楽しむかという域に彼、リヴァイアサンごと海神智史は生息してしまっているとしか言いようがない)しかしそれでもエネルギー放射、それも掠っただけでこの世界最強の超兵器たる超ヴォルケンクラッツァーの電磁防壁や防御重力場を軽く消し飛ばし、兵装といったありあらゆる外装をボロクソに溶かし、焼き尽くし、内部も最早バーベキューってもんじゃないばかりに真っ黒焦げに焼き尽くしてしまう大層エゲツない代物だった。これを浴びせられる超播磨側は堪らない。

その言葉通りに展開していた実弾防御装甲はエネルギー放射だけで一瞬で自慢の高レベルの防御重力場諸共溶けて剥ぎ飛ばされ、更に返す刀で一気に外装も内装一緒に焼き尽くされてしまった。

これだけでもうスクラップは確定したものだった、そしてそこに本命と言うべき、紅雷を纏い、太く、赤々と輝く熱線が襲い掛かる、超播磨にこれに耐え切れる力などとうに無くーー万全の状態でも全く耐えきれない程のモノなのだがーーそれを食らった彼女は全てを味わう前に跡形も無く溶けて崩壊してしまった。

しかし智史は念入りに、だがまだ物足りないと言わんばかりに彼女がいた同じ箇所にその熱線を何発も浴びせた、その度に熱線が走った場所は次々とありとあらゆるものがいとも簡単に焼き飛ばされ、そして更に多くのモノを焼き尽くさんばかりにと無数の爆発と高熱の衝撃波が吹き上がり、彼女が居た場所の辺りに広がるもの、そしてその射線上全てが悉く火焔地獄に包まれていく。

空を埋め尽くす黒雲と地を赤く染める業火が広がる様は哀しくも、しかし美しい光景だった、そしてその光景は超播磨の最期を彩る鎮魂歌であるのかのように静かに彼の前に広がっていた。

 

「ふっ、次だ。ハワイに直行だ。米海軍太平洋艦隊の本拠地であると同時にナマモノ艦隊の根拠地だからなぁ…。」

「太平洋艦隊…、かつてヴォルケンが率いた霧の太平洋艦隊を思い出すな…。」

「ある意味、これは因縁深いと言うべきだろうか。それが因縁深いかどうかは少し分からないが。」

智史はその光景を見ながらこの世界のハワイはヴォルケンクラッツァー達と戦った過去を思い出させるような場所だと呟く、勿論そこは戦略基地であるという事実に基づく予測が入っていたが。その予測通り、ハワイには超ストレインジ・デルタという最高クラスの攻撃性能を持つ超兵器とそれに匹敵しうる実力をここに持ち合わせたナマモノ兵器がウジャウジャと駐留していた、彼らはレーダー網に超アルウスや超播磨を血祭りにあげた巨艦、リヴァイアサンを捉えたという報告を聞き、久々に骨のある獲物と戦えると喜々として出陣した、しかしそれは彼らが『強者』であるという前提だからこそ言える考えなのであって、数多の世界を揺るがす天変地異さえ軽く引き起こしかねない程の余裕を既に手にし、さらなる力を常に極限まで突き詰め進化していくような化け物の前ではそんな考えなどふさわしくない。彼らはもはや『強者』ではなく、ただの『弱者』でしかなかった。

そして喜々と出撃した彼らを待ち受けていたのは短時間だがしかし永劫に続くかのような一方的な蹂躙だった。

 

「な、なんだ…、海が…⁉︎」

「こ、凍っていく…。」

「そ、そんな馬鹿な‼︎ここは一年中温暖な海域なのだぞ⁉︎ましてや寒流が流れてくることなどない!それを凍てつかせるとは、一体…。」

まず一瞬で海が氷一面と化すという超常現象が襲いかかってきた、海面も海中も一瞬で凍りついたので艦隊は身動きが取れない。そして次の瞬間、レールガンの重く響くような甲高い発射音と共に超ストレインジ・デルタとそれを取り巻く艦隊が一撃で両断された、着弾した際に凍りついた海が砕け散り巨大な氷塊が無数と巻き飛ぶ。

 

「くそ、このまま動けないのでは嬲り殺しではないか‼︎ナマモノ艦隊全艦、撃ちまくれ!巻き添えを出しても構わん、何としても氷の海を砕いて海水を入れるんだ!」

「は、はい!」

理不尽というべきこの超常的な光景を見て不味いと判断した艦隊指令はナマモノ艦隊に波動砲といった高エネルギー兵器を撃ちまくれと命じた、その命令の通りに彼らは強力な高エネルギー兵器をその場であれこれとーーある程度道筋は立てていたがーー撃ちまくる、しかし次の瞬間に起きた光景はこれまたと信じ難いものであった。

 

「そ、そんな、レーザーが、波動砲や重力砲のエネルギーが、敵艦に吸い込まれていきます!」

「何だと、あのエネルギーはかなりのものだ、グロース・シュタットでしか耐えられぬ筈だーー」

「ですが敵艦は自らそのエネルギーを呼び込んでいます、それにこれまでの様子から見るに、自滅を望んでいるキチガイとは言えません‼︎」

「ま、まさかーー」

「ナマモノ艦隊のエネルギー反応、急激に低下!」

「本艦の電圧も同様です!このままではCICの機能が、維持できません!」

「させるな、もっと発電量を増やせ!」

「ダメです、供給が間に合いません!」

「エネルギー切れで行動不能になる艦艇が続出しています!波動砲も、重力砲も、もう撃てません‼︎」

「CIC、機能停止します!」

「な、なんてやつだ…。艦隊の電源を無力化しただけでなく、ナマモノ艦隊が持つ、膨大なエネルギーを、一つ残らず、全て喰らい尽くすだと…。耐えるという概念がやつには存在しないのか…?やつは、やつは一体…⁉︎」

彼らにしてみれば理解不能な現実ーーそれを引き起こす智史側にしてみればもはや朝飯前でしかない事なのだがーーが襲いかかって来た、その現実の前に彼らは驚き混乱した、しかし当然の事ながら、彼はそんなに気長にこの様を見るのは好きではなかった。

 

「さ、終わりだ。ナマモノを掻っ攫ったらハワイも奴らも消毒。なに、消毒するのは太平洋艦隊に関連する拠点だけよ。まあこの後を考慮するとそんな事など偽善というレベルだがな。」

「この後また何かとんでもない事をやらかす気だな、まあ見慣れたから止める気もないが。」

そしてシャドウホークやヘリの群れにより強引にここのナマモノ軍団も恐怖と絶望に満ちた悲鳴を叫びながら次々と連れ去られてしまうのであった。その後用済みとばかりに智史はリヴァイアサンのVLSから特殊弾頭ミサイルを1発づつ、ハワイの太平洋艦隊の基地と目の前にいる彼らに対して撃ち込む、炸裂するや否や巨大な赤々と輝く火の玉がそこに生じ、十数キロと離れたところまでの周囲のものを粉々に焼き尽くした。

 

「あとは進路を堂々と阻むように位置する北アメリカ大陸を塵にして、ドイツに直行だ。」

 

ーーキュォォン!

ーーズッゴォォォォォン!

 

リヴァイアサンは再び、主砲たる砲塔レールガンを一閃する、アメリカ大陸の向こうに巨大な光の球が一瞬輝くと次の瞬間には地の底も抉るような強烈な「破壊」でアメリカ大陸は跡形もなく木っ端微塵になってしまった。彼にしてみればまだまだ滅んではつまらないのでアメリカ大陸を完全に消し去った時点で「破壊」は収束させられたのだが。そしてアメリカ大陸があった場所を堂々と通って、彼はドイツに直行していくーー

 

 

ーードイツ軍超兵器、超巨大戦艦グロース・シュタット艦長の独白ーー

 

 

「“お前達人類を滅ぼす『力』は、既にお前達の祖先の手で積み上げられ、築きあげられたモノだ。つまりお前達、そしてその祖先は己の器の大きさを自覚せぬまま、自分で自分を簡単に滅ぼす凶器を欲望を満たす流れの果てに作り上げた、それも一度動けばもう修正の効かぬタチの悪い代物を。単に、その言葉通りになるように少し手を加えたのが偶々私だったという事に過ぎんよ。”」

 

ーー皮肉よな、このグロース・シュタットをグロース・シュタットたらしめる強大な力が自分達を滅ぼしうる力である事、しかもそれを創り出したのは他ならぬ自分達自身であることを…。

我々人類は、欲望の果てに我々自身を簡単に殺める威力を持つ凶器を作り上げてしまったのだな…。

 

 

私は、グロース・シュタットの艦長として最近着任した1人の将官だ。これまで私は祖国ドイツーーそこに住まう家族や部下達、そしてこれから生まれてくるであろう未来の世代に今よりも発展した明るいドイツを残す為、ましてや他国の軍靴にこのドイツを踏みにじる事など許さないという考えの下に指揮を十二分に振るい、どんな状況であろうが多くの仲間が生き残るようにして勇猛果敢に戦ってきた。

そんな私の功績を上層部は評価したのか、超兵器シュトルムヴィントやグロース・シュトラール時代のものも含めて今回私をこの艦の艦長に任じた。

より多くの命や強力なモノを命令一つで動かせるようになる分、責任は大きくなる、だからこそ私の軍人たる使命感と意欲は強くなっていく。これまでもそうだった。

しかし超兵器に乗って戦場に行くようになってからは人間の欲望の不気味さを強く感じるようになった、これほどの力がドイツを守っているのか、下手をしたら命令一つでドイツや世界を蹂躙でき、一隻だけで地球を滅ぼす事さえ出来る、こんなモノが出て来なければこのドイツは守れないのか、と。しかし私はそれを押しつぶして我が故郷を守る為に戦い続け、何度も戦功を挙げ続けた。上層部はこれを見て今回の艦に着任させたのだが、同時にこの艦の圧倒的な力が持つ負の側面が何となく見えてきたのを見て、ますます不気味さを感じた。

というのも、超兵器はその圧倒的な性能を引き出す為に膨大なエネルギーを必要とする、それを賄う為には従来の機関ではとてもではないが役不足である。

 

ーー『“神々の心臓”』ーー

 

そう言われるそれは超兵器を常に『神』たらしめるのに不可欠なものであった、しかしそれと同時に一歩使い方を誤れば人類に多大な被害を与える代物でもあった。

超兵器が強くなればその分だけ、性能を発揮させるにはそれは強くなければならない、しかし負の側面はその分だけ強くなっていく。

勿論この負の側面をそれを作った者達は無視していたわけではない、『拘束具』『リミッター』とやらを生み出し、それが自分達人類の制御下にあるように仕向けていた。

しかしそれはあくまでも『平常』の時であれば通用しうる話である、それ以外の時は通用するとは限らないのだ。

もし万が一暴走すれば大惨事を起こしかねない代物、それも最も強大なモノがこのグロース・シュタットには積み込まれていたのだ、グロース・シュタットはヴォルケンクラッツァー級をより強大に発展させた究極超兵器で、最高クラスの兵装ーー超重力砲に超波動砲、砲塔型レールガンといった高威力の兵器と高レベルの防御重力場に電磁防壁を積み込んでいる、それを常に動かすのには強大なエネルギーを常に供給できるモノが必要という訳なのでそれの最高クラスが積み込まれたのは理解出来ない訳ではないが、制御を外れた時に自分達では全く制御できない危険性を孕んでいるというのに、国を守るのにこんな危ういモノが必要とされる程に技術や戦争は進んでしまったのかと思い背筋に寒気を感じた。

それでも私は任に忠実に従った、軍人は私情だけを優先する事で生きる生き物ではないからだ。私情を優先すればそれは軍の統率に大きな影響を与えかねない。

私は願わくばこの艦をあまり動かしたくは無かった、しかし程なくして良くも悪くも、この艦が必要とされる機会がやって来てしまう。

 

「艦長、敵巨大戦艦はアメリカ大陸を一刀両断にした後、ヨーロッパに向けて真っ直ぐ進軍しています。」

「ルフトバッフェが改シュトルムヴィント級6隻を中核とした打撃艦隊と協力しこれを阻止しようとしましたが、無数の未確認航空機の襲撃を受け、音信を断ちました。」

「第零遊撃部隊との関連性は皆無。しかし少なくとも我々と敵対している事は確かです。」

 

突如として災厄は現れた、それは次々と他の国の超兵器や艦隊を血祭りに挙げ、アメリカ大陸を一撃の下に粉砕してこちらに向かって来ているという。我が同盟国日本の艦隊もそれに襲われたとの事だ、少なくとも第零遊撃部隊がこんな事を為すはずがない、彼らは短期間で次々と襲われたのだ。

音信を絶った艦隊の最期の通信内容から推測するにその巨艦は無数の航空機を運用出来るだけでなく、その航空機はこちらの攻撃を悉く弾いてしまう程強靭だったと思われる。つまりその巨艦はかなりの強敵だろう。実際、偵察機からの報告によるとムスペルヘイム級と同じ航空戦艦だという事が判明している。

この非常事態に対し、軍令部は本来なら第零遊撃部隊に対する切札たる超ヴォルケンクラッツァーと改ムスペルヘイムを中核とする打撃艦隊を急遽この巨艦の迎撃に投入した、が、一撃で呆気なく粉砕された、しかも彼らが叩き込んだ攻撃は悉く吸収されたという凶報付きで、だ。

2隻は爆沈する際に巨大な爆発を引き起こしたというが、それが『“神々の心臓”』に起因しているのかは分からない。いずれにせよこの2隻でも全く歯が立たなかったのは事実だ。となるとこの艦を止められる可能性があるのはこのグロース・シュタットだけという事になる。

私は上層部からの出撃命令に快くーー内心は止む無くという感じではあったがーー従い、この艦を出撃させた。

 

「敵巨大戦艦の艦影を先頭の駆逐艦隊がレーダーに捕捉!距離、17万2千‼︎」

 

その巨艦と我々が遭遇したのは北海だった、その巨艦は北ヨーロッパ沿岸に添うようにして通ったのだろう、実際にその巨艦の後ろには無数、大きな黒煙が天に棚引いていた。まるで怪獣が通った後の様な有様だ、恐らく悉く焦土にされたのだろう。

だがこの蹂躙劇をこれ以上許す訳にはいかない、ここを通せばドイツは火の海と化す。

艦隊司令が攻撃命令を出す、私はそれに従って艦を増速させる。程なくして巨艦の方も攻撃を開始した、それは手数自体こそ少ないが、一撃一撃がとても重く、次々と味方艦隊が紙切れでも吹き飛ばすかのように消滅し、味方が壊滅していくという被害報告が次々とCICに入ってくる。

 

「撃ち方はじめぃ!ヤツに沈められた同胞達の仇、我等がここで討つのだぁ‼︎」

その様を見た艦隊司令は思わず感情を露わにしながら攻撃命令を出す、既に敵艦は本艦の射程範囲内に入っていた、しかしこの時までに護衛艦は殆どが先の攻撃で悉く海の藻屑にされていた、いつこの艦に攻撃が降ってくるか分からない。

艦の砲塔レールガンが例の巨艦に砲身を定めるようにして旋回する、そしてレールガンが咆哮した、しかしその直後ーー

 

ーーキュォォン!

ーードグァァァァン!

 

「「ぐわぁぁっ⁉︎」」

「敵艦、主砲を発砲‼︎バイタルタート後部に直撃弾を食らいました!」

凄まじい揺れがCICを、艦中を襲った、上から下までの人間がヘビー級ボクサーのパンチを食らったのかのように思わずよろめく。恐らく命中弾を食らったのだろう、しかもここまで揺れるとなるとかなりの威力だと考えていい。

 

「被害報告、知らせ!」

「δレーザーⅢ発射基、並びに後部VLS全損!」

「後部レールガン砲塔、今の攻撃で基部が崩壊!ターレットも歪み使用不能です!」

「後部甲板にて大規模な火災発生‼︎現在消火活動中との事!」

「推進システムに異常発生!出力低下!先の直撃が原因の模様‼︎」

被害報告が続々と寄せられてくる、それは先の一撃がかなりのものであるという私の中の予測を事実に変えていく。

この艦は超ヴォルケンクラッツァー級よりも更に堅牢に設計されている、電磁防壁や防御重力場がない状態で100㎝80口径やレールガンβ、波動砲に重力砲を十数発食らっても何の支障なく余裕で戦闘を続行することが出来る。それをここまで揺るがすとなるとこの艦も後2、3発この攻撃を食らったら多分助かるまい。当たったら確実に死ぬと考えていいだろう。

 

ーー“逃げる?”

 

報告によるとあの巨艦は100ノットは超えるスピードを出す改シュトルムヴィント級を凌ぐ艦速だと聞く。対し本艦の最大速力は55ノット。しかも先の攻撃で推進機関に異常が発生して38ノットが精々だ。仮に逃げてもすぐに追いつかれて撃沈されるのが関の山だ。

それに逃げれば則ちあの巨艦にドイツが蹂躙される事が許されるという事だ。要約すると我々に逃げるという選択を選んで得られるメリットは皆無だったという事だ。

ならば1発でもまともに反撃せねばなるまい、あの巨艦の攻撃が直撃する直前に放たれたレールガンは大した効果が確認できなかったという。だったらこの艦の最強兵器たる超重力砲と超波動砲を最大出力で見舞わねばなるまい、ただこれをこんな状態で撃てばドイツや他の国々が滅ぶかもしれない。そしてあの機関が暴走し制御不能になる可能性さえあるかもしれない。

しかし戦争は非情な生き物だ、力無きものには手加減をする余裕、色々と試す余裕さえ与えてくれないのだから。

兎に角、やってみなければ何も分からなかった、そして何も変わらなかった。超波動砲の後部に対になるように位置する超重力砲がまず咆哮する、超重力砲から放たれた黒弾は巨艦に吸い込まれるようにして直撃し炸裂する。

 

「超重力砲、命中!」

「どうだ、やったか‼︎」

CICのモニターには爆発した場所を中心として周りのありあらゆるものが吸い込まれていく映像が映されていた、これでこの巨艦はもうまともには動けまいと皆が確信する。

 

「続けて、超波動砲、撃てぇ!」

 

“この勢いのまま一気に押し切れば”ーー

私は縋るようにしてそう願った、しかし現実は私の願いを裏切るーー

 

ーーキュォォン!

 

ーーズグァァァン!

 

「敵艦、再度発砲‼︎」

「艦首、大破ぁぁぁ‼︎」

「超波動砲、全壊‼︎発射不能‼︎」

何と信じ難い事に敵艦は黒いブラックホールの中から平然と主砲を再び撃ってきた、それは本艦の超波動砲に直撃した、当然超波動砲は基部から吹き飛んだ、そしてその衝撃で超重力砲の回路が断線し撃てなくなってしまった。これで超波動砲と超重力砲はもう撃てない。

しかも、何かがおかしい。前の攻撃よりも揺れがより強くここのCICに伝わってきたのだ。深く、斬り込まれたーー

まさかーー

 

「艦長、先の敵弾が機関室を直撃した事により機関の拘束具とリミッターが…‼︎」

「まさか…‼︎」

「エネルギー量、急激に増加‼︎許容限界を超えました‼︎」

「何とかしろ、このままではまずい‼︎」

「今やってます、ですがーー」

機関が、『“神々の心臓”』がこの攻撃で枷を壊され、我々の制御を完全に離れた、恐らくこの流れが行き着く先は自壊による崩壊だろう、エネルギーを収めきれなくなり、器が壊れるというプロセスを経て。

 

「敵巨大戦艦より、通信を確認‼︎回路、開きます!」

そしてそうなるのを待ちわびていたようにして例の巨艦から通信が突如として入ってくる。

 

「“気がついたかな?器に合わぬ力を扱おうとする己の愚かさを。”」

「お前は…、何者だ…‼︎」

「“何者、か…。だが知ったところでこの世界は確実に無くなるから無意味だな。だがお前達の乗っている艦の機関をこんな様にした張本人である事は認めよう。”」

その声の主は、例の巨艦を操り、このグロース・シュタットの機関のリミッターを破壊し、暴走させた者だと名乗った、声の雰囲気からするに恐らく彼が張本人である事は間違いないだろう。

 

「“私は、示したかったのかもしれないな、人間は己の身を滅ぼすほどに悉く浅はかな輩だと…。”」

「まさか、この為に本艦の機関を暴走させたのか…⁉︎」

「“ああ如何にも。だがそれは私が特に手を加えなくても一度枷を外せばお前達人類を滅ぼす『力』を既に持っている。それを創り上げたのは、誰だ?そこにいるお前達だけでは一晩で容易く出来る代物ではあるまい。だがお前達人類ならば作れなくもない代物だ、『物作り』の力をお前達人類は有しているからだ。律されていない、己を利する為の欲望に基づきその力を行使しモノというモノを積み上げていけばこの凶器は自ずと出来上がるのだから。

つまりお前達人類を滅ぼす『力』は、既にお前達の祖先の手で積み上げられ、築きあげられたモノだ。つまりお前達、そしてその祖先は己の器の大きさを自覚せぬまま、自分で自分を簡単に滅ぼす凶器を欲望を満たす流れの果てに作り上げた、それも一度動けばもう修正の効かぬタチの悪い代物を。単に、その言葉通りになるように少し手を加えたのが偶々私だったという事に過ぎんよ。”」

 

彼はそう言う、現にその言葉の通りだった。現に我々は自分の器に合わぬ力を全く制御出来ないでいる。しかもそれは自分達と同じ種族ーー人間ーーの手で生み出された代物だ。

 

「まずい、炉心崩壊が始まった‼︎」

「崩壊限度まであと800‼︎」

「複合崩壊だ!」

 

ーー終わり、か…。実に無様だ、己の手に御せぬ化け物を生み出した報いを、今、我々人類が受けるべくして受けるのだなーー

 

『“神々の心臓”』の暴走ーー

この異常事態による迫り来る断末魔を前にして阿鼻叫喚や絶叫が艦内で前兆として轟く中、そう最期の言葉を吐き終えた、その直後、光がCICを白く染めていく、それが私が見た最期の光景となったーー

 

 

ーーほぼ同時刻、リヴァイアサンにて。

 

「グロース・シュタットというモノが示した、律せられずに暴走した欲望が招いた、全てを破壊する世界の終焉…。実にいい様だな…。」

リヴァイアサンの艦橋の外で智史はそう呟く、彼の正面には中から断末魔の叫びをあげて今にも崩壊しようとしているグロース・シュタットの姿があった。そしてグロース・シュタットを中から食い破るようにして光の筋が一つ、また一つと外へと解き放たれていく、それが頂点に達した時、グロース・シュタットは地球を呑み込み食らうような凄絶な最期を身で示すようにして巨大な爆発を巻き起こした、当然白く光り輝く魔界の業火がリヴァイアサン=智史にも押し寄せてきた、智史はその業火を、しんみりとグロース・シュタットの断末魔と人間の愚かさを思い出して感慨に浸かりながら浴びるのであった。

やがて爆発は収まった、彼の目の前には青々と広がる海や空はもう無く、そこにはただ何も存在しない宇宙ーーただ岩塊が少しあるだけーーが広がっていた。

 

「己が器の大きさを自覚せぬまま己が御せぬ力を生み出し、そしてその力によって滅びる…、それも他の生物や星をも巻き添えにするとは…。群像達よりも遥かに馬鹿すぎて笑えぬわ。私抜きでも簡単に星諸共自滅できるではないか。」

「そうね、この事は反面教師として体の髄に染み付けておくべきね、“行きすぎた欲望は身の破滅を招く”、と…。」

「そしてそうなる可能性は奴らだけでなく私や、琴乃、お前達の中にも常日頃と存在する。それと如何に向き合うかが大切だな、まあ私は力を大きくした分だけその器も大きくするという方法で対処しているが。

しかし私は永久に生きられても、人間は永久に生きるという選択を選ばれずにいつか死ぬ…。」

「そうね、その人間がその罪の重さを知っても、それがその子供達に必ず伝わるとは限らないわ。結局、人類は何も学ばないのかもしれないわね、智史くんが言う根本的な本質を変えない限り…。」

「さて、ナマモノもおふざけ兵器も十分に掻っ攫った事だし、次行こう。少し残念な結末になってしまったが、まあよい。楽しめたからな。」

智史はこの星が滅びてしまう程の惨劇を引き起こした最大の原因は自分ではなく、己の器を自覚せず理性によるストップも効かないまま、欲望のままに動いてしまったこの鋼鉄の咆哮2の世界の住人達だという事実を含めて言い放った、こんな結末になるように『トリガー』を引いたのは他でもない智史本人だったが、その『トリガー』を引けばこんな破壊的な結末になるように因果と罪を積み重ねてしまったのは他ならぬ鋼鉄の咆哮2の住人達であったのは間違いのない事だった。

そしてナマモノやおふざけ兵器をたんと捕らえてご満悦の智史はリヴァイアサンを新たな世界へと航海せんと言わんばかりに動かす、リヴァイアサンは鋼鉄の咆哮2ーー名前こそ同じなれど中身は先ほどの世界とは違う世界ーーへと直行していくーー


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