海龍のアルペジオ ーArpeggio of LEVIATHANー   作:satos389a

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今回もど酷いです。
軍鶏ヤミーとアンクロストと戦う相手はオーズではなく、今や最強最悪の破壊神というべき存在となった智史です。そして彼等は原作より無様な末路を遂げることになります。
あと智史がコアメダルの作り方も覚えてしまったせいでそれがアンクの心をポキリと折る一因にもなっています。
オーズがこんな扱いを受けても問題ない方だけお楽しみください。


第38話 オーズの世界を気ままに探索する智史

「アンク、映司くん見つかった?」

「見つかんねぇ、クソ、いったいどうなってるんだ⁉︎」

「もしかしたらグリード達に連れ去られたんじゃ…。」

「もしそうだったらグリード達の側に映司がいる筈だし、痕跡が残るはずだ、なのに何故だ…⁉︎奴の反応が忽然と消えるはずがねえ!」

智史に連れらされたという事実ーーその張本人を知る術は持ち合わせていなかったがーーその事を知らぬままに映司を必死に探すアンクと比奈。

 

そんな様を空間の歪みを通じてモニターに投影してこっそりと見ている智史、慌て苛立つ彼らの様を見てしめしめと思い、思い通りに行ったなと内心喜んでいた。

 

「ふふふ、実に実にいい事で。くくく…。さて、思い出し笑いはこの程度として、この世界で通用する“アレ”を調達しよう。“アレ”が無ければお料理を食う食わない以前に食えないからな。」

「“アレ”って、まさか、金か…?」

「正解。この世界でも貨幣が流通している以上、貨幣を使うという手段がある。ましてや大事引き起こす事なく平穏にこの世界を楽しみたいというコンセプト上、この手段を使わぬ理由は無い。」

「でも、どうやって調達するんだ…?」

「貨幣を本物そっくりに偽造しても、偽造は偽造だ、バレたら大事を引き起こす可能性がある。だからこの世界の貨幣と交換する価値のある“モノ”を生み出す。」

「そういえばお前は全部とは多種多様なあらゆるモノを作れるんだったな…。それで最短で金を増やすとしたら…」

「そう、この世界の人間達にしてみれば価値の高いただ1つの“物質”で統一された、モノを大量に生み出し、売りまくることだよ…。」

「お前はなんでもありだな…。お前がこれからやる事がなんとなく見えてきたぞ…。」

リヴァイアサンの艦内でそう会話する智史とズイカク、智史達は誰にも発見されることなくこの世界に進入した、自身の血肉でもあるリヴァイアサンが発見されないように各種迷彩、ジャミングを掛けてその姿を欺瞞していたが。

 

「とはいっても、だ。世の中はそう簡単には優しくはない。実際に色々と売り買いする際に個人確認が必要なケースが出てくる。特に市場において非常に価値の高い金、プラチナ、ダイヤモンドはそうだ。大金が動くということはそれだけ犯罪に使われるというリスクも出てくるということだからな、それを抑止する為に個人確認をするのだ、いきなり価値の高いモノを売りに行くぞとなったら色々とボロが出てかえって非常に面倒になる、だからそこそこ価値のあるモノを売るとしよう。

それにカネを多く持たなければならぬ理由なんか無いな、一時的にこの世界に留まるのに大量のカネを持っておく理由など、余程の理由を除いて、何処に存在する?」

「成る程な、この世界で通用する“金”を大量に持っていたとしても多種多様な世界を旅するという観点上、それが必ずしも通用するとは限らないからな。」

「訪れた世界次第では、最悪、尻を拭く紙切れにもならん扱いを受ける可能性がある、だからカネは最低限のモノを持っておくとしよう。」

「そうだな。琴乃、行こうか。智史、火野映司を連れて行くことを忘れるなよ。」

「ふっ、分かっている。異次元空間に彼を仕舞っておくとしよう。」

智史はデータハッキングを行ってこの世界に関するあらゆる情報、スケールを以前の時よりも更に詳細に、事細かに把握しつつそれに対応する対策もやりすぎと言っていいぐらいに実行していた、以前も同じようなことをやっていてそれだけでも十分に勝てるというのに。

そして智史達は動き始める、リヴァイアサンの左舷飛行甲板上にf-35ライトニング2が二機生成され、彼らはそれに乗り込み、リヴァイアサンを飛び立っていく。

 

「やっぱ速えな〜。ここから火野映司の仲間らがいる所まで何分ぐらいなんだ?」

「5分もかからん。だが“カネ”を持たずにそこをいきなり訪れるのはアレだろう、まずはお約束通りに“カネ”を調達するぞ。」

そして智史達はスクラップ買取業者がある場所の近くに到着する。

 

「こんなところで、金が入るのか?」

「ああ、だが売り物なくばカネは手に入らぬ。手に入らぬなら、作ってしまおうか。」

智史はそう言い一瞬にしてピカ線ーー銅線の一種ーー3t分をその場に生み出してしまう、現実味が出るように多少不純物も混ぜてはいたが。そしてそれらを全て片手に持ってそのままスクラップ買取業者が居る施設へと入っていく。

 

「おう、いらっしゃい…、ってあんた、何者なんだ⁉︎」

「私か?ああ、一応『人』だが…。」

「見かけによらぬとんでもねえ化け物だな、あんた。それで、持ってるものはピカ線か、ピカ線を売りに来たのかい?」

「ああ、3t分をな。」

「3tか…、結構な価格となるじゃねえか、どれ、早速品定めだ。見せてくれ。」

そして智史は命ぜられるままにピカ線3tをここの主の目の前で計量器に置く、彼は丁寧に調べ、本物だと判断する。

 

「市場でよく売られているものと大差ねえな。でも、こんな量どこから調達したんだ?」

「中古品で廃棄されかけていたものを回収してきたのだよ。」

「そうか、まあいい。取引成立だ。お値段は、159万円だ。」

「了解した、一応聞いておくが、200万を超えると個人情報の確認が必要になるのか?」

「そうだな、200万超えると個人情報の確認しなくちゃなんねえんだよ、お偉いさんにしてみちゃ大金が自分達の見えないところで動くのは何かと許せない事柄だからな。」

「成る程な、ありがとう。ここも含めたこの世界に来るのは初めてでな、当然国籍や戸籍など持っていなかった。」

「なんだって…⁉︎あんた、この世界の外から来たのか⁉︎」

「そうだ。」

「良かったなぁ、200万超えなくて。これ200万超えてたらあんたが無戸籍だということが芋づる式にばれちまうぜ。なぁに、心配すんな。取引は取引だ。ほれ、受け取れ。」

そして智史は159万円を受け取り、その施設の外で待っていた琴乃、ズイカクの2人の所へと向かっていく。

 

「智史、どれぐらい稼いだんだ?」

「159万円だ、この世界の貨幣の単位は『円』だという暗黙の掟が成り立っている上で言った。」

「159万か…。私が居た元の世界の貨幣水準で行くとするなら、一時だけの贅沢をするには十分過ぎる額ね。」

「3人で53万づつ分けてもなお、この世界のサラリーマンの平均月収の1.7倍に匹敵する額だ。かなりの事が出来る額だとこの世界では言い切れよう。最もそういう自慢のようなことを言わざるをえない事態を生み出したのは私自身だかな…。」

「まあいいじゃないか、この世界で通用する“モノ”が手に入った以上、クスクシエにも行けるな。」

「そうだな、そこでまだ寝こけている火野映司を見せびらかして驚かしてやろうか。」

「そうね、行きましょう、この世界の情景を見ながら。」

そして智史達は53万円を其々の手に取ると東京都、武蔵野市にあるクスクシエに向かう為に公共交通機関の一種ーー電車に乗り込む、そのまま向かうのも休息の醍醐味を半減させかねないし、そもそも彼らはこの世界の情景がどのようなものなのかをまだ知らない。

 

「これが、元いた世界とは異なる人間の都市か…。誇らしげに何かとデカイものがたくさん建ってるな。」

「『生』を帯びている無数の超高層ビル…、『意欲』を帯びた無数の人間…。やはりここは活気があるな。ここが首都、東京だということも考慮しても私が元いた世界のものよりも活気がある」

「こんなに活気のある街、生まれて見たことがなかった…。私が居た横須賀もそこそこ活気はあったけど…。智史くん、群像くんが見たらどう思う?」

「見たら目を少し剥ぐかもしれんな、こんなに巨大な街があったのか、と。」

 

「ここが武蔵野市か…。流石に向こうよりは活気が少ないが、それでも色々と目を奪われるな。」

「まああっちは都市の中心部だし、ここはその都市の付属の1つーーベッドタウンでしかない。」

「ベッドタウン?なんだそれ?」

「大都市周辺の住宅地域や小都市のことだ、都市中心部へと通勤する人間達が夜寝るためにだけ帰ってくるという事象がその言葉の由来だよ。」

「なるほど、でも何で人間は働くんだ?」

「色々と理由はあるが、一番の理由は生活の糧ーー先程言っていたカネを得るためだよ、ズイカク。何に依存しなくてもエネルギーを自給できて半永久的に生きられるお前とは違い、人間は飯というエネルギー源が無ければ生きられない。だが自力で生きる術は持っていない、いや持たされていないから働くということでカネを得るしか無いんだ。」

「なるほど…。でも何で自力で生きる術とやらを持たされないんだ?」

「もし人間共全員が生きる術を持っていたら、カネを持つ必要が無くなる。そして経済が回らなくなるし、先ほど見てきたあんな建物を建てる理由が無くなる。というのも、あんな建物は経済というカネの流れを回す為に存在するからな。

それにカネを権力、力の象徴として崇め集め、それを使って他の人間達を自分達の手駒として思うように使役している者達ーーエリート軍団にしてみればあんな術が他の人間達に染み渡っていることは経済というカネの流れが止まり、自分達に力の象徴であるカネが入らなくなるわ、よって権力というどデカイものも動かなくなるわ、他の人間達が思うように動かなくなることを意味するから非常な不都合だ、だから覚えさせようとしないのだよ。

あと強いて付け加えるならば、カネ抜きで生きていけるということはカネの重要性も極度に下がるということで、今持っているカネも通用しなくなるな、当然クスクシエで食べさせてもらえられるかは怪しくなる。そして交通手段も動かなくなるわ、治安や消防は機能しなくなるわでカネがあるときよりも遥かに不便になる。あんなキツイものはカネという餌を与えられることで初めて動く代物だからな、使命感ぐらいで解決する物じゃない。」

「随分とムズイな、でもお前が言いたいことは何となく分かる、要するに全員に生きる術があることは一見いいことだけど、実はとんでもなく不便な事態を引き起こしかねないんだな。」

「まあそういうことだ、さて、もう直ぐクスクシエだ。店に入って火野映司を出すついでに一息つこう。」

ーー白石知世子以外は誰も居ないな、店の番をしなければならぬ彼女以外は皆火野映司を探すのに目を血眼にしているか。まあいいわ。

そして智史達はクスクシエの目の前に到着した、クスクシエはイタリア風の外装をしており、周囲の雰囲気とは少し異なっていたものの、それがかえってその美しさ、存在感を際立たせるのに一役買っていた。

 

「綺麗ね、ここ。植物もいい色彩出してるし。」

「そうだな、『自然』がイタリアらしさとよく交わってる。さて、入ろうか。」

そして智史はクスクシエの玄関扉を開けて入店する。

 

「こんにちわ〜。」

「いらっしゃいませ〜。」

早速と言っていい程に彼らを出迎えたのは彼の予測通り、この店ーークスクシエの店主、白石 知世子だった。

 

「おや、結構人が少ないですね、何かあったのですか?」

「いえ、今日は平日な事もあるのですが、今他の従業員が人探しをしてまして。」

「人探しですか。一応念のため訊いておきますが、ひょっとしたらこの方でしょうか?」

そう言い智史は彼女の目の前にあの戦闘での怪我から多少回復したもののまだ寝こけている映司を目の前に出す。

 

「え、映司くん⁉︎ど、どうして⁉︎」

「どうやら図星だったようですね。彼はまだ寝こけてますが命に別状はありません。なんでこうなったのかというと私が彼と戦いたくて、彼を次元の彼方に連れ去り戦ってしまいその際に己が衝動のままに彼に大怪我を負わせてしまったからです。彼がこんな様となった原因の諸元は全て私にあります。もし私が憎いなら私を好きなだけお恨み下さい、連れの2人には責はありません。」

「そうですか、映司くんが突然いなくなったと思ったらまさかあなたが…。でも映司くんをここに連れ戻してくれてありがとうございます。ところで次元の彼方で映司くんと戦ったとか言ってましたが、お客様は外から来られたのですか?」

「はい。」

知世子は彼、海神智史の謝罪を受けてこのような事実があったのかということに少し驚いたものの、彼の素直さに感心したのか、彼を憎むような真似はしなかった。

 

「とにかく彼を寝かせましょう。ここに寝転がしとくのも可哀想だ。」

「いえいえお客様、私がやります!」

「いいんです、これで罪滅ぼしの1つになるならさせて下さい、たとえ偽善でも。」

そして智史は映司を彼自身の寝室に連れて行き、そのまま寝かせる、そして映司の体に毛布を掛ける。

 

「あ、お客様、お名前は?」

「海神智史といいます。」

「海神智史さんですか。ありがとうございます。」

知世子は映司が帰ってきたことを比奈やアンク達に伝えたくて仕方がないのか、アンクが所持しているスマートフォンに電話を掛ける。

 

 

「ん?なんだ?」

突如として電話が掛かってきたことに驚くアンク、彼はスマートフォンを手に取り電話に応対する。

 

「“アンクちゃん⁉︎今どこなの⁉︎”」

「何の用だ、今こっちは映司を探しているんだぞ‼︎」

「“それが、映司くんが見つかったのよ!海神智史さんって人が映司くんを連れ去ったって言って私の所に映司くんを出してくれたのよ!”」

「な、なんだと…⁉︎映司が⁉︎」

知世子の発言に驚愕するアンク、何せ見つからない見つからないと悩んでいた先に彼にしてみれば青天の霹靂のような事態が突如として起きたからだ。

 

「アンク、どうしたの⁉︎」

「映司が、見つかったようだ、店に戻るぞ!」

「分かった、後藤さん、行きましょう!」

「ああ、火野が心配だ!」

知世子から映司が帰ってきたという報を聞き驚きながらもアンク達は鴻上ファウンデーション所属のライドベンダー第1小隊の隊長、後藤慎太郎と共にクスクシエに慌てて向かう。

 

ーーその頃。

 

「これ美味いな〜。魚料理にもこんなものがあったのかぁ〜。」

「ああ、人によって好き嫌いはあろうが、素材の旨みが丁度良く出ている。」

「気まぐれとはいえ、この世界を跡形も無く焼かなくて良かったな、智史。」

「少し私をコケにしているのか、ズイカク?」

「いや、それよりもこんな良いところに導いてくれたお前への感謝の念が強い。」

「そうか。そして事前調査でデータ把握をしていてもやはりここは落ち着くな、オリジナリティというものが心理に強く働いているせいなのだろうか。」

「そうかもしれないわね、これそっくりのものを作っても何処かで元のより劣るって心が勝手に決め付けようとしている働きが私達の心の根底にあるのかもしれないわね。」

「そうだな、さて、火野映司のお仲間方が帰ってきたようだ。」

そう智史が呟くのと同時に、アンク達がクスクシエの玄関扉を荒々しく開けて慌てて入ってくる。

 

「映司ぃ、映司はどこだ‼︎」

「映司くんは、今は二階の寝室で寝てるわ。大怪我を負ってるけど体調は安定してる。そこで食事をされている海神智史さんが映司くんに大怪我を負わせたって言って謝りながら映司くんを返してくれたのよ。」

「良かった…。映司くん…。」

知世子の発言に安堵する比奈、しかしーー

 

「おい、なんだこれは!」

「アンクちゃん、どうしたの⁉︎こんなに苛立って。」

「オーズドライバーが、真っ二つになってやがる!海神智史、次元の狭間に映司を連れ込んで戦ったとか言っていたが、てめえがやったのか⁉︎」

「ああ、そうだ。私の思惑通りにお前は怒り狂ってくれた。その顔を見れて嬉しいよ、アンクちゃん。コアメダルは火野映司と戦った際にそのベルトごと全て破壊した恐竜系コアを除いて全て無事だ、安心してくれ。」

アンクが怒り狂う顔を見て思惑通りと言い喜びながら、智史はアンクを更に怒り狂わせる為に挑発するようにしてコアメダルが入っていた容器をその場で丁寧に開く。その様を見たアンク、そして彼の中で何かが“プッツン”と切れる。

 

ーーバンッ!

「くくく、あははははははは!」

「…てめぇ、ふざけんな‼︎ヘラヘラと笑い転げてんじゃねえ!」

「そうだ、その調子だ、きひゃははははははは」

「…この野郎‼︎」

「アンクちゃん、落ち着いて!」

アンクは智史を右手で盛大にぶん殴る、そのことがとても嬉しかったのか智史は腹を抱えて笑い転げる。智史がこんなことをされても笑い転げられるのはアンクを自分自身の為の“玩具”としてしか見ておらず、その行動自体が彼の前述の『基礎』の上の思惑通りだったからである、もしこれが彼の大事な人間だったら、彼は傷ついたりして落ち込んでいたかもしれない。

そして智史の挑発に引っかかり更に殴ろうとするアンク、しかし知世子や比奈、後藤の懸命の制止によりそれは阻止される。智史もこの様子を見てこれ以上は宜しくないと判断したのだろうか、落ち着きを取り戻す。

 

「イラつくぜ、見てるだけで反吐がでる…。」

「まあ落ち着いてよ、オーズに変身出来なくても映司くんが無事なだけまだ良かったじゃない。」

「そうじゃねえ!このベルトを破壊されたことによってオーズという俺やお前達にしてみりゃ重要な『駒』が、『盾』が消えたんだよ!」

「そうだな、オーズドライバーが破壊された今、オーズという俺達にしてみれば重要な切り札が消えてしまった。」

ーーまあそうですよねぇ、オーズは曲がりなりにもグリード達に対抗する為の『駒』でもありますから。グリード達がまだご存命な今のこの状態でオーズという『駒』が消えたということは非常に致命的ですねぇ。その事象を引き起こした原因が私である以上、私がオーズの『役割』の一部を引き受けるとしましょうか、基本的にはアンクも含めた一部のグリードは救済、それで最悪の場合はアンクも含めたグリード達全員を葬り去るという事も考えて。まあ最悪考えないと最悪起きた時に戸惑ってタイムロスが僅かながらも生じちゃうから、ねえ?

アンク達の『苛立ち』を聞きつつ智史は心の中でそう呟く、当初はアンク除くグリード達を全員葬り去るーー最悪の場合はアンクさえもと考えていたものの、色々と彼らについて調べていくうちに僅かながらも出来れば助けてやりたいという気持ちが芽生えた、彼らに同情出来なくもない部分並びに自分の好みの部分を見出した為である、しかしそんなものに縛られてばかりでは色々と犠牲が出てしまうので、まずは『説得』を試み、最終的に駄目ーー自分の好みではない者だと判断した者は容赦なく葬り去ることにした。既に駄目だと判断された者は出ており、真木、アンクロスト、ウヴァがそれに該当していた、そして彼は慎重過ぎたのか、この世界をもう十分に葬れるだけの力があるというのに彼らの知識を集めてそれに対応した進化と強化をやり過ぎと言っていいぐらいに実行していた、ペースもいつも通りに更に更に滅茶苦茶に上げ、鍛え過ぎとしか言いようのない観察眼も更に磨きながら。彼を突き動かしているものは慢心が齎す死に対する度を超えた恐怖なのかもしれない。それはさておきとして彼は自分が引き起こしたことの責任を取るかのようにこう呟く、

 

「だったら、私が『オーズ』の代替となろう。」

と。

 

「ふざけんな、『オーズ』という駒をぶっ潰したてめえにオーズの代わりなど、できるものか‼︎」

「オーズの全部ではない、だからといってオーズの役割1つさえ代わりとして背負えぬわけではあるまい。少なくとも私が『オーズ』の代替として参戦した方が駒が『バース』だけというよりは多少はマシだ。それに私以外に誰が『オーズ』の代替となるのだ?余程の理由が無い限りは、誰も、なろうとしないだろう?」

「くっ…。」

「アンク、彼が言っていることはマトモだ、たとえ『オーズ』という駒をぶっ潰した存在だからって『オーズ』の代わりにならないわけではないし、俺達の為にもならないというわけでもない。」

「チッ…。まあいい、海神智史、お前を『オーズ』の代わりとして使ってやらあ!」

「随分と賢明なことだ。さて、何からやればいいのか私に命令してくれ。」

「ヤミー共をぶっ潰してセルメダルを片っ端から奪え!(更にはそれらを生み出しているグリード共からコアメダルを奪取しろ!)」

「了解した。(セルメダル並びにコアメダルの奪取か…。表向きの理由としては人間社会に害悪を齎しているグリードの弱体化という理由が該当しそうだけど、本当の理由はそれではない…。それにオーズドライバーを破壊してしまった今、オーズを強化するという、『本音』の隠れ蓑としての表向きの理由は消滅してしまった、まあオーズドライバーは何時でも修復復元できるけど。取り敢えず、行くとしよう。)」

ここでいうアンクの『本音』は完全なる体を自分のものとするという野望である、だが智史は鍛え過ぎた観察眼でそんな野望を呆気なく見透かしていた、なのでオーズの代わりを敢えて引き受け、その野望に従って齎された結果を彼に与えることで原作の流れにとは多少異なる形でお灸を据えることにしたのだ。

 

「すみません、お勘定お願いします。」

「は〜い、ありがとうごさいま〜す。アンクちゃん、行くなら気をつけてね。」

「ああ。」

「琴乃、ズイカク、私について行くのか?」

「うん、ちょっと智史くんの身が心配だから。」

「判った、ただし私の足を引き摺らぬようにしろよ。」

「わかってるわ。」

食事を食い終えてお勘定を済ませる智史達、智史の後に続くかのように琴乃とズイカクも付いてくる。そして、

 

「メダルだ!セルメダルの音だ!」

「契約済ませた束の間早速ヤミーが現れた、か。行くぞ。」

「比奈、映司を頼む!」

「分かった!」

突如としてヤミーの気配が智史とアンクの本能を刺激する、そして彼らは慌ててクスクシエを飛び出していく。

 

「海神、移動ならライドベンダーを使え、って速えよ!」

「なんのツールも無しにこの速さとは…、くっ、後を追いかけるのが精一杯だ、オーズを倒した強さは伊達では無かったということか‼︎」

「おい、なんであいつはあんなスピードを出せるんだっ!」

智史のあまりの足の速さに絶句するアンク、彼は思わずズイカクにそう尋ねる、すると彼女はこう答える、

 

「人の形をしているけど、『人間』じゃないからだよ。私やお前もそうだけど、あいつはお前らとは比較にさえならない程の力を持つ『化け物』だから。」

と。

 

「な、なんだと…⁉︎だとしたら…。」

「ああ、コアメダルがオーズドライバー諸共破壊された理由も説明がつく…。ところでお前も人間ではないと言っていたが、どうしてなんだ?」

「ああ、私か?メンタルモデルという人の形を模した霧という名の無機物生命体だからだよ。」

その言葉と同時にズイカクの体を覆うように緑のサークルと個体識別紋章が表示される。

 

「まだ示してなかったけど、あいつも一応私と同じ同類。ただ生まれと力の規模が異なっているだけ。」

「成る程な…、って、海神は何処へ⁉︎」

「智史か?ああ、あいつの気配を感じるということはそんなに遠くはない場所にいる筈だ。ん?あいつからお前の気配まで出始めてる、急ぐなら今のうちだぞ?」

「何だと⁉︎急ぐぞ!」

 

ほぼ同時刻。

 

「(軍鶏の姿を模したヤミーちゃんか…。アンクをベースとしてるせいか姑息な戦術がお得意なことで。原作での情報だとアンクロストがアンクの隙を誘う為に生み出した囮…。そしてここの世界の各種情報調査並びに各種シミュレーションで、アンクロストが原作と同じ『結果』を出そうとしているという結論が出てきた、それを裏付けるかのようにアンクロストだけでなく真木一味も私や琴乃、ズイカクの存在には未だに気がついていない…。ならばここでアンクがここにいるという『気配』を出してあいつを誘い出し、盛大に返り討ちにしてやろう。まあ万が一の可能性も考慮していつも通り最悪に備えよう。)」

智史は原作ではアンクの隙を誘う為の役割を担った軍鶏ヤミーと住宅街で相対していた、奇妙に心が落ち着いたまま、静かに対峙するかのように。

 

「お前、見た目に反して超反抗的だ!許さん!」

「何故私が貴様の指示を聞かなくてはならんのだ?まあいい、かかってこい」

「ふん、人間を無闇には殺せまい?」

そして戦闘が幕を開ける、軍鶏ヤミーは事前に羽を突き刺して洗脳し人間の盾として確保した警官達を一斉に突っ込ませる、人間を殺してはいけないという良心につけ込んで対処能力を削ぐことで戦闘を有利に進めるという策略だった、確かにこれはその良心を持っていて、かつ状況対応、対処能力が並の相手ならばとても有効な戦術であるとは言えよう。そう、その良心を持っている『並の』相手ならば。

 

「(如何なる手を用いても勝つというコンセプトが剥き出しですねぇ。それは非常に大切なことですが。でも大事なことを見落としてない?対処能力を多少削げたからって全部が削ぎ落とされる訳ではないし、それだけで戦闘が有利になると、お思いですか?いまからその戦術が『対処能力並びに余力が有り余っている』存在には効かないということをお見せしましょう。)」

智史の対処能力はこれまでの度を逸し過ぎてきた進化の影響で一目見ただけで瞬時に対応対処、更には強化進化できてしまう程異常に強化されていた、そして余力も恐ろしいほどに有り余りすぎていた。そして更に恐ろしいことに(いつも通りだと言った方がいいのかもしれないが)、それらは今も恐ろしい、いやその言葉さえも表現として物足りぬ勢いで進化強化され、滅茶苦茶な勢いで増えているのだ。

彼は恐るべき速さで操られている警官達を腹や胸を殴って次々と強制的に気絶させ、0.00001秒もかからない内に全員無力化してしまった、その際に羽をむしりとって潰すという芸当も含めて。

 

「な、何ぃっ⁉︎」

「どうだ、一瞬にして潰してやったぞ。その戦術を無力化された気分はどうだ?」

「お、おのれぇっ‼︎」

先程の戦法を生かした作戦が瞬時にして無力化されるということを自分にしてみれば想定外だったのか、軍鶏ヤミーは激昂して智史にムエタイのような拳法を構えて襲いかかる、智史もそれに応えるかのようにキングラウザーを右手に構える。

 

「はっ!てやぁっ!」

「ふんっ!」

 

ーーガキィン!

ーーガキィン!

軍鶏ヤミーの拳法、智史の剣撃が互いに入り乱れる、そして智史の剣撃が命中する度に軍鶏ヤミーは大きく怯み、同時に大量のセルメダルが飛び散る。

 

ーードォンッ!

 

何撃目かで軍鶏ヤミーは大きく吹き飛ばされる、戦場は公園に移る。辛うじて彼は体勢を立て直す、そして両肩から赤い帯を智史に向けて放ってきた。智史はその帯に身を捕縛されてしまう。

 

「ほう、これは面白い。」

智史はそう呟く、そして無理やり解こうとする、すると軍鶏ヤミーはそうはさせんと光弾を放って智史を攻撃しようとした、しかし次の瞬間ーー

 

「ふんっ!」

ーードガァァァァァァン!

 

「どはあっ!」

突如として巨大な衝撃波と閃光が帯に巻き付けられている智史から放たれ、軍鶏ヤミーの体を襲う、軍鶏ヤミーはセルメダルを撒き散らしながら荒れ狂う海の中で翻弄される木の葉のように周りの木々や土と共に簡単に吹き飛ばされ、大木に叩きつけられても何本かを吹き飛ばして、まだ有り余る程の勢いで地に叩きつけられる。

見ると智史が先程まで巻かれていた帯を吹き飛ばし、木々も綺麗さっぱりと吹き飛んで立派な更地と化した公園をゆっくりと歩きながら彼の方に向かってくる、キングラウザーを右手に構えて。

 

「あ、あり得ん、こんな結果などあり得ん!」

軍鶏ヤミーは足を震わせて後ろへと後ずさりしながら再び赤い帯を滅茶苦茶に乱射してくる、しかしそれは智史に命中する前にバリアのようなものーークラインフィールドによって全て弾かれ、吸収されて消滅した。

そしてモタついている足が何かに躓いたのか、軍鶏ヤミーは大きくコケて尻餅をつく、それでも迫り来る死に恐怖を覚えてしまっているのか、ヨロヨロと片手を彷徨わせながらも必死の様相で逃げようとする、しかし智史はそんなことなど気にもせず、あっという間に距離は縮まり、智史の影が軍鶏ヤミーの体を覆う、彼は体を震わせて命乞いでもするかのように軽蔑と殺意に満ちた眼差しの智史を見上げる。

 

「な、何でこんなことに…。」

「見苦しい面だ、消滅せよ」

 

ーーザンッ!

ーードガァァァァァァン!

 

そして智史は軍鶏ヤミーに殺意を込めた一撃を振り下ろす、赤い帯によるバリアが展開されたものの、その一撃はいとも簡単にそれを切り裂きセルメダルで構成された軍鶏ヤミーの肉体を引き裂いて、そして跡形もなく四散させた。同時にセルメダルの雨が智史の周りに降り注ぐ。

 

 

「咬ませ犬にもならんな。それにしてもアンク、そして琴乃達はまだ来てないか、まあ私が早足すぎるからかな。おっと、アンクロストのお出ましか、本人よりもミイラが先に来るとは。実に皮肉なことよ。」

智史は何かが来るのを悟ったかのように空を見上げる、見ると怪鳥のモチーフをした怪人ーーアンクロストが赤い羽根を撒きながら宙に浮いていた。

 

「君か、『僕』を模すという忌々しい真似をしてくれたのは…。」

「そうだ、お前をお陀仏にする為に『お前』を模すということをしたのは私だよ。あれに気がついてくれなかったらどうしようかと悩んでいたところだ。」

「そんなことをした挙句にもう1人の『僕』に隙を作る為の囮を葬ってくれるなんて…。せっかく1つになれるというのに、邪魔をしないでよ!」

「嫌だな、お前を主体とした1つの『お前』が生まれるのは少なくとも私にしてみれば非常によろしくないことだ、だから邪魔をしたのだ。」

「よくもこんなことをヌケヌケと言ってくれるね…。その口、体ごと引き裂いてあげるよ!」

智史との口論でアンクロストは智史の策略にまんまと引っかかり軍鶏ヤミーと同じように激しく激昂する、というのも智史は状況一進一退の長期戦ならまだしも、こちらが圧倒的な力を持ちしかもその差をすごい勢いで広げているという一方的に有利な状況だというのに何時までもグダグダと戦う長期戦は大嫌いだったからだ、それに彼がここに来た本来の理由はクスクシエで一息つくことと鴻上光生に一目会うという何れにせよ一時的にここに留まるだけのものであり、ここで『生活する』とは一言も言っていない。

なので彼はテンポよく短期間で一気阿世に片付けるという力攻めをフルに用いた戦略で行くことにしていた、アンクロストを葬り去るのはその第1手である、もしここで逃げられたら幸先が良くないスタートとなり色々とゴタゴタになりかねないからだ。

そしてアンクロストは左側に炎の翼を生やして放つ無数の炎弾や左手からは巨大な火炎を次々と飛ばして智史を攻撃する、炎弾や火炎が彼やその周りを直撃、そして炸裂し、砂埃と爆炎が彼を覆い隠す。しかし彼はケロリとしている、進化のペースを上げすぎていることによる進化のし過ぎが彼に物理的に死ぬということを完全と言い切れてしまう程に拒絶しているからだ、第一彼はビッグバンの10の数千万乗という途方もないエネルギーの爆発にもケロリとして耐え切れてしまう上に更にそれを吸収して己のものに出来てしまうのだ、対してアンクロストが放つ炎弾や火炎は不完全体であることを考慮してもオーズタジャドルコンボさえ圧倒してしまう程の威力を持っているが、一発だけで宇宙全体を跡形も無く焼き払える程の威力は無い。仮に完全体となって全力を出したとしても一発で地球全体を焼き払うことさえ出来るのか怪しい。倒す倒さないの話以前に、智史が一方的に有利、しかもその差は滅茶苦茶な勢いで開いているという余りに酷い実力差がそこに現出されていた。

当然の如く彼はその攻撃を吸収、無効化してそのまま己の力に変換してしまう。

 

「今のは本気か?手加減をしているように見えたぞ」

「その程度では参らないか…。なら僕が直直に君を切り裂き、焼き尽くすしか倒す方法が無さそうだね!」

爆煙を軽く払ってゆっくりと出てくる智史を見て相手が並ではないことを認識するアンクロスト、この時点で逃げ出していればよかったのだが、グリードとして経験不足であったことや彼の挑発で興奮していることが災いし、彼を倒したいという感情に支配されるがままに、両足に炎を纏わせ彼に急降下して突っ込んでいく。

 

「てやぁぁぁぁぁ!」

「はっ!」

ーーガキィィィィィン!

 

智史はアンクロストの炎を纏わせた両足キックを片手だけで苦もなく受け止める、そしてキックの威力を増すために纏っていた炎のエネルギーを呆気なく吸収してしまう。

 

「くっ、なんで腕力だ!離せ、離せよ!」

「離すものか」

アンクロストは足を引き剥がそうとするものの智史はガッチリとつかんで離さない。アンクロストはそんな状況を打開しようと必死なのか、顛末が見えているというのにゼロ距離から炎弾や羽根の手裏剣を智史に見舞う。

 

「いい加減に、離してよ!」

「それは私に対して言っている言葉かな?時間だ、今度はこちらから行こう。」

羽根手裏剣を顔面に雨霰と浴びせられ多少嫌がりながら智史はそう呟く、すると今度はアンクロストが身体を突如として猛火に覆われる。

 

「な、なんだこれ⁉︎身体が、セルメダルが、なんで…‼︎こ、コアまで…、痛い、痛いよぉぉぉぉぉ!」

「先程お前が私に見舞ったものは己の身を焼くには不十分すぎるからな、焔を大の得意とするお前に己の身さえ焼き尽くす焔がどんなものなのか殺す前に味わせたくてな。」

自分の身体を構成している材質ーーセルメダルだけでなくコアメダルまで燻り溶かし焼き尽くしてしまう猛火という今までに味わった事のない常識を無視した現象にアンクロストは震え、恐怖し、怯える。『普通』ならあり得ないのだが、常に進化し、己を鍛えている智史にはそんな事など通用しない。

あっという間に炎を得意とするアンクロストは美しい元の姿を留めぬ程に皮肉にも『炎』によってその身を醜くどす黒く焼かれてしまう、まるで火葬に処されるかのように。

 

「ほぉれ」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

そして智史は止めを刺さんと言わんばかりにアンクロストを片手で投げとばし、かなりの距離を吹っ飛ばした上で盛大に岩肌剥き出しの地面に叩きつける。

 

「た、た、た、助けて…。なんで、なんで、君に殺されなくちゃいけないの…!」

「理由?知るか。第一あれ程積極的に攻撃しておきながら、敗勢になるとツラ変えてもう命乞いとは、大したものだ。」

「嫌だ、嫌だ、なんで、なんで…‼︎ねえ、助けて…!お願い、何でもいう事を聞くから助けてぇ!」

「嫌だな、貴様は今は従ってもいずれその狡猾さで私やこの世界の人間達も翻弄し我が物にするか殺すだろう?殺すのにもうこれ以上の理由、言い訳などは要らん、ここで斬り捨ててやる。」

ーーまあ私も一歩違えばそうなっていたかもしれんな。

必死に命乞いをするアンクロストに智史は断罪するかのように冷たく言い放つ。その言葉が終わると同時にキングラウザーが身を庇うかのように展開されたアンクロストの腕を軽々と貫いて深々と胸に突き刺さり、アンクロストの意識が篭ったタカメダルを捉え、串刺しにする。そして智史はキングラウザーをアンクロストの体に突き刺したままキングラウザーを持っている右手で軽々とその身体を空に向けるようにして持ち上げる。

 

「僕の、コアが、コアがぁ…‼︎」

「死ね」

 

ーーブンッ!

 

「「ゔわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」」

 

ーーズガァァァァァァン!

智史は剣についた血飛沫を払うようにしてキングラウザーを振るう、その際に刺さっているアンクロストを遠心力で後方にぶん投げる、アンクロストの体は宙を舞う。だが彼に2度も地面に叩きつけられるという事はなかった、その前に意識が篭ったタカメダルが砕けるのと同時に断末魔を轟かせて、彼の後方で大爆発を引き起こした。それは小物じみた悪役に相応しい無様な末路だった。

様々な『表情』をしたセルメダルが智史の周りに降り注ぐ、智史はその中で一言呟く、

 

「“脆いな、私が強くなりすぎたからか”」

 

と。

 

 

「海神、ここにいたのか…‼︎探したぞ!って、何があった⁉︎」

「おや、遅かったなアンク。もう少し早ければもう1人のお前の『終焉』を直に見れたのに。」

「な、何だと⁉︎」

「早くこっちに来い。何があったのかは直に確かめない限りは分からないぞ?」

智史の一言にそう煽られたアンクは慌ててアンクロストが爆散した場所に走っていく、そして溶けて燃え上がり、焼け焦げたりした無数のセルメダルとその中に混じっていた焼けて変形した複数の鳥系のコアメダルを見て、唖然とする。

 

「何もかもが焼けて吹っ飛んでやがる。お前がやったようだな。オーズを葬り、コアメダルを複数ぶっ壊した芸当の通りに、グリードも葬れるということか。」

「如何にも。私はこの世界についてあえて完全とは言わないが、無数の事を色々と調べたからな。お前はまだ知らないが、既にコアメダルの壊し方も勿論な事、作り方も会得してしまった。」

「な、何っ⁉︎」

『“自分達の生命、能力の源というべきコアメダルを作れるだけの力量がある。”』とそう智史に言い放たれて驚いてしまうアンク。そして智史はそれが嘘っぱちではない事を示すのかのように焼け焦げて変形した複数のコアメダルを己の手元に集める、そして焼け焦げたそれらは彼の手によって見る見ると本来の姿を取り戻し、そして本来そこにあった力も取り戻した。

 

「ついでに壊された分の補填とタトバコンボの分の代替も一枚づつくれてやろう。さあ、これでお前はお望みの姿になれるはずだ。宿主も健康そうだし、もうお前がそいつに憑依している必要はあるまい。」

智史は強引にアンクを宿主ーー比奈の兄、泉信吾から強引に引き剥がす、そして先程修繕した5枚の鳥系コアメダルと事情ありきで補填として新規に作成した2枚のタカメダル、そして軍鶏ヤミーを撃滅した際に手に入れたセルメダル、更には自分の手で創り出したセルメダルを右手だけの姿のアンクに強引に投入する。すると右手だけだったその姿が変容していく、右手からセルメダルが放出され人の形に近い肉体を構成していき、それに伴いコアメダルも右手から身体の核の方へと移動していく。そして姿形がくっきりと出来上がる、それはアンクロストの不完全だった部分を完全に補ったグリードの完全なる姿形をしていた。

 

「どうだ?自分の体を取り戻し、更に完全なる肉体を手に入れた感想は」

「……。(無理だ、初めて会った時は頭に血が上っていて分からなかったが、今見てみるとどうやってもこいつには勝てん…。文字通りの化け物だ…。)」

自分のような存在を殺すだけでなく生かす事も出来、自在に弄することができると言わんばかりに彼は先程まで見せていなかった凄まじい程の狂気を込めて一連の出来事を態度で語って見せた、そしてそれはズイカクの事前の言葉と絡む事で一層凄みを出していた。そこから滲み出てくるあまりの実力差の前にアンクの心は“ポキリ”と折れてしまう。

 

「お前の望みは叶った、どうした、もうオーズや私を使わなくても自分で好きな場所、好きな時に力の源を手に入れられるようになったのだぞ?」

「いや、お前ともう少し一緒に居たい…。(変に逆らえば一発であいつと同じ末路を辿りかねん…。ああ、あいつにいいように嬲られて殺される他のグリード共の顔が目に浮かぶ…。)」

「ふっ、了承した。(さて、早速と言っていい程にアンクの心を折ってしまったか…。泉信吾を比奈の元に返すとしよう、あとカザリがアンクロストが死んだこと、そして私達の存在に気がついたか、真木に私達のことがバレるのも時間の問題だな、だがそれでいい、あいつらは殺すか、好きなように弄る予定でいるのだから。あとは展開だな、さて、どういう風にストーリーを作るとしようか。)」

智史はニヤニヤと妄想して笑いながらそう策謀を巡らす、彼は既にカザリが自分達の存在に気がついたことを一瞬にして見抜いていた、しかしあえて見逃していた。もし逃さずに殺していれば恐怖と脅威を染み渡らせて殺して甚振るという楽しみが半減してしまうからだ。

 

「智史くん、今後はどんな予定で行くの?」

「真木を苦しめて甚振り、気に入らぬ奴は皆殺しという顛末は決まっている、だがそこに至るストーリーが単調すぎるのはすこし詰まらんからな、今は少し考えている。鴻上光生にも会いたいしそこも絡めたい。

ふっ、この旅は私が始めたことだ。だからその行く先は、私が作ろう。」

幸先のいいスタートを切れた智史、ほぼ同時に真木一味は彼の存在を知る事となる、しかし彼等はまだ知らなかった、彼によってこの後次々と災厄と蹂躙が襲いかかってくるという悪夢をーー


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