海龍のアルペジオ ーArpeggio of LEVIATHANー   作:satos389a

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前話の続きです。
今回は智史が横須賀観光を楽しみ、そして大騒動を引き起こします。
あとアルスノヴァシリーズでは出てこなかった千早群像の幼なじみが最後にちょこっと出てきます。
見たい方だけお楽しみください。


第3話 偵察、観光、波乱、そして出会い

「?どこだ、ここは?」

コンゴウはユニオンコアだけになったとはいえ、言葉を喋ることができ、思考することができる。ユニオンコアは霧の艦艇にしてみれば脳と心臓を兼ねた存在であり、これと大量のナノマテリアルさえあれば何度でも再生可能である、しかしそれはナノマテリアルがあればの話だ、彼女が置かれている場所ーー外でも中でも霧の大戦艦級の超重力砲を撃たれてもビクともしない構造の金庫にはナノマテリアルなど一つも置かれていない、仮にそんなものがあったら智史本人の妄想は潰えてしまうだろうから。

「ようやくお目覚めみたいだね、東洋方面第一巡航艦隊旗艦大戦艦コンゴウさん。」

コンゴウが目覚めたのに気がついたのか智史が音声通信でこちらに話しかけてきた。

「貴様…何をするつもりだ…。」

「うちの妄想、というより野望の実現のためにあんたを手札として使うよ?今は身動きが取れない状態だけど、いずれは動けるようにはするよ、ただし人ならざる形にはなるけれど。ま、こんな時に起きてるのは時期尚早だからもう少しお休み、コンゴウ。(笑)」

そう彼が言い終わるのと同時に強い衝撃が彼女を襲い、彼女はしばらくの間眠りにつくことになった。

「さ〜て、日本が見えてきたぞ〜!」

そうはしゃぎつつもこの世界の日本がどうなっているかを大雑把にとはいえ把握したい彼はリヴァイアサンから偵察機を発進させることにした、そしてSR-71「ブラックバード」とRQ-4 「グローバルホーク」を模した霧の航空機を30機づつ瞬時に生成すると、各方面に向けて発進させた。

「ネットワークだけじゃ嘘も混じってるかもしれないから、ねぇ?」

本音を言うと彼はもっと大量の偵察機を生成して調べ上げたかった、しかし大量に撒くとなるとかえって目立ってしまい、人類側の自分に対する警戒を強めてしまう可能性を懸念したためだ。

彼等を発進させてしばらくして、彼等から偵察結果のデータが送られてきた。

「ネットワーク上に上がってた通りなんだ、この日本って…。」

それも無理はない、偵察機達から送られてきた日本の地理に関するデータには地球の環境変動による海水面の上昇で平地の大部分が海に没していたということがまざまざと示されていたのだ。

「それに霧の海上封鎖か…こりゃこの世界の日本の地理特性から考慮するに日本人にしてみりゃ泣きっ面に蜂だよ…。」

彼は念のため日本中の地層のデータを偵察機達にスキャンして調べ上げるように指示していた、そして予想通りこの世界の日本は国土に資源がない、彼が元いた世界の日本の国土にもあまり資源がなかったことが示されている。実際東京、長崎、札幌の首都機能を持つ3都市以外はそのほとんどが荒廃していた。

「なるほど、結構荒廃してるね、でも人々は生きようと足掻いているのがよく伺えるよ。」

それでも人間は生きていた、彼の元いた世界より劣る生活水準で。

「ひょっとしたら元の世界の日本人と同じかもしれないけど、百聞は一見に如かず!まずは東京から人々の姿を見ていこう!」

そして彼は偵察を終えて帰ってきた偵察機達を回収した後リヴァイアサンを水中に潜行待機させ、臨時首都と化した横須賀を物見遊山の感覚で観光しようと行動を開始した…。

 

一方その頃、東シナ海では…

「コンゴウの艦隊が、交戦を開始してから10分も経たないうちに全滅⁉︎」

「はい、間違いありません。実際にコンゴウ様のユニオンコアの反応は確認されず、他の艦も全てユニオンコアを殲滅されたのが確認されました。」

コンゴウの艦隊が全滅したという凶報に驚愕する大戦艦ナガトに霧の重巡洋艦トネが上記の報告をしていた。

「なんて奴…直ちに兵力の集中を急がせましょう。他の海域の封鎖は疎かになっていい、とにかく奴の撃破を優先して!あと例の“あの子”達の投入も急ぎなさい。」

「ハリマとアラハバキ、アマテラスのことでしょうか?」

「そうよ、今躊躇っている暇はないわ、使えるものはつぎ込んで!」

「わかりました、直ちに実行に移します。」

そう言い、ナガトとの通信を切り、任務をやり始めるトネ。

「できればあの超兵器達は使いたくなかったんだけどなぁ…。」

実はリヴァイアサンが出現した時期より少し前に世界各地に“霧の超兵器”が出現。普段は他の霧の艦艇と同じような感じだが、戦闘に入ると“兵器としての本能”に捉われがちになり、こちらの命令に従わぬケースが続出し、更に生命の危機に瀕するとこちらの制御下を離れる“暴走”を開始する存在であった。もちろんリヴァイアサンよりはパワーが劣るとはいえ、それでも強大な存在でありいざ暴走を開始すればこちらの手に負えない。

そして智史の方はこの会話の一部始終をハッキングできちんと盗み聞きしていた、臨時首都横須賀をどういう風に観光しようかと考えつつ。

「この世界にも霧の超兵器級が出現しているのか、しかもナガトはハリマとアラハバキ、アマテラスや各方面の艦隊も集めて、全滅も覚悟の上でこちらにぶつけようとしているのか…。」

思わず彼女に同情してしまう智史。しかし今のスペックでは彼女の大艦隊に勝つことができても無傷では勝てないということを妄信していた。

「こいつらの数倍強いのに余裕で勝てるようにしないと…。」

そう考えつつさらに己を進化させようとする智史、それが彼を拍子抜けさせてしまうほどのパーフェクトゲームを齎すとは知らずに…。

何れにせよナガトの招集命令によって一時的とはいえ、日本近海の封鎖が解けたのは大きく、ユーラシア大陸との交易が僅かながらも再開されつつあった。それが彼によるものとは人類は知らずに…。

 

それはさておきとして、

「これでよしっ!さあ、物見遊山の始まり始まり〜!」

彼は上級将校として身分を偽造して横須賀に入った。当初はそのままの姿で海洋技術総合学院と日本統制軍の軍施設を見学しようとしたが、よくても一般人、悪ければ不審者とみなされてしまう。後者は自分の横須賀巡りが台無しになり、前者は事前予約が必要になり、かつ見たい所が見れない可能性もあるのだ。どちらにせよ彼にしてみれば今の姿のまま入ることは面倒くさいこと以外の何者でもなかった、なので彼は横須賀臨時首都の政府データベースをハッキングして制圧下に置き、そこにその架空の上級将校の偽造データをあたかも実在しているかのようにデータベースを書き換え、彼自身がその上級将校に成りすますことでまんまと検問を突破して横須賀市街に入ったのだ。

「おっ、コンビニだ、見てみよう!」

横須賀に入った彼の目にまず入ったのはコンビニだった。

彼はそこに入り店の設備と動線計画を見て回った、彼は大学で建築を学んでいたからだ。

「この世界のは元のと変わらないか、でもマンガや雑誌は元の世界のよりはいい!」

そう言う理由はないわけではない、この世界のマンガや雑誌は何故かストーリー性が充実していたのだ、また彼がいた元の世界のマンガや雑誌は美少女といった性的アピールで客を引きつける売り上げ重視のものだったからだ。とうぜん美少女といった性的アピール偏重のスタイルだったせいでストーリーの質は全く深みが無かった。ゲームも彼にしてみれば同様でひどくストーリーに深みがない、高画質プレイやアクションやオンライン、美少女アピールというものばかりだったから。そういうこともあってか、この世界のマンガや雑誌は彼にしてみれば想像力を大いに働かせ、ストーリーに歯ごたえがちゃんとあるような存在だった、彼は全ての雑誌やマンガをパラパラ見て大雑把に把握してしまえばすぐに飽きてしまうと性質があるとはいえ、次々と面白い本があったので、飽きるまで一時間以上はコンビニで立ち読みしてしまった。

「あ〜面白かった、次は軍施設に行って見よう!」

次に彼は日本統制軍の軍施設に向かっていった、道中でこの世界の街の風景を大学で学んだ知識を活かして様々な視点で楽しみながら。軍施設に入ること自体は事前にデータベースを改変していたこともあって難なく入ることができた。

「まずはあの地下ドックっと!」

そこで彼は人類が霧に対する反抗拠点の施設の雄大さを味わい、物言わぬ構造美を味わいながら最重要エリアへと入っていく、その入口にあった最高レベルの網膜認証、静脈認証、音声認証、指紋認証、ID認証を瞬時に突破して。

「ん〜色々あるな、原作の岩蟹といい振動弾頭の試作品といい…。金属の重量感がたまらんわ〜!」

岩蟹は原作では大戦艦ハルナを窮地に追いやった兵器で、振動弾頭は彼も持っているとはいえレア品ゆえの価値が彼にしてみれば魅力的に映った。そしてその兵器達のメタリック感や存在感を楽しもうと彼等を触ろうとしたその時…

「そこのお前!何をしている!もしやメンタルモデルだな!」

その大きな声に彼がびっくりして振り返ると兵士が2人、彼が入った入口に銃を構えて立っていた。

「ここの設備が次々と不調をきたしてると思って調べたらお前が主な原因となっていることがわかった。」

「不法侵入と身分偽造、そして機密情報保護法違反の疑いで連行する!投降しろ!」

えっ、気が付いてたの?

確かにメンタルモデルは存在するだけで周りの電子機器に不調をきたすことはある、だが彼、海神智史の場合、彼自身のメンタルモデルとしての活動量が非常に高かった。またその“不調”が事前にハッキングしていたこともあって非常に大規模なものになってしまい、大量に証拠を残すことになってしまい、気付かれてしまったのだ。

「確かにそのようなことはしましたが、単純に見て回ろうとしただけですよぉ〜」

「言い訳無用、付いて来い!」

くっ、こうなったら仕方がない。

「喰らえ!」

「ぐおっ⁉︎」

彼はクラインフィールドを2人に叩きつけて吹き飛ばし、そのまま施設の脱出を試みる、途中、開いていたゲートが閉じていたが、

「開かぬなら、開けてしまえばいい!」

そう言うと彼は右手に侵食球を発生させそのままゲートに叩きつけた、ゲートに侵食球が当たると侵食球は侵食魚雷が爆発した時のようにそこにあったゲートを構成している物質を飲み込み、消えた。侵食球が当たった部分は綺麗さっぱりと消し飛び、彼はそこを一気に駆け抜ける。

入ってきた出入り口まであと少しという時に戦車が複数台入口を塞いでいた。

「そこのメンタルモデル、止まれ!」

どこからか彼に止まるように呼びかける声がするが、

「(止まるものか。止められるなら止めて見やがれ!)」

彼は心の中でそう呟くと破城槌の形をした青色のクラインフィールドの塊を戦車群に叩きつけた、すると戦車群は魔神の剛腕に引き裂かれる様に粉々に吹き飛んだ。

「ふう、少し想定外だったけど、ま、楽しかったからいいか!」

追っ手を散々に翻弄し、嬉しそうにそう呟く智史。何事も想定し、対処をしておくことは非常に大切である、しかし全て想定し、対処してしまうとするとスリルによる面白みが無くなってしまう。彼はそのことを知っていたからあえて証拠が残るようにしてみたのだ。

「あとはこのまま海洋技術総合学院で夕日を拝むだけ 

って、うおっ!」

「きゃっ!」

彼は何者かとぶつかった、その時になぜかイケナイ柔らかみを感じた。

「いててて…、あ、大丈夫ですか?お怪我は…?」

あ…あなたまさか…

「ア…マ…ハ…、コトノサン?」

「えっ、なんで私の名前を知っているんですか?」

だってうちがいた元の世界ではあなたの名前がマンガ版の原作に載っていましたよ?

なんと智史がぶつかった相手は、天羽琴乃だった、マンガ版の原作では千早群像の幼なじみの。

この出会いが後に彼が彼女と人生を共にする存在になることと、彼の運命が変わっていくというきっかけを生み出したことを彼はまだ知らない…。




今回の超兵器

超巨大ドリル戦艦 アラハバキ

全長 1420m
艦幅 220m 全幅 320m
基準排水量 10730000t
最高速度 水上 1200kt(バウスラスター使用時3000kt) 水中100kt
武装
100口径610mm6銃身ガトリング3連装ターレット 6基
エレクトロンレーザー発射機 2基
プラズマ砲 4基
100口径406mm3連装AGS 12基
各種ミサイルVLS 12000セル
大型多弾頭侵食ミサイルVLS 1000セル
88mm連装バルカン砲 60基
ネオナノマテリアル製ドリル
ネオナノマテリアル製回転ソー
近接専用バウスラスターシステム搭載

好戦的な霧の超兵器。メンタルモデルは大戦艦キリシマのものの髪型を大和撫子にしたやつ。戦闘に入ると兵器の本能に従って行動するため、本来味方であるはずの霧の艦艇も巻き添えにしてしまうことも。
戦闘がなくて戦闘に飢えていたところ、ナガトの招集命令を受け、現在、リヴァイアサンとの戦いに備えて東シナ海で警戒待機中。
接近戦が得意分野で、ガトリングによる瞬発的大火力を活かしつつ、スラスターで小回りを利かせてドリルとソーで敵に大穴を穿つ戦術を主に用いる。
姉妹艦はアマテラス。

超巨大双胴戦艦 ハリマ

全長 1400m
全幅 400m
基準排水量 12000000t
最高速度 水上 100kt 水中 80kt
武装
80口径100cm3連装砲塔 10基
85口径41cm3連装砲塔 10基
100口径203mm連装速射砲 60基
75mm3連装機関砲 120基
各種ミサイルVLS 14000セル
30連装120cm拡散侵食弾頭ロケット発射基 20基
重力子ビーム発射基 4基
超重力砲 片舷 二重連装16基 32門 計64門
ミラーリングシステム搭載
アラハバキと同じく霧の超兵器。彼女とは違い、冷静。ただし追い詰めららると兵器としての生存本能で暴れてしまう所は同じ。女公家が着る服を着けている。アラハバキと同じく大戦艦ナガトからの非常招集を受け、現在ナガト達が集結している場所へ急行中。接近戦を主体とするアラハバキとは違い、重装甲と驚異的な大火力に物を言わせた動く要塞の如き戦い方が主戦法である。

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