海龍のアルペジオ ーArpeggio of LEVIATHANー   作:satos389a

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前作の続きです。
今作はcadenzaのネタバレが含まれます。
そして今作終盤になりますが、霧の生徒会が遂に智史や群像達がいる硫黄島に到達します。
それでは、読みたい方だけお楽しみください。


第10話 悪戯と真実と生徒会

「ここは…変わってはいないようだな。」

「そうみたいですね…。」

地下ドックに浮上し、停泊する401。

「重巡洋艦タカオ⁉︎一体どういうことだ⁉︎」

「東洋方面の霧は全滅したはずでは?」

「知らない、ただ何らかの理由があってここに来たんだと思う。」

実は智史はアニメ版とはいえ、原作を知っていた。なのでこれまでに自分の気に入らないキャラは容赦なく排除してきたのだ、ましてや彼が知らないキャラは彼の手によって片っ端から抹殺された。だが殺しすぎても、帰って淡白になって面白みがなくなってしまう。特にタカオは彼にしてみれば面白みが強いので、あえて殺さなかったのだ。もちろん反乱をまとめて引き起こされた際のことも考慮してきちんと自己強化を進めていたが…。

 

そして群像達に戦慄とする光景が襲いかかる、なんと次々と卵型のメカが彼らの目の前に止まるのだ、そして彼らは群像達に話しかける、

「「「「おかえりなさいませ、艦長。遅い御帰還でした。」」」」

「ひ…ヒュウガ…。これは一体どういうことだ…。」

「「「「ここを6ヶ月の間守りぬくために大量に体をクリエイトしました。」」」」

「あ…、ありがとう…。」

「「「「いえ、これも自身の役目ですから、っ、はっ!」」」」

彼らは群像達の中にいるある人物に目がいく、そして…。

「「「「イ…イ…イオナ姉様〜‼︎」」」」

すると彼らは次々と卵型をくずし、中身を露わにする、それは白衣を着た女性の姿をしていた、そして彼らはイオナに群がっていく。

「「「「姉様、姉様、ヒュウガはこの日を一日千秋の思いでお待ちしておりました〜‼︎」」」」

次々と群がってくるヒュウガの群れを払おうとするイオナ、だがすぐに新たなヒュウガが群がり、そして胴上げをされ、衣服を脱がされ、ヒュウガ達に顔や頭に体、腰までも擦り寄せられてしまった。

「…た…、助けて…。」

そして彼女はヒュウガ達に覆い隠されて見事に身動きが取れなくなってしまった。

「イ…イオナ、大丈夫か⁉︎」

その時何者かの笑い声が響く、

「ククク、あははは、ひひひ、いーっひっひっひっひっ!」

「お、お前まさかあの時の⁉︎」

そう驚く杏平。その笑い声の主は智史だった。

「…ふふふ、そう。イオナをちょっと弄ってみたかったからこうしてみた。」

「アホか、お前は!普通こんなことするか⁉︎」

「あとヒュウガも盛大に♪」

するとヒュウガの大群の山からイオナの頭が出る、そして彼女の視界に本物のヒュウガの姿が目に入る。

「ヒュウガ…一体誰があなたにこんなことを?」

「イオナねえさまぁ〜、この人が、私を…。」

そこにいたのは彼の手によってイセエビに突っつかれ、イセにも擦り寄られて散々な目にあい、涙目のヒュウガだった。

「うわあ…、こいつイオナ達を弄るのが趣味?」

彼が生み出した光景のあまりの酷さに唖然とするいおり。

「智史くん、彼女達を弄り続けたい気持ちは分かるけど、もう終わりにしたら?これ以上やったら彼女達が可哀想よ。」

何者かが彼にそう告げる、すると彼はヒュウガとイセエビの大群を消滅させた、そして2人は解放される。

「こ、琴乃⁉︎お前までここにいるのか⁉︎」

「そう。彼女達と戯れていたこの子達は智史くんが大量の演算リソースを使って作り上げたの。彼ったら本当に無邪気で自分に素直な可愛い子なんだから♪」

そう、彼は自己再生強化・進化システムをフル稼働させて演算能力を異常なレベルに強化し、演算リソースの量を盛大に増やしていたのだ。シミュレーションの量質が急激に充実し、大量に増えていったのは彼が演算能力を大幅強化した際の賜物だった。それはさておきとして、彼はそのリソースの一部を使って今回の悪戯を実行したのだ、しかし一部を使って実行したとは言ってもそれは大戦艦級では到底実現不可能な代物であり、超戦艦級ではじめて実現する代物だった。

 

「ところでヒュウガ、重巡洋艦タカオはなぜ地下にいる?」

「タカオは前は熊野灘で活動してたみたいだけど彼からの攻撃を受けてからは彼が怖くなってここに逃げ込んできたのよ。」

「なるほど、つまり、智史、君が彼女に攻撃を加えたのか?」

「まあそういうことだ。そして私は好奇心でここに立ち寄った、その際にヒュウガにここに寄っていいか、通信や概念伝達で呼びかけた、だが彼女からの答えはビームとミサイルだった。だからここを一度徹底的に破壊して改変したのだ。」

「ちょっと、人が何も言ってないのになんで堂々と人の家に上がり込んできたのよ!」

「NOと言っていたならまだ分かる。だがお前は何の返答もしなかった。それがNOということなのか私が分からなかったから近づいた、そしたらお前は発砲してきた。だから今回のことが起きたのだ。」

「うっ…。」

彼にそう指摘されて顔色が悪くなるヒュウガ。

 

「今回は私の方にも非がある、この戦闘が起きる前から回答が無く、かつ発砲があったらヒュウガを徹底的に弄ってやろうと考えていたからだ。」

「相変わらず正直ね〜。その正直さ、私には真似できないや。」

「群像、今回の非礼は詫びよう。だがここを元通りにするのは私が作ったものを見てからにしてくれないか?」

「わかった。百聞一見に如かず、だな。みんな、一度彼が作ったものを見てから彼の作ったものをどうするのか決めよう。」

「ありがとう」

そして彼は群像達を連れて自分が作ったものへと連れて行く。

 

「ふはははは!なんだこの心躍る感覚は!いいぞ!これはいい!」

まず彼はセグウェイが置いてある場所へ彼らを連れて行く、そこでセグウェイに乗って無邪気にはしゃいでいるキリシマを目にする。

「この島中に私は建物を造りまくってしまった。歩いて見て回るにはあまりにも時間がかかり、皆歩き疲れてしまうだろう。だから、この乗り物に乗れ。」

そして彼は杏平の手をいきなり引き、無理矢理セグウェイに乗せる。

「こいつを操縦する方法は、基本的にこいつに乗り込み、前進する時は体重を前に置く(重心を体の前に移動させる気持ちで)感じで体を前に傾けろ。ブレーキをかける時は走行中に体の重心を足の土踏まずあたりに置く感じにして体を水平にしろ。同様に後退は体を後ろに傾けろ。つまりこいつは本来傾斜すると倒れてしまうところを、倒立振子の制御方法でバランスをとっている乗り物だ。

また速度調整は、重心を体の前に押し出せば速度が上がり、徐々に体の中心に戻す感じで土踏まず辺りに置くと減速する。速度を出しすぎると一旦加速してスイングバックするように減速を導くため、自動的な急ブレーキは不可能だから注意しておけ。なのこの乗り物は電子鍵によりユーザーレベルを認識しレベルに応じた速度制限をつけている。お前達は初めてだから最大速度は15km/hにしてある。その場で回転する時は、重心を体の中心に置きながら、ハンドルだけを左右に傾けるように操作する。以上だ。」

彼はそう言いながら自らセグウェイに乗り込み、言った通りのことを杏平に教え込みながら実演していく。

 

「操縦方法は一通り掴めたか?」

「よく理解出来た、ありがとう。」

「そうか、では行くぞ」

そして彼は群像達を引き連れて施設の案内を始めた。

「本当に和風、しかも豪華絢爛やな、ここ…。」

そう、彼らが進んでいる壁は白漆喰が塗られ、鱗壁が貼られ、天井と壁の境には間接照明が施してあった。そして床の材料は日本瓦のタイルでできており、天井は木でできた黒漆塗りの格子天井があり、そこに豪華な絵や彩飾が施されていた。そして彼らは広い場所に出る、

「まずは垂直庭園からだ。」

彼が言った庭園は垂直に様々な植物が植えられ、装飾が施されていた、しかもその植物や装飾はすべて日本庭園で使われるものばかりだった。また吹き抜けまであり、そこから空が見えるのだ。極め付けには水が流れており、それが無数のししおどしや水瓶を伝ってリズミカルな音を立てているのだ。

「凄い…。」

「次、行くぞ。」

そして今度は地表に出る、そこに金箔が施された黄金の茶室が建っていた。そして彼らはセグウェイを降りる、その入り口に和服を着た青髪の女性が立っていた。

「いらっしゃいませ。」

「あなたは、霧の東洋方面群に所属していた重巡洋艦タカオ?」

彼女に見覚えがあったのかそう話しかけるイオナ。

「今は、彼に従っているけどね。」

そう、彼女は彼からの虐めがなくなった後、琴乃の手伝いもあったのか、彼を見ても恐怖を感じなくなっていた。そればかりか彼と琴乃に色々な日本文化、教養を次々と教え込まれ、今では昔いた大和撫子を思わせるような存在に変質してしまった。

「私が皆様方をご案内いたします。付いてきてください。」

そして彼らは中に入っていく、中の彩飾はかつて存在していた殿様の為の空間を思わせるようなものが施されてあり、庭園には竹や苔、築山に景石に池まで配置されていたのだ。そして彼らは彼とタカオ、琴乃にお茶会をさせられる。

「おいおい、長時間の正座はきついぜ〜」

「我慢しましょう、これが茶会ですから。」

「あ、このお菓子美味しい!」

「食べ方にも作法があるんですね。」

「お茶を立てるのはこうするのか…。」

そして彼らは茶会を済ませた後、次々と色々なものを見て回る、多聞蔵が特徴的な水堀と石垣が施された城壁、重厚な造りの鉄城門、豪華絢爛な彩飾が施された御殿と天守閣ーー もちろん、プールにジャクジー、個室にゴルフ場、トレーニングルームまで完備されていた。彼らが全てを見終えた頃には日はとっくに暮れていた。なお、基地のしての硫黄島の機能はその地下に全て集約し、その機能もヒュウガの時のものよりも格段に強化されていた。そしてーー

 

「もう…堪忍してつかあさいぃ〜。」

「か、彼女は?」

「大戦艦ハルナだ。」

群像達は智史の手によってコートを脱がされ、髪をドリル状に強化ワックスで固められてそのまま頭をコンクリートの壁にねじ込まれ、さらにグラビティジェネレーターや強固な拘束具で固められてアートにされて散々な目に遭い涙目のハルナを見た。

「彼女はコートを脱がすとシクシク泣いたりプルプル震えたりするからな、そこが面白くてそんな彼女が嫌がる姿を見て面白がることも兼ねて今回のようなことにしたのだ。」

「これって…いじめじゃ…。」

「そうか?私は面白いからやっただけだが」

このあと彼はアートを解体し、ハルナを解放するのだった。

 

「まさにやりたい放題で豪華絢爛な豪邸だな、おい。でもよ、群像。ここをどうするんだ?」

「彼にはこの島を色々と変えられてしまった。だが、ここを潰すのはあまりにも勿体無い。この世界からなくなりかけている文化や建物の様式がここに凝縮されているのだから。」

「それで、結論は?」

具体的な結論が出ていないことに少し混乱気味の智史。

「ここはそのまま我々のものとして運用しよう。智史、君を歓迎しよう。ようこそ、蒼き鋼に。」

「ありがとう、群像。」

2人はお互いの手を差し伸べ、硬く握手をする。

「ちょっと、これ元に戻さずにそのまま運用〜?私がせっかく作った要塞なのに〜。しかもこいつがそのまま私達に加わるの〜?」

群像の結論に納得がいかないヒュウガ。

「いいじゃないか。これで世界は更に変わっていく。」

こうして、リヴァイアサン=海神智史は蒼き鋼に一時的にだが、所属することになった。

そしてお腹が空いたので皆で夕御飯を食べることにした、智史が次々と豪華な料理を皆の前に並べていく。

「ちょっと、これ私が作ったのよりも美味しくない⁉︎」

「まるで高級レストランで出されるような味だな…。」

「美味しい、どんどん食べよ!」

それもそのはず、彼は世界中の高級料理店のデータを調べ上げ、製法を知り尽くし、それにふさわしい食材を大量に調達したのだ。だが、食材を物質生成能力でそのまま再現したら食材の価値と味の重みが薄くなってしまう。そこで彼はあくまでその食材の種子と最低限必要な機材を物質生成能力で作り出し、そこから時間をかけてじっくりと生み出したのだ。とは言っても成長速度を速めるために色々と使ってはいたが…。いずれにせよ、彼はその食材達にじっくりと味わうにふさわしい雰囲気を出すためにあえてそのままの形に作らなかったのだ。

そして彼らがお腹いっぱいになって皆寝静まる頃、智史はイオナを連れて躯体修復室に向かうーー

 

「智史、私を起こしてこれから何をするの?」

「あんたに隠されたある秘密を暴くため。」

そして彼はイオナを躯体修復機に寝かせ、一旦彼女の機能を停止させる、そしてスキャンを開始した。

「やはり、デュアルコアか。確か401のコアは潜水艦級か…。ナガラと同じ規模の演算能力しかないのか…。それじゃメンタルモデルは成り立たないな。超戦艦級のコアをサブユニットとしてメンタルモデルの形を成り立たせているのか。」

原作を知っていた彼は彼女がデュアルコアであることを知っていた。そして元からあったコアだけではメンタルモデルを生成できないことも。そして彼は超戦艦級のコアと同じ規模の演算能力を持つコアを作り上げると元からあったそのコアを彼女から取り出し、そのまま入れ替える。そしてそのコアを彼女が置かれているのとは別の躯体修復機に置く。

「さあ、復活するがいい。デカパイロリドレス。」

すると躯体修復機が唸りを上げ、そのコアを浮かばせると次々とナノマテリアルをそのコアに向けて散布していく、そしてそのコアに付いたナノマテリアルは人の形を取っていく、その形は白いロリ風のドレスを着た黒髪の女性の形をしていた。同時に硫黄島の外でリヴァイアサンからナノマテリアルの光の束が放たれ、3Dプリンターのように、海面にナノマテリアルを散布し戦艦大和の形をした青みを帯びたプラチナ色の船体を創り上げていく。

「ん…?」

「気がついたか、イオナ。これがお前に隠されていた秘密だ。」

彼に言われた通りにイオナはその女性を見る。

「智史…。彼女は誰なの?」

「お前に群像に会うように仕向け、かつお前にコアを提供し、演算補助をすることでお前にメンタルモデルを生成させた女性だ。もちろん彼女のコアをお前から取り出したらお前の躯体は消失してしまうからな、だからそれと同じものを代わりとして入れておいた。イオナ、こんなことに付き合わせて済まなかったな。今夜はお休み。」

そして彼はイオナを部屋へ連れて行くと寝かせる、そして夜が更けてから、彼女が目覚めさせてからかってやろうと悪戯を妄想していた、それと同時にサークルを展開してイセを音声通信で呼び出す。

「イセ、こんな時間に起こしてすまない。」

「いいけど、何か用なの?」

「そうだ。お前にイオナへの伝言を頼む、内容はーー」

 

 

 

ーーそして翌朝。

 

「目覚めよ!デカパイロリドレス!」

そして彼、海神智史は躯体修復室で横になっている白ロリ風のドレスを着た女性を叩き起こすのかのように強力な電気ショックを与え始める、

「うっ…ここは?」

彼が期待した通りにその女性は目覚めた、そして彼は彼女に見られるのが少し恥ずかしかったのか、その部屋を嬉しそうに出た後こう呟きながら走っていった、

「デッカパイロリドレッスっの〜(レッスゥ〜)おっめっざっあ〜めぇだぁ〜、(ざめだぁ〜)でっかっあっぱぁ〜いだぁ〜ででででででっかっぱぁ〜い」

そんな彼は突然ヒュウガに出くわす、そして掴み掛かられる。

「ちょっとあんた!昨夜イオナ姉様に何をしたのよ!」

「イオナに?実験をちょっと彼女に試してみた♪」

「なんでヘラヘラ笑ってんのよ、笑い事じゃないわよ!」

「へ?」

その様子を見たイオナが彼女を落ち着かせようとする、

「ヒュウガ、落ち着いて。彼は私に何も悪いことはしていない。」

「ね、姉様⁉︎」

「彼は私の秘密を知るために実験をしただけ。実験の内容はわからない、でも私は何事もなかったから…。」

「…で、でも…。」

そんなやりとりをする3人、そこにーー

「あなたは…、401⁉︎何故私のコアが無くてもメンタルモデルを維持できているの、メンタルモデルはかなりの演算リソースを消費するはず…。そしてあの2人は…?」

「しばらく寝てたから周りの環境が激変してることに体がついていかないか…。目覚めたか、デカパイロリドレス。」

彼がそんなあだ名で呼ぶ女性はーー超戦艦、ヤマトだった。

「デカパイロリドレス?あなたが言ってるのは私の名前でしょうか…?」

「ちょっとあんた!勝手に人の名前決めるんじゃないわよっ!」

「落ち着け、変態エッグ。彼女の本当の名前はーー

超戦艦、ヤマトだ。」

「ちょちょちょちょちょちょちょちょちょ、超戦艦⁉︎」

彼の発言に驚くヒュウガ。

「そうだ。あだ名で言って済まなかった、ヤマト。私は霧の究極超兵器、超巨大戦艦 リヴァイアサンのメンタルモデル、海神智史だ。私に食いかかってきた女は大戦艦ヒュウガ。彼女は401ーーイオナが大好きな、イオナキャーキャーだ。」

「あだ名を勝手につけるな〜っ!」

「そうですか…。ところで、智史さん、あなたが私を復活させたのですか?」

「そう。私がかつていた世界で、お前がどのようなことになったのかは原作を見たから知っている。だからこそだ。そして401にコアを渡して命令したのもお前が父親と捉える存在ーー千早翔像の息子、群像に彼の思いを伝えたかったからではなかったのか?」

「何故そのようなことを⁉︎」

あたかも自分の考えを知っているのかのように呟く彼に驚くヤマト。

「ここでは話が十分には出来ないだろう、群像を呼んでくる。少し落ち着いた空間でイオナと一緒に話をしようではないか。」

そして彼は群像を呼び寄せる、そしてイオナとヒュウガ、ヤマトを連れて群像が待っている部屋へと入っていくーー

 

 

 

ーー超戦艦ヤマトの独白ーー

 

 

昔、私達の仲間を沈めた人間がいた。彼は千早翔像という人だった。彼に興味を示した私は妹のムサシと一緒に彼に会うことにした。その時に私達はメンタルモデルを手に入れたのだ。

 

「翔像さんは何のために戦っているのですか?」

「家族のためです。私には妻の沙保里と一人息子の群像がいます。」

そう彼は家族の写真を示しつつ私と話をした。ムサシは私の船体の陰からそっとその様子を見ていた。

「私が姉で、ムサシが妹ね。」

そして私は隠れていたムサシを呼び、紅茶を彼の目の前で飲ませてあげた。

そして私達は彼と親しくなり、いつしか彼を父親のような存在として見るようになった。だが、そんな楽しい日々も長くは続かなかった、彼に不信感を抱いた人間達が彼を殺してしまったのだ。

「翔像さん!」

「申し訳ありません、千早一佐…。」

そして彼をお父様と呼び慕っていたムサシはこの事に傷つき、悲しみ、怒り、彼が艦長として乗っていた潜水艦を沈め、人類と変化を激しく憎悪するようになった。

「ダメ!」

私は怒りに駆られ人類を滅ぼそうとするムサシを止めたかった、だが彼女を止める事は出来ず、彼女の猛攻の前に私は沈められた。

「お願い…。」

そして私はたまたま近くを通りかかっていた401に最後の力を振り絞って彼の息子、群像に彼の遺志を伝えるよう命令し、彼女にコアを託した、そこで私は死んだ、はずだったーー

 

「目覚めよ、デカパイロリドレス!」

何者かが私を強引に起こそうとする、そして私は目覚める。

「う…ここは?あ…あれ?生きてる…?」

気がつくと私は何者かにメンタルモデルを復元されてここにいた、船体の状況も調べたが私と同様に復元されていたのだ、私を復元した人物は私が目覚めたのを見て嬉しそうに部屋を出て行ったようだ。

「まずは、ここがどこなのか調べなくては…。」

そして彼の気配を追い、ようやく見つける、彼はヒュウガと401と会話をしていたようだ、とりあえず私は彼らに話しかける、

「あなたは…、401⁉︎何故私のコアが無くてもメンタルモデルを維持できているの、メンタルモデルはかなりの演算リソースを消費するはず…。そしてあの2人は…?」

私の気配に気がついたのか、彼はこう答える、

「しばらく寝てたから周りの環境が激変してることに体がついていかないか…。目覚めたか、デカパイロリドレス。」

彼の見た目そのままのあだ名に私は困惑した、すぐに彼は私をあだ名で呼んだ事を謝ると私の名を他の2人に話す、そして彼は自分の名を語り始める、

「私は霧の究極超兵器、超巨大戦艦 リヴァイアサンのメンタルモデル、海神智史だ。」

彼の名は海神智史と言うそうだ、そして智史さんは私の目的を知っているのかのように話すと私達をある部屋へと連れて行く。

 

「突然呼び出してすまないな、群像。紹介したい人物がいる。」

「なっ…、智史、彼女は?」

「彼女は霧の艦隊総旗艦、超戦艦ヤマト。イオナの事を知っているか?」

「イオナは、俺に会い、従う事だけが目的だと言っていたが…。」

「そう、イオナにその目的を与えたのは彼女だ。彼女は人類と霧が分かり合えると信じていたお前の父親、千早翔像の遺志をお前に伝えるためにたまたま通っていたイオナにそう命令を下し、自分のコアを提供したのだ。」

「なっ…。」

人前で言えない事を平然と智史さんは話してしまう、それに愕然としてしまう群像さん。

「私にそう命令したのは、あなたなの…?」

あまりに残酷な現実に悲しげに私に尋ねる401ーーイオナ。そして智史さんはさらに残酷な現実を彼女に突きつける。

「お前のユニオンコアは本来ならナガラ級と同じ処理能力しか持たない、だがメンタルモデルはナガラ級の処理能力を上回る演算リソースを要求してくる存在だ、従って本来ならお前はメンタルモデルを持てない。だが何者かのサポートがあれば話は別だ、そう、何者かの。お前はヤマトが沈められた現場近くを航行していたのだろう、その時にお前は彼女から群像に翔像の遺志を伝えるよう命ぜられた、そしてその際に彼女からコアを託されて、そのコアのサポートでお前はメンタルモデルを形成できたのだろう?まあそのコアは私が抜き取って彼女の復元に使ってしまった、そしたらお前はメンタルモデルを維持出来なくなるからな、だからそのコアと同じ演算能力を持つ物を代わりとして入れといたが。」

「違う、私は自分の意思で…!」

「お前のその意思も彼女から与えられたものだ、潜水艦級はナガラ級と同じく総旗艦からの直接命令に忠実に従うようにしか造られていない。例外かもしれないが、総旗艦からの命に従う大戦艦級だけが総旗艦から手駒として彼女らを預かり、指揮していた。なので彼女らは実質は総旗艦の傀儡だ」

「違う、そんなことは‼︎」

「お願い、こんな残酷な話はもう止めて!」

あまりに残酷な現実を認めたくないイオナと私。だが智史さんはそんな私達に平然と止めを刺す。

「つまり、お前はヤマトの操り人形だった、私が彼女のコアを取り出して、その代わりのコアを入れるまではな。」

そう言われた彼女は泣きながら部屋を飛び出していった。

「なんであんたこんな残酷なことを平然と姉様に突きつけられるのよ、空気を読みなさいよ!」

「私なら伝えるべきものはたとえ残酷なものでも素直に伝える。私はその考えを素直に実行しただけだ。」

「いい加減にしろっ!この馬鹿アッ!」

そう言い彼に掴みかかるヒュウガ、だが智史さんはこれをクラインフィールドで防ぐ。

「お前はイオナに媚びることを愛として捉えているようだな、だが誰かを守るのが愛なら誰かにたとえ残酷でも事実を伝えるのも愛だ」

そう言い放つ智史さん。彼のやったことは間違ってはいない、いつまでも真実を隠して嘘をつくのはいずれ自分自身を追い詰めていくことになるからだ。ならば自分自身からたとえ自分に悪い真実でも素直に明らかにしてしまえば追い詰められることはなく、むしろ他者に受け入れられる。何より言い難い思いがスッキリとしてしまうからだーー

 

 

そして智史達がいる部屋から逃げ出したイオナ。彼女は泣きながら通路の片隅で丸くなっていた。そこへーー

 

カロン、カロン、カロンーー

カロン、カロン、カロンーー

 

「あなたは、イセ?何しに来たの?」

「傷ついたあなたを励ますため。」

「私に話しかけないでっ!私は彼にヤマトの操り人形だと言われてしまった…。私は自分のコアだけではメンタルモデルを生成できない、彼女のコアの助けがなければ私はメンタルモデルを生成できなかった…。」

「確かに彼はあなたからヤマトのコアを引き抜いたわ、でもその代わりに彼女の演算能力に匹敵するものをあなたは与えられてメンタルモデルを維持している。何故だと思う?」

「私に…自分の意思を持って生きて欲しかったから?」

「そう。彼は、あなたにヤマトの操り人形のままでいて欲しくなかったのよ。だから彼はあなたに「自分の意思で地に立って歩け。親の助けを必要とするのは赤ん坊だけだ。私はそんな赤ん坊のようなお前を自分の意思で歩けるようにしただけだ。」って伝言を私に託したのよ。」

「智史…。」

確かに彼は悪戯感覚でイオナからヤマトのコアを引き抜いて彼女を復活させたらどうなるかという自身の妄想から今回の実験をしたのだ。だがそれだけでなく彼はヤマトのコアに匹敵する演算能力を持つ意思を持たないユニオンコアを彼女に埋め込んだのである。それは彼女が他者からの支えが無くても独り立ちが出来るためにするための彼の想いであった。この出来事以降、イオナの智史への印象は改善していくこととなる。

 

 

「イセは彼女への伝言を済ませたか。さて…霧の生徒会の大艦隊のお出ましか。元を言えば私のせいであんな奴らが来てしまったからな、群像達にどう言おうか。」

そう呟く智史。そして彼らが来たことを知らせるレーダー網からの警報が鳴り響く。

「硫黄島から北方500㎞に多数の重力子反応!艦型確認、コンゴウ型2番艦、大戦艦ヒエイとミョウコウ型4隻、超兵器級8隻を中核とする大艦隊です!」

そう、霧の生徒会が硫黄島に到達したのだ。

「霧の究極超兵器、超巨大戦艦リヴァイアサン。あなたという存在を確かめさせてもらいます。」

自身の船体の艦橋のトップで制服を海風に揺らせながらヒエイはそう呟く。遂に霧の生徒会と智史&群像達の直接対決が幕を上げようとしていた、そして彼女にはある秘策があったーー




智史がイオナに与えたもの

ユニオンコアα
本作オリジナルのユニオンコア。
ヤマトのコアがイオナのメンタルモデルから抜けることでイオナがメンタルモデルを維持できなくなってしまうことを忌み嫌った智史が生み出し、ヤマトのコアの代わりに彼女に埋め込んだユニオンコア。
演算能力はヤマトのコアのものに匹敵。なおこのユニオンコアは自我を持たず、イオナの元のユニオンコアと同調し、彼女自身のものとして馴染んでいくようにプログラミングされている。この設定には彼女に他者からの手も借りずに自分で立って歩いていけという意味も込められている。

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