欲望にはチュウジツに!   作:猫毛布

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息抜き(10000字
徐々に文字数が増えているような気がしないでもない。

まとめる技術を私にクダサイ……。


小さいところの修正をしました。
誤字脱字、意味不明なところがありましたら、お気軽に。


恥ずかしがり屋さんと黄色の騎士様

「はえー……ゆっくり観戦出来るとか思ってたのに」

「よかったじゃないか、夏野。ココは特等席だぞ」

「ワァイ、ヤッター……」

 

 クラス対抗戦一戦目。つまる所、それは我がクラスの代表である織斑一夏とその唐変木に恋する二組の代表である凰鈴音さんとの戦いという事を示す。

 ピットの中という特等席に座っている俺の後ろでは鬼が腕を組んでニヒルに笑っている。そんな姿も美しいのだからホント美人ってスゲーね。尤も、アレは美人の皮を被った戦の神様だけれど。

 

「夏野、何か言ったか?」

「言ってません! だから頭を掴むのは止めてください! 言ってませんよ!?」

「お前は黙って手だけを動かしていればいい。そうだな?」

「へいへイダダダダダダァ!」

「返事は一度でいい」

「厳しすぎです織斑先生! だから鬼とか悪魔とか千冬とがガガガガガガ」

「ハハハッ、悪い事を思う頭はこの頭か」

 

 後ろにいるからわかんねーけど絶対楽しそうな顔してるよ! この人!

 数秒間掴まれていた頭はどうやら潰れていないようだ。両手で頭があるかどうかの確認をする。大丈夫、まだ頭は存在する。

 隣に座っているおっぱい先生をちらりと見れば苦笑をしている。この光景にもきっと慣れてしまったのだろうか。いや、そんな事はない。俺は山田先生に慰められるという未来を信じるんだ!

 

「夏野、手が止まっているようだが?」

「ヒッ、動かしてマスヨ! ヤダナー! つーか、なんで生徒の俺がココまで手伝わなきゃいけねーんですか! 人手不足って事もないでしょ!」

「ん、ああ。お前が手伝わなくても問題はないな」

「なら、俺だってソコにいるオルコットさんとか篠ノ之さんみたいに座ってのんびり一夏の勇姿を見ててもいいんじゃないッスかね!?」

「なんだ、山田先生の隣では不服か?」

「むしろ山田先生を膝の上に乗せたいですけど……」

「……まあ、ソレは叶わないから隣で我慢しろ」

「イエスマム! …………ん? あれ?」

「どうした夏野。いいから手を動かせ。そろそろ試合が始まるぞ」

「あ、はい。わかりました」

 

 うん? 何かオカシイぞ……。確か、俺は仕事をしたくないと織斑先生に言った筈なのに、どういう訳がアッサリと仕事をしている。うん?

 隣にいる山田先生が凄い可哀想なモノを見る目で俺を見ているのに何か関係しているのだろうか? いや、そんな筈はない。つーか、いつもとそれほど変わらないな。アッハッハッハッ……はぁ。

 

 事前に読まされていたマニュアルの通りにコンソールを叩いていく。画面に映った凰さんと一夏。こうやってISスーツに身を包まれた凰さんを見ればわかるのだが、無い訳じゃないんだな……こんど揉ましてもらえるように頼んでみようか……。口八丁で揉めばデカクなるとか、一夏に揉まれた時へんな声が出ない様に、とかテキトウな事を言えば揉ませてくれるかも知れない。

 そもそもおっぱいに大きいも小さいもない。全てのおっぱいには各々に良さがあるのだ。そう俺は信じている。だから、まだ希望は捨ててはいけないゾ! 凰さん!

 

「それにしても凰さんのIS、トゲトゲが浮いてるなぁ」

非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)ならブルー・ティアーズで見慣れているじゃありませんこと?」

「いや、まあそうなんだけど……ブルー・ティアーズはどっちかってーと、ビットとして飛ばされてる印象の方が強いからなぁ」

「そうですか」

 

 とオルコットさんが会話を打ち切り画面に注視している。その瞳は真剣そのもので凰さんと一夏との戦いを一瞬たりとも見逃さない様だ。見返す様にセットしてる録画データを編集してオルコットさんに渡してあげよう。きっと喜ばれる筈だ。俺は凰さんのおっぱいと太股が何度も見れる、オルコットさんは戦闘を見返して戦術を練れる。まさにWIN-WINだな!

 

「夏野。どちらが勝つと予想する?」

「織斑先生、そんなの言わなくてもわかるでしょ。凰さん圧勝にデザートの食券を一ヶ月掛けてもいいッスよ」

「なっ!? 夏野! お前は一夏が負けるというのか!?」

「やだなぁ篠ノ之さん。俺は一夏が負けるなんて一言も言ってないじゃないッスかー」

「屁理屈ではないか!」

「そりゃぁそうだ。まあ凰さんの実力は知らないけど、ソコのエリート(笑)(かっこわらい)の代表候補生様もある程度の警戒をする実力なんだろ?」

「夏野さん、ふざけてますとその汚い顔を消し飛ばしますわよ?」

「ヒェッ……それなりには普通の顔立ちだと思ってたのに」

「そ、それでも一夏には雪片があるではないか!」

「当たれば一撃……とまではいかないけど大ダメージ。ってのはロマン溢れるけどさー。 凰さんの戦い方は知らないけど、遠距離型なら接近対策をしてない筈もないし、中距離ならチャンスがあるかも程度だけど距離の保ち方は上手くなる。近距離ならソレこそ一夏の負けが確定だろ」

「接近戦ならば一夏の方が――」

「無理無理。それこそ凰さんが遊んでたら倒せる可能性もあるけど、凰さんの性格を考えて絶対に本気な筈だし。一夏の才能は認めるし、実力も知ってるけど、知ってるからこそ、万が一って話。瞬時加速で決まれば一撃は与えれるけど、ソレは奇襲しか無理だし、一撃だけしか与えれない。どっかのブリュンヒルデ様みたいにソレで一撃必殺になるほどの実力は一夏にはねぇよ」

「それでも……」

「……ま、実際に戦ってみないとわかんないってのがこの話の落としどころかなー」

「そ、そういうお前はどうなのだ! 専用機を得てもなお訓練をしていないお前は!」

「アッハッハッ、それこそ無理ッスよ。俺の大敗ですよー」

 

 どうしてか矛先がコチラに向いた篠ノ之さんにヘラヘラ笑いながら答える。無理無理、少なくとも俺のISに相性なんて物は無いけれど、俺自身が死んじゃうから無理。

 両手を上げて降参の意志を示した俺に満足したのか、「フンッ、戦う気もないヤツが戦いを評するな!」みたいな事を言って画面へと視線を向けて祈る様に手を握っている。つーか、俺は織斑先生に対しての質問に答えただけなのに……もしや、織斑先生は俺と篠ノ之さんとの仲を悪化させるのが目的だったのか!? ともすれば俺と篠ノ之さんってかなり仲がよかったのだろうか。おっぱいを触っても「いやんっ! 穂次君やめてぇ!」みたいな事を言われる程の仲だったとは思えないけど、その一歩手前までは行っていたのだろう。なるほど、そんな弱々しい篠ノ之さんはとても可愛かったけれどどうしてか腰には日本刀が差されていた。妄想でも怖い存在なのかよ。

 溜め息を吐き出してコンソールへ向いた俺へ隣にいた山田先生が意外そうな顔をしてコチラを向いている。

 

「どうしたんですか? 山田先生。もしかして俺におっぱいでも揉まれたいんですか?」

「どうしてそんな選択肢になったんですか! もうっ!」

「アッハッハッ。今日はピンクでレースな下着ですか。いやぁ素敵です」

「へ? 今日はシンプルな白……」

「ほう!」

「……夏野くん!」

「いやぁ、真っ赤になって怒った顔も素敵です! ん、後頭部に何か圧力がダダダダダダダダダダダ!!」

「夏野、お前は黙って仕事が出来んのか? ん?」

「痛いッス! 痛いですよ織斑先生! 黙って仕事どころか、黙ってそのまま目が覚めなくなっちゃいますよ!?」

「そうか。そうだな」

「アダダダダダダダダ!! 力が強くなった! ミシミシ聞こえる! 鳴っちゃいけない音が聞こえるゥ!!」

「懲りたら黙って仕事をする事だな」

「う、ウィ……」

「それと山田先生」

「あー……ハイ。すいません」

「なんスか、二人共。生徒にはわからない話をして……よもや、二人は実は――」

「夏野、何か言ったか?」

「ナニモイッテマセン! シゴトシテマス!」

「ならいい」

 

 二人はプリティでキュアキュアなのだ。ああ、そうだ。決して二人が夜の部屋で、ベッドで運動会などしていないのだ。そんな事はない。つーか俺と一夏の本があるなら、そういう本があってもいいんじゃないッスかね? 今度頼んでみよう。

 若干妄想に思考を取られながら戦闘中の一夏と凰さんを見る。一夏が何も無い所で回避行動を取ったり、何かにぶつかった様に急に移動している以外は普通の戦闘だ。

 

「一夏のヤツ、何やってんです?」

「『衝撃砲』ですわね」

「あー、空間自体に圧力掛けて砲身つくるヤツか……まーた一夏の勝ち筋が減ったのか。ざまぁ」

「夏野! お前はドチラの味方なのだ!?」

「そりゃぁ、自分に得になる方の味方に決まってるだろ! 今はどっちも応援してる!」

「お前というヤツは……!」

「一夏が勝てば凰さんに園児服。凰さんが勝てば一夏を馬鹿に出来る。どっちに転んでも俺に被害は無い! 素敵!」

「山田先生、この変態を頼みますわ」

「へ!? 嫌ですよ!」

「あ、コレ普通に傷つく展開だな。もう俺は知ってるゾ☆」

「夏野」

「まさか、織斑先生から救いの手が――」

「手が止まっているぞ?」

「あ、ハイ。デスヨネー」

 

 俺に救いなんて無い。

 溜め息も吐き出さずに画面を見つめる。一夏と凰さんの距離が少し離れている。凰さんからすれば絶対安全距離であり、その表情には少しばかりの余裕が浮かんでいる。

 ココまで使わなかったのだから、今しかないだろう、一夏。行け、一夏! 凰さんの園児服の為に! あの水色ポンチョの為に! さあ!

 強く拳を握りこんで一夏の勝ちを祈る。祈り、咄嗟に鳴ったブザーに視線はスグにコンソールへと向いた。警告音だ。

 画面には土煙とその中から飛び出る光線。おいおい、アリーナの遮断シールドはISと同じモノで作られてるんだぞ……?

 

「夏野! 生徒達の安全確保を!」

「今してますけど! システムがハッキングされたか、元々計画してたか知りませんけど出入り口がロックされてます!」

「チッ……」

「織斑くん、凰さん! スグにアリーナから退いてください! 先生たちがISでスグに制圧に行きます!」

『――いや、先生たちが来るまで俺たちで食い止めます』

「なっ!? ダメですよ! 生徒さんにもしもの事があったら――」

「一夏。聞こえるか?」

『穂次?』

「どうしてお前は凰さんをお姫様抱っこしてんだよ!」

『今そういう状況じゃねぇだろ!』

「うっせー! 俺にとって所属不明機が遮断シールドをぶち破って突入してきた事よりもソッチの方が大事なんだよ! 羨ましい!」

『お前の優先順位オカシすぎだろ!』

「馬鹿か! コッチは散々ピッチで罵られてんだぞ!? ソレなのにお前は美少女抱っこして……! 死ね! いいや、俺が殺す! 生徒達の安全確保したらスグにお前を殺しに行くからな!」

『お前なんて返り討ちにしてやるよ!』

「言ったな! 覚えてろよ!」

 

 コッチからではなく、アチラから通信が切れたということは何かしらの妨害が入ったのだろう。舌打ちをして妨害の痕跡を探しても足跡すら残っていない。

 ダメだ、落ち着け。落ち着くんだ夏野穂次。焦って行動しても失敗するのは目に見えている。

 

「夏野くん」

「……わかってますよー。大丈夫ッスよ。一夏は俺に殴られないとダメなんですから。大丈夫ッス」

 

 心配そうに話掛けてきた山田先生にヘラリと笑って言い聞かせるように言葉を吐き出す。そう、大丈夫なのだ。だから、落ち着け。いつもの様にヘラヘラと笑っていろ、夏野穂次。

 お前には才能も、チャンスも、何もかもが無いのだから。

 

「織斑先生! わたくしにIS使用許可を! すぐに出撃できますわ!」

「オルコット、お前はあの阿呆の言葉を聞いてなかったのか? アリーナに続く扉は全てロックが掛かっている。ロックの解除には今しがた三年の精鋭にクラッキングを依頼している」

「で、でしたら緊急事態としてスグに政府に助勢を!」

「だそうだぞ、阿呆」

「あー、今連絡とりましたけど、遮断シールドがあるから無理らしいッスねー。クラッキング成功したら部隊は突入させるらしいけど、ハハッ怠慢もいい所だなー」

「夏野さん! 笑っている場合ですの!?」

「そりゃぁ、まあ笑ってる場合じゃないんじゃないッスかね?」

「なら――」

「でも、まあ焦って何かが出来る状態でもないデショ。いつもの余裕を持ったオルコットさんでいましょうよー。ほら、おっぱい触っちゃうぞ☆」

「……はぁ、どうしてそんな調子なんですか、まったく」

「ソレが俺だからな。それでおっぱい触っていいですかね?」

「ぶっ殺しますわよ?」

「ぶっ飛ばすから進化してるゥ!」

 

 さて、オルコットさんの調子も戻った所で改めて状況を整理しよう。

 コッチからの行動は先輩方のクラッキング成功が開始。織斑先生にはああ言ったけれど、政府は行動を起こすつもりは無し。体面は保つだろうけれど、ソレだけ。

 一夏達は見事に一夏が足を引っ張って攻撃がヒットしていない。アチラの攻撃も回避しているけれど、元々消費していた分を考えるとあまり時間は無い。

 ん? 無理ゲーかな?

 

「……あれ? 篠ノ之さんは?」

「あら?」

「…………ハァ」

「織斑先生がスゲー複雑そうな顔で溜め息吐いたんですけど山田先生」

「何度かあんな表情見たことありますよ。匿名通信してる時はずっとあんな感じでした」

「夏野。暇そうだな」

「まあ、先輩方のクラッキング待ちッスからねー。緊急時の作業なんて俺は出来ないでしょ」

「なら暇だな」

「……あ、いや、暇じゃないッス! スゲー忙しい! イヤーコマッタナー! 体一つじゃ足りないヤー!」

「ほう、足りないのなら増やしてろうか? 真っ二つにすれば体は二つになるだろう?」

「スゲー暇! 暇すぎて欠伸出るぐらい暇ッス!」

「ならちょうどいい。仕事をやろう。嬉しいだろう?」

「アッハイ」

「ついでに政府から色々お前に命令が飛んで来ているんだろう? ソレもこなして来い」

「……へいへい」

「――夏野穂次、ISの使用を許可する」

「ういッス」

「夏野さん! ISは調整中と」

「あー、丁度今終わったんだよ。うん」

「嘘おっしゃい!」

「スグに嘘ってバレたんですけど……ま、調整中ってのはホントだったんッスよ。そこは織斑先生が保障してくれるから」

「ん? ああ。そう頼まれたからな。安心しろ、夏野。お前がISを使えた事は黙っておこう」

「ふぇぇ、契約に問題があるよぉ」

「さて、一体何の契約だったか? さっさと行って来い阿呆」

「夏野さん! 戻ってきたら聞かせてもらいますわよ!」

「へいへい」

 

 なんて言い訳をしようか。武装が特殊すぎて、という話をする訳にもいかないし……うーん、いっそ膝に矢を受けてしまったことにしようか。お、コレは完璧かも知れないな。

 

 

 

 

 

「それで、織斑先生。本当に夏野さんはISを使えますの?」

「それなりには、な」

「……ならどうしてわたくし達に黙ってましたの……?」

「アイツなりに色々考えた結果かも知れないが……いや、アイツがそれほど考えてるとも思えんな」

「なら――」

「アイツの言葉を借りて言ってやろう。オルコット。

 

 アイツはアレでも男の子らしい」

「――意味がわかりませんわ」

「そうだな。だが、案外ソレが全てなのかも知れんぞ」

「……いいですわ。織斑先生が言わないなら夏野さんに詰め寄ればいいだけですわ」

 

 ふんっ、と息を吐き出したセシリア・オルコットを見て織斑千冬は苦笑する。今頃ロックの掛かっていない扉を探しながら走っているだろう阿呆の未来を想像して、更に笑みを深めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 織斑一夏は考える。相手の攻撃には一定のパターンがあるという事はわかった。わかったからとて、どうこうなる話ではないが、一夏の中には一つの可能性が溢れ出す。

 

 普通、あそこまでパターン的な攻撃が出来るだろうか?

 

 それこそ剣術でいう所の型にも似た一連の行動。相手の動きを見て行動する、というのは型に嵌った行為ではある。

 けれどもソレを完璧にこなせる人物など織斑一夏にとって一人しか居ない。そしてその一名は現在はピッチで現状に苛立っている事を一夏は察していた。

 だからこそ一夏にとって極々自然な疑問が生じた。

 

「なあ、鈴。アレって本当に人が乗ってんのか?」

 

 一夏にとって当然の疑問。けれどもソレは世間一般的にはありえない意見なのだ。証拠に凰鈴音は一夏の言葉に対して「何馬鹿なこと言ってんだコイツ」という顔をしている。今この場にセシリア・オルコットが居たならば長々と一夏がどれほどありえない事を言っているかを論じただろうが幸い、セシリアはこの場にいない。

 

「無人機って事? ありえないでしょ。ISは人が乗らないと絶対に動かない」

「まあソレはわかってるけど……もしも、万が一、無人機だったら」

「だったら?」

「容赦無く、全力で攻撃しても問題ないって事だよな」

 

 その言葉を聞いて鈴音は目を細める。先ほどの試合の時は本気ではなかった、という訳じゃないのは鈴音も分かっていた。けれどもソレは一夏が本気なだけであって、白式の機能全てを使っていた、とは言えない試合だったのだろう。

 尤も、一夏とて白式の機能を十全に使いこなせる訳ではない。ただ、力加減が難しすぎるのだ。最大出力で雪片弐型を振るえば過剰すぎるエネルギーは人間に向かってしまう。だからこそ出力は必然と抑えなければいけなかった。その事を考えれば試合中と今に至るまでのお粗末な操縦はソレこそ一夏本人の実力という事になる。

 

「一夏、どうしたらいい?」

 

 鈴音は何も聞かずに一夏に尋ねた。一夏の事をよく知る鈴音にしてみれば、こうして決意に満ちた真面目な表情の一夏は何か考えがある事が多い。ついでに言えば、今が戦闘中じゃなければ頬を赤くして「一夏はやっぱりカッコいい」なんて両手で頬を押さえてシナを作っていただろう。残念、今は戦闘中で更に言えば一夏が目の前にいるのだからその行動は理性によって封殺された。

 対して一夏は鈴音の言葉をある種の脅しみたいに感じていた。失敗したら駅前のカフェか何かでスイーツを奢る事になるだろう事を予想した。その時はまたあの男友達に色々アドバイスを貰おう。という所まで決意してから一夏は自身の考えを述べる。

 

「俺が合図したらアイツに向かって衝撃砲を全力で撃ってくれ」

「? わかったわ。でもどうせ当たらないわよ?」

「上手くやってやるさ」

「……そう。わかった。信じるわよ、一夏!」

「ああ! じゃあ、早速――」

 

「一夏ァ!!」

 

 ハウリングした声がアリーナに響く。一夏はこの声を知っていた。例えマイク越しであろうが、聞き間違える筈は無かった。

 ハイパーセンサーで捉えたその姿はマイクを握り締めて、黒い髪を僅かに乱してはいたが篠ノ之箒その人に間違いない。

 

「男なら……男ならばその程度の敵に勝てなくてどうする!」

 

 かなり無茶な言葉だった。ココに夏野穂次が居たならば「超理論スギィ!」と叫んでいたことだろう。

 大声で叫んだ人間だったからか、それともソレが美少女であったからか、或いは――篠ノ之箒であったからだろうか。深い灰色の全身装甲というISにとっては異常なISは幾つもあるセンサーカメラで箒を捉えた。

 決して素早くは無かった。けれども遅いというには滑らか過ぎる動きで灰色のISは動いた。右腕を上げ、砲口を箒へと向けた。

 一夏の心がゾクリと冷え込んだ。

 

 マズイ、マズイマズイマズイマズイ!

 

「箒、逃げ――」

 

 一夏の言葉が早かったか、それとも灰色のISがビーム兵器を撃つのが早かったか。放たれたビームがその答えを求める訳もない。ビームが求めたのはただ進む事だけ。ソコに障害があろうが無かろうが、関係など無い。

 

 迫る光が視界いっぱいに広がる。思わず一歩下がってしまった箒を誰が責めようか……。

 光は確かに箒の命を奪う為に動いた。

 光は確かに箒を包みこむ為に動いた。

 

 箒は思わず瞼を閉じた。覚悟した。自分を狙ったという隙に一夏が動き、敵を討てば、という考えもしてしまった。

 瞼を焼かんばかりの光。その光が瞼の上から消えた。

 瞼を上げた箒の目の前には、黄色い甲冑を纏った騎士が居た。

 腰に剣などなく、一夏の白式のような翼もなく、セシリアのブルー・ティアーズや鈴音の甲龍の様な非固定浮遊部位もない。

 けれどソレは盾を持っていた。万物から乗り手を守る五角盾だ。その盾が、篠ノ之箒を殺す為に迫っていた光を防いでいる。

 やがて光が止み、ようやく箒の視界が光に慣れてくる。

 黄色のIS。五角盾。

 

「いやぁ、マジ死ぬ。コレ絶対死ぬって」

 

 騎士は相変わらず口を開けば冗談の様に減らず口を叩く。盾が付けられた左腕を軽く振るって息を吐き出したお調子者はやっぱりヘラヘラ笑いながら箒に振り返った。

 

「大丈夫か、篠ノ之さん。パンツ見えてるよ!」

「死ね」

「ヒッ……助けたのに酷くないッスかね?」

「助けてくれと頼んだ覚えは無い!」

「あー、まあそうだけどさー。ま、パンツっていう報酬得てるからいっか」

「ふん……」

 

 尻餅をついていた箒はしっかりと足を閉じてから立ち上がった。その頬は少しばかり赤いけれど、阿呆のヘラヘラ笑っている顔を見ていれば幾分か落ち着いてしまった。

 

「穂次!?」

「おお、一夏! お前を殴りに来たぞ! 俺はそこの恥ずかしがり屋な全身装甲のお姉さんの味方だ!」

「冗談でもシャレにならねぇよ!!」

「ま、そっか。んじゃ、IS《村雨(ムラサメ)》、駆り手は夏野穂次。

 

 ヒーローみたいにとは言わねぇけど、推して参ろうか!」

 

 穂次のIS、村雨が空へと舞う。盾しか持たないIS。それは全身装甲のISの事を異常と言う事が出来ない異形だ。

 

 守るぐらいならば、避けるべきというのがISの通説だ。

 だからこそ、全身装甲というのは異常だ。

 だからこそ、盾持ちというのが異形だ。

 

「んじゃ、一夏達。攻撃は任せた!」

「は?」

「防御は俺に任せろ! バリバリー」

「本当に武器ないのかよ!」

「ねぇよ! あったら俺だってもっとカッコよく登場したね! 間違いない!」

「お前も武装一つとか、ざまぁみろ」

「ウッセー、バーカ!」

「アンタら、アレより先にぶっ飛ばしてもいいのよ?」

「ヒッ……今もビーム防御してる俺への感謝はソレですか」

「むしろ囮としての仕事だから、ソレが普通よ」

「ブラックすぎぃ!」

「お、鈴のISの色と掛けてるんだな!」

「一夏、穂次。この戦いが終わったら覚えときなさいよ?」

 

 ニッコリとした笑顔の凰鈴音に戦慄する夏野穂次。彼は今も盾で灰色ISのビームを防いでいるのだが、労わりの言葉が飛んでくる事はない。

 当然である。そう、ソレが当然なのだから。

 

「そんじゃあ、まあ一夏。後は頼んだ。ぶった斬るかアリーナのバリアを消せば終わるからヨロシクね!」

「前者は分かるけど、後者は?」

「さっき鬼から金髪美少女が飛び出してったって連絡があった」

「わかった。お前、死ぬんだな……」

「その時はお前も一緒ダゼ……」

「ハイハイ。遊んでないで、動きなさい、馬鹿二人」

「ヒッ……俺は攻撃防いでるんですがソレハ」

「木偶にも出来る事は仕事って言わないのよ」

「条件キツスギィ!」

「それじゃ、鈴。さっきの言った様に」

「わかったわ。次はアンタが射線上に飛び出してきても容赦も情けもなく撃つから」

「……穂次が来てから何か当たりが強くなった気がする」

 

 そんな一夏の言葉は空へと溶け込んだ。

 刀を構えた一夏を見て、穂次は目を細める。けれどその表情も一瞬だけで、溢れ出そうになった言葉を穂次は飲み込んで、またへらへらとした笑いを改めて浮かべた。

 白式が加速し、その背中に更に衝撃を受け、衝撃は全てエネルギーへと変換される。ソレを証明するように白式の握る刀、雪片弐型の光が強くなる。

 純白の光。全てを打ち消す光。脅威を断ち切る剣。

 エネルギー状の刃は振るわれ、けれどそれは灰色のISに触れることは無かった。所詮は人間の動きであり、計算しつくされた動きをする灰色のISにとって一夏の動きは見切りやすいモノだった。

 だからこそ灰色のISは一夏へと砲口を向けた。何の警戒も無く、一夏に狙いを定めた。

 例え黄色のISが同じ様に盾で防ぐからといって、その行動を変えることはない。そこに疑問など生じない。

 

 けれど、どうだ。

 どうして腕が動かない。

 

 灰色のISは自身の腕に意識を伸ばす。

 エラー音。エラー音。

 エラー、エラー。エラー。エラー!

 センサーカメラを周囲に巡らせて漸く灰色のISは客席に飛ぶ四つの何かを捉えた。捉えたがソレに対して動く事など出来なかった。

 既に光は灰色のISを貫いていたのだから。

 

 

 

 

「流石ですね! オルコットさん! イヤーその狙撃の腕は感服に値します!」

「夏野さん! さぁ答えてもらいますわよ!」

「いつものチョロいオルコットさんで居ましょうよ! おっぱい触っちゃうぞ☆」

 

 セシリア・オルコットが黙って砲口を夏野穂次に向けて、何も言わずにトリガーを引いた。その目は何の感情も無くただ家畜を殺す為だけの行為であった。

 そんな家畜はしっかりと迫ってきた光を盾で防ぎ口早に捲くし立てる。

 

「流石に警告なしは怖いッスよ!」

「チッ……ブルー・ティアーズ!」

「それは当たるから! お、俺の後ろには一夏もいるんだぞ!」

「おい、俺を巻き込むな!」

「知りませんわ。纏めてお逝きなさい」

「怖すぎますよ! オルコットさん!」

「俺は本当に関係ないだろ!」

 

 やいのやいのと言い争いをする男二人を家畜でも見るように視線をやるセシリア。彼女の目は本気であるが流石にブルー・ティアーズまで使用して穂次を狙おうとは思わない。それは次の特訓でするのだから、お楽しみは次にとっておこう。

 安堵の息が溜め息に変わって、吐き出された。心配も馬鹿らしくなってしまった。それもコレも穂次が悪いのだろう。と苦笑を浮かべるセシリア。

 

 気を抜いた。

 いいや、気を張っていたとしても回避は不可能だったのかもしれない。気がつくのが遅れた。だからこそ、セシリアは珍しく必死な顔をしていた穂次に驚いてしまった。

 

「オルコットさん!」

「へ?」

 

 逸早く気付いたのは穂次だった。ソレが幸いだったかどうかなど穂次にしかわからない事だし、少なくとも誰かにとっては穂次であってよかったと思う事だろう。

 セシリアを押した穂次が光の奔流に包まれた。




>>「ヒーローみたいにとは言わねぇけど、推して参ろうか!」


 夏野穂次の冒険はまだ終わらない!!
 ――――
 猫毛布の次回作にご期待下さい。

 っていうのでこの話を止めようとしたけど、次の話がIS戦闘だけ、というか灰色ISさんの戦闘だけになりそうだったので……まあ次の始まりの都合ですね。

>>二人はプリティでキュアキュア
 山田先生が凄い恥ずかしがってあの格好している隣でまんざらでもなさそうに腕を組んでいる織斑先生。アリだと思います。

>>凰さんに園児服
 宣言が変わってるって? ハハッ、口約束だったので、ほら、問題なんてネーですよ?

>>もう俺は知ってるゾ☆
 学んだ。けどやっちゃう

>>千冬さんへの匿名通信
「にゃはー! 誰の事かわっかんないなぁ! ね、ちーちゃん!」
「死ね」
「怒られたよぉ……」
 ってこんな感じ。

>>アイツはアレでも男の子
 二話あたりの言葉から引用

>>光の奔流に包まれた
 盾あるから大丈夫だろ、とか言わない。アレはアレで特殊兵装だから(震え声



>>
 穂次のISも出てきたので、暇のあるときにでもキャラ設定を書いて載せときます。
 いります? いらない気がしてきた……。

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