欲望にはチュウジツに!   作:猫毛布

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「決めれない……!!」

そろそろ回転させていこう。もうそろそろ終わる予定デス。


優柔不断ヘタレ男の決断

「さて、どうすっかね」

 

 食堂で欠伸を一つ噛みながら淹れられた珈琲を口に含む。ほのかな苦味と酸味に舌鼓を打ち、スティックシュガーを入れる。

 へっへっへ、お前は甘くなるんだよぉ!

 こういったボケを口に出さないのは俺の近くにいる筈の一夏が居ないからだ。ISの調整、そしてデータの採取の為に倉持技研へと向かっているらしい。先ほどから携帯に「向かってる途中暇すぎる」という内容のメールが写真と一緒に送られてきている。どれだけ山奥にあるんですかね……。

 ソレを言い始めると『村雨』を作った所も大概山奥だから何も言えないか。

 二本目のスティックシュガーを入れ終わり、カチャカチャとマドラーで混ぜる。飲み込めば先ほどよりも幾分も甘い珈琲が俺の舌を蹂躙していく。僅かな苦味と強い甘みを少しだけ転がして、喉に通す。珈琲特有の香りが鼻から抜けて、口元が少しニヤけてしまう。紅茶も好きになったけれど、珈琲も好きと言えるかもしれない。

 こうして考えると"好きなモノ"は少なかったんだなぁ、と変に感慨深く思ってしまう。思った所で一銭の価値にも成りはしないけど。

 

「なんだ、珍しいな。珈琲とは」

「んー、俺としては、俺単体に絡んでくるラウラさんの方が珍しく見えるけど?」

「そうか? ……そうだな」

 

 俺の対面に座ったラウラさんを眺めながら珈琲を飲み込む。別に沈黙が嫌いな訳でもないし、ラウラさん自身も口数が多い方ではない。

 こう言ってなんだけれど、一夏が居ない平穏もある事が証明されたな。というか、アイツが基本的な争いの中心に居るような気がしてきた。たぶん気のせいでもない。

 それにしても美少女だなラウラさん。強気な瞳が今は伏せられているし、いつものような軍人らしい雰囲気は抑えられている。ゴスロリっぽい服装とかも似合うだろう。着た際には是非とも写真を撮らせてほしい。一夏あたりに頼ませれば着てくれるかもしれないな……一夏が拒否しそうだけど。

 

「その……穂次」

「ん? どったの?」

「……お前はセシリアとシャルロット、ドチラが好きなのだ?」

「ッ、ゲホッ、ゲホッ。何、急に?」

「お前の事を我が隊の副隊長に聞いてみた結果だが?」

 

 噂の副隊長殿か。ラウラさんに不必要極まりない情報を渡している張本人か。いや、一般論的にはラウラさんの指摘も正しいんだろうなぁ。

 俺だってあんな美少女二人に釣り合ってるとも思ってないし。机に置かれているペーパーナプキンで口元を拭き、どうにか逃げれないかを模索する。ラウラさんの真っ直ぐな目から逃げれる訳ないじゃない!

 

「あー……ほら、えっと――えぇ」

「なんだ、ハッキリしろ」

 

 いつもの軍人らしい雰囲気を取り戻したようなラウラさんに情けなくへらへらと笑ってしまう。俺の中でドチラか、という選択肢は無いのだ。ドチラかに順位を付ける事すら烏滸がましい。こうして客観的に自分を改めて見れば糞野郎という事を理解してしまう。

 それでも糞野郎(おれ)は二人を一緒に選んでしまう。糞野郎らしく、という事ではないけれど。ドチラも幸せにする、なんて主人公みたいな事も言えないけれど。

 

「――ドッチも好きだよ」

「……そうか」

「ありゃ? てっきりラウラさんだから俺の事を優柔不断のクズ男みたいに言うと思ってたけど」

「? 両方が好きならば仕方ないだろう」

「……うわ、なんだろ。その何言ってんだコイツみたいな目は。俺の葛藤は何だったんですかね」

「そんなモノ私が知るわけがないだろう」

「でっすよねー」

 

 ホント、俺の葛藤は何だったんですかね……。頭を掻きながら、自分の感情を後押しする"何か"を流し込む為に珈琲を飲み干す。

 

「二人とも大切ならばソレでいいんじゃないのか?」

「…………」

「なんだ、その目は」

「いや……なんつーか、ラウラさんってド直球な事を言うなーって」

「ソレは、褒めてるのか?」

「褒めてるよ。ホント、ありがとう」

「む……お前から感謝されると不思議な感覚だな」

「俺が普段感謝してないみたいな言い草はやめてもらえますかね……」

 

 溜め息を吐き出して天井を見上げる。迷っている自分がバカのように思えてくる。いや、バカだけど。

 確信をそのまま言われた感じがする。まあ俺が糞野郎である事は変わらないけれど、自分の中で何かが進んだ事も確かだろう。

 

「それで、ラウラさんはソレを聞いてどうするのさ」

「む……その、だな……」

「お兄さん、何でも答えるよー」

「……その……、一夏は私の事をどう想っているかをだな」

「ラウラさんは好きだと思うよ。アイツあれでも一定以上女の子から距離置いてるけど、ラウラさんとかは普通に距離は近いし」

「そ、そうか!」

「そうそう。ゴスロリ服とか着て、一夏に迫れば一発だな。間違いない」

「な、なるほど! 『ごすろりふく』だな!」

「正式名称『ゴシックロリータドレス』だ。詳しいことは副隊長殿に聞いてくれたまえ、ボーデヴィッヒ少佐。健闘を祈る」

「感謝する。夏野二等兵」

 

 お互いに形だけの敬礼を取り、口元だけで笑う。すまない、ラウラさん。でも俺は君のゴスロリ姿が見たいだけなんだ……! あとは一夏が慌てふためく姿を見たいだけなんだ! 許してくれ。

 でも何かと言って、一夏も可愛い物は好きだろうし。姉属性寄りのシスコンだけど、年上好きって訳でも無さそうだしなぁ。――まあホモだから仕方ないか。

 ククク、一夏は俺に感謝するに違いないな! なんたって間違った知識しかない副隊長殿に全てを一任したのだ! いっそ肌が見えすぎたゴスロリ服かもしれない! 写真を撮って貰わないと……!

 

 そんな俺を罰するように、何かが切れたように食堂が暗闇へと包まれた。幸い、昼間という事もあり日の光が入り込んでいたが、ソレも防火シャッターが降りたことで無意味となった。

 心の中で二秒数えて携帯を取り出して明かりを確保する。

 

「どう思う?」

「非常灯もつかない、緊急用の電源にも切り替わらない。電源切られた可能性はあるけど、IS学園の警備網を潜ってわざわざ電源消す意味はねーでしょ。もう侵入してるんだし」

「つまり、システム面か……」

 

 ふむ、と唸っているラウラさんを尻目にセシリアとシャルロットに連絡を取る。

 

『ハァァロォオオオオ! 無事ッスかねぇ?』

『発音がなってないですわ。無事ですわ』

『コッチも無事だよ。今度発音の勉強もしようね』

『えぇ……』

 

 ふざけて言った発言がまさか駄目出しを貰うなんて……。いや、まあ無事でよかった、と言うべきか。

 明かりの確保だけしてもらい、携帯をポケットの中へと入れて村雨をローエネルギーモードで起動する。消えていた左目の視界が戻り、辺りを認識する。

 

「穂次。左目は――」

「カッコいいだろ?」

「……はぁ、ソウダナ」

「いやー、棒読みいやぁ!」

 

 恐らく()()()()()()左目を見たラウラさんにへらりと笑って誤魔化す。別に痛みも何も無いのだから問題ないし、コレは心配されるような事でもない。

 織斑先生からの通信が入り、転送された地図の目的地……地下のオペレーションルームへと移動していく。幸い、コチラには軍人であるラウラさんがいるのだ。何の心配も無い。

 問題があるとするならば、俺がラウラさんを苛つかせて殴られるかどうかぐらいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「電脳ダイブ、ねー」

 

 織斑先生から長々と説明された内容を頭の片隅へと追いやり、掻い摘んだ事を頭の中で整理していく。

 独立したIS学園のシステムにISコアを用いた電脳ダイブをして、侵入者をぶっ潰せ。というのが織斑先生から説明された事だ。あの目はマジだった。

 驚いているセシリア達を尻目にどうしたモノかと考える。

 

「夏野。お前は電脳ダイブに慣れているだろう」

「まあ……似たような事はずっとしてましたし」

「お前は確実に電脳ダイブするように」

「えぇ……辞退は自由だって言ってたじゃないですか……」

「なんだ、人生も辞退したいならそう言えば――」

「わーい! 電脳ダイブ! 穂次、電脳ダイブダーイスキー!」

「うわぁ……穂次くん、こういうのに弱いのね」

「更識会長、俺は死にたくないんです。そして織斑先生に逆らう事は死に繋がるのんですよ」

「なるほど……さすが穂次くんね!」

「お前ら……」

 

 苛立っている織斑先生がおっぱい先生――おっぱいに宥められて、溜め息を吐き出す。俺をスゲー睨んでくるオマケ付きだ。実際怖い。

 逃げるようにアクセスルームへと入り込み、村雨へと視線を落とす。彼女を経由する、という事は色々と問題になりそうだけれど、どうにかなるだろう。

 俺の後から入ってきたセシリアとシャルロットを見ながらへらへらと笑う。

 

「大丈夫ッスよ。危険なんざないし、気楽に行きましょ」

「なんでアンタはそんなに楽観的なのよ」

「こういうのは楽しんだ方がいいっショ。まあ、一定の緊張を持つのはいいけどね」

「お前は……いや、元々お前はそういうヤツだったな」

「箒さん、スゲー含みのある言い方はやめてもらっていいッスかね」

「お前は元々阿呆だったな」

「ドストレードになったよぉ……」

「それで簪。私達はどうすればいい?」

「えっと……みんなはイスで楽にして、私は向こうのデスクでバックアップするから……」

 

 簪さんの一言にみんなの視線がベッドチェアへと向き、触り心地などを確かめている。僅かに硬いソレに横たわり、ISを接続する。

 

「そういえば、穂次は電脳ダイブみたいな事をしてるって言ってわね」

「ん? まあ、()()()()()()だけどね」

「……ちなみにどんな感じなの?」

「うーん……仮想現実で訓練ばっかりだったからなぁ。参考にならないッスよ」

「…………穂次さん。コレが終わったら説教ですわ」

「ヒェッ……あの日からは全然入ってないから許し下さい」

「お前が努力しているという時点で信じられないのだが……」

「……普段サボってる分わね。ま、俺の事はいいでしょ。別に危険もねーし、適度に頑張りましょ。ほら、もしも危険があって、向こうで囚われたりしてもヒーローが助けてくれるだろ」

「…………そうだな!」

「いやー! 危険があったら仕方ないわね!」

「? どういう事だ?」

「ラウラさん。危険だったら一夏が助けてくれるんですよ!」

「嫁を危険な目に合わせる意味はないだろう」

「…………」

「どうした、急に黙って」

「いや、なんか……こう、自分の浅はかさが嫌になってきたから、うん、ごめん」

「それで、穂次さんはわたくし達を助けてくれますの?」

「その場合、俺も囚われてるんですがソレは……」

「囚われた穂次を助けるのもいいかもね!」

「そうですわね」

「なんか男としてスゲー情けない事を言われてる気がするゾ!」

「えっと……始めても大丈夫……?」

「むしろ早く始めて。早く俺をこの空間から逃げ出させて!」

「う、うん!」

 

 意識が落下していく。

 ゆっくりと、力が抜けていく。

 

 

 

 

 ブワリと意識が急浮上した。

 見渡す限りの草原に俺は立っていた。初夏を思わせる日差しと、草を撫でていく風。

 俺は()が飛ばされないように抑えて、自分の恰好を改める。締められた蝶ネクタイとベストにズボン。幸いシャツは許されたようで肌の露出は少ない。頭の圧迫感を確かめれば藁の付いたウサミミが着けられている。どうやら外せない仕様らしい。

 自分の恰好をあまり確認したくない事を思いながら辺りを改めて見渡す。

 

「おお……」

 

 思わず感嘆してしまったのは仕方ない事だ。青のドレスに白いエプロン。まるで不思議の国に迷い込んだ少女のような恰好をしているセシリアとシャルロットが居たのだ。

 写真とかって撮れるのか? 仮想現実だからISの録画機能を使うことは出来るのだろうか。

 

「ギャー! 何よ、この恰好!」

 

 そんな実に()()()()()()鈴音さんの声に意識を戻す。どうやら鈴音さんも同じ恰好をしているらしい。写真でも撮って一夏にプレゼントしなきゃ……!

 

「全員……」

「同じ恰好……」

「もしかして穂次さんも!?」

「穂次は何処!」

「なーんでそんなに必死に探すんですかね。残念ながらドレスじゃねーよ、アリス達」

 

 三月ウサギらしく仰々しく一礼をしてみせる。へらりと笑う事も忘れてはいけない。

 

「アンタも凄い恰好ね」

「アリスに対するなら三月ウサギだろうな。そこまでアリスに詳しい訳じゃねーけど。この調子だと一夏は帽子屋にでも扮してくれるんじゃね?」

「穂次さん、その耳、とても可愛いですわ」

「そりゃーどーも。スゲー嬉しくない発言だよ。箒さんとか俺みて爆笑してんじゃん」

「いや、ふひ、スマ、フフ……ゴホン、スマン。別に笑っていた訳ではないフフフフフフフ」

「取り繕えてねーよ……」

 

 溜め息を吐き出して、アリスの世界を思い出す。この調子なら、どこかに猫か白いウサギでもいるかも知れない。そういう事ならば、この世界は随分と平等な世界だ。

 カタカタとキーボードを叩く音が広がり、何処からか簪さんの声が響く。

 

『ぷっふっふふふ……ウサギさん、穂次ウサギさん』

「うぉい! 簪さん!? 笑う為に通信開いたの!? つーか、コッチをモニタリング出来てるんだな! スクショ撮って! セシリアとシャルロットをちゃんと撮って! そしてそのデータを俺にください! お願いします!」

『任せて……。穂次くん一杯撮る、よ!』

「違ぁう! そうじゃない! 頼むよボス!!」

『……ボス禁止』

「あっはい」

 

 ボス禁止だけすごく冷たい言い方でした……。なんでなんですかね。いや、いいけど。

 あと俺の後ろでセシリア達がデータを渡してくれと懇願しているような気がするが気のせいだろう。うん! ウサミミの男とか得しないから。

 

「それで? 現状どうなってんの?」

『電脳世界がハッキングを受けてて……皆さんには与えられた役を、演じてもらう必要があるの』

「役ぅ!?」

「鈴音さんはアリスって言うよりも……ハートの女王だもんな」

「アンタぶっ飛ばすわよ!?」

「アリスって事は……」

 

 シャルロットが呟いて俺とラウラさんを見比べる。ラウラさんは首を傾げているが、俺は首を横に振る。

 

「たぶん、俺もラウラさんも白兎じゃねーよ。ラウラさんは明らかにアリスだし」

「ふん。そもそも白ウサギなどという軟弱な存在と比べるな」

「ウサギに軟弱とかあるのかよ」

「穂次さんは違いますの?」

「時計無いし。何より頭に藁付いてるから俺は三月ウサギだよ」

 

 配役に悪意を感じるけれど、俺にドレスを着せなかった事だけは感謝しよう。

 と、視線を向ければ白い塊が移動していた。

 

「おい、アレじゃね?」

「ホントだ!」

「待てぇぇええええ――……ああ! もうスカート走りにくい!!」

 

 慌てた白ウサギを追う、忙しないアリス達。俺は立ち止まり、溜め息を吐き出す。

 

『穂次くん?』

「いや、俺は白ウサギを()()()()からな」

 

 三月ウサギはこの時点で登場しない役柄だ。だから白ウサギを追うのはオカシくなってしまう。

 そんな、()()の事実を口にして後ろを振り向く。そこには先程まで無かった扉が一つ。

 

「簪さん。俺はコッチみたい。たぶん、通信も届かないと思うから、みんなをよろしく」

『うん……頑張って』

「任せな、ボス」

『……うん』

 

 ヘラリと笑いながら、扉を開き、その中へと入る。

 真っ白い空間。地面も天井も何も無いような、真っ白い空間。ソコにポツンと人影が見えた。

 

 

 機械式のウサミミとアリスに似たドレスを纏う美女。恐らく今回の元凶。そして、()()()

 

「やぁ! 三月ウサギくん。狂ってるかい?」

「どうも、アリスさん。相変わらず()()的な出迎えだよ」




>>ラウラ+ゴスロリ服
 着せなきゃ(使命感
 この小説だと着せれない。たぶん一夏から事後報告のお怒りの言葉が飛ぶぐらい?

>>クズの極みヘタレ
 語呂がアレっぽくてサブタイにするのをやめました。

>>ラウラからの質問応え
 実は何も答えてない。それっぽい事を並び立てて、自分の欲求優先

>>「ハァァロォオオオオ!」
 誰も拾わないだろうアニメから。知ったのはグロい格ゲーです。

>>穂次電脳ダイブダーイスキー
 穂次……お前、消えるのか……?

>>三月ウサギ
 アリスより。帽子屋と一緒にお茶会をしてるウサギ。

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