欲望にはチュウジツに!   作:猫毛布

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4000字程度
待ってる人はいないと思いますが、休み過ぎました。

鈴音ネキ^~


ヘタレた財布

 更識簪は特殊な立ち位置の人間だ。

 更識家という対暗部用暗部の次女。完璧な姉と劣等な自分。けれど、彼女に才能が無かった訳ではない。

 押さえつけられた並列処理思考が開花したのはあの織斑一夏の助けになりたかった……自身もヒーローになりたかった。そんな願いからの出来事だ。

 ISのソフト部分の開発。マニュアルでのミサイル誘導。幼い頃から仕込まれてしまった戦闘スキル。

 姉さえ居なければ……いいや、あの姉に少しでも才能が欠けていれば『楯無』は妹である簪のモノになっていただろう。

 

 更識簪は特殊な立ち位置に居た。

 頭を抱えて「どうしてこうなった!」と声を荒げて言いたい気持ちでいっぱいだった。

 「私は部屋に帰ってアニメに没頭したいのだ!」と言えない辺り、簪のコミュニケーション能力の欠落が伺える。いや、例えコミュニケーション能力が高かったとしてもソレは言えないだろうけれど。

 ともあれ、冒頭で書いたような事とは()()()()()()に更識簪は特殊な立ち位置に居た。

 

 専用機持ちタッグマッチ襲撃事件――ゴーレムⅢ襲撃事件と後に言われるであろう事件がその原因だ。そもそもの原因は他にもあるかも知れないが……。

 簪は俯かせていた顔を少しだけ上げて目を動かして周りを確認する。机を挟むように、一年生の専用機持ちがいた。篠ノ之箒、凰鈴音、ラウラ・ボーデヴィッヒ、セシリア・オルコット、シャルロット・デュノアの五人だ。放課後のカフェテリアであったけれどコレから戦争でも起こそうというのか。

 男二人はこの席には居らず、視線を少し動かせば少しばかり遠くの席でパフェを食べている唐変木とケーキを食べているヘタレが何かを言い合っている。ヘタレがパフェグラスの中ほどをフォークで叩いている事から、中身のシリアルの事だろう。

 そんな至極どうでもいい話をしている彼らと自分がどうしてコレ程の差が出てしまったのだろうか。お誕生日席に座っている筈なのに、気分は罪人だ。溢れ出る溜め息をグッと飲み込んだ。

 

「で?」

 

 いい加減に話が進まないと思ったのか、それとも自身のキャパシティの限界を感じたのか、やや低く威圧するように箒の声が出た。その声に小動物の如く反応して「ヒッ」と声が漏れてしまった。簪は逃げたい気持ちでいっぱいである。

 

「まあまあまあ、落ち着きなよ、箒。ほら、簪さん、怯えちゃってるし」

 

 そうやや温和に言ったのはシャルロットである。簪はまるで天使の助けのように聞こえて顔を上げた。天使は居たがその天使は怒っていらっしゃる。実際怖い。頭の中で「笑顔とは本来攻撃的なものである」とナレーションでも流れて気がした。アニメの見過ぎかもしれない。

 そんな声と表情だけは温和なシャルロットが全員をなだめる。

 そんなシャルロットに対して舌打ちをしたのは簪の対面で不機嫌極まりない表情で腕を組んでいるラウラである。

 

「やめろ、シャルロット。拷問か自白剤の投与をしたいところを私はギリギリ耐えているんだぞ」

 

 ヤバイ。ここから逃げ出さなくては。

 ラウラの言葉を耳にした簪の思考はソレだけだった。逃げるルートを構築して、どう助けを呼べばいいか思考した。きっとこの場を改善してくれるであろうアホとバカの方を見れば、優雅にカップに口を付けている。どうやらシリアルに関しては決着したらしい。

 

 ともあれ、簪はどうしてこうなったかを頑張って思い出した。

 そもそもの原因は先日の襲撃事件とソレに連なる関係だった。

 襲撃事件で共に戦って、よく言えば戦友となった一夏と簪。『話せばイイ奴』というのはドコかのヘタレが言っていた通りで、一夏が簪を諦めたあとに何度かヘタレが「武装情報寄越せ」と一夏を簪へと引き合わせて会話をし、それなりの交友関係を築いた。互いを名前で呼び合う程度の仲である。

 名前呼びで仲良く会話をしていれば要らぬ誤解を生むものである。という事を簪は心に刻んだ。出来ればもう少し早めに気付きたかった。

 そこからはまるで流れるような魔女裁判だった。簪はそう記憶している。――本当は「あぅあぅ」していた簪が激流に身を任せて結果的にお誕生日席という断頭台に立たされている訳だが。

 あとは風船を膨らますように簡単な出来事だった。

「一夏に助けられたし、いつの間にか名前で呼んで、仲良さそうにしている! 有罪(ギルティ)!!」

 魔女裁判もビックリである。

 

 唐変木に関してはそんな感じである。問題はヘタレ関係である。

 なんせ、あのヘタレ。セシリアとシャルロットには簪との関係を完璧と言っていい程秘匿していたのだ。まるで義務か「()()()()()()()から」と言わんばかりに簪とペアを組んでいた。だからこそセシリアとシャルロットはタッグマッチでヘタレをボコボコにして、ペットか何かにでもしようかと計画をしていた訳である。当然、冗談である。

 さて、そんな二人がまるで高みの見物のように一夏に恋する少女達を見ていれば、簪からトンデモナイ事が吐き出された。ヒーローショーを一緒に見に行った事、結構な長時間一緒にISの制作をした事。気持ちは宛ら浮気が発覚した妻である。二人はとりあえずあのヘタレに首輪をする事を心の予定に組み込んだ。当然、本気である。

 

 結果的に、簪は一夏もしくは穂次に恋をしているのではないか。というのが現在の罪状である。

 こうして考えれば、中々に落ち着いたような気がする。よし、とりあえずヘタレはともかく、唐変木には恋をしていない事を言おう。

 簪は意を決して顔を上げた。魔王の如き睨みをしたラウラと目が合った。簪はアッサリと意思を捨てた。逃げたい。

 

「それで、一夏さんと付き合ってますの?」

 

 あっさりと放たれた言葉はセシリアのモノだった。冷静に、本意だけを突きつけた言葉である。

 幾分も余裕を持ち、簪のことも考えて言葉を促したセシリアを簪はチラリと見た。まるで女神のように慈愛に満ちた微笑みである。

 

「わ、私と一夏は、……そういう関係じゃ……」

「一夏ぁ?」

「ひっ!?」

 

 どうしろというのだ! 簪は怯えながらも頭の中で叫んだ。口からは代わりに怯えた声が出た。

 底冷えするような低い声で威圧する(ケモノ)をまるで調教師のように「どうどう」と宥める(なだめる)鈴音。そんな鈴音に一度目配せしたセシリアはまた微笑みを浮かべて言葉を促す。

 簪は呼吸を正して、しっかりと言葉を選んで、口を開いた。

 

「付き合って、無い」

「じゃあ穂次さんと付き合ってますのね!!」

「ひっ!?」

 

 テーブルを叩いて立ち上がった女神の顔は微笑みではなかった。女神なんて居なかったのだ!

 セシリアはビシッと真っ直ぐに遠くの席に座っているヘタレに指を差す。

 

「あんなヘタレのドコがいいんですの!? 基本的には変態ですし! 女の胸の事ばかり考えてるような、脳が下半身に移住した男ですわよ!!」

 

 物凄い言われようである。聞こえていたのかヘタレが唐変木に慰められている。

 完璧に言い放ったセシリアだが、ソレを取り繕うように「まあ格好いい所もあるのは認めますが」とぶつぶつと呟いて、自身の髪をクルクルと指に絡めて顔を少し赤くしている。その言葉を少しは向こうで落ち込んでいる本人に言ってあげればいいのではないだろうか。簪は結構本気でそう思った。口には出なかったけれど。

 

「私は、……穂次くんとは……付き合えないよ」

 

 それだけはハッキリと、簪は言い切った。言い切った言葉に少しだけ目を細めたセシリアは「ならいいですわ」と言い切り、また微笑みを浮かべた。なんて余裕のある態度であろうか。

 

「ん? 終わった?」

 

 そう声を出したのは鈴音である。まるで現状に似つかわしくないあっけらかんとした声であった。

 そんな鈴音を睨んでしまったのは宥められていた箒と『不機嫌デス!』看板を掲げたラウラである。

 

「そういえば鈴音は大して怒ってなかったな」

「まあ、別に怒るような事じゃないし?」

「どういう事だ」

「簪のIS制作にはアタシも一応関わってたからね」

「……あ」

「いや、当事者が忘れてどうすんのよ……」

 

 呆れたように笑った鈴音に更に怒りを表す箒とラウラ。そんな二人を「どうどう」と押さえつけてニヤリと鈴音は笑う。

 

「何? アンタ達は自分に自信がなくて一夏が簪を選ぶと思ってんの?」

「なっ!? そ、そんな事はない!」

「じゃあ簪に怒るなんて八つ当たりもいい所よ。ここらが落とし所なんだから、いい加減にしときなさいって」

「む……むぅ」

「というか、鈴。全部わかってるんだったら言ってくれればよかったのに」

「穂次に関してはわからなかったし、アンタ達二人が簪を責めるとなーんか嫌な予感がしたからよ」

「別に何もしませんわよ。ねえシャルロットさん」

「そうだよ。当然じゃないか」

 

 どうだか。と小さく吐き出した鈴音は自身を涙目で見つめてくる簪に気付いた。

 

「もっと早く助けてくれても……」

「アンタはこうでもしないと他人と接点持たないでしょうが」

 

 溜め息を混ぜて吐き出した言葉はコミュニケーションに問題があることは自覚している簪に深く突き刺さった。

 空気を一新させるように手を二度叩いた鈴音は再度自身に視線を集中させる。

 

「はいはい、コレはココでオシマイ。あとはケーキでもパフェでも食べましょ。お代はアッチのヘタレが全部持つわ」

「……ああ、その為に呼んでいたのか」

「他に呼ぶ理由は無いでしょ」

 

 キッパリとヘタレは財布である事を宣言した鈴音にいい顔はしないセシリアとシャルロット。意中の相手が財布扱いされれば当然である。

 

「鈴音さん。穂次さんを財布扱いするのはやめていただけるかしら? ヘタレが加速したらどうするんですの!」

「そうだよ! 穂次はヘタレなだけで財布じゃないんだよ!」

「……アンタ達も大概だと思うわよ」

 

 鈴音はチラリと唐変木に慰められているヘタレを見て溜め息を吐き出した。




>>女神セシリー、再度微笑む
 なんてヨユウノアルタイドナンダー

>>鈴音姐御
 余裕しかない。余裕しか無いから胸もない。

>>鈴「IS制作には関わってたし」
 描写はないけどね!! 一応手を貸す事は言ってたから問題ないですよね?(震え声

>>唐変木とヘタレの会話

「なあ一夏。どうしてパフェの中にはシリアルが入ってんだ?」
「ん? 食感とかじゃないか」
「マジかよ……ずっと嵩増しだと思ってたわ」
「あー……それもあるかも」
「つーか、底のほうでベチャベチャになるじゃん」
「わかるけど……というか、なんで俺達はココにいるんだ? みんなの席に行かなくてもいいのか?」
「いいか。俺は鈴音さんに財布として呼ばれたんだ!」
「お前、言ってて悲しくならないのかよ……。じゃあお前一人でよかったんじゃないか?」
「一人でカフェに居て、女の子達の財布になるとか流石に寂しいです……」
「そうだな」



「なあ一夏」
「なんだ穂次」
「なんで俺ってあんなに罵倒されてんの? 俺ってセシリアに何かしたっけ?」
「知るか」
「だよな……なんだ、最近寝る時に微妙に距離を置いてるのが悪いのか……」
「なんか凄い事実を言われてるような気がするけど気のせいだな!」
「そうだよ(便乗」



「……なあ一夏。俺って何か悪いことしたっけ?」
「もう休め! 休むんだ穂次!」
「神様! ごめんなさい! もうセシリアとシャルロットの下着を盗まないから!! 許してください何でもしますから」
「それだよ!」
「そうだよ(便乗」

 だいたいこんな感じ。

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