欲望にはチュウジツに!   作:猫毛布

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前半甘め、後半シリアスッポイ何か


こまめに上書き保存しよう

 困った。

 どうにも目の前の問題を解決出来ない。戦術を立てた所で俺の拙い頭で相手に勝てる気にもなれない。

 ではいっそ武力行使をすればいいのではないだろうか。いいや、ソレは愚の骨頂であろう。愚かな俺だが、その手を取るわけにはいかない。

 しかしながら、そうなれば困った。打つ手なしだ。鬼の訓練をクリアしてきた俺がこうもアッサリと負けるなんて……。

 

「シャルロット……恐ろしい子!」

「急に何言ってるのさ」

 

 ジト目で俺を睨んでくるシャルロットにへらへらと笑いながらどうしようか迷う。

 俺が部屋に戻ると『私、不機嫌です』という看板でもつけた様な彼女がベッドで三角座りをしていたのだ。スカートと太ももが作る鉄壁であり魅惑の空間に目が行ったのが悪かったのかもしれない。それでも俺はソレに関して感謝する言葉は出るが謝るつもりはない。見てしまうのは男の性なのだ。スカートが僅かに捲れて、健康的な太ももの更に奥が見えそうだったのだ。俺は悪くない。いや、ちょっとぐらい悪かったのかもしれない。俺が悪かった許してください。

 

「えー、それで、あー……こ、紅茶でも淹れます」

「……よろしく」

 

 少しばかり威厳を込めて放たれた言葉に俺の本質部分がゾクゾクと刺激されてしまう。股間にダイレクトアタックだ! とはこういう事なのだろう。

 いや、決して俺はマゾではないのだ。ただシャルロットとかセシリアに蔑まれるのが好きなだけで、決して被虐趣味という訳ではないのだ。むしろ俺は加虐趣味だから、ほら、ベッドでの俺はたぶん雄弁だから(震え声)。

 カチャカチャと食器が擦れる音だけが部屋に響いて、本格的に俺が何をしたか思い返していく。これでもシャルロットの機嫌を悪くするような事はしていないと思う。

 バレて問題な事は徹底して隠しているし、何よりバレたら俺はきっとこの場に居れないだろう。

 お湯も沸き、紅茶を淹れて、椅子に座って足を組んでいるシャルロットの前に置く。机に置かれたカップに口を付けてちょっとだけ頬を綻ばせたシャルロットはスグにむすっとした表情に戻った。

 

「なるほど、お茶請け準備しなきゃ!」

「座って」

「アッハイ」

 

 どうやらお茶請けが無かったから拗ねた訳じゃないらしい。

 俺は背筋を伸ばして椅子に座る。なるべく視線を合わせないようにして、俺が仕出かしたであろう事を思い浮かべては否定していく。原因はさっぱりわからなかった。

 相変わらずジト目で俺を見ているシャルロットが溜め息を吐き出して、机の上に肘を立てて指を組む。

 

「ヒント1。今日セシリアの食事の補助をしてたのは誰でしょう」

「俺です」

「ヒント2。セシリアの包帯を取り替えをしたのは?」

「お、俺です」

「ヒント3。私は非常に不機嫌です」

「み、見ればわかりま――」

「私は、非常(ひっじょー)に、不機嫌です」

「ハィ……」

 

 笑顔なのに、どうしてか真っ黒い。いや、彼女の顔は綺麗なままなのだけれど、何か、こう気付いてはイケナイモノに気付いてしまった感じがする。

 頭の中で必死にヒントから答えを導こうとするも、さっぱり分からない。俺が悪い事はよく分かったけれど、果たして何が悪かったのだろうか。

 

「セシリアに何をされたのかなー?」

「な、何も」

「何を、されたのかな?」

「キ、キスされました……」

「ふーん……ふーん」

 

 ニッコリとやっぱり笑顔なシャルロットが怖い。

 キスをしたのは今俺が自白したからだけれど、どうしてセシリアに何かをされた事が分かったのだろうか。セシリアから聞いていたとすれば、キスした事をズバリ言い当てているだろうし。

 怖いシャルロットが溜め息を吐き出して、怖さが無くなって可愛いだけの微笑みを浮かべる。

 

「やっぱり穂次は受けなんだね」

 

 毒はまだしっかりと残っていた様だ。

 男としての心にダイレクトアタックを喰ったけれど、俺はまだ大丈夫だ。大丈夫、大丈夫。

 なんとも言えなかった俺の顔を見て、ようやく毒気も抜けたのか改めて紅茶を一口飲んだシャルロット。看板は降ろされたようだ。

 

「それで……セシリアを守って左目が見えなくなったのはホントなの?」

「視力は無くなったけど。別にセシリアを守ったのが原因って訳じゃないよ」

「ふーん……」

「なんでちょっと満足気なんですかね?」

「なんでだろうね?」

 

 ヘタレだから分からない。と言えば満足してくれるのだろうか。いや、たぶん答えは教えてくれないだろうけど。

 なんでか満足そうにニコニコして紅茶を更に一口。そこで何かに気付いた様に俺を見る。

 

「私達の事、呼び捨てになったんだね」

「まあ……その、一歩前進と言いますか……」

「随分遅い――ん?」

「どうした?」

「呼び捨てが前進なら、元々呼び捨てだった一夏はやっぱり」

「シャルロット、止めるんだ!」

 

 思わず叫んだ俺を誰が責めるのだろうか。

 「ごめんごめん」と笑いながら冗談である事を言う彼女だが、あの瞬間だけはきっと本気だっただろう。俺にはわかるんだ。

 ニコニコと両手でカップを持っているシャルロットは小さく溜め息を吐き出してその表情に陰をさす。

 

「ちょっとだけ、セシリアが羨ましかったんだ」

「怪我してるのに?」

「怪我してる、からかな? あとは穂次が守ってくれたのもあるんだろうけど」

「普通に守るだろ。まあ怪我させてちゃ世話ねーですけど」

「……もしも私が、って聞いちゃうのは卑怯かな」

「返事は決まってる事だよ」

「ふふっ、ありがとう」

 

 何を当然の事を言うのだろう。別にいいけれど。

 口をへの字にしていると携帯が震えて、画面を見る。どうやら一夏が来る様だ。

 

「どうしたの?」

「一夏が来るんだって。たぶん男同士の会話になるから」

「わかった。私は部屋に戻るよ」

「どうも。でもそんなに目を輝かせる様な事は起きないと思うなー」

「任せて!」

「何をだよ……」

 

 目を輝かせたシャルロットが席を立ち、扉へと歩いて行く。見送りにその後ろを歩いていると、彼女は扉に手を掛けて、「あ、そうだ」と忘れていたモノを思い出した様に声を出して振り返った。

 俺の肩に彼女の手が置かれ、俺の唇に僅かに紅茶の味が広がる。

 小さく音を立てから離れたシャルロットの顔をパチクリと見つめてしまう。

 

「ちゃんと上書きしとかないと。じゃあね」

 

 ニコリと微笑んだシャルロットが部屋から出て、扉の前には俺だけがいる。

 顔が熱くなり、脳が正常に動いていないのはよく分かる。落ち着け、落ち着くんだ、俺。そろそろ一夏が来るんだから、落ち着くんだ。

 深呼吸を繰り返して、椅子に座り、紅茶を一口。クールになれ、夏野穂次。

 クールに……クールに……。うぅ……紅茶の味が同じだからリフレインする。ちくしょうめ、ちくしょうめ……。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

「穂次、入るぞー」

「あいよー」

 

 一夏は扉を開けて穂次の部屋に入る。

 紅茶を常飲しているからだろうか、彼の部屋には紅茶の匂いがいつも充満している。そんな印象を受けながら一夏は珍しく湯呑みを持っている穂次を見た。

 

「今日はお茶なんだな」

「うっせー、唐変木」

「なんで俺は今罵られたんだ?」

 

 穂次の気持ちを知らない一夏とはしては当然の返しであった。対して穂次は急須から湯呑みへとお茶を注いで対面の席へと置いた。

 

「ありがと」

「どーいたしまして。お茶最高だわ……」

「だよな。つーか、俺の為にお茶準備してたのか?」

「自意識過剰かよ。自意識薄いって言われてる俺への嫌味か何かッスかね?」

「違うよア穂次」

「やるのか馬鹿一夏」

「……いや、やめよう」

「……だな」

 

 お互いにお茶を一口飲んで、ふぅ、と一息吐き出す。

 数秒だけ無言が続き、穂次がだらけた体勢を正すように椅子に座り直す。

 

「それで、相談事か?」

「よくわかったな」

「普段何も言わずに来るのに、今日に限っては連絡入れてきたからな。元々いたシャルロットにはご退場願いましたー」

「そっか……というよりセシリアもだけど呼び捨てになったんだな」

「なんだよ、悪いのか」

「別に悪いとは言ってねぇよ。なんというか、よかったな」

 

 ズズッとお茶を飲んだ一夏に対して穂次はいつものへらへらとした笑みではなく、ドコか恥ずかしい様に笑いコメカミ辺りを指で掻いている。

 

「この唐変木はそういう感情に疎いって訳じゃねーんスね」

「なんだよ。これでも感情には敏感なんだぞ」

「その言葉、一言一句そのまま鈴音さん達に言ってみな。鼻で笑われるか殴られるか、だろうぜ」

「なんでだよ……」

「まあ俺の話はいいだろ」

 

 肩を竦めていつものようにへらへらと笑い出した穂次が一夏の言葉を促す。

 一夏は少しだけ考えて、口を開いた。

 

「襲われたんだ」

「……俺より先に童貞卒業しましたって報告かよ」

「そうじゃねぇよ! どうしてそうなった!」

「IS学園で襲われたとか聞いたらそうだと思うだろ!」

「なんでだよ! 昨日の夜に、亡国機業に襲われたんだよ!」

「は?」

 

 重い口振りを一転させて。口を滑らせて。色々と言葉はあるけれど、一夏は事実をするりと吐き出してしまった。

 その事実に穂次は驚きを隠すこともせず、眉を寄せ、確かめる様に口を開いた。

 

「マジか」

「ああ……あと、ソイツの顔が千冬姉にそっくりで、自分の事を『織斑マドカ』だって」

「…………おーけい、ちょいと待て。ちょっと落ち着こうぜ、相棒」

 

 顔を少し青くして昨晩の出来事を言う一夏に対して穂次はいつもの様にへらへらとした笑いを浮かべた。

 真剣に聞いていない訳ではない、という事は一夏も理解しているので彼の言うとおりにお茶を飲み込み頭を冷静にする。

 

「あー、それで件の織斑マドカ氏が亡国機業だって証明でもあるのか?」

「サイレント・ゼフィルスの搭乗者みたいだ」

「みたいって……」

「本人が言ってたんだよ」

「……それはソレで。まあサイレント・ゼフィルス、織斑マドカ。あんまり名前を出すと情報規制に引っかかるかもだから、通称としてMとしよう」

「マドカだからか」

「マゾという可能性も込めて」

「いや、相対したけどスゴイSっぽかったぞ」

「Sも一皮向けばMになるさ」

 

 たぶん、と後で付け足した穂次に一夏は肩を落とした。へらへらと笑いながら穂次は言葉を続ける。

 

「亡国機業が、つーより今回は件のM氏がお前を単独で狙ったんじゃね」

「……根拠でもあるのか?」

「計画性が無いんだよ。文化祭の時は剥離剤(リムーバー)を準備してたし、キャノンボール・ファストの時はわざわざバリアも解除した。ソコらを考えると、亡国機業ってのは結構計画を練ってから行動する組織なんだろ」

「つまり?」

「亡国機業が昨日にお前を狙ってるんならキャノンボール・ファストの襲撃は無かったって事。

 いや、織斑先生を離すって事を考えると襲撃はあったかな。まあドチラにせよ、Mがお前を狙ったのは単独である可能性が高い」

「穂次、もしかして眠いのか?」

「お前さ、俺が久しぶりに真面目に喋ってて疑問に感じるのはイイけど、確かめる事じゃねーよ」

 

 確かにちょっと眠いけど、と付け足した穂次はアクビを手で隠す。

 穂次が真面目に喋っている時は眠い時か疲れている時というのは一夏は知っていたから思わず言ってしまった。あまり穂次に無理はしてほしくない、という気持ちは一夏にも当然ある。

 そんな一夏の気持ちも手を振って気にするな、と表してから穂次は言葉を続ける。

 

「単独犯として考えれば、Mがお前に名乗った理由もなんとなく理由が出来るし。名乗ったなら尚更単独犯の可能性が高くなる。組織自体が透明なのに、Mだけが不透明になるからな」

「でも、じゃあなんでMは」

「ソレは知らん。こういう時は恨みとかの線が強いけど……まあ一夏だし女の子に恨みはいっぱい買ってるだろう」

「ねぇよ。なんだよ、その言い草は」

「自分の胸に聞いてみな」

「……そういえば、()()()()()とか言ってたな」

「…………」

 

 その言葉に穂次は眉を寄せて、言葉を迷う。

 一夏は首を傾げながら穂次を見ている。

 

「何か気付いたのか?」

「仮の話なら何個か。あんまりお前に言うべきでもねーけど、お前に言わねーと意味も無い」

「……言ってくれ」

「可能性の話だから、ってのはちゃんと頭に入れとけよ」

「わかってるよ」

「……一つ。M氏がお前のクローン、或いは織斑先生のクローンである可能性」

「……っんだよソレ!」

「怒んなよ。可能性の話って言ってんだろ。ラウラさんの時もそうだけど、織斑先生のコピーとかに反応しすぎだ」

「それは……わかってるけど」

「まあ落ち着けよ。確定って訳じゃねーし、お前がどうのって話でもネー。問題はコレが逆だった場合だ」

「逆?」

「――お前がクローンの可能性」

「……は?」

 

 一夏は一瞬、意識が飛びそうになる。否定する。否定する、否定スル。

 そんな訳がない。だって、俺は、俺は――。

 

「落ち着け、相棒。ゆっくりだ、ゆっくり呼吸をしろ」

「――、ハァ、ハァ……スゥ……」

「おーけー、そのまま呼吸は続けろ。大丈夫だ。お前は織斑一夏だ」

「ハァ……ああ、知ってるよ」

「そりゃよかった。まあ俺に言われても皮肉にしか聞こえねーか」

 

 冷や汗を流しながら深呼吸を続ける一夏に対して穂次はなるべくいつもの調子でへらへらと笑う。

 少し冷めたお茶を飲み込んで、一夏は大きく息を吐き出す。そして穂次を見て、話を促す。

 

「大丈夫か?」

「可能性の話、って穂次が言ったんだろ? それに、俺は知らなくちゃいけないだろ」

「……だな。おーけー、主人公(ヒーロー)。馬鹿な俺が考えた考察でも聞いて鼻で笑い飛ばしてくれ」

「任せろ」

「……まず、証明として、一夏がISを動かせる理由だ。男であり――人である一夏がどうしてISを動かせるのか。M氏のクローンであるから、女性のナニカに反応するISがお前の中にあるナニカに反応した。

 M氏が言う通り、お前が彼女なら。お前は彼女の場所を奪い、今そこに居ることになる。恨まれてもおかしくはない。単独襲撃の理由にもなる」

「……でも、それでも、俺は今ココにいる」

「ああ、そうだ。お前が織斑一夏である証明だ。クローンでも、何でもお前はお前だ。頼むぜ、相棒」

「ハッ、任せてくれ、親友。俺は潰れないさ」

 

 穂次の言葉通りに、ちゃんと鼻で笑ってみせた一夏に穂次はどこか安心したように息を吐き出す。

 そしてにやりとイタズラをするように口角をあげる。

 

「相棒が強くて何よりだ。まあ俺が言った考察全部とある一言で吹き飛ぶんだぜ」

「?」

「篠ノ之博士が原因だ」

「ぷっあはっはっははは、確かに。束さんが原因なら、仕方ねぇな」

「まあ実際は分かんネーな。可能性の話さ」

「ああ、わかってるよ。ありがとう、ちょっとすっきりしたよ」

「お礼は噂のマッサージにしてくれ」

「任せてくれ」

 

 ニッと二人で笑い合い、既に中身の入っていない湯呑みをコツリと合わせて乾杯をしてみせた。




>>……恐ろしい子!
 演技で人形をするに辺り、瞬きをするな、という鬼教官

>>穂次「ベッドでの俺は雄弁だから」
 喘ぎ声かな?

>>名探偵シャルロット
 穂次がセシリアに何かされたのを気付いたのは、穂次が一々セシリアのフォローをして、顔を見て真っ赤にしてたから。
 やっぱり、穂次はヒロインなんやなって……。

>>仏「元々呼び捨てだった一夏はやっぱり――」
 そこに気付くとは……恐ろしい子!




>>可能性の話
 マドカちゃんの身長とかを考えると一夏がマドカちゃんのクローンである可能性は確定して無いです。ただ、今回の話で敢えて穂次に言わせてませんが千冬さんのクローンである可能性はあります。
 まあ千冬さんのクローンとして考えても、どうして一夏を作ったのかはわかりませんけどね。織斑夫妻がマッドなサイエンティストなら実子とクローンの性能差とかの研究かもしれませんが……まあ無いッスね。狂ってる設定としては織斑夫妻がそのままチフユとイチカになっている可能性とかもありますが、そんな物語がハーレムモノとして出版される訳はないので……(メメタァ

 何にしろ、そういう織斑クンの謎に迫る様な事はこの文章群ではしません。そういう事は原作者様に委ねねばならない事なのです。偉大なる弓弦先生がきっと書いてくれるのです(震え声

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