欲望にはチュウジツに!   作:猫毛布

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シリアスっぽい何か

主人公がぶっ飛んでる様な気がしないでも無いですが、いつも通りデスネ。


勝つための機体

「おぉ、おお。主! ようやっと、ようやっと心を決めおったか!!」

 

 白い、ささくれた骨の絨毯が敷き詰められた世界で女は歓喜の声を上げる。

 我慢などせずに嗤い、女は十二分に色香を漂わせる身体を抱きしめて熱っぽい吐息を吐き出す。

 ようやく、ようやくである。

 負けない為などと戯事を吠えていた男がようやく求めたのだ。

 ああ、なんと、なんと、

 

「――なんと愚かしい」

 

 自身の主だからこそ、自身の特性だからこそ、女は嗤いながらも男を罵った。けれど愚かだと罵りながらも、女はソレを求めていた。

 それは自身が武器だからこそ。

 自身が男の唯一の武器だからこそ。

 男が自身の唯一の主だからこそ。

 

「クク、ククククク、ああ!! 愛おしい、愛おしい愛おしい愛おしいぞ、我が主!」

 

 愛する男が自身を連れて堕ちていく様のなんと嬉しい事か。

 愛する男を自身の元まで落とす事のなんと甘美な事か。

 蕩ける瞳を空へと向けて、唇を舐める。

 イビツなご主人様が、その歪さをようやく認めた。

 もう既に()()()など在りはしない。

 そもそもアレは女を閉じ込める為のモノではない。そもそもアレは女がココへと立つ前から既に在ったものだ。

 

「さあ、さあ! 戦うぞ、戦うぞ主よ! 妾を十全に使い、鬼を倒そうぞ!

 ああ、歌舞伎の様に大立ち回りをしてやろうて!!」

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 黒い装甲に包まれた穂次はジロリとその瞳をエムへと向けた。

 頬に刻まれた、明滅する黒の基盤模様。目はその影響からか黒に染まり、瞳は黄色へと変化してしまった。

 

 お陰で視界は非常にクリアだ。

 穂次は悪態でも吐くように現状を理解した。同時にこの状態があまり長続きしては良くないモノという事も理解している。

 

 穂次はゆったりと刀を構え直し、その一歩を踏み込んだ。一瞬でトップスピードに到れる踏み込み。村雨の特異とも言える移動。

 

「くっ」

「チッ」

 

 苦々しく言葉を吐き出したエムと舌打ちをした穂次が相対する。エムが握ったナイフを離し、即座に肉弾戦を嫌うように飛翔した。

 目に見えて接近戦を得意とするだろう村雨に付き合うつもりは無い、という風に。

 ナイフを両断し、そのまま相手のバリアすら両断しようと考えていた穂次はコチラに狙いを定めているエムを睨み、嗤う。

 エムがビームを撃つと同時に盾が展開する。いいや、ソレは最早盾と言うには無理があった。

 持ち主を守れない程細長く変形した盾――弓が黒の粒子で弦を張る。

 

 ビームを高速横回転移動(アーリー・ロール)で回避しつつ、放たれた矢。ビームに這うように疾しる(ハシル)矢は身体を反転させて射た影響か、しっかりとビームの陰に隠れていた筈であった。

 

 エムはソレを容易く防御してみせた。シールド・ビットを動かし、次の攻撃にも備えながら完璧に。

 対して穂次は偏向射撃には対応出来ずに僅かに身体に攻撃を受けてしまった。

 穂次の顔が歪む。まるで自分の肉でも削がれた様な感触。けれどソレは現実ではない。自身の肉は全て残っているし、削られた訳でもない。

 攻撃を食らった代償。精神的な肉体損失。

 ISとの適合率が高ければ高いほど、ソレは顕著になっていくだろう。だから、これ以上の攻撃はマズい。

 

「――だからどうしたってんだ」

 

 穂次は嗤いを堪える事など出来なかった。

 愚かだとは自分で思う。何故も、どうしても、既に過ぎた事だった。

 自分を馬鹿にされても無視出来る。

 肉を削がれるのも堪えれる。

 指の骨を折られるのも堪えてやる。

 自分を捨てろと言われても、まあ我慢してやろう。

 だが、ソレの喪失だけは穂次の琴線に触れた。ソレだけは許してはいけない事だと()()()の本能が叫んでいた。

 だからこそ、男はようやく認めた。そして宣言までした。

 だからこそ、男は幾らでも愚かになれる。

 

「おィ、村雨。足りねーぞ」

 

 だからこそ、男は幾らでも堕ちる事が出来る。

 

「もっとだ……もっと寄越せよ」

 

 だからこそ、武器は男に応えた。ただソレだけなのだ。

 ドロリと粘質な液体が左頬に伝う。肩で無理やり左頬を拭っても、ソレは瞳から流れ続ける。

 

「は、ハハ、ハハハハハハッハハハハハハ!!!」

 

 男は狂った様に……いいや、狂っていた男は高らかに嗤いをあげる。存外に気分がよかった。

 頭は平時よりも澄んでいる。ドクリと鼓動が鳴る度に痛みと一緒に悦びが拡がる。自分には足りなかったモノが埋まっていく。

 心地良い息苦しさと身体を引き千切ぎられていく快楽が全てを後押ししていく。

 

「狂ったか……」

「狂ったァ? 俺は非常に冷静ッスよ。今ならアンタを血祭りにあげてやることも容易いぐらいに、冷静さ」

「やってみろ」

「お言葉に甘えて」

 

 弓からは矢が放たれた。予備動作すらなく、瞬間的に放たれた矢は最短距離を疾り(ハシリ)、エムの眼前へと迫った。

 そんな攻撃に当ってやれるほどエムは優しくも無い。軽々と回避したソレは直進する。男がニタリと嗤い、エムは舌打ちをし、加速する。

 逃げ出すエムに追従するように黒の矢が空を疾りエムへと迫る。

 ソレも迫っただけでありシールド・ビットにより遮断されてしまった。シールドに当たった矢は大きく弾け、黒の飛沫を散らした。

 

 男は嗤う。喉を裂けんばかり引き攣らせ、口元に笑みを浮かべ、頬に流れた液体が口に入り、鉄の味が舌に広がる。ソレさえも、実に愉しい。

 

「やっぱ、ソレ(シールド・ビット)。邪魔ッスね」

「……ッ」

 

 エムは息を飲み込み咄嗟にシールド・ビットを置き去りにして銃を狙いもせずに乱射した。正確には自身のシールド・ビットに向けて、とにかく撃った。

 何かに当たった音と同時にシールド・ビットの奥から黒い粒子がこれでもかと言わんばかりに吐き出される。

 淡々と放たれた言葉もそうであるが、真正面から両断されてしまったシールド・ビットに怖気が走る。

 叩き斬ったソレを見送り、男は血でも振り払う様に、刀を振るう。血の代わりに黒い粒子が僅かに撒き散らされ、揺らいだ刀身が静かに形を保つ。

 

「ああ、実にいい斬れ味ッスね。まあ及第点だけど」

 

 シールドを真正面から叩き斬っていて、その斬れ味が及第点という男は刀を盾へと戻し、盾を弓へと変化させ、またエムへと向ける。

 エムは男の事を怖がった。アレは本当に人なのか? 村雨の事はある程度知っている。元々何故作られたかも、エムは目を通していた。

 だからこそ言える。アレは人ではない。アレを人と言えるのは同じ土俵に立っている人間、或いは同じ土俵に立ったことのある人だけだ。

 

「何だ、お前は……」

 

 エムは問いかけてしまった。

 そんなエムに対して、男はニタリと笑みを浮かべて口を開いた。

 

「知ってるでしょ? 俺は夏野穂次……探偵さ」

 

 キメ顔で穂次はそう言った。それはもうキリっとした顔で言ってのけた。まるでコレでもかと言わんばかりの真面目さで言ってのけたのだ。

 エムはそんな穂次をジロリと睨んだ。当然である。エムにとっては脅威であるにも関わらず茶化されてしまったのだ。

 そんなエムを睨みを受けて穂次はヘラリと笑みを浮かべる。まるで戦闘は終わりだと言わんばかりに、けれど腕に装着されている弓は矢をつがえ、エムへと向けられている。

 

「まあ、どーせここまでッスね。どちらかが勝っているつーなら、そちらさんが勝ってるんでしょうねー」

「あら、諦めが早いのね」

「人質を取っておいてよく言う」

 

 弓は決してエムから逸らさず、穂次はジロリとその女を見た。ISでは隠し切れない豊満な身体をした女は綺羅びやかな金色の髪をビル風に靡かせながら、銃を構えていた。

 

「御機嫌よう、セカンド」

「御機嫌よう、スコール」

 

 金色のISを纏った女――スコールの照準はビルに横たわるセシリアへと向けられている。生憎とも言うべきか、その顔はバイザーで隠されどのような表情をしているかは定かではない。少なからず、これから人を撃つ、という事に忌避感は覚えていないであろう。

 

「――条件は?」

「私達の離脱よ。別にファーストを待って、ココで争ってあげてもいいわ。

 尤も、アナタもそろそろ限界でしょうけど」

「…………チッ」

 

 少しだけ思考した穂次は舌打ちをして苦々しく顔を歪ませた。

 そろそろ限界、というスコールは間違えているが、穂次にしてみれば都合のいい誤算である。

 

「ああ、クソが。不甲斐ないね、まったく」

「そうかしら、格好良かったわよ、ナイト様?」

 

 まるで揶揄する様にクスクスと笑ったスコールに穂次は余計に顔を顰めた。エムに至っては口元に表情も浮かんでないのでさっぱりだが。

 

「さあ、帰るわよ。エム」

「…………ああ」

「あら? 不満そうね」

「別に……」

「あのまま決着をつけて、どちらが勝つかなんて分かりきっている事でしょう。このタイミングがベストなのよ。お互いに、ね」

 

 企てが成功した様に、意地悪く笑うスコールに対してなんとも言えないエム。

 セシリアとスコールの間へと移動した穂次は眉間を寄せて溜め息を吐き出す。

 

「さっさと消えてくれませんかねー後ろからブッパしてもイイんすよ?」

「あら恐ろしい。怖くてここからでもセシリアちゃんを撃ってしまいそう」

「防げばいい話ッスね」

「じゃあその間に逃げればいい話ね」

 

 スコールからの視線を受け取ったエムは肩を落とし、セシリアへと向けてライフルを放つ。直線で進むソレを容易く盾で防いだ穂次、既に小さくなった二人を見て、溜め息を吐き出した。

 

「ああ、畜生め……」

 

 誰に吐き出した悪態だったのか、穂次が小さく呟いたソレは風に流されてドコかへと行ってしまった。

 

「穂つッ――!」

 

 ようやく到着した一夏は思わず警戒をしてしまった。

 黄色の装甲だった筈の村雨が黒く染まっている。それだけで十二分に警戒すべきである。当然だ。一夏がこの村雨を見たのは、村雨に精神を侵食されたであろう穂次と戦った時なのだから。

 そんな一夏を見つけたのか、穂次は頬を少しだけ拭って、身体ごと一夏へと向けた。

 頬に浮かんでいる基盤模様が激しく明滅し、同時に一夏は雪片を構えた。

 

「俺の戦闘力は五三万だッ!」

「なん……だと……!?」

 

 緊張していても尚、思わず反応してしまうのが男の子である。

 しっかりとポーズまで決めた穂次に対してちょっとだけ恥ずかしくなった一夏は雪片を投擲した。へらへらと笑いながら、穂次はしっかりとソレをキャッチして極光の刃を消す。

 

「いやー、あっはっは。ちょー強そうに見えね?」

「変な心配をさせんなよ……」

「へっへっへ。まあなんとか無事だよ」

 

 軽くそう言ってのけた穂次は後ろに眠っているセシリアへと視線を落として、僅かに口元を緩める。大きな傷だが既にISが止血をしているので、命に別状はないだろう。

 頬に刻まれていた基盤模様がゆっくりとその光を消していき、名残すら見せずに通常の肌へと戻っていく。

 既にエネルギーの無くなった雪片を一夏へと投げ返す。

 

「ちょーっと戦闘が長引いたから、早くセシリアをIS学園に連れて帰ってくれ」

「っ、そうだな。ってお前はどうするんだよ」

「戦いで疲れってからちょっと休憩だ。すぐに戻るから気にすんな」

「お前もドコか」

「おいおい、よく見ろって。ドコに怪我があるんスかね? 疲れただけだよ」

 

 ISを解除してビルに座った穂次はいつも通りに振る舞ってへらへらと笑う。

 そんな穂次を訝しげに見ながら、一夏はセシリアを抱き上げて空へと飛ぶ。

 

「じゃあ、先に戻るぞ」

「おう。出来れば安全運転で頼むな。任せたぜ、相棒」

「……はぁ、任された」

 

 そう言われれば断れないのも一夏である。しっかりと溜め息を吐き出した一夏は速度を上げてIS学園へと飛翔した。

 そんな一夏をしっかりと見送った穂次は細く息を吐き出す。歯を食いしばり、叫びそうになる喉をどうにか抑えこむ。

 

「くっ、ヒヒ、ハハ」

 

 笑いが溢れた。

 脳に熱した棒でも突っ込まれような痛みも、肉の一つ一つを丁寧に削ぎ落としていくような痛みも、引き千切られる様な痛みも、溺れている様な息苦しさも。

 

 

 痛みも苦しみも、全部が全部

 

 

 愛おしい。

 

「くはっ、ふひっ」

 

 冷や汗を流して、痛みを痛みとして受けながら、苦しさを苦しさだと認識しながらも穂次は笑いを吐き出した。

 狂っているなんて自覚している。

 歪んでいるなんて自覚していた。

 だからこそ、この証明を甘んじて受けることが出来る。

 宣言したからこそ、自覚したからこそ、もう戻る事など出来ないのだ。

 

「ハハッハハハハハハハハッハッハッハハ!!」

 

 赤くはない液体を瞳から流し、男は空高く笑った。

 コレは男が選択した事だ。だから、男は全てを受け入れなければならない。

 男はもう、逃げる事をやめた。




>>勝つ為の機体
 なお判定負け

>>「もっとだ……もっと寄越せよ」
 スゲーよ、✕✕は(白目
 阿頼耶識かな?(スットボケ
 シーン的な話をすれば実際に影響されてるから何も言えないデスマス。

>>主人公らしくない主人公
 力に溺れてます。使う方向自体はブレてませんが……。

>>穂次は強くならないんじゃなかったっけ?
 強くならないとは言ってない。ISの性能を100%引き出す事が出来るだけで105%とか、上限突破はしないという意味。
 村雨さんを100%、十全に使うとぶっ壊れ性能になります(白目
 今回の話で村雨さんの存在理由をぞんざいに書いてたりします。なんとなく察した人は「ヒェッ……」とでも呟いておきましょう(感想乞食



>>「夏野穂次……探偵さ」
 探偵じゃ)ないです。
 この時点でスコールさんがセシリアさんを狙っていた、なんて考えて貰えれば状況的にはあってるような気もしないでもない。
 探偵である意味も)ないです。

>>ISでは隠し切れない豊満な身体
 豊満な身体(ナイスバディ)。実際豊満。備えよう

>>「俺の戦闘力は~」
 一回でも言いたい。言いたくない?

>>痛みも苦しみも全部、愛おしい
 マゾという訳ではなく、トチ狂った理由。
 だいたい私のいつもの愛であることに変わりはない。



>>……猫だから仕方ないな!!
 敬愛すべき読者諸君ならたぶんそんな感じで勝手に理解してくれる……かも?


>>アトガキ
 とりあえず、一段落です(震え声
 かなり厨二病っぽい書き方になりましたが、私は満足です。まーた黒い歴史が増えるのか、壊れるなぁ。実際厨二病だから仕方ないね。
 セシリーとシャル、穂次の関係に関してはゆっくりと進めていきます。正直な話を言えば私の書く恋愛要素なんてイビツなので付属品にも成りはしないかもです。
 穂次が
「愛してるんだぁ! 君たちぉ!!」
 と主任みたいな事を言ったのにも、意味はあります。恋愛要素を除いて、という話。まあ恋愛要素がなけりゃ、言ってもない言葉だから恋愛要素は除けないんですけどね。

 今回の戦闘でシリアスを続けなかったのは、書き手の力が尽きたからです。あと、空気の緩和もしたかったので。

 ともあれ、穂次の現状……というより戦闘時の彼と村雨は
・人間の肉体限界を強制
・脳の制限解除
・上記による痛覚を脳内の快楽物質で上書き
・出力を上げてエネルギーでぶった斬る
 を地で行ってます。オレツエー系の主人公だな、間違いない(白目

 何度も言うように、村雨は乗り手の事を一切考えない機体です。これでもある程度の制限が掛かってます。
 回路模様に関しては脳へのルート確保とかでイイんじゃないッスかね?(テキトー
 目は触媒としてエネルギーを通したので、あんな状態になってます。血涙はエネルギーに耐え切れなかった部分が破裂して流れてるだけです。眼球が無事で何よりですね(スマイル

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