意味のない会話が多い……
伏線に繋げれればいいなー、でも繋げるとバッドエンドに向かいそうだからやっぱり無駄会話にしよう(確信
日は既に落ちて、と言っても真夜中という訳でもなく、精々夕方から幾らか時間が過ぎた程度と言える世界。
俺は絶賛大量のプリントの束を持ち上げて歩いていた。なぜかって? そりゃぁ、鬼斑先生の言いつけだからだ。
「このご時世に紙媒体とかwwwクッソワロタwww」
と言った俺は美という言葉全てを尽くしても足りない織斑先生がスチール缶を容易く潰した事で二つ返事で了承した。縦に圧縮される様に潰れたスチール缶はゴミ箱の中へと放られ、きっと拒否していたならば俺もグシャっとされてゴミ箱の中だっただろう。
ただでさえトイレが遠いのだから脅すのは勘弁してほしい。マジで。
「……ん?」
目を細める訳でもなく、ただ聞こえた姦しい声がよく聴く声だと気付いた。オルコットさんの高い声はよく響くし、ソレに対抗するようにキャンキャン騒いでいる篠ノ之さんの声もかなり響いている。どうせ間にいるだろう織斑の声はさっぱり聞こえない。
さて、俺が足を止めたのは別の理由だ。
別にオルコットさんと篠ノ之さんの姦しい喧嘩を聞いて止まった訳じゃない。もう一つ言えばスカートが捲れそう、とかそういうアレでもない。風の通り道の都合上、ココでスカートが捲れ上がる事がない事は既に知っている。
姦しい声のする方向。つまるところ三人のいる方向を思いっきり睨んでいる少女がいるのだ。ツインテ少女。生憎顔は見えないけれど、俺は知っている。どうせこんな感じに愛らしい姿形のヤツの顔は残念だっていう事は知っている。後ろ姿が可愛いというのはそれだけで男にとって罪なのだ。
振り返るんじゃないぞ、と心の中で唱えながらその少女の横を素通りする。素通りしてからは唱える内容が「見るんじゃない、見ると後悔するんだから」に変化してなるべく早足で通り過ぎる。いくらIS学園の女生徒のレベルが高いと言っても、その全てのレベルが高いという訳ではないだろう。そもそも少女はIS学園の制服を着ていないからその統計は意味を為さない。
「ちょっと、アンタ」
「…………」
俺じゃない。俺じゃない。それにしても声はいいな。いいや、騙されるんじゃない俺。可愛い声をしていても、というじゃないか。そもそも人間は中身なのだ。中身が大切、ンッンー、名言だな。
「アンタよ! そこの男! こんな時代に紙媒体なんて持ってるアンタ! 無視すんな!」
「へいへい。何か御用ですか……ね」
「用も何も、アンタ、夏野穂次でしょ?」
なんということだろう! 俺の経験を全て覆す事実が起こった! 思わず言葉が詰まってしまったじゃないか。
愛らしい顔立ちというよりは快活な少女を思わせる気の強そうな表情。口ぶりからしても気が強いのだろう。ともかくとして、やっぱり人間は外身だよ、ブラザー。
惜しむべきは、するん、ペタンであるという事だろうか。
「アンタ、あいつらが誰か知ってる?」
「ん? 織斑の両隣にいる二人の話?」
「そうよ! あんなに近くに……!」
あ……(察し。
ギリギリと歯軋りでもしそうな程に織斑を睨みつけている少女。コッチに向いていないというのに怖さが伝わってくる。織斑、気付くんだ! きっとまだ傷は浅い!
「あの二人は……そう、織斑一夏を狙う存在だ」
「やっぱり!」
「ああ。けれど織斑はそんなハニートラップには決して靡かなかった。どうしてかわかるかい?」
「ま、まさか……私を」
「そう、ヤツはホモ――同性愛に目覚めていたのだッ!」
「…………」
少女がボストンバックを落とした。俺は笑いそうになる顔を収め、いつものヘラヘラした顔を真面目な、そして悲痛な顔をして言葉を吐き出していく。
「アイツは、来る日も来る日も俺へと近寄り、女には一切振り向かず……おっと、スマナイ。ここから先は織斑の意志と性嗜好を尊重して言葉を収めさせてもらうよ」
「……う、嘘よ!」
「さあ、どうかな。少なくとも、初対面の君に対して俺が嘘を吐くメリットはない筈だけれど……」
織斑を弄れるというメリットはある。当然、その事に対しては言わない。言う訳が無い。
落としたグシャグシャな紙を拾い上げれば転入届の提出場所が記載されている。
「なるほど、君は転入生なのか。なら、明日にでも織斑に聞いてみるがいい。織斑はきっと俺を紹介する為に俺の名前を呼ぶだろう。尤も、俺はノーマルだから、君に協力するのも吝かではない」
「ほ、ホントッ!?」
「ああ。本当だ。俺もホモの扱いには困っていたんだ。二人でアイツをノーマルに戻そう」
「ええ! よろしくね!」
「よろしく。 それで、本校舎の総合受付だな。俺が案内をしよう」
途中で織斑に出会われてはせっかくの仕込が全て無駄になる。ククク、織斑一夏、着々とハーレムが築けると思うなよ……!
結局、名前も聞かなかった少女と別れて俺は織斑先生へとプリントの束を渡した。渡した端から山田先生へと渡されていた気がするが、きっと見間違いだろう。うん。
涙目になっていた可愛い山田先生を拝んでから寮へと戻ってきた俺は思わず口をへの字に曲げてしまった。どうやら俺のいない間に『織斑一夏クラス代表就任パーティ』とやらが開かれていたらしい。開かれていた、というので既に終わってしまった事が分かるだろう。
つまり、つまりである。俺は完全にスルーされていたのだ! 普通に落ち込みそう……。
まあ、明日になれば仕込みがきっと上手く動いてくれるだろうからソレを楽しみにしておこう。クククッ! 織斑一夏ァ! 俺を忘れてパーティを楽しんでいたお前を俺は決して許しはしないぞぉぉぉおおお!!
「お、夏野。戻ってたのか」
「いんや、今帰ったところだ」
「そっか。おかえり」
「お、おう……つーか、なんで俺の部屋の近くにいるんだよ」
「お前が見当たらなかったからな。俺だけ楽しむってのも、なんか違うし……。お前って一人部屋だろ? お菓子とか色々確保しといたから――」
「お前っていいヤツだな!」
「俺たち友達だろ!」
「ああ! 今日は寝かさないぜ!」
「夏野、その言葉で反応する女の子達がそこらにいるからやめてくれ」
キリッとした顔で言った俺に対してどこか遠い目で俺の肩に手を置いた織斑はそう言った。視線だけ動かせば嬉しそうに内緒話をしている女生徒達と目があった。ニッコリ。
あの子は確か、そう、アレだ。掛け算の本を俺に譲ってくれた子だ。というより発見したらくれただけなんだけれど、貰える物は全部貰う性質の俺は心に大きな傷を負った。掛け算って、スゲー。
織斑を部屋の中へと招きいれ、お互いに愚痴を言うためにお菓子を広げ、鍵を締めておく。黒髪ポニテとか金髪ロールの美少女二人が突撃する気がしたからだ。
「というか、何してたんだ?」
「んー? 鬼の手伝いだよ」
「あーなるほど。千冬姉ってあれで結構ズボラなんだぜ?」
「マジで? 家事とか凄い上手そう、つーか、なんでも出来そうだけど」
「ないない。織斑家の家事は俺の担当だからな」
「……一夏。お前はいい嫁になるな。お父さん、嬉しいような悲しいような気持ちダゾ」
「低い声で何言ってんだよ。それに俺が誰かと付き合うとか考えれないし」
「はぁ? 篠ノ之さんとかどうなんだよー。仲いいじゃん」
「箒は幼馴染だからだよ」
「……ん?」
「……ん?」
「ナニソレ怖い」
「どういう事だよ」
「いや、なんつーか。まあガンバレ☆」
「なんで爽やかな笑顔なんだよ。俺は何を頑張ればいいんだよ」
「別にお前に激励してる訳じゃねぇよ」
「俺はいいよ。お前こそどうなんだよ」
「おっぱいが触りたい」
「そのド直球過ぎる欲求を少しは隠した方がいいぞー。というか、女の子は胸じゃねぇだろ」
「あん? おっぱいこそ至高だろ」
「内面がよければソレでいい」
「そりゃぁ卑怯ってもんだろ、織斑くんよぉ」
「どういう事だよ」
「じゃあ聞くけどさー。お前、今のその内面がよければー、って誰を基準に言ってんだよ」
「誰って、別に基準なんてないけど」
「お前の周りには美人しかいねーって話だよ! 織斑先生も含みで篠ノ之さんも幼馴染、勉強しててISの初期段階の研究資料とかも手を伸ばしたけど、篠ノ之博士も美人じゃねぇか!」
「あー、束さんはアレでブッ飛んでるから」
「え、ナニソレ怖い……どんな人なんだ?」
「んー……頭はスゲーいいよ。俺と千冬姉、あと箒にだけは優しい」
「普通にいい人じゃねーか。おっぱいでけーし」
「俺たち以外への拒絶具合が半端じゃねぇんだよ。気安く話しかけないでくれるかな? とか普通に言いそうだし」
「ナニソレコワイ」
「ま、それでも俺にとってはちょっとオカシナ普通のお姉さんだったからなぁ」
「はえー……篠ノ之さんの性格を考えてると中々想像つかないな」
「あー……箒の前で束さんの話はNGな。色々あって連絡も取ってないらしい」
「ういうい。つーか、このご時世で篠ノ之博士と普通に連絡取れるとかそのまま国家機関にご案内だろ」
「マジかよ。こえぇ」
「一時期政府機関でお世話になってたけど、あそこは怖いぞ。マジで」
「お前って何かしたのか?」
「お前がIS動かしたからなー。それでゼロだった筈の可能性に引っ掛かったのが俺」
「あー……なんか悪い」
「もう気にしてねぇよ。つーか、お前も不可抗力みたいなモンだったんだろ?」
「ああ。受験会場を間違えてさー」
「ありえなさすぎぃ!」
そんな感じで愚痴大会になり、結局何も解決したという訳でもなく、ただただケラケラと笑い合ってお互いの夜が更けていく。
途中で扉がガンガン叩かれて、俺がマジビビリしたとか、そういう事実は決してない。無い。
「夏野くーん、転入生の噂って聞いた?」
「ああ、可愛い子だったぞっ」
「えーもう会ったんだ!? どんな子だった? タイプ?」
「……いや、好みじゃないけど可愛かったよ、コレはマジで」
「夏野君はみんなに可愛いっていうじゃーん」
「みんな可愛いから仕方ないじゃーん」
そんな感じな軽いノリの会話が飛び交う。ヘラヘラ笑っている俺に対して気安く話しかけてくれるのは嬉しい。可愛い女の子に喋りかけられて嫌な男などいる訳が無い。
転入生というのは昨晩の少女の事だろう。少女を思い出して、一部分を思い出して、やっぱり好みとは違うことを再確認する。
「穂次。おはよう」
「おう、一夏。おはよう」
昨晩の愚痴大会で随分と親交も深くなり、というよりも苗字で呼び合うのも何か面倒になって名前で呼び合うようになった。
そのお陰で、また薄い本が厚くなる、という情報を得てしまったのだけれど、俺はどうすればいいんだ……。
「それで、穂次って転入生に会ったのか?」
「ああ。お前の好きそうなロリータ系だったぞッ☆」
「死ね」
「ひぃ……篠ノ之さん、アナタの幼馴染が物騒ですよ!」
「お前が死ねば何も問題なかろう?」
「いや、普通に首を傾げられて言われると流石に傷つく……」
可愛いからいいけれどさ。
いつもキリッとしているからか、こうしてキョトンとしている表情は本当に可愛く思う。おっぱいもデカイし。
「中国の代表候補生だそうですわね」
「わたくしの存在を危ぶんでようやく中国が動きだしましたのね、オーッホッホッホッ! って言いそうだなぁ」
「言いませんわよ! 夏野さんの中でのわたくしの印象はどうなってますの……?」
「金髪の美しいタレ目ロイヤル美少女」
「……面と向かって言われると少し照れますわね」
「ステキなおっぱいと太股もイイネ!」
「……その口にスターライトmkⅢを詰めて引き金を引いてもよろしくて?」
「目がマジッスよ、オルコットさん!」
「は?」
「すいません、黙っときます」
褒めたつもりなんだけどなぁ。女の子って分からない。
それにしても長いスカートからの黒ストッキングのおみ足も素晴らしいですね! 言うと次こそ警告なしにぶち込まれそうだから言わないけど。
「どんなヤツなんだろうな」
「ん? 向こうは一夏の事を知ってるようだったけど?」
「え?」
「一夏ぁ! お前というヤツは! 私がいない間にもう手を出したのか!?」
「ま、待て待て箒! 誤解だ! というか俺は一度も誰かに手を出した覚えはねぇよ!」
「酷いわ一夏! 俺とは一夜限りの遊びだったのね!」
「穂次! ちょっと黙ってろ! というか名前ぐらい知ってるんじゃないのか?」
「んー。案内した時に名前は聞かなかったからなぁ。アッチは当然の様に俺の事を知ってたし」
「なんだよ、俺のこと知ってるってメディアに出てたからかよ……」
「いや、ソッチはマジ。知り合いっぽいぞ」
「……中国だろ……。あ、」
「お、思い出したか。ちなみにツインテの快活女子だったぞ」
「アイツか? ……まあ会えば分かるかな」
「……ん? 何か忘れてるような気がする」
「夏野さんどうしましたの? 痴呆ですか?」
「オルコットさん、当たりがキツいッス」
何か大切な事を忘れているような気がする。まあ忘れるという事はそれほど重要な事ではないのだろう。うん、きっと必要ない記憶だな。
「一夏ァ!」
「やっぱりお前か、鈴!」
教室の扉を自動扉にも関わらず盛大に力で開けた少女は一夏の名前を叫びながら現れた。
その少女の名前を、旧友の再会のように喜んで呼んだ一夏。
あ……。
「いやぁ、久しぶり。ちょうど丸一年ぶりに――」
「アンタ! ど、同性愛者になったって、ホント?」
「…………
――――穂次ィ!!」
「ハイィ!!」
俺はここで失念していた。いくら弄りやすいと思っていても彼は織斑一夏なのだ。
そう、あの織斑千冬と同じ血族だったのだ!
俺を正座させてガミガミと説教をする一夏とソレを見てブツブツと「やっぱり…」とか呟いているツインテ少女。
その後ろで頭を抱えて、少しイライラしてそうな織斑先生。この時ばかりは織斑先生のことが天使に見えた。
>>スチール缶を縦に潰す
次はお前がこうなる番だ。
>>『織斑一夏クラス代表就任パーティ』
写真を撮ったり、美味しいお菓子を持ち寄ったり。なお主人公は参加出来なかったもよう。
>>掛け算の本
決して九九の本ではない。
>>するん、ペタン
水の抵抗を受けにくい素晴らしい体。
>>あとがく
おっぱい成分が足りない……。
あと、次回あたりで主人公のISを持ってきます。倉持技研ではなくて別の会社予定。
明日までに主人公のIS構想を練らねば……いや、だいたい固まってるんですけどカラーリングとか武装面とか、基礎性能とか……全部じゃねぇか!