限りなく似ている名前があるような気がしますが、別です。イイネ?
あと視点が相変わらず一定じゃないです。
読みにくいとかアレば言っていただければ幸いです。
次回からどうにかする(たぶん
誤字修正しました
更識簪は非常に迷っていた。迷い、悩んでいた。
怪しさしか出ていない夏野穂次という人物に関してだ。決して恋だとか、愛だとか、少なからずいい感情ではなく、ソレこそあんな奴に恋している人なんてきっと居ないだろう、というのが簪の彼の印象である。
意外に彼の情報というのはアッサリと集まった。曰くヘタレである、と。いやいや、どうして人と成りを聞いたのに十人中八人が彼の事をヘタレと称したのだろうか。自分の感じた胡散臭さは一体何だったのだと言わんばかりに馬鹿みたいな彼の評価が自分に集まってきた。
ヘタレ、お調子者、気軽、ヘタレ、受け、などと怪しんでいる自分が心配になるぐらいに夏野穂次という人間は散々な評価を受けていた。大丈夫なのだろうか。
ソレに加えて姉が『夏野穂次には注意しなさい』と電子メールが送られてきたのだから、余計に簪は夏野穂次という人物がさっぱり分からなくなった。
怪しい、という印象は拭いきれないドコロか怪しすぎる彼。お門違いな恨みを抱いている織斑一夏を調べ、そして自分をも調べたらしい夏野穂次。
様々な要素を加味して、更識簪は彼をスパイなのではないだろうか? と判断した。尤も、まだ不確定な判断である事も自覚している。
ならばどうするべきか。
姉に伝えるべきか? 否。そんな事をして姉の仕事を増やす訳にもいかない。それに、不確定な情報にきっと
ならば、自身の友人であり従者に伝えるべきか? 否。
ならどうするか。どうすればいいのか。
簪はしっかりと迷った。迷ったのだ。
その結果として、休日の今、駅前で時計を見ている。
電子メールで伝えられた時間にはしばらく時間があるのは既に何度も確認をした。
私が、暴くのだ。彼を、夏野穂次を。
「お、更識さん早いッスね」
ヘラヘラと笑みを携えた男、夏野穂次はやってきた。制服ではなくて私服で、あまり頓着しない自分でもカッコいいと思えるぐらいにオシャレな彼を見て、彼の言葉がリフレインする。
――更識さんとデートがしたい、かな
「お、おひゃょうござイます!」
「……」
「あぅあぅ」
リフレインした言葉と自分が盛大に噛んだ事に対して羞恥心が肥大していく簪は下唇を緩く噛んで自身の失態を呪った。
対して穂次は少しだけ停止し、なるべく小さく、簪に聞こえない様に息を吐き出して、言葉を選ぶように声を出す。
「あー……更識さん早いッスね?」
「う、うん……。夏野君も、早い、ね?」
「女の子を待たせた時点で遅いッスよ」
「でも、ちゃんと、時間前だよ」
「まあホラ、待つのも男の仕事って事で」
ヘラリと笑った穂次は戯ける様に両手を少し広げた。
ともあれ、二度目になればなんとか素っ頓狂な声も出ず、噛みもせずになんとか言葉を繋げれた簪は心のどこかで一安心である。
安心すれば、自分の目的が改めて浮上してくる。今日はこの男が何であるのか暴くのだ。気持ちはさながら物語の主人公である。
「そういや、茶封筒は持ってきてくれた?」
「あ、うん」
簪はポーチに入れていた茶封筒を手渡し、中身を確認した穂次は安心した様にホッとしてソレを受け取り、ジャケットの内ポケットの中へと仕舞いこんだ。
「いやーよかったよかった」
「……それ、中身は?」
「知りたい? つーか中身を見なかったのか……」
「その、悪いかなって」
「そりゃぁまあ、素晴らしい心掛けで。
中身は……そうだなぁ、じゃあ機密文書でいっかな」
「いいかな、って」
「まあまあ、その辺りは後で教えてあげるから、今は急がないとダメなんだ」
「え? と、いうか。ドコに、行くの?」
「まあまあ、その辺りも着いてきてからのお楽しみって事で」
「…………」
訝しげに目を細めた簪に対して穂次はヘラヘラと笑いを浮かべて歩き出す。ソレに慌てて着いて行く簪は意外にスグに追いついて、ソコから距離が開くことはなかった。
「クククッ! このデパートはこの俺様、ディープワンのモノだ!」
簪の目の前で出来の悪い半魚人の怪人、ディープワンが盛大に吼える。ギョロリと動く目が実にチープだ。
そんなチープさも味を深める要素でしかなく、簪は手を強く握りしめて子どもたちと一緒にハラハラする。尤も、こんなアリキタリな展開は腐るほど簪は知っている。
「皆! 私達と一緒に助けを呼ぼう! せーの!」
助けてー! ボウケンシャー!
幾人もの子供達と簪の隣から聞こえた穂次の声。ちなみに簪も小さく呟いている。
呼ばれれば出てくる、いいや、誰かが危機となれば出てくるのがヒーローであり、そしてこのアリキタリな展開を盤石にする為の要素である。
「とうッ!!」
現れたのは三人の冒険者だった。赤と青と黄の三色。ちなみに簪は後々にこの三人以外にも黒色のちょっとニヒルな冒険者が加わる事も知っている。
もっと言えば、その黒色の冒険者が打倒すべき敵である組織『クトルー』の元幹部である事も知っている。本当の名前は確か来週放送予定だ。タイトルは『
敵を打倒していくボウケンシャー達を手に汗握りながら見ていた簪はハッとした。
どうして自分はヒーローショーにのめり込んでいるんだろうか?
それは誰にも分からない。
でもそんな事よりも今はボウケンシャーと握手出来るかどうかの方が大事だ! とアッサリと簪はその疑問を捨てた。やっぱりヒーローはいい。
「いやぁ、よかったよかった」
「うん! やっぱりボウケンシャーはいいね!」
「だよな。個人的には前期もいいと思います」
「いいよね! レッドが敵だったクラウリーと手を取り合ってボスを倒すのも、その後にクラウリーとの最後の戦いも最高だったね!」
「急に饒舌になったなぁ……」
しっかりと、とは言いがたいがかなり挙動不審になりながらも穂次に連れられてちゃんと握手をした簪。
今も尚、目を輝かせて以前放映されていた物や、現在放映されている物を語る簪を穂次は止める事は出来なかった。するつもりもなかった。
ヘラヘラと笑いを浮かべながら適当な相槌を打ちながら、簪の話を聞いていく。
「それでそれで、」
「へぇ、っと」
よそ見をしていた、というよりも簪との会話に集中していたのか穂次は目の前にいた人にぶつかってしまう。
尻もちを着いた相手と一歩後ろに足を動かして踏みとどまった穂次を見て、ようやく簪が現実に戻り、慌て出した。
「だ、大丈夫?」
「俺は問題ないッス。そちらさんは大丈夫ッスか?」
「……ああ」
フードを目深に被った、声からして少女は小さく頷いて穂次の手を借りて立ち上がった。
ヘラリと笑った穂次を見て苛立ったのか一つだけ舌打ちをして手を払いのけた少女は穂次を一瞥し人混みの中へと消えていった。
「ありゃ、俺のイケメンに照れてしまったか……フッ、我ながら自分の美貌が恐ろしい」
「そ、そうだね!」
「あ、更識さん。ここツッコむ所だから」
「なんで、やねん?」
「惜しい!」
悔やむ様に声を出した穂次はヘラリとした笑いを改めて浮かべて、考える様に顎に手を置いた。簪は首を傾げて彼を見つめた。
「どうしたの?」
「いや、そろそろ更識さんの疑問に応えようと思ってさ。ちょっとお腹も空いてきたし」
「……疑問? …………はっ!」
「えぇ……」
「わ、忘れて、ないよ?」
「お、ソウダナ」
「ホントだよ! 忘れてなんかないよ!」
「おっソウダナ」
一向に聞こうとしない穂次をペシペシと弱く叩き否定をする簪。顔は真っ赤であるが、ヘラヘラと笑う穂次を見て、少しだけ顔を綻ばした。
「それで、何だっけ? 俺がスパイって話だっけ?」
「……えぇ……」
言うのかよ。と簪は目の前でパスタを食べる穂次をジト目で見た。もっと、こう、熱い精神攻撃の末にスパイと暴く、という出来事は無いのだろうか。残念ながら無い。
あっけからんとソレを言った穂次は手に持ったフォークを揺らしながら相変わらずヘラヘラとした笑みを浮かべている。
「まあ事実だし」
「もっと、ほら……えっと」
「ちなみにもうクビになってるから」
「えぇ……じゃ、じゃあ、どうして、今日は」
「ヒーローショーが見たかった」
「えぇ……」
それだけの為にアレだけ意味深な発言をしたのか、この男は。いや、まあマトモに誘われた所で自分が行っていたか怪しいかったけれど、そもそも私じゃなくてもよかったんじゃないだろうか。それこそ織斑一夏が居ただろう。クラスには二人の、その……カップリングもあるんだから。
「と、まあここまでが表向きの話」
「表向き……」
「更識さんが一夏を恨んでる、つーか、白式の所為でISの開発が遅れてるのは知ってるから、ちょっとだけテコ入れでもしよーかなーって」
「…………」
「おおぅ、そうやって睨まない睨まない。ケーキは奢りだから」
「そうじゃ、ない」
「おっそうだな」
あっさりと否定を肯定した夏野穂次はヘラヘラと笑いながら頬杖をつく。
一つだけ溜め息を吐き出して、ヘラヘラとした笑いをドコか穏やかな笑みに変化させて言葉を吐き出す。
「あんまり一夏を恨まないでほしい、ってのが目的」
「……」
「まあ、アイツも大変だから更識さんも我慢してくれ……なんて事は言わねーよ」
「言わ、ないんだ」
「そりゃぁ一夏の苦労も更識さんの苦労も別物だからな。ソレを言い出すと俺なんて皆を恨まないといけないしな」
またヘラリと笑みを浮かべて穂次を見て簪は目を細める。集めた彼の情報の中には無い、彼が目の前に居るのだ。
「わ、私も?」
「そりゃぁ、更識さんもスゲーと思うよ。ISのソフト部分の開発をしてるし、何より可愛いしな!」
「……皆に言ってる」
「IS学園の皆が可愛いから仕方ないね」
決して悪びれずにそう言い放った穂次。本心ということは普段の言動を情報として聞いたからよく分かる。
だからこそ、その前に言った私の事をスゴイと言った事も本心なのだろうか。
「お、お姉ちゃん、」
「更識会長だっけ?」
「うん……お姉ちゃんがスゴイから、私も」
「いや、ソレは関係無いっしょ」
「関係、無い?」
「そりゃぁ、更識さんが『私は更識楯無の妹ですドャァ』とか言ってたら関係あるけど、更識さんは言わないじゃん」
「……うん」
「じゃあ、関係無いでしょ。更識さんの努力とか才能は全部更識さんの物で。ソレを更識会長が盗ろうとしてるんだったら倒しちゃえ」
「そ、そんな事できないよ!」
「出来る出来る。案外、『お姉ちゃんなんて大っ嫌い』とか言ったら一発かもよ」
穂次が冗談の様に「妹に嫌われたよー」なんて言っている姿がどうにも姉に重ならず、だからこそ余計に面白く映り、簪は吹き出してしまう。
そんな笑いに対して穂次はヘラリと笑って肩を竦めた。
「で、話を戻すんだけど。更識さんを手伝っていいかな?」
「……でも、私がしないと駄目だから」
「つーか、俺の能力でソフト部分の開発とか手伝いも出来ないから。安心してくれ!」
「安心出来る要素、ない」
「そうだな。でもほら、コレでも元スパイだから他のISの情報とかあるし、何かの足しにはなるぞ」
ソレは非常に魅力的な提案だった。
少しだけ滞っていた開発が進むかもしれない。でも、けど、
「でも、」
「……分かった。仕方ない。俺も本当の目的を言おう」
溜め息が吐き出され、夏野穂次は真面目な顔つきへと変貌する。ドコか冷たさも感じるその表情に簪は思わず萎縮してしまう。
「!? ほ、ホントの、目的……?」
「ああ……可愛い女の子に顎で使われたいんだ」
「…………」
「可愛い女の子に顎で――」
「な、なんでやねん!」
「いいツッコミだ!」
アッサリと真面目な表情は崩された。ヘラヘラと笑いを浮かべてケラケラ笑う穂次に簪は溜め息を吐き出してしまう。
「まあ、ほら。俺は情報提供をする。更識さんは俺を顎で使って、不必要になったらポイすればいいよ。ポイするときはニーソで踏んで貰えればなおいい」
「…………」
「そのジト目もグッドだ」
「はぁ……」
「ま、俺に目をつけられたのが運の尽きだと思えばいいんじゃね?」
「ソウダネ」
ガックシと肩を落として彼を見ればやっぱりヘラヘラと笑っていた。彼の言っていたのを真似するように言葉を出せば、どうしてかオカシクなって笑いが込み上げてきた。
クスクスと二人で笑い合って、変に警戒していた自分が馬鹿みたいになる。
「それ、じゃあ、よろしく」
「任せてくれ、ボス!」
「ボスは、やめて!」
「じゃあなんて呼べばいいんだ……マスター?」
「それはちょっと良いけど、普通に呼べば、いいよ?」
「……更識様!」
「…………」
「おぉぅ、なんか地雷踏んだな。スマナイ……だらしない協力者でスマナイ」
「簪、でいい」
「じゃあ俺も穂次でいいさ。よろしく、簪さん」
「う、うん……よろしく、穂次、君」
「任せな! ボス!」
「ボスはやめて!」
>>現想戦隊ボウケンシャー
赤と青と黄の戦隊モノ。強靭な精神力と卓越した技量を誇る冒険者の組織。
北海道が舞台で、よく分からないけど、なんやかんやで色々巻き込まれてしまう。後々出てくるブラックが大体の原因。
>>ディープワン
半魚人っぽい怪人
半魚人……『クトルー』……無貌、ウッアタマガッ
>>以前放送されていた戦隊モノ
錬金術士と魔法使いモノ。正義が錬金術というちょっとだけニッチな設定。
>>簪ちゃん饒舌になる
簪ちゃんは可愛いなぁ
>>更識様(地雷
姉との比較が真っ先に
>>金髪コンビとのイチャラブがないやん! イチャラブが見たいからこの話を開いたの!
許してください。