欲望にはチュウジツに!   作:猫毛布

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一夏「穂次! 俺が助けるからな!」
穂次「くっ殺せ!」
箒「ま か せ ろ !」
穂次「ぐわぁー!!」

という話。(嘘

戦闘描写は苦手です


黒と極光と紅

「一夏ッ! しっかりしろ!」

 

 一夏はようやっと目の前にいた紅い鎧を纏った箒に気づいた。時間にするならたった数秒の出来事であったけれど、それでも十二分に遅いと言える時間だった。

 箒はハイパーセンサーで捉える想い人がいつもの状態でない事を悟った。手は震え、目の前の事実を否定しているのだろう。

 荒々しいエネルギーの刃と物理刀である《雨月》と《空裂》がかち合い、箒は舌打ちをして目の前にいる馬鹿者を睨む。

 

「夏野ッ……!」

 

 ソレは虚ろな瞳を揺らし、顔に表情の欠片すら無い男。

 常ならば、一言の調子のいい言葉でも吐き出されるだろう。箒の胸部に関して一つや2つ言葉を漏らしてへらへら笑って見せただろう。

 けれどソレを目の前の存在に求めるという事は無理なのだ。体を伝い、頬に走る基盤の様な線。ソレらが十二分に彼の状態を通常から程遠いモノだと理解させた。

 

 箒は刀を引き、相手の体勢を僅かに崩して一閃。真一文字に引かれた斬撃を盾でしっかり塞いだ彼は大きく後ろに下がった。

 

「一夏! しっかりしろ! アイツを助けるのだろう!」

「箒……」

「思い出せ、アイツのISをッ! 今の状態はソレが原因な筈だ! だからッ」

 

 箒は言葉を全て吐ききる前に空へと急速に移動をした。その後ろを追従するように八つの何かが空を舞う。

 一夏は改めて穂次を見た。虚ろな瞳。黄色く明滅する頬の基盤模様。穂次のIS、《村雨》。

 一夏の頭に殴られた様な衝撃が走る。現状を把握した。同時に解決する方法も理解した。

 『戦闘データを得る』と言ったあの女性の言葉が本当だったならば、ソレは一夏と箒のデータではない事を理解した。

 ああ、畜生め。一夏は自身の察しの悪さを呪った。アレが穂次な訳が無い。ならば、アレは何であるのか。

 

「《村雨》かよ……ッ」

 

 答えはない。けれどそうでなければ説明が出来ない。何故そうなったか、どうして暴走しないと言われていた穂次があの状態になったのか、そんな事はわからない。

 けれど、ソレは正しく現実だと理解した。だからこそ一夏は白式を纏い、伸ばした右手で柄を握りしめる。

 極光が柄から溢れ剣を象る。

 その剣に気づいたのか、夏野穂次――村雨はゆらりと織斑一夏へと視線を向けた。

 互いに右手に握りしめた剣を握りしめ、一歩目を踏み込む。急速に二人の距離は縮まり、エネルギー刃同士がぶつかり合った。

 かち合う衝撃により、二人を中心に空気が揺れ、粒子が舞い散る。

 先ほどの箒との鍔迫りよりも素早く村雨は刀を引き、空へと逃げた。

 その判断は当然である。村雨の持つ《鬼の爪》はエネルギー刃で構成された武器であり、そしてそのエネルギーをゼロにするのが《雪片弐型》なのだから。

 その村雨を追うようにして一夏は空へと昇る。

 

「一夏」

「箒」

 

 互いの存在を確認するように名前を呼び、二人は並んだ。

 逃げていた村雨がかなりの距離を置き、停止する。緩やかに左腕を伸ばして八つに分離した盾達を回収した。

 

 一夏には多機能武装腕に備わった荷電粒子砲。そして箒には打突と斬撃をエネルギーとして放出する《雨月》と《空裂》。二人にとってあの距離で停止した村雨は脅威ではない。

 なんせ、攻撃方法が無いのだから。

 けれど、それでも村雨はソコで停止をしたのだ。圧倒的に不利と思える遠距離で。刀の届かない位置で。

 

 村雨は右手に握った柄を霧散させ、象徴とも言える盾へと触れる。

 彼の頬に刻まれた基盤線が強く光り、盾から黒々と粒子が吐き出された。

 盾が割れ、その両端を広げ、弧を描き、粒子が消えてようやくソレが形を表す。

 

「弓……?」

 

 一夏の言葉を肯定するように、弧の両端が黒い粒子線で繋がり、その弦を右手で乱暴に引き絞る。

 弓の備えられた左腕は一夏達の方向を向いている。同時に、一夏と箒……白式と紅椿はアラートをけたたましく鳴らした。

 一夏と箒は息を飲み込み互いに距離を離した。

 それとほぼ同時に黒の矢が空へと疾る(ハシル)

 矢は粒子を軌跡として残し、村雨と一夏達の間で分裂し数を増やす。

 

「ッ」

 

 機体性能にモノを言わせ、箒は複雑に絡みあう矢達を回避していく。林へと身を滑らせて矢達を無駄に終わらせていく。

 対して一夏は大きく距離を開けて多機能武装腕を矢に向けて伸ばし、その機能の一つを開放する。

 彼の腕から溢れ出す白い粒子。展開された粒子群に矢がぶつかり、消えていく。

 雪羅と呼ばれるソレは雪片と同じ性能を発揮し、ソレは白式が白式たる能力だ。零落白夜を用いた防御法。エネルギーの武装を全て無力化するという違反染みた能力。

 けれど、その対価も大きい。

 林へと逃げた箒にはそこそこに、一夏に対し一点集中の矢を放ち続ける。

 エネルギーを無力化、というモノは決して吸収という訳ではない。

 

「エネルギーがッ!」

 

 結果として示されるのはエネルギー切れ。

 ソレを見計らったように、確実に敵を落とすために村雨は矢を止め、一歩を踏み出した。

 宙を踏み、弓を盾へと戻し、柄を握りしめる。引き抜いたソレは正しく刀であった。

 黒い刀身と僅かに漏れ出す粒子。ISですら両断する刀。自身の銘を打たれた刀。

 一夏はソレを見てゾクリと背筋を凍らせる。いいや、刀を見た訳ではない。口角を歪めた彼の顔に背筋を凍らせたのだ。

 戦闘の中であるというのに、彼は嗤っていた。いいや、きっと正確には村雨が嗤っていたのであろう。

 一瞬の恐怖と同時に、一夏はソレを振り払う様に刀を握りしめた。

 

「俺が、俺が助けてやる! 俺が! お前をッ!!」

 

 ソレは友としての宣言であり、

 好敵手(ライバル)である彼が得た力の否定であり、

 相棒を救う為の言葉であった。

 主の感情に呼応するように、なけなしだったエネルギー以上に極光の刃を象る白式。

 

「帰るぞ、穂次ッ! 俺たちの日常に、馬鹿みたいに平和な日常にッ!!」

 

 一夏は吠える。更に極光は強く輝き、その鋭さを増していく。

 斬り下ろされた黒い刀を防ぐ様に斬り上げた白い刀がぶつかり合う。瞬間に黒い粒子が解け、撒き散らされ、形を失う。

 失うと同時に村雨は盾を自身の間に滑り込ませ極光を防ぐ。

 

「うぉぉおおおおおおおおおお!!」

 

 一夏は叫び、更に力を込めていく。主の命令に従う武器はより一層に光を込めていく。

 

 

 

 けれど、無から有は作り出せない。

 ソレを証明するように極光が解ける。白い粒子が霧散し、一夏の顔が苦悩に歪む。

 もう少しだった。盾を破り、彼へと剣を当てればソレで終わった筈だった。

 

 彼の左腕、盾から粒子が吐き出される。強く、強く、強く、強く。

 

「一夏ッ」

 

 箒は一夏へと叫ぶ。逃げろと伝えた。

 一夏が逃げれる程のエネルギーを保っているとは思えなかった。それでも箒は逃げろと意味を込めて叫んだ。

 一夏は動かない。いいや、動けない。

 助けないと。助けないと。助けないと。

 箒の頭の中に言葉と思考がループする。足りない。足りない。

 力が足りない。

 時間が足りない。

 エネルギーが足りない。

 何もかもが足りなかった。

 一夏も、夏野も、助けたい。馬鹿みたいな日常に戻る為に。

 自身の暴力の為ではない。誰かの為に、誰かを救う為の決意を箒は完了した。

 ガチリとソレが嵌め込まれた。歯車が回転し始め、主の問いに、ソレは応えた。

 ただ望む様に。望まれる様に。主の為に。主だけの為に。

 

「一夏! ()()()!」

「――ああ!」

 

 箒の言葉に何かを確信したのか一夏は素直にソレに従った。空で返り地面へと一直線に向かう。

 ソレを逃す村雨ではない。引き抜いた黒刀を構えて空を蹴り飛ばす。

 振りかぶり、一夏へと振るった刀は空を切り裂き、村雨は宙を二度蹴り、ソレから距離を取り正面に捉えた。

 村雨の正面に在ったのは一夏の手を取った箒である。展開装甲が開きエネルギーを溢れさせている紅椿がソコには在った。

 

「箒、コレは?」

「わからん!」

「は?」

 

 ハッキリと自身の力が疑問ばかりであると吐き出した箒は真っ直ぐに村雨を睨んでいる。

 一夏はある意味ぶっ飛んでる幼馴染に溜め息を吐き出して、同じく村雨を睨んだ。

 

「詳しい事はわからない。が、使い方はわかる」

「それで大丈夫なのかよ……」

「問題ない筈だ」

 

 「む」だの「ん?」だのと小さく漏らしながら箒はソレをしっかりと起動した。

 白式に流れ込むエネルギーに一夏は小さく驚きの声を漏らした。すげー、と単純に零す。

 

「行けるな、一夏」

「ああ」

「夏野……穂次を助けるぞ」

「っ、ああ! やってやろうぜ、箒!」

 

 箒が二刀を握りしめ、一夏が改めて極光を握りしめた。

 ソレに対して村雨は黒い粒子刀を握りしめ、嗤う。

 

 一歩目は同時だった。

 

 箒の二刀による連撃を一振りの刀で防ぎきった村雨は左腕を伸ばし盾を弾け飛ばす。八つに分裂した盾達が空を駆ける。

 箒へと攻撃を仕掛けた村雨を狙うのは一夏だった。その極光を村雨へと向けて振りかぶった一夏は舌打ちをしてその軌道を変化させる。その後ろを追うヤツクビ。

 

「一夏ッ」

「大丈夫だ!」

 

 移動のベクトルはそのままに体だけを反転させた一夏は多機能武装腕を後ろへと伸ばした。

 収束する光が弾けた。荷電粒子砲が真っ直ぐと伸び村雨へと向かう。当然の様に防ぐ為に盾達が集まり荷電粒子砲が止められる。

 それこそが狙いだった。

 粒子砲を辿る様に一夏が動き、盾を追い越す。そのまま進めば村雨へと辿り着く。

 村雨はソレを察してか、刀を翻して箒を払い、刀を構え直す。

 

「させるかッ!」

 

 箒が我武者羅に放った蹴りが村雨の柄へとぶつかり刀を弾き飛ばした。

 柄を手放したというのに村雨は嗤っていた。何も持っていない右手を左腕に残った長い棒へと向けて動かす。

 ゾクリと一夏と箒の背筋に悪寒が走る。けれど、それでも、例えそうであっても。

 

「うぉっっぉおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 再度、一夏が吠えて呼応する極光。

 村雨に触れて、バリアが削られ、穂次の顔に刻まれた基盤線がゆっくりとその光を失っていく。

 ブワリと村雨が粒子へと還元されていく。黒い粒子が巻き起こり、その中から穂次が吐き出された。

 

「穂次!」

 

 正面に居た一夏が穂次を抱え、その手を見て眉間を歪めた。青く、黒く歪んだ指。

 

「ぅっ」

「穂次、大丈夫か!?」

「一夏、下に行くぞ!」

「お、おう」

 

 

 

 

 

 

「いやー、ご苦労様。良いデータが取れたよー」

「……」

「むっふっふ、そんなに睨まないでよー。お姉さん怖いなー」

「穂次は俺たちが連れて帰ります」

「うんうん、そういう約束だったもんね。こっちも約束は守るよー? 政府との繋がりは彼から切った」

「……」

「あ、信じられてないなー。ま、いいけどねー。それにしても、どうして彼に入れ込んでるのかなー?

 

 

 

 

 ISにパーツと認められる程に自意識が希薄な彼なのに」




>>変形盾、弓型
 武装名は無い。
 エネルギーを収束した矢を放つマルチロックオン兵器。偏向射撃という訳ではない。
 ロマン武器。武装がガチョンガチョン鳴って変形するとか、合体とか。

>>ISにパーツと認められる程に自意識が希薄な彼
 彼がISに乗れる理由。村雨を正しく運用出来るのも彼がパーツであるから。プリン伯爵もびっくり。
 詳しい設定で言えば、ISコアからの微弱な信号を受容出来る。この信号も電気信号という訳でもなく、多少オカルト染みたモノになる。
表向き、ISの処理的には
新しいパーツを承認→起動
 という感じなので他から見たらISを動かせている様に見える。動かせてはいる。原理を調べれば調べる程常識からは外れているのは確か。
 天災をもってして「頭がイカれた奴」と言われたのはそういう事。

>>ん? で、結局どういう事?
 夏野穂次はISを動かせる(確信。
 詳しい事、というよりは彼の現状に関しては次辺りでみんなに喋る予定

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