あと、難産だったので、展開としてはベターでも文章的にはクソです。すいません。
「お待ちしておりました、篠ノ之箒、織斑一夏」
IS学園の校門で控えていたのは一人の女と車であった。髪を纏め上げた女の顔は真剣な表情で塗り固められ、元々なのか随分と目付きが鋭い、というのが一夏と箒の第一印象であった。同時にそれは少しばかりの疑念を含んだモノにもなる。
女はソレを察してか、息を一つ吐き出して口を開く。
「私は織斑千冬に頼まれてあなた方を送りに来ただけです」
「千冬姉が……?」
「ええ。セカンド――いえ、夏野穂次を救出に行くのでしょう? そのフォロー……という程ではありませんが、手助けを頼まれたので」
箒と一夏が顔を合わせて秘匿通信で会話を交わす。確かに篠ノ之束からは場所とアポイントメントは取ったと連絡があった。同時にソレが一夏と箒、二人だけのモノである事も連絡を受けている。
場所はわかれど、そこまでISで移動する訳にもいかず、更には結構な距離がある。途方に暮れていた訳ではないが、女の言葉は二人にとって渡りに船ではあった。
更に言えば、「織斑千冬」の名前が出てきた事によって二人の警戒心はある程度下がっていた。
「私は構いませんが、アナタ方……いいえ、セカンドには時間がないのでは?」
「ッ……」
「一夏、行こう」
「……ああ」
「よくぞ決断してくれました。さあ、乗ってください」
女はその鋭い瞳を幾らか下げて微笑み、後部座席を開く。一夏と箒は促される様に車に乗り込み、そして後部座席は閉じられた。
運転席へと乗った女は口を閉じて車を走らせる。
既にIS学園も見えなくなって少ししてから女はバックミラーに映る二人を確認して、口を開く。
「お前らは馬鹿だな」
吐き出された言葉は先程までの丁寧な口調ではなく、随分と荒っぽいモノで、一夏と箒を驚かせるのには十分な口調であった。
驚いた二人を見て、舌打ちを一つ漏らした女は説明するように口を開く。
「織斑千冬の名前を出したからと言って簡単に車に乗ってくれるな。あと状況理解が遅い。織斑千冬は何をやってんだか」
「……アンタは?」
「……私は政府の人間だ」
「ッ」
「おっと、まあ落ち着けよ。今は味方だ。こうしてタネまで証してお前らの信用を取ってんだ」
ハッ、と鼻で笑う様に吐き出した息が一夏と箒の鼓膜を揺らした。腰を浮かし、ある種の戦闘態勢へと意識を持ってきた二人を確認して女は舌打ちをまた零した。
「ま、信用しろってのは無理だろうが、あのクズを助けたいんだろう? 私に案内されろ。私に許されているのはそこまでだしな」
「……クズ?」
「ん? ああ、セカンドだよ。クズみたいなもんだからな。お前らは知らないだろうから教えておいてやろう、アレはお前らのデータを政府に売り渡している奴だぞ」
「ッ、嘘だ!」
女の言葉に否定をしたのは一夏であった。当然、箒とて女の発言に眉間を寄せ否定の意思を見せている。そんな二人を見て、女は口を歪めて鼻で笑ってみせる。
「本当だよ。お前らがアレの前で見せた事は全部政府に渡っている」
「……証拠、証拠はあるのかよ」
「証拠なんざある訳がねぇだろ。それこそ織斑千冬を前にしてソレをやってのける男だ」
一夏と箒の背筋に何かが走る。あの千冬を前に隠し事などできるのだろうか。ソレも彼女の家族である一夏のデータを売る事など千冬は是としない筈だ。
証拠はない。けれどその証拠がない事こと夏野穂次を疑うに足る事実となってしまう。
「さて、選択肢だ。お前らには選択肢がある。このまま予定通りに裏切り者を助けるか、それとも私とドライブを楽しんで帰るか。私としては後者をオススメするね」
バックミラーで確認した二人の顔を見て、女は口角を上げる。二人の表情は確固たる意思があった。例え友と呼んでいる存在が裏切り者と言われようと、二人にしてみればその言葉に憤怒しようが彼を恨むという要因には成り得ない。
なんせ、アイツはそんな事を器用にできる人間ではないのだ。
「ハッ……まあ私はどっちでもいいさ。お前らがアイツを助けようが、助けられまいが」
「そういや、アンタは政府の人間なんだよな?」
「年上に敬語なしとはいい度胸じゃねぇか、ファースト。まあ気にしないけどな。それで、政府の人間たる私に何の質問だ?」
「政府が連れ去った穂次をどうしてアンタが助けようとしているんだ?」
「実はアイツに恋をしているんだ」
「は?」
「なんて冗談だよ。クズに恋なんざする訳もねぇ……。
まあ政府も一枚岩じゃねぇって事だ。今回だって偶々、織斑千冬とかの天災様が企てた計画に乗っかってるだけだ。だから私はお前らを送る程度しか手を出せない」
舌打ちを一つしてから女は運転に集中するように速度を上げた。
結局の所、夏野穂次が裏切っている、データを政府へと渡しているという情報の正誤は不明のままだ。アレが器用な人間ではない、という事は重々に理解している二人からすれば、女が言った嘘、という事にもなるのだが、嘘を吐き出して得をする訳もない。
いいや、二人の把握を超えた先に得があるのかもしれないが、それこそ二人にしてみれば考える意味など出てこないし、考え得ない事だ。
思考的に真っ直ぐである二人は『裏切り者』である夏野穂次より『友人』である夏野穂次を救助する思考に切り替わった。
問題である『裏切り者』どうのこうのなど、アイツを突けばボロボロと出てきそう、というある意味の信頼が二人にはあった。セシリアやシャルロットに突いて貰えればアッサリと吐き出しそう、という一夏の思考はスグに何処かへと放り投げられた。
「着いたぞ」
かなりの時間車に揺られていた二人に声を掛けたのは女であった。未だに移動を続ける車の前には一つの建物がある。周りを見渡せば木々の生い茂る森である。
鬱蒼とした森の一角に建てられた近年にしてみれば背の低い建物。何処か場違いであるにも関わらずに、随分と自然とそこに在る。
「私はここまでだ。何、帰りも送ってやるから安心しろ」
車を止めて女はそう口から吐き出した。至極面倒そうではあったけれど、一夏達は女の行動にある程度の信用を置いていた。少なくとも、現時点では。
「ありがとうございました」
「ハッ……ファースト。そういうのはセカンドを助けてから言ってくれ。その為にコッチは身を削って根回しをしたんだ」
一夏と箒はソレに答えずに車から降りた。
ふぅ、と同時に二人は息を吐き出して、目の前の建物を見上げて、ガラス製の扉へと視線を向ける。
「やぁ、ようこそ。篠ノ之箒。そして織斑一夏」
ニッコリと笑みを浮かべた女性がソコにはいた。ダボついた服を白衣で隠した女性はメガネの奥に少し垂れた瞳おき、その瞳をより一層蕩けさせながら一夏と箒に近づく。箒は何かを察した……というよりは身内にそんな人間がいるからこそ一夏の背へと流れる様に隠れた。
対して一夏は隠れた箒に慌て、ペタペタと来客用であろうスリッパを鳴らした白衣の女性に寄られ、頭の先から足の先までを見られ、むっふっふ、と笑われる。
あ、これは束さんと同じ属性の人だな。
一夏は納得した。所謂天才肌の存在である事を理解した一夏は溜め息を吐き出して、とりあえず両手を上げた。
「あー、えっと」
「ん~、なるほどねぇ、なるほど」
「すいません」
「むむむ、腹筋はどうなってるんだろ?」
「おい」
「ほぁっ!? 何奴!?」
「アンタがさっき言ってた織斑一夏だよ」
「ああ、なるほど……いやー、ゴメンネー。ISを現行で動かしている人間を見るとどうしても調べたくなっちゃって、テヘッ」
頭を手に置いて笑顔を浮かべた女性は一夏が溜め息を吐き出した所で「さて」と言葉を漏らす。
「それで、君達は何をしに来たのかな?」
「……穂次に会わせてくれ」
「それで、彼をここから救い出すつもりかな?」
白衣の女性はニンマリと口を歪めて一夏の顔を見る。一夏は思わず息を飲み込んだ。女性に見つめられたからではなく、図星を突かれたからだ。
女性は悪意のある笑みを穏やかなソレに変換させてむっふっふ、と声を漏らした。
「まあ君らの目的はわかってたから別に驚かなくてもいいよ。こうやって聞いたのは、ほら、名分が必要って事」
「名分?」
「そう。これでも政府に繋がってる企業だからねー。好き勝手に彼との繋がりが切れちゃうと拙いんだよー。どーでもイイけどね」
「は、はぁ……」
「一夏。この人の話は話半分で問題ないだろ」
「なんでだよ」
「経験談だ」
「あ……」
一夏は頭の中で一人で不思議の国を体現する天災と目の前でヘラヘラ笑っている女性を重ねる。僅かに女性の方が人間味があるような気もするが、比べようはないだろう。
「さて、君らの目的はわかったけれど、コチラの大義名分の為に試験を受けてもらう」
「試験?」
「いえーす。とっても簡単な試験だよー。ソレに合格すれば、君らは彼を連れて帰って、彼は晴れて政府との繋がりが切れる」
「合格しなかったら?」
「今のままだと廃人一直線かなー」
「廃じッ、穂次に何かあったんですか?」
「別に彼にとっては特別な事はないよ。拷問されて両手の指がボロボロだけどねー」
「ッ」
「あ、もしかして怒ったかな? むっふっふ、怒り顔も素敵だねー。でもでも、ワタシに恨みをぶつけるのは変な話だよー。コッチに連れてきた段階で彼は拷問の後だったんだからね」
飄々とソレを語る女性はニンマリと笑みを深めて一夏と箒の顔を観察する。
拷問と聞いて、具体的なソレを聞いて二人は眉間を顰め、そして怒りを表に出した。その様子も可笑しい様に更に笑みを一層深める。
「……それで、試験というのは?」
「んー、戦闘データが欲しいから適当に戦って貰おうかな。彼が送ってきたデータだけだと不十分だからねー」
「……夏野はやはり政府にデータを売ってたんですか?」
「んー? あー、そうだね。彼は政府関係にデータを売っていたよー。まあ詳しい事は彼から聞きなよ。誤魔化す様な事じゃないし。何より
「意味が?」
「おっと、ちょっと喋り過ぎちゃったかな? むっふっふ、詳しい事は全部終わってから彼に聞けばいいよ。さ、じゃあ移動しようかー」
くるりと白衣を翻してペタペタとスリッパを鳴らして女性は移動する。その後姿を少しだけ見て、一夏と箒は気持ちを固める様に息を飲み込んで足を進めた。
『あーあー、てすてすー。 聞こえるかなー?』
林の中、ISの研究用に場所を開けているのか、アリーナと同じ様にバリアの発生装置が備えられている。
そんな中、オープン回線で先ほどの女性の声が響く。一夏と箒はISを纏う事もせずに顔を合わせる。
『うんうん、聞こえてるねー』
「それで、戦闘データって、俺と箒が戦えばいいのか?」
『ん? ああ! なるほどー。君たち同士では戦わなくていいよ。コッチで相手を出すからさ』
むっふっふ、と聞こえた笑いの後、地面が開き、相手が現れる。
黒い装甲に黄色いラインを走らせ、左腕には盾を装着した特徴の在るIS。
一夏と箒は息を飲み込んだ。なんせ、彼こそが目的なのだから。
「穂……つぎ」
「夏野……」
震える声で当人に問いかけた二人。けれども彼はソレに反応することはなく、ゆっくりと顔を上げた。
頬に走る何かの基盤の様な模様。黄色い模様が脈動するように、明滅する。
上がった瞼に隠されていた瞳は虚ろで、目の前に二人がいるというのに、一切の表情を浮かべていない。
『さ、じゃあ戦ってもらおうかー』
「ッ待ってくれ! なんで、穂次が!?」
『んー? 何を当然の事を言ってるのかなー?
まあ別に応える意味は無いよね? 君たちは選択肢が無い訳だし、コッチは戦闘データが欲しい。ほら、利害は一致してる』
じゃあ、頑張ってね。
と一言を残して、バツリと通信が切られた。一夏は狼狽し、目の前にいる穂次に再度声を掛ける。
「おい! 穂次!」
「…………」
けれど穂次は何も答えない。ただ虚ろな瞳を揺らして前だけを見つめる。
主を肯定する武器は盾へと右手を伸ばし、現れた柄を握りしめ、一息に引き抜く。
引き抜いた端から荒く吐き出される黒い粒子。多大なエネルギーを収縮すらさせないソレを強く握りしめた。
>>鋭い目つきの女性
以前出てきた政府の女の人。
>>白衣のタレ目女性
村雨の公的な親。
出てくるかわからない設定としては篠ノ之束に天才と貶される程度の人間。思考はぶっ飛んでる。
>>ん? ココの言い回しオカシクない?
たぶん勘違い回だと思います。なので、言い回しなどはオカシク見えても正しい……と思います。まあ誤字脱字の類はアレですが……。