遅れて申し訳ございません。
「なあ穂次。夏祭りに行かないか?」
食堂で夕食も食べ終わり、ノンビリとお茶を啜りながら変哲の欠片も、魅力なんて一切無い極々普通で素敵な日常会話の中、織斑一夏は夏野穂次にそう言った。
「夏祭り?」
「ああ。地元であるんだよ。帰るついでに一緒に行かないか?」
「そういうのは鈴音さんとか篠ノ之さんとか、ボーデヴィッヒさんとかに薦めればいいだろ……あ(察し」
「いいか、お前の口からホから始まってモで終わる言葉を言ってみろ。ぶん殴るからな」
「ホ、ほ、ほ……何かいい言葉とかあるか?」
「本ししゃも、とかか」
「ほ、ほんししゃも?」
「本ししゃも。あー……ほら、本マグロとか言うだろ? そういう繋がりだ」
「なるほど……つーか、なんでお前は本ししゃもとか知ってるんだよ」
「昔、千冬姉の
「一夏はいい嫁になるな……」
「お前さ、俺の事をホモホモ言ってるけど、お前の発言も大概だと思うぞ」
「フッ、気付いたか……」
「なっ……まさかお前……!」
「そう! 俺はお前を狙う(意味深)刺客だったのだッ!!」
「じゃあな、夏野君。俺たちの交友もココまでだ」
「冗談だぜ、一夏。俺は女の子、そう、おっぱいが大好きなんだゼッ!!」
「知ってた」
「知られていた……だとっ!?」
「ふっ……俺はお前のことならなんだって知ってるんだぜ!!」
「じゃあな、織斑君。俺たちの交際はココまでだ」
「冗談だよ、穂次」
お互いに笑い合い、お茶を啜ってから会話を再開する。
「それで、俺じゃなくて鈴音さんとかボーデヴィッヒさん、篠ノ之さんを誘えばいいだろ」
「鈴は予定があるらしいし、ラウラは軍関係でいない。箒は誘っても意味がないだろ」
「……え? 何、お前って篠ノ之さんの事嫌いなのか?」
「どうしてそういう話に――……あー、スマン。夏祭りをする場所が篠ノ之神社なんだ」
「だから篠ノ之さんを誘っても意味が無いと」
「ああ、手伝いに呼び出されてるらしい」
「らしい、って事は篠ノ之さん本人に聞いたわけじゃないのな」
「ああ。雪子さん。箒の叔母さんが『箒が演舞をするから是非見に来ないか』ってさ」
「…………篠ノ之さんが可哀想になってきたな」
「なんでだよ」
「コッチの話だ。それで一応聞いておくんだが、巫女さんは存在しているんですかね?」
「ソレって重要な事なのか?」
「お前……。巫女さんと言えば看護師さんと同じ、いいや、それよりももっと希少価値を含んだ存在なんだぞ!? 巫女さんだぞ! 巫女さん!」
「うーん。箒が売り子として出てるんだったら巫女服を着てるのかな」
「俺は今夏祭りに行くと決めたぞ、一夏。俺は絶対行く。カメラの準備しなきゃ……!」
「おう。箒がマジで怒るからやめろ」
「安心しろ。俺は盗撮のプロだぜ!!」
「警察か、千冬姉か。どっちがいい?」
「前者がいい、と思える不思議……。まあ冗談はさておき、一緒に行くぞ」
「……カメラは禁止だぞ」
「おいおい。俺だってソコまで落ちぶれちゃいねぇよ」
「本心は?」
「ククク、俺のISには録画機能があってだな」
「ホントに付けたのかよ……」
「村雨に
「この流れだと聞きたくねぇよ」
「いけずー! もっと俺のことを知っても、いいんだぜ?」
「はいはい。ドヤ顔してもノらねぇぞ」
「ぐぬぬ……」
「あとはセシリア達も誘ってみるか」
「あんまり大人数だと移動とか面倒じゃないか?」
「大人数って言っても俺たち含めて四人だから大丈夫だろ」
「セシリアさんとシャルロットさんはしっかりしてるから問題ないな」
「一番の問題が何を言ってるんだ」
「ハッハッハッ。安心しろ。迷子センターの場所は一番最初に確認するぜ!」
「お前……変態って意味で言ったのに、方向音痴まで追加するのかよ」
「俺は悪くないんだ。目的地が急にドコかに行くんだ。俺は悪くない」
「場所は動かないと思うぞ」
「それな」
「まあいいか。んじゃ、俺は二人を誘ってくるから」
「ご苦労。俺には仕事がある。ククク、健闘を祈るぞ、織斑一夏」
「はいはい。千冬姉の手伝いだろ。早く行かないと怒られるぞ」
「ひっ……イッテキマス」
穂次は時計を見て、顔を真っ青にしてから慌てたように席を立ち、決して走らずに早足で移動した。その姿を見て一夏は苦笑を浮かべて席を立つ。
食堂を出て廊下を歩いていれば都合のイイ事にシャルロット・デュノアが歩いており、一夏の存在に気が付いた。
「やあ、一夏。こんばんは」
「こんばんは、シャルロット」
「ところで穂次を知らない? 部屋に行っても居なかったんだけど」
「穂次なら千冬姉の手伝いに行ったよ」
「この時間なら……なるほど、ありがとう」
「何か用事でもあったのか?」
「えっ!? いや、一夏には関係ないよ! 大丈夫ダヨ!」
「お、おう、どうして慌ててるのかはわからないけどわかった」
慌てふためきながら両手を前にして何も無い事を示したシャルロット。言い方がかなり問題なのだけれど、実際、実在している一夏には関係の無い話だ。求めていた本にもちゃんと『実在の人物にいは関係が無い』と記載されている訳であるし。
架空の織斑一夏と架空の夏野穂次がイチャつく本の存在をしらない実在する一夏は首を傾げて疑問を感じる。けれども聞かれたくない事を聞くような性格でもない一夏はその疑問を放り捨て、自身の用件を伝える。
「そういえばシャルロット。夏祭りに行かないか?」
「……そういうのは箒とか鈴とか、ラウラを誘ってあげればいいんじゃないかな?」
「鈴は予定が入ってるらしいし、ラウラは軍関係でいない。箒は――行く神社が篠ノ之神社だからな」
「なるほど」
「と、いうか。シャルロットも三人を誘ったかどうかを聞くんだな」
「まあ、それは……ん? 僕もって?」
「穂次を誘ったら同じ事言われたんだよ」
「あぁ、なるほどね」
「……もしかして俺ってその三人に何か仕出かしてるのか?」
「うーん、むしろ何もしてないから問題なんだけど」
「なるほど、さっぱり分からん」
困ったような顔をして、自分の言葉に頷く一夏にシャルロットは苦笑を浮かべて「まあ一夏だしね」と呟いた。
片思いというのは実に一方的で、そして他者から見れば面倒である。さっさとくっ付けばいいのだ。とはシャルロットは口が裂けても言えないのである。なんせ彼女も片思いの真っ最中であり、意中の人物はやはりサッパリ気付いてくれないのだ。なんとも、片思いとは面倒である。
「それで、夏祭りはどうする?」
「うーん、誘いは嬉しいけど――」
「そうか。まあ俺と穂次で行くか」
「――予定があるけどスグに終らせるよ。行く」
「お、おう……無理には来なくても」
「行く」
「アッハイ」
ニコリと笑っている筈なのに、どういう訳か一夏はシャルロットが怖くなった。思わず一歩引き下がった一夏などお構い無しにシャルロットはニコリと笑って「こうしてはいられない」と言わんばかりに踵を返した。
果たして彼女の向かう場所はドコなのか。少なくともバラの咲き誇る場所ではない事を願おう。
シャルロットの背中を見送った一夏は少しだけ頬を掻いて小さく息を吐き出した。「穂次も大変だな」と一つだけ呟いて足を進める。
この場に穂次が居たのならば「一夏にだけは言われたくねーよ」と言っていた事だろう。ドングリの背はどちらが高いのだろうか。そんな事はどうでもイイ事なのである。
足を進めて一つの扉の前に到着する。部屋の番号を確認してからノックを三つ。
扉を開けたのは金色の髪を揺らしたセシリア・オルコットである。
「あら? 一夏さん。ごきげんよう」
「ゴキゲンヨウ。こんばんは」
「どうかしましたの? 通信でない、ということは急ぎの連絡でもない様ですし」
「夏祭りに誘いに来たんだよ」
「……そういうのは――」
「鈴音は予定が入ってて、ラウラは軍関係でいない。篠ノ之神社での祭りだから箒は誘ってない」
「そうでしたの。それにしても察しがいいですわね」
「俺だって二人に言われてたら流石に気付くから」
「二人、といいますと穂次さんとシャルロットさんですわね」
「ああ。それで、どうする?」
「そうですわね……申し訳ありませんが――」
「そうか。じゃあ俺と穂次とシャルロットで行くか」
「――以前から日本の夏祭りに興味がありましたの。行かせていただきますわ」
「別に無理に来なくても」
「行く、と言いましたわよ?」
「アッハイ」
やけに威圧感のある笑顔で「御機嫌よう」と一言。閉じられた扉の前で一夏は溜め息を吐き出して指で頬を掻いた。
「穂次も大変だなぁ……」
この場に穂次が居たならば「お前には言われたくねーよ」と言っていただろう。五十歩逃げた者と百歩逃げた者、果たしてどちらが臆病者なのか。そんな事はどうでもいいのだ。
かくも片思いというのは面倒である。
◆◆
幾らか電車を乗り継ぎ、ようやく俺は一夏の地元へと到着した。
そう、ようやくである。いいや、決して電車の乗車時間が長かっただとか、乗り継ぎが多かったとか、そういう事は無かった。
「ココが集合場所?」
「そうらしいですわ。時間は……少し早く着いたみたいですわね」
「そっか。じゃあドコかで時間でも潰そうか」
「そうですわね。あら? 穂次さんどうかしましたの?」
「……スイマセン。心の準備が出来てなかったのでちょっと休ませてクダサイ」
セシリアさんとシャルロットさんが俺を挟むようにしているのだ。いいや、嬉しい。確かに美少女が隣にいる事は嬉しいんだ。でも、荷物持ちっていう大義名分も無くこの美少女二人の隣にいるってのはスゲー辛い。何が辛いって周りからの視線が辛い。
美少女二人に挟まれる形でいるイケメンでもない俺。心にダイレクトアタックだッ!的な。
ともかくとして『荷物持ち』という鉄壁の盾を失った俺は周りからの視線に串刺しにされた。心の言い訳はやっぱり必要である。
「酔ったの?」
「ハハハ、俺は常に君の瞳に酔ってるのさシェリー」
「――ッ、そ、そっかー、フフフ」
「穂次さん、殴りますわよ?」
「ハハハ、やめてくれハニー。俺が傷つくことよりも君の綺麗な手が傷つくことの方が俺には重要なのだよ」
「――ッ、そ、そうですか。フフフ」
「ハハハ……ちょれー」
どうして頬を赤らめてるんですかね? こんな気障ったらしい言葉で頬を赤らめるとお兄さん君達の将来が不安で仕方ない。悪い男に捕まらないかスッゲー不安。いや、ソレを言い始めると俺に関わってる時点で不安は当たってるのだろうか。
いや、どうでもいいか。とりあえずコチラに近付いてきたヤツに文句を言ってやろう。
「悪い。待たせたか?」
「ハハハ。会いたかったぜ、ダーリン。ぶち殺してやろうか?」
「ハハハ。返り討ちにしてやるよ。あとダーリン言うな」
「つーか、二人が来るなんて聞いてないんですけどー」
「誘うって事は言ってただろ?」
「誘った後に報告ぐらいは欲しかったって話だよ、バカヤロウ」
「そんなにわたくし達と一緒は嫌でしたの?」
「ハハハ。照れ隠しってヤツさハニー。チョロい君の事はとても好きだよ」
「騙されませんわよ」
「チョロくないセシリアさんは怖いぜ……」
両腕を上げて、力無く手は下げてみせる。どうにかイケメンな一夏が来てくれたので俺に向かっていた視線が一夏へと向いた。一夏は視線なんて気にした様子もない。果たしてコイツは慣れているのか、それともただ鈍感なだけなのか。後者だな。絶対そうに決まってる。
「おい、穂次。変なこと考えただろ」
「ナニ? やっぱり俺の頭の上って吹き出しか何か出てるの?」
「なんとなく分かる」
「……やっぱり俺たちは以心伝心なんだな。愛してるぜ、ダーリン」
「その愛は一方通行だよ、ハニー」
「やっぱり一夏と穂次はそういう関係だったんだね!!」
「シャルロットさんはちょーっと黙っておきましょーね」
「不潔ですわ」
「セシリア、勘違いだから。違うから」
どん引きしているセシリアさんは一夏に任せて、俺はシャルロットさんを黙らせておこう。本を貸さないとでも言えばきっと黙るだろう。改善しているか、という事はドコか遠くへと放り出そう。
昼時も程ほどに過ぎ、俺たちは篠ノ之神社の境内に居た。
沢山の人に囲まれて、神楽を舞った一人の巫女に少なくとも俺は目を見開いていた。
「はへー。スゲーっすね」
「そうだろ?」
「やっぱりおっぱいだな! ッタイ! 二人同時に足を思いっきり踏むってどうなんですかね!?」
「少しは考えたらどうかな?」
「セクハラ男にはいい薬ですわ」
「一体何が悪かったんだ……俺にとって最大の賛辞だったのに……」
「いや、本気で悩むなよ……」
「なるほど、わかったゾ!! お尻も最高でしッダ!」
腹部に二つの肘がぶつかった。痛い。スゲー痛い。フンッと二つの声が聞こえて、俺は助けを求める様に一夏に手を伸ばした。一夏はソレを一瞥して首を横に振った。この世界に救いはないんですかッ!
「さて、箒に会いに行くか」
「そうだな。俺の最大の賛辞を――」
「痛みが足りないかな?」
「送るのはヤメマス」
「いい判断ですわね」
「二人が怖いんですが……一夏センセー、どうしてなんですか……」
「お前がヘタレだからだろ」
「なんだ、その心にクる理由……俺はヘタレだなんてッ」
「ヘタレですわね」
「ヘタレじゃないか」
「……この世界に救いなんてないんだなって」
「売り子をしてるだろうから、ソッチに行くぞー」
「ほら、穂次行くよ」
「行きますわよ、穂次さん」
「ハイ……ヘタレ、行きますッ!」
「お前って前向きだな……」
「笑いは大切だろ? なんせ俺は喜劇の主人公だからなッ!」
「お前が主人公の劇って……一般放送は無理だな!」
「青少年の皆! お兄さんが君たちの救いになってやろう!」
「ダメなヤツだろ、ソレ」
喜劇な主人公である俺はお供に
はてさて、売り場にはかなりぎこちない笑顔を浮かべた篠ノ之さんが巫女服を着て売り子をしていた。
まあ笑顔が苦手な篠ノ之さんだから仕方ないね。
「よっ」
「なっ、い、一夏ッ!?」
「俺らも居るんですけどー」
「な、夏野にセシリア、シャルロットまで……!! 夏野ッ! お前だな!?」
「ちょっと待った! 俺は今回何もしてねーから!! 確かに巫女服見たいって言ったけど俺が言いだしっぺじゃねーから!!」
「嘘を吐くな!」
「コレでも俺は自分に正直に生きてるから嘘は吐いた事ないんだゾ☆」
「それこそ嘘ですわね」
スゲージト目で俺を睨むセシリアさんとシャルロットさん。本当なんだけどなぁ……まあいいか。
ともあれ、明らかに慌てふためいている篠ノ之さんを眺めながら迷う。
「それにしても、神楽舞、様になってて驚いた。なんというか……キレイだった」
「――っ」
「スゲー、人間ってこんな感じで固まるんだな」
「夢だっ!」
「は?」
「いやいや、篠ノ之さん落ち着くんだ」
「な、夏野。コレは夢だろ? 夢に違いない!」
「じゃあ俺がおっぱいを揉んでも問題は無いな!!」
「ああ!」
「よっしゃぁ!!」
「穂次さん?」
「穂次?」
「腕が折れる! 俺の腕はソッチには曲りませんよッ!!」
「曲りますわ」
「曲げるからね」
「アダダダダダダダ!!」
「まあまあ、随分と賑やかだけれど……あら?」
売り場の奥から出てきた妙齢の女性。その女性が篠ノ之さんと一夏、そして俺とセシリアさん、シャルロットさんを順繰りに見る。
「ああ」
ぽん、と手を打ち得心した女性は優しげに微笑んだ。
「箒ちゃん。あとは私がやるから、夏祭りに行ってらっしゃいな」
「なっ!?」
恐らくこの女性が件の『ユキコ叔母さん』なのだろう。そう考えてみれば、先ほどの「ああ」と手を打ったことや、優しく微笑んだ事が随分と黒く見えてしまった。全てはユキコさんの手の平の上で動いているのだろう。いいや、そういう事はなるべく気付かない振りをしておこう。深淵を覗くとき深淵もコチラを覗いているらしいのだから。
ともあれ、ユキコさん(仮定)と篠ノ之さんの軽い漫才を見てからユキコさん(暫定)が改めてコチラを見てニコリと微笑む。
「そちらのお嬢さん方もせっかくの夏祭りですし、浴衣でもどうかしら?」
「え、いいんですか?」
「ええ。せっかくの夏祭りですもの。彼氏の為におしゃれするのも彼女の務めよ」
「か、彼氏……」
「彼女……」
「フッ、じゃあ俺も一夏の為にオメカシするかな」
「お前さ、馬鹿なの?」
「馬鹿ダヨ!」
「知ってる」
「じゃあ聞くなよ」
それもそうだ、と漏らした一夏と一緒に母屋へと向かったセシリアさんとシャルロットさん、そして篠ノ之さんを見送る。「待っているのも彼氏の務めよ(はーと」なんて言われたから、という訳でもないけれど放置する気も起きない。
が、けれども時間は少しばかり掛かるだろう。
「どうするよ?」
「そうだな……じゃあ参拝でもしてくるか」
「参拝の作法とか覚えてねーぞ……」
「むしろお前が覚えてるとは思ってねぇよ」
「一夏、失礼って言葉知ってるか?」
「穂次じゃないし知ってるに決まってるだろ」
「よし! じゃあ問題ないな!」
「……自分で言うのもアレだけど、問題しかないな」
「ソレな」
二人でケラケラ笑いながら賽銭箱の前へと立つ。幸いな事にそれなりに人は疎らでスンナリと前に立つ事が出来た。
ガランガランと鈴を鳴らし、財布に入っていた小銭をテキトーに賽銭箱へと入れて、手を合わせる。
「穂次、何を願ったんだ?」
「んー、願いよりも、日頃の感謝ぐらいかなー」
「……お前、本当に穂次か?」
「なんだよ。コレでも阿修羅様を信仰してるんだぞ」
「それって千冬姉って言わないよな」
「…………ああ!」
「スゲー間が開いてたけど、気にしないぞ。俺は気にしない」
「まあ冗談はさておき。俺の願いは俺が達成すべき目標だからな。神様は頼らないことにしてるんだよ」
「おお。穂次の癖にカッコイイな」
「ふふん。穂次の癖に、は余計だ」
「それで、その目標とやらは?」
「聞きたいかね、一夏君」
「是非聞かせてくれ、穂次君」
「俺の願いはただ一つ、そう世界平和である!!」
「あ、ふーん」
「急に興味失くすのやめてもらっていいッスかね?」
「お前が世界平和とかないから。むしろ世界征服とか言ってるほうが納得する」
「ククク、甘いな一夏ッ! 俺は世界を総て、そして平和にするのだッ!」
「その正義の味方にやられそうな悪のトップみたいな発言やめとけって」
「俺が敗れても第二、第三、とんで百ぐらいまでの俺がッ!」
「怖いわ!」
「冗談だよ」
へらへらと笑って空を見上げる。日が落ちて夕焼けに染まる空。かれこれ無駄話をして一時間ほど経過しようとしている。
夏祭りの喧騒も増えて、同時に人が増えている事を意味する。
鳥居の下というなるべく分かりやすい位置にいるがコレで三人が気付くか、という話になれば話は別だろう。
「んー、ちょっと探してくるかな」
「俺も行くぞ?」
「いや、一夏はソコで待っててくれよ。ちょっとしたら戻ってくる。そう、俺が迷わない程度になッ!!」
「スゲェ不安になる発言だな……」
大丈夫だ。問題ない。本当に迷った時は俺は恥ずかしさなんてなく迷子センターに駆け込むつもりだ。
人ごみに紛れてテキトーに歩く。幸い見つけようとしている頭は金色二つと黒いポニテ一つなので見つけやすいだろう。
屋台を見渡しながら人ごみを抜けてしまう。果たして三人はさっぱりいないのである。どうしたモノか。これ以上離れてしまうと、俺は本当に迷子センターに行くかもしれない。
「あら? アナタ、迷子かしら?」
振り向いた先は雑木林。提灯や夕焼けの明かりに照らされない影の中。僅かに差し込んだ光を反射する淡い金色の髪に赤い瞳、そして素晴らしい体をした美女が俺に声を掛けた。
クスクスと笑いを浮かべた美女にいつもの様にヘラリと笑う。
「そうなんスよ。もしかしてお姉さんもですか?」
「そうね。実はアナタを待っていたの」
「……美女に待たれてるなんて、光栄ッスけど」
「あら、美女だなんて。口が上手いのね。セカンド」
「……誰ッスか? アンタ」
「そうね、
「……その亡霊さんが俺に何の用ッスかね? お盆だからって俺の前に出てくるような美人な幽霊さんは覚えがないッスよ」
「アナタ、織斑一夏に勝ちたくはないかしら?」
「…………別に、興味ないッスね」
「あら、本当に?」
「何が言いたいんですかね……」
「コレは勧誘よ。セカンド――、いいえ、『
美女の口から出てきた言葉に思わず目を細めてしまう。何度も聞いた名前であり、同時にもう聞くことのない名前だ。
溜め息を吐き出してから言葉を選んで繋いでいく。
「……残念ながら、その名前の少年はもう居ないッスよ」
「そうかしら? まあアナタがそう言うのだから、そうなのね」
「それで、勧誘って言ってましたけど」
「ええ。でも今日は顔合わせだけにしておくわ」
「……もうお盆も終わるから出てこなくてもいいッスよ」
「善処してあげる。それこそアナタの機嫌を損ねるつもりはないもの」
ニタリと笑んだ美女を中心に突風が起きる。腕で顔を庇い、風が止んだ時には既に美女は消えていた。亡霊、と言っていたから本当に幽霊だったかも知れない。
空を見上げて、溜め息を一つだけ吐き出す。
「はぁ、久々に呼ばれてビビッたわ……」
もう呼ばれる事の無い名前。既に居なくなった人間の名前。
もう一度溜め息を吐き出して、落ちていた紙を拾う。簡素に名前であろう単語だけが書かれた名刺。裏を見れば恐らくホットラインであろうアドレスと真っ赤なキスマーク。ちょっとだけドキドキしてきたぞ……。
ともあれ、こんなモノを他人に見せる訳にもいかないので、ポケットの中に隠しておこう。
自分を落ち着ける様に深呼吸を繰り返して、人ごみに紛れながら鳥居を目指す。
到着したソコには一夏と顔を赤くした篠ノ之さん。そして涼しげな青い浴衣を着こなしたセシリアさんと淡い水色に朝顔の描かれた浴衣を着こなすシャルロットさん。
「どこに行ってましたの!?」
「あー……ちょっと迷子に」
「よし、やっぱり穂次に首輪をつけよう」
「シャルロットさん、とんでも発言してるから落ち着いてください死んでしまいます」
「おう、おかえり穂次」
「む……居たのか、夏野」
「あのさ。現実に戻ってきたのはいいけど、夢じゃないって事は俺もいるから」
「…………そうだな、すまん」
「そうやって落ち込まれると困るんですけど……それにしても……スゴイッスね!!」
「穂次さん?」
「穂次?」
「アデデデデデ!! 両耳引っ張らないでください! イケメンの俺がエルフになっちゃう!」
「ヨカッタネ」
「ソウデスワネ」
「二人共目が笑ってないから!」
俺の耳を引っ張りながらニコリと笑って、笑っているのだろうか……確かに顔は笑っていると言えるのだけれど、目が怖い。いや、笑顔なんだよ、でも怖い。何コレ怖い。
そんな二人は篠ノ之さんに目配せをして、篠ノ之さんも一つ頷く。そんな動作を見てさっぱり分からない俺と一夏は目を合わせて疑問を浮かべる。
「よし、じゃあ僕らは穂次に案内してもらうから」
「そうですわね。箒さんは一夏さんをお願い致しますわ」
「ま、任せろ!」
「いや、俺は地元だし、皆で一緒に回った方が――」
「行くぞ、一夏!」
「わ、待て箒! 腕を引っ張るな!」
「一夏っ! くっ、絶対助けてやるからな!!」
「穂次ッ!!」
「穂次、あっちに射的があるってさ」
「マジかよ! 行こうぜ!」
「穂次ィィィィイイイイ!!」
一夏、お前の犠牲は無駄にしない。あれ? 一夏って誰だっけ?
>>夏祭り本編が入ってないやん!
Q.夏祭り(セシリーの浴衣とかシャルの浴衣とか)が見たいから読んだの!何で無いの?
A.まだ書けてないです(白目
長くなりそう(なった)ので途中経過の投稿です。ちゃんと書きますから(震え声
>>心に盾を
(切実
>>シェリー
=ハニー
>>シャルロット(腐
いつもどおり
>>阿修羅様
ウッ……頭が……ッ!!
>>『
もう居なくなった少年の名前。
決して作者が考えるのが面倒で決めてないだけとか、いっそのことそういう風に見せて適当に流そうとか、そういう事ではない。そういう事じゃない。違うから。分かってください(白目
>>
イッタイダレダローナー、ワカラナイナー
でかい。何がとは言わないがデカイ。スゴイ。