欲望にはチュウジツに!   作:猫毛布

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ちょっとだけ三者視点

ちょっとだけ遅れました。
許せ、サスケ


ISスーツはエロい

 ついに、ついにこの日がやってきてしまった。

 

「フフフ、ハハハ……アーッハッハッハッハッ!!」

「夏野、黙れ」

「ハィ」

 

 笑わなきゃやってられないからと言って悪の三段高笑いはどうやらいきすぎらしい。織斑先生! いっそのことアイアンクローで俺を昇天させてもいいんですよ!

 ジロリよりもギロリという擬音が付きそうな眼光が俺を貫く。ISをもってしても織斑先生の攻撃は防げそうに無い。

 

「つーか、どうして俺からなんですかねー? それこそファーストである織斑からってのが定石なんじゃねーんですか?」

「捨て石。当て馬。バーター。好きな言葉が選べるぞ。喜べ」

「わぁい……ウレシーナー」

 

 わかりやすく肩を落として溜め息を吐き出す。

 俺が装着しているのはデュノア社製の『ラファール・リヴァイヴ』だ。別に打鉄(ウチガネ)でもよかったのだけれど、刀が合わなかったのでラファールである。政府からの指定も来なかった、というか向こうもこんなに早く俺がISに搭乗して戦うとは思ってなかったんだろうなぁ。

 

「織斑に専用ISが届いてないから俺って話なんでしょうけど……俺の専用ISとかって来るんですかね?」

「政府側の都合で遅れているそうだ」

「あ、一応出来るんですね。きっとカッコいいんだろうなぁ」

「任せる企業が天下りの受け皿だった気もするが……きっとお前によく合うISが送られてくるだろう」

「皮肉ッスよねー。はぁ……」

 

 視線でコンソールの確認をして、装備一覧をチェックする。標準仕様であるからある程度の汎用性はあるだろうけど、相手は専用機だ。準備のし過ぎという事は無いだろう。

 

「そんじゃ、時間なんで行きます」

「ああ、適度に負けて来い」

「……こう、もっと教え子を気遣うような、激昂するような言葉はないんスか?」

「灰は下水に流してやろう」

「死んでも尚扱いが酷い!」

「ふっ……ならば勝ってこい。女にいい所を見せるのが男なのだろう?」

「うっす。格好よく死んできますよ」

 

 バーニアを点火させ、明るいアリーナへと踊り出る。広い。明るい、眩しい。

 ハイパーセンサーが捉えた金髪美女は俺の姿を見て眉間に皺を寄せている。デッスヨネー。

 ヘラヘラと笑い顔を見せながら適度な距離で停止して相手の一言目を待つ。

 

「――ふざけてますの?」

「怒らないでおくれ、プリンセス。俺だって美麗なドレス姿の君の前にこんな姿で現れたくなかったさ。帰りたい」

「戦うまでもありませんわ。降参し、今までの言葉を全て訂正して、謝罪して、わたくしにひれ伏せば許してあげなくもありませんわ」

「わぁー、寛大なお心だー。 心惹かれる提案だけれど、コッチもソレが出来ない理由があるんで」

「理由?」

「あー……君を弄るのを止められないのさ。楽しいからな」

「っ……! 最後の言葉はそれでよろしくて!?」

「ああ、それなら一つだけ言っておこう、セシリア・オルコット。コレは二番目としての俺の言葉でもない、一人の男としての俺の言葉だ」

 

 しっかりと指を向けてヘラヘラした顔を取り繕い、真面目な顔へと変化させる。

 オルコットさんもコチラの意識の変化に何かを気取ったのか真面目な表情でコチラを睨んでいる。睨んだ顔も中々素晴らしい。

 

「――ISスーツって、エロいよな!」

「なぁっ!?」

 

 白い太ももが露出してるし、なによりおっぱいの形がモノの見事にはっきりわかる。素晴らしい。ISスーツを発案したヤツは絶対に男だ。間違いない。ありがとう、ありがとう!

 しかし、オルコットさんはむっちりとした太股が素晴らしい。おっぱいを支える形のIS装甲も素晴らしい。ただただ単純に素晴らしい!

 

 ブザーが響き、模擬戦の開始が告げられた。初動は何よりも大切というけれど、顔を真っ赤にして大型の筒を出現させコチラに向けているオルコットさん相手にコチラの取れる選択肢なんて逃げの一択しかないのだ。

 

「へ、変態ッ!!」

「アッハッハッ!」

 

 もっと言われたいと思ってしまったのは、決して新しい扉を開いたからという訳ではない。なんせ元々開いていたのだから。

 

 

 

 

◆◆

 

 セシリア・オルコットは苛立っていた。夏野穂次に煽られたからという訳ではない。いやソレもまた一つの要因だったのかも知れなかったが。

 開始当初よりも幾分か気持ちが落ち着いていたセシリアは小さく舌打ちをする。

 

 なぜ、どうして当たらない……!

 

 当然、セシリアとて通常戦闘であるならば自身の愛機であるブルー・ティアーズを十全に運用しただろう。だがしかし、相手は夏野穂次であり、IS初心者と言っても過言ではなく、そして男なのだ。

 特殊兵装は使用しない。奥の手などもっての他。大型光学狙撃兵器のスターライトmkⅢで事足りる筈だった。

 ダックスハントによく似た気持ちだった事は認めよう。自身の力量に相応な慢心と相手の力量に相応の油断。けれど、蓋を開けてみればどうだ。

 確かにスターライトmkⅢは当たる。当たりはする。けれど命中というには少しばかり外れすぎている。

 機体性能を加味して、もしも夏野穂次がラファール・リヴァイヴの性能を全て発揮していたならば理解できる。けれど、ソレは決してない。なぜならば夏野穂次は男だからだ。

 それならば、この結果は夏野穂次自身の力量となる。けれど、それはセシリアの中では認めてはいけない事なのだ。セシリアの中の男は弱く、自分のプライドもない、格好の悪い存在だ。

 

「――! どうして当たりませんの!?」

「ハハッ。的当てとは一風変わって有意義でしょうよ! コッチは内心凍ってるけどな!」

「黙りなさい! 変態!」

「ヒエッ……反応したら怒られたでござる」

「ヘラヘラと笑って……! 馬鹿にするのもいい加減にしなさい!」

「ハッハッ! 攻撃が当たれば考えてやるよ!」

 

 プライドは無い。弱い。格好悪い。夏野穂次という人物はセシリアの中での「男の人物像」そのものだった。だからこそ油断した。だからこそ手を抜いていた。全力で相手をする事すらも憚られた。

 ならば、ならばである。

 

「――わかりましたわ。本気で相手をしてあげましょう」

「うげっ……アレはいかんでしょ……」

 

 滞空するフィン型の四つの兵器。ソレこそがセシリアの駆るブルー・ティアーズの真価。機体の名前を冠する武装。セシリアは指揮官のように手を振るう。

 

「往きなさい! ブルー・ティアーズ!」

「ビット兵器かよ!? SFは光学兵器だけで十分だって!」

 

 ビット兵器、四基のブルー・ティアーズが穂次へと向かう。穂次の判断は早かった。逃げの一手である。

 スターライトmkⅢでの攻撃も掠る程度で避け、ブルー・ティアーズの猛攻も距離を取りながら回避に徹する。

 そもそも穂次は攻撃に転じることが無かった。ラファール・リヴァイヴに装備されているアサルトライフルをセシリアに向けて引き金を絞ったけれど、ソレも避けながらであり、当たることなどなかった。

 内心が凍ってる、というのは決して嘘ではない。自爆覚悟での突貫も考え、グレネードも準備していたが、そんな余裕などない。そもそもセシリアが遠距離型である事すら知らなかった穂次にとって苦肉の策は単なる愚策へと成り下がっていた。

 

 遠距離なら近付けばいいじゃん!

 という発想は穂次にはない。いや、浮かびはしたけれど、セシリアに追いつける想像がまったく思いつかない。新たに登場したビットのお陰でさらに想像が遠くなった。

 

 どうせ奥の手とかあるだろうな……。主に近接最強クラスの何か、とか?

 

 スカート状の装甲の奥からアームの付いた丸ノコが出現して想像上の穂次が叫ぶ。ちなみにセシリアは高笑いをしている。穂次はそんな想像は頭を振って捨てて、回避に集中する。

 勝ち筋を想像してもほとんどゼロだ。幾らか見返す事は出来るかも知れないが、ソレをすると本格的に勝つことは出来なくなるだろう。

 

「ちょこまかと……! 逃げてばかり! それでも男ですの!?」

「罵られてうれしいが、罵られ方にもよるんだな……今わかったわ」

 

 グレネードをその場に置くように宙に放り投げてアサルトライフルで射抜く。

 爆煙が穂次を隠し、セシリアはブルー・ティアーズを自身の近くに戻して迎撃の準備をする。

 

「んじゃ、頑張る男の子ってのを見せてやるよ」

「なっ?!」

 

 爆煙から出てきた穂次を視認して、セシリアは驚きを隠すことは出来なかった。

 爆煙でやられたのか、別の何かの要因か、ソレの原因などどうでもいい。

 

「目を瞑って……っ!」

「あっはっはっ! 心眼とやらでも開眼するさ!」

 

 相変わらずヘラヘラとした笑みを浮かべ、瞼を閉じている穂次。異常性を認識しながらもセシリアはブルー・ティアーズを起動し、穂次を迎撃する。

 

 放たれた光線は穂次のいた空間で交差する。

 

 つまり、ソレは穂次に命中していないという事実だ。

 目を閉じていたのに避けた。その事実がセシリアの頭を支配して、咄嗟の判断が出来なかった。一瞬。そうその一瞬だけが穂次にとっての勝機。

 セシリアが行動するまでに、穂次の行動が通ればソレで試合は終わる。

 穂次は手にナイフを出現させて握り締める。もう片方の手にはショットガンを握る。

 

「男のくせにっ!」

「ああ、そうさ。コレが頑張る男の子だ!」

 

 ナイフを振るう。ショットガンをセシリアに向ける。ドチラかが当たればセシリアも無事では済まないだろう。専用機に汎用機で立ち向かったにすればいい出来だ。

 

 

 けれど、夏野穂次自身の思考の通り、コレは勝ち筋ではない。決して勝てない動作なのだ。

 セシリアの舌打ち。スカート状の装甲が上がり、そこから見えたのは弾道型の兵器。

 穂次の思考はソレを確認するやいなやてんやわんやとして「アカン」とだけ思考を始めた。

 穂次の感覚は真っ白に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

「いや、アレはマジで無理。つーか勝ち筋なさすぎぃ」

 

 目が覚めると保健室だった。

 ベッドの上でゴロゴロとしながら反省する。反省点が多すぎるどころか、自分にとって都合のいい奇跡が何重にも被さってようやく勝てる勝負だったと言っても過言じゃない。

 ISスーツを着用したオルコットさんはそれはもう素晴らしいと思った。あの時、接近したあの時に格好なんてつけずにおっぱいに触ればよかった。それだけが唯一の心残りだ。

 

「あー、あー、負けたー負けたー」

「当然ですわ。むしろ勝てると思っていましたの?」

「思ってなかったけど、実際に負けるのとは別問題なんだよー」

「そういうモノですの?」

「そういうモノ。で、お疲れ様、オルコットさん。一夏との試合はどうだった?」

 

 保健室に入ってコチラに話掛けてきたオルコットさん。俺はベッドで体を起こして自身がISスーツを着ていることを確認する。裸でもないし、着替えさせられてもない。俺の貞操は守られてしまったんやなって……。

 

「アナタとの試合の後でしたので、コチラの手札がわかっている前提で準備をしましたが……」

「あー、フェアじゃないとかで戦闘見てなかったのかー」

「らしいですわ……」

「ま、それが男の子ってヤツだから仕方ないね」

「意味がわかりませんわ……」

「可愛い女の子には頑張って格好良く見せたいんだよ。俺の頑張りがさっぱり意味をなしてないのが解せないけど」

「…………そういうモノですか?」

「そういうモノ。まあ負けた俺が言うのも何だけどね」

「アレは負けて当然の試合だったので、そこまで気を落とさなくても」

「いやぁ、ホント……そういえば、俺って負けたけど平伏して足を舐めた方がいい?」

「そこまでしていただかなくても……というより何か増えてません?」

「そこで土下座して、オルコットさんが足を俺の頭を踏むぐらいしないと今までの発言が取り消せそうにないんですがソレは……」

「いえ、えっと……」

「それでそれで、是非とも家畜を見るような瞳で『変態』と罵っていただければ」

「……死ね、変態」

「ありがとうございますッ!」

 

 ジト目で睨まれて罵られたでござる。

 へらへらと笑っていれば溜め息を吐き出されたけれど、俺は元気です。いや決して下半身が元気という訳じゃない。確かに一言で色々とイケナイ感じになって布団で隠してるけれど。

 

「それがアナタですのね」

「え? 見えてた?」

「は? 何がですの?」

「……あー、いや、うん。ナンデモナイデス」

「まあいいですわ……。それと、まあ、あれです。見直してあげてもいいですわ」

「へ?」

 

 くりくりと恥ずかしそうに髪を指で弄っているオルコットさん。俺が呆けたような声を出すと、少しばかり「むっ」とした表情に変わる。可愛い。

 

「だから。その……試合の最後だけは格好よ――」

「夏野っ! 大丈夫か!」

「織斑! タイミング悪すぎぃ!」

「は? なんだよ! お前が倒れたって聞いて、千冬姉の説教終わってからすぐ来てやったのに!」

「ほら見ろよ! オルコットさんの顔を! さっき俺を罵ったときよりも殺意に芽生えてるぞ!」

「そんな殺意よりも後ろから来てる殺意の方が怖いんだ! 匿ってくれ!」

「お前は何!? 俺の見舞いに来たの? それとも逃げてきたの!?」

「逃げてきたに決まってんだろ! お前なんてどうでもいい!」

「ヒエッ……ホモ扱いしてから俺の取り扱い酷すぎぃ」

「貴様ら。保健室で騒ぐとは、いい度胸だ」

「ひぃ! 鬼か!? 悪魔か!?」

「夏野! 落ち着け、よく見るんだ! 千冬姉だ!」

 

 このあとムチャクチャ校庭周回した。




>>灰は下水に~
 河に流す宗教があったような気もする。

>>わたくしにひれ伏せば~
 是非

>>勝ち筋
 攻撃を掻い潜ってショットガンとグレネードで戦闘不能に。なお奇跡的に相手の狙いがガバガバで、奇跡的に相手が不調で、奇跡的に主人公が絶好調だったら可能だったもよう

>>瞳を閉じて
 君を描くよ。それだけでいい。

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