欲望にはチュウジツに!   作:猫毛布

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本日二度目の投稿になります。
最新話から来た方はご注意下さい。


銀は福音を奏でる

 銀の福音は空に浮かんでいた。胎児の様に膝を抱え、その翼で頭を抱きこんで、空に漂っていた。

 機械的な感覚で、ただ異常を感じて、顔を上げた。

 

 砲弾を認識。超音速で飛来したソレを避ける術など無く、頭部に衝撃が走り、同時に砲弾が爆発を起こした。

 弾かれた頭につられ、体がブレる。

 

「ヘッドショット、ヒット。次の砲撃を開始する」

 

 小さく、状況を認識させるように呟いた黒いIS――シュヴァルツェア・レーゲンを纏うラウラは業務的に次弾の狙いを定める。

 相手が動き出す前。反撃など論外。

 肩に装着された八○口径レールガン"ブリッツ"の狙いを再度定め、トリガーを絞る。

 バチリと砲口に走った稲妻が同時に弾丸を吐き出した事を意味し、音速を超えた弾丸が福音へと迫る。

 

「――――」

 

 体を巻き込むように翼が閉じられ、福音が急落下をする。弾丸が福音の居た位置を通過し、福音は翼を広げて急停止をした。

 俯いていた福音の顔が、上がる。

 表情などない。フルフェイスである頭部装甲に僅かに文字を流し、確かめる様に指を折り曲げて、ゆっくりと開かれる。

 ラウラは息を飲みこむ。覚えのある緊張感がラウラを再度支配して、自然に、トリガーを絞った。

 弾丸が放たれたのを合図の様に福音は動き始めた。まるで迫る砲弾で遊ぶように、白いエネルギー跡を残して翔んでいる。

 数発ほど砲弾で遊び、そして飽きたのか、それとも覚えたのか福音はラウラに向かい加速を始める。

 

 ラウラは思わず舌打ちをした。予想していたよりも福音の速度が速すぎるのだ。

 いくら砲撃を行なったところで避けられ、避けた位置への偏差射撃を行なおうと羽型のエネルギー弾により相殺される。

 砲撃パッケージである『パンツァー・カノニーア』を装着した弊害で、砲撃による反動相殺の為に速度を落としているラウラが高速で移動し続けるなど不可能だ。

 一○○○メートルを越え、距離がスグに縮まる。残り三○○メートル地点で更に福音は加速し、その右手をラウラへと伸ばした。

 同時に、天から高速で飛翔した何かがその手を弾き飛ばした。

 

 青。一瞬だけでも十二分に捉える事の出来るハイパーセンサーで捉えたのは青であった。空にいなかった筈の何か。けれど、ソレは居た。

 僅かに気が逸れた福音の隙を逃す訳も道理も無い。ラウラはブリッツを福音へと向け、トリガーを絞る。

 音速を越えている砲弾を回避した福音を待っていたのは青からの狙撃だ。

 

「あら、つれませんのね」

 

 バイザー越し、超高感度ハイパーセンサー"ブリリアント・クリアランス"を通して福音へと鋭く視線を向けたセシリアの周囲にはBIT兵器である"ブルー・ティアーズ"は存在しない。その全てはスカート状の腰部へと収まりスラスターとして役割を果たしている。

 手に持った大型BTレーザーライフル"スターダスト・シューター"で狙いを定め、光速に近しい弾丸が福音へと接近した。

 グリン! と大きく体を捻らせて機動を無理に変えた福音がその狙いを定めるべく体勢を立て直し、翼を開く。

 

「いらっしゃい!」

 

 まるで音符でも付きそうな声が空気を震わせて福音に反応させた。

 福音の背後に現れたシャルロットは両手に持ったショットガンを躊躇うこともなく放った。

 意表をついた一撃目は命中。二射目からは速度に追いつく事が出来ずに外れ、速度を維持したまま翼が開かれる。

 射出された羽達は容易く二枚の実体シールドと同じく二枚のエネルギーシールドにより防がれる。弾雨などモノともしないシールドに福音は思考を戦闘から一時離脱へと変更する。

 各自の速度を計算したところで、自身に追いつくことは青のISのみになり、各個撃破ならば何の問題もない。

 

 三機による包囲戦を掻い潜りながら、福音は奥の手とも言える全方位への砲撃を行なう。少なからず、防御か回避はしなくてはいけない攻撃。

 攻撃を狙うのならば僅かにラグが生じるが、移動ならばソレは更に小さくなる。全スラスターを開き、福音は一気に速度を得ようとした。

 

「させるかぁ!」

 

 飛び込んで来たのは橙でも青でも、黒でもなく、紅だ。鋭い剣撃が福音を襲い、その移動を封じた。

 防御をされてしまった。篠ノ之箒は事実を理解した。

――それでいい!

 思考は防御された事への悔しさではなく防御させる事が出来たという事実だけを認識した。

 刀を振り、数秒程度だが時間を稼ぐことが出来た。それだけでよかった。

 箒は福音を蹴り、その動きを僅かに制限した。空中で器用に回転し、身を反転させて起こした福音が認識したのは焔であった。

 鈴音――甲龍はより攻撃に特化していた。速度でも、防御でもなく、ただただ火力へと重きを置いた。

 衝撃砲に炎を纏わせ、単純火力を強化した。ISの性質上、パイロットの身を守る為に害意は全て遮断しなくてはいけない。つまりソレは行き過ぎた熱も含まれる。

 

「やりましたの!?」

「――まだだ!」

 

 水蒸気と熱により歪んだ空間に銀の福音は確かに立っていた。

 その全て、煩わしいソレらを振り払うべく両腕を広げ、翼を大きく広げた。風圧により水蒸気と熱が霧散し、正しく福音を視認する事が出来た。

 出来たのは、ソコまでだった。

 

 瞬間に広がったのは羽型の高圧縮されたエネルギー弾の壁。

 

「箒! 僕の後ろに!」

「ああっ!」

 

 箒はシャルロットの言葉に従い後ろへと下がった。コレは決められていた役割分担だ。

 展開装甲により消費するエネルギーの多い紅椿のエネルギーを節約する為の、集団戦である事を活かした行為だ。

 

「コレは、結構キツイね……穂次は毎回こんな気持ちだったのかな?」

「……すまん」

「謝るのは僕に、じゃないよ」

 

 決してシャルロットのやや棘を含んだ言葉を箒が受ける為の行為ではない。決して。

 シャルロットとて箒の気持ちは分からないでもない。置いていかれた穂次の事は心配であるし、信号がロストしている事も気がかりだ。今も、こんな戦闘が無ければ探したい気持ちで一杯だ。

 思考が順繰りし、何かを言いそうになった所で物理シールドの一つが壊れてしまう。

 

「悠長には喋れないみたいだね」

「ああ。文句も恨み言も帰って聞くさ」

「ソレは覚悟してもらわないとね」

 

 シャルロットがクスリと笑い、意識が戦闘へと改めて向く。

 引き下がったシャルロットと箒に代わりラウラの砲戦仕様の交互連射とセシリアによる移動射撃が福音を襲い、その動きを鈍くさせる。

 動きが鈍くなれば、隙が出来る。

 

「動きが止まれば、コッチのもんよ!!」

 

 直下から鈴音の突撃。双天牙月による斬撃。少しでも距離が開けば衝撃砲を浴びせる。

 無闇な攻撃ではない。目的は攻撃と加速を担う、翼。

 けれど距離が開けば福音とて攻撃は出来るのだ。翼を展開し、鈴音へと向けて弾幕を張る。回避運動をしながらだったならば福音は追いつかれることはない。

 そう、回避運動をしながらならば。

 

「うぉぉおおあああああああ!!」

 

 エネルギー弾を全身に浴びながら鈴音は突撃した。機械である福音に驚きは無い。けれど、ソレは確かに思考の停止であった。

 回避をし続けられた攻撃。防御をされた攻撃。その攻撃に突っ込んでくる事など、理解出来なかった。だからこそ、思考は一瞬だけ停止した。その一瞬だけが鈴音にとっては必要だった。

 振り上げた双天牙月は片翼の中程に当たり、ソレを切断した。

 姿勢を崩した福音に対して鈴音はようやく息を吐き出して肩で呼吸を繰り返す。

 

「はっ……はっ……どう――」

 

 その言葉は途中で止まった。姿勢が崩れた福音は片翼になりながらも体勢を戻し、鈴音へと回し蹴りを決めた。

 脚部スラスターで加速された蹴りは鈴音を防御の上から蹴り崩した。

 

「ッ」

 

――腕部装甲がイッた。けれど、まだ戦う事は出来る。

 ゾクリ、と鈴音の背筋に冷たい何かが走った。足を振り上げた福音が自身の頭の上に居たのだ。

 咄嗟に、半分以上無意識で鈴音は両腕を頭の上でクロスさせた。瞬間に衝撃。

 

「鈴!」

 

 箒の叫びなど無意味だと言わんばかりの速度で鈴音は海へと、水柱を上げた。

 箒の頭の中に一夏がフラッシュバックし、ソレを振り払う。手招きする悪夢から逃げる様に、箒は両の手に刀を握り締め、福音へと斬りかかる。

 制止状態からの急加速に福音は箒を僅かに見失い、箒の刀は左右の肩へと食い込む。

 けれど、ソコから刃が進む事は無い。福音は刃を手で掴み、放たれるエネルギーによる装甲の損傷などお構いなしに掴み続ける。

 福音の顔が、箒を捉える。

 

――引けない。

 

 箒は息を飲みこんで、歯を食いしばる。

 片翼が箒を捉えて、その砲口に光が収縮していく。

 

――引くことなど許されない。

――私は力を得たのだ。だからこそ、力を奮う。

――何の為に?

「誰かの為だろうがッ!!」

 

 少なくとも自分ではない誰かの為に。

 暴力は昇華する。ガチリと何かが箒に、そして紅椿に嵌る。

 エネルギー弾を()()()と一回転し回避する。同時に爪先の展開装甲が、主に望まれるままに開きエネルギー刃を形成する。

 

「はぁぁぁあああああ!!」

 

 踵落としの形で福音の前を通過した箒の脚。その踵は命中などしなかった。けれど、それで何も問題は無い。

 ズルリ、と残った片翼がズレ、切断される。

 両翼を失った福音が崩れるように海へと落下していく。

 

「はっ、はぁ……はぁ、」

「無事か!?」

 

 乱れた呼吸を整えるように、大きく呼吸を繰り返す箒にラウラは近寄る。

 そのラウラを手で制止させた箒は自身に問題が無い事を同時に示した。

 

「問題ない。それよりも、福音は――」

 

 どうなった、という言葉は続かなかった。

 盛大に響くISの警告音がソレを妨げた。強烈なエネルギーの反応。示す場所は海であり、そして福音が落下した地点だ。

 その場には白い光があった。海面を半球状にヘコませ、体を抱えた銀の福音がその場に浮いていた。

 

「これは……? いったい何だというのだ」

「!? マズイ! コレは『第二形態移行』だ!」

 

 ラウラの声に反応するように顔を上げた銀の福音。

 フルフェイスである装甲には何も感情などは無い。けれどソコには明確な敵意があった。証明をする様にISの警告音がさらに喧しく鳴り響く。

 

『キェェェアアアアアア!!』

 

 獣の咆哮にも似た電子音が辺りに響き、ソレを皮切りに福音が動き出す。

 反応が遅れてしまったラウラの脚を掴んだ福音は腕を引き寄せてラウラを無理矢理近くに寄せる。

 ラウラが攻撃したところで何も動じず、変化が起こる。

 切断された頭部から、ジワリと白いエネルギーが溢れる。

 ゆっくりと、ソレは形を形成し、

 ゆっくりと、蛹から孵る様に、

 ゆっくりと、エネルギーの翼が完成し、確かめる様にソレは大きく広げられた。

 落ちた羽の様に、エネルギーの残滓が広がり、無慈悲に美しい翼がフワリとそのラウラを包み込んでいく。

 

「ラウラッ!」

「よせ! にげろ!」

 

 シャルロットを手で制止させたラウラはソレだけの言葉を残し、翼に包まれ、白い繭が完成した。

 瞬間、僅かに光が漏れる。

 零距離による高圧縮エネルギー弾の掃射。ボロボロになったラウラが繭から落とされる。

 繭が解かれ、福音はその顔をシャルロットへと向けた。

 

「よくもっ!!」

 

 シャルロットは手にショットガンを呼び出(コール)し福音へと向け、引き金を引き絞った。

 ベキリと、福音の装甲が音を立てて割れる。至る所からあふれ出したエネルギー。ソレらは小さな翼を形成し、エネルギー弾を放つ。

 途端にシャルロットは後ろに引かれる力によって福音の前から大きく離れてしまった。

 

「え?」

 

 迫るエネルギー弾達は何かによって防ぎきられシャルロットに当たる事もなく、爆散した。

 八つの何か達は黒い粒子を吐き出してシャルロットを中心に――

 

 いいや、その後ろの主に従う様に巡る。

 

「随分変ったけど、アレって福音さんでいいのかねぇ?」

「ほつぎ?」

「ん? 呼んだ?」

「生きて――」

「そりゃぁもうピンピンしてますよ。ま、色々冗談言いたいけど、ソレは後って事で」

「え、わぁ!?」

 

 穂次は抱えていたラウラをシャルロットへと渡す。そしてシャルロットの前に立った。

 

「まあシャルロットお嬢様は後ろで見てて下さい」

「――はい」

「ありゃ、まあお淑やかなのはいいけどさ。セシリアさんも、篠ノ之さんも損傷してるだろうし、後ろにいてもらっていいッスよ!」

 

 大きく手を広げて、冗談の様にそう呟いた穂次の左腕にヤツクビが集まり、盾へと戻る。

 同時に、漆黒とも言える粒子が噴出し、穂次は躊躇うこともなくその粒子の中へと手を入れる。

 腰元に左腕を構え、まるで()()()()()()()穂次はソレを引き抜いた。

 引き抜かれたソレは正しく刀であった。漆黒の刀身の刀。

 

銘刀(メイトウ)――"村雨"。さて、推してまいろうか」

 

 穂次はへらりと笑いながら切り伏せる敵をその両の目に捉えた。




>>「箒! 僕の後ろに!」
>>「ああ!」
 伝説って?

>>「やりましたの!?」
 フラグかな?

>>福音『キェェェェアアアアアアア!!』
箒「剣道してる時によく聞く」
ラウラ「!?」

>>「ほつぎ?」
 お ま た せ !
 テンプレ登場です。テンプレってステキ

>>銘刀"村雨"
 紹介は次回。でも大体は皆様の予想通りです。

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