欲望にはチュウジツに!   作:猫毛布

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試験的に傍点を使ったり、改行が多かったりで読みにくいと思います。
え? 読みにくいのはいつもの事? ……。
スイマセン。

タイトルは過去の穂次のセリフから


ちょっとした裏技だ

「どういう事ですの!?」

 

 セシリア・オルコットは息を巻いてディスプレイ越しに居る織斑千冬を睨めた。

 そんな怒りを受け流す様に千冬は鋭い目をセシリアへと向けて冷静に事実を突きつける。

 

「作戦と決まっていた事だ」

 

 冷酷とも言える事実を淡々とセシリアへと突きつけた千冬はディスプレイに映る黄色と銀を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 数分前。

 篠ノ之箒が織斑一夏を抱えて帰還した。

 専用機を保有しているセシリア・オルコット、凰鈴音、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒは換装装備(パッケージ)のインストールもそこそこにスグに出迎えへと向かい、息を飲みこんだ。

 意識を失っている一夏とソレを抱えた箒が視界に入ったのだ。

 

 実戦である、という事は頭で理解していた。けれど、身近な存在がそうなる、という事は頭の中の理解だけでは足りなかった。

 

 一夏はすぐさま医療班へと持ち込まれた。

 重症といっても一夏の肉体的には損傷は無い。それは絶対防御を謳うISだったからこそであり、同時にISであったからこそ意識は深く落ちてしまっているのだ。

 危険である。そんな事は専用機を持っていなくてもわかってしまう。

 医療班へと一夏を受け渡した安堵か、それとも精神的な疲労からか、張り詰めていた糸が切れる様に箒も膝を崩した。

 ソレを受け止めた鈴音は呼吸の正常さと幾分か速いが一定間隔の動悸を感じて眠っているだけと判断して安堵の息を吐き出した。

 一夏だけでなく、箒までも、とは誰も考えたくはなかった。

 

 当然の判断として、箒は医療班へと一時受け渡される。結果を言えば彼女は極度の疲労で眠っているだけである。

 

 眠っている箒を見て、安堵の息を吐き出してようやくセシリアは気付いた。

 

 どうして二人しかいない?

 弾かれた様にセシリアは廊下を走り、会議室に充てられた部屋の襖を開いた。

 空中に投影された薄明るいディスプレイが部屋を照らすだけの部屋。部屋にいるのは教員のみであり、乱暴ともとれた襖の音に驚いていた山田真耶が大きな瞳をパチクリと動かしてセシリアを見た。

 

「お、オルコットさん?」

「お前には待機を命じていた筈だが?」

 

 そんな真耶の疑問にも応えずに、千冬の確認にも反応を見せずに、セシリアはディスプレイを見つめて、目を見開いた。

 

 何故、穂次がビット兵器を使っている?

 

 何故、穂次が暴走した軍用ISと互角に戦えている?

 

 そんな事、そんな些細な事、どうでもいい。

 

「コレは……コレはどういう事ですの!?」

 

 どうして穂次がまだ戦っているのだ!!

 どうして穂次がまだあの場に残っているのだ!

 事実を受け入れるべきだ。けれど現実など受け入れる訳が無い。

 開いた襖から専用機持ち達が姿を見せ、セシリアから睨まれた千冬がようやく口を開いた。

 

「これは作戦で決まっていた事だ」

 

 そう淡々と言い放った千冬。感情も何もなく、怒りを顕わに出していたセシリアへと冷たい現実を突きつける。

 セシリアの頭の中に作戦会議が巡る。

 確かに穂次は自身に役割があると言っていた。

 確かに穂次は自身を保険だと言っていた。

 けれど、けれど、けれど!

 

「夏野はセカンド・チャンスを作る為に戦っている」

「……つまり、それは囮、という事ですの?」

「ああ、そうだ」

「ッ」

 

 頭の中には先ほどの一夏がフラッシュバックし、その姿が穂次になるかも知れないという喪失感に犯される。

 何度か言葉にならない音を吐き出して、セシリアは震える声で頭に浮かんだ推測を確認するように、言葉を繋げる。

 

「それは、穂次さんが、一番弱いから、ですか?」

「一番適任だからだ」

 

 否定は、されなかった。

 絶望で膝は崩れなかった。喪失感が増える事はなかった。

 

 代わりに、まるで沸騰するように、頭が怒りで満たされた。

 歯を食いしばり、自然と手に力が入る。足を踏み出した所でセシリアの動きはラウラによって拘束されてしまった。

 

「っ!? 放してくださいまし!!」

「冷静になれ、セシリア」

「冷静!? コレが冷静になれる状況ですの!?」

 

 羽交い絞めにされて尚セシリアは千冬へと食って掛かろうとする。

 どうしてこんな作戦を立てたのだ。どうして穂次なのだ。どうして、どうして――!

 

「――ぷっ。アッハッハッハッハッハッハッ! ヒー! ヒッハ、ははっ、痛い、お腹痛い!」

 

 唯一の存在が遂に堪えきれずに吹き出し、笑い声を上げる。

 何が面白いのか、腹を抱えて笑う天災が息を絶え絶えにしながら、ようやく視線が向いてる事に気付いた。

 

「ああ、何が面白いのか、って顔をしているね? 何が面白いってこの茶番が面白いの。本当に、笑えるね! 思わずこの束さんを笑い殺す為のモノかと思っちゃった!」

「……束、少し黙っていろ」

「えー、ほらほら、笑わせてくれてお礼をしなくちゃぁいけないでしょ?」

 

 畳の縁を無遠慮に踏みながら、束は羽交い絞めにされているセシリアへと近付く。ニンマリと笑っている顔が鼻先に触れそうにぐらい、吐息が感じれる程にセシリアに寄せられた。

 

「君のIS適合率はどのぐらいかな?」

「適合……?」

「ああ、IS適性って言った方がいいのかな? まあどちらでも構わないよ。精々高くてもA止まりでしょ?」

 

 まあちーちゃん以外の人間としては高い方だよー、と言った篠ノ之束はニンマリとした顔を崩さずにセシリアから少しだけ距離を取る。

 

「ISとの適合率が高ければどうなるのか。君は知っているかな?

 適合率が高ければ高いほど、ISを動かすのに違和感を感じる事が無くなる。まるで自身の肉体の様に、ね。

 まあ、人間がISを操る限りその性能には振れ幅が確実に存在する。IS適性っていうのはその振れ幅を小さく、そして上限に近付く為の数値だね。

 

 さて、ココで発想を逆転させてみよう!

 もしもIS適性……いいやぁ、適合率を強制的に上げる事が出来る事が出来たなら?

 

 ISの意思により、ISの為の、ISによる、適合率の上昇。

 普通の人はソレを暴走という言うし、イカれた頭をしたクソ共もソレを暴走と呼んだ。乗った人間は廃人になるんだから、正しくソレは暴走と呼べるだろうね。

 普通のIS達はそう成らない様にある程度のリミットが調整されているから、君たちは安心してもいいよ!」

 

 ケラケラと笑いながらソレを論じる束。千冬は頭を抱えて溜め息を吐き出し、四人はチリチリと何かを察しそうになり、ソレを否定し続ける。ラウラに至っては既にセシリアの拘束を解いている。

 そんな事はお構い無しに束は更に言葉を紡いでいく。まるでソレが当然の様に、事実をスラスラと述べるように、詩を歌う様に。

 

「どうしてこんな話をするかって?

 そんな事もう頭で分かってるよね?

 でも認めたくない? 事実だよ? 現実だよ?

 じゃあ、私を、篠ノ之束の口から言ってあげよう!

 

 

 村雨は、暴走を起こす為の機体だよ!!」

 

 その為に話をしたのだから、当然である。そう言わんばかりに言い放った束の言葉にセシリアは膝の力が抜け、座り込んでしまう。

 暴走。説明されただけで大凡のソレは想像出来る。

 ソレを人為的に起こし、適合率を上昇させる。

 ソレは確かに正しく、そして大きく間違っている。利に叶い、非人道的だ。

 

「束。そこまで言ったのだ。もう全部言ってやれ」

「えぇー。いやん、ちーちゃん睨まないでよー」

 

 これ以上にまだ悲観すべき事実があるのか。

 セシリアが目の前が真っ暗になりそうになりながら束を見上げた。相変わらず束はニンマリと笑いを浮かべて、セシリアを見下した。

 

「彼はその村雨を乗りこなしているよ」

「――は?」

「適合率が高いまま、乗っている。"コレ"は事実だね。

 だからこそ、私は君の発言が滑稽で、それでいて茶番にしか見えなかった。笑っても仕方ないよね」

 

 思考がさっぱり追いつかない。けれども穂次が無事である事がわかった。それだけで安心は出来る。

 誰が、とは言えない安堵の息が吐き出された。

 

 

 

 それにも束はクスクスと笑いを浮かべ、冷たくセシリア達を見下した。

 

「――ああ、本当に君たち人間って言うのは都合のイイ事にしか目がいかないんだね。実に、滑稽だ」

 

 笑うことも疲れた様に息を吐き捨てた束はゆっくりと、事実を叩きつけていく。

 

「どうしてISの適合率にリミットが設けられてるのか。リミットを越えるとどうなるのか。

 暴走? ああ、確かにソレも一つの要因ではあるよ。けれど、彼は暴走を起こしていない。どうしてか、なんてのはどうでもいいよ。君らに言う意味なんて無いし。

 

 適合率が高い筈の彼は――君たちよりも弱い。それはどうしてだろうね?

 もしかして彼の適合率は何かの裏技でもあるんじゃないかな? 一時的に彼の動きが良く"成り過ぎる"事はあった筈だよ。

 その裏技を用いなければ、彼は君たちよりも弱い。

 じゃあどうして彼はその"裏技"を用いないのだろうか?

 メリット以上のデメリットがあるんじゃないのかな?

 脳の破壊? 廃人化? 意識の乗っ取り?

 残念。それらは暴走で引き起こる原因でしかないよ。

 正しく、適合しているんだよ。彼と村雨は。

 彼と村雨は一心同体である。と今は言えるね。言えちゃうんだよ?

 

 君たちは自身のバリアエネルギーが削られる感覚を知っているかい?

 もしも知りたければ彼を訪ねればいい。きっと答えは返ってくるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏野穂次は自身の唇を噛み締める。そうでもしなければ意識が落ちそうだった。

 舌に広がり続ける鉄の味と転がる()()を無理矢理喉に通して敵を睨む。睨む、と言っても穂次の瞼はずっと閉じられ続けているのだが。

 "ヤツクビ"を動かし続ける事は苦でない。ヤツクビ自体はビット兵器であるけれど適性など必要としない、半自律兵器である。

 ジンワリと、小さな穴の空いた風船の様に、虚脱感が穂次を支配し続ける。

 

 既に一時間は経過した。

 力は抜け続けているというのに感覚はハッキリしているという矛盾。

 

『どうしてお前は一夏を守ってくれなかった!?』

 

 穂次の眉間が歪み、ヤツクビの動きが鈍る。その瞬間を見逃す福音ではない。

 高圧縮のエネルギー弾が空を穿ち黄色の騎士へと迫る。けれど空間を舞うヤツクビに妨げられ騎士には届かない。

 

『どうしてお前は一夏を守ってくれなかった!!』

 

 守れなかった。ソレは言い訳になってしまう。

 穂次にとっては守れたかもしれないのは事実だ。

 もっと早く気付いていれば。

 もっとヤツクビを上手く操ることが出来ていたなら。

 もっと早く到着出来ていたならば。

 

 一時間自問自答した所で正しい答えなど返ってこない。

 返ってきたところでソレはやはり穂次を責める声にしかならなかった。

 

 もっと自分が上手ければ!!

 もっと自分が速ければ!!

 

 穂次の中で何かが弾けた。

 意識が持ち上がり、穂次は瞼を上げた。

 

 ()()()()()()()

 視界とハイパーセンサーで確認出来る銀の福音と何度も認識した羽の形の高圧縮エネルギー弾。

 弾は幕となり、壁となり。隙間など一切許さないソレは容易く穂次を包み込み、弾ける。

 

 爆炎の中から自然落下していく黄色の何かを見下した福音。高く上がる水柱をハイパーセンサーで捉え、胎児の様に膝を抱えて、頭部を守る様に翼で包み込んだ。




>>束さんのセリフを簡潔に頼むよ

 村雨は暴走するけど彼が乗ると暴走しないよ!
 人間如きが彼の適合率と比べるのも片腹痛いよ! というか笑いすぎてお腹が痛いよ!
 ちゃんと彼の意識はあるからダメージもちゃんと負ってね!
 え? 彼が乗るとどうして暴走しないかって?
 ソレは私の知った事じゃないなぁ……。


 ん? 適合率がイコール強さじゃないって?
 そうだね。正しいよ。IS戦闘が強い人は総じて適合率はいいけれど、適合率が高くても弱い人は弱いね。
 だから実は私が本文で言ってることはさっぱり金髪ちゃんの問いには答えてないんだよ。だって答える必要なんて無いからね。
 でもさ、私がアレだけ言えば、まるで()()()()()()()()()()と思うでしょ?
 言ったコトの矛盾? アッハッハッ、君たちは随分と滑稽極まりない世界で生きてるんだね! 
 だから人間は嫌いだよ。

 って感じです。 まあ束さんの言ってる言葉は話半分で理解している方がいいです。書いてる私がそうしてるんですから、そうに決まってます。

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