勘違いしないようにご注意ください。
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事の発端は二時間前。
ハワイ沖で試験稼動に当たっていたアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS『
ぶっちゃけた話、非常にどうでもいい。俺がこの作戦会議室に充てられた部屋にいる事すら場違い感がヤバイ。
スゲー皆真剣な顔をしてる。ポカンとして状況を飲み込めてないのは一夏ぐらいだ。俺はハッキリ言ってさっさとこの場所から何処かへ消えてしまいたい。
この部屋から出たら出たで、別の所から俺への御達しが来ると思うし。それならば、やっぱり美人な織斑先生から頼まれたい。
「穂次、頼んだぞ」とか言われたい。というかさっきから俺を見てる山田先生の目がスゲーキツイ。
そんなに睨むとおっぱい触っちゃうぞッ☆ まあ冗談を言うと本格的に拘束されそうだから言わないけど。
「それでは、作戦会議を始める。意見のある者は挙手する様に」
「はい。目標ISの詳細スペックデータを要求します」
セシリアさんの手が上がる。要求も真っ当なモノだ。織斑先生による忠告と警告の後、データが開示される。
スペックデータに目を通して、ふむ、と一つだけ唸ってみせる。どうしてスリーサイズは書かれていないのだろうか。
それは重要な事だろう。何よりも重要視すべきではないのだろうか! むしろバストサイズだけでも、いやBMHの三つはいるな!!
「はい! 織斑先生!」
「……夏野、現状でふざけた事を言ってみろ。外すぞ?」
「――――、データは機体スペックだけなのですか? 乗っている人のデータも少なからず必要なんじゃ?」
「……いいや。ISは暴走している。装備者に関しては考えなくても問題ない」
「そッスか」
いったい何が外されるのかさっぱり分からなかったが、顎か、肩か、全関節か。どちらにせよ、データは貰えないらしい。うーん、おっぱいはデカイのだろうか……。でも軍用機って事は危険だしな……。
超音速で移動している様だし、偵察も無理。接触は一度きり。
なら、結局は一撃で落とせるだろう一夏が適任だろう。
「一回きりのチャンス……ということはやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」
という山田先生の一言で俺を含めた全員が一夏の顔を見る。一夏は目をパチクリと動かして、慌てた様に現状を把握した。
「え……?」
「一夏、アンタの零落白夜で落とすのよ」
「やったぜ一夏! お前がナンバーワンだ!」
「待ってくれ。穂次の鬼の爪だってそれだけの出力はあるだろ!」
「どうなんですの?」
「あー、まあ出るな」
「じゃあお前だって選択肢の一つだろ」
「あのさ、俺の武装は盾にエネルギーを溜め込まないとダメなの。お前みたいに簡単に出せる訳じゃねーの」
そう、盾にエネルギーが無ければ俺は単なる木偶も同然なのだ。俺だって無条件で攻撃を喰らい続けるなんてイヤだ。俺はマゾじゃない。
じゃあ、エネルギーが溜まるまで攻撃を受け続ければ、と言われるだろうが、広域殲滅型の福音さんの攻撃を捌き続けるなんて俺には無理だと思う。
「織斑、コレは訓練ではない。実戦だ。もし覚悟が無いならば無理強いはしない」
「――、やります。俺がやってみせます」
「さすが一夏! いいぞいいぞー!」
「夏野。わかっていると思うが」
「へいへい。俺も追従しますよー」
「結局お前も来るのかよ」
「そりゃぁ、お前だけにいい格好はさせないさ」
「……本音は?」
「ココでお前の安全を待ちたい。 まー、無理なんだけどな」
「? なんでだ?」
「俺だって、ヒーローになりたいんだぜ」
ニヤリと冗談の様に言ってのけた俺に対して呆れたような溜め息がそこらから聞こえる。冗談、では無いのだけれど。
「ま、俺はいいんスよ。役割の認識もしてるんで。 とりあえず一夏を送る為に超音速機の足を選出しましょーよ」
「足って、アンタ……」
「というより、お前の役割って?」
「まあ、単なる保険だよ。お前が決められなかった時用の保険だ」
いつもの様にへらへらと笑っていると織斑先生に睨まれて両手を上げる。外すのは勘弁して下さい。
「では、具体的な作戦を立てる。この中で最高速が出せる機体は?」
「それなら、わたくしのブルー・ティアーズが……けれど、わたくし一人でお二人を運ぶとなると」
「夏野は問題ない」
「は?」
「フッ……俺の機体は音をも越える……」
「穂次がカッケー……」
「いや、一夏。アレはイタイって言うのよ」
「鈴音さんヤメテ! その
ふざけて話を流したけれど、俺を送り運びをする問題は何も無い。村雨のスペックなら、それなりに速度も出る。
なら一夏を運べるのか、と聞かれれば否である。保険が保険としての役割を果たすのには無理なのだ。
「オルコット。超音速下での戦闘訓練時間は?」
「二〇時間です」
「そうか……ならば適任――」
「待った待った待ったァ!」
突如と響いた声に織斑先生の眉間が寄せられる。スゲー嫌な顔をしている。実際ここまで織斑先生が感情を顕わにしている姿はソレほど見ない。
「とぅ! シュタッ!」
天井裏からクルクルと舞い、畳に着地した謎の物体。
「誰だ! お前は!?」
「ふっふっふっ! よくぞ聞いてくれました!」
「束、出て行け。あと夏野、ノるんじゃない」
「ぶぅーぶぅー! もっと私を丁寧に扱ってもいいんだゾ!」
「そーだそーだ! おっぱいを触らせろー!」
「あ゛?」
「ヒッ……篠ノ之博士! 怖いですよ!」
「今のは君が悪いんじゃないかなー?」
「裏切られた……もう何も信じれない!」
「夏野、ちょっとだけ、いや、永遠でも構わないが呼吸を止めておけ」
「――――」
呼吸を自分で止めた訳じゃない。止まってしまったのだ。
呼吸は止まっているのにガタガタと体が震えるのはきっと寒いからに決まっている。イヤー、冷房が効きすぎカナー!
「ちーちゃん、ちーちゃん! 私の中でさっきの作戦よりももっといい作戦があるよ!」
「もう一度言っておくが、出て行け」
「ここは断☆然、紅椿の出番だよ!」
「……なに?」
「紅椿ならパッケージがなんかなくても超音速機動が出来るんだよ!」
織斑先生を囲むように現れたディスプレイ。そこに映し出されたのは紅椿のデータなのだろう。
篠ノ之博士の口からスラスラと出てくる聞きたくない言葉の数々。第四世代だとか、展開装甲だとか。
あっるぇ? 確か今って試験稼動してた第三世代ISを止めに行くんですよね?
「ちなみにぃ、展開装甲は紅椿だけじゃなくて白式の雪片弐型と村雨にも実装されてまーす!」
「え?」
驚きの声は一夏だけではなくて他の面々の口からも出ていた。唯一出ていなかったのは頭を抑えていた織斑先生だけだ。
「まあ村雨はまた別方向なんだけどねー。『パッケージ換装しない万能機』って第四世代の理論だけれど、村雨は別ベクトル。第三世代とも言えないけどねー。アッハッハッ」
「あー、篠ノ之博士。一応国家機密なんですが……」
「ん? ああ、大丈夫だよ! 私にはどうでもイイ事だからね☆」
「アッハイ」
ダメだ、この人。早くどうにかしないと! 織斑先生! あ、頭を抱えてドコか遠くを見ていらっしゃる!
やばい、俺まで頭が痛くなってきたぞ……コレは早々にどうにかしなくては。
「それに君は――」
「そう、俺はおっぱいが好きなのだ!」
「……はぁ、話を戻すぞ。 束、紅椿の調整にはどれぐらいの時間が掛かる?」
「えー、ここはホラ、彼の秘密を暴いて、皆で一緒に『な、ナンダッテー!?』って言おうよー」
「束」
「ぶぅーぶぅー。 紅椿の調整は七分もあれば大丈夫だよ!」
「ならすぐに開始しろ」
「織斑先生!?」
「なんだ、オルコット」
「わ、わたくしのブルー・ティアーズなら必ず成功させてみせますわ!」
「ん? 今、性交って言った?」
「穂次、アンタはちょっと黙ってなさい」
「あ゛い゛」
後ろから鈴音さんに首を絞められる。ちくしょう! 何も柔らかくもねーゾ!! もっと、こう、ほら!! あるだろ!
どうしてか締める力が強くなったので腕をタップする。極まってる、極まってますよ!
「では、夏野と篠ノ之を除く専用機持ちは織斑に高速戦闘をレクチャーしていろ。篠ノ之は紅椿の調整が終わり次第ソレに合流。作戦開始は三〇分後。では各自準備にかかれ」
「穂次はどうするんだ?」
「俺は織斑先生から正式に役割の説明を受けるんだろ」
「今じゃダメなのか?」
「まあ、簡単なバックアップの確認だし。ソレよりもお前が高速戦闘に関してレクチャー受ける時間の方が大事なんだよ。ホラ、さっさと行って来い」
俺から押し出された一夏は訝しげな視線をコチラに向けたが、それだけに終わり俺に何も言ってこなかった。
俺はソレに苦笑して、溜め息を吐き出す。
「夏野」
「へいへい。大丈夫ですよー。上からも命令がきてますからねー」
「……そうか」
「ええ。まあ俺は自分の役割を自覚してますよ。何も問題ありません」
「……本音は?」
「本音ッスよ。それこそ、俺はセカンドですから」
へらりと笑ってみせる。なんてことは無い。
ヒーローになりたいのは本当だし、今も憧れている。けれど、俺はきっとヒーローにはなる事は出来ないだろう。
「何かあった時は俺がフォローします。まあ二人を逃がすぐらいの時間は稼ぎますよ」
「……すまん」
「んじゃ、俺が無事に帰ってきたらおっぱいを揉ましてくださいよ」
「ああ。山田先生が揉ましてくれるようだ」
「ふぇっ!? どうして私になったんですか!?」
「なんだって!? ソレは頑張らないと……ガンバリマス!!」
「ソレでやる気を出さないで下さいよ!! イヤですよ!?」
「マジっすか……山田先生がおっぱいを揉ましてくれないんですか……鬱だ、どうしよう」
「ほら、山田先生。困っている生徒を助けるのも教師の役目だろう?」
「それこそ夏野君自身が困った生徒じゃないですか!」
ぷんすかと怒る山田先生を見ながら和む。大丈夫何も問題は無い。
ざわつく心を落ち着けて、なるべくいつもの状態を保つ。何も問題は無い。
「まあ、なるようになりますよ」
やっぱり、俺はへらへら笑ってテキトーにしておこう。だって、ソレが夏野穂次なのだから。