欲望にはチュウジツに!   作:猫毛布

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息抜き(5000字


そろそろISの戦闘か……
この主人公が戦うのか……

……戦えるのか?


天国は背中に

 

「解せぬ……」

 

 肩を落として机に頬杖をつく。机の上にはボールペンと二度目になる申請書類各種。

 おっぱい先生に言った様に、申請書類の面倒な書き直しは気にしていない。面倒だけれど、ソコに何かを感じる事はない。そもそもおっぱい先生の頼みなのだから二つ返事だ。

 さっぱりわからないのはクラス代表者の候補として俺の名前が挙がったことだ。意味不明すぎるよォ。

 一人目であり、あのブリュンヒルデの弟である織斑一夏の名前が挙がったのは分かる。プライドが高くて、エリートであるオルコットさんが自分で自分を推薦するのもわかる。

 二人目であり、人を弄って楽しむような性格で、剽軽といっても相違ない俺の名前が挙がったのはどうしてだ。理由は簡単、俺は織斑一夏を恨む。

 

「そもそも代表候補生と模擬戦で戦えってのが無茶だー。専用機も無い、才能も無い、技術も無い、一般小市民の俺が無残に弄られるんだー。嬲られるー」

「夏野。黙って書け」

「アイ」

 

 目の前で両腕を組んで溜め息を吐き出しているブリュンヒルデ様。提出書類のチェックを逐一しているのだから俺は命令に従わざるをえない。いや、その前提条件が無くてもこの人には逆らってはいけない。絶対にだ。

 そもそも人の皮を被った鬼なのだから絶対に逆らえない。ブリュンヒルデって、北欧だか、ギリシャだか忘れたけれど、神話に登場する戦乙女の名称だっけか? なるほど戦の神様の名称だな。つまり、目の前の女性は人間離れした戦闘民族の長だったのだ!

 

「夏野。イラナイ事を考えている頭はイラナイな?」

「いえ決して織斑先生のことを悪魔とか鬼だとか、チフユのチは血液のtアダダダダダダ! 壊れる! 頭蓋骨がいけない音が鳴ってます!」

「次は手が出るから気をつける様に」

「出てる! 手が出てるゥ!! 俺の頭をガッチリ掴んでますよ! ブリュンヒルデ最高の槍が俺の頭を捉えてますよ!」

「ん、スマンナ」

「謝罪されてるのに力が強くなってる! 痛い! 痛いッス!」

 

 籠められていた力が弱まり俺の頭は机に落ちた。衝撃の痛みよりもコメカミの方が痛いってどうなってんだ。やっぱり織斑先生は人外なんやなって。

 

「……夏野」

「何も考えてません! マム!」

「ならばさっさと書け。私とて暇ではないんだぞ」

「ハッハッハッ、またまたぁ。面倒そうな仕事を山田先生に押し付けてるのは見て、ませんよー! いやー! 織斑先生ほどの美人教師となるとやっぱり沢山お仕事ありますもんね! クールで美人で仕事も出来るなんて素敵ダナー! そんな織斑女史の迷惑にならない様に頑張ってサクッと書いちゃいますよー!!」

「減らず口を叩かずにな」

「イエスマム!」

 

 敬礼はせずに書類へと目を通してサインをしていく。逆らってはいけない。絶対にだ。

 

「まったく……しかし、夏野。お前はソレでよかったのか?」

「何がです?」

「名前だ。随分皮肉の利いた名前じゃないか」

「アッハッハッ。それは俺じゃなくて政府の人に言ってくださいよー。一応コレでも改善してるんですよ? 元々『セカンズ』だとか『二番』とか『二号』とか、人らしい名前に改善した時も名前は『補欠』でしたからねー」

「…………元々の名前があるだろう」

「アッハッハッ。忘れちゃいましたよー、まあ生きる分には苦労しなさそうですし。こうして女の子のいっぱいいるIS学園にも通えましたし。俺は意外に今に満足しているんですよ。だから変に思わないでくださいよー」

「そうか。それで、どうしてお前は私の胸部に視線がいっている?」

「スーツの上からでもわかる素晴らしいおっぱいだな、とアデデデデデデデ!」

「警告はしてたよな?」

「確認とる前に手が出てますよ!」

 

 解放されたコメカミを両手で押さえて痛みを和らげていく。織斑先生を見れば呆れた様な顔をしてコチラを睨んでいる。

 その視線を紛らわすようにヘラヘラと笑って申請書類に最後のサインを書く。

 

「って事で。まあ何も問題ねーですって。人生なるようになる、ってのが座右の銘ですからねー」

「ほう? なるように、か」

「アッハッハ」

 

 ニヤリと笑った織斑先生の手には俺の書いた申請書類の一枚がある。ソレを見て俺は笑って誤魔化した。

 息を一つ吐き出され、やはり口角がつり上がっている織斑先生はその紙を申請書類に紛れさせる。そこで俺はホッと一息。

 

「私を連れ出したのもコレが理由か?」

「山田先生でもよかったんですけど、お墨付きがあればもっといいかなぁと」

「小細工が上手い事だ」

「小市民ですからねー。こうしてないと生きていけないッス」

「まあいいだろう。提出はしておいてやる」

「ありがとうございます! 織斑大明神! 素敵! 抱いて!」

「焼却炉に出しておく」

「冗談ッスよー。やだなぁ」

「……一応、コレの理由を聞いておこうか」

「ソコに書いてるでしょ?」

「建前はな」

「あー……アレです。たぶん、分かんないと思うんッスけど。いつだって男の子は女の子にいい格好を魅せたくて、それでいて、ヒーローに憧れてるんですよ」

「……座右の銘を変えることを勧めるよ、夏野穂次」

 

 書類を持って部屋を出て行った鬼斑先生を見送り、思わず息を吐き出す。

 

「……『おっぱいは裏切らない』にするかな」

「ソレはやめておけ」

「ヒェッ!? 鬼斑先生!? ゴメンナサイゴメンナサイ! アイアンクローの構えはやめてください!死んでしまいます!」

「……まあいい。コレを渡し忘れていた」

 

 織斑先生がポケットから取り出した何かを俺に放り投げる。放物線を綺麗に描いたソレをキャッチすれば、硬い。そしてほどほどに温かい。ヌクモリティ……。

 

「鍵?」

「お前の寮の鍵だ」

「寮? あ、そっか。ん?」

 

 頭の中で様々な言葉が結ばれ、俺の頭は一つの結果を弾き出した。

 

「ラッキースケベ!」

「…………」

「いや、ツッコミもなしでそんな呆れた目をしないでくださいよ。さすがに落ち込みます」

「勝手に落ち込んでいろ」

「酷い……織斑家は冷たい人ばかりか……」

「寮の鍵は渡したぞ。あと念のため言っておくが下らない事をすれば――」

「ああ、退学ッスねwww 問題ねぇッスよwww ほら、俺ってIS動かせたしィ、退学しても明るい未来が待ってますしィwww」

「――命が無いと思え」

「ゥ、ウィ……マム」

 

 どうして俺の前にある机が壊れているのだろうか。織斑先生が何かを振り下ろしたのは見えたけれどソレが何かはさっぱりわからない。ただ織斑先生の手が手刀の状態になっている以外は何もわからない。わかりたくない。

 織斑先生の目が語っている。「次はお前がこうなる番だ」と。なりたくはない。映画でもモザイク必須の映像になってしまうのは絶対に避けなければいけない。『下らない事』は絶対にしてはいけない。俺の心にソレは深く、深く刻まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 監獄にも似た部屋から結構広めの部屋に変わった俺はテンションが上がってしまい子供のようにハシャイだ。布団がフカフカだったのもその要因の一つだろう。

 色々して疲れた俺はすっかり広さによる不安など感じる間もなく眠り、スッキリとした朝を迎えた。

 俺が一人部屋という事は織斑も一人部屋なのだろう。気苦労、と言ったけれどどうやらIS学園は俺たち特殊要因に寛大らしい。トイレが遠い事を除けば。

 

 しっかりと目を覚まして食堂に向かえば人だかりが出来ていた。

 人だかりと言えば、物珍しいモノが中心にあり、IS学園に置いて珍しいと言えば決まってる。なんせ俺の後ろにも別の集団があるのだから。

 

「よお、おはよう。織斑。んで、初めまして、篠ノ之さん」

「おはよう、夏野」

「……ふん」

「おい、箒」

「アッハッハッ。幼馴染との朝のひと時を邪魔されてご機嫌斜めかな?」

「っ……!」

 

 スパンッと小気味いい竹刀の音が響いた。少しだけ遅れて拍子を取る様に乾いた音も響く。

 

「フッフッフッ! 真剣白刃取り!」

「大丈夫か!? 夏野!」

「あ……、その」

「おいおい、ツッコんでくれよー。アテテテテ」

「箒!」

「っ……すまない」

「大丈夫だって。ほら、痛いの痛いの全部織斑にいけー」

「なんで俺なんだよ!?」

「アッハッハ。まあ変に琴線に触れたのは俺からだったし、竹刀で叩かれてもしょうがないさ」

 

 しかし、何も見えなかった。唯一見えていたのは彼女の巨乳だけだ。盛ってソレなのか、盛らずにソレなのか……触ればわかるな。

 瞬間に背筋に悪寒が走る。

 

「何を騒いでいる」

「ち、千冬姉……」

「織斑先生、……その」

「……お、俺は何もしてませんよ!? 俺だって最初の朝ぐらい落ち着いて女の子達を視がッ、」

 

 腹部に衝撃を受けた。何が起こったかさっぱりわからないけれど、何も入ってない胃から何かが溢れ出そうになったけれど無理矢理抑える。

 前屈みになって衝撃の原因を見れば、いい笑顔だった。ついでに言うといい匂いだった。

 

「ああ、夏野。スマンな。ちょうどいい所に腹があったものだから、つい」

「ぁ、ぁ……」

「お、そうかそうか。この騒動の原因はお前にあると。なるほど、では罰則をこなさなくてはな」

「ぉ、ぉにぃ……」

 

 襟首を掴まれてズルズルと引き摺られていく。首が絞まりながら最後に漏れた言葉は織斑に届いただろうか……。届いていなかったのならば絶対に言ってやろう、お前の姉は鬼の化身だったのだ! と……。

 

 

 

「うげぇ……死にそ」

「大丈夫か? というか、あの後に何があったんだ……」

「聴くか? 俺は人の限界を二度程突破しそうになったぞ……」

「後悔しそうだからいいわ」

「おのれぇ……」

 

 一時間目のギリギリに解放された俺はかなり急いで教室に入った。どうしてだか俺を拘束していた筈の鬼斑先生は悠々と間に合っていたのだが……。

 ともあれ、休み時間になり俺の近くに寄ってきた織斑が心配そうに声を掛けてきた。

 

「その、ありがとうな」

「……織斑に感謝される様な事はしてないけど?」

「いや、千冬姉から箒を庇ったんだろ?」

「実際おっぱい見てたから間違いじゃないんだよなぁ」

「…………お前の後ろにいる箒が思いっきり睨んでるぞ」

「大丈夫大丈夫、今朝の事で竹刀は使わない筈だし。それ以外ならチョークスリーパーされる以外は何も問題ない」

「そうか。なら望みどおりしてやろう」

「がっ?!」

 

 おおおおおおおおおおおおおおおお! スゲー!

 背中が超幸せ! なにこれスゲー!! でも苦しい! 柔らかい! 苦しい! ひょぉぉぉおおお!!

 織斑がスゲー残念そうな目で見てるけどそんなの知った事か! 俺は、俺は目的の為には手段を選ばんぞぉぉおおお!!

 

「あー、箒。うん……そろそろやめてやれ」

「タップすれば止める」

「たぶん、いや、絶対ソイツは落ちるまで我慢するから止めとけ」

「む……そうか」

「ブハッ、ゲッホゲホ……ナイスおっぱ、ゲホゲホ」

「早くタップしないからそうなる。どうした一夏?」

「いや、なんか、凄い複雑な気分だ」

「?」

 

 おのれ織斑! 貴様は俺の天国をなぜ止めたのだ! リアル天国も近かったかも知れないけど、本望だ!

 

「ふんっ。これに懲りたらもうイラナイ事は言わないことだな」

「へいへい。それじゃ、まあ、うん。改めまして。はじめまして篠ノ之さん。夏野穂次です」

「篠ノ之箒だ。今朝は――」

「あー、ソレはもう無かったことにしよう。お互い、つーか俺が一方的に悪かった、って事で。制裁(報酬)も受けたし」

「……そうか」

「そうッスよー。アッハッハッ」

「男のくせにヘラヘラと……」

「こういう性格だから仕方ないさ。今更質実剛健を気取っても遅いしなぁ」

「遅いという訳はないだろ」

「あー……ま、直す気がないんだよ」

 

 そう言い直せば思いっきり眉間に皺を寄せられた。美少女なのに勿体無い。黒い髪も綺麗だな。おっぱいもスゲーし、いい匂いしたし。女の子ってスゲー。

 

「そういや、夏野は誰と一緒の部屋なんだ?」

「は? 一人部屋だけど……つーか、普通に考えて女の子と同室とかあり得ないだろ」

「…………ダヨナー。俺もそう思う」

「織斑。お前は死んでしまえ」

「なんでだよ! 箒、お前からも言ってくれ、俺は何もしてないよな!?」

「ウッセー! しかも篠ノ之さんとか和系の美少女、大和撫子じゃねぇか! 死ね! ラッキースケベとか羨ましい! 羨ましい!」

「お前にわかるのかよ! 締め出されて木刀で突きを喰らいそうになった俺の気持ちが!」

「どーせラッキースケベに遭遇して締め出されたんだろ! ほら見ろ! 篠ノ之さんの顔が真っ赤じゃねぇか! 何を見たんだ!? 何を見たんだ!」

「なんでそんなに必死なんだよ! 何も見てねぇよ!」

「おまっ……! 必死になる気持ちがわからないって……もしかして、ホモか?」

「違ェよ! どこがどうなってその結論に至ったんだ!」

「ほら見ろ! アチラのクラスメイトさん達をヒソヒソと話してるぞ! きっと内容はお前がホモって話題だ!」

「やめろ! チョット待って! 俺はちゃんと女の子が好きだから!」

「ハッハッハッ。墓穴掘ってるクッソワロタ」

「夏野ォ! お前わかってるんだろうな!?」

「何がだよ、織斑一夏くん。君がどうなろうがボクの知った事じゃないよ」

「必然と俺の相手はお前になるんだぞ!?」

 

 

 

「そこの女生徒ちょっと待った! ステイ!」

 

 メモをした何かを持って走りだす女生徒。足止めする女生徒。虚しくも手を伸ばした俺と織斑の頑張りは無かったことになった。

 

 十日程後、織斑の知らない所で薄い本が出回っていたのだが、本当に織斑は知らなくていいことだ。




>>「ラッキースケベ!」
 女子寮→男がINするお!!→お風呂に行くよ!→「キャァァァ!」「やったぜ」

>>『おっぱいは裏切らない』
 聖母は全てを許してくださるのだ……

>>一夏「俺はちゃんと女の子が好きだから」
 は?

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