シャルロットさんは表面部分よりも内面の美しさがある。あるよね?
砂浜。波打ち際に座った穂次。周りには人は居らず、喧騒はそれなりに遠くから聞こえもしている。一人になりたかった、という目的で移動していたのだから穂次の目的は達成したと言えるだろう。
穂次は後悔をしていた。それこそ自身の定めたラインを容易く自身が越えてしまった事に。ぼんやりと空と海の境界を眺めながら頭の中では自身を咎めることばかり考えている。いや、その一抹にはセシリアの悩ましい声がリピートされ、手に広がった柔らかい感触を味わい尽くしている自身もいる。尤も、ソレこそが咎められるべき彼なのでもあるのだけれど。
「……はぁ」
「どうしたのさ、そんなに落ち込んで」
「ああ、シャルロットさん」
一つ、大きく溜め息を吐き出した所で声が聞こえた。数日も同じ部屋にいたシャルロットの声である事は穂次にとってスグに分かる事だ。
振り返ることすらも億劫なのか、身体を後ろに反らして、顔を向ける事で穂次の視界には天地の逆転したシャルロットが見えている。
シャルロットは少しばかり心配そうな視線を穂次に向けており、黄色の水着がその肢体を隠している。男性と偽った時はどうしていたのだと言いたくなる小さくは無い乳房。惜しげもなく晒し出している腹部。
そんな頭を空に向けて下げているシャルロットを穂次は目を細めて見る。
「あー、実に可愛い水着姿ですねー。でももうちょっとだけ待ってくれ。色々ありすぎて軽口も回らない感じなのです」
「そうなの?」
「いえーす。このまま海に帰りたい。いや帰りたくない」
「どっちなのさ」
「どっちでも。つーか、一応人の少ないところを選んで来たんだけど、なんでいるんスか?」
「あー、アハハ……えっと、私も人の多いところはちょっとだけ苦手で」
「そうッスか」
よっこいしょ、と言いながら穂次の横へとしっかりと座ったシャルロット。シャルロットがここに来たのは『穂次がぼんやりとココに向かっているのが見えた』からなのだ。当然、そんな事本人には言えない。
こうして相対すれば穂次の元気がない事はよくわかる。序でに言えばココに来るまでに幾らか女生徒達とすれ違ったけれど、穂次はそれに対して軽口を叩いて変わらずへらへらと笑っていた。ソレはシャルロット自身は確認している事で、穂次の言う「軽口が回らない」というのは嘘なのかも知れない。
少しだけむっとしてしまったシャルロットが悪いという訳ではない。それこそ意中の相手に褒められない、という事とその意中の相手が他の人を褒めている事を考えれば多少の不機嫌も仕方の無い事だろう。
けれど今の穂次の状態を見ていれば、本当に軽口も回らないのだろう。ソレぐらいはシャルロットが察することは出来る。
他の女生徒達への軽口は本当に元気を絞り出したソレだったのかも知れず、既に尽き果てた、という事なのかもしれない。
「それで、どうしたの?」
「別にィ。でもちょっとだけ落ち込んでるのですよー」
「……もしかして、セシリアに何か言われたとか?」
「むしろセシリアさんに粗相を働いてしまった、と言いますか。なんと言いますか」
ふむ、とシャルロットはアゴに手を当てて考える。
これは、もしかして、いいや、もしかしなくてもチャンスなのではないだろうか。
穂次を狙っているセシリアと自身を大きく引き離すチャンスなのではないだろうか。
悪評を言う訳ではない。セシリアのことを忘れてしまう様に、自身に集中させれば何も問題など無いだろう。
「何があったか聞くよ。吐き出せば楽になるかも知れないしね」
「あー……」
「ほら、前に色々と聞いてもらったし。そのお返し」
自分は何をしているのだろうか。きっとこの穂次の悩みの種を解決してしまえば、穂次とセシリアはいい感じになってしまうかも知れないというのに。
つまり、ソレは自身の想いが叶わないという事にも繋がるというのに。どうしてか、ほっとけなくなった。
多少、穂次が言い渋ることもあったけれど、一連の行為が穂次の口から吐き出され終わった。当然、常識は無いけれどある程度の良識を持ち合わせた穂次により「俺の股間がスターライトmkⅢ!」なんて冗談は飛ぶことは無かった。
その全てを聞いたシャルロットは心に湧き上がる「なんて羨ましい行為をしてるんだ」という感情に蓋をした。なんとなく自身をセシリアに置き換えて、触れられる事を考えると、それこそセシリアの声の意味は分かる。分かる気がする。
果たしてソレを彼に伝えるべきなのだろうか。いいや、きっとソレは伝えるべきではないだろう。それこそ自身と彼女の為に。
「なるほど」
「って事で、まあ、セシリアさんに嫌われました」
「? セシリアに直接言われたの?」
「いや。つーか、流石に自重出来なかったし……」
「いつもの冗談言ってる穂次はどこに行ったのさ」
「その穂次は現在反省中でーす」
「……まあ、セシリアは穂次のことを嫌ってはないと思うよ?」
というよりも、たぶん今頃後悔しているのではないだろうか。
シャルロットが苦笑いをしながら視線を穂次から喧騒の聞こえる方向へとズラす。きっと悩んでいるだろう彼女を思い浮かべて、珍しく弱っている穂次へと視線を戻した。
戻してから、ようやく気付いた。
どうして穂次は私の前でこんなに弱々しいのだろうか。
元気がない、と言えばソレまでなのだけれど、ソレでも彼ならば空元気で自身を適当にあしらって消えることも出来たかもしれない。
「まあ嫌ってなかったとしても、俺としてはアレは咎められるべき行為だったのですよ」
「ふーん……いつもの穂次らしくないね」
「その穂次君は海の底で反省してるから」
「じゃあ君は誰なのさ」
「ホント、誰でしょーね。俺もわかんねェッス」
冗談みたいなシャルロットの問いかけに対して、ようやくヘラリと笑うことの出来た男は息を吐き出して立ち上がる。
「よし、色々聞いてくれてサンキューです」
「もう大丈夫?」
「あー、まあ、なんつーか、変に弱い所を見られた方がちょっと辛いッスなぁ」
「私は別に気にしてないけど?」
むしろ、ちょっとだけ弱い彼を見れることに優越感を覚え始めた。
穂次としては秘密にしたい事を自分だけは知っている、という事は非常に心にくる。まあその秘密にしたい事が別の女が原因というのは頭にくるが。
「ホント、シャルロットさんには頭があがらねーッス」
「ほら、穂次は私に仕えてるからね」
「第二王女様の御心のままに……てか、よくその設定覚えてたな。何気なく吐き出した設定だったんだけど」
「それは、まあ」
そっぽを向いて空笑いをするシャルロットに疑問を感じる穂次。その疑問を問いただすことは無い。問いただした所で答えはまともに返ってこないだろう。
そんな何度か夢に出てきた『騎士な彼と王女様な自分の禁断の恋』のせいで覚えていた、なんて事は決して無い。ないったら、無い。
「セシリアさんに謝らないとなぁ……許してくれるといいんだけど」
「でもほら、セシリアにも冷静になってもらわないといけないから、ちょっとだけ時間は必要だよ」
「そうですなぁ……お昼時にでも謝りますかね」
「そうだね。それじゃ、……お昼までわたくしと遊んでくださらないかしら?」
「……謹んでお受けいたします、姫様」
立ち上がっていた彼に対して手を弱く差し出せば、彼は少しだけ間を空けてから手首を優しく掴んでシャルロットを立ち上げる。そして頭を垂れた辺りで二人同時に噴き出した。
「プッ、ふふふ」
「アハッハッハッハ! 二人とも水着だから格好もつかねーッスなぁ」
「そうだねー。それに穂次は騎士としての忠義よりもおっぱいを見そうだし」
「そりゃぁ、欲望には忠実に生きないとネ! ああ、シャルロットさんシャルロットさん――」
「おっぱい触るとか言ったら灰色の鱗殻だよ」
「風穴が一つ増えそうですね……」
風穴どころの話ではないのだけれど、ソレはともかくとして。
穂次はようやくシャルロットの姿を再確認する。セシリアほど白くはないが、それでも十二分に魅力的な肌を晒し、穂次に見られている事を認識して隠すでもなく、少しだけポーズを決めてみせたシャルロット。
「どう?」
「――……うん」
「いやいや、なんで海の方を向くのさ」
「まあまあ。神様に近しい存在を直接見ると障るって謂われてるからつい」
「なにそれ」
「天使だって直接見てると気が狂うかも知れないだろ? そういう事」
「ふ、ふーん」
「あんまり褒めなれてないんだから、俺にこういうのを求めるのも間違ってるんだゾ☆」
「軽口ではスグに出るのにね」
「そういえばそうだな……なんでだろ」
「なんでだろーね。ふふ。さ、泳ごう?」
「……え? 泳ぐの?」
「だって海だよ?」
「いや、海だけど……あー、ほら、準備運動しなきゃいけないから」
「ほら、そう言わずに。行くぞー!」
「あ、待って待って! 腕持って行かないで! うっひゃぁ! 柔らかいおっぱいが俺の腕に当たってますよ!」
穂次の分かりにくい褒め言葉とソレが本人も理解出来てない軽口否定の言葉を受けて少しだけ上機嫌になったシャルロットは穂次の腕を抱いて歩き出す。
抱き締められた腕に当たる柔らかい感触にテンションが急に上がっている穂次。けれども目の前に広がる海と『泳ぐ』という単語に身体は引け気味である。
さて、おっぱいを押し当てる事は成功したシャルロットであるけれど、彼女とて乙女であるそれなりに常識を持った人物である。当然、それは羞恥心もある事を意味して、露骨におっぱいを押し当てている事を明言されれば流石に恥ずかしくなる。
穂次相手に恥ずかしがる、というのはなんというか釈然としない。照れ隠しに繋がるのだけれど……変に照れ隠しをするよりも、穂次が相手ならば簡単な照れ隠しの方法がある。
「もう、穂次の変態!」
「ちょ、押し出すのは、がぼがぼ」
「え? ちょ、大丈夫!?」
冗談ではない明らかな溺れ方に焦るシャルロット。不運なことは彼の居た位置から変に水底が深くなっていた事だろうか……。
いいや、そもそも彼が泳げないことを言っていれば問題は起きなかったのかもしれない。
どちらにせよ、彼は溺れてしまったのだからもう遅い話なのだろう。
少しの間、溺れてぐってりした穂次を膝枕をする。というシャルロットが砂浜で見れるのだけれど、ソレは語るべきではないのだろう。
>>弱い穂次
女の子に見栄を張ってる姿ではない、ある意味「素の穂次」。
ヘタレのヘタレてる部分
>>俺の股間がスターライトmkⅢッ!
彼の意識がラピッドスイッチ
>>『騎士な穂次と王女様なシャルロットの禁断の恋』
某国の妹姫であるシャルロットと姉姫である政治にセシリア。それに仕える穂次を巡る妄想。
騎士は常にへらへら笑っているけれど、姫様たちの居ない所ではしっかりと鍛錬をしていたり、社交の場ではそれなりに騎士としての立ち振る舞いをしている。何かと忠義に熱い騎士であるが、姫様相手になると甘くなり、わがままを聞いてくれたり、お忍びなども苦言を漏らさずに守護していたりする。
ちなみに妄想の中には仲間の騎士であるイチカ・オリムラも登場する。
>>神様を直接見ると障る
神事とかで布で顔を隠しているのはそういう理由。
わかりやすく言うと、黄色い布を全身に被った存在をちょくせつミ無くてイいYOウニでス
分かりにくく言うと、パンチラの奥みたいなもの