何かといってちゃんとラブコメってる穂次。
ボケとボケの絡みは楽しい。
最高の特典。
以上三点が今回の物語だ。
トンネルを抜けると、そこは海であった。
青い空。ソレを反射する青い海。白い砂浜。可愛い女の子達。実に、実に素晴らしい!
コレが現実だったならば俺は昇天していただろう。けれど、俺は知っている。知っているんだ。コレは儚い夢であり、そしていつか俺は現実へと戻るのだ。
「いや、逆に考えて夢なら手を出しても問題ないのか……」
「穂次、ココは現実だよ」
「いや、そんな訳がないだろ。いいか、シャルロットさん。君みたいな美少女が俺の隣に居て、更にはきっと海では水着姿を披露してくれる。まるで夢の様な出来事が俺には待っているだろう。なんせ、夢なのだから。だったら今スグに触っても、何も問題はない。そうだろ?」
「別に触ってもいいけど、織斑先生が睨んでるよ」
「現実は厳しいッスなぁ」
「おかえり、穂次」
出来るのならばずっと夢の中に居たかった。夢に鬼なんて出てくる訳もないので、きっとコレは現実なのだ……。
ともあれ、長時間バスに揺られてようやく海が見れる場所まで来たのだ。到着はもうスグなのだろう。シャルロットさんが隣にいるというこの現状が崩れるというのは少しばかり悲しいけれど、ソレは仕方がない。なんせ水着が見れるのだ。そう、水着である。水着。
「いやー、今から楽しみですな」
「そうだね。セシリアは君が選んだ水着を着るらしいから、楽しみだろうね」
「ひぇ……急に不機嫌になるのは怖いからやめてくれないですかね……」
「別に不機嫌なんかじゃないよ」
「笑顔が怖――いやー! とてもステキな笑顔ですね! 冷や汗かいちゃうほどステキッス!」
「ありがとう」
ニコリと笑っているシャルロットさん。けれどソコに温かみなど決してない。笑っているのに、スゲー冷たい怖い恐ろしい。なぜこんなに恐ろしいのだろうか。きっとソレは俺にやましいことがあるからなのだろう。靴下を何足か拝借している事に気付かれたのだろうか……いいや、それとも別の何かに。
「ネックレスまで買ってるし……」
「ん? 何? もしかして何かお土産でも欲しかったとか?」
「……はぁ」
「呆れられた!?」
「……じゃあ、今度私もどこかに連れて行ってよ」
「デートってヤツですか!? 緊張するなぁ!」
「……荷物持ちだよ」
「アッハイ」
「……ふん」
そっぽ向いかれたけれど、どうやら幾分かは機嫌が直ったらしい。一体何が楽しくて俺の様なヤツと買い物に行くのだろうか。理解に苦しむ。セクハラされたいのだろうか……いや、セクハラされたいに決まっているそうだな!
「そろそろ目的地に着く。全員席に座れ。そこの馬鹿の様になりたくなければな」
「センセー! 座る以前に、なんで俺は搭乗早々縛られたんですか!? 見せしめですか!?」
「お前の様なヤツをこの密室空間で自由にしてみろ――」
「やっぱり見せしめだったのか……」
「私がお前を殴るかもしれんだろ?」
「俺の身の安全の為に……!」
「穂次、まず殴られることに疑問を感じようよ」
ホント、コレが現実なら昇天しそうです。
バスが到着して、俺の拘束を速やかに解いてくれたシャルロットさん。どうして彼女が雁字搦めの俺を素早く解けたのか、どうして慣れた手付きだったのか、俺には聞けなかった。聞く必要も無く、席順が決まった瞬間に織斑先生による縛り方講座をしていたのだから知っていたのだ。講座に出席していたのは俺とセシリアさんとシャルロットさん、そして織斑先生の教えという事もありボーデヴィッヒさん。ちなみに俺は縛る方ではなくて縛られる方として講座に出席させられていた、と言った方がいいのだろう。
果たして俺はどうしてそんな講座に疑問を一切持たずに参加していたのだろうか……。いや、アノ時点では美少女に縛られるという変な優越感に浸っていたのだ。なるほど、コレは巧妙な罠だったんだな!
「それでは、ココが三日間お世話になる花月荘だ。全員……特にそこの阿呆は従業員の仕事を増やさないように注意しろ」
「俺だけ何で名指しなんですかね……」
「むしろ阿呆が定着してる事に疑問を感じろよ、穂次」
「俺としては夏野穂次って名前よりも嬉しいかもなー」
「いや、ねぇだろ」
「そこの阿呆と馬鹿者。私の面子を潰して楽しいか? ああ、楽しいだろうな」
「ヒッ……」
一夏と話していると非常に重圧の篭った瞳の千冬様がコチラを見ていた。実際怖い。一夏なんて背筋を伸ばして既に謝る体勢だ。甘いな、一夏。こんな重圧にそんな態度だなんて……。土下座の体勢が最適解だとなぜ知らない!!
「あらあら、こちらが噂の」
「――ええ。まあ。今年は男子が居るせいで浴場分けが難しくなって申し訳ありません」
「はえー……女将さんは若くてお綺麗で、なんともステキですね」
「あらあら、ありがとう。でも、そういうのはアナタを想ってくれている女の子に言ってあげるべきよ?」
「言いたいんですけど相手がいないのでー」
「――あらあら」
何がおかしいのか、女将さんはクスクスと笑っていた。その視線は俺ではなくてその後ろの方へと向けられていたのだけれど、よもや幽霊か何かでも見えているのだろうか。或いは怨念的な。生霊かもしれない。
「それじゃあみなさん、お部屋の方へどうぞ」
「いやー、旅館なんて初めてだから楽しみッスなぁ」
「ああ、夏野。お前の部屋だが」
「まさか織斑先生と一緒ですか!? ……命日かも知れんな」
「命日にしてやってもいいが、残念ながらお前は私と一緒の部屋ではない」
「なら山田先生!? ヒャッハー! 神様! 信じてました!!」
「それも違う。当然、女生徒達とも違う」
「一夏と一緒かよ……ペッ」
「おい、反応悪すぎるだろ」
「残念ながら、お前の好きな織斑と一緒でもない」
「って事は一人部屋ですね! やったぜ!」
「そう、お前は一人で離れに部屋を取ってやったぞ」
「……え? マジで一人なんスか?」
「そうだ。特別扱いだぞ、嬉しいだろう」
「ワーチョーウレシー……完全に危険人物扱いかよ……神様なんてもう信じねぇ」
皆ガヤガヤと楽しそうなのに、俺一人で離れか……ホント、隔離状態か何かかな……?
いや、それでも俺は女生徒達の姦しい姿を見に来るだろう。例え織斑先生に見つかろうが関係ねー! 臨海学校だぞ! 旅館だぞ! 風呂を覗かねば!!
「ちなみに、何か仕出かしてみろ――」
「ヤダナー、俺が何かすると思ってんですかー? アッハッハッハ、いやいや、そんなまさか」
「お前は現実を越える事になる」
「臨界学校だったのか、たまげたなぁ……」
殺されるのだろうか……はたまた限界ギリギリまで圧縮されたりするのだろうか。怖い。でも覗きたい。女の子の裸を、おっぱいを見たい! 水着があったな。期待しよう。決して俺は命が惜しくなった訳じゃない。そう、もっと、こう……利己的に生きる事を心がけるのだ。そう、決して鬼の折檻が怖い訳じゃない。
怖い訳じゃ、ないんだからねッ!!
「よっす、一夏。さっきぶり」
「お、おう。穂次」
「どした? つーか、何。そのウサミミ……」
「いや、まあ。なんというか」
「篠ノ之さんがスッゲー厳しい顔で俺の横を過ぎてったのと何か関係あんの?」
「あー……まあ」
「……え? まさか世界の篠ノ之博士が埋まってるとか? つーか、ウサミミが地面から生えてる時点でだいぶ意味不明なんだけど」
もしかして地球はバニーさんだった……? また一つ世界の謎を解明してしまったぜ! いや、冗談はともかくとして。
『引っ張って下さい』とわざわざ書いている辺り、天才の仕業とは到底思えないのも事実だ。天才と馬鹿は紙一重というから何も問題ないのだろうか……。
「で、引っ張るのか?」
「まあ、こんな紙を張られたらな」
「マジかよ。俺は絶対に引っ張らないぞ! こんな感じに引っ張らないからな!!」
「あー……」
「…………ふっ、流石は天才の罠と言った所か!」
「いや、お前が馬鹿なだけだろ」
「それな……つーか、根元? も無いんだけど。篠ノ之博士が埋まってるとか思ってたんだけど? あのおっぱいの! 素晴らしい! 美人な! 篠ノ之博士は一体ドコ!?」
「知るかよ」
「あら、穂次さんと一夏さん……兎の耳?」
「おお、セシリアさん。このウサミミを見てどう思う」
「……穂次さんがしますの?」
「しねぇよ!? どうして俺の周りの人間は俺に女装させようとしたり、ウサミミを付けさせようとしたり、ホモだったりするんだ!!」
「俺はホモじゃねぇから最後の奴は別の誰かだな!」
「お前に決まってるだろ……! 俺達、友達だろ!!」
「友達をホモ呼ばわりするような友人いらねぇよ!」
そんな一夏のツッコミを受けながらへらへら笑っているとどこからともなく高い音が響いた。この音には聞き覚えがある。山田先生がISで突っ込んできた時も同じ音がしたからな。
つまり、この甲高い、耳を突き刺すような音は高機動の何かが迫っていることを示す。
え?
「うひゃぁっ!?」
轟音と激震。俺の背後に突き刺さった何かがソレを地面に伝わらせ、俺が飛び跳ねて驚くに足る脅威を伝えた。
俺はその脅威を睨むよりも前に、俺の前に居た二人を睨んだ。
「う、うひゃぁ、って……ぷっくく」
「うひゃぁっ、フフフ、フフ」
「あのさ! お前ら、人が驚きで出た素っ頓狂な声を笑うってどうなの!? スッゲー恥ずかしいからやめて!」
「『うひゃぁっ!?』」
「何録音してんで――すか、ね?」
「いやはや、ツマラナイけどいっくんが笑ってくれるとってもいい物が録れたよ!」
その人はドレスだった。正確に言うなら、エプロンドレス。腰ではなく腹部に巻いたベルトにより細さが強調されている。頭には機械式のウサミミがあり、流れるような長髪が実に綺麗だ。顔も何度も資料で見たことがある。
そして、何より、なんだ、このおっぱいは。いいや、ソレこそバランスが良過ぎてデカく見える。ここまで素晴らしいバランスを見せられると、流石に唖然とするしかない。
「素晴らしい、おっぱいですね」
「ああ、私に話しかけないでもらえるかな?」
「あ、一夏の言う通りの人だわ……」
「いや、今のは世間的にも普通の反応だぞ」
「なんですと!? この天才的人災である束さんが世間と一緒の反応をしてしまったなんて……!!」
「なんで束さんが落ち込んでるんだよ」
「篠ノ之博士。安心してください。世間の考えなど、アナタの頭脳と比べれば塵芥と燃えるダイヤモンド! 全く別モノです!」
「……あー、俺だとツッコミが追いつかない」
「その別モノな頭脳、奇抜な発想。そう、世間如きと同じ反応など、篠ノ之博士に似合わない! 俺におっぱいを触らせることにより、その世間と同じというレッテルを剥がすのです!!」
「し、仕方ないなぁ! この天災、篠ノ之束が世間と同じ反応なんてする訳ないね! このおっぱいを、君に!」
「うっひょぉぉ――フベッ」
「あ、ゴメン。用事があるからまた今度ね!」
「そ、そんな……俺に、俺に救いはないんですか!! スカートの中を覗けるとか! そういう特典があってもいいじゃないですか!!」
「穂次さん? ちょっとだけ黙ってていただけますか?」
倒れた俺の背骨に圧し掛かる何か。感触からして硬いのと、後ろを振り返ればセシリアさんが足を僅かに上げてることからきっとセシリアさんが俺の背中を踏んでいるのだろう。
なんで俺が踏まれなきゃならないんだ! 特典か!? 特典か!! 特典だな!! うひゃぁぁぁあ!!
「セシリアさん! やめて踏まないで!」
「……踏むなら素足で、とか言いませんわよね?」
「何故ばれた!?」
「…………」
「それで、いっくん。箒ちゃんはどこかな?」
「え? あー……」
「篠ノ之博士! 俺知ってますよ! 本館の方です!」
「うーん? 私の箒ちゃん探知機だと本館じゃなくてアッチなんだけどなぁ?」
「壊れてるんじゃないッスか?」
「そっか、元々君は壊れていたね。イヤッハッハッハ、束さんも忘れてたよ☆」
「なんだろ、スゲー不当な扱い受けた気がするゾ☆」
「こんな美人に不当な扱いを受けれるなんて、君は実に幸せだなぁ」
「なるほど! やっぱり篠ノ之博士って天才ッスね!」
「そうでも、あるかな!」
「アッハッハッハッ!」
「ハッハッハッハッ!」
「……一夏さん」
「何も言うな、セシリア。俺はもうツッコミはしない」
へい、そこの友人! 俺達だってドコまで突き進めばいいかわかんないんだから、いい加減に止めてくれ!
「ま、いいや。それじゃ、またね、いっくん」
「あ、はい。出来れば千冬姉の居るときに戻ってきてください」
「うんうん! 勿論だよ! なんせ、ちーちゃんと私は親友だからね!」
「美人同士の絡みか……鼻から熱い何かが迸るゼ!」
「……」
「アァ! 踵でグリグリするのやめてぇ! 筋肉のスジに入ってるから! 痛いから!」
「…………」
「無言!? セシリアさん! 無言はいけませんよ!」
「それじゃ、そこで這い蹲ってるヒトもまた後でね!」
「助けて篠ノ之博士! せめてこの状況に一言何か言って下さい!」
「うーん……? 野外でそういうプレイはイタダケナイゾ!」
「な、な、な、何を言ってますの!?」
「ぐへあっ!」
「穂次……いいヤツだったな……」
「じゃ、また後でね!」
ステップでも踏むようにスカートを翻しながら走り去った篠ノ之博士。果たして鼻歌でも歌っていたのだろうか。そんな事よりもどうしてスカートの中身が見えなかったのか、鉄壁にも程がある。もう少し守備を弱めてもいいだぞ……!
スカートも見れないのなら仕方ない、という声を「よっこいしょ」に変換して立ち上がる。少しだけ痛む背中を押さえてしまう。
「アテテテテ……」
「その、穂次さん大丈夫ですか?」
「セシリアさんの全体重が掛かった程度で別に問題ねーです。つーか、軽かったし。踏まれて嬉しかったし。あの状態になると苦しいが気持ちいいになるって、エロい人が言ってた。な、一夏!」
「急に俺に飛び火させるのはやめろ。セシリアも信じるな。コッチを凄い冷たい目で見るな。そういう目は穂次にしてくれ」
「照れるぞ!」
「…………」
「スッゲー冷たい目だぁ……」
「それより、穂次も泳ぎに行くのか?」
「俺の場合は泳ぎに行くというよりも、女の子を見に行くと言った方が正確、かな」
「それ、キメ顔でいう事じゃないぞ」
「穂次さん?」
「ゴメンナサイ!! ……なんか最近、俺の説教ポイント多くね? 気のせい?」
「気のせいじゃないかも知れないが、お前のせいだから問題ないな」
「なるほど! 俺のどこが悪いんですかね……」
「頭の中?」
「直しようが無い!」
果たして俺の頭の中が悪いのならばどうすればいいのだろうか。やっぱり真面目にするべきなのだろうか……でも、真面目におっぱいを求めている俺としては今こそ真面目な訳であって、なんだ真面目じゃないか。
「セシリアも海に行くのか?」
「! そ、そうですわ! わたくしも海に、い、行くのですが」
「なんかスゲー挙動不審になってんですけど、大丈夫ッスか?」
「お黙り!」
「ヒッ……急に女王様みたいな口調になったんですが……最高だと思う。思わない?」
「知るか」
「ふぅ……それで、その。背中にはサンオイルが塗れませんので、その――」
「なるほど。一夏、ご指名だぞ」
「俺?」
「いえ、その……で、できればなのですが。穂次さんに……」
「……一夏、俺を殴ってくれ」
「任せろ」
「痛い! 何の躊躇もなし!? もっと何かあるだろ!!」
「お前が殴れって言ったんだろ? それで?」
「痛かった。夢じゃない……え? 夢だろ。いや、むしろ夢でオールオッケー。何も問題ない!」
「……なあ、セシリア。穂次にソレを頼んでよかったのか?」
「少しだけ反省してますので、ちょっとだけ待って下さいまし」
殴られた俺を見下すように立っている一夏とセシリアさん。額に抱えるように手を置いたセシリアさんが溜め息を吐き出してコチラを見た。青の瞳がコチラを貫き、スッと細められた。
「まあヘタレなので問題ありませんわ」
「ぐはっ」
「穂次! 大丈夫か!?」
「お、おのれ、セシリア・オルコット……! この恩はちゃんと返すからなぁ!!」
「待ってますわ」
「穂次の中ではさっきの発言がいい出来事として認識されてるのか……え? どういうこと?」
混乱する一夏を放置する様に、鼻歌混じりにステップを踏んで歩き出すセシリアさん。
やっぱりスカートの中身は見えなかった。
>>離れの理由
穂次は隔離しなきゃ……
>>塵芥と燃えるダイヤモンド
過程の途中だから別モノだけれど、結果は一緒
>>天才的人災
略して『天災』
>>一夏「俺だとツッコミが追いつかない」
お前が追いつかなきゃ、誰が追いつくっていうんだ!! ……あ(察し
>>意味無いつぶやき
下書き、というよりはPC上で保存している各話には適当な通し番号を振ってる猫毛です。その通し番号が正しいとは言ってない。
さて、ここから先の話を少し。
まずセシリーが必死に頑張ったオイル塗りを完走します。セシリーだけだとアレなので何かしらシャルロットさんにもイベントを用意します。用意できるかはわかりません。
あ、当然一夏との風呂シーンは用意するから見とけよ見とけよー!