欲望にはチュウジツに!   作:猫毛布

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息抜き(6000字

遅くなりました。調子悪くなってますね。
難産でした。生まれたからそのまま投稿します。


醜いアヒル

 シャルロット・デュノアはいつもの様に目を覚ました。

 まだ暗い部屋の中、ベッドのスプリングが揺れて浅い眠りが覚めた。最初の一日以外はずっと同じ時間に目を覚ましている。

 ベッドを揺らしたのは他でもない、夏野穂次であり、シャルロットが眠っているかの確認の様に息を潜めて動きをみせない。

 シャルロットはいつもの様に、少しだけわざとらしく、「う~ん……」なんて言いながら寝返りをうつ。

 

「……うん、今日も可愛いなっ」

 

 まるで確認の様にそう呟いた穂次。目を覚ましているシャルロットからすればここ四日程毎日言われている事であり、眠っている自分のことを考えれば穂次の言葉に嘘はないのだろう。故に少しだけ恥ずかしい。

 異性に直接褒められる事に慣れないシャルロットは赤みが差した顔を隠すように穂次に背を向けている。

 

 スルスルと布が擦れる音が聞こえ、穂次の不恰好に潜めた足音がベッドから遠のく。

 これも、いつもの事だ。

 穂次はこの時間になると、何処かへと行く。

 パタリと扉が閉められて、シャルロットは起き上がる。

 

 人の好奇心というモノは抑えられないのである。

 

 用意していたジャージを拾い上げ、寝間着の上に羽織る。扉を静かに開いて廊下を覗けば、少しばかり小さくなった穂次の背中が見えた。

 シャルロットは穂次に習うように、静かに扉を閉めて穂次の後を追う。心のドコかで一夏の元へ向かうのではないか、という何かを思いながら。

 

 穂次を追う。その事は意外とすんなりと完了した。

 そもそも穂次が慎重すぎる程に辺りをキョロキョロしていたり、警戒し続けて歩く速度が遅かったのが原因だ。それでもシャルロットがまったく発見されていなかったので、その精度は推して知るべしである。

 

「……アリーナ?」

 

 寮から抜け出して、アリーナ。シャルロットの中で様々な予想が立てられる。その半数以上が"盗撮"などの変態的行為の数々であるのは穂次にとって名誉なことなのだろう。きっとそうに決まっている。

 ともあれ、アリーナへと入られては追うことは難しいだろう。さて、どうするか……。

 

「おい、そこの生徒。何をしている」

「ヒッ!?」

「……ん?」

 

 シャルロットは声に思わず背筋を伸ばし、錆びたブリキの玩具の様に振り返った。ソコにはスーツに身を包んだ織斑千冬が立っていた。

 

 ヤバイ。マズイ。殺されるかもしれない。

 

 シャルロットはそう思った。

 当然、千冬と言えど何もなく生徒に攻撃するような性格ではない。更に言えば殺す訳もない。

 千冬は睨む様な視線をシャルロットへと向けて、ふむ、と一言唸ってみせた。

 

「あの阿呆め。あれほど自分から人に言うなと言っておいて……情けないな」

「え?」

「どうした。お前がどこのクラスかは分からんが、寮から出たアイツの後を追ってきたんだろう?」

「そ、そうです! 穂つ、夏野君がこんな時間に寮から出てて、気になって」

「……まあいい。気になる様なら見ていけ」

「え? でも」

「わざわざ阿呆のミスを拭うつもりはない。それにピット内部はアイツから見えん。バレることもないだろう」

 

 つまり、シャルロットの口から何かを言わない限りバレはしないだろう。そういう事である。

 何が楽しいのか、千冬は口元を歪めて笑いシャルロットを案内する。

 

 

 

 ピット内部には幾人かの教師が居て、シャルロットは少しだけ身を千冬の背へと隠した。

 

「ご苦労、諸君。ついに阿呆がバレたぞ」

「やった! コレで賭けは私の勝ちね!」

「あぁ! もう! 半年なんて賭けなきゃよかった!」

「そう言うな。最短の一日だった私は既に全額支払いが決定しているんだぞ?」

「そりゃぁブリュンヒルデが悪りぃな」

 

 和気藹々と会話をしている教師達を見て、シャルロットは自分との接点の少ない教師達だと判断できた。

 ちゃんと姿を現し、頭を下げたシャルロットに対しても名前やクラスなんて聞かずに「よくやった」なんて言っている辺り、教師としては問題だろう。

 

「それで……その、夏野くんは?」

「もう始まっているんだろう?」

「そりゃぁ、いつもの様に」

「モニターに」

「はいよ」

 

 スルメを咥えた教師はコンソールを弄りモニターに光を映した。

 そこに映されたのはISを纏った夏野穂次である。

 空を駆け、盾で攻撃を防ぎ、八方から来ている攻撃を捌いている。

 

「……凄い」

 

 シャルロットがそう評する程度に穂次の動きは機敏だった。尚且つ、穂次の表情は一片の笑いもなく、真剣そのものであり、僅かに汗も流している。

 

「被弾は?」

「七、いいや、今当たったから八だねー」

「……まだ甘いな。まだ五分も経っていないだろう」

「おぉ、おぉ、ブリュンヒルデ様はお厳しい事で」

「初日を考えるとだいぶ成長してるんですけどねー」

「そうさ。このBOTだってアンタが設定したヤツなんだろう? ブリュンヒルデ?」

「…………ふん。阿呆が頼んだ事だ」

「夏野君は何を?」

「あん、見てわかんねーか? 特訓だよ、特訓」

「え? でも、夏野君は自分のことを」

「ぶあっはっはっはっ! 天才だってか? アイツがぁ? 見ろよ、アレが天才のする行動で、天才がするような表情かよ!」

「まあ普段はずっとへらへら笑ってますからねー」

「夏野くんが天才なら、IS乗りはみんな天才って訳ね」

「つーか見ろよ、被弾が十超えたぞ」

「タイムは?」

「八分二十秒。昨日よりも三秒長くなったわね」

 

 昨日よりも、という事は穂次はこの"特訓"とやらを昨日もしていたのだろう。

 シャルロットは真面目な顔をしている穂次と射出されている攻撃を見つめる。

 

「あー、ココから、何もアシストなけりゃぁ結構攻撃が激しく見えるだろ?」

「え? あ、ハイ」

「でもハイパーセンサー越しだと、あの攻撃はかなり避けやすい設定になってるのよ」

「え? ……じゃあ」

「あの阿呆はその程度も避けれない、という事だ」

「コレでもだいぶマシにはなってんだけどな」

「代表候補生ならば二時間もあれば被弾も無くなるだろう」

「おいおい、ブリュンヒルデ。あの馬鹿と代表候補生なんて比べんなよ」

「アレが望んだのはそのレベルだ。マイクを借りるぞ」

「お好きにどうぞ」

 

「おい阿呆。何度同じミスを繰り返せば学ぶ? 初日から何を学んだ?」

『もう一回、もう一回お願いします!』

「……同じミスは繰り返すなよ?」

 

 射出される攻撃。ソレを避け続ける穂次。

 日頃見る事の出来ない穂次の表情がシャルロットに濃く映る。果たしてこの特訓とやらはいつから続けれている事なのだろうか。

 どうして特訓なんてしているんだろうか。それなら普段から真面目にしていれば……。

 シャルロットからしてみれば穂次が何を考えているのかさっぱり分からない。分かる訳がない。

 

「ど、どうして穂次は特訓を?」

「あ? そりゃぁ、カッコいいからだろ」

「あら? 格好悪いからって言ってなかったかしら?」

「どっちも変わんねぇよ。人に努力されてるのを見られたくないんだとさ」

「え? なんで……」

「さぁ? 私たちにもさっぱりなんだよねぇー」

「いつも飄々として、ヘラヘラしてる馬鹿やってる馬鹿が実はスゲー努力してて、何回も失敗して、何回も挑んで、んで、ようやく成功に一歩近付く」

「それがあの阿呆にとっては格好悪い事らしい」

「普段、女の子の前では虚勢張って頑張ってるからねー」

「そういやあの一年のイギリス代表候補生戦は燃えたよな」

「珍しくブリュンヒルデが上機嫌だったものね」

「ごほん」

「あら、失礼」

 

 話を聞けば聞くほど、シャルロットはこの場にいる事を後悔してしまう。

 穂次にとって見られたくなかった所。ソレを見てしまった。偶然という訳でもなく、ただ気になってしまったから。

 けれど、汗だくになって真面目な顔をしている彼はいつもの幾分も格好良く見えてしまった。だからこそ、見るべきではなかったのかも知れない。

 

「む、帰るのか?」

「はい……その、私が居ちゃ、邪魔かな、と」

「別に邪魔なんかじゃねぇよ。私たちだって酒飲みながらだしなー」

「下戸のアナタは麦茶じゃない」

「うるせぇ! スルメぶつけんぞ!」

「やめてよ、ワインには合わないんだから」

「あー、私食べるー!」

「うわ! お前! 私に寄るな! 酒くせぇ!」

「その……穂次にも悪いですし」

「あー、じゃあ仕方ネェな。アイツは白鳥みてぇに水中でバタバタしてんだから」

「白鳥? 精々アヒルがいい所でしょ?」

「それもそうか」

「あの阿呆の扱いは変えてやるなよ。アレは阿呆が望んでいることでもあるからな」

「……はい」

「ああ、それと。お前は誰かわからんが、帰ったらベッドで眠っていろ。アイツが戻ったときお前が居なかったらソレこそアイツが騒ぐからな」

「……ワカリマシタ」

 

 これはバレてるなぁ。とシャルロットは乾いた笑いを出して、カタコトの言葉を吐き出した。

 

 夏野穂次が部屋に戻ってきたのは、シャルロットが部屋に戻って二時間後の話である。

 

 

 

 

 

◆◆

 

 悪夢にも似た日曜日も終わり、ようやく月曜日がやってきた。用事を終わらせる為に街に繰り出さなくてはいけない日曜日ほど苦痛なものはない。逆に言えば美少女を愛でるだけの学園生活は非常に素晴らしい。可愛い人が多いというのはそれだけで素晴らしい。

 それで俺におっぱいを揉ましてくれるのならばもっと素晴らしい。ああ、おっぱい。おっぱいが触りたい。

 逆に考えよう。おっぱいが俺に触られたい時はどういう時なのだろうか? それはきっと、おっぱいが俺を求めている時だ。きっとソレが今なのだ!!

 

「セシリアさん! おっぱいを触らしてくれませんか!」

「おはようございます、穂次さん」

「挨拶みたいに定着しちゃったかぁ、おはよう、セシリアさん。今日もお綺麗ですね!」

「は?」

「あれ? 俺って今普通に挨拶したよね? 反応逆じゃない?」

「穂次さんが普通に挨拶なんてする訳がないですわ……偽者?」

「俺の様なイケメンが二人もいたらセシリアさんが困っちゃうじゃないですかー」

「そうですわね。鬱陶しくて殴ってしまうかもしれませんわ」

「ひっ……セシリアさん、既に拳が俺の横を通過したんですが」

「……チッ。鈴音さんに近接技術でも教えていただこうかしら」

「それは実にいいと思うよ! アームロックとか、チョークスリーパーとか、いいと思うよ!!」

「…………何を考えてますの?」

「おっぱいの事に決まってんだろ!!」

「聞いたわたくしが悪かったですわ」

「そんなにマジで謝られるとどうしていいかわからねーんですが……」

 

 しっかりと溜め息を吐き出されて諦められたような目を向けられた。ゾクゾクするよね!!

 教室に入れば今居るクラスメイトがコチラを向いて、安心したように息を吐かれた。

 

「よかった、織斑君じゃなかった」

「なになに? 面白い話?」

「女の子だけの話なんだけど、月末の学年別トーナメントで優勝すると織斑君と交際出来るんだって!」

「……あ、俺って女の子だったな! いやん、忘れてたわん!」

「穂次さん、慰めてさしあげましょうか……?」

「うん……いや、慰められると余計に心にきそうだからいいや」

「…………」

「どうしてそんなに残念そうな顔をしてんですかね……俺が傷ついて嬉しい事でもあるんスか」

「そ、それは……」

「それは?」

「べ、別になんでもないですわ! 汚い顔をコチラに向けないでくださいます!?」

「えぇ……」

 

 俺はもう立ち直れないかも知れない。いや、どうしてかプンプンと怒っているセシリアさんは可愛いからソレを見て癒されるんだけど。

 ソレにしてもようやく一夏と交際できるという噂が学園中に回ったか。この前まで一夏の部屋の周りだけで立ってた噂だった事を考えれば早い方なのだろうか。

 

「ん、おお、おはよう。シャルル」

「あ、うん。おはよう。穂次」

 

 同室であるのに今日初めて見たシャルル。つーか、ここ二日ぐらい距離を置かれているんですが……。

 俺が何かしたの? まさか寝惚けておっぱい触っちゃった? それともシャルロットが眠った後に毎日寝顔チェックしてる事がバレた? それとも下着の匂いを嗅いだのがバレたか……? ヤバイな、身に覚えがありすぎるんだけど……。

 ハッ……まさか……。

 

「シャルル……、お前、俺に惚れたのか」

「総受け君は黙ってくれるかな?」

「その不名誉すぎるあだ名はどうにかならないッスかね……」

「二人ともおはよう」

「おはよう一夏。今日も人気だな、ホモのくせに」

「おはよう一夏。穂次と末永くお幸せに」

「なあ朝から俺って何かしたのか? 少なくともシャルルには何もしてないと思うんだけど」

「俺には何かしたのか!」

「お前は常に何かしてるだろ、既に日常みたいなもんだ」

「お、おう……でも反応してくれないと悲しいんだゾ☆」

「ふーん」

「俺を虐めて何が楽しいんですかね……」

「一夏と穂次はそのままがいいよ!」

「なあ、穂次。シャルルに何かあったのか?」

「一夏は知っちゃいけない世界だ。マジで」

「あー、うん。その世界の事はさっぱりわかんねぇけど、触れてはいけない事だけはわかったわ」

「そんで、一夏って月末のトーナメント誰と組むか決まったのか?」

「は? 組むってペアじゃないとダメなのか?」

「らしいぞ。俺は先輩さんに聞いた」

「穂次の人脈すげぇ……」

「ふっ、褒めるな。ちなみにお陰で財布は軽くなったゾ」

「あぁ……ドンマイ」

「じゃあ、一夏は穂次とペアだね」

「そうだな」

「……なあ、シャルル。お前、他意はないんだよな?」

「他意はないよ!」

「…………」

「おおぅ。穂次がすげぇ顔してる。大丈夫か?」

「いや、なんつーか、頭痛が痛い」

「ソレ二重になってるぞ」

「まあいいや。俺は一夏と組まないから」

「そうなのか?」

「当然だろ。お前の機体と俺の機体を考えろよ。セシリアさんとか、中距離が主なシャルルとかと当たると死ねる。主にお前を守る俺が死ぬ」

「お、おう。じゃあ、組もうぜシャルル」

「え? 僕でいいの? 穂次じゃないよ?」

「なんでシャルルは俺にそこまで穂次を推すんだよ……」

「んじゃ二人は決定って事で。ま、俺もお前と戦いたかったし」

「……負ける気しないぜ?」

「言ってろ。勝ちを譲る気はねぇよ」

 

 互いにニヤリと笑い、戦意を確認する。ついでに流れも頂いたので俺は宣言するように言葉を吐き出す。

 

「優勝はこの俺、夏野穂次が頂く! その報酬も当然、譲るつもりはない!」

「きゃああああああ!! 夏野君が遂に嫁宣言したわ!」

「いいえ、織斑君が婿なのよ! 夏野くんは嫁だから!」

「やっぱり織斑君を盗られたくないのね!」

「なあ、穂次。どうしてこんなに騒がれてんの?」

「俺は知りませんなぁ」

「その顔は絶対知ってる顔だろ」

「ハッハッハッ。知りませんなぁ」

 

 俺は面白さの為にならば自分の犠牲も厭わないぞ!! お前も一緒に風評被害に見舞われろ!!




>>特訓
 初日の申請書類に紛れさせていたのがコレの申請。
 実際はアリーナの使用許可の申請だったが、織斑先生が興味本位で教えている。
 いくらブリュンヒルデが教えていると言えど、クソみたいな才能しかないので、ノビシロはそれほどない。
 織斑先生がよくIS操縦に関して穂次を信頼していたりするのはコレが理由。
 特訓、というよりは努力をしている事を他人に知られたくない穂次は必死でソレを隠していたりする。出来て当然のことを当然にする為に、ずっとヘラヘラ笑える為の努力。

>>穂次のISランク
 特訓の話も出たので、ISランクはC-。操縦技術を努力で無理矢理補ってはいるけれど本当に最初は乗れるだけだった。
 反応速度なども一般生徒を下回る才能です。

>>アリーナで出てきた女教師四人
 たぶん、三人。
 キャラ的には
 下戸で口の悪いけど熱い女性(褐色。
 ワインとチーズを食べながら毒を吐く丁寧語の女性(金髪
 ウォッカ瓶が三本目に突入しているのんびり女性(ロシア
 鬼。
 以上。

>>他意はない。
 他に意味はない。つまり、そういう事だ。

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