欲望にはチュウジツに!   作:猫毛布

14 / 85
息抜き(6000字

そろそろ穂次の黒い所を出していきます。


誤字訂正しました。


機密文書

 シャルル・デュノアはゴクリと喉を動かした。

 手に持った文書を穴でも開けんばかりに凝視して、その文面、そして図に意識を集中させていた。

 

 

 

 

 数分前。

 セカンド、夏野穂次に部屋に案内されたシャルル。どうやら穂次はこの後に織斑千冬に呼び出しを頂いたらしく出頭しなくてはいけないらしい。

 一日も経過していない筈なのに、穂次という人物だから仕方ない。と容易く思考してしまう程度には穂次はわかりやすい人物だった。

 ともあれ、シャルルにとってはルームメイトにあたり、そして思惑の標的の一人にあたる。本国からすればファーストである織斑一夏と同室である事が好ましかっただろう。

 けれど、セカンドであっても、この世界に二人しか居ない男性IS操縦者だ。親交を深め、その情報を得る。更に言えばお調子者である穂次の事を考えれば織斑一夏への接近も容易に済むかもしれない。

 そんな事本国からのお達しを受けたシャルルからすれば、正直どっちでも構わなかった。お調子者とは言えど、恐らくこれから仲良くなる人物を裏切ると考えれば気は重かった。ソレは笑顔で隠したけれど。

 

「んじゃ、ここが部屋な。んで、コレが鍵。もしドコか行くんだったら寮母さんのいる受付に渡しといてくれ」

「うん、わかったよ」

「部屋にあるものは勝手に弄っても構わない……っても俺の所有物なんて結構少ないんだけど」

「そうなの?」

「そうなんですヨ。ま、詳しい説明とかは戻ってからするわ。急がないと織斑先生に殺されるかも知れん……」

「じゃあ僕の一人部屋になるんだね!」

「ヒッ……俺は帰ってきますよ、シャルルくん」

「アハハ、頑張ってね」

「優しさが心に染みるなぁ……」

 

 そんな会話が終わったのが数分前。

 出て行った穂次を見送り、ようやく部屋に一人になり、鍵を後ろ手で閉めたシャルル……いいや、シャルロット・デュノアは息を吐き出して、髪と胸部のコルセットを外した。解放感を味わうように深呼吸をして、ふぅ……と息を吐き出した。

 

「とりあえず、第一ステップは問題なし……かな?」

 

 親交を深める、という点においては優秀とも言える一日だった。そうシャルロットは自身を評価した。尤もその評価をした所で自分に嫌悪感が沸いて、ソレを溜め息で誤魔化した。

 三人目の男性IS操縦者。ソレは虚偽である。そもそもISが男性に操縦できる訳がない。いや、その前提を覆してしまった存在が二人ほど存在しているが……。

 シャルル・デュノア……いいや、シャルロット・デュノアは女性である。自己紹介の時に穂次が「男な訳がない」と言った時は肝を冷やしたけれど、それでもその穂次自身がさっぱり怪しむ事もせずにシャルロットをシャルルとして受け入れているあたり、親交を深めるという点では優秀だっただろう。

 

 さて、と思考を改めたシャルロットは当然の様に家捜しを開始する。穂次自身は自身の所有物が少ないとは言っていたが、もしかしたら穂次の所属する組織、つまる所の日本政府の情報が何かしら出てくるかもしれない。

 もし出てこなくても何も問題はない。そもそも出てくるとは思っていない。出てくれば奇跡とも言える程度の期待だ。

 風呂場、トイレ、キッチン、引き出し。様々なところを探したシャルロットがタンスを開けて、その手を停止させた。

 

 男性用の下着が並んでいる。当然である。夏野穂次は男性なのだから。

 

 そんな当たり前の事でシャルロットの意識が僅かに切り替わる。

 男の子の部屋に入るなんて初めてだなぁ。

 そう考え始めればかなり恥ずかしい事をしている。いいや、コレは任務なのだ。仕方ない。うん、そうに決まってる。

 少しばかり顔を赤くさせたシャルロットは男性用下着に触れて更に顔を赤くさせた。

 

「コレは布。そう布の塊なんだ、シャルロット・デュノア……頑張れ!」

 

 自分自身を鼓舞し、パンツの海へと手を突っ込む。当然肌には布の擦れる感覚が広がり、シャルロットの頭はパンクしそうなほど膨らんでいる羞恥心で満たされた。

 数分もしない内にパンツの捜索は終了した。いや、シャルロットの心の都合上で何も無しと判断されてものの数十秒で完了した。果たしてソレを完了と呼ぶかは別としてシャルロットの中では完璧に、完全に、完了したのである。

 

 果たして家具の少ない部屋での捜索はアッサリと終了した。結果的に言えばやはり何も無かった。

 シャルロットからしてみれば「そりゃそうだ」という感想も沸いている。穂次という人物を考えてみれば、それこそ機密文書など持っている訳が無い。むしろこの家捜しで盗聴などの監視が無かった事を確認した、と思った方が幾分も価値があった。

 

 ふぅ、と息を吐き出してベッドの上に座る。ギシリとスプリングが響いて、そのままベッドに横たわる。寝ることは無いけれど、変に気負ってしまったシャルロットの暫しの休息は必要だ。

 ハチミツの様に深い金色の髪が布団に広がり、シャルロットはゆっくりと呼吸をした。

 

「――っ!」

 

 何かを思い出した様にシャルロットは半身を上げて両膝に手を乗せて背筋を伸ばしてしまった。その顔は真っ赤である。正しく、その匂いは穂次の匂いであると脳は判断した。それもその筈。普段そのベッドで眠っているのは穂次である。

 今日何度か鼻にした匂いよりも濃い穂次の匂い。いい匂い、という訳でもないが不快になる様な匂いではない。

 異性、という事もあり、イケナイ気持ちがフツフツと沸いてきたシャルロットは自分の中の妄想を振り払う。それこそ、あの夏野穂次に女だとバレてしまった自分を想像してしまった。あれよあれよと衣服を脱がされてしまい。

 

「わ、わぁあああ! やめ!」

 

 パタパタと自分の脳にストップを掛ける。妄想の雲を霧散させて、殆んど空っぽな冷蔵庫からミネラルウォータを取り出してグラスに注いで勢いよく飲み干す。

 タンッと音を鳴らしてシンクに置かれたグラスと冷たい水を飲んで幾分か顔の冷めたシャルロット。少し荒くなった息も深呼吸をすれば落ち着く。

 

「ふぅ…………ん?」

 

 シャルロットの視線がソコに集中した。確かにソコは探していなかった。

 別に期待もしていなかったけれど、あそこまで探したのだから、ソコを見ないという選択肢はあってないようなモノだ。

 シャルロットの足はゆっくりとソコに近付く。

 膝を曲げて、顔が床に触れそうになる程下げて片目だけでソコを覗いた。

 

 何かがある。箱に入れられた何かだ。

 

 思考を少し巡らせたシャルロットは、ベッドの下へと手を滑り込ませた。

 そうソコは男の秘境。全ての男性諸君が一度は使用したであろう女性禁制の秘密の隠し場所。女性諸君はソコを探したこともあるだろうが、そこは何もなかったと、そう言ってほしい。決してその"何か"を見つけてもベッドの上に置いとくとか、机に置いて、挙句の果てには「もっと上手く隠してねッ」なんて書置きを残してはいけない。

 

 指に箱が引っ掛かり、自分の方へと寄せたシャルロット。

 

「……見つけた」

 

 いいや、「見つけちゃった」というべきだったのだろう。

 ようやくベッドの下から拾ったソレは黒い箱だった。更にソコには『機密』と書かれた紙が張られている。機密も何もない、とは言ってはいけない。

 シャルロットは喉を鳴らして、緊張しながら蓋を開く。当然、何かの引っ掛かりを感じれば即座にこの行動をやめるつもりで、作業には細心の注意が払われた。

 そんなシャルロットを嘲笑う様に、箱はアッサリと開いてしまった。警報も何も鳴らない。「そりゃ、映画じゃないんだし……そうだよね」と呟きながら、シャルロットは安堵の息を吐き出して蓋を自身の近くへと置いた。

 

 さて、中身を確認しなくてはいけない。とシャルロットは視線を戻した。戻してしまった。

 

「何……コレ……」

 

 シャルロットが声を震わしてそういうのも可笑しくはなかった。シャルロットは震える手でその文書を一冊(・・)持ち上げる。

 

「穂次と……一夏?」

 

 そうソコに描かれていたのは夏野穂次と織斑一夏に相違ない。いいや、絵になっている事で幾分か美化されているが、確かに特徴は捉えられている。

 問題はその二人が上半身裸で表紙に描かれている事だ。そう、まだ表紙である。

 震える手で一ページ目を開く。

 

「っ?! ?!?!?!?」

 

 何も声は出なかった。シャルロットとてマンガを読んだ事が無い訳ではない。コマ割を考えて話の流れを掴む事も出来る。いや、ソコは何も問題ではない。

 どうして穂次と一夏がまるで恋人の様に絡んでいるのか。ソレがシャルロットにはさっぱり分からなかった。ただ顔が熱くなるのは分かる。

 

『夏野。いい加減俺の方を向いてくれよ!』

『いいや、俺は女が好きなんだ……! お前の事なんか、別に……』

『俺の気持ちに気付いているんだろ!?』

『お前には、篠ノ之さんが……』

『そんなの関係ない! 好きだ! 穂次!』

『……一夏』

 

 幾分か前に描かれたモノなのか、本の中での一夏と穂次は冒頭では苗字で呼び合っていた。そこから一夏が告白し、二人は名前を呼び合い、互いの愛を確認し合っている。

 一応、言っておくが、当然の様に表紙には『この物語はフィクションです。実在の団体、人物、地名とは一切関係ありません』と小さく注意書きもされている。尤もそんなモノを確認できる程シャルロットは冷静でなかったが。

 

 

 さて、ようやく冒頭に戻り、シャルロットは手に持った文書(BL同人誌)を穴が開かんばかりに凝視している。

 幾らか読みにくいコマ割りであったからか、それとも別の理由があったからか、少しだけ時間を掛けて一冊目を読み終わったシャルロット。箱にはまだ本というには薄い、けれども濃い本があった。

 

「ほ、ほら。機密文書があるかも知れないし、確認だから、確認……」

 

 一体誰に言い訳をしているのだろうか、この娘は……。さて、機密文書(BL同人誌)も二冊目に入り、お互い名前で呼び合う程度に仲良くなった一夏と穂次。さりとてその仲は許されるモノでもない。同性愛の壁は多いのだ。

 

『箒、やめろ。穂次を虐めるな』

『なぜだ一夏! こんな軟弱者……!』

「ただいまー……」

『一夏、俺はいいから……』

『いや、穂次。俺は恋人が虐められて何も言えない彼氏にはなりたくない!』

『一夏……』

「無視はキツイなぁ……あっ」

『一夏! 何を言っている!』

『もう一度言うぞ箒……! 俺は穂次が好きなんだ、愛し合ってるんだ!』

 

 一夏と穂次にとって最初の壁である篠ノ之箒。コチラも非常に特徴を捉えられている。妙に爆乳化されているのは何か作者の恨みでも込められているのだろうか……。ともかくとして、二冊目ともなればコマ割りは随分とよくなっていて非常に読みやすかった。けれどもシャルロットはしっかりと時間を掛けて読みきった。機密文書があるかも知れないから仕方ない。

 さて、ナンバリングされているモノを取り出せば箱には別の作品が見えてしまった。三巻しかない。いいや、三巻も描けている方が異常なのだが、読者シャルロットからすれば物足りなさを感じる。

 いいや、けれど、私は読むね。と言わんばかりにシャルロットは表紙を開いた。当て馬、というには悪いがそこにはセシリア・オルコットが描かれている。コチラも随分と特徴が捉えられているが、実際よりも幾分も鼻に付く喋り方なのは作者の嫉みでもあるのだろうか……。ともかくとして、三巻目ともなれば目も慣れていく。

 

『オーッホッホッホ! 穂次さんはわたくしがいただきましたわ!』

「あー……うん、風呂入ってっから」

『一夏……悪い……お前とはもう』

『穂次! そんな事を言うな! 俺とも愛は嘘だったのかよ!』

『一夏……ッ』

「普通だと思ったら腐男子か……イケメン腐男子って……はぁ」

『穂次さん? わかっていますわね?』

『ああ……ッ! 俺の事はいい、でも一夏だけは!!』

『オーッホッホッホ!!』

 

 果たして穂次はセシリアに何を掴まれてしまったのか、セシリアに性的に責められ続けていた穂次。そして一夏は自分の何も出来ない事に苦悩し、そこに誰とも分からない影が出て三巻が終わった。果たしてあのツインテールの小さな影は誰だったのだろうか。コレは四巻目が楽しみである。

 満足気に、けれども続きの巻がない事の物足りなさを感じながらシャルロットは本を閉じた。

 時計を見ればかなり時間が経過してしまっている。おっと、危ない。これ以上何かをしていれば穂次が戻ってくるかも知れない。シャルロットは少し凝り固まった背筋を伸ばし、別の本はまた今度にでも。と静かに箱をベッドの下に戻した。

 穂次が戻ってくる前にシャワーを浴びて、またコルセットをして……とシャルロットは脱衣所へと向かった。

 

 しかし、世界は広い。まさか穂次と一夏があんな関係だったなんて……。

 

 悶々と妄想が広がり、裸の一夏と穂次が絡み合う。当然そこに愛はある。非生産的極まりないが。

 そんな妄想に取り付かれつつも服を脱ぎ、浴室の扉を開いた。

 

「ん?」

「え?」

 

 二人は目をしっかりと合わして固まった。

 

 なんで、どうして穂次がここに居るの? え? どういう事?

 

 そんな思考がシャルロットを巡っている中、穂次はシャルルの顔を見て、視線を少し下げた。隆起している胸部から細く綺麗に絞られた腹部。小さな臍とどうしてか湯気で見えにくい腰。

 

「――え?」

 

 落ち着け、落ち着くんだ夏野穂次。もう一度、よく確認するんだ。

 次はしっかりと、シャルルの顔を見て、そのまま視線をゆっくりと、舐める様に下げる。

 

 うん、おっぱいがある。おっぱいである。おっぱい。え? おっぱいってなんだっけ?

 

 互いに混乱に支配されている中――尤も穂次はそれでもおっぱいを凝視していたが――シャルロットは先に覚醒した。

 

「なんでいるのッ!?」

「いや、普通に戻ってきてただろ……! つーか、え? こっちがどういう事が知りたいんだけど?」

「え? きゃああああああああああああ!!」

 

 シャルロットは自分の状態を改めて確認して、自分の一部分を見てそう言っている穂次に向かって悲鳴を上げながら、手近にあった風呂桶を投げる。石鹸も投げた。

 風呂桶は額に、石鹸をアゴに喰らった穂次はシャルルを制止する。

 

「待て待て! 椅子は冗談になんねーよ! 死んじゃう! 死んじゃうから!」

「死ね! 死んじゃえ! 変態っ!」

「えぇ……自分で入ってきてソレってどうなんスか……」

「う、ああああああ!」

「まあ、落ち着け、シャルル。ただコレだけは言わしてもらうぞ

 

 

 

 ナイスおっぱい!」

 

 シャルロットの投げた椅子は綺麗に回転して、穂次の頭を蹴り飛ばした。

 撃沈してしまった穂次に気付いて慌ててしまうのは数秒後の話である。




>>穂次の黒い所を出していきます
 ブラック企業的な仕事量だから嘘ではない。

>>ベッドの下
 何かがある。そう、何かが

>>機密文書
 心の弱い人が見ると自殺モノ



出てきそうな質問集
>>なんで穂次はBL本持ってんだよ……
 貰えるものは全部貰うって明言している所で譲ってもらってることも書いてた気がする

>>なんで穂次が戻れたの? 鍵してたじゃん
 すり抜けれる
 という訳もなくて、どこかの金髪とかポニテ怪人が一夏の居るときに破壊して鍵部分が空回りしてる。
 後ろ手で締めて心労も多かったシャルロットは気付かなかったらしいッスよ

>>穂次っていつ戻ってるの? そんな描写あった?
 BL文の途中で戻ってきてます。苦痛でしょうがご確認ください

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。