恋姫†有双   作:生甘蕉

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二十三話  無印的?

 黄蓋が自ら魏に降ってきた。

 まあ、苦肉の策なわけなんだけど。

 裏切るのわかってるし。

 

 連環の計の鎖は誰が持ってくるんだろう? 雛里ちゃんも翠もたんぽぽちゃんもこっちにいるのに。

 それとも、蜀ルートでも使ってなかったし、連環の計は重要じゃないのかな?

 

 その黄蓋は星の誘いで華雄も交えて飲酒中。

 星は酔いつぶして本心を引き出すと言ってるらしい。……呑みたいだけなんじゃない?

 昼間の雪辱戦だと霞も参加してる。……呑みたいだけなんじゃない?

 

 

「私たちとの最中に余計なことを考えてるなんて、ずいぶんと余裕があるわね?」

 桂花の背中越しに華琳ちゃんが睨む。俺もお酒飲みたいなあ、とか考えてたのがばれたのかな。

「余計なことじゃないよ。たまには桂花の顔見ながらしたいなって」

 誤魔化すようにそう言った。

 二周目になってから、つまり二本になってから桂花一人を相手にしたことがないので、いつも桂花の背中やうなじばかり見ている気がしてるし。

「あ、あんたの顔見ながらなんて嫌よ!」

 そうか。桂花の顔見るって事は、俺の素顔も見られちゃうのか。むう。

 

 

「皇一のを通して桂花がわかるの。不思議ね」

 真桜がお菊ちゃんで再現できないって嘆いてるのはその辺なのかな?

 どんな感じなんだろう? 俺の感じてるのと違うのかな?

 

「早く代われ!」

 秋蘭といっしょに待っていた春蘭が急かす。

 さっきまで華琳ちゃんと桂花だけじゃなくて、春蘭と秋蘭の二人も参加してたんだけど、さすがに辛かったのでどいてもらった。

「四人同時とか大変なんですが」

 華琳ちゃんは七人までならいけるって言ってたけど、同時じゃないだろうし。

 同時でもいけるのかな? 参考に教えてもらおう。

 ……今聞くと実践させられそうだから、後にしとくか。

 

 

 

「……しばらくお預けとは言ったけど激しすぎよ」

 俺は江陵の城で留守番させられる。

 捕虜にした孫尚香ちゃんが奪還されないようにするのが、主な任務。

 だが本当の理由は「戦いの度にいちいち死なれると、楽しめないの」らしい。

 相手の動きとか策とかがわかってのやり直しは嫌みたい。なので、俺もネタバレ発言控えさせられている。

 

「腹上死ん時のこと思い出して必死になっちゃったかな?」

 以前に華琳ちゃんにも指摘されたけど、一周目よりも精力が増してる気がする。本数が倍で出してる量も倍なはずなのに。

 あっち限定だけど前より疲れないようになっているみたい。周回ボーナスの隠れた効果なんだろうか?

 

「船使ってたら、桂花あたり疲れで寝ちゃってたりして」

 馬で寝れるのは風ぐらいだけど、船ならね。

 でも、船はあまり使わない。やっぱり連環の計はできないっぽい。

「呉の誇る水軍を打ち負かすのも捨てがたいけれど」

「それ以上に騎兵を使いたい、と」

「ええ。神速の驍将、白馬長史、錦馬超。この三人を同時に投入する甲斐のある相手などもはや臨めなくなるわ」

 うん。手に入った戦力を使いたくて仕方が無いってとこなんだろうな。

 

 涼州と戦わずに同盟した効果は、翠とたんぽぽちゃんだけではなかった。

 涼州の兵だけではなく、馬も無駄に消耗されてない。その馬を魏は多量に購入している。

 騎兵を率いる将も充実してるし、機動力は間違いなく三国一だろう。

 雛里ちゃんもついているし、赤壁のことは心配しないでいいのかも。

「これ以上は明日に差し障るか」

「今度はもっと人数増やしてもよさそうね」

 なに言ってんのさ華琳ちゃん。

「それとも……ふふ」

 楽しそうに微笑んでるけど、なにかよからぬこと考えてません?

 

 

 

 

 留守番を始めて数日。

 尚香ちゃんを救出しようと攻めてきたり、密かに進入しようとする敵はいまだにいない。こちらに回す余裕がないのだろう。

「沙和、サボってちゃ駄目だって」

「サボりじゃないの。捕虜の世話してただけなのー」

 俺と同じく城の守備を任され留守番の沙和。ちょくちょく牢へとやってきている。

 牢、と呼ぶには豪華なお部屋。尚香ちゃんを捕らえている部屋である。

 沙和は尚香ちゃんとお洒落の話で盛り上がっていたようだ。テーブルの上には阿蘇阿蘇のバックナンバーが並べられていた。持ってきてたのか。

 

「捕虜の相手をする時は眼鏡取りなさいって言ったでしょー!」

「沙和だって眼鏡してるよ」

「むー」

 そんな可愛らしく睨まれてもね。

「じゃあ、沙和も外して」

「ええっ? それだとせっかくの隊長のお顔、沙和しっかり見れないの! 断固拒否するのー」

 尚香ちゃんの提案を沙和も拒否する。

 けど、いつの間に沙和と真名で呼び合う仲になったんだろう。二人とも自分のことを真名で呼んだりするから真名自体はすぐに知ることができるけど。

 

「顔見せてよー」

「そうなのー。ケチケチしちゃ駄目なの。昨夜は暗くてよく見えなかったのー」

「沙和には見せたの? シャオには見せてくれないのに!」

「えへへー。する時は眼鏡外しなさい、って隊長は華琳さまに命令されてるの!」

 あちゃー、なに教えちゃってるかな。

「……沙和としたの? 曹操の夫なのに?」

「沙和も隊長のお嫁さんなのー!」

 ブイサインを見せる沙和。

 むう。たしかに初めての時に俺の嫁になる覚悟あるかって聞いたけど、沙和とはまだ結婚式をしてない。……早くみんなと結婚式したいなあ。

 

「それより、聞きたいことがあるんだけど」

「孫呉の情報なら絶対に話さない!」

「そう言わずにお願い。魏や呉だけじゃなくて、この世界の存亡にかかわってくることだから」

 ぶっちゃけ、呉の情報だけなら聞く必要はない。周瑜が無印と真のどっちに近いかが気になるぐらいで。

「え? 世界?」

 尚香ちゃんだけでなく、沙和までもが驚いた顔を見せる。俺がそんなこと言うなんて予想外なんだろうね。

 

「呉で最近、怪しい白装束のやつ見てない?」

「白装束……あ!」

 少し考えてから声を上げる尚香ちゃん。やっぱりいるのか?

「いた! 北郷一刀!」

 ってオイ。そりゃ白がイメージカラーだけども!

 

「一刀君は怪しくないでしょ!」

「えーっ、天の御遣いだなんて胡散臭すぎるじゃない! 呉のこと利用する気満々だし」

 ……やっぱり一周目のシャオちゃんと違うなあ。一刀君のことをこんな風に言うなんて。なんか久しぶりに一周目の一刀君たちを思い出して寂しくなってきた。

「どうしたの?」

 怪訝な顔で俺を覗き込む尚香ちゃん。

 どうやら俺はまだ泣かずに済んでるみたい。だいぶ吹っ切れてきたのかな。

 

「ええと、白装束っていうのは、こーんな被り物をしてて」

 白装束の尖がった被り物を、頭上に両手でジェスチャーする。

 ちなみに「こーんな」は道路工事のコーンをかけているのだが、もちろん二人ともわかってくれない。寂しい。

「それは格好悪いのー」

「そんな変なやつらは見てない」

 そうか。まだ動いてないのかな?

 干吉が密かに接触するとしても、無印のように一度孫権が負けてからだろうし。

 あと、わかったことがもう一つ。

 同盟したかはともかく、一刀君たちが呉と接触してるということ。やっぱり雛里ちゃんの言う通りだったか。

 同盟してるかどうかは教えてもらえないだろうし、華琳ちゃんや雛里ちゃんたちはそのことを織り込み済みだから聞く必要はない。

 

「ありがとう」

「もういいの?」

 気になっているのはそれぐらいだし。ちょっと安心できたから仕事に戻ろう。

「うん。次はもっと楽しい話しようね」

「勉強会?」

 あえて忘れるようにしてることを思い出させないで。

 資料はだいたい出来たんで、もう頭の中から追い出していたのに。

「そ、それじゃまた……」

 俺は逃げ出すように牢から出た。

 

 

 

 

「華佗?」

「はい。戦場へ案内してくれと」

 城を訪ねてきた医者がいるというので詳しく聞いてみると、馬騰ちゃんの経過を診るために涼州に残った華佗だった。

 

「もう馬騰ちゃんは大丈夫なのか?」

「ああ。薬が効いてな。もう俺の手は必要ない」

「ありがとう」

「いいさ。医者の務めだ」

 うん。よかった。翠も喜ぶだろう。早く教えてあげたい。

 それにしても華佗の薬か。材料は考えない方がよさそうだ。……む?

 

「薬って、竜退治とかしたのか?」

「よくわかるな。皇一にも薬の知識があるのか?」

 竜の肝を使ったのって孫権の薬の材料だったはずだけど、あれは貂蝉と卑弥呼もついていた。

「いや、そうじゃなくて、一人で倒したのか? ……筋肉質の大男二人といっしょじゃなくて」

「なんとか一人で倒したが?」

「そ、そうか」

 この華佗、真・恋姫†無双の華佗よりも強いんじゃない?

 それとも、ヴリトラとは別の竜だったのかな?

 萌将伝の一刀君たちが倒したクラスの竜なら、華佗一人でもなんとかできそうだし。

 

 あと、気になるとすればもう一つ。華佗がここに来たってことはあれか。

「竜の首の珠って持ってきたか?」

「竜は全身が秘薬の塊、あれもこれもと考えていたらキリがないのだが、それだけが妙に気になってな」

「持ってきてるのか!?」

「あ、ああ。どうしたんだ? この秘薬が必要な患者がいるのか!?」

 貂蝉がいないのに、竜の首の珠があるってことはやっぱりそうなんだろう。

 俺は急いで尚香ちゃんに会いに行った。

 

 

 

 

 決戦は野戦だったようだ。よく赤壁から引きずり出したなあ。

 俺が辿り着いた時にはもう決着はついていた。

 絶影でかっ飛ばしたんだけどね。華琳ちゃんには緊急時に使用していいって許可はもらっていたし。

 

 華琳ちゃんの前には呉将が並んでいる。尚香ちゃんが捕縛されたのと同じく無印っぽい展開だけど、軍師も勢揃いしている。つまり、周瑜もいた。あとなんでか、大小の二喬も。

 でも、一刀君たちはいない。

「一刀君は?」

「わざわざ北郷を確かめにここまできたの?」

 呆れた顔の華琳ちゃん。

 なんか他のみんなも微妙な顔してるし、タイミングまずかった?

 

「あ、俺の話は後でいいから」

「そう? ……邪魔が入ったわね、孫権。敗者としての屈辱を与えてほしい、だったわね?」

 頷く孫権。

 ……そんなとこまで無印っぽいの? 孫策がいないと、どんなに真の武将や軍師が増えても呉は無印方向なの?

「そうね。なら閨へいらっしゃい。もちろん、その時は皇一もいっしょに」

「ちょっ!」

 抗議しようとしたら、城から連れてきた娘が現れた。

 

「ずるいお姉ちゃん!」

 尚香ちゃんである。

「尚香ちゃんが来たってことは」

「うん。もう大丈夫だって、ほら!」

 尚香ちゃんの後ろに立つ褐色爆乳。並んでると大きさが余計に際立つな。

 

「な……! まさか、もう化けて……!」

「ちゃんと生きてるってば! シャオたちが助けたんだから!」

 俺がここに来た目的。

 それがこの熟女、黄蓋の救出。

 

「華佗は他の怪我人の手当てをするって」

 俺は華佗と尚香ちゃんといっしょに戦場へ駆けつけた。絶影なら三人乗りぐらい余裕で、それでも他の馬よりも速いからね。

 予想通りにすぐに重傷の黄蓋を発見。華佗が血造りの秘薬、竜の首の珠を使って治療したというわけ。

 

「そっか。よかったな、尚香ちゃん」

「私の真名は小蓮。シャオでいいよ。祭の命の恩人だもん♪」

 真名をくれたのは嬉しいけど、余計に一周目のシャオちゃんを思い出しそう。

 ……いや、もう吹っ切ったはず。だから俺は泣かない。

「ありがとう。俺は真名がないから好きに呼んでね。おじ様とか」

「じゃあ皇一って呼ぶね」

 やっぱり呼び方まで前と同じか。……このシャオちゃんとも同じぐらい仲良くなれるといいな。

 

「なるほど。華佗に助けられたのか」

「うむ。星に聞いたが、以前に華佗に冥琳を診るように薦めたのも、そこの曹操の夫だそうじゃ」

 黄蓋の言葉で、呉勢の視線が一斉に俺に向く。

 怖いんですけど。

 なんか顔見た後がっかりしたため息ついて、視線を下にスクロールさせてるよね。どこ見てるのさ?

 

「魏の双頭竜……い、いや、礼を言わねばなるまい。周瑜と黄蓋の命を救ってくれてありがとう」

 ああ、孫権たちは知ってるんだ、その二つ名。

「お礼にシャオもいっしょに閨に行ってあげる♪」

「シャオ、なにを言ってるの!」

「華琳ちゃんもなにを言ってるのさ!」

 双方の合意がないと俺は嫌なんだってば!

 べ、別にさっきからずっと愛紗が凄い目でこっち睨んでるから止めてるんじゃないよ。

 

「皇一、黄蓋を助けたことは褒めてあげる。けれど、孫尚香はなぜ連れてきたの? 保護があなたの任務だったはずよね。それにずいぶんと仲良くなって」

「道案内してもらうつもりだった。途中で道案内は城の兵士でもよかったって気づいたけど、ここへ着くのを優先させた」

 迂闊だよなあ、やっぱり。逃げられる可能性もあったんだし。

「そう。なら、お仕置きは孫権を可愛がるのを手伝うということで許しましょう」

 そう言ってから俺に囁く。

「孫策に孫権を会わせたらどんな反応するか見たいでしょう?」

 

 

 

 

 結局、シャオちゃんは華琳ちゃんの説得により諦めてくれた。

「どんな風に説得したの?」

「勉強会の後の方がいいと言っただけよ」

 それって諦めてないってこと?

 

「勉強会?」

「できれば孫権もそれの後での方が……」

「皇一の二つ名を知っていた孫権ですもの。その必要はないでしょう」

 華琳ちゃんの言葉で孫権の顔が真っ赤になる。やっぱり俺の身体のこと知ってるのか。

 それとも既に全裸待機の華琳ちゃんの綺麗な身体が気になるのかな?

 

「でもさ」

「ならば重要なことは今から説明する。それでいいでしょう?」

 説明の間、寒くないように俺のYシャツを華琳ちゃんにかける。

 それを羽織る華琳ちゃん。万歳! 裸シャツ完成!

 感涙しそうな俺に、右手がこちらへ差し出された。

「まだ渡すものがあるわよね」

 仕方なく眼鏡を外して渡す。華琳ちゃんは無造作にそれを俺のシャツのポケットに押し込んだ。

 

「嘘……」

 息を飲む孫権。

 そんなに驚かなくても。

「シャオが来たがるわけね……」

 

「さて、この男が言う重要なこと、だけど」

 孫権が赤い顔のまま華琳ちゃんに向き直った。……でもまだこっちを気にしているな。チラチラと目が動いてる。

「結婚する相手としかするな、だそうよ」

「は?」

 確かめるように俺を見た孫権に大きく頷く。

 

「だからね孫権」

 俺が説得しようとしたのがわかったのだろう、華琳ちゃんが先に続けた。

「だから孫権、あなたは結婚しなければならない」

「け、結婚?」

「そう」

「あ、あなたと!?」

 驚くよなあ。女同士だもん。あ、でも孫策と周瑜は二喬と結婚してたから問題はないのか。

 

「別に皇一とでもいいわ。皇一のものは私のものなのだから」

 以前に桂花が予想したジャイアニズムは当たってたみたい。

「こ、この人と私が!?」

「いや、結婚というか、ヤらなければいいだけなんじゃ?」

 会ってその日に結婚とか言われても困るでしょ。

 そりゃ孫権は嫁にしたい君主ナンバーワンとかいわれてたはずだけどさ。あ、俺の嫁にしたいナンバーワンは華琳ちゃんだからね!

 って、もう嫁だったね。

 

「……別に他の男と結婚しなければいいだけだろう。私は結婚などしない」

「ふふ。いつまでそう言ってられるかしらね」

「覚悟は出来ている」

 そんな覚悟されても。

 

「安心なさい。この男は初めての相手にも慣れているのだから」

「華琳ちゃんだって初めての女の子慣れてるだろう」

「皇一ほどではないわ」

「……ふしだらな」

「英雄色を好むと言ってほしいわね」

 華琳ちゃんと孫権が見詰め合って、そして二人とも笑った。

 二人とも英雄と呼ばれてもおかしくない存在だけに、なにか面白いところがあったんだろう。俺にはよくわからんけど。

 

「私のことは華琳と呼びなさい。同じ男に抱かれる仲で真名を預けないのはおかしいわ」

「そういうものか? ならば私のことは蓮華と」

「俺には真名がないんで、皇一で」

 なんか流されちゃってるけど、いいのかなあ。

 

 

 

 あとさ、孫策に蓮華を会わせたいってことはさ、これが終わったら殺されちゃうんだろうな、俺。

 痛くしないでね……。

 

 


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