恋姫†有双   作:生甘蕉

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十六話   姫抱?

 ねねに続いて無事に雛里ちゃんもスカウトできた。

 次は、と考えてみる。

 

 現在一番近いのは洛陽。しかしねねがすでにいる以上、候補は華雄しかいないはず。

 董卓、賈駆、呂布、張遼は一刀君の嫁だし。

 俺としては一周目で一刀君の嫁になった子は狙いたくない。あの結婚式は俺にとって大切な、いやもはや神聖なといってもいい思いでだ。穢したくはない。

 

 星? アレはノーカウントにして下さい。処女のままだもん!

 

 

 程昱、郭嘉はほっておいても魏入りするだろうし、居場所がわからん。

 璃々ちゃん連れてったら華琳ちゃんに怒られるだろう。……その前に流琉やねねに止められるか。遠いし。

 残るロリはとなると南蛮娘か馬岱ちゃんか。どっちも遠いなあ。

 袁術ちゃんとついでに張勲はいないらしい。残念だ。孫策もいないからセット扱いなのかな?

 

 あまり気が進まないけど、ロリ以外で考えてみる。

 厳顔と魏延。BBAはともかく非処女なのが大問題な厳顔。引継ぎのためにもし、なんて考えたら絶対に嫌。魏延スカウトには劉備が必要だろうし、その劉備がどうなってるかも不明。一刀君のとこに居ればいいけど。

 呉勢。……無理。あそこから引き抜けるってありえないでしょ。

 袁紹、文醜、顔良。こっちも無理。俺に家柄とかないから近づけない。もし近づけても顔良以外はまともな話できそうにないし。

 公孫賛。袁紹に負けたのを拾うのが楽そう。だからまだいいや。

 

 洛陽で華雄スカウトってのも不可能だろう。華雄は曹操軍が捕獲するしかないんじゃないかな。

 

 

 

 そんなワケで残る最重要目的、華佗の捜索を続けている。

「やっぱり見つかりませんか?」

「うん」

 相変わらず情報は掴めない。

 漢ルートのスタートが漢中だったから、そろそろこの辺りで噂ぐらいい聞いてもいいと思うんだけど。

 蜀ルートでしかも、真なのが途中からだから全然違う動きをしてるんだろうか? 貂蝉と卑弥呼も一緒じゃないのかもしれない。

 

 俺たちは結局まっすぐ陳留には戻らず、途中のこの街に逗留している。

 華佗を見つけて身体を治してから華琳ちゃんに会いたいし、華佗を探すので時間かけ過ぎたのであれがもう近いというのが理由である。

 

「バイトお疲れ様」

 流琉は路銀が乏しくなってきたのを気にしたのか、料理屋でバイトしている。

 いや、でかい分張々ってかなり食うからさ。餌代けっこうかかるのよ。ねねも大変だったろうなあ。

 俺としてはぎりぎり路銀足りる計算なんだけどね。

 ねねもそれがわかっているのか流琉がバイトしているお店で給仕をしている。流琉のおかげで急に店が混むようになったらしいから、ねねのような小さい子でも雇ってくれたのだろう。

 雛里ちゃんは給仕とか無理そうなので、俺の情報収集につきあってもらっていた。

 

「諸侯はすでに動き始めたって客たちが噂してるです」

 うん。俺たちも華佗の情報を集めている最中に頻繁に耳にしている。

「そろそろかな?」

「はい。連合軍が東から虎牢関を抜けて洛陽に向かうとすると、まず汜水関を攻略しなければいけませんので、たぶん合流地点はここからさほど遠くない所になるかと」

 うん。一周目もそうだったからね。真状態の今じゃ変わるかもしれないけど。

「じゃあ、流琉とねねはお店の方にやめるって伝えてもらえるかな」

 

 

 

 

 街から出て連合軍合流地点に到着。

 二回目だけど、凄い数の兵士に圧倒されながら曹操軍の陣地を目指す。

 親衛隊に顔パスな流琉のおかげで思ったよりも早く華琳ちゃんと再会できた。まあ、軍議は終わっちゃった後みたいだけどね。

「遅かったわね」

 久しぶりの華琳ちゃんは相変わらずの美しさ。真装備の戦装束も初めて見たけどいいね。うん。

 

「ゴメン。全然華佗が見つからなくて」

「言いわけはいいわ。それよりも」

 俺の隣に立つ少女を見つめる。雛里ちゃんびびらなきゃいいけど。

「うん。彼女が鳳雛」

「姓は鳳で名は統で字は士元で真名は雛里です」

 緊張しながらも雛里ちゃんは噛まずに自己紹介できた。ここにつく前にずっと練習してたもんなあ。

 

「そう。皇一が推薦するほどの子。期待してるわ」

「あわわ……」

 まだ慣れてない雛里ちゃんにこのプレッシャーはキツイかな? まあ見た目は不安だけど雛里ちゃんなら、大丈夫……だと思う。

「あとこっちが陳宮。この子はまだまだだけど、しっかり才能を伸ばしてやれれば花開くよ」

 って言ってみたけど実際どうなんだろうな? 萌将伝でも軍師としては残念ぽい扱いだったし。

「姓は陳、名は宮。字は公台! 真名はねねね!」

「ふむ。二人ともよく聞きなさい。私は曹孟徳。華琳と呼ぶことを許しましょう」

 いきなり真名を預けたってことは二人を買っているのかな? まあ先に二人が真名まで名乗ったんで返しただけかもしれないけど。

 

 

「おっちゃん! おかえりー!!」

「た、ただいま、でいいのかな?」

 飛びついてきた季衣ちゃん。戦地なせいで力が入ってるのか、いつもよりかなり痛い。ふんばってなんとか堪えた俺は季衣ちゃんを抱き上げる。うん。これでだいぶ楽になった。

「うん。だって華琳さまやボクたちがいるとこがおっちゃんの帰ってくるとこだもん!」

「そっか」

 抱き上げたまま季衣ちゃんの頬に自分の頬をスリスリ。

 

「流琉もおかえりー」

「もう。兄様の次なの?」

 あれ? なんかまた流琉が俺を睨んでいたような?

「にゃ? 兄様?」

「季衣の言ったとおり、兄様は悪い人じゃなかったからそうお呼びすることにしたの」

 うん。さっきのは気のせいか。

 

「ふーん……なんかズルい」

「え?」

「ずっとおっちゃんといっしょだっただけじゃなくて、妹にまでなってるなんてズルい!」

「季衣なんて兄様のお嫁さんじゃない!」

「そんなの関係ない!」

 なんだろうこのデジャヴュ。俺が季衣ちゃん抱っこしたり肩車したりするとこうなるんだろうか?

 

「どうしたのです、兄殿(あにどの)?」

「あ、ねね。流琉と季衣ちゃんが喧嘩しそうでさ」

 ねねは最近、俺のことを兄殿って呼ぶようになった。お兄ちゃんでいいのに。

「こ、こんなちびっこまで!? ……いいもん。ボクも兄ちゃんって呼ぶ!」

「ねねはちびっこじゃないのですぞ!」

 はいはい。仲良くしようね。

 華琳ちゃんはねねを親衛隊につけた。軍師っていうより副官っぽいポジション? 様子を見ることにしたのかな。

 それとも親衛隊入りって慣れてない子を目に付くとこに置いておきたいのかも。季衣ちゃんや流琉って軍人経験ない子いきなり親衛隊にしてたし。

 

 雛里ちゃんの方はちゃんと軍師として……ってどうしたの、雛里ちゃん?

 俺の服をくいくいと引っ張って。……可愛いじゃないか。

「あ、あの、朱里ちゃんに……」

「ああ、一刀君たちも来てるんだっけ。会いに行こうか」

 

 

 

 

「朱里ちゃん!」

「雛里ちゃん?」

 抱き合って再会を祝うロリ軍師二人。

 華琳ちゃんに許可を貰ってから、俺と雛里ちゃんは一刀君たちの陣営を訪れた。

 

「皇一さん?」

「皇一殿!」

「おっちゃん」

 うん。みんな元気そうだね。あれ? 星はいないの?

 そういや劉備もいないね。

 スタート時に一刀君に関羽と張飛とられちゃってるから、のし上がれてないのかも。あの子一人だと大変そうだ。

 いや、もしかしたら干吉たちに唆されて、後でラスボスポジションで現れたりするのかもしれない。

 ……ラスボス向いてなさそうだけど。

 

「どうしてここへ?」

「今、曹操軍のとこにいるからだよ」

「陳留の曹操?」

「雛里ちゃんも?」

「……うん。朱里ちゃんが一人で出て行って……私も行かなきゃって思っていた時に皇一さんたちが誘いに来てくれて……朱里ちゃんが天の御遣い様のところに居るって教えてくれて……」

 ひしっと抱き合ったまま話を続けている二人。あらら、雛里ちゃんもう泣きそうだね。

 

「そう。……仕官おめでとう雛里ちゃん」

「朱里ちゃん……」

 ああ、もしかしたらと思ったけど、やっぱり雛里ちゃんも朱里ちゃんのいる一刀君のとこにきたかったんだろうな。スタートが無印だったんでかなわなかったけどさ。

 

「雛里ちゃん、君は」

 確認しようとしたら第三者に邪魔された。まあ一刀君のとこに行きたいって言われてたら困ったけどね。

「私のものよ。皇一も雛里も」

 邪魔したのは華琳ちゃんだった。いつの間にきたんだろ?

 

「曹操!?」

 そりゃ驚くよね。こんな超絶美少女がいきなり現れたんだから。

 愛紗の正面に向かっていく華琳ちゃん。まず愛紗に挨拶か。一刀君はもう反董卓連合の軍議で会ってるからいいのかな。

 あ、春蘭と季衣ちゃんもきてた。

「初めまして、と言うべきね、関羽。私は曹孟徳」

 自己紹介の後、愛紗を褒め称える華琳ちゃん。

 あれ? 真・華琳ちゃんはそんなに愛紗に固執しないんじゃなかったっけ? もしかして無印華琳ちゃんの記憶を引継いでるせい?

「うん、愛紗は綺麗だよね。華琳ちゃんが気に入るのも当然だよね。それで、華琳ちゃんなんでここまで来たのさ?」

 面倒くさくなりそうなので介入。後で怒られるだろうなあ。

 

「夫が世話になったのだもの。礼を言いにきたわ」

「夫って、もしかして?」

 なんでみんなすぐに俺の方向くかな? 合ってるけどさ。

「皇一殿、本当に?」

 愛紗、質問が抜けてるけど聞きたいことはわかるよ。

「うん。俺の可愛いお嫁さん。隠してたみたいになってゴメンね。まだ式挙げてないから言い出しにくくて」

「そ、そうですか……」

 戸惑う愛紗の様子に華琳ちゃんが勘違いしたらしい。

「関羽も皇一の嫁におなりなさい」

「いやソレ、礼じゃないでしょ!? なんでそうなるの?」

 思わずツッコんでしまった。

 なんでって顔で見ないで華琳ちゃん。その顔ももちろん可愛いけどさ。

 

「そ、曹操殿の夫なのだろう!」

「私はかまわないわ。私の他にもいるのだし」

 言いながら俺のそばにきたかと思うと、ひょいと眼鏡を奪う。だからそれは止めて下さいってば。頼むから!

「ええっ!?」

「はいはーいっ。ボクと春蘭さまも兄ちゃんのお嫁さん!」

 華琳ちゃんが視線で促したので、季衣ちゃんが嬉しそうにそう宣言した。

 

「にゃにゃっ? こんなチビがおっちゃんの嫁なんて変なのだ!」

 鈴々ちゃんの言葉に季衣ちゃんが挑発し返す。

「ふふん。ちびっこにはわっかんないよねー、大人の関係ってのはさー!」

 大人の関係ってちょっと違うんじゃないかな?

「鈴々は大人なのだ!」

「子供はよくそう言うんだよねえ」

 あれれ? 口で季衣ちゃんが勝ってるっぽい? 真だと鈴々ちゃんの方が口でも武力でも上だったような気がするけど……先に女になった余裕ってやつなの?

 ……二周目の季衣ちゃんはまだ処女なんだけどね。

 

「どう? それとも私のモノになる方がいいかしら?」

 季衣ちゃんと鈴々ちゃんの口論を尻目に俺の髪をいじっていた華琳ちゃん。満足したのか愛紗の勧誘を再開する。

「わ、私は……」

「ほ、ほら、一刀君たちそろそろ出撃するみたいだから」

 もう、何言ってるのさ華琳ちゃん。愛紗は一刀君の嫁でしょ!

 

「華琳ちゃんもそろそろ準備しなきゃいけないでしょ。季衣ちゃんも鈴々ちゃんと喧嘩してないで」

 まだ何か言いたげな華琳ちゃんを抱きかかえる。

「あ……」

「騒がしちゃってゴメンね。健闘を祈ってるから!」

 一刀君の陣から脱出。なんかまたデジャヴュ。

 春蘭、季衣ちゃん、雛里ちゃんがじっと見ているのでなんだろって思ったら……気づいたら華琳ちゃんをお姫様抱っこしてた。華琳ちゃん軽いから非力な俺でもできちゃうんだよね。

 

 

 

 

 汜水関は挑発に乗ってしまった華雄のせいであっさり陥落。

 鈴々ちゃんとの一騎打ちに敗れた華雄は現在手当てを受けている。捕獲したのは流琉とねね率いる親衛隊。

 手負いとはいえ、初陣で華雄を捕まえるのだからたいしたものである。華琳ちゃんの護衛をしていた季衣ちゃんが悔しがったくらいだ。

 星と雛里ちゃんがいなかったせいか、蜀ルートな作戦ではなく魏ルートっぽい展開で曹操軍は隙をついて、汜水関に一番乗りして攻略してしまった。

 

 その日の軍議で虎牢関攻略の指揮権を引き受けてきた華琳ちゃん。

 軍議が終わった後は予想通り正座させられている俺。

「あなたが前回の結婚式で北郷一刀の嫁になった者たちを特別視しているのはわかっているつもりよ。けれど、『今』はあの時と違う」

「でも……」

「すぐに抱けとは言わないわ。引継ぎがなくたって問題はない。だからせめて私の邪魔するのは止めなさい」

「寝取れとか言わない?」

「ええ。だってまだ使えないじゃない」

「うっ……」

 効くなあ。それ言われると辛すぎる。いい加減切っちゃった方がいいのかなあ……。

「泣かないの。辛いのは私も同じなんだから」

「……うん」

 華琳ちゃんも俺の身体心配してくれてるんだね。

 

「わかったわね。愛紗は後にするとしても、董卓軍の武将、軍師全て手に入れる」

「……」

「霞は華雄同様に捕獲。董卓、賈駆は北郷よりも先に保護。いいわね」

「董卓と賈駆は……」

 一刀君の嫁なのに。

「今の北郷が董卓と賈駆を保護でき続けると思う?」

 星もいなければ劉備もいない。雛里ちゃんもこっちに引き入れてしまった。その一刀君たちに預けるのはたしかに不安。

「董卓と賈駆を確保しなさい」

 ……無言で頷くしか俺にはできなかった。

 

「問題なのは呂布ね」

「……もしこの世界がほぼ完全に真の世界で今のルートが蜀ルートだとしたら……」

「るうと?」

「ねねがこちらにいる状況だと呂布は逃げるタイミングを失う」

 引いてくれないとなると、相手をするこちらの被害も大きくなる。

 

「……一周目で一刀君たちがどうやって呂布を捕まえたかおぼえている?」

「漁師が使う投網だと聞いているわ」

「その方法しかないと思う」

「そんな卑怯な手は華琳さまは使わん!」

 春蘭が言うのもわかる。

「うん。だから使うのは華琳ちゃんじゃなくて、俺。こんな卑怯な作戦を指示するのも桂花や雛里ちゃんじゃなくて、俺」

 問題は投網が用意できるかってことなんだけど。

 

「さて、皇一、あなたの部下にする者を紹介するわ」

「はい?」

 え? 今なんて? 話の流れおかしくない?

「いらっしゃい」

 華琳ちゃんに呼ばれて現れたのは三人。

 

「以前お会いしました楽進です。よろしくおねがいします」

「李典や。よろしゅうたのんます」

「于禁なの。よろしくおねがいしますなの」

 所謂北郷隊の三人じゃないですか。うん。やっぱり于禁もいたんだ。

 

「俺は天井皇一」

 ……じゃなくて!

「ちょっと待ってよ! 俺、部隊指揮なんて一刀君とこでちょっとしか経験ないぞ」

「あら、少しは経験あるのね」

 うっ、しまったかも。またうっかりスキル発動してしまったか?

 

「本当はあんたみたいな泣き虫強姦魔に、華琳さまの貴重な部下を預けたくないのに……」

 桂花がそんなこと言うもんだから、三人の表情が曇ったじゃないか。

「ご、強姦魔……」

「無理やりは嫌なのー」

「せやなぁ……」

 いやあのね、できれば部隊指揮の方も不安になってくれませんか?

 

「皇一は現在治療待ち。その心配はないでしょう。治療が済んでも皇一からはありえないわね。三人とも、するなら皇一から同意を引き出してからしてちょうだい」

「なんや身持ち固いんかい」

「疑ってすみませんでした、隊長」

「ごめんねー、隊長さん」

 隊長? 魏メンバーの共通意匠って髑髏のアイテムだからスカル小隊って言えなくもない。緑髪の義妹用意しといてよかったな。じゃなきゃ危険すぎるポジションだ。部下三人の隊長なんて。

 

「華琳さまの夫として、部下ぐらいは持っておらんとな」

「相応しくなるために結構無理してるんだけどなあ」

「ならいつも眼鏡を外していなさい」

「それだけは勘弁して!」

 華琳ちゃんに外される前に急いでガード。舌打ちが聞こえた。それも複数。

「隊長さんカッコイイっていうから見たかったのー」

 ちょっ、なんで初対面の于禁がそんなこと言うの? ……星か?

「兄様、旅に出る前の宴会で眼鏡外したの、みんな見てたじゃないですか」

「うん。それで華琳さまのお婿さんがカッコイイって噂になってるんだよー」

 義妹たちよ、あまり知りたくない情報をありがとう。ううっ、俺は地味なおっさんなのに。

 

 

「皇一、三人とその部隊を率いて呂布を捕獲しなさい」

「それって」

「工兵隊、バッチリ投網の練習しとるで」

 網を投げる仕草を見せる李典。

「呂布を捕らえるのに手段を選ぶ余裕はないわ」

 なんだ、華琳ちゃんもそのつもりだったのか。っていうかあれ? 三人がすぐにきたのって。

「最初から俺にやらせるつもりだったの?」

 華琳ちゃんの夫として俺も手柄を取らなきゃいけないってこと?

「さあ?」

 いじわるな笑みを浮かべてるのに可愛いんだから困る。まったくもう。

 

 

 

 

 眼前には虎牢関。華雄もいないのに外に布陣してる敵軍。

 うん。この展開はやっぱり蜀ルートだ。違うのは虎牢関攻略の指揮権を持つのが華琳ちゃんってことぐらいか。

 

 俺たちは愛紗たちのそばに布陣した。

「皇一殿?」

「うん。呂布がくると思うからよろしくね」

「呂布。ご主人様から、絶対に一人で呂布と戦うなと厳命されるほどの武将……」

 そうなんだよね。けど何故か北郷軍に星がまだいないから、愛紗と鈴々ちゃんだけ。キツイだろうなあ。

「そう。あの娘は桁外れだから気をつけて」

 

 

 戦闘が始まると俺たちは、工兵隊を守りながら愛紗たちに遅れないようについていくのに精一杯。楽進たちがいなければ、こんなの俺には絶対無理だったろうな。

 いまだに俺が道場送りされないのは緑髪義妹のフラグクラッシャー効果に違いない。

 反董卓軍の方が圧倒的に多いという数の暴力に勝敗が決まりかけた頃、敵軍が突撃してきた。

「隊長、敵軍が一丸となって突出してきます! 旗印は呂! 飛将軍、呂布の部隊です!」

「華琳さまの方に張の旗が突っ込んでいってるのー」

 楽進と于禁の報告で気を引き締める。

「よし、工兵隊は投網を準備! 楽進は愛紗たちと呂布を迎え撃って!」

「はっ!」

 

 呂布と対峙している愛紗、鈴々ちゃん、楽進の三人。

「なあ、ウチらもいっしょに戦った方がええんちゃう?」

「三人でも呂布に押されてるのー」

「あの三人でも押されてるのに、俺たちがいって足しになると思う? それに、人数が多いと網が使いにくい」

 俺がいったらかえって足手まといでしょ。

「それもそうなの」

「工兵隊、呂布に気づかれないように包囲して」

「了解や!」

 

 呂布の攻撃で体勢が崩れた鈴々ちゃんをカバーする愛紗。楽進も氣弾で呂布を牽制している。……あんなに光るもんだったのか。よく呂布はかわせるな。

 っと、そろそろか。

「李典!」

 

 楽進の氣弾を回避しようと大きくバックステップした呂布に向けて待機していた兵士達が一斉に網を放った。

 突然の網に驚いた呂布は、為す術も無く絡め取られた。

「どや、うちが対人用に改良した投網やで!」

 李典の言葉通り、呂布の力をもってしても脱出はできないらしい。

「……卑怯者!」

「卑怯なのは俺だから曹操ちゃんを恨まないでね。……呂布を曹操軍の陣地に。怪我とかさせちゃ駄目だから」

 指示を出して呂布を運んでもらう。

 

「皇一殿……」

 俺に恨めしげな視線を向ける愛紗と鈴々ちゃん。

 正々堂々と戦って勝ちたかったんだろうな。無言で二人に頭を下げる。

「隊長」

「うん。そろそろ行こうか」

 後味悪く、俺たちはその場を去ったのだった。

 

 

 

 

「うまくいったようね」

 華琳ちゃんの機嫌がよさそうなとこを見ると張遼も上手くいったのかな。

「そっちは? 春蘭は大丈夫?」

 ずっと気になっていたんだ。春蘭の左目が無事だといいなって。

「ええ。流れ矢もなかったわ」

 よかった!

 ……でも蜀ルートだとここでは無事だったのにいつのまにか左目食ってるんだよね。急に食べたくなったからとかじゃなければいいなあ。

「そう。戦況は?」

 虎牢関が攻略できたのはわかっている。どう攻略されたかを聞いてみた。

「孫権が虎牢関に一番乗りをしたわ」

 たしか孫策だったはずだけど、いないからかわりに孫権ってワケなのか。

 

「呂布の説得は?」

「……董卓たちを保護してからもう一度するわ」

 いきなりは無理だったか。

「その時はねねと張々も連れていって」

 きっと仲良くなってくれるはず。

 

 

 

 

 虎牢関を出発して二日。

 洛陽が目と鼻の先なのに敵軍の動きがないので、俺は部下となった三人と季衣ちゃんを連れて洛陽へと潜入した。流琉もきたがったが俺といっしょに旅をしてたのと、前回は季衣ちゃんが華琳ちゃんの護衛だったということで諦めてもらった。

 敵兵はほとんどいない。……白装束もいないな。干吉はなにやっているんだろう?

 

「あ、鈴々ちゃん」

 声をかけたのに、俺に気づかずに鈴々ちゃんはかけていってしまった。

 いいさ。俺って影薄いからこういうの慣れてるし……。

 それとも呂布を捕まえた時のこと、まだ怒ってるのかな……。

 ん? そうか!

「鈴々ちゃんの来た方へ急ぐよ」

 

 ビンゴ!

「董卓ちゃん、ですよね?」

 逃げ出そうとする董卓ちゃんたちを発見。

 董卓ちゃんをかばって前に立ち、自分が董卓だと名乗る眼鏡少女。

「にゃ? 賈駆じゃん」

「季衣ちゃん、あれは董卓ちゃんの身代わりになろうとしてるんだよ」

「あ、そうなんだ」

 季衣ちゃん、賈駆のことを一周目で知ってるのは隠してほしい。

 

「ふふっ。私が董卓です」

 俺たちのやり取りで毒気を抜かれたのか、儚く笑って董卓ちゃんは名乗った。

「うん。俺たちは曹操軍の者。早速だけど君たちを捕まえる」

 再び賈駆が月ちゃんの前に立ち、護衛の兵たちも剣を抜こうとする。

 急いでるんだけどな。

「さっき季衣ちゃんと同じくらいの女の子、こなかった?」

 季衣ちゃんを指差して聞く。

「は、はい。ちょうど同じくらいの女の子が」

「ボクはあのちびっこより大きいってば!」

 季衣ちゃんをなだめるように、その頭を撫でながら説得を続ける。

「それは北郷軍の張飛。君の正体に気づいて仲間を呼びに行ったんだ」

「あれが華雄を討ち取った……」

 鈴々ちゃんの名を聞いて驚く賈駆。

 

「だからね、急いでここを離れたいんだ。あ、俺は天井皇一。曹操ちゃんの」

「天井ってあの、曹操の婿!」

 え? 俺のこと知ってるの?

「曹操ちゃんは君たちの命を欲しがってはいないよ。むしろ助けようとしてる。もう必要なものはだいたい手に入れたからね。汜水関一番乗りの名声。華雄、張遼、そして呂布。あとは君たちだけ」

「ちょっと! みんな捕まえたって言うの?」

「うん。華雄は治療中だけどみんな生きてるよ」

「そうですか。よかった」

 ほっとした顔の董卓ちゃん。

 

「二人の安全は俺が保障する」

「嘘よ」

「嘘なんかついてない」

「だって曹操の婿は絶世の美男子って聞いているわ!」

 ちょっと! なんでそんな話になってるの? どっから絶世なんて出てきたの!?

 

「兄ちゃん!」

 え? まさか季衣ちゃん、君もか!?

 ……眼鏡奪われました。

「これでどう? 美男子って言うにはおっちゃんだけど」

 俺の前髪をかき上げ、ぺったんな胸を張る季衣ちゃん。

「隊長、すっごいカッコイイのー♪」

 いや、于禁喜んでる場合じゃないでしょ。

「なんやその眼鏡、顔変わる絡繰なん?」

 どんな絡繰だよそれ?

「た、隊長……」

 なんで楽進まで緊張するのさ。

 

「た、たしかに曹操の婿みたいだけど、でも……」

「詠ちゃん……」

「話の途中悪いけど、ホンっトに時間ないから話は移動してからね」

 賈駆が驚いている隙にひょいっと董卓ちゃんをお姫様抱っこ。華琳ちゃんでコツ掴んだし、董卓ちゃんも軽いから問題はない。

「月を離しなさいよっ!」

 慌てる賈駆を季衣ちゃんが抱える。ボクっ娘がボクっ娘を、か。

「みんな、急いで脱出! 一刀君たちに見つからないようにね!」

 北郷隊、いや天井隊でいいのかな? の三人と季衣ちゃんがかけ出す。それを追って董卓ちゃんの護衛の兵たちも。

 俺たちはなんとか、一刀君たちに遭遇することなく華琳ちゃんと合流できた。

 こんな強引になってるのは眼鏡を外しているせいなのかもしれない。変な癖がついてる気がする。

 

 

 あと、俺の素顔のお礼って、部下の三人が真名を預けてくれた。喜んでいいんだろうか……。

 

 


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