次の日からいろは、八幡はイベントの準備に取り掛かった。ホワイトデーまで後10日。
「参加するやつだが葉山とその周りのやつと戸塚と呼びたくないけど材木座でいいよな」
「おっけーです!」
「それで材料とかどーするんだ?お前が買いに行くか?」
「んー、今週の日曜買いに行きます」
それを言うといろはは目を輝かせて八幡を見ている。彼はいろはと目を合わせないようにしていた。
「いや、俺今週の日曜日は予定があってだな」
「何があるんですかー?」
「寝て小町と遊ぶ」
「何言ってるんですかもう…おーねーがーいーでーすーよー」
いろはは八幡の体を揺らして駄々を捏ねている。
「わーかったーかーらー揺らーすーのやーめろ」
「はい♪よろしくです♪」
(本当こいつの笑顔かわいいな、いやまあ好きじゃないよ?好きじゃないけどね?ほ、ほら妹属性だから小町と重ねるところもあってだな、いやでも小町のほうがかわいいまである)
「あれ、こーゆーイベントって学校からお金が支給されるよな?」
「そうですねー、多分5000円〜1万円くらいですかね」
「お、そんなに買えるのか」
「というわけで今週の日曜日13時に海浜幕張駅でお願いします♪では今日はもう終わりで!」
「おう、またな」
生徒会室から出ると平塚先生と呼ばれる国語の教師であり、奉仕部の顧問が立っていた。
「比企谷、ちょっと個別相談室まで来い」
「えー、俺これから帰るんですけど」
「いいから、来い!」
無理矢理その教室に連れて来られた八幡は珍しく真面目な顔をした先生の顔を見て驚いている。
「比企谷、昨日の帰り何をしていた?」
「昨日ですか?昨日は…自転車で帰ってましたよ」
そう八幡は言うと先生は携帯を出して写真を見せてきた。
「比企谷…じゃーこれはどーゆー事だ?」
「あの先生、昨日は一色に一緒に帰れと命令されてですね、仕方なく一緒に帰ったんですよ、そんな羨ましそうな顔されても俺は全然楽しくなかったんですよ本当に」
平塚先生は下を向いてブツブツ何かを言っているが聞こえない。
本当、早く誰かもらってあげて!!
「べ、別に羨ましくなんかないぞ!こんな青春みたいな事してたって全然腹ただしくないからな!」
「先生、そして車乗ってる時は事故起きたら大変なのでいじるのはダメですよ」
「そ、その通りだな比企谷。はぁ…この間の合コンも失敗した私だ…八当たりすぎたな…あはは…」
本当に早く誰かもらってあげて、可哀想、後10年経っても誰も貰ってなかったら俺がもらうまであるぞ。
「話はそれだけだ、私も今から帰るところだから送ってやろう比企谷」
「あ、はい」
八幡はお言葉に甘えて送ってもらう事にし、先に校門の前で待っている。時刻は18時なのでそんなに遅くはないのだが平塚先生が珍しく早く帰るという事で乗せてもらう事にしたらしい。
〜車内〜
「先生の車って綺麗ですよね」
「そりゃ私が綺麗だからな、それより比企谷。最近何かあったか?」
海辺沿いを通り、綺麗な景色を見ている八幡に平塚先生は問いかけてきた。
「心なしか少し悩んでいるようにも見える」
八幡が心をちゃんと開いて相談できる相手は
小町か平塚先生だけだ。
「いや、なんにもないですよ」
「そうか?私の勘違いならそれでいいがな。君はもう少し人を頼るべきだ。大人を信頼するべきだよ」
遠くを見つめる八幡は何かを吐き出すように呟く。
「……人の好意を素直に受け取れないんですよね。友人関係でもそうなんですけど。何か裏があるんじゃないか、裏切られたり、騙されたり、利用されたりするんじゃないかって」
先生に八幡が本音を零したのはこれが初めてなのではないか。その声はか細いが弱さを感じられる声だ。
「俺は…色々経験してきてるので素直に信用できないし、それを受け取れません。嘘を付いて、騙されるくらいなら最初から1人でいいと思ってしまうんです」
「ほう…」
「正直、雪ノ下と由比ヶ浜が羨ましいですよ。
互いを理解して信用しあえる関係。上辺でも欺瞞でもない関係。あの2人を見てると幸せそうだなと思いますよ。そりゃ話が合わない時もあるけど、なんて言うんですかね」
今まで弱音を吐き出す事などなかった八幡に平塚先生は驚いている。
「君も、人間関係や人に向けられる好意を考えれるように、迷うようになれたのか。私は嬉しいよ」
赤信号で止まっている時、平塚先生は八幡の頭を撫でてそう言った。
先生は近くの公園の駐車場に車を置き、話を続けた。
「いいか、比企谷、人と言うものはね、騙されて嘘をつかれて、だけど信用しての繰り返しなんだよ。友達と言うものは裏切られて、壁にぶつかって、でも信じ続けていれば大事な仲間に出会える。君が安心して身を置ける環境に出会えるはずさ」
子供に言い聞かせるように、宥めるように先生は八幡に語っている。
「好意の事についてだが、それも私が今言ったこと同義だよ。勘違いもするし、思わせぶりもされる。だがな、それを経験してる君だから本当の気持ちが考えられるんじゃないか?
昨日の君と一色を見ていたらわかるよ。彼女は君の事が好きなんだな」
「……そうなんですかね、まあ生徒会室で卒業するまでに俺を好きにさせる宣言もされましたし」
(あれは嘘だと思っていた。勘違いだと思っていた。罰ゲームだと思っていた。だがそれは違うんだ、最初からわかっていたことだろ、だから俺は怖い)
「俺に関わったばかりにあいつの株を落としたり、相手の発する言葉が全部嘘だったら?だったら最初からそんな欺瞞な関係はいらないと思ったり、自分がその気持ちに応えられる自信がないんです」
優しい目で八幡を見ている平塚先生。
八幡のそれを聞いて彼女は笑っている。
「君は優しいな。だかな、比企谷、傷つけないことなんてできないんだよ。大切に思うからこそ傷つけてしまう、迷惑かけてしまう。だがそれでいいんだ。一色だって君を傷つけまいと模索して勇気を出して告白をしたのだろう。それに1年という猶予付きで。それは彼女の優しさだと思うがな」
平塚先生は優しい声で、けれど強い何かを感じる声で八幡に語っている。
「まあいい、後一色が君を変えてくれる。そんな気がする。後1年ある学校生活を謳歌するといいさ。そしてまた迷っていたら、悩んでいたら私に話してくれ、私の暇つぶしにもなるからな」
八幡はこれまで見せたことない笑みを浮かべて先生を見て頷いている。
「先生、ありがとうございます」
「生徒が悩んでいる時、一緒に考えるのが教師というものだ」
そう言うと車のエンジンをかけ、八幡の家まで走った。
八幡の心の中で何かが変化している。それは彼すら気づいてない。
「ただいま」
「おかえり、お兄ちゃん」
平塚先生は八幡を家に送った後、「これから呑みに行くんだ」と言ってすぐ去ってしまった。
「お兄ちゃん、珍しく遅かったね」
「まあな、先生に説教されてたからな」
「え、まさかお兄ちゃん、女子に痴漢したの……」
「何で怒られたら俺が女子になんかしたと思ってるんだよ、風呂入るぞ」
八幡は風呂に入った後、すぐベットで横になった。
「(大切なものだから傷つけたくない…か、雪ノ下や由比ヶ浜の事もそう思ってるのか俺は、一色の事も)」
そう心の中で呟くと瞼が自然と閉じ始めた。今まで積もった感情を少しは吐き出せ、楽になったのだろう。彼はそのまま深い眠りについた。
今回も見てくださってどうもありがとうございます!
平塚先生は本当にいい事を言う。原作から一言持ってきました。
後、投稿が早かったり遅かったりするのですいません。