一色いろはは宣言する。   作:材木島

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第3話

「小町ー風呂上がったぞ早く入れ」

「うん!わかった!」

小町は洗面所の戸棚から入浴剤を取り出した。

「え、お前いつも俺が入った後それ入れてるの?」

「だってお兄ちゃんの後だよ?残り湯だよ?

これくらいするよ!」

「小町ちゃん、地味に傷つくからそゆこと本人のいる前で言うのやめてね」

小町にそう言うと自分の携帯に目をやった。

メールが来ている。

 

『先輩ー!

今日結衣先輩と雪ノ下先輩と話し合った結果、

生徒会の主催イベントはバレンタインに引き続き、ホワイトデーに男子が女子にチョコかクッキーを作ることに決定しましたー!そんなわけで後2週間くらいしかないので手伝ってくださいね、先輩♪』

 

『え、俺が手伝うの?葉山とか戸部に頼めよ』

 

『可愛い可愛い後輩が先輩にお願いしてるのにそーゆーこと言うんですかー!むー!』

 

『はいはい、メールでもあざといろはすありがとう』

 

『いいですよー、生徒会のアンケートで本物が欲しい人がどれだけいるから聞いちゃいます♪』

 

『わかった、俺は何をすればいいんだ』

 

『先輩さすが優しいです♪じゃー明日放課後に生徒会室集合で♪ではでは〜!』

 

なぜ後輩との連絡でこんなに疲れるのだろうか…と八幡は内心思っていた。

「(あいつ、あんな宣言しておいて俺と普通に会えるのか…やっぱり罰ゲームではないのか)」

彼の過去の黒歴史を考えればこれほどの人間を信用しない人がいただろうか。

「とりあえず明日また生徒会室か」

意識が朦朧としていた八幡はそこで瞼を閉じた。

 

〜次の日の放課後〜

奉仕部……

雪ノ下はいつも通り紅茶を入れ、由比ヶ浜と楽しそうに話している。

生徒会選挙の時と話してる事は変わりないが、ぎこちない感じがない。

八幡はそれを見て自分が恥ずかしい宣言をした事は正解だったのかもしれないと思い始めていた。

「今日は俺が一色の手伝い行ってくるから」

「あらそうなの、じゃーこちらは勝手に終わらせて解散してるわ」

「頑張ってね、ヒッキー!」

2人は笑顔で送ってくれた。あの2人の関係は本物なんだろうなと八幡は感じている。

どの関係が本物でどれが偽物なんて俺にはわからない。だが馴れ合いや上辺の関係、欺瞞に満ち足りた関係を排除し、それを超えた関係を築ける事が本物なのではないか、間違えるたびに問い直そう、自問自答して答えを模索するんだ。彼の考え方は変化し続けている。

「ほら、きてやったぞ」

「ありがとうございますー!それでメールの件なんですけど…」

「具体的にはどうするんだ?バレンタインの時みたいに試食会みたいにするのか?」

いろは手元の書類を片付けながら困った顔をしている。

「試食会だけだとつまらないので、何か他もやれればいいと思うんですけど」

「それを俺に聞くか?由比ヶ浜や雪ノ下の方が企画とかすぐ出てくるだろ」

(なんで先輩はこの間宣言したのに私の気持ちわかってくれないんだろ)

いろはは落胆してしまっている、こんなに鈍感だと思っていなかったのだ。

「だって先輩いつも助けてくれるから今回もいい案出してくれるかなって思いまして♪」

(こんないい笑顔を毎日男子に向けて期待させてるんだろうな…それこそジャグラーばりに。期待させて落とすやつだな。あれ、あざといろはす怖い)

八幡はいろはを見てそんなことを思いつつ、手は動かして資料を整理している、

「あーーー!こんなのどうですか?日頃の感謝を告白するって!しかも男子から女子に!」

いろは目を輝かせながら熱烈に語っている。

男子から女子、というのがネックなのだろう。

「絶対やだぞ、バレンタインの試食会はやってもらったから俺も何か返さないとは思ったがそこまでする必要性を感じない」

「なんでですかー、恥ずかしいんですか?」

いろは自分の席から立ち上がり、八幡に寄ってきて袖をツンツンしだした。

「はいはい、あざとい行動はいいから早く決めるぞ」

「むー!これでいきますよ!」

「本当にやるのかよ。第一葉山や戸部は良いとして俺が感謝を伝える相手がいない、いやいるけど、戸塚とか戸塚とか戸塚とか平塚先生とか小町とか小町とか小町とか」

キメ顔で言う八幡にいろははすごく冷たい視線を送っている。

「何言ってるんですか先輩、とりあえずこの案でいきます!」

「なんで俺がやらなきゃいけないんだ」

その日の生徒会の活動はそれで終わった。

「せーんぱい♪いっしょに帰りましょ♪」

ニコッと笑顔を浮かべるいろは何かを企んでるようにも思える。

「どうせお前はにけつして駅まで送ってもらいたいだけだろ、あざといし、俺の家と真逆なんだが」

「たまにはいいじゃないですかー、いきますよー」

八幡の腕を強引に引っ張り、駐輪場間で来させた。

「結局送ることになるんだよな俺…」

「先輩優しいですもんねー」

「それよく小町に言われるからお前に言われても嬉しくないな、早く乗れよ」

「本当シスコンですね」

よいしょ、といって八幡の後ろに乗り、背中に抱きついた。

「な!?おま!!」

「なんですか、もしかして抱きつかれたからって体の関係許したとか思ってるんですかまだそれは許してないので手出さないでください警察呼びますよ」

「毎度毎度お前よく呂律が回るよな、そして毎回俺が不審者みたいな感じだけどお前の中の俺の像はそんな感じなの?泣くよ?」

いろははいつもの八幡とのやり取りに笑顔を浮かべている。

この時はまだ気づかなかった。通りかかった一台の車が俺たちの事を見ていた事を。

 

「先輩にけつしなれてますね、誰か乗せてるんですかー?」

「妹だよ、たまに中学校まで乗せてやってるんだよ」

「うわ、本当シスコンですね」

「小町がいつも先に俺の自転車に荷物載せて待ってるんだよ。本当にあいくるしい、妹いれば充分だと思うまである」

いろはは溜め息をつく。なんで先輩の事を好きになったんだろうと。

駅の近くの信号に差し掛かったところで彼女は降りた。

「ここからは歩きます。それと先輩。嘘かと思ってるかもしれませんけど、この前生徒会室で話したことは本当ですからね!」

「いや…うん、わかってるけど」

「信用できませんか?私のファーストキスもあげたのになー」

「お前、ファーストキスだったのかよ、まあ俺もだけど」

2人は顔を赤らめて黙り込んでしまった。

「だから本当の本当に覚悟してくださいね♪」

「へいへい、わかったよ、あざといろはす」

「むー!その呼び方やめてください!」

と色々やりとりしているうちに駅に着いていた。

「今日はありがとです♪またお願いしますねー!」

「おう、わかったから早く行け」

いろはがホームに行ったので八幡も帰ろうと自転車に乗って再度ホームを確認したら彼女がこちらを見て笑顔で手を振っている。

「本当にあざといな」

八幡はそう言い少し表情を和らげ自転車に乗った。彼の姿が消えるまでいろははその背中を見つめていた。

彼女は想いを絶対に届かせると改めて決心したのだった。




いろははやっぱりあざとい方がいいですねー。
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