「あーもう7月だよー、高校でほぼ最後のテストかー、面倒くさい×8万」
「朝から何言ってるのお兄ちゃん、そろそろつまんないよ」
不意を突かれた一言を言われ、泣き目で小町を見る。
「はぁ……それと小町、俺トマト嫌いなのになんでいつも入れるの?」
「お兄ちゃんまだ好き嫌いしてるの?最近人間の好き嫌いは直って来たと思ったら食べ物はまだダメなんだね〜」
「なんだそれ、人間怖いだろ、あれを好んで一緒にいるとかどこのキョロ充だよ、上辺で取り繕わなきゃ生きていかないとか俺にはできない、うん」
ダメだこの兄貴、と思いながら朝ごはんに手を伸ばす。二人とも高校が一緒であるがために登校時間も一緒だ。そのため朝ごはんも一緒であり、出ていく時間もほぼ一緒だ。
「でもお兄ちゃん、本物は離しちゃダメだよ♪」
そう笑顔で言い放つと、いってきまーす!と元気に家を飛び出して行った。
誰だよ、俺の情報リークしたやつ……
妹に知られるとかもう死にたい。
だが、俺の人脈の無さを舐めてもらっちゃ困る。大体誰に聞いたかなんて一目瞭然だぜ。
なんて事を思っている内に家を出る時間になっていた。するとインターホンがなり、
「せんぱーーいー ♪可愛い可愛い後輩が迎えに来ましたよ〜、起きてください〜!」
「すいません、セールスの勧誘なら断りしてますのでお引き取り下さい」
「ちょ!なんでそうなるんですかー!私ですよ!いろは!!一色いろはーーー!」
「いやなんで俺の家知ってるの?ストーカー?まあ大体検討つくけど」
小町が少し早く出たのも合点が合った。この妹キャラコンビは色々な意味で怖い。二人は二人で似通う何かがあるのだろう。
ガチャ、ガチャガチャ。
と八幡は鍵を閉めて一人で自転車に乗って家を出ていこうとしていた。
彼が彼女を見て何も声をかけないので、いろはは少し落ち込んでいるようにも見える。いつもの彼女ならツッコミを入れているであろう。
「なにしてんだ?行くなら早く行くぞ」
落ち込んでいた彼女の表情はたちまち笑顔になり、
「せんぱい〜♪割とツンデレなところあるんですね〜このこの〜♪」
「うっ……」
お腹の当たりをつつかれて八幡は少しもどかしそうにしていた。
「せんぱい……まさかくすぐり弱いんですか〜?♪」
小悪魔めいた表情で彼を見る。愛おしく思え、とても可愛らしい表情だ。だが、彼はそんな正直な感想を述べられるわけもなく
「お前なあ、もう二度と乗せないぞ」
「ごめんなさーい、もうしませんっ!」
その後、少しの沈黙が続き、いろはが八幡の事を抱きしめる力が強くなるのが、彼にもわかった。
〜放課後〜 奉仕部部室
「せんぱい♪せんぱい♪」
「あざと可愛い声を出して童〇をすぐ勘違いの地獄に落としてくるスタイルなの?」
彼女は心がピョンピョンしてる感じで八幡に近づいてきたが、彼が何を言ってるかわかんない状態になり?マークが頭に浮かんでいた。
「あ、それでなんですけどー、テスト勉強をですね、一緒にして欲しいなーなんて……?」
「……」
「一色さんテスト勉強というものはね……」
「いろはちゃんには私が教えるよ!!!」
声の出す方を見るとそこには前のドアから開いて出てきた由比ヶ浜がいた。
「あの由比ヶ浜さん、あなたはいつから教えられる立場になったのかしら……今日だってテスト勉強するというから部活がないのに奉仕部の部室に来たのよ」
「あはははー……ごめん」
雪ノ下もいたようだ。彼女達はここで勉強しようとしていたらしい。
「こんにちはー、結衣先輩♪雪ノ下先輩♪」
雪ノ下は表情を変えずいつものように「こんにちは」と返すだけであった。
由比ヶ浜は「やっはろー!」と小学生並みに元気良く挨拶していた。
3人の会話を身近で聞いていて、彼は何か安心をしていた。心地良さというのかそれとも。
あーかわいいなー……
あざとさがある一色を毎日見てる分、雪ノ下達と話してる時のあざとさのない純情無垢な笑顔、それを見ているとかわいいから見入ってしまう。一色さんも大人になったのな、八幡嬉しい。
「「「!??!?!」」」
としみじみして一人で頷いていると、三人の声がこれほどまでか、というほど息が揃っていた。
「せ、せんぱい……丸聞こえですよ……」
「ひ、比企谷くん、あなた、一色さんに対してその気持ち悪いことをよく言えるわね。軽蔑するわ」
「すヒッキーも本音で思った事を口にするんだね、ちょっと意外!」
「ちょ、まて、おい」
お、俺の心の声が漏れていただと……もうそれキモすぎて俺今この場で腹切れるよ。なんで俺がプリン頭した鈍感系主人公演じてんだ。この役は俺じゃない、間違ってる。
変な葛藤を入り交じりながら自分の中の何かと戦っている。彼もしどろもどろに弁解するが彼女達は聞く耳を持たない。
それどころか3人のうち1人は口角があがって口を塞いで照れ隠しをしていた。
それは無邪気で素直な一色いろはの姿がそこにはあった。そして彼女はその場から立ち上がり無理矢理彼を引っ張っていく。
「と、とりあえずですね、せんぱいを借りるのでよろしくお願いします!」
「は?結局俺は駆り出されるのかよ」
彼は何か浮かない顔をして遠くの方を見ている。
由比ヶ浜は笑い、雪ノ下は本を読んでいる。
八幡といろはがそこを出ていくと、二人は顔を合わせて溜息をついていた。
「どこまで連れて行くんだよ、一色」
「ひーみつーでーす♪」
いつも以上に面倒臭がってる八幡。それもそうだろう。何故なら……
「なんでお前が俺のチャリ乗ってるんだよ、そしてなんで俺が手を引っ張られてんだよ……俺はもう疲れたぞ」
これ俺の自転車なんだがな……なんで俺が走ってんのよ、勉強もしなくちゃいけないのよ一色さん!疲れたし、しんどいし、もう絶望、絶望のカーニバル。
「ふーんふーん♪」
八幡の発言にもお構いなしに一色は軽くだが、ペダルを漕ぐ。
学校から出て30分ほど時間がたった頃、
「あ、ここですよー」
「は……?」
そこにあったのは小さなホテルで大人の男性と女性が行くようなところで彼らが入れるわけもなく、八幡はとても動揺していた。そのホテルの側に駐輪場があったので自転車を止める一色。
「え、何期待してるんですか、この場に乗じて変なことを妄想して気持ち悪くてそんな変態な目をしている先輩とは付き合えませんすいません」
「お、お前何言ってんだ?つか、俺今振られた挙句に言われのないようなことばっか言われたよな、理不尽すぎないですかね」
視線を逸らし、いつもの口調でいう八幡だったが心臓は飛び出そうなほど脈を打っていた。
「こっちですよ、こ・っ・ち!」
彼女が指さす方向には小さな公園があった。
千葉駅の近くであった。人気が無く、静かな場所だ。
「なんだよ、勉強するんじゃなかったのかよ」
「しますよ、恋の勉強♪」
またまたポカンとしてしまった。
今日の一色の行動には八幡も驚かさせられる。
「まあまああそこのベンチに座りましょ、せーんぱい♪」
「はぁ……はいはい」
そこから八幡は恋の話題に持っていかせないため、いつも以上に話していた。他愛がない話、奉仕部のこと、平塚先生のこと。こんなに話したことがないくらいに話していた。そんな自分を嫌悪している八幡。それに対して一色が話す内容は決まっていた。
「せんぱい」
「……なんだよ」
「せんぱいは今3人の人間から好意を受けているっていう自覚がありますか?」
今まで笑っていたのが嘘のように真面目な顔付きになった。蝉の鳴き声がよく聞こえる夕暮れの中、一色が切り出した。
「私は先輩が好きです、結衣先輩も雪ノ下先輩も先輩に好意を寄せてます。その中で気づいているのに気づかないフリしているのもうやめませんか?」
「……見て見ぬ振りをしているわけじゃない」
「じゃーなんなんですか!!」
一色の叫びとともに地面が濡れた。彼女の瞳から涙が流れている。
「一色……」
「私は先輩が……好きで好きでたまらないです。でも結衣先輩や雪ノ下先輩がいる反面気持ちを抑えなきゃとも考えたんですよ。でも無理でした。やっぱり恋愛であの二人に負けたくありません」
彼女はこれまで言いたかったことが、伝えたかったことが漏れている。
「誰を選ばなければ誰も傷つかないって先輩は思ってますよね。優しいですけどそれは偽善です。先輩のせいで仲が悪くなったり、この絆が引き裂かれたりすると思いますか?」
彼は何も言えずに下を向いてしまっている。
言葉が出てくるが口に出ない。
本当のことを言ってしまって築き上げてきあ関係が消滅してしまう、本物の、八幡が求めたものがなくなってしまう。彼の考えて出た答えを聞かないままでこのまま卒業して欲しくなかったのだろう。卒業までまだ半年以上あるがちゃんとした答えを彼女は欲しがっている。
「先輩、私の思ってることはこれで全部、全部吐き出せませた。だから先輩の答えを教えてください」
彼女の瞳は真っ直ぐに八幡を見つめている。
逸らさずに、そして強い意志を持って。
「俺は……俺の答えは……」
その数秒後、一色は涙を浮かべたままその場を走って立ち去った。
7月、夏の夕方の風が透き通っている中、八幡は呆然と立ち尽くしていた。
彼等の高校最後の夏はもう始まっていた。
更新遅れて本当に申し訳ないです。
これからは書き溜めておいて1ヵ月に1.2回は投稿しようと思いますのでよろしくお願い致します!
ではではー☆