時系列はレヴィ達が割れペン追跡する少し前くらい。
短編7 少女の思い 〜レヴィ・テスタロッサ〜
槍を突き合わせて間合いを測る。
ジリジリとすり足で相手との距離を調節し、打つべきタイミングを探して行く。
しかし待てども待てども隙らしい隙が見当たらない、相手の攻撃を誘う為の隙はそこら中にあるというのに、決定打を与える事の出来そうな致命的な隙が見つからない。
必殺の一撃、ソレを最速で相手の急所へと突き立てる為に相手の虚を突き、それによって生じる一拍の空白を狙い撃つ事、それは争い事の基本としてお父さんが僕達に教えてくれた唯一の事だ。
僕ら兄妹は皆その事を基盤として戦っている、この様な場合でもそれは当て嵌まるのだが、今回は相手が悪い。
一瞬の思考、打つ手が無い事への焦燥から流れた冷や汗が目に入り込み、僕は一瞬目を瞑ってしまった。
––––––––––その瞬間勝敗は決し、僕の頭をハリセンが引っ叩いた。
「また負けたぁぁぁあ!! おとーさんもう少し手加減してよ!!」
「目隠しと利き腕を後手に縛った状態でこれ以上どう手加減したら良いんだい、レヴィ?」
「ぶーぶー、だってさっきから全然勝ててないじゃんか!! 次は一歩も歩いちゃダメだからね!!」
「もう彼此二時間は打ち合っていると思うんだけど……」
「僕が勝つまでやるの!!」
10戦10敗、5敗目からはハンデを付けて貰っていたと言うのにこの体たらく、しかも毎回一撃当てるところか掠らせる事すら出来ていないのだ、頭に血が上るのも仕方ないだろう。
道場内に篭っていた所為で身体が汗ばんで来て不快感を覚えるが、そのような事は御構い無しと言うように先端に真綿の詰まった麻袋が嵌められた棒を一閃する。
「レヴィ、私はもう第一線を引いて十数年は立っているんだよ? 少しは休憩させてくれ、その間に如何して君の攻撃が当たらないか教えてあげるから、ね?」
しゃがみ込んで僕の目を見つめながらお父さんはそう言う、けれども肩で息をしている様には見えないし、疲労していると言う割には汗も掻いていない、本当に疲れているのかもしれないがお父さんは基本的にポーカーフェイスだから判断が難しい。
「うー、じゃあちょっとだけだよ?」
軽く悩んだが、僕は
本当は休憩なんて入れたく無い、体を動かして向かい合って居ればお父さんは僕を見てくれるし遊んでくれる、だけどそれ以外だと急な仕事とかやらなきゃいけない事があるとかで僕の前から居なくなってしまう、しゅてるんが僕達の中で一番お父さん大好きなのもそう言うスキンシップを取る事でお父さんとの繋がりを感じているからだ、僕の場合はこうやって身体を動かす事、だから本当は休憩など入れたくなかった。
「さて、約束通り如何してレヴィの攻撃が当たらないのか、その辺りのお勉強を開始しようか」
「……そーだよ、如何して僕の攻撃が当たらないのさ!!」
「ちゃんと説明してあげるから静かに、ね?」
「……うん」
「良し、良い子だ」
そう言って、お父さんは口元を僅かに綻ばせて僕の頭をわしゃわしゃと撫でる、お父さんのこの手とこの笑顔は大好きだ、今よりももっともっと一緒にいて欲しいと思ってしまう程に。
しゅてるんの家出事件以降は帰って来る頻度も遊んでくれる頻度もグッと多くなったけど、それでもやっぱり寂しい物は寂しい。
お父さんと一緒に居る時は出来るだけ楽しむ事に決めていたのに、こう言う時は如何しても俯いてしまう、心配を掛けない様に笑っているべきなのに。
俯いてしまった僕を撫でる手が止まる、また急な仕事だろうか? それとも落ち込んでしまった僕を嫌いになってしまったのだろうか?
ネガティヴな思考に飲まれている僕の頭は碌な事を考えない、だからこそお父さんが無言で慰めるように優しく抱き締めてくれた時は、少しだけ胸が温かくなった。
「…………レヴィの攻撃が当たらない理由はね、動きが多いんだよ」
お父さんは優しく、あやすように僕に言い聞かせる。
「槍を構えて、視線で隙を伺い、切っ先を揺らして照準を定め、踏み込んだ後、漸く刺突が疾る、計4つ刺突に掛かる動きに此れだけ掛かっていては一流や超一流と言った天才達には太刀打ち出来ないよ?」
そう言ってお父さんは僕の肩を叩いて立ち上がる、膝の上に座っていた僕は素直にその上から降り、お父さんの顔を見る。
多分泣きそうな顔をしていただろう、また二時間ぽっちで何処かに行ってしまうのかと思っていた僕は涙目だった筈だ。
しかし、お父さんはまたくしゃっと僕の頭を撫でた後、奥からカカシを引っ張り出して来て、徐に道場の真ん中に置いた。
そして竜狩りの槍を取り出し、ソレをスッと構える、が。
––––––––––構えたと思った瞬間、案山子はその槍頭に貫かれていた。
目では到底捉えきれない程の速さ、神代を駆け抜けたお父さんだからこその絶技、それまでの鬱蒼としていた胸の内や、ネガティヴな頭が一気に晴れ上がる程凄い一撃だった。
血払いをする様にお父さんは竜狩りの槍を一閃し、『こう言う事だよ』と言って興奮している僕の方へ振り返る、そして僕がもう一回やってとせがむ前にお父さんは更に口を開いた。
「私も昔は君と同じ事で足元を掬われてね、矯正するのに随分と手間取ったものさ」
「おとーさんも?」
「私は才能がからっきしだからね、お陰で殺され掛けた、あの時白霊が居なかったら私は間違いなく一回死んでいただろうね」
やれやれと懐しむように溜息を零すお父さんだけど、一回死んでいたって言う発言がおかしいと思うのは僕だけかな?
「まあ私の事は兎も角だ、レヴィには才能が有る、それもお母さん譲りの飛びっきりの才能が」
「…………おとーさんに掠らせる事すら出来ないのに?」
「なに、直ぐに当てられる様になるさ、一回私の動きを見てその目に焼き付けただろう? だったら大丈夫さ」
そう言って、お父さんは竜狩りの槍をくるりと回して石突きの部分を僕に向けて突き付けた、何となくお父さんの言いたい事は分かる。
しかし、しかしだ––––––––––。
「だからこの槍は君に託そう、君の未来を切り開く為の手足として使ってくれ」
「で、でも、これって僕なんかが使っても良いの?」
当然躊躇った、何故ならばお父さんの差し出す竜狩りの槍は正真正銘の神槍、お母さんの持つ贋作とは訳が違う。
四騎士の長、竜狩りのオーンスタイン、彼の振るった神具で、お父さんが餞別として竜狩りから渡された代物、僕なんかが振るう資格など–––––。
「資格ならあるさ」
僕の思いの内を読んだような一言、優しい目をしたお父さんは確信している様に僕に向かってはっきりとそう断言した。
–––––資格が無い訳が無い、何故なら君達は私の自慢の子なのだからね。
この数日後、僕は王様としゅてるんと共にとある物を追って数千年後の未来へと旅立つ事になる。
––––お父さんから託された槍を携えて。
数千年後の未来(ドラングレイグ)に行く前のレヴィはこんな感じ、其処での戦いや様々な人間模様で経験を積んで一皮向けました。
PS
シリアスは浮かばないと言ったがアレは嘘だ(白目)