短編5 if グヴィン戦後のブレンが転生inゼロ魔
雲一つ無い快晴、今日はトリステイン魔法学院で進級試験が行われる日である、絶好の試験日和。
何の因果か、私は世界を創世した後に新たに人間として生を受けていた、ロードラン時代に使用していた装備や魔術書等も手元に残っており、ソウルの業も問題無く使用出来る為、よもや又不死の呪いに侵されているのではと疑っていたが、今日までダークリングは発現していないので一先ずは安心して余生を過ごす事が出来ると判断し、スローライフを満喫する事を決めている。
校舎の屋根の上で両手を頭の後ろに回しながら日向ぼっこ件昼寝をする俺の下では生徒達が召喚した使い魔を見て一喜一憂する声が聞こえて居る、まあ生涯を共にすると言っても過言ではないのだからその気持ちも分からなくは無い。
しかし、彼らとは違い使い魔に関しては俺にはあまり関係の無い話。
使い魔召喚の儀、この世界の魔法学院で進級する為に必要な物であり、それを成功させる事で漸く一人前として認められる儀式だ。
だが生憎と今生でも俺は才能と言う物に縁遠く、魔法が不得手であり、未だにこの世界の系統魔法と言う物に目覚めておらず、魔法使いとしては半人前以下の落ちこぼれ。
故にボイコット……とまでは行かないが、周りの皆がそれぞれ使い魔を召喚し終えるまで昼寝をしていたのだが、そんな俺を呼ぶ声がする事に気が付いた。
微睡みの中に沈もうとしていた俺を引き起こしたその声の主は『キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー』成り上り国家とトリステインではあまり好かれていないゲルマニア出身の少女であり、見事なプロポーションをしている。
彼女の周りには男性が集まる様で、女生徒の幾人かは彼女の事を誘蛾灯と揶揄する程モテる女性だ、そして俺の友人の一人。
「ーーー、ーーーーーーーーーーー」
寝ぼけた脳では彼女の言っている言葉は聞き取れなかったが、口の動きで判断するに『そろそろあなたの番よ』かな? そう言われて下を見ると、他の生徒達は既に召喚を終えており、全員が上を見上げていた。
「了解した、今から降りるよツェルプストー」
「いや、降りるったって、其処屋根の上でしょ!? どうやって降りるのよ!?」
「こうやって、さ」
そう言って、俺は空中に身を投げる、一瞬の浮遊感の後に訪れる落下、重力に身を任せてそのまま地面に向かった俺は着地の際に体のバネで衝撃を吸収する。
だが、転生した所為か身体が華奢になってしまっており、地味に衝撃を殺せていなかった様で足が痛い、まだまだ身体が出来ていないみたいだな。
そんな事を思いながら立ち上がった俺だったが、大股で近寄ってきたツェルプストーに頭を引っ叩かれた、それも思いっきりだ、以前ならなんとも思わないのだが、この身体になった所為か涙腺が緩み、少し涙目になってしまった。
「痛いぞツェルプストー、私が一体何をしたと言うのだ」
「だ・か・ら!! あんたはなんで毎回毎回『女』だって事忘れてる様な行動取るのよ、バカ『ルイズ』!!」
「? 下着の事か? 別に見られても困る物では無いし、そもそも今日は履いてるんだ、文句を言われる筋合いはーー」
「履いてないのが普通はおかしいのよ!! それと淑女は見られたら困るの!!」
「私は淑女とは程遠いからな、別に問題はあるまい」
「あるわよ!! 大有りよ!! あんたは可愛いんだからそんなんだと何時か取って食われるわよ!!」
「この貧相な体つきの私をか? それこそまさかだろう? 何なら試してみようか」
そう言って俺は制服のブラウスを脱ごうとし、もう一発頭を引っ叩かれた。
見れば周りの男性の何人かは前屈みになり、股間を手で抑えている、この俺の体に反応してしまったのだろうか、物好きな人種達だ。
兎も角、試験官であるコルベール先生が咳払いをしながら先を進めているので仕方無しに使い魔を召喚する事に決めた、出来るかどうかは分からないが。
と言うのも、俺の魔法は何故か悉くが爆発してしまう為、召喚魔法である『サモンサーバント』を行えるか不明なのである。
別にどうしても進級したい訳では無い為、あまり乗り気では無かったのだが、周りの視線の所為で針の筵なのでとっとと済ませよう、なんだか居た堪れない。
そうして俺はサモンサーバントの詠唱を終え、それを発動したのだが、珍しく、と言うより今生で初めて魔法が成功した、ソウルの魔術は問題無く扱えたのでこの魔法もその類なのだろうか?
周りから騒めきが聞こえる、それはそうか、ゼロのルイズと自称する程魔法が使用出来なかったのだ、そんな俺が一発で魔法を成功させたのだから驚愕は無理も無い、俺自身が一番驚いているしな。
目の前に現れた魔法の鏡、その中から現れたのは一人の少年であった。
その少年は何が起きたのか分からないと言った表情を浮かべていたのだが、一目見て俺は彼がこの地の人間出ない事を察する事が出来た。
理由は彼の服装や手に持っている道具、服の質感や履いている靴の製作技術は勿論、用途不明の道具の加工技術、肌の張りや清潔な身体は健康的な生活をしている証拠であり、且つ彼は杖やマント等を装備していない上にサモンサーバントに困惑している事から貴族ではない為、平民と予想される、そしてこの様な生き生きとした平民はハルキゲニアではあり得ない存在だ。
大陸の外の者、若しくはエルフの様な長命種だろうか?
しかし彼の服に使用されている布は質感や製糸技術からして技術の差が現れ過ぎている、それも十年や二十年では済まないレベルの差だ、大陸の外が其れ程進歩しているのであれば歴史が停滞しているこの大陸は一瞬で滅ぼされている。
ならエルフの様な長命種か? しかし耳は普通だ、直接触って確かめても変化は無く、触診で軽く調べただけだがフェイスチェンジの様な魔法が使用された形跡は無い、そもそも身体中を弄られているのに顔を赤らめるだけで敵意を向けてこない以上エルフの心配は無さそうだ、尤も? 変態なエルフで無ければの話だがな。
「では少年、大人しくしていてくれたまえ」
「へっ? いやあの、これって一体どう言う状態ーー」
「説明は後でしよう、少年も晒し者のままでは居たくはあるまい」
そう言って俺は少年の顎を持ち上げ、コントラクトサーバントを行う為、彼と唇を交わす。
その瞬間背後から落胆の声がちらほらと上がり始めた、『ああ、あのクールなヴァリエールの唇がぁぁぁあ』とか『そんな馬鹿な、たかが平民の分際でヴァリエールの唇を!? 其処を変われ、割と切実に』とか『ルイズたんはぁはぁ』とか聞こえている所をみると、割と俺も慕われているらしい。
俺は使い魔のルーンが刻まれる痛みで左手を抑えて悶絶する少年の手を摩りながら、どうにもスローライフは送れそうに無いなと内心でため息を吐いた。