不死の英雄伝 〜思い付き短編集〜   作:ACS

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体現者短編 2

短編2 未来組ハロウィン

 

 

その日は珍しく仕事が少なく定時で帰る事が出来た。

 

カレンダーにはレヴィの文字で『今日はハロウィン!!』と記されていた為、簡単なお菓子を用意するには丁度良かった。

 

我が息子達はこの手の催しに微塵も興味が無く、オルステッド以外は相も変わらず頼り一つ寄越さない、時々風の噂で元気にしていると言う話を聞くばかり、まったく誰に似たのやら。

 

とはいえ、私も小言を言えるような立派な親では無い事は理解している為、溜息を零す事しか出来ないのが歯痒い。

 

思考が落ち込み始めた為、首を振ってそれを振り切り玄関の扉を開く、丁度夕飯が出来上がった頃なのか玄関先まで食欲を唆る匂いが漂っている。

 

玄関が開く音に気が付いたのか、忙しない足音が聞こえ、暫くするとレヴィが嬉しそうに飛びついて来た為、それを優しく抱き留める。

 

 

「お帰りなさい、お父さん!!」

 

「ただいまレヴィ、今日は思ったよりも早く帰ってこれたよ」

 

 

腰に抱きつき頰ずりしているレヴィの頭を撫でる、娘達はこうして頭を撫でられるのがお気に入りらしく、撫でているととても幸せそうな表情を浮かべている。

 

「所でレヴィ、その頭とお尻に付いている耳と尻尾は一体?」

 

「おばあちゃんが作ってくれたんだ〜、どう? 似合う?」

 

 

ピコピコと動く犬耳と犬尻尾、よく見ると狼のソレだ、恐らく人狼と言った所なのだろうがレヴィの感情に連動して動いている為か犬にしか見えない、……プレシアさんの趣味だろう、あの人は相変わらずだな。

 

「と、言う訳で、お父さん、とりっくおあとりーと!!」

 

「夕食前だよ、レヴィ。 お菓子はちゃんとご飯を食べてから、ね?」

 

「ぶーぶー」

 

 

膨れっ面になったレヴィだが、それに負けてお菓子を与えると私が叱られるので我慢して貰うしかあるまい。

 

レヴィを宥めながらリビングへと向かうと、今度は魔女っ娘姿のシュテルが私を出迎えてくれた。

 

 

「お帰りなさいお父さん、そしてトリックオアトリック。 お菓子は要りません(性的な)悪戯をさせて下さい」

 

「却下だ、大人しくお菓子で我慢しなさい」

 

「お父さんのお菓子(意味深)ですね分かります、さあどんとこいですよお父さん」

 

「……今日は、絶好調だねシュテル」

 

「ハロウィンですから」

 

 

胸を張ってドヤ顔をするシュテルだったが、なのはから念話が送られて来たのか胸を張ったまま盛大に冷や汗を流している。

 

毎度毎度クリスマスやお正月にはっちゃけ、その結果シュテルがなのはに叱られる一連の流れは我が家ではお馴染みの光景なので軽く頭を撫でてからその横を素通りする。

 

リビングに到着した私を出迎えたのはレヴィとお揃いの格好をしたユーリと、ドラキュラの様な姿をしたディアーチェだった。

 

 

「お帰りなさいブレンさん、それとトリックオアトリート、ですよ〜!!」

 

「お帰りなさいです、父上」

 

「ただいま二人とも、お菓子は食後にね」

 

「はいです!!」

 

「私は貰う側よりもあげる側ですよ、父上」

 

 

嬉しそうに食卓に向かうユーリと、ジト目で此方を見るディアーチェ、確かに未来と過去の時間旅行で一皮剥けた様だが、それでも私にとっては可愛い娘に変わりは無い。

 

わしわしと頭を撫で回すと真っ赤な顔をしながら俯向くのがその証拠、なんだかんだ言っていても根はまだまだ子供だ、しっかりしているのは良いのだが欲を言えばもう少しワガママを言ってもらいたい。

 

その後夕食を食べた後、お風呂で疲労を回復し、着流しに着替えて縁側で月を見ながらお茶を啜っていると背後からヴィヴィオが現れ、私の隣に座った。

 

その手には焼き立てのパイが乗った皿があり、彼女は私に向かって笑顔であーんをする。

 

 

「トリックオアトリート!! はいパパ、パンプキンパイだよ」

 

「お茶請けかい? 個人的には羊羹が外郎の方が嬉しいんだけどね、まあ此れも風情だ、美味しく頂こう」

 

 

そう言って、そのパイを食べようとしたのだが、私の言い方が気に食わなかったのだろう、すんでの所でパイを取り上げてそっぽを向いてしまった。

 

 

「もう!! そんな捻くれた事を言うパパにはこのパイはあげません!!」

 

「いやはやすまないね、昔はハロウィンでも和菓子を要求していたからつい癖で、ね?」

 

そんな事を言いながらヴィヴィオを宥め、その手の中にあるパイを食べさせて貰う、口にした後に教えて貰ったがみんなで作った物らしく、そう言われて背後を横目で見ると柱の影からレヴィとユーリが固唾を飲んで此方を覗いている。

 

 

「それで、パパ? お味の感想は?」

 

「非常に美味しいよ、お代わりが欲しいくらいだ」

 

 

そう言って啜るお茶には茶柱が立っていた。

 


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