不死の英雄伝 〜思い付き短編集〜   作:ACS

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ーーーー此れはまだ、不死の英雄が高町家に居候して間も無い幼少期の一コマである。


体現者短編1

短編1 幼少期ハロウィン

 

 

夏の蒸し暑さが残る''残暑''と言う物が落ち着き始めた十一月、俺は着流しを着て縁側で静かにお茶を啜っていた。

 

今日は四六時中一緒に居るなのはは隣に居ない、非常に寂しいが、今朝から美由紀さんと何やら内緒話をしていた為、またあの人が悪巧みでもしてなのはに適当な事を吹き込んでいるのだろう。

 

左腕の義手は現在メンテナンス中な為、隻眼隻腕の状態に逆戻りしており、空になった湯飲みに急須のお茶を入れるにはいちいち持ったり置いたりを繰り返す必要がある。

 

普段はなのはがお茶を注いでくれるのだが、偶にはこの様な日もあって構わないだろう。

 

そう思いながらも手にしていた空の湯呑みを置き、其処に緑茶を静かに注いで行く、確か…''玉露''だったか''宇治茶''だったか、兎も角そんな銘柄のそれは最近俺が良く口にする物だ、こう言う物をなのは曰くお気に入りの物、と言うらしい。

 

綺麗な緑色をしたそれをなみなみと注いだ俺は、息を吹きかけて熱を冷まして居る最中にお茶の葉の茎が立ちながら浮かんでいる事に気が付いた。

 

隣になのはが居れば『今日は良い事があるよ!!』とでも言うだろう、…………彼女には悪いが生憎と俺はそう言う類いの物は嫌っているのであまり良い返事は返せないだろうが。

 

息を吹きかけて茶柱を沈め、目を瞑りながら味わう様にお茶を啜る、熱さと苦味の中にある甘味を堪能しながら目を細めて我が使い魔へと視線を向ける。

 

庭でシフが気持ち良さげに秋風を浴びている、別に悪い事では無いのだが、日本には芸術の秋、運動の秋、そして食欲の秋と言う三つの秋が有るらしく、彼は三番目の秋を徹底して堪能し尽くしている為、最近首回りや胴回りに無駄な脂肪が付き始め、ぷよぷよとし始めている。

 

このままでは最下層の巨漢達の様な太っちょとなってしまう様な気がしないでも無い、運動させても消費と供給が釣り合っていない為、着々とデブ街道を突き進んで居る。

 

 

ーー本格的に太り始めたら対策を考えなくてはならないな。

 

 

騎士アルトリウスの忘形見のダイエットを考え始めるとキリが無い為、お茶請けに持って来ていた羊羹を口に運ぶ、個人的には羊羹よりも外郎の方が好きなのだが、なのはが態々俺の為にお小遣いを使って買って来てくれた物だ、今日から俺は羊羹派になろう。

 

そんな取り留めの無い事を考えながら羊羹と緑茶の組み合わせを味わいつつ秋風に揺れる薄の音を聞いていると、とたとたと木張りの廊下を走る軽い音が聞こえ、其方に目を向ける。

 

忙しない足音の正体はなのは、士郎さん達は鍛えている所為なのか足捌きがやはり他とは違うのでなのはの様に音を立てる事は無いので分かりやすく、桃子さんは割とおっとりとした女性なので足音の感覚もゆっくりな為彼女も又分かりやすい。

 

予想通りと言えば予想通りだったのだが、彼女の装いが少々風変わりだった。

 

 

先ず目立ったのは漫画やアニメに出てくる様な魔女のとんがり帽子、次に同じ材質の黒い外套とプラスチック製のステッキ、おまけに髪も下ろしており、所謂魔女っ娘と言う姿をしている。

 

可愛い事には可愛いのだが、しかしなぜ急にその様な姿をしているのだろうか?

 

俺のそんな疑問が顔に出ていたのか、なのはは胸を張ってこう言った。

 

「ブレンくん、今日はハロウィンだよ!!」

 

「ハロ、ウィン?」

 

「うん、ハロウィン!! トリックオアトリートって言ってみんなからお菓子を貰う日だよ!!」

 

 

トリックオアトリート、『お菓子をくれなければ悪戯するぞ』と言ったところだろうか?

 

 

「その、ハロウィン? と言う物がどう言う催しの物かは分かったけど……それとなのはがしている仮装とどう言う繋がりが?」

 

「えっと……似合ってない、かな?」

 

「この上無く似合ってるよ、普段の君も可愛らしいけど、今の君もとても愛らしい」

 

「にゃはは、ありがとうブレンくん。 んー、なのはもあんまり分からないんだけど、お姉ちゃんが言うにはハロウィンで仮装するのは決まりなんだって、ブレンくんの衣装もあるから後で着替えて一緒にお菓子貰いに行こうね!!」

 

 

仮装、か。

 

どうせ碌でもない衣装ばかりなのは想像に難く無いが、なのはがニコニコと楽しみにしている姿を見ているとその装いに身を包むのも悪く無い。

 

ハロウィンとやらには興味が無いのだが、参加しなければなのはは悲しむし、美由紀さんが情操教育の一環だからと無理矢理にでも参加させようとするだろう、ならば激流に身を任せるのも又一つの手だ。

 

そう思いながら湯飲みに手を伸ばした時、その中が空になっている事に気が付いた、そう言えば丁度三杯目を飲もうとしていた矢先になのはが来たので其方に意識を持って行かれたままだった。

 

仕方ないので一旦湯飲みを置いて急須を取ろうとしたのだが、既になのはが急須を持っており、俺の行動を先取りする様に俺が握っている空の湯飲みにお茶を注いでくれた。

 

何も言わなかったにも関わらず、俺の思った事が伝わった様になのはが注いでくれた湯気の立つそれに息を吹き掛けて冷まして居ると、又しても茶柱が立っている事になのはと共に気が付いた。

 

 

「あっ茶柱が立ってるよブレンくん!! 今日はきっと良い事があるよ!!」

 

「………………ふふっ、もう''良い事''は起きたよ、なのは」


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