実況パワフルプロ野球~あの空のムコウまで~   作:たむたむ11

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本来なら前話と同じパートで組み込むつもりだったものなのですが続かなかったので分けさせて頂きましたございます(ू˃̣̣̣̣̣̣︿˂̣̣̣̣̣̣ ू)
今回は短いのはそれが原因でございます、多分次の話も短くなると思いますございますが次回は挿絵をつけますございますのでよろしくございますです!

3年も待たせてしまいましたが、そろそろ試合ははじまるございますよ!(酷


第二章 第8話「叱咤」

 夢花が袰延に挑戦状を叩きつけてから一日が過ぎ、野球部の運命が掛かった戦いまで残り二日となったこの日。

 女子野球部のグラウンドには指導者である八剣は現れなかったものの、この日は女子野球部員総出でグラウンドにへと姿を現している。

 夢花は昨日、男子野球部と女子野球部の抗争がある事を部員達全員に伝えていた。

 負けた方は勝った方の下につく、という条件で組み込んだこの野球部男女抗争だが、部員たちは勝手に全てを決めた夢花の事を非難したりはしなかった。

 綺麗に皆が集まり整列する女子野球部のグラウンドの中央で、今回の首謀者である夢花が前に出て、演説を始める。

 

「えー、みんなにはもう伝えてあると思うけど。明後日男子野球部と徹底交戦するつもりだから気合入れて練習してこう!」

「おーっ!」

「必ずや、男子野球部を討ち果たして溝浜疾風においての最強を証明するぞー!」

「おーっ!」

 

 夢花の演説を前にし、女子野球部員達は非常に昂っていた。

 首謀者である夢花と同じ二年生も、彼女の先輩である三年生達も、そして春に入学する予定でありまだ入って来たばかりである一年生までも、同じように大きな声を上げている。

 正確に言えば、夢花は主将でもなければ、正式な監督代理という訳でもない。

 ただただ勝手に監督代理を名乗り、勝手に試合を組んだだけのごく普通の二年生部員なのである。

 それでも、夢花の行動力はバラバラだったチーム全体を纏めるには充分だった。

 

「遂に私たちが男子野球部よりも格上という証明ができるわね!」

「後から女子野球部の栄誉に縋ってきたくせに、結果を残したら女子野球部よりも大きな顔をするようになった男子野球部に今こそ鉄槌を!」

「絶対に負けないぞー!」

 

 女子野球部員達は次々に男子野球部を蔑む声を上げながら、気合を入れ練習に臨み始める。

 元より溝浜疾風の歴史からしても、女子野球部と男子野球部の仲はとても悪かったそうな。

 今でこそ名将と呼ばれている八剣監督が二つの野球部を兼任しているものの。元はと言えば女子野球部の監督として二十年の月日をかけ、一からこの学校を名門にへと生まれ変わらせたのだ。

 その腕を見込まれ、後から八剣を男子野球部の監督として迎え入れた事により男子野球部もそれなりに成果を上げ始めてはいるものの、女子野球部員は兼任とは言え監督を取られた事により不満を募らせていたそうな。

 特にここ数年は男子野球部が結果を出して来た事により、男子に対し費やす時間も予算も次第に増えて来ていた。

 故に女子野球部からは学校に対し抗議の声が上げられていた程、男子野球部との因縁は現在進行形で深いものである、というのが現状だ。

 故に夢花が因縁の相手である男子野球部との決戦を用意してきた事で、女子野球部一同は因縁の戦いに決着をつける事ができるという意味でも、すごくワクワクしていた。

 そんな様子を見ていた隼は自身もその恨みの対象に入っているのかと思いつつ恐悦していた。

 すると演説をし終えた夢花がそんな隼に対し、苦笑を浮かべながら話しかけてくる。

 

「どうしたの~、隼君。そんな申し訳なさそうに俯いてて、折角の可愛い顔が台無しだよっ!」

「え……、いや。みんな男子を敵視してるんだなって……」

 

 隼がそう口にすると、夢花はその場で面白おかしく笑って見せる。

 

「あははっ、隼君は別に心配しなくていいんだよ~、隼君は今は女子野球部の仲間だから、みんな仲良くしてくれるよ~」

 

 少し怯えていた隼に対し、夢花はそんな隼の背中を軽く擦りながらもう片方の親指を立て、笑顔を振りまく。

 夢花が笑顔を見せる時は少々意地悪な時があるが、見ていると少しだけ安心する。

 まだ夢花とは出会ってから共に活動した期間は短いものの、隼にとって野咲夢花という存在は身近で頼れるお姉さんとしての認識が強くなっていた。

 隼も夢花につられたように、自然に笑みを零していると。夢花は隼に対しふと、自身が所属している女子野球部の事を話始める。

 

「……溝浜疾風女子野球部の皆はね、みんな誰よりも上手くなって勝ちたいって思ってこの学校に来たの。と言うより、私達にはここしかなかった」

「えっ……?」

 

 突然、いつも明るく振舞っている夢花の口から重い話が飛び出してきた為に焦りだす隼。

 夢花の表情は笑みを続けていたままであったが、その表情はとても真剣なようにも思えた。

 

「男子野球とは違って、女子野球の人口ってとーっても少ないんだよ。この学校は県外からも集まってるからそれなりには多いんだけど、女子野球部がある高校は本当に少ないの」

「確かに……、女子はソフトボールとかが主流ですし、あまり女子野球部というのは聞きませんね……」

 

 隼も夢花の話に首を頷ける通り、高校の部活動には女子野球部が正式に登録されている学校は極めて少ない。

 大抵は男子は野球、女子はソフトボールという風にわけ隔てられるようになり。中学までは野球をやっていたという女性選手であっても、高校では野球自体を止めるケースも少なくはなかった。

 しかし自身もプロ意識が高く、夢花ぐらいの実力者ならば高校じゃなくても企業チームや女子野球リーグでも出来るものだろうと思っている隼。

 夢花が何故、この高校をわざわざ選ぶ必要があった真意が理解できず、隼はこう口走ってしまう。

 

「でも、野咲先輩の実力だったら、高校野球じゃなくても、もっともっとレベルの高い所で、勝ちを狙える野球が出来たのでは?」

「あはは、隼君はプロの世界に行きたいって思ってたから……、そう思うのかもね」

 

 隼への優しさからなのか表情こそ変えないでいたものの、少し落ち着いた口調へとトーンを落とし語る夢花。

 袰延との対峙の際にも似たその口調からは、夢花が真剣に語り掛けているというのがひしひしと伝わって来る。

 

「高校野球って言うのは自身が主人公の人生を掛けた壮絶なドラマだって、隼君には言ったよね? ……けど、誰しもが主人公になれるわけじゃないの」

「それは……」

 

 隼は最初その話を聞き、夢花が語りたい事は実力が見合うからと言ってレベルの高い所に行っても躓く危険性が高いという事なのだと思ってしまう。

 しかし、夢花が隼に伝えたかった真意はまるっきり隼の想像とはかけ離れたものであった。

 

「私とりょーちゃんが野球を始めたのはね、テレビで放送されてた高校野球を見てからだったんだよっ」

「えっ?」

「プロ野球とは違って、高校生一人一人がたった一勝に全てを駆ける姿を見て。私とりょーちゃん、すっごく憧れてたのっ」

 

 そう語る際、少しだけ喜々とした表情を取り戻してゆく夢花。

 しかし語っていくうちに、声色と表情は再び落ち着いて行く。

 

「けど、私達は女の子だから。皆を感動させる、あの甲子園の舞台にはどんなに頑張っても手が届かなかった。どんなに頑張っても、あの時の高校球児が私達を育ててくれたようには出来なかった」

 

 夢花の想いを聞き、胸が締め付けられる想いで一杯になってしまった隼。

 目を背けようとするが、夢花がそれを許さない。

 

「それでも私たちにとって野球が大好きだった。だから幼い頃から続けて来た野球に報いる為に、女子野球の道でたった一つの栄光を目指して勝利に食らいつくの――。隼君は……、私の事を笑っちゃう?」

「……」

 

 隼はいつも明るく振舞っている夢花が、突如静かな口調でそう問いかけて来た事に戸惑いを隠せなかった。

 それはかつて、母である邑子が自身を咎めた際。自身が高校野球を低く見ていた事を見透かされていたかのように。

 高い所で野球をする事こそが全野球人にとっての憧れであると、思い込んでいる隼を戒めようとしていたかのように。

 いつもなら辛気臭くなるとすぐ笑い飛ばしてくれる夢花がここまで追い詰めてくるのに対し、隼はようやく夢花が本当に怒っていると言う事に気づく。

 

「ご、ごめんなさい……。野咲先輩っ……」

「ふふっ、ちょっと意地悪だったかなっ」

 

 隼が素直に謝った事で、小さく笑みを浮かべる夢花。

 夢花は自分自身を指さしつつ、落ち込む隼に対しいつもの明るい様子でそれをフォローする。

 

「私も昔ね、みんなの気持ちが分からなくてピリピリしてた時期があって、時には人を傷つけちゃった事があった」

「野咲先輩が……?」

 

 意外だった、と言えば釘バットの例もあり嘘になるが。少しだけ現在の夢花とのギャップに戸惑いをみせる隼。

 夢花は静かな表情で、昔の事を思い出すかのように目を瞑り、こう続けて行く。

 

「けどそんな時、ここの監督に出会ってこう言われたの。"人の真意から逃げるな、きちんと受け止めろ"ってね。まあ、今は監督がこの状況から逃げちゃってるんだけどね」

 

 笑い話の様な夢花の口調に対し、思わず微笑んでしまう隼。

 自分から積極的に相手を理解しようとはして居なかったし、そんな事は出来ないだろうと諦めていた。

 だからこそ誰とでも真っ向からぶつかっていく夢花の事を尊敬したし、憧れを持っていた。

 けれど、それを出来ないと逃げてしまうのは、今の夢花が八剣に注意された時の同じなのではないかと感じ始める。

 そうして夢花の言葉を胸に刻みつけ、自分がどう変わっていかなくてはならないかを省み始める隼。

 夢花はそんな隼を優しい表情で見つめると、軽く咳払いをしてから話を戻し始めていく。

 

「ま、話が大分逸れちゃったけど、ここの人たちは私を含めみんな思ってるんだよ。甲子園の資格があるからと言ってふんぞり返っている男子を実力でぎゃふんと言わせたい……、ってねっ」

 

 そう言うと、夢花は最後に隼の胸元を軽く添えてから。優しくお姉さん口調でこう忠告してあげる。

 

「みんなそれぞれ、野球への思い入れは違うの。……だからねっ、隼君も皆の気持ちを理解してあげるようにしてねっ」

「分かりました……!」

「分かればよろしいっ、それじゃあ練習を始めようか~っ!」

 

 隼と夢花が良い感じに互いの信念を分かち合った四月上旬の女子野球部グラウンド。

 まだ入部してから間もないが、夢花や八剣、そして袰延達との出会いを通じとんでもない早さで成長していく隼。

 そんな彼の様子を遠くから見つめている、怪しい人影がチラリと見え隠れしたのを隼は見過ごさなかった。

 

「だ、誰!? ボク達の事を覗いてるのはっ!?」

 

 ふと、夢花を守るべく覗きこんでいる人物のいる方角に仁王立ちし、立ちふさがる隼。

 すると気付かれた事で隠れる必要がなくなったのか。隠れていた男はそのまま物陰から姿を現すと隼たちの下へと駆け寄って来る。

 隼の目の前に立ったその人物は、不敵な笑みを浮かばせながら隼にこう告げる。

 

「ほう……、気づくとは流石だな」

「君達は……!?」

 

 開戦までは残り二日、果たして隼たちの運命は如何に――。


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