実況パワフルプロ野球~あの空のムコウまで~   作:たむたむ11

13 / 26
第二章 勇者に武闘家、賢者にメガネ!?
第二章 第1話「協力者」


 毎年、神奈川高校野球では、夏と秋にとびっきりの嵐が吹き荒れると言う。

 甲子園大会、六大学野球に都市対抗野球大会……。様々な野球大会はあるが、その中でも神奈川の高校野球は飛び抜けていた。

 最も多くプロ野球選手を輩出する名門中の名門、溝浜高校を始め。アマチュア野球一の打線を持つ宗界大学付属相良高校。

 個性派選手揃いの慶音義塾高校、全てにおいて隙の無い野球を得意とする桐陽学園高等学校。

 さらには堅実な野球の桐影学園、投手力に定評のある溝浜商大附に溝浜帝学館、そして超スピード野球の溝浜疾風。

 いずれも桁外れの実力を持つ高校が集う神奈川高校野球は、いつのまにかアマチュア野球の中でも最高峰の舞台とも言われる舞台にまで成長を遂げていた。

 そしてそんな神奈川の大会を勝ち抜いた猛者は、甲子園大会では当たり前のように優勝争いを制するのだ。

 彼ら神奈川高校野球の猛者を倒せる高校など。全国に見ても数える程しかいないだろう。

 何故なら、ほぼ全ての強者達が既に神奈川高校野球に揃っているのだから――。

 

 しかしそんな神奈川に収まりきらない程、強い選手達が一度に集まった世代がある。

 人々はそれを“超新人時代”と呼んでいた。“魔王”、“投手四天王”、“野手二強”と言ったインパクトのある超天才達が日本中の人々を虜にした。

 そして凄まじい選手達は、神奈川高校野球だけではなく他県でも熾烈な争いをもたらす事となる。

 他の県も、そして何より神奈川高校野球でも。歴代で最高の時代と称されるこの時代。

 そんな凄まじい嵐吹き荒れる激戦区では今宵、新たなる超新星が舞い降りようとしていた。

 

 片倉隼、溝浜疾風野球部一年生。

 これから彼の壮絶なる野球部生活が始まろうとしていた――。

 

 

 

第二章 勇者に武闘家、賢者にメガネ!?

 

 

 

 

 

 

 

「……しゅ……く……」

(ああ……、誰かの声が聞こえる……)

 

 虚ろな意識の中で、何者かの声が聞こえて来た。

 横たわる隼は口をパクパクと上下させなせながら、体中に広がる虚無感から脱しようと重い瞼を開こうとする。

 しかしなかなか醒める事の無い意識に手こずっている、唸り声を上げながら寝返りをうつが肝心の瞼が開かない。

 そうこうしていく内に、何者かの声は大きくなって行く。

 

「隼……ん! お……てよ!」

(この……、声は……?)

 

 聞き覚えのある声が耳に入ってくるのを感じ、隼の意識は次第に確かなものとなる。

 その声は隼の名前を呼んでいた。焦りの混じった吐息が隼の頬に吹きかかり、僅かにくすぐったい。

 温もりある手が隼のか細い体を掴み、眠りにつく隼を起こそうと必死に体を揺すぶっていた。

 

「んっ……」

 

 誰かの執拗な呼び声を受け、隼はついに瞼を開き辺りを見る。

 桃色の内装、鮮やかな色のカーテン、きっちりと揃えられている家具に可愛らしいぬいぐるみ。

 そして何よりも目立つのは、寝ている隼を覗き込むようにじっと眺めていた女の子二人組だった。

 

「あっ、隼君が起きたっ!」

「よかった……、気絶したって聞いた時は驚いたよ……」

 

 ホッとした様子を浮かべ安堵していたのは夢花と涼子であった。 

 二人と目と目が合った瞬間暫くの間思考が停止していた隼であったが、状況を理解した瞬間、飛び跳ねるように起き上がり取り乱し出す。

 

「わわっ!? こ、ここは!?」

「隼君、おちついてっ」

 

 取り乱す隼を宥める夢花。隼の気持ちを察していたのかちょっぴり苦笑いを浮かべていた。

 誰だっていきなり異性の部屋に連れ込まれたら動揺する。ましてや隼は年頃の思春期なのだ。

 部屋一面に広がるカラフルでファンシーな世界は、無知な隼には刺激が強すぎたようである。

 一体何が起こっているのか。

 隼はそう思った瞬間、気絶する前に聞いた監督の言葉が頭に流れ込んできた――。

 

「もしかして……、僕の住むところって……」

 

 隼が恐る恐る確認を取ると、二人はあっさりと答える。

 

「そだよっ、私と涼子ちゃんの部屋っ」

「窮屈かもしれないけど、よろしくねー」

 

 予想だにしない反応を前に、隼は焦りを隠せないでいた。

 二人共、異性と生活する事を受け入れている様子であり、かなり落ち着いている。

 普通であるならば異性と同じ部屋であることはかなり抵抗を見せるものなのだが、この二人には一切ない。

 どちらかというと、隼の方が過剰に反応しすぎているように見えた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 一体どういう事なんですか!?」

 

 慌てふためく隼の質問に、夢花と涼子は一瞬困ったように首を傾げる。

 隼が何を聞きたいかが分からないというよりも、伝えるべき点が多すぎて困っているといった反応だ。

 兎に角、今は隼を落ち着かせる事が重要。そう考えた夢花達はゆっくりと現状を説明し始めた。

 

「んー、簡単に言えば隼君は私たちと一緒の部屋で生活するってわけだよっ。

 監督からも聴いてると思ってたけど……、男子が定員越しちゃったから女子の分削って入学させたらしいんだ。

 私達二人のせいでこんな事になっちゃったし、同室は私達になるのが筋だろうって事で同室なのっ」

「一応、女子寮全体にも隼君が私たちの部屋に居る事は伝えてあるから心配しなくていいからね。

 皆面白がってるみたいだから、悪いことは言われないとおもうよ」

「そういえばさっき寝てる間にすっごいみんなに写メ撮られてたもんねっ!」

 

 真面目に説明する気があるのか無いのか、兎に角隼はなんとなくではあったが現状を掴む事が出来た。

 どうやら、隼が女子寮にいるのは監督の言っていた通り、定員超えによるものだ。

 元々はセレクションによる選定十名と特待生二名、合わせて十二人が一学年の限度らしく、寮もそれによって割り振られる。

 女子寮においてもそれは同じ事であるが、夢花の話では今年は女子の入部を一人減らし代わりに隼がこの部屋でお世話になるという事らしい。

 しかしいくら定員超えになったとしても、普通女子寮に男子を無防備に入居させるものだろうか。

 事前の説明も何もなしに勝手に女子寮での生活を余儀なくされた隼、やきもきしながら視線を俯いていると夢花が隼に茶々を入れる。

 

「案外、隼君女の子っぽいしすぐ馴染めるよ~っ」

「ちょ……、どういうことですか! 僕は男の子ですってば!」

「きゃ~、隼君が怒った~っ、きゃ~」

 

 完全に隼で遊んでいる夢花に呆れているように、溜息をつきながら遠い目でそれを見ていた涼子。

 いつも同じような事を夢花にやられていた身として、夢花のペースに付き合わされている後輩に同情の視線を送る。

 一方の夢花も朝あった事件の恨みを晴らすべく、隼に対しちょっかいを繰り広げていたのであった。

 

「ハァ……、ハァ……、つ、疲れました……」

 

 しばらくして、夢花を追いかけ回し続けた事で息が切れた隼は本来の落ち着きを取り戻す。

 体力が全く無い隼をねじ伏せるには、わざと怒らせて体力切れを狙う事。

 それを覚えた夢花はいつものドヤ顔を浮かべながら、胸を張って言う。

 

「ふっふっふっ、先輩として隼君には負けないよっ」

「ああ……、体力無いのがこんなにくやしいなんて……」

 

 夢花の前に完全敗北を喫した隼、女性よりも体力が無い事に不甲斐なさを感じがっくりと肩を落とす。

 完全に上下関係がハッキリした事で、思惑通りの夢花はご満悦の様子。

 しかしそうしている間に、夢花のペースに付き合っていた隼の表情からはやきもきしたものが消えている様であった。

 

「まあ、二人ともその辺にして……はい、これ隼君」

「え……、なんです?」

 

 決着がついた二人を宥めるように、ずっと傍観していた涼子が動き出す。

 勝ち誇る夢花と落ち込む隼を宥めながら、涼子はビニールに包まれた分厚い袋を手に取り、それを隼に手渡す。

 隼は涼子からそのビニールに包まれた袋を受け取ると、その場で躊躇せず開封する。

 すると、中には溝浜疾風野球部のものである縦縞のユニフォームと帽子、そしてその他野球道具一式が詰まっていた。

 

「おおっ、新品だぁ!」

 

 ピカピカの野球道具を見て、思わず声を上げてしまう隼。

 涼子はそんな子供みたいな隼を見て、クスリと笑いながらこう告げる。

 

「監督から渡されたの。本来はユニフォームと帽子だけなんだけど隼君には特別だって」

 

 どうやら、袋の中に入っていた野球道具一式は監督のプレゼントであるそうだ。

 隼は早速野球道具一式を身に纏ってみる。すると、殆ど全ての道具が今の隼にフィットしており、とても見栄えが良い。

 似合ってる溝浜疾風のユニフォーム姿の隼に、夢花も涼子は二人とも同時に隼に親指をグッと突きつける。

 

「超似合ってるよっ、隼君っ!」

「うんうん、野球選手の風格が出てる」

 

 野球着姿を褒められた隼は少しだけ照れくさそうにし、帽子を深く被る。

 思えば、こうして正式に野球のユニフォームを着るのはこれが初めてだ。

 こうしてきちんとした野球道具一式を手に取った事で、隼はようやく野球部員としての自覚が芽生えてきたのであった。

 

「これで全部ですかね」

 

 全ての道具を揃え、一通り装着した隼。すると最後にひとつ、なにやら赤い輪ゴムのようなものが残る。

 それ見た夢花はおもむろにそれを手に取ると、左指でゴムを広げながらもう片方の手で隼の帽子を掬い上げた。

 

「あとは……、これだねっ!」

「えっ、な、何です!?」

 

 突如、隼の長い髪を掴み、その金色の髪を赤いゴムで束ね始めた夢花。

 赤いゴムによって纏められた後ろ髪はゴムの先で癖毛のように広がり星の形へと変化する。

 まるで頭の後ろに星がついているような隼の姿を見て、髪を束ねた張本人は髪でできた星をなぞりながら言う。

 

「にひひっ、お星様かんせ~い」

「ちょ……、いきなり何なんですか!?」

 

 夢花の突然の行動に理解できず訳が分からない隼、ムッとした表情で結われた髪の毛のゴムを外そうとする。

 すると今度は涼子がそんな隼を制止するように声を掛けると、そのゴムの意味を説明をした。

 

「あー、その髪留めは男子野球部は絶対つけなきゃいけないらしいよ」

「え?」

「なんでも、男子野球部はこの学年色の髪留めをみんなつけなくちゃいけないらしいんだよ。

 昔、高校野球全体で坊主頭主流だった時、溝浜疾風は坊主頭の代わりとしてこのゴムをつけて団結心を見せるようになったんだって。

 女子は髪型でどうのこうの言われた事が無いから、そんな事は無いんだけどね」

 

 涼子の説明によると、この赤いゴムは溝浜疾風野球部におけるユニフォームの一環とのそうだ。

 以前、高校野球では髪型は坊主という風潮があり、野球部監督もそれを生徒に強要する事があったとされている。

 しかし数年前、とある強豪の高校球児が坊主頭を受け入れる事が出来ず、それによって監督から迫害を受けた事により自殺する事件が起こってしまう。

 その事件以降、球児およびその保護者から坊主頭を強要するのは“体罰”に当たるのではないかとクレームがつくようになり、一時期社会現象にまで発展する。

 その事から、どの高校でも坊主頭を強要する事は無くなったのだが、この髪留めは昔からずっと受け継がれているものらしい。

 溝浜疾風野球部は坊主頭にしろと強要する事は無く、ただ部の活動中だけこの髪留めを頭のどこかにつけている事。それを条件としたようだ。

 八剣は団結力を大事にする監督だ、個々の力は十分にある癖のある選手達を団結させるのが得意な監督と言われている。

 この髪留めも、個性を生かしつつみんなで纏まってほしいという八剣の選手達に込めるメッセージなのかもしれない。

 そう思った隼は、一瞬解こうとゴムに掛けた手を離し、一息つく。

 その後、後ろで隼の髪の毛でできた星を指で弾くように遊んでいた夢花が補足する。

 

「ちなみに、このゴムの色で学年が分かるんだよっ。

 今年は赤が一年、青が二年、緑が三年。これは学校の上履きの色と同じだから覚えてた方がいいかもねっ」

「……それはそうと、さっきから僕の髪で遊びすぎですよ野咲先輩」

「えー、いいじゃーんっ。減るものじゃないしぃー」

 

 夢花がからかう様に隼の髪の毛を弄り続けると、隼は観念したかのようにその場で大きく息をつく。

 もはや夢花を言いくるめる術はないと判断したのか。隼は夢花にされるがままにその場で俯きながら考え事をし出す。

 これから何をすればいいのだろうか。そう考えた隼は部屋の二人に質問をぶつける。

 

「そういえば僕、気絶してて入寮式とかそういうのに参加してないんですけど……、これからどうすればいいでしょう?」

 

 隼が気絶している間に、時刻は既に正午を回っていた。

 本来であれば入寮する前には入寮式という新入生の挨拶のようなものがあると聞かされていたが、もうとっくに終わってしまっているだろう。

 すぐに確認しようにも、女子寮と男子寮との位置は少し離れているため、男子野球部の様子を覗くことは出来ない。

 今は他の生徒たちは何をしているのか、もう練習を始めているのか。気になり始めた隼はその事で頭がいっぱいだった。

 そして、二人はそれに心当たりがあるようであった。

 

「私達、監督から伝言受けてるけど……、隼君動いて大丈夫? 監督も明日からで良いって言ってたよ?」

「隼君気絶明けなんだから無理しない方がいいと思うよ……」

 

 夢花と涼子は隼を心配するが、隼は黙って首を横に振る。

 一日でも早く野球部の雰囲気になじみたい。部活動経験が全くなかった隼は無理をしてでも参加する必要があるのだ。

 

「わ、わかったよっ」

 

 そんな隼の様子を見て夢花は少し心配そうな表情を浮かべつつも、監督から受け取っていた伝言を話す。

 

「今日は入寮式が終わって10時から、新入部員対レギュラーの試合があったらしいよっ。

 その後は合同で練習するって話らしいけど……」

 

 夢花の話を聞き、隼は慌てた様子でもう一度時計を見る。

 現在ちょうど十二時を過ぎた辺り。十時に一年生の試合が始まったという事は、試合開始から二時間経過しているという事だ。

 高校野球に限らず、アマチュアの試合はじっくりと間を取ったり粘ったりする選手等が少なく試合が早く終わりやすい。

 その為、二時間も経過していれば高校野球の試合では良くて終盤、最悪の場合はコールドゲームで終わっている事だってある。

 だが少しでも可能性がある以上、隼は体を動かさずにはいられなかった。

 

「まだ試合に間に合うかもしれません……!」

「えっ、今から参加する気なのっ?」

 

 心配そうに隼の事を見つめる夢花。

 一応元気そうには見えるものの、つい先ほどまで倒れていた隼を送り出すのには少し抵抗があった。

 どうしても行きたさそうにする隼に対し、夢花はもう一度だけ呼び止める。

 

「今日は監督も休んでいいって言ったんだしさっ、無理せず休んでおこうよ……ねっ?」

 

 しかし隼の意志は全く変わる気配はない。

 隼は心配する夢花の顔を覗き込むように少し身を屈ませると、心配してくれている夢花の事を潤んだ瞳で見つめ返しながら、熱心に自分の意志を伝え始める。

 

「僕には必要なんです……、どんな休養よりも、どんなトレーニングよりも。必要な物がある筈なんです……!

 野球に憧れながらもずっと野球に触れずに育ってきた僕にとっては、野球はまさに砂漠のオアシス――。

 渇いている僕はその野球という水に一秒でも多く触れていなくてはならない……。そうしないと、心がおかしくなってしまいそうなんです……!」

 

 必死に自分の意志を訴えかける隼。

 傍から見ればそれは中毒者の言葉にしか思えないものだが、隼の事情をよく知る夢花には理解できた。

 隼は今、とても不安なのだ。いつもは母親に支えてもらい、そんな母親の為を思い野球を目指していた。

 しかしその母、邑子が病に犯された今。隼はとても不安で仕方がないのだ。

 いつも受け続けてきた支えを無くした今、これからは自分の力で高校生活を切り開いていかなくてはならない。

 そんな不安に押しつぶされそうな中、じっとしている事なんてできないだろう。

 だからこそ、隼は野球に執着するしかなかった。野球で一番になる夢を追う為には、それしか答えを知らなかったからだ。

 そして夢花も涼子も、そんな隼の不安定な心を支えてあげられる言葉が思いつかなかった。

 

「わかった……、でも無理はしちゃダメだからねっ!」

「はい!」

「気を付けてね」

 

 野球部の練習場へと駆けだす隼に念を押しながら、見送る夢花と涼子。

 少々不安の残る始まりを迎えた隼との共同生活、しかしこの程度で心が折れるほど二人は弱くは無い。

 

(乗り掛けた船だし、邑子さんの代りが務まるか分からないけど) 

(隼君が潰れないように、私たちが頑張らないとっ!)

 

 決意の固い二人は、隼の背中が遠くに見えなくなるまで見つめ続けた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……、ハァ……!」

 

 そして、練習場に早足で到着した隼。

 流石に入部初日から大遅刻をしている身分故、大手を振ってグラウンドの中に入り込む事は出来ない。

 激しく息を切らしながら、人の集まるグラウンドの中を覗き込む。

 

「やったぁ……! まだ試合やってるよぉ……!」

 

 隼はグラウンド内でまだ野球の試合が行われている事を確認し、安堵する。

 現在行われてる試合は夢花から聞いた通りであれば、新入部員と溝浜疾風レギュラー陣の試合の筈だ。

 そうであれば、隼が出場できるチャンスは十二分にあるだろう。隼もそれを狙って急いで駆け付けてきたのであった。

 隼はニッコリと笑みを浮かばせながら、自分に言い聞かすようにこう呟く。

 

「仮にもここは強豪校……、レギュラー陣が新入部員に負ける事は許されない。本気で叩き伏せている筈。そこに僕が風穴を開けて……って、え?」

 

 隼が呟きながらふとスコアボードに目を向けると、その試合の内容に驚愕してしまう。

 スコアボードに書かれているのは『一年』と『レギュラー』の二チームの内容だ。

 おそらく、新入部員側が『一年』であり、レギュラー勢はもう一方のチームの事を指しているのだろう。

 しかしそこに書かれていたのは、隼の予想していた展開とは全く別の驚きの数字であった。

 

「……一年が7、……レギュラー0、点?」 

 

 隼は目を疑ったが、そこには確かに書かれていたのだ。

 一年チームの合計スコアには7という大きな数字が、そしてレギュラーチームのスコアには0の数字が並んでいた。

 そして、現在は9回の裏。後攻のレギュラーチームもいよいよ最後の攻撃となる回。

 しかしこの点差。今から反撃をすると言えど、ここまで大差をつけられてしまってはもうどうしようもないだろう。

 強豪校のレギュラーともあろう者達が入部したての一年に負けるはずがない。本気でそう思っていた隼であったが、目の前で起きている出来事には唖然とする一方であった。

 

「え……、ちょ……、これって……」

 

 現在、一年チームは守備に入っている。とてもじゃないが割り込んで中に入れる雰囲気ではない。

 一年チームの守備、マウンド上に立つ男は余裕の表情を浮かべながら投球に転じている。

 おそらく、彼がこの一年チームのキーマンなのだろう。とても細身な体に見えるが体幹筋は鍛えられており、遠目からでもその肉体美が見て取れる。

 美しい横手投げのフォームから投じられた球は、構えられた捕手のミットに寸分の差も無く吸い込まれる制球力がそこにはあった。

 

 

 

 気づけば、試合は終わっていた。

 隼が出る間も無く、新入生圧勝。一年生に完全なる勝利を与えてしまう。

 そして、この出来事が溝浜疾風高校男子野球部の行く末を大きく左右する事となってしまうのであった――。




ございますです~たむたむでございます~。
久しぶりに落ち着く時間が取れたので小説更新でございます・゚・(ノД`;)・゚・
お待たせして申し訳ございませんございます!!

暫くはこっちの更新ができそうでございますのでよろしくございますです!
挿絵機能もどんどんつかっていきたいでございますがゆっくりと始めていきますございます!
感想・誤字報告お待ちしております!返信もなるべくこれからは早く済ましますございます・゚・(ノД`;)・゚・
本当にもうしわけないでございました!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。