真っ直ぐで歪んで赤くて黒い恋愛感情   作:最下

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後編

 

 

 

 

「お兄ちゃん、元気ー?」

 

 

人生相談をして貰った次の日、学校が終わったら大急ぎでお兄ちゃんの部屋までダッシュ、授業中とかやっぱり心配になっちゃって。でもよかったぁ、ちゃんとお兄ちゃんはお部屋にいてくれた。

 

 

「おー兄ちゃん、ただいまー!」

「…………」

 

 

ただいまと言ったらおかえりって言うのが礼儀でしょーお兄ちゃん、そんな目を向けるだけなんて。……ハッ、もしかしてこれが噂に聞く淡白亭主!

 

 

「……それで、これはどういうことだ?」

 

 

昨日聞いたような怒気を含んだ言葉ではなく、平坦に無機質に質問してきた。さっすがお兄ちゃん、ちょークール! ……何か煽ってるみたいだね、これ。もちろん煽る気なんてこれっぽっちもない、寧ろ100%愛で20%も愛!

 

 

「お兄ちゃんが余所見ばっかりするから小町だけを見せるの、それだけ」

「…………」

 

 

静かに向けられた目は真意を問おうとしていた。でも残念、小町の答えはこれで全部。強いて言うならお兄ちゃんともっといちゃいちゃしたいなー、なんて思ってるけど。……てれてれ。

 

 

「……要求は?」

「ほーし部との縁を切って欲しかったけど、もういいや」

 

 

だってお兄ちゃんの手を煩わらせなくても小町が切ればよかっただけだし、もしお兄ちゃんがイエスと言おうがノーと言おうが

 

 

「小町は絶対に離さないからね」

「そうかよ」

 

 

向けられた視線は外され、鎖を鬱陶しそうに動かしながらリラックスできる位置を探し始め背を見せられた。もう! わたしがすぐそこにいるのにポイント低いよ?

 

 

「小町も一緒に寝ていい?」

「…………」

 

 

えーと、今は沈黙が正解じゃ無いよ? むしろ話して、小町とお喋りしてよ。ま、こーていと捉えていいのかな、いいよね。

 

 

「お邪魔しまーす」

 

 

すすすっと背中にぴったりくっ付く。……この鎖凄い邪魔、いつかお兄ちゃんから絶対の愛を貰える日が来たらこれを外してあげるからね、いつまでも待ってるよ。

 

 

「……離れろ」

「え?」

「鬱陶しいから離れろ」

 

 

言葉の端々までたっぷりの敵意が小町の胸にまで届く。これもお兄ちゃんから貰った感情、胸から頭へ、頭で何度も繰り返し指先まで伝えていく。ふふふ、嬉しいな。でも他の気持ちも欲しいかな、流石に欲張りかな?

 

 

「もっと」

「離れろ」

「もっともっともっと!」

「…………」

 

 

首に腕をまわしあすなろ抱きみたいな抱き付き方になる。こうしているとお兄ちゃんから心音も声も声の振動も全て小町が抱きしめられる、これももう誰にも渡さない。

 

 

「どうしたの? もっとちょうだい?」

「……お前は」

「うん?」

 

 

なぁに? お兄ちゃんは焦らすのが好きなの? 小町はそういうのはよく解らないけどお兄ちゃんが望むならどんなプレイでも……。

 

 

「座るから退け」

「え、うん……」

 

 

足枷首輪を不快そうに動かしながらお兄ちゃんはベッドに足を伸ばして座る、実際はそれ以外の座り方ができないだけだけど。それが外れるかはお兄ちゃん次第だからがんばって!

 

 

「小町、俺はお前が家族として好きだ。お前の気持ちに応える気は無い」

「うん、知ってるよ?」

「は?」

 

 

え、そんな驚くようなことだっけ? だってお兄ちゃんが応えてくれてたらこんなことしてないよ? それとも拒否とか否定とかをしたら小町が諦めるとか思ったの? ……わたしの気持ちはそんなに軽いものじゃないよ。

 

 

「いいの、お兄ちゃんは小町を妹として愛して? わたしは異性として愛してるから」

「お断りだ」

 

 

即答!? 決死の思いの告白だったのにー……。ま、お兄ちゃんらしいからいいんだけどね、それにその考えが変わる様に小町がいっぱいいっぱい愛してあげるから。

 

 

「そっかー、それじゃあご飯作ってくるから大人しくしててね」

「……チッ」

 

 

そんな顔しないでよー、小町悲しい! ……なーんてね、今はそれでもいいの、わたしだっていきなり睡眠薬飲まされたら怒っちゃうだろうし。

さって、夜ご飯は何にしようかな

 

 

  *  *  *

 

 

「じゃじゃーん! 今日のご飯はオムライス!」

「…………」

 

 

あれー? 反応薄いなぁ、この前なんて眠そうな声で「いえーぃ」とか言ってくれたのに。それともお腹空いて返す気力も無い感じ? 

 

 

「はい、お兄ちゃん。あーん」

「……自分で食う」

「ダーメ」

 

 

顔の前でスプーンをふりふりとしても顔を背けたまま、むー。別に恥ずかしがっている訳じゃないんだからいいじゃん、一応まだ妹なんだよ? 可愛い妹とのスキンシップを大事にしてもいいと思うなぁ。

 

 

「食べないと体に悪いよ?」

「スプーン寄こせ」

「あーん」

 

 

顔をしかめないでよー。そんなに嫌なことなの? 男の人って女の子にあーんってしてもらうのが夢って聞いたんだけど……、それが違くてもわたしはやってみたいけどね。

 

 

「……」

「おお! 食べた! お兄ちゃんが手から食べた!」

 

 

初めてかーくんにご飯を食べてもらった時を思い出す、お兄ちゃんも野生動物みたいに警戒心が高いしこの感動もあんがい間違えていないのかも。

 

 

「俺は野生動物じゃねぇ……」

「ふふ、同じこと考えてた」

 

 

好きな人と同じことを考えていた、くだらないことでも幸せな事に変わりはない。このまま少しづつ警戒心を解いていけば気軽にお話しぐらいしてくれるようになるかな、ゆくゆくはお兄ちゃんから愛を囁いてもらいたいけど時間がかかりそう……。

 

 

「チッ……」

「はい、あーん」

「……」

 

 

うふふ、また食べてくれた。嬉しい、スプーンを口に入れ取り出す、そしてゆっくりと噛んでから飲み込む。飲み込んだ時喉仏が上下に動くのが、何というか……、そそられる、みたいな感じで、その、ね?

 

 

「あんだよ」

「な、何でもない!」

 

 

こ、小町むっつりでも卑しい娘でも無いもん! そ、そりゃあ確かに人並みの性欲とか、えっちへの興味はあるけど……、だからエッチな子じゃ無い! そういうのが気になるのはそういうお年頃なの!

 

 

「……?」

「何でもないってばぁ!」

「んご!?」

 

 

多めに盛ったスプーンを口に突き出す。だってお兄ちゃんが、探る様な目で見るんだもん、小町だってあまりじろじろ見られたくない部分があるんですぅ! ……ハッ、でもお兄ちゃんがわたしの隅から隅まで知りたいと言ってくれるなら、って

 

 

「げほっげほっ、何しやがる……!」

「お兄ちゃんこそ何考えてるの!?」

「何が!?」

 

 

わたしの隅から隅まで知りたいって事は肉体的な事もと言うことでしょ!? お兄ちゃんのエッチ! 小町がその気なっちゃうよ!? もっとこういうのは段階を踏むものって、書いてあったし、やっぱり恥ずかしぃ……

 

 

「小町のは純粋な愛なの! え、エッチとかは二の次なの!」

「マジで何言ってんだお前!?」

 

 

何もナニも無いよ! 小町のお股に男性のが付いてるのが好きなの!? だから戸塚さんにメロメロだったという事なの!? 小町もう意味わかんない!

 

 

「意味わかんない!」

「それはこっちのセリフだ!」

「小町の頭の中を読んだ!?」

 

 

そ、それって、それって、小町の、ちょっとえっちな思考も!? え、え、それって、あれ、も、もしかして、あ、あ、

 

 

「いや、思い切り口に出し」

「キュウ…………」

「は?」

 

 

「え? 何で倒れたのこいつ……」

 

「あー、とりあえず飯食うか……」

 

「味とかはいつも通りなんだけどなぁ。はぁ」

 

 

  *  *  *

 

【愛を叫ぶよ! お兄ちゃん!】

 

 

うぅー……、恥ずかしい恥ずかしい。小町が普通ではないのは知っているし自覚していたけどこれは少し暴走が過ぎた。で、でもこれから名誉挽回できるもん。

と、いうわけで

 

 

「どーん!」

「……はぁ」

「いきなり溜息なんて酷いなぁ……」

「それだけの事をしているんだよ、お前は」

 

 

むぅ、そうかもしんないけどさぁ……。ご飯は美味しく出来たと思うし、確かにお兄ちゃんが嫌いなトマトも添えたけどね、それはお兄ちゃんが好き嫌いするからいけないと思うよ? それとも昨日の睡眠薬の件? むぅ、心当たりが多いかも……。

 

 

「んで、何の用だよ」

「ふふん、今日はお兄ちゃんに愛を囁きに来たのです!」

「か、え、れ」

 

 

ほんと、嫌われちゃった。諦める気はないけどスタート地点にも立てないのは少し悲しいかも、でもでも! 愛はそんな壁も全てを粉砕して突き進むもの!

 

 

「大好きだよ、お兄ちゃん!」

「鬱陶しい」

 

 

そっけない。

 

 

「えっとね、学校で熱出たときに迎えに来てくれてありがとね」

「学校様に迷惑がかかるからだ」

 

 

ツンデレさん? いいや、ひねデレさん。

 

 

「帰ってきてからも家事やってくれて嬉しかったよ」

「お前との会話を減らすつもりでやった、あれか」

 

 

ああ、やっぱり。ちょっとだけ予想付いてたけどやっぱりショック。

 

 

「小町のことを不審に思ってたのに人生相談もしてくれて、ありがとう」

「皮肉か? 罠にかかってくれてありがとうって」

 

 

流石にその憎まれ口はいただけないかなぁ、自分に嘘を吐くのはダメ! 小町も嘘をついて後悔したもん。それにあの時のお兄ちゃんは本気で応じてくれたのには、もちろん気付いてたよ。妹としてずっと見てたからね。

 

 

「小町はお兄ちゃんを愛してる、わたしは八幡を愛してる」

「ロマンチックな詩だな、笑わせる」

 

 

お兄ちゃんは優しい、どうしても妹としてもフィルターがかかっちゃうのかな? 今の小町を嫌っているのは本当だろうけど、やっぱりセーフしてるみたい。ほっといてほしいのはわかったけど、それ無意味だよ? ぞくぞくするし。……今の無し。

 

 

「クリスマスイブに帰ってきてくれたのは嬉しかったなぁ、幸せな日」

「…………」

 

 

あ、寝る態勢に入ろうとしてる。ダメダメ、もっとお話ししたいよ。

 

 

「寝ちゃ……ダメ!」

「ぐぁっ!」

 

 

首輪に繋がった鎖を軽く引っ張る、……いい悲鳴。な、なーんて冗談だよ、イッツ、ア、小町ジョーク! HAHAHA!

 

 

「げほっげほっ!」

「続き話していい? 寝ようとしたら罰ゲームね」

「くそ……、好きにしろ」

 

 

横になったままだけど一応聞いてくれるみたい、よかったよかった。

 

 

「後ね、クリスマスプレゼント。あれも嬉しかった。真剣に考えてくれたんだね。ありがと」

「あいつらと選んだと言ったろ」

 

 

……あいつら、ねぇ。雪なんとかさんと由比なんとかさんのこと? もうあの二人は他人なんだしそれを話題に出さないで欲しいな。キャンキャンニャーニャー喚いて本当目障り。

 

 

「ふん、結局悩んだのはお兄ちゃんだからいいの」

 

 

ちょっと不機嫌になっちゃいそう。でも落ち着いて、大丈夫、お兄ちゃんは絶対に小町が守るから。あいつらなんて忘れちゃえ。

 

 

「他にもたくさん、愛してるの。事故に遭ったときなんて怒ろうか褒めようか悩んだし」

 

「一年生の時は色んなバイトしてたね、行ってみようかなんて悩んじゃった」

 

「初給料で買ってくれたヘアピンは今でも大事にしてるよ」

 

「二年の春は帰りが遅くなって寂しかった……、今はもう関係ないけど」

 

「大志くん……はどうでもいいけど、お蔭でお兄ちゃんのカッコイイ姿見れて嬉しかった」

 

「わんにゃんショーも一緒に行けて嬉しかったけど邪魔が入ったのは残念だったよ」

 

「林間学校は新品の水着をお兄ちゃんに見てもらったのが一番の思い出かな」

 

「夏中盤のお散歩も楽しかったね」

 

「夏祭りも一緒に行きたかったかな、気を使うと碌な事がないね?」

 

 

あの時の小町の気が知れないよ、いや今でも鮮明に覚えているけどね。お兄ちゃんの幸せを願う、もっと良いやり方なんていくらでもあったろうに小町以外の理解者を求めるなんて、馬鹿げてる。

 

 

「文化祭は毎日疲れて帰ってきて、もう少し労えればよかったんだけど……、ごめんね」

 

「でも働くお兄ちゃんはカッコよかったよ、目福目福」

 

「修学旅行の後は大変だったね、あの時にこうしておけば良かったかも」

 

「でも久しぶりにお兄ちゃんと喧嘩出来たのも一つの幸せかな?」

 

「小町も良い子にお兄ちゃんに依頼して、お兄ちゃんは幸せ者だね?」

 

「それからもまたお仕事で疲れたリーマンみたいな声で帰ってきて、あはは」

 

「んー。思えばいろんなことがあったね」

 

 

嬉しい事も悲しい事も楽しい事も怒っちゃうような事も、でも全部が全部小町の宝物、目障りな羽虫がいるのは今度殺虫剤でブシューとやろうかな? ふふ、そう簡単にすんだら楽なんだけどね。

 

 

「お兄ちゃんのダメな処、寝坊助さんとかトマト嫌いとか、偏食さんとか……」

 

「目が死にまくってるのも、自分の顔を整っている方って言うところも」

 

「あは、挙げきれないね。もっと沢山ダメダメなところがあるのを知っているのは小町だけ」

 

「お兄ちゃんが求めてた人はそれを知っているのかな、知らないよね」

 

「でも小町は知ってるの、わたしだけが知ってるの。この感覚も幸せかな」

 

 

んん、気分が向上してきた。今なら何でも出来ちゃいそう、例えばお兄ちゃんを性的にペロリとか? きゃ、言っちゃった。恥ずかしー、あはは。

 

 

「良い所も沢山ある、それこそ挙げきれないけどね」

 

「ダメな所良い所、ぜーんぶ愛してる。それが出来るのは小町だけ、自信を持って言えるよ」

 

「愛してるよお兄ちゃん、全部頭の天辺から爪先も、良い所も悪い所も」

 

「今までもこれからも、ね。ずっと愛してる」

 

 

……………………どうせお兄ちゃんの答えは決まっている。

 

 

「No、って何度言わせる気だ?」

「お兄ちゃんがわたしと付き合ってくれるまでかなー」

 

 

心底うんざりしました、と言う顔が覗く。失礼しちゃう、ちょっとおかしいかもしれないけど小町だって立派な女の子なんだから恋心を無下にされたくないよ。

 

 

「ずっと愛してるってずっとずっと言うから、良い答えを待ってるよ。それもずっとね」

 

 

それまでノーって言われる幸せを噛み締めようかな、それもお兄ちゃんがくれる言葉、お兄ちゃんくれる幸せ。それら全部を含めてわたしだけのモノ。

 

愛してるよ。

 

 


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