オーバーロード ―さまよう死霊―   作:スペシャルティアイス

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この話で第一部終了というところでしょうか


第十話

『おまえたちは、のこれ。く、くるものみな、しぬ。あくりょうつきになぞ、ついてこなくていい』

『長よっ、覚悟のないものは既にここにはいない!そして死ぬとしても、敵の攻撃を数瞬でもとめてみせます!』

『そうだっ、皆でかかって長たちの攻撃をとどかせてやる!』

『見ていてくださいよ。絶対に、絶対に負けない』

『……まて。いくな、やめろっ』

 

六十人の部族の者が、鋭き尻尾の長より先に進み始める。その先に見えるのは冷たい青い光、触れれば凍りつく寒々とした光だ。

それに向かって走りだす同族を引き留めようと手を伸ばすも、自らの口部に激痛を感じ、彼の意識は落ちた。

 

肌に感じる刃物で切りつけられたような冷気、目に血液が入ったのか不明瞭な視界、それごしに見える戦い。

いや、戦いと言うにはあまりに一方的。コキュートスに向け、蒼氷の剣の使い手は突きを繰り出し、その側面から蜥蜴人一のモンクの拳が頭部に打ち込まれる。

しかし、その双撃は微塵も効果をなさない。

コキュートスは突き込まれたフロスト・ペインの刃先を、人差し指の爪先で軽くいなす。

そしてゼンベルの拳撃を斬神刀皇の刃区(はまち)で受け止め、そのまま拳の勢いのまま物打へ向け滑らせる。

すると熱したバターを斬るかのように、刀はゼンベルの拳から肘、肩をずるりと滑り斬る。

 

「ぐがあぁぁ!」

「くっ」

「《魔法上昇・軽症治癒》!」

 

後方に控えるシャースーリューから回復魔法がゼンベルにかかるが、半分もそのダメージは癒やされない。

 

「ホウ、知ラヌ魔法ダ興味深イ。……ムゥ、マタカ」

 

怪我を負ったゼンベルへの追撃を止めるためか、蜥蜴人の幽霊がコキュートスへ突っ込む。

死霊系の攻撃手段は数が多くない。かの幽霊のレベルでは《負の接触》や《脆弱化の接触》程度だろう。

 

「先程ト同ジク無駄ダゴースト、貴様ハ敵タリエナイ。能力ガ有ロウトモ、ソレヲ生カシキレテイナイ」

 

不浄の手がコキュートスに触れる寸前、戦槌で殴り返されたかのように幽霊の身体が吹き飛ぶ。

そのまま、気を取り戻した鋭き尻尾の長の前で止まる。その幽霊の靄は少し薄くなっていた。

 

「(みな、しんだ。なにもできず)」

 

視線を幽霊から自分の後ろ、地に伏せた屍、そして立ったまま果てた部族の者たちに向けた。

 

「……はふひょう、ほうーひひとふぁいへ(あくりょう、もうーいちどはいれ)

 

その声に幽霊は慌てて振り返り、頷いた。

幽霊の姿が消えると、彼の身体が若干軽くなる。憑依(ポゼッション)の効果を受けてのものだが、それは微々たるものだった。

この幽霊が何を考え《憑依》を解いたのかはわからないが、結果的にその行動は鋭き尻尾の長の命を繋げた。

あの勢いのまま突撃していれば、彼の身体は鎧ごと真っ二つになっていただろう。

憑依の解除によって脱力、致死の間合いの外で態勢を崩し鼻先から口までが縦に切り裂かれた程度、命に別状はない。

しかし骨鎧の兜部分は砕け、まるで彼の身代わりになったかのようだ。

兜で隠れていた彼の素顔は、蜥蜴人の感覚から見れば美顔といえるものだったが、口元から吐き散らした鮮血と、顔面に自然と施された血化粧によって、凄絶な相貌と相成っていたが。

その血走った瞳に映ったのは、竜牙の族長の首が切り飛ばされる光景だった。

 

「ッフィヒャァァ!」

 

裂かれた口腔から鬨の声をあげ、鋭き尻尾の長は突撃する。

元より優れた身体能力と憑依により、その速度と白鎧に包まれた姿は弾丸のようだ。

ある意味、彼の対人戦闘能力は族長の中で後衛職であるクルシュに次いで低い。

理由は彼の身につけた蜥蜴人の四至宝の一つ、白竜の骨鎧(ホワイト・ドラゴンボーン)にある。

それは身につけたものの知能を奪い、その多寡によって強度が変わるという呪いが宿っていた。

装備者はほとんどが白痴となるものだが、もとより聡明であった鋭き尻尾の長は知能が低下してもなお、常人以上の思考が可能だった。

しかし、刹那の判断が求められる戦闘では話が違う。

対人戦は力が強ければ勝てるものではない。部族長一の力を有するゼンベルにザリュースが勝利した事実は、

彼の力に依らない戦術の領分が大きい。

その点で、コンマ単位の決断が求められる戦闘中の判断能力に、鋭き尻尾の長は他の族長に劣る。

故に彼の有効打は、肉体能力と防具を活かした体当たり。

その威力は、当たればアダマンタイトさえ砕くものだ。

コキュートスはその動きを見やり、いまだに乱撃を繰り出すザリュースを裏拳で弾き飛ばそうとした。

 

「《大地の束縛》!」

「ホウ、拘束魔法モ使エルノカ」

 

シャースーリューの泥の束縛は、コキュートスに触れずに霧散する。隔絶したレベル差の前に、拘束魔法が無効化したのだ。

 

「氷結爆散《アイシー・バースト》!」

「無駄ダ」

 

シャースーリューの使った魔法に続けて、ザリュースは日に三度しか使えぬフロスト・ペインの切り札を放つ。

振り下ろした氷刃から凄まじい冷気の奔流が迸り、コキュートスは白く濃い冷霧に包まれた。

しかしいささかのダメージも与えられず、彼にとっては微風のようなものにしか感じない。

冷気に対する完全耐性をもつために、無駄という言葉がコキュートスから発せられたのだ。

 

「(これで、奴の視界を封じられたか?)」

 

今に限れば、氷結爆散によるダメージでなく、付随する冷気に冷やされ生まれた濃霧による目眩ましこそが狙い。

突進する鋭き尻尾の族長への援護、それがザリュースらの行動の意図だった。

現状で最高の攻撃力を持つのが白鎧の担い手であるため、その彼へのサポートがこの流れを作ったのだ。

そして氷霧に包まれるコキュートスへ、憑依状態の戦士が迫る。

血走った目をむいて突撃するその姿、その行動はまさしく、生命を燃やす全霊の突貫と推し量れよう。

 

「これなら、いけるか!?」

「兄者、次善のため我らも備え――」

 

回復魔法を受け動き出そうとしたザリュースの言葉が途切れた。

霧に触れようとしたその時、衝突音と共に遙か上空に打ち上げられた、鋭き尻尾の長の姿のせいだった。

 

「なに、が……」

「悪クナイ、悪クナイ一手ダッタ。シカシ」

 

霧が急速に掻き消える。現れたコキュートスは斬神刀皇を鞘に納め、握った柄頭を上空の敵へ向かせ足を開く。

 

「武人建御雷様ヨリ拝領シタコノ“斬神刀皇”ニ、二ノ太刀ノ不討ハ許サレヌ……」

 

彼が尊敬する御方からの贈り物で、これ以上の無様は決して許されない。

その気持ちと、一手を己に踏ませた敵たちへの敬意でもって、コキュートスの手の内で斬神刀皇が鞘走った。

 

“リ゛ィ ン”

 

歪んだ風鈴の音、とでも言おうか。

自然界には有り得ぬその奇音をザリュースらが音と認識出来た時、降下していた鋭き尻尾の長の身体が真っ二つに分かたれた。

そのまま、コキュートスとの間の地点に落下音が二つ。

 

「族長殿……」

 

ゼンベルに続き、心強い仲間が再び討ち取られたことに沈痛な声がザリュースから漏れる。

 

「……そんな、馬鹿な。こんな、こんなことが」

 

しかし隣のシャースーリューは上を見上げ、別のことに心を囚われていたようだった。

ザリュースがそんな兄の姿に同じく空を見上げると、思考が凍りついた。

 

「雲が、割れて……」

 

見上げた先、コキュートスが刀を振るった先の暗雲に、不自然な瞳型の穴が開いていた。

誓って言って、あのような穴は戦闘前に無かった。ならばその原因は、目の前の武辺者の仕業、ということだろう。

 

「は、はははっ。考えてみれば当然か」

「ザリュース……?」

 

“泥で汚れるから”そんな理由で自然の摂理を捻じ曲げる化物に仕える者なら、こんな芸当ができない理由がない。

ここにきてザリュースは、改めて目の前の敵が隔絶した強さを持つ者と認識した。

ならば諦めるのか?降参して助命を乞うか?

 

「しかし、俺たちがやることは変わらない」

 

敵が人智を超越した強者ということは最初からわかっていたのだ。

それをまざまざと見せつけられて、いまさら戦いを投げ出すという選択はザリュースに無かった。

ザリュースは、前傾姿勢でフロスト・ペインを握り直す。

するとそこに蜥蜴人の幽霊が現れた。

透けて見えるほどに薄くなった身体で、ザリュースへと憑依する。

 

「……なるほどな。考え方次第だがその通りだ」

 

大剣を抜き放ち、弟に傚うシャースーリュー。

二人の顔には、このような劣勢にあっても獰猛な笑みが浮かんでいた。

 

「折レヌカ蜥蜴人ヨ。ナラバ、仕切リ直シトイコウカ」

 

その言葉に、蜥蜴人の勇者たちは眼前の敵へ走りだした。

 

 

 

意識はあった、痛みはないが今の自分の身体がどうなっているかなど知りたくはなかった。

 

「うごかなーいからだ、なん ぞなんのやくにたつ」

 

何故か普段よりも頭が回る、そんな感想を抱く鋭き尻尾の長だった。

死にかけたがゆえに肉体に思考能力が引きずられていないのだろうか、そんなことを考えたが、先の戦いを思い出し焦燥感に精神が侵される。

 

「しんでいるばあいか!おいあくりょう、ちからをよこせっ」

 

その声に、蜥蜴人姿の幽霊は姿を現さない。

焦れる。今こうしている間にも、残った者は戦っているのだろう。

勝敗が問題ではない、かと言って生き残っている蜥蜴人の戦後のために、彼は戦おうと急いているのではない。

 

「いまおれが、しんでしまえば。ついてきたせんしたちの、せんしたちのおもいはどうなる」

 

この戦いが負け戦であり死しかないと言っても、血路を開くためにとついてきた部族の戦士六十人。

彼らは戦いの土俵にも登れず、命を絶たれた。虫けらのように。

 

「しんでいるばあいでは、ないのだ!なんとしてもおれは、おれたちは……」

 

報いたいのか、殉じたいのか、それか自分たちの死生に意味がほしいのか?

聡明なはずの彼の心は、今の感情の正体がわからなかった。ただただ、裡から湧き上がる感情を持て余す。

そんな彼に、背後から人外の、それも集団の気配が迫っていた。

 

 

 

蜥蜴人らから見ればそれは激闘だったが、蟲王(ヴァーミン・ロード)にとってはそうでなかった。

無論手は抜いていないが、本気は微塵も出していない。というより出せなかった。

何故ならLv100のコキュートスの本気を、この眼の前の蜥蜴人たちは受け止めきれないからだ。

ザリュースを先頭に、それに時間差を交えてシャースーリューが続く。

小回りのきくフロスト・ペインの連撃と一撃に威力をのせた大剣のコンビネーションは、並の強者ならば苦戦が強いられるものだった。

 

「(シカシ、ソレモココマデダ)」

「《氷結爆散》」

 

一撃を振るう前に、彼にとっては無為の冷気がぶつかる。

しかし同じ手段を取るのは悪手だ。おそらく先ほどと同じように煙幕代わりの行使だろう。

その行為に、いささかの落胆をコキュートスは抱く。

 

「二度同ジ手段トハ、舐メラレタモノダ……」

 

ならば突っ込んでくる者を一刀で斬り伏せよう。

靄越しの戦士の姿を脳内に描き、コキュートスは自然体で構える。

 

……………五秒経つ、なにも攻撃してこない。

 

「何カノ策カ。……ヌゥ?」

 

怪訝に思うコキュートス。

そして氷霧が晴れた先には、狼狽するシャースーリューと立ったまま金縛るザリュースの姿、その後ろで苦しむ蜥蜴人の幽霊の姿が見えた。

 

「ザリュース!一体どうしたのだ!?」

「あ、兄者、身体が……」

 

汗を流して全身に力を込めるも、ザリュースは指一本動かすことが出来ない。

そしてその背後に、頭を抱え身を捩る蜥蜴人の幽霊の姿。

二人は乾坤一擲の一撃を行うはずだった。

シャースーリューはザリュースの氷結爆散は何か仕掛けようとする一手かと思い、弟の動きに意を向けていた。

しかし、剣を構えたまま動き出さぬザリュースを不審に思った所、目の前の光景になっていたのだ

この事態の原因としてシャースーリューが考えたのは、目の前の敵の魔法というもの。

 

「……貴様の仕業か?」

「否、ト言ッテ信ジルヨウニハ見エンナ」

 

ガチリ、と顎を鳴らした蟲王は僅かに苛立っているようだった。

不審は振り払えぬも、この強者が今更に小細工を交える意味もわからない。

ならば何故?と思った所、見やる蜥蜴人の幽霊の姿が少しずつ変化していることにシャースーリューは気づいた。

 

「鋭き、尻尾の……?」

 

その姿は、彼も知るこの大戦にて友誼を通じた一人。

ハッとして目を向けるも、そこには真っ二つのまま打ち捨てられた彼の屍体があった。

そのことは、彼の族長が生き返ったということではないということ。

 

「一体……、何、が?」

 

疑問が溢れたザリュースだが、その答えを得る前にその後ろの存在が身じろぎした。

今や完全に鋭き尻尾の族長に姿が変わった幽霊が、天を仰ぐように吠えた。

音や声は聞こえない。しかしこの場にいる者たちは、それが吠えているということを理解できた。

何者を駆り立てるような、それでいて何処かに呼びかけるような咆哮は、どこか同族を呼び寄せる狼に似ていた。

 

ソレに初め気がついたのは、コキュートスの主だった。

それは彼が死を統べると言っていいほどに死霊術に通じているから。その戦場に突如、五十を超える程度のアンデッドの気配を察知したのだ。

それは最下級にして最弱のアンデッド。

そして対峙するコキュートスもその正体を看破した。

 

人魂(ウィルオーウィスプ)ダト?」

 

戦場に灯る蝋燭のようにゆらめく青い火。それはぽつりぽつりと蜥蜴人の戦士の一角、重装甲の屍たちの上に現れた。

その数は六十ほど、そしてそれらが一斉に動き出す。

コキュートスは最初、それが自分に向けて突撃してきたと思った。

 

「(蜥蜴人ガ、アンデッドニ?ソレモコンナニ早ク?)」

 

しかしそれは違った。彼らはコキュートスへの延長線上にいる人物へと、次々に憑き始めた。

 

「あ、あア、ァァァアあ!?」

「ザリュース!」

 

人魂を吸い込むほどに、白眼を剥いたザリュースは瘧にかかったように震え始める。

 

「くっ」

 

シャースーリューはその前に立ちはだかり、大剣をコキュートスへと構える。この機会に敵が乗じることを警戒してのものだった。

しかし蟲王は動かない、動く必要が無いのだ。

何故なら彼にとって、結果は変わらぬからだ。これが上位者から何らかの指令があれば、別の話であったが。

シャースーリューの肩に何者かの手が乗った

 

「ザリュース?大丈―――」

 

正気に戻ったかと期待した彼の目の前に、目や口から青い燐火を吹き出させる蜥蜴人がいた。

 

「下ガって、くレ。兄ジゃ」

 

普段のザリュースにあるまじき姿に、それが自分の弟だと、シャースーリューには初めわからなかった。

 

「ザリュースその姿、姿は一体!?」

「教えテクレた。族長殿とセン士たちノ魂が、教えテくれタ」

 

呆然としたシャースーリューを後ろに、ザリュースはフロスト・ペインを肩掛けるように八双に構える。

 

「征クぞ、強者よ!俺と戦士ら全霊、凌ゲると思ウな」

「……面白イ。窮鼠ガ虎ヲ屠レルカ、試スガイイ!」

 

咆哮が漏れ、ザリュースの意識は眼前の敵を斬る意に染まる。

その視界は色を失い、嗅覚は消え失せ、痛覚は麻痺したのか感覚が鈍る。脳が一点の目的のために、不要な情報を遮断しているかのようだ。

 

「(族長殿。あなたと戦士たちの意、たしかに)」

 

それはさきほどから心音と共に、裡から聞こえる声にあった。

六十と一の“敵を倒せ”という声。それがザリュースの気持ちと重なった時、信じられぬほどの力を彼は感じた。

その衝動のままに、彼は絶対の存在に立ち向かう。

己に迫るその存在に、コキュートスの戦意はここまでで最も高まる。

そして、蒼火を纏う蜥蜴人は跳んだ。

一歩 いまだ遠く。二歩 敵の間合いに至る。

 

「(先刻マデトハマルデ別人。速サダケナラ、プレアデスニ迫ルカ!)」

 

間合いに入ったザリュースへ、コキュートスは斬神刀皇を唐竹割りに振り下ろす。

 

「ザ、ザリュース!!」

 

シャースーリューの叫びの中、その一刀は主人の意に沿い、目の前の蜥蜴人を真っ二つに切り裂いた。

首を落とそうと考えたが、この戦意滾る死兵がそれで止まるとは思えなかった。

切り開かれた断面から人魂が吹き出すようにこぼれ、ザリュースの身体が倒れこむ、

 

「ナニッ」

 

かに見えて、裂かれた身体は止まらなかった。剣持つザリュースの片側の半身が地を蹴ったのだ。

この一戦にて、初めてコキュートスから驚きの声が漏れる。

首を断たれて生きる生物はいなかろう。そして身体を真っ二つにされて死なぬ生物もそういるものではない。

しかし今、コキュートスに向かい剣を振りぬかんとする蜥蜴人の眼は、敵を捉えて外れず決して死人のものではなかった。

 

「―――!!」

 

吹き出す青い鬼火を推進力にしたかのように地を蹴り、ザリュースはコキュートスの脇腹を薙で斬る。

そして勢いを殺すことなく、ザリュースは地に倒れた。

今更に吹き出した大量の血と臓物が、彼の周りに花を咲かせたように流れだす。

 

「ウオオオォォ!」

 

その攻撃から遅れること一拍、もう一人の蜥蜴人がコキュートスへ走りだす。

そこには思慮もなければ戦術もない。ただ剣の届く距離まで近づき、斬りつける歩みだった。

それを泰然とした様子でコキュートスは待つ。

そしてシャースーリューの大剣が振り下ろされた。その勢いたるや巨岩をも断たんとするものだ。

 

“キィン”

 

高い音が響き、切り裂かれた大剣の鎺から先の部分が飛び、宙から地に刺さる。

それと同時に、袈裟斬りに裂かれたシャースーリューの身体が二つに崩れ落ちた。

 

「素晴ラシイ、素晴ラシイ戦イダッタ。蜥蜴人タチヨ」

 

言葉が漏れたその口から、ガチンと音が鳴る。

そこより下にあるザリュースに切られたはずの箇所には、瑕疵一つなかった。

レベル差はもちろん、低魔力の一撃を無効化するスキルをもつコキュートスにとって、この一戦で傷を受けるという結果は有り得ないためだ。

しかし、美しい青い外骨格に蜥蜴人の血を浴びたコキュートスの身体、その足は一歩退いていた。

故意か無意識か、いずれにしろそれは、彼が蜥蜴人に賞賛を抱いての後退だった。

 

 

 




シャルティアが最後の会談でいないのは、未だに罰(ご褒美)の余韻で気絶してるからです

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