空戦魔導士候補生の情熱   作:蒼空の魔導書

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吼えろ我が戦技ッ!テオ・セシル、魂の魔砲斬り(バスタースラッシュ)

「そんじゃあ行きますか!お前ら、オレに続けぇぇーーーーっ!な~んてなっ!!」

 

ラディルが景気付けにおふざけを言い放ちながら敵の総大将に向けて正面から先陣を切り、ノイス達四人が大型変異種の巨体を包囲しに行くよう四方に散ってその後に続いて行く。都市防衛戦の決戦の火蓋は切って落とされた。

 

敵の総大将の【キメラ・カペラ】は向かって来るミストガンの守護者達を迎え撃つべく下腹部のミサイルポッドから無数の呪力誘導ミサイルを発射、噴射口から吐き出されるドス黒い雲の曲線を無数に空に描きながら五人の空士達を墜とさんと隊列を入り乱れさせて突撃して行く。

 

「いきなり追尾ミサイルかよステップ!」

 

「みんなミサイルを引き付けるように【キメラ・カペラ】の周囲を飛んで!追尾式ならその性質を利用して敵にぶつける事が可能な筈!!」

 

「自分が撃った呪術で自爆させようって腹だね?さすが姉さん!」

 

「確かにあの巨体なら後ろから追って来るミサイルを引き付けてぶつけるなんて楽勝すぎるぜ!」

 

「おっし、そんじゃあフェイトの作戦を採用だ!お前等、しくじるなよっ!!」

 

「「「「おうっ!!!」」」」

 

ラディル達はフェイトが即興で出した作戦を実行に移す。

 

ラディルは正面から向かって来た五発のミサイルを最小限の動きで全て躱して正面突破、弧を描いて戻って来るミサイルを【キメラ・カペラ】の刺々しい顔に引き付けて行く。

 

ノイスは敵のマンタのような巨体の左翼付近を飛翔、後方から追って来る六発のミサイルから逃げ、【キメラ・カペラ】の朱い甲殻の表面の至る所に生えている無数の砲塔から放たれて来る呪力砲弾の威嚇射撃を回避し続けながら敵の左翼の甲殻で最も脆い部分を探って遊弋する。

 

フェイトは敵の左側上部の空を直進横転飛行(エルロンロール)で錐揉み状に閃光の軌跡を描いて翔け抜ける、後方から追撃して来る五発のミサイルを先導するように下方の【キメラ・カペラ】の背中に向けて急激な下方宙返り(スライスバック)で高速急降下、追尾するミサイルも全て同じように彼女の後を追う。

 

アディアは姉とは逆方向の敵の右側上部の空を飛翔、【キメラ・カペラ】の背中の表面を覆う朱い甲殻の至る所に生えている砲塔から牽制の呪力砲弾が掃射され黄金の少年魔双剣士を蒼穹の空から撃ち落とそうとするが、アディアは敵の巨体に向けてジグザグに迫りながら砲撃を掻い潜り、後方から追撃して来る五発のミサイルを敵の右背面に誘導して行く。

 

ルーイは右翼付近を悠々と飛び回り、敵が放って来る砲撃を踊るように躱しながら六発のミサイルを【キメラ・カペラ】が右翼下方に持っているミサイルポッドに着弾するように導こうとしている。

 

このような感じで作戦は順調に事が進み、彼等のプランは実行に移された。

 

「そぉら、主砲粉砕だ!おまけでそのブサイク面を整形してやらぁっ!!」

 

「ここが薄いぜ!」

 

「はっ!」

 

「ふっ!」

 

「ゴー・ホーム!そんでスクラップだステップ!!」

 

全員同時に狙った部位に向かい、追尾して来る全てのミサイルをギリギリまで引き寄せて急旋回(ブレイク)する。車は急には止まれないものだ、ラディルを追尾して来た五発のミサイルは彼の急旋回に対応出来ずに【キメラ・カペラ】の眉間から突き出ている主砲らしき巨大な砲塔に追突し、ノイスを追っていた六発のミサイルは左翼のどの部位よりも若干色が薄い部分に突き刺さり、フェイトの魅力的な尻を追っかけていた五発のミサイルは朱い甲殻の表面に建つ無数の砲塔の内の一つに纏めて被弾、同様にアディアを追撃して来た五発のミサイルも別の砲塔に直撃する、そしてルーイが誘導した六発のミサイルは元居た右翼下のミサイルポッドに帰宅した。

 

「BOON!」

 

高速機動でその場から離れて行くルーイがその速度を維持したまま振り返って指を鳴らした瞬間全ての呪力ミサイルが次々に被爆して爆音の遁走曲(フーガ)を奏でた。

 

すると【キメラ・カペラ】は「グォォオオーーーーン!」という唸り声を上げて若干だがその巨体を上方に反らす動きを見せる、どうやら自分が放った呪力ミサイルでの自傷はさすがに効果が有ったようであり、複数個所での被爆による激痛で苦しみ喘いでいるように見える。

 

「よし今だ!戦技で一気に叩みかけるっ!!」

 

それを好機と敵の巨体の真上を飛ぶフェイトがバルディッシュを魔大剣形態に変形させて一歩引くように構えて狙いを付けた。

 

「撃ち抜け、雷神ッ!!」

 

魔大剣戦技————速光斬馬刀(ジェットザンバー)

 

衝撃波と共に光刃の魔大剣を振り抜き、勢いのまま撃ち出すように巨大な魔力刃が怯んだ敵の巨体の背中に向かって伸展して行く。狙いは背中の中心だ、どうやらフェイトは極限まで伸ばした巨大な魔力刃で【キメラ・カペラ】の巨体を突き刺して中心から引き裂くつもりのようだ。

 

「行っけぇぇぇええーーーーーーーっ!!!」

 

音を突き破る勢いで伸びて行く金色の魔力刃を鼓舞するようにフェイトは雄叫びをあげる。彼女の狙い通りバルディッシュの巨大な光の刀身は敵の背中の中心に向かって伸びて行っていて、このまま行けば後一秒も経たないうちにフェイトの戦技は敵の巨体を串刺しにする事だろう。

 

そう・・・このまま行けば———

 

「くっ!?防がれた!そう簡単にはいかないか!!」

 

金色の魔力刃は敵の巨体を貫く直前で展開された呪力障壁に阻まれてしまった。

 

「姉さんの速光斬馬刀を受け止めたっていうのに障壁には罅一つ入っていない。あの戦技には障壁を破壊する特性が付与されているっていうのに・・・」

 

「流石は新種の大型変異種ってところか。ドンマイだフェイト、判断は良かったぞ!ただ奴(やっこ)さんの方が一枚上手だったみたいだな」

 

アディアが言ったようにフェイトの速光斬馬刀には障壁を破壊する特性があるのだが、魔甲蟲が行使するチカラは魔導士が行使する魔力より遥かに優れた事象干渉力を持った【呪力】だ。フェイトが放った戦技の事象干渉力が敵の障壁のそれに及ばなかった故に障壁破壊効果が無力化されたのだろう、いや、正確には上から【塗り潰された】というのが正しい表現だろうか・・・どちらにせよラディルの言う通り【キメラ・カペラ】のチカラがフェイトより上だっただけの単純な結果だった。故に彼女は悔しく思い、歯痒い苛立ちを覚えながら後退するしかなかった。

 

「本っ当に大型変異種って無駄にしぶとくて腹が立つな!こっちは早くこの戦いを終わらせて愛しのリオスきゅんと××したいっていうのに!!」

 

「お茶の間で発言できないような問題発言をしている場合じゃないってのステップ!」

 

「来るぜ!!」

 

よくもやってくれたな今度はこっちの番だと顔面半焼けとなった【キメラ・カペラ】が怒りの咆哮を上げて身体中の砲塔の発射口を周囲を飛び回るラディル達全員に向け一斉掃射、強大な暴力の塊の豪雨が嵐となってミストガンの守護者達に襲い掛かって来る。

 

「総員回避!なるべく一ヶ所に集まらないようにしろ、回避範囲が狭まるぞ!!」

 

ラディルの指示が全員に行き渡って身構えると同時に呪力砲弾の豪雨が殺到する。その一発一発がカナタの収束魔砲を凌駕する破壊力を秘めており、一発でもまともに直撃してしまえばいかにAランクの空士であろうとも撃墜は免れないだろう。

 

だから何が何でも全て避けきらなければならな為、ラディル達は魔力障壁を何重にも重ねて展開して耐えたり弾道を見極めて躱し続けたりして砲撃の豪雨をやり過ごして行く。

 

———・・・何だ?主砲はラディルが破壊した筈なのに何故だか主砲があった敵の頭の部分に何らかのエネルギーが徐々に集まっているような気がするぜ・・・?

 

その中でノイスは【キメラ・カペラ】が見せる微妙な身体の変化に違和感を感じ取っていた。

 

———さっきから気になってたんだぜ、あの朱マンタ、オイラ達にミサイルを撃って来た時から徐々に魔力とは違う悍ましい何かをあそこにチャージしているような感じがするんだぜ。チカラの流れを上手く隠していやがるから気付き難かったけど、オイラの感が正しければたぶんアイツはあそこに呪力を収束しているんだぜ・・・となると———

 

氷の防壁を作って飛来して来る無数の砲撃を危なげに防ぎ続けながら次に仕掛けて来る敵の一手を推測するものの、その解答に行き着く前に突然【キメラ・カペラ】の顔面にある巨大な口が大きく開く。その中から膨大なエネルギーを内包している極太の何かが頭を覗かせた瞬間ノイスはその一瞬で違和感の正体を悟り、顔面蒼白になって叫んだのだった。

 

———っ!?そういう事かっ!!

 

「誰かアイツを止めろ!あれが本当の敵の主砲だぜ!!ミストガンが狙われているってばよぉぉぉおおおっ!!!」

 

「「「「何ぃぃっ!!?」」」」

 

どこぞの七代目里長のような語尾を付けたノイスの絶叫がこの空域中に響き渡り、空士一同はそれを聞いて驚愕し【キメラ・カペラ】の開かれた口許にハッと視線を向ける。奴の口の中から姿を現していたのは先程ラディルがミサイルを誘導し自壊させた砲塔よりも二倍は大きな朱い砲身であり、その砲口は約3km先に見えるミストガンに狙いを定めていた。つまり先程破壊した頭部の主砲は囮(フェイク)、これこそが敵の真の主砲なのだ。

 

主砲の砲弾である膨大な量の呪力の収束は・・・もう既に完了していた。

 

「これはベリィマズィぞステップ!」

 

「想像もつかない強大なチカラを感じる、あれを撃たせたらミストガンが!!」

 

「撃たせるものか!!都市のショt・・・みんなは私が護る!!」

 

「お前ら、あの砲身を狙え!主砲の標準を傾けてミストガンから逸らすんだ!!」

 

【キメラ・カペラ】の全身の砲塔による全方位掃射は都市を撃滅せんと主砲を撃ち放とうとする今も続いており、その砲撃に防戦一方のノイスは動けない。他の四人が無理を通して玉砕覚悟で突っ込めばなんとか主砲の発射を防げる、あるいはミストガンから標準を逸らす事が可能かもしれないが、この呪力砲撃の豪雨の中を突撃するなど自殺行為に等しいだろう。しかしやらねば自分達の護るべき都市が砲の一撃にて墜ちる、浮遊都市の守護者たる空戦魔導士としてそれをさせるわけにはいかない。

 

ラディル達四人はそれぞれ魔装錬金武装(エモノ)を手に乾坤一擲の覚悟を持って前に出る。雨霰の如く降り掛かって来る呪力砲弾の流星群を魔刀【麒麟】と魔装錬金製の脇差の二刀流で斬りいなしながら徐々に距離を詰めて行くラディル、電光石火(ブリッツアクション)による音速機動で砲撃の嵐の中を掻い潜って迫って行くフェイト、姉に同じく電光石火の機動力を活かして砲撃を躱し続けながらカマイタチの斬撃を飛ばして主砲の砲身を切断しようと試みるアディア、軽やかに舞うように砲撃の流星群を躱し続けながら魔戦輪【レゾナンスビート】を投擲して【キメラ・カペラ】の大きな鉱石のような眼を潰して視力を奪ってやろうと狙うルーイ。

 

「うおぉぉおおおおぉおっ!間に合えぇぇぇええええーーーーーーーーーーっ!!!」

 

空士達は撃墜される危険を冒しながらもミストガンを護る為に必死の抵抗をするが・・・奮闘虚しく敵の主砲の発射を阻止する事は遂には叶わなかった・・・。

 

「クソッタレェェェエエエエーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

主砲の発射口に超高密度に収束圧縮された朱い呪力の光が渦巻くように輝きを放ち、『ズドォォォオオオオンッ!!!』という空をも揺るがす轟音と共に大気が爆散して眼前まで迫っていた学園浮遊都市の守護者達を吹き飛ばす。砲撃の嵐の前に何もできずにいたノイスの悲痛な叫びがこの空域に響くと同時に敵の主砲から撃ち出されたそれは蒼穹を蹂躙する極大の朱き光の柱、朱き母艦の鉱石のような眼に映されているチンケな浮遊都市など丸ごと飲み込んでしまう程巨大な極太レーザーはその浮遊都市を飲み込みこの空から滅さんと暴食の悪魔のような大口を開けて伸びて行った。

 

「止められなかった・・・チクショウ!!」

 

「護れなかった。このままじゃ・・・ミストガンの皆が・・・」

 

敵の主砲の発射を食い止める事ができなかった以上ラディル達は破壊の光が護るべき浮遊都市を飲み込む瞬間を指を銜えて見ている事しかできない。それが悔しくて溜まらなく彼等は絶望に打ち拉がれるしかなかった———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人を除いて。

 

「いや、どうやら泣き叫ぶ必要は無さそうだぜステップ」

 

「・・・は?」

 

「ルーイ先輩、それってどういう事ですか?」

 

「どうもこうもナッシングだぜステップ、アレを見ろよ!」

 

絶望感漂う中、A29小隊副小隊長ルーイ・トーイはこの空域を飛ぶ空士全員に希望を捨てるにはまだ早いと言って破壊の光が迫り来るミストガンの下方から上がって来ている一筋の光を指さした。

 

「あ・・・あれって!!」

 

「もしかして!」

 

「・・・そうか、ようやく来たのか・・・ハハハハッ!まったく、アイツ雑魚共相手に手間取りすぎだろ?大遅刻だなオイッ!!」

 

「ああ!対砲撃専門家の御到着だぜ!!」

 

ルーイが指した小さな光がミストガンに迫る破壊の光の前に立ち塞がる光景を目の当たりにして絶望の闇に堕ちかけていた空士達の眼に再び希望の光が宿った。圧倒的質量の呪力エネルギーが都市を撃ち墜とさんと迫ろうともそれが【砲撃】である限りあの光が護っているのならもう安心だ、何故ならばあの光の正体は———

 

「この剣を振るえる瞬間、この身を震わす威圧感に圧倒的破壊を齎す質量の砲撃、俺はこの時をずっと待っていたっ!!」

 

その男、魔砲士五十人を単独で撃墜するという伝説を創り、自身の丈より大きな銀色の出刃包丁の様な魔大剣【エクシードバスタード】をもって如何なる砲撃をも両断しに行く。その命知らずな勇猛さから付いた二つ名は【砲撃士殺し(バスターキラー)】。

 

「都市を破滅の危機より救う為!己が役目を全うする為!そして何より極上の砲撃を斬るという無上の喜びを得る為に———」

 

「「「「最後本音言っちゃった!!?」」」」

 

「いつもの事なんだからいちいち気にするなステップ、アレは不治の病なんだよ」

 

・・・三度のメシと美女よりも砲撃を斬るのが大好き過ぎて【砲撃上等系男子】という新たなジャンルを開拓してしまった砲斬り侍、妖怪砲撃斬らせろ。最低日に十度砲撃を斬らないと蕁麻疹に悶え苦しんでしまうという訳の分からない持病を持っているこの超変人こそが実質ミストガンナンバー2の空士にしてA29小隊小隊長、彼は———

 

「——このテオ・セシル!魂の刃(やいば)を振り下ろし、魔王の一撃を斬り裂かん!!我が剣、我が魂の一刀、その身に刻め!!吼えろ、我が戦技ッ!!!」

 

魔大剣戦技————魔砲斬り(バスタースラッシュ)

 

振り上げた銀色の魔大剣を巨大戦艦を両断する勢いをもって振り下ろす、全てを滅する朱き光の奔流に正面からの真っ向勝負だ!

 

「ぬおぉぉおおおおおぉぉおおおおぉおおおおおおおっ!!!」

 

テオの身体の何百倍も巨大な質量の朱を上から銀の刃が食い千切り飛沫を撒き散らす。男の咆哮に呼応するかの様に魔大剣は唸りを上げて朱を上から下へと切削して行き、振り斬ると同時に魔力が弾けて破壊の光を奥の奥まで縦に・・・両断!これこそがテオ・セシルの代名詞にして魂の一撃、例え魔王が放つ一撃すらも斬り裂く必殺の戦技【魔砲斬り】だ!!

 

「ア”ア”ーーッ!!超っ気持チィィーーーーーーーーーーッ!!!」

 

左右に断った極大レーザーがミストガンを避けて水平線の彼方へと去って行き、都市を救ったテオが先の先の空域まで行き届くような歓喜の雄叫び(?)を上げたのであった。

 

その姿を遠目で見ていたラディル達は———

 

「「「「「・・・・・・」」」」」

 

それはもう全員沈黙する程DO★N★BI★KIしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園浮遊都市ミストガン上空6000m———

 

「あの砲撃を防ぎますか・・・まだまだ脅威には値しませんが、こちらの予想以上の実力はあるようですね・・・」

 

雲より高い空の上に魔甲蟲の大群勢を率いてミストガンに攻め入った敵の真の総大将の姿はあり、ラディル達の戦いを涼し気に、それでいて内心見下すように文字通りの高みの見物をしている。

 

淡く輝く蒼玉(サファイア)のような長髪をした光彩奪目の美少女【キルスティ・バーミリオン】・・・この空の戦場に場違いなこの少女は見た目はルーク達予科一年生と同年代に見えるのだが、その雰囲気は歴戦の戦士のように研ぎ澄まされていて付け入る隙が見当たらない。更に異質なのはその華奢な身体から血の匂いがするという事だ、その手にあるのは死神を連想する黒の大鎌、そんな彼女の周囲の空間は彼女が垂れ流しているのであろう魔力とも呪力とも言い難い禍々しいチカラに当てられて微かに歪んで見えている、それはまるで空が彼女の存在に恐怖して怯えているようだった。

 

———なるほど・・・さしずめ【天使の皮を被った死神】やな。

 

それが彼女の背中を奇怪な細眼で見つめて彼女の呟きを聴いていたソラ・グローリーが抱いたキルスティの第一印象であった。

 

「・・・お初にお目にかかります、空の王(アトモス)。呼び出しに応じていただき感謝します」

 

ソラの存在を目を向けずに認識したキルスティが振り返ってソラと向かい合い丁寧な口調で挨拶の言葉を言う。その外面は社交界のお嬢様の様に礼儀正しいが、その淡々とした声音は相手に礼儀を重んじてなど微塵も無く感じる。その証拠にソラに向けるその視線は周囲を飛ぶ小蝿を目に付くからという理由で仕方なく視界に入れているような慇懃無礼な眼をしており、明らかに友好的ではない。

 

そんな彼女の目線を受けてその意図を確信したソラは皮の被り物越しに後頭部を掻いてわざとらしく愛想笑いをする。

 

「ナハハ、成程なぁ。ワイはまんまとおびき寄せられたっちゅう事かいな。いやぁ有名人はホンマつらいわ~♪こないな将来別嬪さんに成んのが約束されたような嬢ちゃんにこないな人気の無いとこに呼び出されて二人っきr「無駄話は結構、貴様の妄想を聞いていたところで耳が腐るだけですから」・・・ノリの悪い嬢ちゃんやなぁ」

 

慇懃無礼な口調でソラの悪ふざけの腰を折るキルスティ、長々と雑談をする気は無いらしい。

 

「そんなら仕方あらへんな、ちゃっちゃと本題に入らせてもらうで」

 

この手の揺さぶりが通用する相手ではないと理解したソラはおちゃらけモードから真剣モードに切り替えて話を切り出した。

 

「魔力に混じって小っこいその身体から漏れて来とる嫌な感じのチカラで判るで、それは人類の怨敵たる魔甲蟲が有する【呪力】・・・あの魔甲蟲共の親玉は嬢ちゃんなんやろ?」

 

「・・・隠すつもりは微塵もなかったのですが、よく解りましたね?」

 

「アホ抜かせ、こないな場所で高みの見物しとる奴が無関係の訳あるかい。それにワイはちぃ~っと特別でな、どんなに上手く隠蔽しとっても空気中に混じっとる異物不純物を感知できるんや。何で嬢ちゃんみたいなのが魔甲蟲のチカラを持っとるのかは解らんが、少なくとも嬢ちゃんのソレはあの朱いデカブツを遥かに上回っとるし、何よりも嬢ちゃんのようなキレイな蒼髪の美少女ミストガンじゃ見掛けん上に近隣の浮遊都市の空士でもあらへんようやしな・・・手に持っとるソレ、魔装錬金武装やないんやろ?」

 

ソラがおもむろに指さしたキルスティの手にある大鎌はこの世の物とは思えない程禍々しくて物質の気配が感じられず、どちらかと言うと何らかのエネルギーが形を成して固体となったように感じられる・・・そしてその感覚は誤認ではない。

 

「ええその通りです。これは呪鎌《ハルパー》———私の呪力で形成し具現化させた武装」

 

「呪力の大鎌かいな、ホンマに死神やったみたいやな」

 

「・・・その認識は間違っていますよ。私は《殺戮の天使(セラフィム)》、狂い、乱れ、凶刃をもって下賤の者共の首を刈り取る処刑人」

 

「訂正や、死神よりも質が悪いな」

 

大鎌の峰を身体の真下に向けるようにして臨戦態勢に入ったキルスティに対し、ソラもまたそれに応じるように魔術士の宝石箱(マギスフィア)から魔装靴【ワールドストライカー】を両足に転射し装着する。どう見ても一戦交える雰囲気だ、ソラは目の前の光彩奪目の美少女が襲撃の黒幕である事が判った以上は彼女を見逃すわけにはいかないだろうし、キルスティは———

 

「戦う前に一応言っておきます。呪力を漏らして貴様を誘き出したのは学生空士最強と名高い貴様なら知っている可能性が高かったからです」

 

「知っている可能性?なんやねんそれは?」

 

「【玉璽(レガリア)】・・・この単語に聞き覚えはありますか?」

 

「・・・・・」

 

キルスティの問いを聞いた瞬間、ソラは神妙な顔付きになって細目を開いていた・・・。

 

キルスティが魔甲蟲の大群勢を率いてミストガンを襲撃した真の目的はこの世界に八つ存在している【王の証】レガリアの所持者を都市から燻り出す為であり、彼女はソラならその行方を知っているかもしれないと踏んで彼を自分の呪力を餌に誘き出した。そしてその情報をソラからチカラずくで聞き出そうというのだ。

 

———この男が情報を持っている確証はなく効率に欠ける方法だったので無駄手間になるかと少々不安でしたが、どうやらそれは杞憂だったみたいですね。

 

射貫くような鋭い視線は敵意の眼、光彩奪目の美少女に無言で向けるそれは明らかに肯定と主張していた。

 

「・・・その話は都市の取調室でなら答えてやってもええで」

 

「戯言を・・・」

 

空の王が解放した強大な魔力が大気を揺るがし凄まじい闘気が対峙する者に途轍もないプレッシャーを与える。全ての空は彼の領域、全ての空は彼の支配下、その王者の貫禄と絶対的な空域は下々の者共を戦慄に震えさせる事だろう・・・だがそれは下々の者である場合の話だ。王に畏れを成さぬ魔性の者には通用しない。

 

「貴様では私には勝てませんよ。どれだけ空の戦いに秀でていようとも貴様が呪力を持たない貧弱な魔導士(ウィザード)である限りこれは覆る事はない!」

 

「よく吼えるやないか、上等や。なら嬢ちゃんが見下しとる空の王のチカラ———存分に味あわせたるわっ!!!」

 

「ほざけっ!!」

 

張り詰めた緊張が頂点に達した瞬間、空の王と殺戮の天使は弾けて爆発するように飛び出し、暴風の如き蹴りと狂気の刃が円月の様に弧を描いて激突、嵐のような衝撃波が半径約5km内の雲を纏めて霧散させると共に雷の如き轟音がこの空を激震させるのだった・・・。

 

 

 

 

 




次回予告

テオ「ふふふ、どうしようか。まだ奴の主砲撃を斬った感覚の絶頂が納まりきらないぞ!もっとだ、もっと凄まじい砲撃を沢山斬らせて、俺を満足させてくれよッ!!」

ルーイ「お前はいったいどこの満族民だステップ!?いい加減にしろ!」

ジョバンニ「頼むからこれ以上は撃たせないようにしてくれ。ミストガン(こっち)は危うく奴の主砲が直撃するところで、冗談抜きにひやひやしたんだからな・・・」

リカ「はぁぁ・・・ウチのナンバー1空士はドが付く程の超スケベで、ナンバー2もこの通り超変人。こんなのがミストガンを代表する空戦魔導士だとか将来を担わせる後輩達にも悪い影響が及びそうで、ホンット頭が痛くなるわ・・・」

レオ「ハハハ・・・ところで、そのウチのナンバー1空士は何所に行ったか、みんな知っているかい?さっきから彼の通信結晶に回線が繋がらないんだけど、故障かな?」

フロン「嫌な予感。なんだか胸騒ぎがするわ・・・」

次回、空戦魔導士候補生の情熱『究極の空戦へ、空の王(アトモス)VS殺戮の熾天使(セラフィム)!』

フロン「翔け抜けなさい!最強への翼の道(ウィングロード)!!・・・ってこんな事言っている場合じゃないわ。まだ敵の親玉を倒せたわけじゃないのだし、私がしっかりしないと」



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