空戦魔導士候補生の情熱   作:蒼空の魔導書

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空戦の原作第12刊が出てモチベーションが上がり、かなり久しぶりに空戦情熱の更新ができました!

次刊で空戦も最終刊か・・・次で終わると思うと愛読していた者として寂しく感じますね。





新時代の空士達は集う、この大空に!

鋭い針のように鋭利な先端をしている無数の触手をシェルターに向けて伸ばし貫かんとしている【キメラ・デネブ】、このままではシェルターに避難した市民達が危険だ。

 

だが、そんな暴挙などミストガンの守護者達が許しはしない。

 

「させるかよっ!」

 

シェルターの破壊に集中するあまりに周囲の警戒が疎かになっている【キメラ・デネブ】の背後をとったカナタが【キメラ・デネブ】がシェルターに触手を繰り出す前に一発砲撃を放ち、それが【キメラ・デネブ】の背中に命中しその反動で【キメラ・デネブ】は体勢を崩してよろけ、触手がシェルターに放たれるのを防ぐ事に成功する。

 

「追撃します!はぁぁぁあああっ!!」

 

体勢を崩した【キメラ・デネブ】の懐にすかさずロイドが飛び込み魔剣で無数の触手のうち十分の一を斬り落とした。激痛によって斬り落とされた触手の切り口から緑色の液体を飛び散らしてもがく【キメラ・デネブ】がヒット&アウェイで空中に逃れようとしているロイドの背中を貫かんと鋭利な先端の一本の触手を伸ばして来たのだが。

 

「させない!」

 

廃ビルの陰に身を潜めていたクロエがロイドを援護するように魔力弾を放ち、伸ばしてきた触手がロイドの背中を貫く前に触手の先端に命中させて撃ち落としたのでロイドは無傷で距離を取る事に成功した。

 

そしてその隙をついて本命が【キメラ・デネブ】に突攻を仕掛ける。

 

「うおおおおおおぉぉおおっ!!くらいやがれぇぇぇええええええええっ!!!」

 

複雑に乱回転する暴風をストームブリンガーに纏い正面突破を図るルーク、カナタ達の攻撃の激痛によってもがき苦しむ【キメラ・デネブ】であったがそれでも構わず強引に無数の触手を突撃して来るルークに向けて繰り出し迎え撃つ、だが絶対空気感覚(フィール・ザ・アトモスフィア)が使えるルークにはそんなの関係ない空は彼の味方だ。

 

魔蹴術戦技—————疾風怒濤(ストームラッシュ)

 

空気の流れを読み切って全ての触手を掻い潜り正面突破に成功したルークは乱回転する暴風を纏った両足で怒濤のラッシュを【キメラ・デネブ】の胴体に叩き込み月面のように陥没だらけにして——

 

「フィニッシュだっ!!」

 

最後に決定打(フィニッシュブロー)として強烈な踏みつけ蹴りで【キメラ・デネブ】の巨体を蹴り飛ばしそれが近くの廃ビルに頭から突っ込んでビルが倒壊し粉塵が舞った。

 

「よしっ!思い知ったかっ!」

 

「へっ!いい感じで連携できたな」

 

「僕達も段々とチームワークというものがわかってきましたね」

 

「うん、これもソラさん達の特訓のおかげだね、今度お礼しなくちゃ♪」

 

ルーク達は全員空中に集合して上手く連携が決まった事を喜び合う、今日の試合までチームワークを疎かにしてきた所為で負け続けたE128小隊がここまで連携できるようになったのも二日前のソラ達とのディスク特訓のおかげだろう、ルーク達はソラ達には感謝せねばなるまいと心から思った。

 

「しかしよくあの巨体をブッ飛ばしたなルーク」

 

「へっ!ありがとよ!変異種っていっても大した事ねぇな、これならもうDランク以上の任務を受けても余裕なんじゃねぇか?」

 

「まったくルークはすぐ調子に乗るんですから・・・でもこれはやりましたかね?」

 

「うん、凄いよわたし達!Bランク以上の空士でも苦戦する変異種を倒しちゃったんだから♪」

 

【キメラ・デネブ】がブッ飛ばされて倒壊した廃ビルの方を見て敵が舞い上がった粉塵の中から出て来る気配が無い事を確認したルーク達は勝ったと思い少々はしゃぎ気味になっていた。

 

「・・・・・」

 

しかしカナタ一人だけはこの惨状に違和感を感じていた。

 

———なんか変だ、いくらなんでも楽勝すぎる、中型とはいえ敵は上位クラスの空士すら何人も葬られたあの変異種なんだぜ、俺達みたいな半人前がこんなに簡単に倒せるものなのか?

 

カナタの疑問はもっともだ、【キメラ・デネブ】はEランク小隊一隊だけで討伐できるような魔甲蟲じゃない筈、現に今ミストガンの外で戦っている上位クラスの空士達だって何人も【キメラ・デネブ】に命を奪われているのだから。

 

そしてその違和感はすぐに解消された、粉塵の中から飛んで来た一発の呪力弾によって・・・。

 

「危ねぇっ!!」

 

「えっ?」

 

三人が浮足立って油断している中冷静に辺りを警戒していたカナタがいち早く攻撃を察知して三人の前に出て魔力障壁を展開し飛んで来た呪力弾を防ごうとする、しかし———

 

「ぐおっ!?何だよこれ?とんでもねぇ威力d————」

 

魔甲蟲のチカラである呪力とは魔力の上位にあたるチカラだ、事象干渉力が凄まじく今の未熟なカナタの魔力障壁ではとても防ぎきれるものではない。

 

「ぐぁぁああああああっ!!」

 

「「うわあぁぁぁあああっ!?」」

 

「きゃぁぁあああああっ!?」

 

通常の空士が放つ魔力弾の被爆を遥かに上回る大爆発でカナタの魔力障壁が破壊され、爆風をモロに受けたカナタは後方奥に見えるドーム状の防護壁の内壁まで一瞬にして吹っ飛ばされて叩き付けられ、ルーク達三人も爆風の衝撃波によって上空に投げ出された。

 

「くっ!まだ生きてやがったのか!?」

 

周囲のビルよりも高い位置で体勢を立て直したルークは【キメラ・デネブ】を倒しきれていなかった事に悪態を吐いた、ルーク達は完全に油断していたのだ、彼等がまだEランク小隊の未熟者であるが故だろう。

 

「ロイド!クロエ!無事か!?」

 

「ええ、なんとか・・・」

 

「わたしも大丈夫、それよりカナタは!?」

 

ルークと同じく空中で体勢を立て直し滞空しているロイドとクロエにルークは大事は無いかと確認してから後方に吹っ飛ばされたカナタの方を見た。

 

「っ!?おいっ!カナタッ!!」

 

「カナタッ!!」

 

カナタは遠くにある防護壁に大の字でめり込んで身体中大怪我をしていた、爆風をモロに受けたうえに相当な速度で叩き付けられたのだろう、ルーク達は急いでカナタの許へと飛んで駆けつける。

 

「う”・・・しくじったみてーだ・・・」

 

カナタにはまだ意識があった。

 

「酷い怪我、急いで手当しなきゃ!」

 

「そうですね、ここは一旦離脱して————」

 

重傷のカナタを防護壁から引きはがしてロイドが肩を貸し、形勢不利と判断したE128小隊は仕方なく戦線離脱を敢行しようとしたのだが、その時復活した【キメラ・デネブ】がこっちに向かって凄まじい速度で飛んで来ているのが目に入ってしまいルークとクロエは身構えた。

 

「チッ!もう来やがった!?」

 

「ロイド、カナタをお願い!わたしとルークで退路を拓く!!」

 

「わかりました!」

 

重傷を負って戦闘不能状態のカナタをロイドに任せてルークとクロエは向かって来る【キメラ・デネブ】の左右に飛んで攪乱する、その隙にロイドがカナタを連れて離脱するという作戦だ。

 

「こっちだよノロマさん!」

 

「やーいやーい!バーカバーカ!」

 

狙い通り【キメラ・デネブ】が周りを飛び回って挑発する二人につられて無数の触手を二人に繰り出して来た、二人はその触手を上手く躱し続けて【キメラ・デネブ】の注意を引きロイドとカナタがいる場所から順調に引き離して行った。

 

————よしっ!今がチャンスですね!

 

【キメラ・デネブ】がルークとクロエにつられて離れて行くのを確認したロイドはカナタの右腕を自分の肩にまわして彼を担ぎ、その場から離脱を試みた・・・しかし———

 

「・・・・・これは詰みというやつかもしれませんね・・・」

 

まるでこの時を見計らっていたかのように物陰からいきなり現れた無数のアルケナル級がロイド達を包囲して退路を塞いでしまった、嵌められたのはE128小隊の方だ、【キメラ・デネブ】こそが囮でE128小隊の戦力を分断する事が奴等の策だったのだ。

 

「しまった!畜生っ!!」

 

「ロイドッ!!カナタァァアアアアッ!!!」

 

【キメラ・デネブ】を引き離していたルークとクロエもロイドとカナタの危機に気が付き、悔しさのあまりに悪態を吐き、絶望のあまり悲鳴をあげた。

 

そして仲間の危機に気をそらしてしまった二人の隙を突いて【キメラ・デネブ】が針の様に先端が鋭利な触手を勢いよくルークに向けて伸ばして来た。

 

「っ!!?ルークッ!!!」

 

「しまっ———」

 

触手の速度はこれまでにないくらい速かった、とてもじゃないけどこの不意打ちは躱せそうにない。

 

———クソ・・・間に合わねぇ・・・。

 

ルークはその時何故か迫る触手がスローモーションに見えた、知覚加速(オーバーレブ)というやつだ、つまりルークは絶体絶命の危機であるが為に走馬灯を見ているという事、もはやこれまでか————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがその時、ルークと触手の間に影が飛び込んで来た。

 

「縮こまってんじゃねぇっ!この馬鹿がぁぁぁああああああっ!!!」

 

「へっ!?」

 

怒声のような叫び声と共にルークの目に入って来たのは中央に【烈風 壱丸八小隊】と赤い漢字で縦に書かれた大きな背中だった、暴走族が着る白い特攻服のような防護服をその身に纏った男の両手に装着されている中心に紅い水晶玉のような物が埋め込まれた銀色に輝くガントレット型の魔装錬金武装・・・魔籠手《烈風拳》の右拳が触手を打ち返したのだ。

 

その男、大地の激震のような凄まじい闘気を発し、紫色の短いリーゼントがトレードマークのE108の小隊小隊長(ヘッド)———

 

「ったく!さっきの試合見てちっとはマシになったかと思いきやこの体たらくとは、そんなんじゃ俺等にゃ届かねぇよ!」

 

「テメェは・・・アッシュ!?」

 

ルーク達のライバル小隊の小隊長《魔拳闘士》アッシュ・クレイモアが間一髪でルークを救ったのだった。

 

「何でテメェがここに!?」

 

「ロックスの馬鹿が逃げ遅れたガキをビビらせて泣かせちまって避難に手こずっていたところで爆発音がしたもんだから来てみればこの有り様、チッ!何でこんなところに変異種がいるんだよ?防衛の連中はなにやってんだ?」

 

別のエリアの避難を担当しているはずのE108小隊の小隊長が何故ここにいるのか?それは偶然にも彼等の避難担当区域はこのすぐ近くの三番区噴水広場であり、避難誘導が難航していたところで先程ルークが戦技で【キメラ・デネブ】を廃ビルに吹っ飛ばしてその廃ビルが倒壊した時の轟音が聴こえてきたのでアッシュは状況を確かめに出向き現在に至ったのだ。

 

「・・・って愚痴叩いてる場合じゃねぇな、来るぞ」

 

アッシュがルークを一瞥してそう促し目の前の【キメラ・デネブ】を睨みつける、奴は既に針のように先が尖った触手を二つ繰り出して来ていた。

 

「あぶねっ!?」

 

アッシュの登場で呆気にとられていたルークは危うく触手が直撃しそうになったが間一髪で躱し、しっかりと周囲に気を配っていたアッシュは余裕で触手を回避し———

 

「わたしがいる事も忘れないで!」

 

魔砲杖戦技——————拡散多弾頭射撃(マルチプルバースト)

 

いつの間にか【キメラ・デネブ】の真上で砲撃体勢をとっていたクロエが十六発の魔力弾を【キメラ・デネブ】に撃ち込んだのを合図に三人は【キメラ・デネブ】との戦闘を再開した。

 

・・・一方、無数のアルケナル級に包囲され危機に陥っていたロイドとカナタの許にも頼もしい助っ人が現れていた。

 

「ヒーロー見・参っ!!」

 

先程カナタが叩きつけられた事によって凹み脆くなった後方の防護壁を黄金の鳥類の翼を模った装飾が両端に施された棍型の魔装錬金武装をもって突き破って来たC140小隊のアスカ・イーグレットがその棍を華麗に振り回して無数のアルケナル級のうち五分の一を薙ぎ払い、決めポーズをしていたのだった。

 

「・・・・・とりあえず助かったとみていいのでしょうか?・・・」

 

「さぁ・・・な・・・」

 

突然の出来事にロイドとカナタは唖然として危機を脱したのか疑問に思った、現れた助っ人が敵集団のド真ん中でおかしなポーズをとっているのを見たら誰だってそう思うだろう・・・。

 

案の定アスカの背後に位置をとっているアルケナル級のうち三体がその隙にコッソリと彼に襲い掛かってきていた、しかし———

 

「ハァッ!」

 

なんといきなりアスカが持っている棍の三分の一部分が切り離された、その切り離された部分と残った部分はワイヤーで繋がれていて【節】となり、振り返り様に鞭のようにしなって襲い来る三体の敵を叩き墜とした。

 

そして更に残った部分が切り離された部分と対照的になるようにもう一ヶ所切り離されその部分もワイヤーで繋がっていて、アスカはその両端を持って横にするように構えた。アスカの持つ魔装錬金武装は【連結式の三節棍】だったのだ、一本のワイヤーで繋がった三つの小棒を接続するように連結させれば棍となり切り離して三節棍にする事もできる複雑な武器で魔砲剣と同じくらい扱いが難しいとされている、そんなこの連結式三節魔棍《ホウオウ》をアスカは自分の手足のように使いこなして戦う《魔棍士》だというのだから驚きだ、彼はお調子者ではあるが陰で相当な鍛練を積んだのだろう。

 

三体のアルケナル級が墜とされると同時に周囲のアルケナル級が一斉にアスカに襲い掛かるがアスカは三節魔棍の真ん中の部分を両手で持ち、嵐のような勢いで振り回して周囲360度から襲い来る無数の敵を迎え撃つ。

 

「かかって来い雑兵共っ!くらえ、《カイゼル流魔棍術》秘技!!」

 

カイゼル流三節魔棍戦技——————円征嵐

 

二重三重の円を描くように振り回された三節魔棍がアスカの周囲を空間ごと引き裂き襲い掛かって来た無数のアルケナル級は一体残らずズタズタに引き裂かれて跡形も無く散っていった、まるで無数の巨大ノコギリがアスカを中心にして周囲を切り刻むような光景だった。

 

「す、凄い・・・」

 

「・・・へっ・・・人は見かけによらないモン・・・だな・・・」

 

ロイドとカナタはアスカの戦いぶりに目を奪われていた、あの自称ヒーローのお調子者がこんなに強かったのかと驚いたようだ。

 

「まったく、コイツ等はヒーローが決めポーズをしている時は攻撃してはいけないというルールを知らないのか?常識知らずめ」

 

「そんなの魔甲蟲にわかるわけないでしょお馬鹿」

 

「うおっ!?ミレーユ、いつの間に!?」

 

「いつの間にってアンタのすぐ後ろから続いて突入したに決まっているでしょ?」

 

ホウオウの棍節を二ヶ所とも連結させて棍に戻し上にかざして円に見えるように振り回した後右に突き立てるように振り下ろしてから愚痴を言うアスカの背中から声が聴こえてきたかと思うと、いつの間にか彼と同じC140小隊のミレーユ・グレイスがアスカと背中合わせになるように滞空していた。

 

「まったく、魔甲蟲の大群勢をなんとか引き離して戻ってきた途端にミストガンの防護壁が外周を覆って入れなくなって都市内の防衛が不可能になったからせめて浮遊都市周辺空域の防衛連隊の戦闘の邪魔にならないようにしてひっそりと連隊が取りこぼしたアルケナル級を墜としていたら・・・このお馬鹿はいつの間にかどっかに消えているんだもの、正直焦ったっての」

 

「仕方がないだろ誰かが危ないとオレの感が叫んだんだから、案の定危機に陥っていた奴等を救えたんだしよかっただろ?」

 

ミレーユが言うにはアスカは独断で行動してたった今ロイドとカナタを救ったらしい・・・そこをミレーユが見つけて現在に至る。

 

「まったくもう、単独行動は厳禁だってあれほど言ったでしょう?ぜんっぜん分かってないんだから・・・ねぇ小隊長?」

 

注意しても全く反省しないアスカに呆れるように叱咤するミレーユは魔砲杖を構えて周囲のアルケナル級を警戒しながら今自分が通って来たアスカが空けた防護壁の穴の方を見た・・・すると———

 

「ああそのとおりだ、手間かけさせてんじゃねぇよクソガキが!」

 

という乱暴な声が突然その穴から聴こえてきた。

 

————なっ、何なんだこの重圧は!?空気がビリビリするぜ。

 

ロイドの肩に身を預けて気を失いかけているカナタが竦んで眼を見開く、突然辺りの空気が重くなったからだ。

 

「な、何なんですかこの声は!?一体誰がそこにいるんですか!?」

 

ロイドも強張って狼狽えていた、いつも度胸が据わっているカナタでさえ冷や汗を掻く程の重圧なのだから当然だろう。

 

そして、穴に近づいたアルケナル級数体を巨大な長方形の刀身を持つ魔大剣をもって暴風の如く粉砕しその男は現れた、逆立った長い茶髪で眼が吊り上がり、まるで鬼神のような貫禄と闘気を発する男が。

 

「誰かだと?まさか忘れたわけじゃねぇだろうなぁ?この————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————C140小隊小隊長、オリバー・ヒューイックをよぉっ!!」

 

その男・・・オリバーが穴の入り口で粉々にしたアルケナル級の【残骸】を踏み潰し肩に魔大剣を担ぎ上げて、蛮勇轟くその姿を現した。

 

「・・・・・えぇぇぇええええええええっ!!?」

 

あまりの衝撃にロイドは絶叫した。

 

「何驚いてんだウスィーの?」

 

とアスカが何言ってんだと言うかの如くロイドの絶叫に疑問を口にする。

 

「え?いやだって、あの人がオリバー先輩って!?」

 

ロイドは混乱してあたふたしている、当然だ、彼の知るオリバー・ヒューイックは落ち着いた雰囲気で温厚な性格の人物だ、あんなワイルドで野性味溢れる男ではない筈だ。

 

「・・・・ああ!そういえば言ってなかったっけ?」

 

ロイドが狼狽えている理由を察したのはミレーユだった。

 

「うちの小隊長は魔装錬金武装を持つと荒々しい鬼神のような空士になる二重人格なんだ」

 

「二重人格なんですか!?」

 

「・・・へっ・・・あの先輩はまともかと思っていたけれど・・・結局また変人だった・・・みてーだな・・・」

 

ミストガンの空士にまともな人間はいないのか?そう思うロイドとカナタであったが、彼等もそのミストガンの空士である事を忘れてはならない。

 

「この蟲野郎共!よくも好き放題やってくれたな!このオレ様がたっぷりと礼をしてやるから覚悟しやがれぇぇええええっ!!」

 

「一人称すら変わってるんですか!?」

 

雄叫びをあげて魔大剣《ワイルドカード》を振り上げ防護壁の穴から飛び出し飛行魔術で天高く舞い上がるオリバーの一人称が【僕】から【オレ様】になっていたのでいちいち驚くロイド、そんな事などお構いなしにオリバーは魔大剣を頭の上に豪快に振り上げて真下に飛ぶ無数のアルケナル級の上に急降下しながら魔大剣を叩き付けるように振り下ろした。

 

「ドリャァァアアアアアッ!!!」

 

魔大剣戦技————大雪断下ろし(ギガバスタード・ブレイク)

 

振り下ろされた魔大剣の衝撃波により無数のアルケナル級は纏めて粉々に粉砕された。

 

「すげぇ・・・」

 

「あれがCランク空士の戦技ですか、とんでもないですね・・・」

 

「どうだ!うちの小隊長は凄いだろう?それでこそヒーローであるこのオレの上司に相応しi「何でアンタが偉そうにしているのよっ!?」ぐはっ!?」

 

オリバーが放った戦技があまりにも凄まじかったのでカナタとロイドが唖然としている中、如何にも自分がやったかのように誇らしげに自慢するアスカの脳天にミレーユのハリセンスマッシュが炸裂した、このお調子者はこんな時でも平常運転であった。

 

しかし敵はまだまだ建物の隙間から溢れ出て来る、まるでゴ◯ブリのようだ、だが東の空から新たな援軍が駆けつけて来た。

 

「アッシュの後を追って来てみればなかなか面白そうな祭りをやっているな!」

 

「オレ達も混ぜろよ!」

 

「ガキをあやすのに手を焼いてイライラしたこのウザイ気分を晴らすのにはもってこいだわ」

 

「へっ!覚悟しろよこの【ロクデナシ】の魔甲蟲共がっ!!」

 

魔刀を持ったグライド・ヒースネルが、魔槌を振り回すカイル・カーネルワイスが、魔剣を構えるキャメロット・ブランジュが、魔戦斧を振り上げるロックス・フォーマルハウトが・・・ルーク達E128小隊のライバルE108小隊のメンバー達がそれぞれ自分の魔装錬金武装をもって空を蹂躙する魔甲蟲達を粉砕していく、なんとも頼もしい援軍だ。

 

「ハーッハッハッハッ!見たか!?このスーパーヒーロー、アスカ・イーグレット様と愉快な仲間達の実力h———痛っ!?」

 

低い廃ビルの屋上で調子に乗って高笑いする馬鹿(アスカ)の脳天に鬼神(オリバー)の無言のゲンコツが落ちた、オリバーは強烈な痛みで頭を押さえて蹲ったアスカを一瞥して遥か先の空で【キメラ・デネブ】と戦うルーク達を見据える。

 

「オイクソガキ、テメェはアイツ等を助けに行きな!ここはオレ様達だけで十分だ」

 

そう言ってルーク達の方に右手の親指を指してぶっきらぼうにアスカに指示を出すオリバー、もはやこの場はオリバー達が制圧したも同然の戦況だ、一人抜けたところで問題ないだろう。

 

「ヒーローなんだろ?ならとっととピンチになっている奴等を助けに行けよ!おら!急げっ!!」

 

「ぐへっ!わかったから蹴るなよ!痛ててて・・・」

 

————うわぁ、あの人変わりすぎじゃないですか・・・。

 

————怖ぇ・・・あの先輩は怒らせないようにしねーとな・・・。

 

アスカに乱暴な指示をする鬼神オリバーの声を二人がいる灰ビルの近くで聴いていたロイドとカナタは顔を引き攣らせて戦慄するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーク達の戦闘空域———

 

シェルター近くの上空にてルーク、アッシュ、クロエの三人と【キメラ・デネブ】の戦いは熾烈を極めていた。

 

「くそっ、いい加減墜ちやがれっ!!」

 

ルークは【キメラ・デネブ】が繰り出す無数の触手を掻い潜って奴が展開する呪力障壁に籠手を纏った左拳を叩きつけるがビクともしない。

 

「おらぁっ!!」

 

「はぁぁあああっ!!」

 

続いてアッシュが反対側から殴りかかりクロエが上から砲撃を放つという波状攻撃を浴びせるものの、【キメラ・デネブ】の呪力障壁は一向に壊れる気配がなかった。

 

「・・・ちぃっ!これが【呪力】ってやつか、面倒なんだよっ!!」

 

アッシュはそう吐き捨てて続けざまにラッシュを呪力障壁に叩き込んでいく、呪力は魔力の上位に位置するチカラだ、圧倒的な事象干渉力がある呪力障壁を破るには全然威力が足りない、変異種を相手にするのはEランク小隊であるルーク達にはまだ荷が重い、まるでそう言っているかのようにルーク達の攻撃の全てが通用していなかった。

 

頑張って頑張って頑張ってもどうにもならない・・・・・そういう時こそ・・・ヒーローの出番だ。

 

「待たせたな!スーパーヒーロー、アスカ・イーグレット!見・参っ!!」

 

カイゼル流魔棍戦技————無双突破

 

ルーク達の後方から弾丸のような速度で真っ直ぐ飛来したアスカがそのままその勢いを利用してホウオウによる突きを放ち呪力障壁にブチ込んだ、すると凄まじい衝撃波が発生して呪力障壁に亀裂が入る。

 

「でりゃぁぁああああああああああああああああっ!!!」

 

激しい押し合いの末、アスカは勢いと気合いによってそれに打ち勝ち、呪力障壁を崩壊させて討ち破り、そのままの勢いで【キメラ・デネブ】本体に呪力障壁を破壊した突きが突き刺さり、天蓋の防護壁にブッ飛ばし、【キメラ・デネブ】は凄まじい轟音と共に防護壁に叩き付けられたのだった。

 

「へっ!ざまぁないな!」

 

「テメェは、喫茶店の時の!」

 

「おう!このアスカ様が来たからにはもう安心だ!後は任せろ!」

 

「任せろって一人で戦ろうとしてんじゃねぇよ、相手は変異種だぜ?」

 

「まったくだ、ヒーロー気取りが調子に乗ってんじゃねぇ」

 

「んだと!?このリーゼントが!素直にお礼も言えないのかよ!?」

 

ルークとアッシュが【キメラ・デネブ】をブッ飛ばして鼻の頭を右手の人差し指で擦ってドヤ顔をするアスカの許に寄って話し始めたら何故か罵倒し合いになってしまった、だがそんな事をしている場合ではない——

 

「何やってんのみんな!?【キメラ・デネブ】を見て!まだ終わってないよっ!!」

 

「「「っ!!?」」」

 

ルーク達の後方にいるクロエが天蓋の防護壁に叩き付けられた【キメラ・デネブ】を指さして叫ぶ、【キメラ・デネブ】は先程アスカの強烈な突きが突き刺さった部分が凹んでいるものの何事もなかったかのように悠々とルーク達の前に舞い戻って来ていたのだ、どうやらアスカの一撃は致命傷には至らなかったらしい。

 

「・・・やっぱ協力するしかないか・・・」

 

「当たり前だ阿保が!」

 

もめ合うアスカとアッシュは【キメラ・デネブ】を目の前にして皆と協力し合う事を渋々決定し三人はルークを中央に横に並びそれぞれの魔装錬金武装(エモノ)を構えて眼前にいる強敵を睨みつけた。

 

「・・・やれやれ、最強の空戦魔導士への道は厳しいぜ・・・」

 

今までにない強敵を目の前にして自分が目指す目標は果てしなく険しいという事を痛感したルークは蟀谷に冷や汗を流した。

 

「・・・だけど・・・それでこそ目指す価値があるぜ!」

 

空は高いからこそ飛び甲斐がある、それがルークの価値観だ、【絶対に目の前の強敵を倒して先に進んでやる】、ルークはそういう強気な眼をしていた。

 

ルークの両隣の二人も彼と同じ強い眼をしている、三人の想いは同じのようだ、新時代の空士達が今この場に集った。

 

「・・・んじゃあ、いくぜっ!!!」

 

「「おうっ!!」」

 

新時代の空士達は挑む、この先の未来を懸けて!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

オリバー(鬼神モード)「ったく世話の焼けるクソガキだぜ、口答えしてねぇでとっとと逝けってんだ!(魔大剣を肩に担いでいる)」

ミレーユ「小隊長、字が違いますよ、アスカが世話の焼ける奴なのは同感ですけれど」

オリバー(通常モード)「ごめんごめん、少し気が立っていたみたいだ、言葉の使い方には気を付けないとね(魔大剣を地に刺して手を離す)」

ロイド「本当に魔装錬金武装を離すといつものオリバー先輩に戻るんですね、まるで別人だ・・・」

オリバー(鬼神モード)「あ”あ”っ!?どうでもいいだろうがそんな事!!世の中には色んな人間がいるんだ、ガタガタ抜かしてんなら舌引っこ抜くぞウスィークソガキッ!!(再び魔大剣を手に取って地から引き抜く)」

ロイド「・・・・・確かに僕って薄いのかも・・・・・」

次回、空戦魔導士候補生の情熱『俺達がミストガンの空戦魔導士だ!』

オリバー(鬼神モード)「さっさと翔け抜けろ!最強への翼の道(ウィングロード)!!さもねぇと斬り落とすぞっ!!!」

カナタ「ミストガンには変人しかいねーな」

ロイド&ミレーユ「「君(アンタ)もその変人の一人なんですよ(のよ)」」




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