空戦魔導士候補生の情熱   作:蒼空の魔導書

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空戦のメインである魔甲蟲との戦闘開始です、と言ってもこの小説はオリ主であるルークと128小隊がミストガン最強の小隊を目指す物語なのでこの先魔甲蟲との戦闘は少ないですが・・・。





防衛戦開戦、Aランクの空士達

学園浮遊都市ミストガンより3km北の空域—————

 

耳を劈くような羽音を幾重にも重ならせて轟音を大空に響かせながらミストガンへと向けて進行する約十万にも及ぶ魔甲蟲の大群勢・・・その最後尾に一人、ルークとあまり変わらない年齢の少女が何故か大群勢の後方から追従する様に飛翔していた。

 

「あそこに見えるのが——様がおっしゃっていた今回の標的である学園浮遊都市ですか・・・」

 

彼女は淡く輝く蒼玉(サファイア)のような長髪に白いジャケットと膝丈のブーツを履いている一見光彩奪目の美少女に見えるのだが・・・明らかに人間にしか見えない彼女が何故人類の天敵である魔甲蟲と共にいるのだろうか?

 

人間を喰らい、屠り、殺し尽くす・・・それが魔甲蟲の意志である筈だ、なのに何故か彼女の周りを飛翔する魔甲蟲達は彼女を襲わない・・・寧ろ彼女を仲間として認めているように追従飛行している。

 

外敵から都市を護る為の防護壁が3km先に見えるミストガンの外周部を覆っていく、この辺りの空域はミストガンの空戦魔導士科指令センターで監視されているのでこの対応の早さは流石と言ったところだ・・・しかし、そんなものは意味を成さないと言わんばかりに魔甲蟲の大群勢は止まる気配がない。

 

「さて、どう攻め墜とすとしましょうか・・・」

 

自らの顎に右手を添えてミストガン攻略の戦略考える少女の名は《キルスティ・バーミリオン》、彼女は今ある人物の命を受けてここにいる。

 

『キルスティ、キミには十万の群勢を率いてある学園浮遊都市を攻めてもらう』

 

『はっ、畏まりました——様』

 

『ハハハ、即答かね?まだ目的について話していないのだが』

 

『も、申し訳ありません!』

 

『ハハハ、構わないよ、楽にしたまえ』

 

『はっ、してその目的とは?』

 

『この世界の人間達は基本的には我々の敵では無い・・・だが、現状で唯一我々の脅威と成り得そうな物(ぶつ)がこの世界に存在するみたいなんだ、今言った学園浮遊都市にはそれの所有者が一人いるみたいでね、キミはその所有者を誘き出して始末して来てほしい、できるならばその物の回収をお願いするよ』

 

『はっ、畏まりました——様』

 

『期待しているよ、で、その物の名は————』

 

キルスティは戦略を考えながらその人物が言っていた目的について再確認をする。

 

「今回の目的は学園浮遊都市ミストガンを攻め圧倒的なチカラを以って蹂躙し、この都市のどこかにいるとされる《玉璽(レガリア)》の所有者を誘き出して始末、あわよくば玉璽を回収すること・・・必ずや成し遂げて見せます」

 

自分に命を下した人物を想い心に激を入れたキルスティは黒い大鎌を携えて目標であるミストガンを研ぎ澄まされた眼で睨みつけ進撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園浮遊都市ミストガン空戦魔導士科指令センター————

 

「状況はどうなっている?」

 

赤い警報灯が室内を赤く染め大音量の空襲警報が室内中に鳴り響く指令センターの出入り口が開き、空戦魔導士科長(ガーディアンリーダー)であるジョバンニが険しい眼をして入室してきて室内に緊急待機していたオペレーター陣に襲撃者の様子とミストガン内の現在状況の説明を要求する。

 

「現在外壁防護壁の展開は完了し都市内の避難誘導もEランク小隊各員により順調に進んでいます!この調子で進めばおよそ四十分で全市民の地下シェルターへの避難が完了する計算になります!」

 

「敵は現在、ミストガン周辺の空域に十万の戦力をいくつかに分散して展開しています!東西南北2kmの空域それぞれに【キメラ・デネブ】二体を伴う二万の魔甲蟲の大群がこちらに向けて進行中です!」

 

「残りの敵戦力は【キメラ・カペラ】を大将として北方3kmの空域にて待機している模様!現在進行中の合計約八万の群勢は我々人間でいう【先行部隊】だと予測されます!」

 

オペレーター陣が室内中央の立体映像に数万にも及ぶ数の赤い光点を表示しながらジョバンニに報告していく、この赤い光点は全て魔甲蟲だ、その赤い光点がミストガンの周辺空域を埋め尽くしている、人類の天敵たる存在の群勢がこの学園浮遊都市内の人間達を駆逐せんと包囲している状況を知ったジョバンニは立体映像を睨みつけた。

 

「とうとう来やがったか、こっちの準備は万全だがさて・・・どう動く?」

 

右手の人差し指と中指を自分の右の蟀谷に当てて敵の出方を見るジョバンニ、どうやら先に仕掛けずに敵の動きを見て対応する作戦のようだ。そして敵はすぐに動きを見せた。

 

「空戦魔導士科長!東方・南方・西方の魔甲蟲の群が一斉に急加速し始めて真っ直ぐこちらに向かって来ます!」

 

立体映像には北を除いた三方向に表示されている無数の赤い光点が隊列を組んで速度を速めたのを確認したジョバンニは何故か不敵な笑みをしていた。

 

「ふっ!こりゃあ都合がいいぜ、その空域はそれぞれあのバカ共が率いる精鋭連隊が配置されているからな」

 

まさに飛んで火にいる夏の虫だと言わんばかりにそう言ったジョバンニは室内の最奥中央にある大規模通信結晶の前に立ち、それを介してミストガン中の空士達に指示を出し始めた。

 

「全軍に次ぐ!これより学園浮遊都市ミストガンの防衛戦を開始する!全員死力を尽くせ!そして生きて帰って来い!!どうしても駄目そうなら今から言う言葉を思い出せ!!」

 

ジョバンニは一呼吸を置いて———

 

「どんな困難や逆境でも絶対に諦めるな!信じろ自分の感覚を!今までの訓練を!そして仲間達を!!俺達が勝つと信じて戦い抜け!!!」

 

入学式の時にも言った【空士の回廊】を歩む為の秘訣を言い放ち、それを合図にミストガンの命運が懸かった防衛戦が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園浮遊都市ミストガンより1km南の空域—————

 

暗雲が立ち込めているかのような錯覚を感じさせる約二万の大群で大空を埋め尽くすかのように飛翔し進行する魔甲蟲達、その身に宿すチカラは《呪力》、魔力より高い事象干渉力を持ち人類の理解が及ばない滅びのチカラ、そんな恐るべきチカラを持った群勢がドーム状の防護壁に覆われたミストガンを視界に収めようとしたその時———

 

変則的加速(チェンジオブペース)—————電光石火(ブリッツアクション)

 

突如ミストガンから飛来して来た二つの金色の閃光が最前列の魔甲蟲数十体を貫き両断して撃墜した。

 

「都市のショタっ子達とついでに市民達には指一本触れさせない!いくよアディア!」

 

「姉さんにとって市民はついで扱いなのか・・・」

 

金色の閃光の正体は【A16小隊】小隊長のフェイト・アストレイとその弟にして副小隊長のアディア・アストレイであり、二人は防護服(プロテクター)をその身に纏い閃光を錯覚させるような速さで飛翔して来てそれぞれの魔装錬金武装を以って敵を斬り裂いたのである。

 

フェイトは裾が長めの黒い軍服風のジャケットを着て同じ色のミニスカートを履いていて白いマントを身に付けているといった見た目の防護服を身に纏っていて、髪の両端を黒いリボンで縛ってツインテールにしている姿は普段とは違う可憐な雰囲気を感じさせるが性癖と言動の所為で台無しである。彼女の魔装錬金武装は機械的な黒い《魔戦斧》の様に見えるが、これは使用者の意志で様々な武装に変形する【魔錬装器】である、フェイトはこの魔錬装器《バルディッシュ》を武器に多彩な戦術を駆使する【魔錬装士】、別名《マルチウェポン》と呼ばれる世界で三人しかいないバトルスタイルの空士なのだ。

 

アディアは黒いノースリーブタンクトップを着てグレーの長ズボンを履いていて風で棚引く白いマフラーを首に巻いて身に付けているといった見た目の防護服を身に纏っているその姿は姉と違って容姿通りの凛々しさが際立つが、姉の言動と行動理念の所為で気苦労が絶えないと言っているかのように溜息を吐いている。彼は黒い刀身と銀の刃を持つ魔双剣【スワローテイル】を振るい手数と速度で圧倒する【魔双剣士】である。

 

「姉さん忘れてないよね?僕等の役目はこの群れの指令である二体の【キメラ・デネブ】を速攻で撃墜して敵の統率を崩すことなんだからね」

 

魔甲蟲が群れを成して浮遊都市を襲う場合は大体が《変異種指令型魔甲蟲》が無数の《原種型魔甲蟲》に指令を出して行動する、今回の場合全群の総司令が《変異種母体型魔甲蟲》である【キメラ・カペラ】であり、各先行部隊の指揮を取っているのが《中型変異種》である【キメラ・デネブ】である、この先行部隊の指揮を取っている【キメラ・デネブ】は二体、これらを撃墜すればこの群の指揮系統を崩壊させることができるのだ。

 

フェイトとアディアの役目は先行して敵の懐に潜り込み迅速に二体の【キメラ・デネブ】を撃墜して統率を崩し、後から来るミストガンの仲間達が戦い易くする事だ。レオには及ばないもののミストガン上位クラスの飛行速度を誇る実力者である二人にピッタリな役目である。

 

「解ってるよ、でも周りのアルケナル級が邪魔だね・・・一掃するかな」

 

正面600m先にいる一体の【キメラ・デネブ】を守護するようにその周囲を囲んでいる無数のアルケナル級を見てフェイトはそう呟きバルディッシュを魔力刃の魔鎌に変形させブーメランを投げるかの如く振り抜いた。

 

魔鎌戦技—————飛翔疾空光刃(ハーケンセイバー)

 

バルディッシュの魔力刃から光の斬撃が飛んで行き正面のアルケナル級半数を薙ぎ払った。

 

「姉さん、僕が道を切り拓くから姉さんは【キメラ・デネブ】を仕留めて!」

 

スワローテイルを八双に構えたアディアがフェイトにそう言ってから残像ができる程の速度で彼女が仕留め損ねた正面のアルケナル級に突撃して行き————

 

魔双剣戦技—————黄金の牙(ゴルドネファング)

 

全てに擦れ違い斬り抜けた一秒後、無数の斬撃の軌跡が道を塞ぐ全てのアルケナル級を細切れにした。

 

そして守りが手薄になったところでフェイトが【キメラ・デネブ】に向かって閃光の如く突撃する、その際に彼女はマントとジャケットを脱ぎ捨てインナーである黒いレオタードの上にミニスカートを履いているような恰好になり身体を軽くして自身の最高飛行速度を大幅に上げ【キメラ・デネブ】に迫って行く、その速度は音速に達していたので彼女が通った空間から周囲数メートルがソニックブームによって衝撃を受けた。

 

接近して来ているフェイトに気付いた【キメラ・デネブ】は無数の触手を伸ばして彼女を捕らえようとするが音速で飛翔するフェイトはそれをものともせずに中央から全て回避して正面突破した。

 

フェイトはいつの間にか魔力刃の魔双剣に変形させていたバルディッシュで【キメラ・デネブ】の真上から頭に叩き付けるように斬りかかる・・・しかし———

 

「呪力障壁!!?」

 

突如【キメラ・デネブ】の頭の前に張られた禍々しく光る障壁によって魔力刃が弾き返され———

 

「キャアアッ!?」

 

その反動で弾き飛ばされたフェイトに【キメラ・デネブ】の無数の触手が絡み付き彼女の身体を卑猥に縛り上げた為にフェイトは動きを封じられて拘束されてしまい———

 

「嫌っ、ちょ!?あっ!あんっ♥」

 

触手が薄くなったフェイトの防護服の中に侵入し彼女の白い肌を直接蹂躙してきた為にフェイトは嫌悪感を感じると同時に性感帯を刺激されて喘ぐ。

 

「あっ!ダメっ!やるなら!ショタっ子にぃぃ♥」

 

・・・他人が聴いたらドン引きするような事を身体をくねらせながら言うフェイト、彼女は今の状況を理解しているのだろうか?そんなフェイトに一本の極太い針のような触手が迫り彼女の身体を貫こうとしたその時———

 

「ひょ?」

 

突如飛来した真空刃がフェイトを拘束している触手と彼女を貫こうとしていた触手を全て切り落とし、解放されたフェイトは思わず呆けてしまった。

 

「人が苦労している時に随分と楽しそうにしているね姉さん」

 

今の真空刃はアディアが放ったカマイタチだ、冷たく怒気が籠った声が聞こえたと同時に閃光の如き速度でフェイトの許に飛んで来たアディアは恐ろしいくらいの笑顔だった、明らかに怒っている。

 

「ア、アディア・・・これh「この程度の呪力障壁ぐらい姉さんなら簡単に破れるでしょ?早くしてよ」・・・ハイ・・・」

 

私は好きで捕まったわけじゃないと反論しようとしたフェイトだったがアディアの威圧感にアッサリ負けてしょんぼりした気持ちで彼女は魔双剣の魔力刃を【キメラ・デネブ】の呪力障壁に向けてその切っ先に魔力を収束する。

 

魔錬装器戦技——————雷光魔砲(サンダーレイジ)

 

そこから雷の属性変換付与によって形成された巨大な剣のような形の砲撃が放たれて【キメラ・デネブ】の前に張られている呪力障壁に突き刺さって被爆し呪力障壁が砕け散った。

 

「キミも嫁入り前の人の姉に随分と卑猥な事をやってくれたね・・・少し、頭冷やしてもらおうか?」

 

アディアは全てを凍てつかせるような目で再び触手を繰り出してきている【キメラ・デネブ】を睨みつけて魔双剣を構え————

 

魔双剣戦技——————幻影奇襲(ファントムレイド)

 

アディアが三人に見えるような錯覚を感じる程の速度で迫る触手と【キメラ・デネブ】の身体をズタズタに斬り裂いた。

 

「じゃあとどめは任せたよ姉さん」

 

アディアは【キメラ・デネブ】の後方に斬り抜けてフェイトに後を託し音速でその場を離れると————

 

「はあぁぁぁあああっ!!」

 

同じく音速でアディアと入れ替わるようにして突撃してきたフェイトが魔双剣の魔力刃を一つに合わせて巨大な魔力の刀身を作って振り被り、野球のバットをフルスイングする要領で【キメラ・デネブ】に叩き込んだ。

 

魔双剣戦技—————災厄ノ暴剣(ライオットザンバー・カラミティ)

 

フェイトの制限戦技(リミットスキル)がクリーンヒットした【キメラ・デネブ】は斜め45度の角度で天高くブッ飛ばされて四散した、まずは一体撃破だ。

 

「へっ!汚い花火だ!」

 

「そんな姿で言ったって全然恰好付かないよ・・・スカートまで脱いでさ・・・」

 

「うおっ?いつの間に!」

 

四散する敵を見上げてネタをかますフェイトに近づいて来たアディアは呆れたように彼女に指摘する。フェイトは最後の突攻の直前無意識にミニスカートを脱ぎ捨ててインナーである黒いレオタードだけの姿になっていた。

 

「まったく、毎回毎回姉さんが脱ぎ捨てた防護服を戦闘中に広い集める僕と部下達の身にもなってよね、ほら敵が集まって来る前にこれを着t—————」

 

戦闘中フェイトが脱ぎ捨てた防護服を全て広い集めていたアディアはそれを取り出して彼女に渡そうとした途端、不意に百数条の光の束がミストガンの方角から飛んで来て二人の数十メートル先に飛翔する数百の魔甲蟲を塵に変えた。

 

「やっと来たみたいだね」

 

砲撃を放ったのはこの防衛戦の為に編成したフェイト達が率いるA~Bランク小隊の空士で構成された精鋭連隊だ、都市外四方に配備された各連隊の総数は約三千、ミストガンの中でも選りすぐりの空士達が二人が【キメラ・デネブ】一体を撃墜して敵の統率が崩れるのを見計らって応援に駆け付けたのである。

 

「遅いよみんな!」

 

「貴方達が速過ぎるんですよ」

 

「【魂の炎(スピットファイア)】に次ぐ飛行速度を持つ御二人に着いて行くのは困難なのですから勘弁してください」

 

後から来た空士達に愚痴を言うフェイト、元々二人が先行する作戦だと言うのに理不尽な物言いである。

 

「まったくだらしないんだから・・・・・それじゃあ私とアディアはもう一体の【キメラ・デネブ】を撃墜しに行くから援護は任せたよみんな!!」

 

「「「「「「「了解っ!!!」」」」」」」

 

「それじゃあ迎撃開始!!」

 

フェイトの号令と共に連隊の空士達は散開して戦闘を開始し、それと同時にフェイトは1km先に飛翔するもう一体の【キメラ・デネブ】目掛けて音速で突撃して行った・・・・・レオタード姿のままで・・・。

 

「・・・防護服を着直してから行ってよね・・・」

 

姉の防護服を抱えたまま落胆して気怠そうに姉の後を追う気苦労の絶えないアディアであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園浮遊都市ミストガンより1km西の空域——————

 

フェイト達が戦闘を開始するのと同時刻、この空域では【A1小隊】小隊長のラディル・アルベインと副小隊長のノイス・マディン率いる精鋭連隊が魔甲蟲の一群との乱戦を繰り広げていた。

 

「ハァッ!」

 

天雷流魔刀戦技——————雷神破砕斬

 

ミストガンの学生服と同じデザインの防護服の上から背中と右胸に雷マークが刺繍されているチョッキを前を閉めずに着て、左腰のベルトに鞘に収まっている魔装錬金製の小太刀と脇差、そして魔刀用の鞘を差して帯刀し、紫色の電光を放つ魔刀《麒麟》を半月状に振るってカマキリのような形状をした魔甲蟲《プロキオン級》を斬り裂き爆散させたラディルがふぅっと息を吐いて魔刀を鞘に収めた。

 

「気を抜いている場合じゃないぜラディル!一体目の【キメラ・デネブ】は目前だぜ!」

 

ラディルと同じようにミストガンの学生服と同じデザインの防護服の上から背中と右胸に雪の結晶マークが刺繍されたチョッキを着ていつも身に付けている雪の結晶マークが入った青いマフラーを首に巻いたノイスが穂の両端に小さい穂が斜めに突き出ているコルセスカという形状の魔槍《ガスト》を振るって道を塞ぐアルケナル級を薙ぎ払い、一息を吐いているラディルに呼び掛けた。

 

隊員全員がそれぞれ異なる属性変換付与を使うA1小隊は全員自分が扱う属性のマークが刺繍されたチョッキを着て戦闘に臨むという決まり事を小隊長であるラディルが起ち上げている、各小隊長は自分の小隊の決まり事をある程度なら自由に決める事ができるのでそれが各小隊の個性を引き立たせる傾向がある。

 

「別に気ぃ抜いてたわけじゃないぞ、今でも気は張り巡らせてある」

 

「そんなことは分かってるぜ!気持ちの問題だ気持ちの!」

 

バチバチ静電気が発生している自分の天然パーマの髪をボリボリと掻きながら受け答えするラディルに対して指摘するノイス、彼は普段待機中にアイスキューブでお手玉をするなどでふざけているように見えるが、実際は落ち着きが無いだけで根は真面目であり、小隊の訓練メニューや任務の報告書の作成は彼が全て担当している、何故かというとラディルや他の隊員達が作成すると小学生の作文のような物しかできないからである、つまりA1小隊はノイス以外馬鹿しかいないのだ。

 

「ラディルさん!私達が【キメラ・デネブ】への道を塞ぐ魔甲蟲を排除します!」

 

「御二人は【キメラ・デネブ】を撃墜してください!」

 

二人の後方で魔砲杖を構えていた魔砲士数十人が一斉に砲撃を放ち、無数の光の束が【キメラ・デネブ】の前に飛翔していた無数のアルケナル級を塵に変え、その隙にラディルとノイスは【キメラ・デネブ】に接近する。

 

「うじゃうじゃと気持ち悪いぜ!だがオイラには関係ないぜ!」

 

【キメラ・デネブ】の蠢く触手に嫌悪したノイスは敵の40m手前まで接近するや否や弓を引く様に魔槍を構え身体を後ろに反らし———

 

魔槍戦技——————絶氷の騎兵槍(コキュートスランス)

 

勢い良く手前に突き刺す様に突きを放つとその瞬間に魔槍の穂の切っ先から先の空間が細長い円錐状に凍り、まるで巨大な騎兵槍(ランス)のような形状の氷がいつの間にか前方の【キメラ・デネブ】を貫いていた。

 

突きを放った魔槍の先の大気中の水分を凍らせて射程内の敵を貫く防御不能の戦技だ、最大射程距離は50m、一瞬にして凍り付くが故に射程内に入った敵は貫かれる運命なのだ。

 

「ナイスだノイス、後はオレがブッた斬るだけだな」

 

そして飄々とした態度で【キメラ・デネブ】に突き刺さった氷の騎兵槍の上に飛び乗ったラディルが左半身を後ろにさげて腰を落とし、鞘に収められた麒麟の柄を右手で掴み抜刀の構えを取る。突き刺さった場所から深緑色の液体をまき散らして狂い悶える【キメラ・デネブ】に向けてそのままの体勢で氷の騎兵槍の上を滑り下りるラディルは麒麟の鞘と刀身に電流を流して磁界を発生させ、【キメラ・デネブ】の懐に入った瞬間に彼は麒麟を超電磁加速銃(レールガン)の様な勢いで抜刀した。

 

天雷流魔刀戦技——————雷切

 

ラディルが使う《天雷流魔刀術》とは、彼の出身浮遊都市である《ドンナー》に伝わる雷の属性変換付与が使える魔刀士だけが使える流派であり、この流派を究めた者はこの世の全ての電気エネルギーを集束した究極の雷撃による斬撃、《雷神ノ裁剣》を習得すると伝えられているが未だ嘗て誰一人としてその極みに至った者はいない。

 

「よしっ、一丁あがりだ!」

 

「まだもう一体いるぜ!気を抜いている場合じゃねえぜラディル!!」

 

雷速より速い抜刀術で水平に両断された【キメラ・デネブ】が消滅し、雷帝(サンダーエンペラー)と氷帝(アイスエンペラー)の二つ名に恥じない実力を見せつけたラディルとノイスは妨害して来る無数のアルケナル級とプロキオン級を蹴散らしながらもう一体の【キメラ・デネブ】を撃墜しに凄まじい速度で飛翔して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園浮遊都市ミストガンより1km東の空域—————

 

この空域の戦闘は他より苛烈な空中格闘戦(ドッグファイト)が繰り広げられていた。【A29小隊】小隊長テオ・セシルと副小隊長ルーイ・トーイ率いる精鋭連隊の空士達が魔剣で、魔槍で、魔戦斧で、魔槌で、襲いかかって来る魔甲蟲の大群を縦横無尽に飛び回って迎撃していく、だが魔甲蟲達も負けじと集団で襲いかかり、空士の腸(はらわた)を喰い破り、強靭な牙で引き裂き、呪力弾で撃ち抜いたりすることで一人、また一人と浮遊都市の守護者達の命を奪っていく。

 

今、この美しい蒼穹の大空は血と爆炎で煉獄の様な緋色に染まっていた。

 

「・・・つまらん」

 

いつも被っているスポーツキャップを被り、手の甲に白い星マークが入った指貫グローブを両手に装着し、白いインナーの上から背中に白い星マークが入った赤いサバイバルベストを着て、空色のジーンズと白い星マークが入った赤いシューズを履いているといったデザインの防護服を身に纏ったテオが不満そうに身の丈より大きめの銀色の出刃包丁の様な魔大剣《エクシードバスタード》を振るって襲い掛かってくる【キメラ・デネブ】の無数の触手を薙ぎ払う。

 

「このような触手しか能が無い敵を斬っても無価値だ」

 

全ての触手を斬り落とされた【キメラ・デネブ】が激痛で狂い悶えながら斬られた場所から深緑色の液体をまき散らし、その胡桃のような巨体でテオに突撃して来たが彼はミストガンで二番目に強い空士、普通なら苦戦必至の中型変異種だが彼にはこの程度敵にもならない。

 

魔大剣戦技—————大雪断(ギガバスタード)

 

これはただ魔大剣に魔力を込めて上から豪快に振り下ろして叩き斬るだけの戦技だ、しかしテオが使うとこんな単純な戦技でも必殺の一撃となる。想像を絶する膂力で振り下ろされる魔大剣が大気を引き裂き衝撃波が彼の周囲半径800mを吹き飛ばし、【キメラ・デネブ】を縦に一刀両断して呆気無く撃墜した。テオはつまらないものを斬ってしまったと言わんばかりに鼻を鳴らしエクシードバスタードを背中に帯刀した。

 

「ステップ!楽勝だなテオ、流石だぜステップ!」

 

ヘッドホンを身に付けダボダボの黄緑色のパーカーを着て空色の短パンを履いているというデザインの防護服を身に纏っているルーイが円刃の投擲武装・・・《魔戦輪》《レゾナンスビート》を両手に携えてテオに近づいて気さくに声をかけてきた。しかしテオの表情は不満そうだ。

 

「確かに取るに足らない敵だが気を抜くんじゃないぞ、どんなに無価値な敵でも一瞬の油断で足下を掬われる事があるからな」

 

「随分とつまんなそうな面だなテオ、やっぱり砲撃を撃ってくる強敵じゃないとやる気出ないか?ステップ!」

 

「まあな・・・だがコイツらを全滅させれば【キメラ・カペラ】の迎撃に向かえる筈だ」

 

テオは敵の大将である巨大な身体中に砲塔を生やした大型変異種の事を思い浮かべると楽しみのあまりに凶悪そうな笑みを浮かべてしまう、彼の頭の中は今【どんな強力な砲撃を撃ってくるのか?】とか【砲撃斬り放題で気分爽快だろうな】とかの煩悩?でいっぱいだ、流石砲撃上等系男子。

 

「・・・フッ!楽しみだ」

 

「温度差激しいなステップ」

 

ルーイはムスッとしていた表情が一瞬で笑顔?に変わったテオを見て呆れた、分かっていた事だが呆れた、いつもの事だが呆れた。

 

—————この砲撃上等系男子は人間の三大欲求が全部【砲撃斬り欲】に変換されているのか?ステップ!気ぃ抜いてんのはどっちだよ・・・。

 

もはや病気だ、もう何も言うまいと思ったルーイはとっとともう一体の【キメラ・デネブ】も片付けようと次のターゲットの許へ向かおうとするが————

 

「・・・・待て、ルーイ」

 

唐突に険しい表情に変わったテオがルーイを呼び止めた。

 

「どうした?ステップ」

 

「・・・妙な空気を感じる」

 

嫌な予感がしたテオは辺りを見回す、彼は先程から何かが変だと思っていた、敵の戦術が単純過ぎると、【キメラ・カペラ】が高い知能を持っているのならここらで何か仕掛けて来る筈。

 

「・・・・・・」

 

いつの間にか襲い掛かって来ていたアルケナル級五体を無言で斬り裂いたテオは次の瞬間にミストガンの真上と真下に気配を感じてハッと振り返る、するとそこには———

 

「・・・・・予感的中だな・・・」

 

ミストガンの上下約200m先の雲から一体ずつの【キメラ・デネブ】率いるそれぞれ約二千の別動隊が姿を現した。

 

防衛戦はここからが正念場だ、果たして彼等はミストガンを護り抜くことができるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

フェイト「さあ、どんどん敵を墜としていくよ!」

アディア「姉さん凄い気迫だ、いつもは男の子の事しか考えていないのに」

フェイト「見縊らないでアディア、私だってミストガンの空士だよ!」

アディア「うん、そうだね、ごめん姉さん、僕は姉さんの事を誤解しt———」

フェイト「何で【リオス・ローレファンクラブ】会長の私がリオスきゅんの連隊の隊員として編成されなかったのぉぉぉおおお!?魔甲蟲を撃墜しまくって憂さ晴らししてやるぅぅうううっ!!」

アディア「ね・え・さ・ん!(怒)」

次回、空戦魔導士候補生の情熱『都市内戦、空戦魔導士として』

フェイト「翔け抜けろ!最強への翼の道(ウィングロード)!!」





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