エクザイル歴四三六年、五月十九日
更衣棟、マッサージ室———————
「あ”~生き返る~」
診療用のベッドの上に上半身裸でうつ伏せになるルークとルークをマッサージするカナタ。
現在時刻は午後五時三十分、小隊訓練を終えたE128小隊のメンバー達は疲れを取る為にこのマッサージ室で《医療医学科(メディスン)》の学生にマッサージを頼もうとしたのだが、生憎運が悪く医療医学科の学生達は研究発表会の真っ最中である為全員出払っていたので仕方なくカナタがメンバー全員をマッサージすることとなった。
「お前何でもできるんだなカナタ、この前の料理実習で作製してたマロンケーキもなかなか美味かったし」
「そりゃどうも」
空戦での戦術眼に勉学・書類作成・料理・メンタルケアとこいつにできない事は無いんじゃないかと思わせる程多芸なカナタを絶賛するルーク、無尽蔵の体力と不屈の心だけしか取り柄の無いルークとは大違いである。
「おしっ!こんなもんか」
「あ”~生き返ったぜ」
「カナタ、次わたしの番ね」
「はいよ」
隣のベッドの上に白いレオタード姿でうつ伏せになっているクロエがカナタを呼んでカナタはクロエのマッサージに取り掛かった。
しばらく寛いでいるとマッサージ室の出入り口からソラとリカが入室して来て———
「よっ!ボウズ共!夕飯食いに行かへんか?」
とソラが誘いの言葉を言った。
しかもソラ達の奢りだと言うのでルーク達は喜んで誘いに乗ろうとしたがクロエは悪いと思って断ろうとするのだが————
「あら?先輩の好意を無下にするっていうの?」
とリカが意地悪な笑みでそう言うので仕方なく誘いに乗って夕食を食べに行くこととなった。
三番区、レストラン通り、レストラン【ブルームスティック】————
この店は主に洋食中心のメニューで中でも人気なのが【レインボーチーズハンバーグ】とかいう七色のチーズが乗った異様なハンバーグ定食であり、これを見たクロエが————
「七色のチーズって何!?不気味だよ!」
とツッコんでいたがこれはチーズに様々な野菜と果物が混ぜ合わされた特殊なチーズであり多くのビタミンを摂取できる健康的なチーズであり尚且つ普通のチーズと味が変わらないので非常に人気が高いのである。
・・・・・それはさておき————
「キャアアアアッ!?」
「うほぉ!ええのぉ!やっぱピチピチウェイトレスのケツはプリプリしてて最高やで~」
「行く先々でセクハラしているんじゃないわよ!!」
「ぐほっおおっ!!」
「行く先々って・・・」
「ソラ兄、まだそのセクハラ癖治ってなかったのか・・・」
ルーク達が座っている席の近くを通りかかった若いウェイトレスの尻を通路側に座っていたソラが手を伸ばして撫で回したので怒ったリカがソラの顎に強烈なアッパーをくらわせてノックアウト、そんな光景にルーク達は呆れる以外になかった。
ちなみにソラが今頭に被っているのはいつものゴーグル付きの革の被り物ではなくスポーツキャップである。
「さ、お馬鹿なソラはほっといてオーダーをとりましょ」
そのまま気にせず何事もなかったかの様にメニューを決めるリカに苦笑いをしながらも頼むメニューを決めていくルーク達。そんな中でルークがストロベリークリームショートケーキをデザートに注文しようとしたらリカが苦い表情をしてルークにケチをつける。
「ルーク、私の目の前で苺を食べるなってあれほど言っているのに」
「リカ姉の言いつけでもこれだけは譲るつもりはねぇよ、苺を見たら死ぬとかならともかく、昔のトラウマで嫌いだってだけで遠慮して自分の好物を食わないなんて馬鹿馬鹿しいからな」
お互いに言った言葉が癪に障ったルークとリカは鋭い眼をして睨み合う、一触即発の雰囲気だ。
「いい、ルーク?あの忌々しい赤い悪魔の実で作られたジャムはがんになりやすい危険な物なのよ、汚らわしい」
「それはリンゴから作られたイチゴジャムの話だろ?食品添加物じゃねぇか!苺関係ねぇよ!」
「それに口の中に入れてかじった時に出るブツブツが沢山混じった汁!気色悪いったらありはしないわ!」
「それがいいんじゃねぇか!濃厚な甘い果汁の中のブツブツを噛み潰した時のあの感触がたまんねぇんだ!」
「一体それのどこがいいのよ?」
「リカ姉はこの良さがわからねぇなんて人生損してるぜ!」
「そんなのわからなくたって生きていけるわ!」
くだらない口喧嘩をするルークとリカにカナタ達は呆れる。
「・・・苺になんのトラウマがあるんだ?」
「ああ、そらな」
「うおっ!?いつ生き返ったんだアンタ?」
「死んどらんわいっ!」
リカの異常なまでの苺嫌いに疑問を抱いていたカナタにいつの間にか復活していたソラは答えようとしたら的外れな事を言われたのでツッコんでから語り始める。
「五年と半年前のミストガンに来る前のひよっこ時代の話やけどな、イーストスラムの最南東にビニールハウスの農園があってな、ある日ワイとリカとボウズはその農園の所有者のおっちゃんに苺狩りに誘わせて行ったんやが・・・ぷっ!」
「「「「??」」」」
昔の思い出を語るソラは突然思い出し笑いをしたのでカナタ達は突然何だと首を傾げる。
「苺狩りをしとる最中にリカは毛虫付きの苺を取って【きゃあああっ!!】言うてそこから逃げ出してな、ぷぷぷぷっ!走って段差につまずいてズッコケて集めた苺が入ったバケツに顔から突っ込んで顔面潰れた苺の汁塗れになってもうて大泣きしたんやで!ギャハハハ!それ以来リカは苺を見る度に蕁麻疹がでる程のトラウマにギャハハハハハハッ!!」
「人の黒歴史を勝手に話すな!」
「ぐほぉっ!?」
リカは本人の許可も無く自分の黒歴史を語ったソラに怒りの鉄拳をかまして、カナタ達はしょうもない理由だなと思った。
そんなところに赤い星のマークが入った赤いスポーツキャップを被った長身で黒髪を後頭部頂点で縛ってポニーテールにしている男子生徒がレストランの入り口から入って来てこちらに近づいてきた。
「来たぞソラ」
「おう!よお来たな!」
「遅いわよ、何してたの」
この男子生徒を呼んだのはソラとリカのようだ、ルーク達が知らない男子生徒だったので誰だと思ったルーク達だがギドルトは————
——————あれ?この人どこかで見た事があるような気がするのです。
と思い必死に思い出そうとしていた。
「最近砲撃を斬る機会がなくてストレスが溜まっていたからフェイトに頼んで砲撃を撃ってもらってそれを斬ってストレス解消してたんだが・・・はぁ、フェイトの雷光魔砲(サンダーレイジ)じゃ物足りないな・・・」
「貴方ねぇ・・・」
—————砲撃を斬るってもしかして!
「あの、ひょっとして【A29小隊】小隊長の【テオ・セシル】先輩なのですか?」
ギドルトは男子生徒にそう尋ねた。
「ん?ああそうだが・・・」
「やっぱり!」
「知ってるのギドルト?」
男子生徒・・・テオの事を知っていたギドルトにそう質問するクロエ、クロエはランキング戦初戦の後でギドルトに【僕のことも呼び捨てで呼んでくださいなのです!】とお願いされたのでそれ以来ギドルトの事を呼び捨てで呼ぶようになった。
「テオ先輩はAランクトップ3の小隊の一つの【A29小隊】小隊長なのです、テオ先輩は砲撃を斬るのが大好きな変z・・・凄い人で先輩の代名詞である戦技《魔砲斬り(バスタースラッシュ)》は砲撃魔術は勿論魔甲蟲が放つ呪力砲撃すら斬り裂く事から【魔砲士殺し(バスターキラー)】と呼ばれていて、過去に一対魔砲士五十人の変則マッチをやって無傷で魔砲士五十人を撃墜したという伝説を創り、更にミストガン最強は勿論ソラ先輩達S45特務小隊なのですがミストガン最強の空士となるとテオ先輩はソラ先輩に次ぐナンバー2の実力を持つ凄い空士なのです」
「この人が・・・ミストガンナンバー2!?」
ギドルトが話した事に驚くクロエ、つまり今ルーク達の目の前にはミストガンのトップ2の空士が揃っているということだ、驚くのも無理はないだろう。
「ははは!なんかむずがゆいな、で?こいつ等がお前が言っていた後輩達か?」
「そうやで、おもろそうなガキ共やろ?」
「ほう・・・・・ん!?」
「え!?・・・わたし?何でしょうか?・・・」
テオはルーク達と一人一人目を合わせていき、クロエと目を合わせるとしばらくクロエを見つめる。
「・・・・・ひょっとしてお前、魔砲士か?」
「えっ!?・・・は、はいそうですけど・・・」
「お!やっぱりか!魔砲士が醸し出す魔力を感じたんだよ!」
「ひゃっ!?」
クロエが魔砲士だとわかった瞬間にテオは嬉しそうな表情をしてクロエの顔の数センチ前にズイッと顔を近づけて興奮しながらクロエに話し続ける。
「お前名前は?」
「ク・・・クロエ・セヴェニーです・・・」
——————ち、近い近い!!
「クロエか!覚えたぞ!よろしくな!お前は将来俺が満足できそうな砲撃を撃つような予感がするから頑張ってトップクラスの魔砲士になってくれよ!そして将来俺にお前の最強の砲撃を斬らせてくれ!それかr「顔近いんじゃボケェッ!!」ふごぅっ!?」
数センチで口付けしてしまいそうな危ない距離で興奮しながらクロエに迫って話すテオをソラが横からどついて止めた。
「なにをするんだソラ!?」
「じゃかあしいっ!クロエちゃん怯えとるやないか!セクハラやでそれ!」
ソラの言葉に全員満場一致で【お前が言うな!】と思っていた、日頃の行いが悪い所為である。
「そんなんやからお前は【砲撃上等系男子】なんて呼ばれんのやで!?ちったあ自重せいやぁ!」
「お前に自重とか言われたくないな【セクハラ大魔王】!」
「なんやて砲斬り侍が!」
「うるさいぞ性犯罪者予備軍が!」
「「ガルルルルルルッ!!」」
さっきのルークとリカの口喧嘩よりくだらない喧嘩をするソラとテオ、後輩達が見ている中でそんなことをしている二人を見てリカは自分の額に掌を当てて何やってんのよと思い溜息を吐き、ルーク達は呆気にとられていた、先輩としての威厳が台無しである。
「・・・で?そろそろ本題に入ったらどうだ?」
「「「「えっ!?」」」」
そんななかで突然カナタがリカにそう言ったのでルーク達は驚いた。
「マッサージ室で俺達を誘った時に平然を装っていたが眼が真剣だった、他の小隊の小隊長まで呼んでなんか俺達に用があるんじゃないか?」
「・・・・ランキング戦を見た時から思っていたけれどなかなか鋭い子ね・・・」
カナタの感の良さに感嘆とするリカ、そして喧嘩をしていたソラとテオが喧嘩をやめて席に座り本題に今日ルーク達を誘った訳を話し出す。
「まずテオを呼んだんはコイツが《競技活動連合》の一員でもあるからでな、審判をしてもらう為やな」
「「「「「審判?」」」」」
【競技活動連合】通称《競活連》はスポーツの大会などを取り仕切る組織である、その一員であるテオを呼んだのは審判をしてもらう為だと意味不明な事をソラが言うので疑問に思うルーク達にソラは話の本題を切り出した。
「なあボウズ共、ある競技でワイとリカと勝負せえへんか?ボウズ共が勝ったらランキング戦が勝てへん訳教えたるわ!」
「「「「「・・・・・・ええええええええっ!!?」」」」」
ソラが出した突拍子もない提案ととんでもない条件に驚いて叫んでしまったE128小隊のメンバー達であった。
果たしてソラ達の思惑とは?そしてなんの競技をしようとしているのだろうか?
次回予告
リカ「それにしてもテオ、よくあの変態ショタコン(フェイト)が貴方の趣味に付き合ったわね?」
ソラ「ああ、それワイも気になったわ」
テオ「・・・実は偶然にも人気少年アイドルグループ《サイクロンボーイズ》の握手会のチケットが手に入ったんだ・・・」
リカ「それって各浮遊都市を股にかけて活動する十四歳以下の構成のアイドルグループの事?」
テオ「そうだ、俺には不必要な物だったからサイクロンボーイズの熱狂的な大ファンであるフェイトに俺のストレス発散の手伝いの報酬として渡したというわけだ」
リカ「興奮して鼻血出しながらペンライトを振っているフェイトの姿が目に浮かぶわね」
次回、空戦魔導士候補生の情熱『ディスク』
リカ「翔け抜けなさい!最強への翼の道(ウィングロード)!!」