インフィニット・ストラトス Apocrypha   作:茜。

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波乱(ハプニング)は続く

 格納庫へ向かった涼香達とは別に、アリーナから直接更衣室へ移動して着替えた一夏と優衣は、リィン達が通された整備室へと入っていくと、そこで二人の目に思わぬ光景が入って来た。

 その光景とは、ISの見学をしているはずのリィンがそのIS、疾風をその身に纏って座り込んでいた、というものだ。

 それには優衣が唖然とし、一夏も思わず呻いてしまいう。

「ISが起動してる。男の子なのに」

「……なにしてんのさ、リィン」

 そして当のリィンは、自身の状態に混乱しているのものの、経緯だけは説明した。

「俺が聞きたい。見た事も無い甲冑だから、タリサさんに聞いたら良いっていうから触ってたみらこれだよ。ていうか、なにか問題があるのか?」

 しかし、問題だ。何せ、男のリィンがインフィニット・ストラトスを起動してしまったのだから。

 これにはエレボニアでの事情に詳しい一夏でさえ、あれを超える厄介事ってあるんだな、と思いながら愚痴をこぼしてしまう。

「うん。問題も問題。大問題」

 そう、ある程度厳密に起動者が決まっている騎神はともかく、インフィニット・ストラトを男が起動したのは、彼の魔神(エンド・オブ・ヴァーミリオン)が起動したことよりも厄介事である。

「だね。ていうか、すっごい面倒事? リィンがヴァリマールを起動した事以上の大問題且つ厄介事。テスタ=ロッサが起動した事でもまだ些細な事態かな。あれは暴走してるだけの騎神でしかないから」

 その証拠に、当時現場にいたタリサ=束は、リィンがISを起動した瞬間、四人を待たせて大慌てで樹の元へと走って行ったのだ。

 尤も四人は事の重大さを全く理解出来ていないので、訳がわからないといった表情を見せ、フィーが一夏へと問いかける。

「ヴァリマールやテスタ=ロッサ以上って、そんなに面倒なこと? タリサも、リィンがこれを動かした瞬間に慌てて出て行ったし」

 機械仕掛けの甲冑、インフィニット・ストラトス。

 世界の軍事バランスを一瞬にして塗り替えた超兵器。それは、かつてエレボニア帝国帝都ヘイムダルを一瞬にして制圧した機甲兵と、似て非なるモノ。

 制約に縛られた不完全品。危ういバランスの上に成り立った欠陥品。それがインフィニット・ストラトスである。そのことにセリーヌが噛みつくが、一夏が直ぐに返答する。

「四人は知らないから説明するね。この甲冑っぽいものはインフィニット・ストラトスっていう。向こうで言う機甲兵みたいな感じの装備なんだけど、実は物凄い欠陥品なんだよ」

「欠陥品? これが? 見ただけでも騎神並。半端な戦車や機甲兵じゃ足下にも及べないように感じるわよ」

「確かに性能的に言えば、半端な戦車じゃ束になっても敵わない。騎神とは相性悪いけど、機甲兵となら互角に戦えるね。まあ戦車に関しては、僕とセリーヌが言うモノには天と地程の性能差があるけど」

 それに続き優衣が欠陥品の訳を話せば、フィーがなんとなく理解したように言う。

「ただね。これ、女にしか起動できないんだ。それも、女でありさえすれば、ほぼ誰であっても起動する事が出来る。ま、使い熟せるかは別だけどね」

「使い熟すのは、なんでも訓練次第。けど、それって、道具としては失敗作?」

 そんなフィーの失敗作という言葉に、姿を見せた束が自嘲を込めて語っていく。自らの汚点、と。

「そうだよ。フィーちゃんの言うとおり、それは純然にして完膚なき失敗作。本当は世に出してはいけなかった恥ずべきモノ。私が、束さんが宇宙に行きたいっていう希望を叶えるために作ってしまった、欠陥品にして失敗作なの」

 しかし束の自嘲に対して一夏と優衣は怒りを顕わにし、人差し指を突きつけながら自分の頑張りを否定するなと諭す。

「もう束姉! それは言っちゃダメっていつも言ってるよね! 姉さん、がんばってるじゃん。女も男も関係なく、誰が使っても起動できて、ちゃんと動かせる様にするって。ずっとがんばってるじゃん」

「そうですよ! 束さん、すごく努力して、壁にぶつかっても乗り越えようとがんばってるじゃないですか。じゃなかったらここのスタッフ、誰一人として動いてませんよ。もっと自信を持ってくださいよ!」

 束も二人の気持ちを汲んで誤り、礼を言う。

「……いっくん、ゆいちゃん。その、ごめんね。ありがとう」

 そしてリィンに対して事実を告げながら協力を要請する。モルモットになってほしいと。

「それでねリィン君。君がISを起動できたからには、いろいろ調べたりするのに協力して欲しいなって思うんだけど、いいかな? その、実験動物みたいな扱いになっちゃうんだけど……」

 それに対してリィンは構わないと返し、フィーとエマにも確認を取る。ネコの文句をスルーしながら。

「そういう事なら別に、俺なら構わないですけど……。フィーとエマは、どうだ?」

「ちょ、ちょっと灰の!? あたしには聞かないの!?」

 問われたフィーとエマもネコの叫びをスルーしつつリィンに同意し、束に協力することを申し出る。

「わたしはべつにいーよ。どうせ戻れなそうだし。リィンとエマ、それにステラとタリサも居る。それに、ここに居るのも楽しそう。駄ネコは……エマのペット?」

「ふふ。確かにそれが面倒なさそうですよね。それで、私も構わないですよ。この様になったのも、なにかの導きかも知れませんし。リィンさんとフィーちゃんさえよければ」

「ちょっと、あたしの意見も聞きなさいよねー!」

 

 こうして異世界の英雄達三人と騒がしいペットが一匹、緒方家に加わることになった。

 ……戸籍は束が一晩でなんとかした。さすが束!

 

 尚、ISと騎神で勝負した場合、小柄さと敏捷性ではISに分があるが、防御性能では恐らく、ヴァリマールどころかシュピーゲルの一撃にも耐えられないだろうことから、攻撃力と耐久力に機動性を総合的に見て、操縦者次第で機甲兵には勝てても、騎神には勝ち目がないと思われる。

 ついでに戦車について。現在、陸自で最新鋭になる10式改や90式改に、開発中の自走速射高射砲の走行、射砲撃の映像をリィン達四人に見せたところ、自分達が知るそれとのあまりの性能差に、セリーヌだけでなく、リィン達三人までも完全に固まってしまった。

 リィン達曰くアハツェン以降の新型はまだ無く、また改良などによる性能向上もないとのことで、ゼムリアの戦車はすでに全車退役済みの74式の更に先代の61式で漸く比べられる範囲に入る程度である。恐らくこの性能差は、多少の誤差を含めても戦闘車両全般に適応されるだろう。

 エレボニア帝国を含むゼムリア大陸には滞空可能な飛行艇があり、導力器を計算機にするパソコン擬き、導力波を通信に応用したインターネット擬きは存在するが、テレビは無い。リィン曰く、トリスタで聞いていたラジオが、漸く他の大都市周辺で普及し始めたとのこと。

 このように、刀剣類を装備することや、導力器を使った道具や魔法が一般的且つ、一部とはいえ人間自体の戦闘能力が異常に高いゼムリア世界では、技術レベルが非常にちぐはぐとなっている。




文章を書くのって本当に難しいですね……

所で、文中のISと騎神、機甲兵のパワーバランスは独自の解釈です。
作者的には大凡、騎神>軍用IS(銀の福音など)>IS(専用機全般)>機甲兵>IS(訓練機)というイメージで書いています。
また、この世界の日本はISを用いた戦争を想定し、IS以外でも軍事的防衛を重視しているという感じで書いているので、陸海空全般で現実世界よりも強武装化しているという感じです。10式を更に改良とか、どんなバケモノ戦車になるんでしょうか、作者にも想像が付きません(..;)

あ、ぶっちゃけセリーヌの出番、ここ以外に殆ど無い予定です。
マスコットにしたくても、喋るネコとか日本どころかエレボニアでも珍獣なのに、レギュラー化出来ませんし。

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