インフィニット・ストラトス Apocrypha   作:茜。

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遠い世界(ホシ)から来た英雄達(カレラ)

 広大な楕円形のアリーナ、月岡重工が持つ専用IS試験場。

 その中心近く、二機と三機のISが対峙し、今にも模擬戦闘試験が始まるという時、それは起こった。

 

 始まりは、何も無い空間に黒い霧のようなモノが発生。徐々に濃く、深くなるそれは黒い靄になり、やがて渦巻き始めた。

 そして渦巻く靄の中心から、何かが飛び出し、アリーナの地面へと落下した。

「……うわぁっ!」

「きゃあぁっ!」

「ぅぎゅっ!」

「みきゃあっ! いたい……」

 おのおの悲鳴や呻き声を上げる、黒い靄を纏った三人の人影と一匹の猫。

 上空にいたIS達も地面へを降り立ち、一機のパイロットが声をかけた。

「……あの、えっと、大丈夫ですか?」

 そこへ彼女の僚機二機のパイロットが慌てたように彼女に注意を促しに降りてくる。

「いやいやいや、そうじゃないでしょ亜子ちゃん! ていうかこいつ達なんなわけ!?」

「そうよ! いきなり現れたのよこいつら、もっと注意しないと危ないわよ亜子!」

 しかし亜子と呼ばれた少女は、別段慌てることも、また怖がることも無く問題ないと断言し、一夏も亜子の横に降りたち、苦笑いを浮かべて彼女に同意する。

「別にさや姉やすず姉が心配するようなことは無いと思うけど」

「そうだね」

 だが一夏の後ろに降りた優衣は、苦笑いでは無く、本当に苦いモノ噛んだような顔で愚痴をこぼす。

「なんてーの。ISに軌跡シリーズまで混ざってんのはいいよ。けど、こっちの世界に主人公来ちゃったりしてさ、ホントにもうどうなってんだって。てかマジなんなの? カオスすぎて笑えねーし!」

 その声に一夏は振り返って宥めようとするが、しかし優衣は納得せず、現状の混沌さから声を荒げた後、若干落ち込むのであった。

「まあまあ、落ち着いて優衣。なんか、僕と姉さんで今更な気がしてるから、それ」

「……。おーらいまいしすたー。もちついた……なんて言えるかーっ! あうぅ、マジどうなってんだよ、これ」

 そんな優衣に、一夏はかける言葉を見つけられず、 

「だよねー」

 と、一言だけ呟くのだった。

 そこへ管制室にいた束と樹が駆け寄り、全員の安否を確認する。

「……いっくん! ゆいちゃん! さやちゃんとあこちゃんとすずちゃんも、大丈夫!?」

「お前達、大丈夫か!」

 不安の表情を見せる束と樹に対して、亜子も、さや姉こと沙耶香も、すず姉こと涼香も無事と答え。

「あたしは、なんともないわ」

「私も大丈夫ですよー」

「あたしもー」

 一夏と優衣も同じく答えつつ、優衣は一夏に若干のからかいを含めた声音で問いかける。

「僕も大丈夫だよ」

「私も平気ー! それで一夏。この子達って、知り合い?」

 優衣の問いかけに、からかわれているとわかりつつ素直に答えれば、優衣から更なるからかいの言葉が出てくる。

「うん。向こうの世界のクラスメートと、ライバル?」

「あー。ああ、この人が一夏の王子君かぁ」

 優衣の発した王子君という一言に過剰に反応する一夏だったが、優衣は別の知識として彼のことを知ってることを思い出し、やや拗ねた口調で切り返す。

「王子、違う。……強ち違わないとも言い切れないけど。ていうか、経緯知ってるくせによく言うよ」

 優衣も、一夏の言う通り、落ちてきた彼らの正体を知識として知っている。知っているが、会ったことも見たことも無いのだ。一夏もそのことはわかっている。

「いやだって、一応、彼とは初対面だしさ」

「……そうだよね」

 そんな中、漸く周囲に気を配り始めた彼らの内、赤い髪に眼鏡をかけた女性が最初に声を上げ、一夏と束を見て、彼女が知る二人の名前を口にした。

「……ここは、どこでなのでしょうか。ステラちゃんとタリサさんが居るようにも見えるんですが」

 しかし彼女は彼らの中で一番上に居たため、彼女の下に居た灰色の髪の少女が呻き、女性……エマに退くように促せば、エマは直ぐに退くが、今度は猫の尻尾を踏みつけてしまい、悲鳴が上がる。

「痛た……。エマ、退いて。重い」

「ひゃぁっ! ご、ごめんなさいフィーちゃん」

「みぎゃぁっ!」

 その悲鳴にまた一度飛び退き、猫……セリーヌに謝るエマだが、猫は言葉を発してしまい、慌てて猫の振りをする。

 この場に居る者全員、それを温かい眼で見ている。すでにこの猫、セリーヌが人の言葉を話せるのはわかっているからだ。

「せせ、セリーヌ! ごめんなさいセリーヌ」

「べつ……みゃあぁ」

 フィーもそれには気付いていて、一度一夏と束に目を向けた後、唯一の青年に問いかける。

「……今更、もうばれてるっぽいけどね。ステラとタリサも居るし。ま、わたしは平気だよ。それよりリィン」

「ああ。なあステラ。ここがどこなのかわからない。教えて貰えないか?」

 すると青年、リィンは、フィーの問いかけをそのままにステラ……一夏の方へと問いかけてくる。

 それに、ごまかしも無く素直に答える一夏。

「ここは僕が元居た世界だよ、リィン」

 そんな一夏の答えに黙ってしまうリィンと、無表情に問いかけるフィー。そして悲鳴を上げておろおろするエマ。三者三様であった。

「……任務、失敗?」

「ぇええっ! そそ、それじゃあ、ど、どうしましょう、リィンさん……」

 そしてリィン自身、既に状況だけを把握しつつ、理解が及んでいないため、エマの狼狽えた様をなだめることしか出来ずにいる。

「あー、そうだろうな。うーん、どうするかなあ。ステラが居るとしても、ここがどこかすらもわからないんだよな」

 と、当事者達が混乱してる中、樹は束に対してデータの有無を問いかけ、束は当然の様に、あらゆるデータを取ってると答える。

「束。こいつ達が現れた瞬間の観測データは残ってるか?」

「空間、波動、粒子、量子、重力、その他諸々。全部、試験開始二時間前から今も記録中だよ」

 そのことを確認した樹は、リィンに対して素性を示すように促す

「そいつは重畳。それで、君達はどこの誰で、直前まで何をしていたんだい?」

 樹の問いには、まずフィーが、作戦概要を示すように詳細を説明し、任務の失敗を確認する。

「状況確認。オルディス南部の古代遺跡を調査中。遺跡最深部にあった端末室と思われる部屋から不明の場所へ転位したと推測。オルディス管区司令部との通信途絶。導力波通信も全回線で反応無し。リィン。作戦失敗。帰還も不可能、かな」

 エマがその内容に付け足すように、黒い渦という言葉を発すると、リィンは現状を受け入れるように呟いた。

「あの黒い渦に飲み込まれたのが原因でしょうか? ステラちゃんとタリサさんが帰還した時の渦にそっくりでしたし」

「まあ、だよな。ステラがそこに居るわけだし。というか、俺達がステラのところに来た、の方が正しいんだよな、きっと」

 リィンの呟きに答えるように一夏が歓迎の言葉をリィン達へとかける。

「まあ、そうだね。ようこそ地球へ、異世界の英雄達」

 その一言に、リィンは僅かに笑い、軍籍と所属を明かし、エマ、フィーもそれに続けて明かす。そして。

「くく……。ああ、そういうことか。ありがたい。俺はリィン・シュバルツァー中尉。エレボニア帝国軍第一師団麾下特務隊に所属している」

「エマ・ミルスティンと申します。特務隊の隊員ではありませんが、今回の任務にはオブザーバーとして同行していました」

「フィー・クラウゼル。わたしも特務隊所属じゃないけど、リィンとエマの護衛。で、セリーヌ」

 しゃべる猫、セリーヌも人の言葉で自己紹介をし、なぜわかったのかと呟けば、亜子がそれに答える。

「……セリーヌよ。なんで気付いたのかしら」

「最初に悲鳴が四人分聞こえたからだね。落ちたのは三人と一匹だったのに」

 聞いた彼らの身分に、樹はため息を漏らしつつ呻き、一夏がそれに要らぬ付け足しをした後に、今後をどうするのか訪ねる。

「しかし、軍人とそれに近い者達か」

「プラス不可思議生物ネコ擬き一匹だよ、お父さん。で、どうする?」

 既に正体を把握した樹は一夏に問いかければ、直ぐに答えが帰ってくる。

「どうもなにも、こいつ達は別の世界出身者なんだろう? お前の知り合いみたいだしな」

「うん。僕の元クラスメート達だよ。それに優衣も知識で知ってる」

 そこで今後の展開を固めると、樹はリィン達に対して自己紹介を始め、束達もそれに続く。

「そうかそうか。そんじゃまあ、なら暫くはウチで匿うしかないな。それよりも俺達の事だ。俺は緒方樹。この施設の責任者で、この機械、ISの開発主任だ」

「リィン君達は知ってると思うけど、私は緒方タリサ・バレスタインだよ。今はいつにいの義理の娘で、この施設の管理責任者兼、ISの設計主任だよ」

「改めて、緒方ステラ・バレスタイン。今まで通りステラでいいよ。今はここの専属操縦者やってる」

「私はステラの妹の優衣。同じく専属操縦者です」

 緒方家四人が終わると、居合わせた専従パイロットの三人も自己紹介をする。

「私の名前は神谷亜子です。気軽に亜子ってよんでください。ステラ姉達と違って、専従のテストパイロットをしてます」

「あたしは五島涼香です。すずかか、すずって呼んでね。亜子と同じく専従テストパイロットよ」

「神塚沙耶香。沙耶香でもさやでもサーヤでもいいわ。あたしも専従テストパイロットで、ステラ達とは同い年で親友よ」

 そしてリィン達も改めて、ただのリィンとして自己紹介し、立場を固めていく。

「改めて。リィン・シュバルツァーだ。リィンでいい。身分や立場も、ここでは意味が無いだろうしな」

「エマ・ミルスティンです。エマと呼んでください」

「フィー・クラウゼル。フィーでいいよ。で、駄ネコ」

「駄ネコいうな……。まあ、改めてセリーヌよ。その、エマのペットって事でいいわ」

 全員の紹介が終わったところで、今後の為に急遽の予定変更を宣言し、実行する樹と束。

「……わかった。ありがとう。とりあえず今日の稼働試験は中止だ。束、会議室を押さえておいてくれ」

「うん。もう第二を押さえといたよ。リィン君、エマちゃん、フィーちゃんにセリーヌちゃんは私に付いてきて。いっくん達は着替えてから第二会議室に。さやちゃんたちには後で報告するから、今日の分のレポート書いたら上がっちゃっていいよ」

 束の命令に合わせて涼香と沙耶香、亜子の三人は直ぐにアリーナを出て行く。

「りょうかーい」

「わかったわ」

 アリーナの中に残った一夏は、早速リィンに任務内容を問いただす。

「で、オルディスで任務って?」

 すると、やや言い辛そうにしつつ、リィンとエマが状況を説明する。

「ちょっと厄介事をな。ルーファスさんからの勅命で、未踏破の暗黒時代の遺跡を調査する任務を受けてたんだよ」

「でも、深部の端末室に着いたら、急に真っ黒な渦が目の前に出来て、逃げる間もなく飲み込まれちゃったんです」

 それでおおよその事情を把握した一夏は、他のことは後回しにして、樹に今後のことを聞くことにした。

「あー、うん。大体わかった。まあまあ、僕が居なくなってからの事は後で聞くとして。ねえ父さん、どうする?」

「彼らは一夏の元クラスメートなんだろ? なら、さっきも言ったとおり、心配するな」

 そんな一夏の頭を、樹は荒く撫でる。その手を取り、一夏は樹に向けて微笑めば、樹もそれに軽く返す。

「うん。わかったよ、父さん」

「気にするな」

 

 そうして、普段ではあり得ないほど早い時間に、アリーナから人が居なくなった。




ここで一夏の初めてを奪った人とライバル達の登場になります。ライバルといってもまあ、当人達は当事者のリィンも含めて随分平和な感じで和気藹々といった感じになりますが。
元々このISApocryphaは、優衣がメインヒロインの一夏x優衣+ヒロインズ+αなハーレムモノ二次創作を下敷きにして設定を変えて書き始めたものです。思い付いた当時閃の軌跡をプレイしていて、あれ? 一夏とリィンって、中の人同じだよなぁ、という所に元々書いていたISx艦これ二次のSSを改変して、現在のAporyphaの大本になりました。
なお、リィン達が地球に来る際の現象は、一夏と束がエレボニアから帰ってきたのと同じモノです。が、四人以外のキャラがレギュラーキャラとしてゼムリア側から地球に来ることはありません。

そういえば、プレスリリースではありますが閃の軌跡Ⅲの開発が発表されました。が、この小説においてその設定は余り反映されないと思います。あくまでIS十巻までと閃の軌跡Ⅱのクロスオーバーですので。すでにラストまで、原作ISを意図的に無視した形で作ってしまってますから。

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