インフィニット・ストラトス Apocrypha   作:茜。

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大変長らくお待たせして申し訳ありません。
IS-Apocrypha最新話、漸く投稿出来ます。

内容は……あると思いたい。
ブロック決勝と準決勝の二戦です。


激突する強者達

 学年別タッグマッチトーナメント二日目。この日行われるのはブロック別最終戦である第四回戦。決勝戦進出を賭けたブロック覇者同士による準決勝。そして、一学期の学年覇者を決める決勝戦。合計七試合のみ。しかしこれら七試合は前日以上の激戦が予想され、進出者も当然の如く猛者のみ。

 本日の第一試合となる第一ブロックの第四回戦は、緒方ステラ=一夏とラウラ・ボーデヴィヒの、今年度一年最強の一角と称されるペア。前日の試合では蹂躙劇を魅せた最凶のペアでもある。そして対戦相手は、鉄壁の防御で一切の攻撃を寄せ付けず、砲撃をもって屠ってきた動く要塞、月岡重工専属操縦者エマ・ミルスティンと、訓練機とは言え大渦巻きを意味するメイルシュトロームの名に負けない高速高機動を持って戦場を攪乱し、一気呵成に対戦相手を切り刻む文字通りの戦闘機、カナダ代表候補生イレーナ・シャンティ。前日の試合で鉄壁の機動要塞と名付けられ最強候補の一角に躍り出たペアである。

 

 緋鋼、シュバルツェア・レーゲン共に標準装備に再換装されているが、その実エマの鉄壁の防御、特に強化された蒼鋼改を破りきる装備を持っていない。また両機共に全距離仕様のため、レナのメイルシュトロームに追随できる速力も持たない。それでも、一夏とラウラには焦りも不安も無い。なぜなら、彼女達はただ、エマとレナを踏み潰して行くだけだからだ。

 

 アリーナの中央で対峙する緋鋼()シュバルツェア・レーゲン()に、ゾディアック()メイルシュトローム()

 双方無言。交わす言葉など無いと、ただ静かに試合開始の合図を待つ。

「負けないから」

「こっちもね」

 カウントが始まると僅かに漏れたレナの呟きに、一夏が返す。浮かぶのは威嚇する様な笑み。

「叩き切る!」

「切り裂きます!」

 試合開始のブザーが鳴ると同時、飛び出したのは緋と青。一夏は右手に透徹、左手に烈空を呼び出し、両手にBAE純正オプションの電磁振動剣(MaserVibrationSword)《カレドヴルフ》を構えるレナを迎え撃つ。透徹と烈空も仕組みは違えど、その刀身部は振動剣を採用している。打ち合うには十全。ほぼ最高速度で交差し、互いの剣を交える。原理は異なれど共に高周波による甲高く耳障りな音を立てる二種の振動剣は、二人が交差した瞬間にその音が止み、やや遅れて大質量の金属が擦れ合う不快な音が二度鳴り響き、盛大に火花が舞い散る。第一打は効果無し。振動剣同士が引き起こした共鳴音は徐々に小さくなり、また高周波音が目立ち始める中、一夏とレナは互いに眼下で砲火を交えるラウラとエマを見下ろしながらカレドヴルフと烈空を向け合ったまま佇む。僅かな停滞。しかし間髪入れず、互いの剣で互いを弾き、持ち替えた実弾銃を撃ち放ちながらアリーナの高空を滑る様に回るサークルロンドから再度交差し、バレルロール、スプリットS、シザーズと、様々な空戦機動をもって互いの優位を巡って飛び回りながら行われる激しい格闘戦。第二ラウンドは、レーダーとミサイル技術の発達によりかつての大戦以降廃れてしまった、高機動下での純然たる機動格闘戦(ドッグファイト)

「やっぱり当たってくれないですね」

「とーぜん! そっちこそよく動くよ、その機体でさ」

 本来高機動型ではないメイルシュトロームで、高機動仕様のラファールをも凌駕する繊細な機動をもって緋鋼の弾幕を避け、剣撃を交えるレナに、流石の一夏も舌を巻く。

「訓練、してまひゅぐっ!」

 そんな一夏とレナが交わす剣林弾雨の如く銃撃と剣撃の応酬。舞い散る火の粉に吹き荒れる銃弾。しかし一夏もレナも笑顔を浮かべたまま。だがこの試合はタッグ戦。一夏との戦いの最中に出来た、レナの一瞬の思考の隙を突いた砲弾が彼女を()()から穿ち、炸裂した砲弾の爆発が彼女をアリーナの上空へと打ち上げる。ラウラが放った炸裂弾による強襲。

「……ふふ、ごめんねレナ。楽しかったけど選手交代、てね」

 同じタイミングで一夏は、瞬時に展開した円剣《瞬閃》を()()に投擲し、ゾディアックの主砲である二基の《イセリアル・バスター》の内一基を三つに切断。そのままレナに向けて急上昇するラウラとすれ違う様に急降下し、砲火を放ってくる残る一基のイセリアル・バスターに振動爪を展開した緋鋼で斬り付け、その砲身を切り裂く。

「っつ……。流石、ですねステラちゃん。ですがエネルギー充填済みです。油断大敵、ですよ?」

「は? あ、やばっ!」

 だが二基の主砲を失ってなお諦めた様子を見せないエマは、反面、相手の武装を奪いながらもなぜか焦る一夏を見つめ、ただにこりと嗤う。そして蒼鋼を手放すとそのまま後退しようと後退りした一夏の左腕を、展開されたままの緋鋼の基部ごと掴み、左のマニピュレータを開いて、装甲に覆われていない一夏の腹部に添える。

「ステラちゃんが宣言した通り、私達はここで敗退します。二人の覚悟も、技量も、どちらも良く知っていますから。ですが、ただでは負けてあげませんから。ね?」

「ね? ってそんな可愛く言ってるけど、だからってそれは無いでしょエマぁ!? ぐぶぅっ!」

 左腕を捕まれた上、装甲の一部を展開したゾディアックの両脚部から伸びる隠し腕で脚部を拘束されて身動きが取れない一夏に、放電を始めたゾディアックの左マニピュレータに内蔵された収束器が、その身に蓄えた圧縮粒子を解き放つ。ゾディアック唯一の近接装備にして、月岡製近接兵装の中で最高の出力を誇る近接用圧縮粒子塊投射器《オルフェン》が、初めて公式の場でその暴威を振るう。

 オルフェンが放たれた瞬間、アリーナに居た生徒や観客、管制官、教員に、上空で火線を交えていたレナとラウラが見たその光景は、一瞬で膨れ上がった赤い光に飲み込まれる一夏とエマ。

 二人を飲み込んだ赤い光は次の一瞬で赤い爆炎へと変わり、緋色の装甲がやや煤けた緋鋼と、左腕部を始め正面装甲ほぼ全てに傷を付けたゾディアックがその爆炎からまろび出て来る。

「……けほっ! たく、叢雲三基生け贄にしてもSE半分以上削られるとかコワイし相変わらずえげつない。ていうかなんでこんな高火力なオルフェンが規制されないのか意味わかんないし!」

「こほっ……。まあ、あれです。粒子の収束と圧縮に時間がかかるのに射程距離がたった四十センチしか有りませんし、こうして一度撃っただけで腕部装甲が収束器ごと壊れちゃう上に、粒子の拡散爆発で機体自身にもかなりのダメージを負ってしまう自爆装備ですから、ねえ?」

 爆炎から逃れ、このオルフェンの一撃でゾディアックはSEがほぼ底を尽き、残された固定型の射撃装備や凍牙もオルフェンの発射と爆発の影響で全て不調となっている。オルフェンを使い一夏を仕留めきれなかった時点ですでにエマに勝機は無い。一夏の戦いに対する感が半歩上回り、咄嗟とは言え叢雲で防御できた事が勝機となり、エマはここでリタイアを宣言する。

「これでゾディアックの固定装備も凍牙も全て不調になってしまいまして、私にはもう攻撃手段が無いのでリザインします。後はがんばってくださいね、レナちゃん」

「えー!? わ、私一人でステラとボーデヴィヒさん相手とか無理だよエマー! ホントむーりー!」

 そんなエマの真っ黒い笑顔を見て表情を引き攣らせるレナは、泣き声を上げならもラウラに向けてマシンガンとショットガンで弾幕を張り、その真横を通り抜けてアリーナのバリアを背にする。

「容赦ないなーエマ。でも手加減出来ないからね。レナ、覚悟だよ!」

「くくっ。これも勝負というものだよシャンティ。運が悪かったと思って諦めてくれ」

 前後からの挟撃は防げる位置取りをしたものの、手元に残るはカレドヴルフ二本とショットガン二丁とライフルに斬弾僅かのマシンガン各一丁のみ。それでも果敢にラウラに飛びかかりながら、一夏に対して牽制で弾幕を張る。

「むっかつく……。確かに無茶だけど、でも、無理じゃないし! どっちか一人でも道連れにしてやるんだからぁ!」

 我武者羅と言うのがピッタリな、バレルロールをかけたレナの突撃にラウラもAICを行使しきれず、擦れ違い様に斬り付けられたレールカノンは半ばで両断され、ラウラは学園入学以来二本目のレールカノンを喪失。更に突撃の勢いを止めないレナがラウラの懐深くへ潜り込み、バレルロールの回転力を乗せたスレッジハンマーの如く強烈な蹴り落としによって地面に叩き付けられレーゲンは大ダメージを負う。しかしレナの奮闘もそこまで。ラウラの即座の戦線復帰は叶わないものの、フリーとなった一夏が横合いから手甲(ハンマー)モードにした緋鋼をレナに振り落とし、先のラウラ同様にレナを地面に叩き付ける。落ちた先は丁度ラウラの真横。そして、ここまでの蓄積と落下によるダメージでメイルシュトロームはSEを使い果たし機能停止して試合は終了。僅差ではあるが一夏とラウラの勝利となった。

「……むぅ、油断した。やはり代表候補生、侮れんな」

「ただじゃ負けないって言ったでしょ。ボーデヴィヒさんを仕留めきれなかったのは悔しいけどね」

「ふん。このザマでは仕留められたも同然だよシャンティ……いや、イレーナ。戦ってくれてありがとう」

「こちらこそありがとね、ラウラ」

 ラウラとレナ双方ISを解除して座り込み悔しげな表情を浮かべながらも、互いの健闘に拳をぶつけ合う。そこに一夏とエマが舞い降りる。

「そんじゃ、二人が仲良くなったところで帰ろっか。エマはレナをお願いねー」

「わかってますよ」

 一夏の緋鋼とエマのゾディアック、それぞれに抱えられてデッキに戻るラウラとレナ。トーナメント二日目の初戦は一夏・ラウラペアの勝利で終了した。

 

 続く第二試合は第二ブロック決勝となる凰鈴音とセシリア・オルコットの代表候補生ペアと、訓練機ながら他を圧倒して勝ち進んできた武術部所属の相川清香と四十院神楽のペア。共に近中距離と中遠距離のバランスが取れた組み合わせ同士とは言え、やはり搭乗時間と経験の差から鈴・セシリアペアの勝利となり、準決勝は予想通りの一夏・ラウラペアVS鈴・セシリアペアとなった。

 続けて第三ブロック、第四ブロックの決勝が行われ、そちらの準決勝はリィン・シャルペアVS簪・本音ペアの戦いと決まった。

 

 そして午後の休憩とアリーナ整備を経て準決勝第一試合。

 一夏の緋鋼とラウラのシュバルツェア・レーゲン、そして鈴の甲龍とセシリアのブルー・ティアーズが並び立つ。過日の因縁の戦い、その再戦とも言えるラウラと鈴、セシリアの三人。だが三人共に、試合に向けてそんな下らない私怨は既に犬に喰わせてある。ここはタッグマッチトーナメント、その準決勝。互いのペア同士、死力を尽くし、頂点を目指す戦いの場。

「ここまで来れば語る事など無い。そうだろう、凰、オルコット?」

「そうですわね。今はただ、白黒付ける、ということになりますわね」

「お互いグダグダといちゃもん付け合う位なら、どっちが勝つか、さっさと決めましょ」

 そうして、四機のISはそれぞれの装備を展開。そしてカウントはゼロへ。試合開始のブザーが鳴ると同時、前衛担当となる一夏と鈴が透徹と双天牙月をぶつけあい、そのまま旋回しながら上昇。後衛となるラウラとセシリアもそれぞれレールカノンとリボルヴァーカノン、そしてブルー・ティアーズとスターライトを用い、高度を上げながらパートナーの支援と攪乱射撃を行う。アリーナ上空で乱れ舞うレーザーと砲弾の雨。その豪雨の中で付かず離れずの剣舞を繰り広げる一夏と鈴の得物は、展開した緋鋼と烈空、そして分離して二刀となった双天牙月。更に剣劇と同時に交わされる龍咆と凍牙による超近接射撃戦。

 一夏とラウラ。やや歪ながら共に全距離対応となる二人は随時ポジションを入れ替え、更にフェイントとして鈴を抜きさり後衛のセシリアまで接近するという荒技も見せるが、当のセシリアもただで懐をがら空きにするわけも無く、ブルー・ティアーズでラウラを狙いながら、インターセプター(ナイフ)スターライト(レーザーライフル)を用いた一刀一銃でのガンカタ擬きで一夏の猛攻を凌ぐという、こちらもまた荒技を見せつけてくる。

「……本当、ステラさんのやり口は捌き辛い、ですわ!」

「そっちこそインターセプターで裁きながら、スターライトを鈍器代わりに殴りつけて来てるくせに何言ってんだか!」

 そして鈴とラウラは、長距離砲を抱えるラウラのレーゲンが鈴の甲龍に翻弄されると思いきや、その長大な砲身が生み出す慣性を活かした繊細な機動で鈴の斬撃を避けつつリボルヴァーカノンとプラズマブレードで反撃。機体重量と機動性能の差を慣性の応用と技量で縮め、見事な近接戦を演じていた。

「あんた、そんな重そうな見かけのくせにそんなに身軽な動きするとかズルいわよね!」

「レーゲンは元々そういう機体だからな。それに、そちらこそAICを使うタイミングをくれないんだ、お相子だろ?」

「あったりまえでしょ! 一番の長所を一番先に潰すに決まってるわ!」

 タッグマッチとは斯くあるべき。ラウラが鈴の斬撃を避けながらセシリアを砲撃すれば、セシリアもそれを避けながら一夏に斬りかかり、ラウラに向けてブルー・ティアーズを掃射。レーザーの雨を予期したラウラが鈴をその射線に誘導するも、鈴は龍咆を使いレーザーの射線をゆがめてラウラに向かわせながら、更に連射する龍咆で一夏に飽和射撃を行うも、それは凍牙によって浮遊盾となった叢雲で防がれ、逸らされ、一部が独自の機動で遊弋しているブルー・ティアーズの一基に直撃し、その機能を奪い去る。

 一進一退。しかし激しい攻防の中で四機のSEは次第に、そして確実に減少している。

「そろそろ決着を付けないと、だね、セシリア。もうそろそろリザインしてもいいんだよー?」

「ええ。ティアーズはミサイルタイプまで含めて()()が撃墜され、残されたのはスターライトとインターセプターに二基のティアーズのみ。入学したての頃でしたらリザインしましたが……今は、お断りですわ!」

 ラウラと鈴は互いを釘付けにし、飽くまでも一夏とセシリアの一対一を作り出してくれる。その確信が二人にはあり、事実その通りにラウラ達が叫ぶ。

「さっさと決着を付けろステラ! このちんちくりんは抑えておいてやる!」

「ちょっと、ちんちくりんってあんたもあたしも大して変わんないでしょうが! ていうかセシリアはさっさとステラぶっ飛ばしちゃいなさいよ! そんであたしを助けろ!」

 双天牙月とプラズマブレードで鍔迫り合いを演じながらの軽口に、セシリアは思わず吹き出す。だが真剣さと集中力はそれまで以上となる。

「ぷっ……。ふふっ、鈴さんは本当にお茶目さんですわ。ですがそれも当然ですわね。ですのでステラさん。尋常の勝負、わたくしとの死合。受けていただけますね」

「勿論。その死合、受けて立つよ。リィン達との決戦の前座。セシリアと鈴如きを超えられなくて、何が全てを踏み潰して行く、だからね。……覚悟はいいよな」

 対する一夏もまた、殺意を漲らせ、次の一撃は必殺の意思を持って相対する。そんな、物理的に見える様にも感じる一夏の殺意に、セシリアは一瞬だけ目を見張るも、普段の対人訓練でも似た様なものだと切り換え、右半身となってただでも長大なスターライトを前に押し出し、左は腰だめに構えたインターセプター。そして二基のティアーズは意思を持っているかの様に一夏を射線に捕らえながら絶えず飛び回っている。対する一夏は緋鋼を振動爪形態(VNモード)にし、右の烈空と共にだらりと下げた無形の構えで迎え撃つ。

「くふふ。ありがとうございますステラさん。しかし本当に心地のよい殺意と殺気ですわね。以前でしたら萎縮しているのでしょうが、今ではこの空気、とても気分が昂揚します」

「……そのセリフ、お前はどこの戦艦加賀(バトルジャンキー)だよ、たく。鎧袖一触。機関全開、全砲放て、てか? 本当に変わったよねセシリア」

「勿論例のゲーム(艦これ)ですわ。我が祖国で生まれたオールド・レディ(ウォースパイト)紅茶好き(金剛)その妹艦(比叡)のお三方も好みですが、今は彼女(加賀さん)がわたくしの一番のお気に入りですのよ」

 戦艦加賀。第一機動艦隊旗艦として参加したミッドウェイの戦いでは、参加艦艇全てを置き去りにして敵主力艦群(米機動艦隊)に単艦突撃し、三連装五基十五門の主砲を初めとする全ての搭載火器を敵艦群内で乱れ撃ち。中破損傷を負いながらも、最終的に戦艦一隻(アラバマ)空母二隻(ワスプとオリスカニー)を含む大小十一隻もの艦船を一度の海戦に於いて単艦で沈めた事から、第二次世界大戦切っての戦闘狂い(命知らず)達が乗り込んでいた艦と言われる。ちなみに戦闘詳報と戦後の検証で、この時の加賀はミッドウェイで沈んだ米艦船の三分の一近くを単艦で沈めた事になるという、まさに戦闘狂。

 なお、セシリアのお気に入りがまさかの戦闘狂艦というのは、実は普段行われている武術部やIS訓練で扱きすぎたが故なのだが、一夏はそこまで考えが及んでいない……。

「前は控えめな航空戦艦(扶桑)空母(蒼鶴)が好きとか言ってたくせに、今じゃ完全真逆な上に性格そのものまで加賀さんそっくりになりやがって。けど、それならこの一撃で終わらせるわよ。ただ目標を沈めなさい! てね」

「そこは自分でも驚いていますわ。ですが、今はそれよりも……伸るか反るか、ですわ。ええ、ええ。例えこの身が穿たれ様とも、生き足掻いてあなたを沈めるわ!」

 一気呵成。スターライトとティアーズで弾幕を張りつつスラスターで一夏に肉薄するセシリアは最後に一振り、間合いから離れているにも関わらずインターセプターを振り切った!

「それはこっちも同じだ! それに振るタイミ……って、ちょぉっ! セシィ、マジかこれ!?」

「くふっ。本邦初公開。あなた方の技、どうにか盗ませていただきましたわ。まだまだ未完成ですが、それでもお覚悟を、ステラさん」

 だが振り切られたインターセプターの刃は、その実体は届かずとも遠く離れ、まだ下げられたままの烈空を弾き飛ばす。いつかの一夏に吹き飛ばされた箒の如く。あの日、一夏と優衣、フィーに教えを請うて以来、セシリアが幾百幾千と素振りと型を繰り返したナイフ戦技、ここに極まれり。まだ拙く、飛距離も長くはない物の、音の速さを超え、斬撃を跳ばすに至ったのである。

「……マジ、驚いたわ。流石努力の人だねセシィ。なら、これで行こうか。さあ、全機、準備完了ね。行きなさい!」

 そんなセシリアに、一夏は弾かれた烈空と展開していた透徹を格納し、全ての凍牙を周囲に浮かせ、待機させた。ブルー・ティアーズとスターライトにインターセプターによる砲撃に対し、反撃はまだかと発艦を待ちわびる艦載機の如く。そして凍牙が一斉に飛び出すと、レーザーの弾幕を避けながらセシリアに飛びかかり、濃密なエネルギー弾の雨を浴びせ始める。

「……ぶっ! あのセリフ。セシリアが加賀ならステラは瑞鶴ってか。ぶっちゃけどっちも戦闘狂じゃないのよ」

「そうなのか? 戦艦と空母にその様な性格が? いや、戦歴などからそう比喩されているやも知れんが……」

 その様子を見ていた事情を知る鈴が思わず吹き出す。セシリアと一夏、二人のセリフと戦闘の様子がそのまま戦艦の艦砲射撃(加賀)艦載機の空襲(瑞鶴)だったからだ。だがラウラにはその内容が伝わらず、真面目に返されてしまう。実際、歴史書などで語られる両艦の戦歴と戦績は、実に好戦的だからである。

「違う違う。戦闘艦を擬人化したゲームに出てくるキャラの性格の話しよ。戦艦加賀と空母瑞鶴の擬人化キャラ、艦娘って言うんだけど、その性格がどっちも戦闘狂だから。まあ、あんたの言う通り、実際の戦歴からの比喩表現込みでの性格設定らしいけどね」

「あー……。そういうことか」

 だがこの時鈴が語ったのはゲームに出てくる加賀と瑞鶴(実在の戦闘艦)をモチーフとする艦娘の性格とそのセリフである。それを説明する鈴に、ラウラもどこか納得する。鈴の双天牙月による斬撃を避けつつ、甲龍をワイヤーブレードで雁字搦めにしながら。

 そしてセシリアと一夏の戦闘も佳境を迎える。凍牙の数は半分に減らしながらも、残った二基のブルー・ティアーズは蜂の巣にされて地に落ち、スターライトも砲身を穿たれただの鈍器に。セシリアに残されたのは接近した凍牙を斬り裂いている無傷のインターセプターのみ。そんな彼女に対して一夏は二基の凍牙を彼女の背中に、眼前には振動爪を起動した緋鋼を突き付ける。

「戦艦と空母。差し違えるまでもなく、私のアウトレンジで決まりね、と僕は瑞鶴ちゃんの決めゼリフをドヤ顔で言ってみようかなー。止めは緋鋼で、だけどさ」

「むぅ……口惜しいですわね。本当、小バエを飛ばす空母は嫌になるわね、ですわ。わたくしを加賀さんと例えましたが、あなたこそ戦闘狂な瑞鶴さんがお似合いです。このティアーズ達やスターライトをスクラップにしてくださった凍牙が、まるで艦載機のようですし」

「そこは艦砲射撃みたいにレーザー撃ちまくって斬撃飛ばしまでしてきたんだからお互い様だっての。……それで、この状況を切り抜けられるのかしら、加賀さん?」

 突き付けるは互いの得物(緋鋼とインターセプター)。交わすは軽口。最後の足掻きと穴だらけのスターライトを放り捨て、インターセプターを突き出すも、柄を掴む右手毎、一夏の眼前で彼女の右手に掴み取られ、セシリアは切れる手札全てを失い、ゲームのセリフではないが、キャラの口調を真似た一夏の煽りをうける。

「……悔しいですが打つ手を失いました。降参です、瑞鶴」

 そんな一夏の煽りに、同じく加賀になりきるセシリアが空いている左手を頭の上でヒラヒラと振り、降参を宣言する。

「なりきってるよあの二人。試合中なのになりきっちゃってるよ。やってる事が装備込みで戦艦(加賀)空母(瑞鶴)っぽいとこまでなりきりとか、あたし達はなんだっつーの」

 ゲームキャラになりきって戦闘し、終わらせた一夏とセシリアの二人に鈴は微妙に苦笑いを見せつつ、自分の状態を棚に上げて悪態を吐く。

「……そうだな。で、そういう凰は続けられるのか?」

「あたし? もちろん降参よ、降参。リザインするわ。牙月をぶった切られて龍咆は吹き飛ばされた上に、ワイヤーブレードで雁字搦めにされてAICで縫い止められたら何も出来ないもの。やっぱりあんた強いわ。決勝。がんばりなさいよ」

 その悪態にラウラも微妙な目を二人に向けつつ、鈴に戦闘続行の可否を問えば、唯一自由に動く両手首だけを器用に振り、セシリア同様に降参を宣言。決勝に進出するラウラに激励の言葉を贈ると、ラウラもそれに応える。

「うむ。だが凰も強かった。今回もレールカノンとリボルヴァーカノンが壊されてしまったからな。辛勝と言うヤツだ。だが、決勝も死力を尽くすと誓おう」

 なおラウラの状態は、機体は無事だが装備は半壊、と言ったところである。特に主砲たるレールカノンとリボルヴァーカノンは共に双天牙月により粉砕されているほど。一時は機動射砲撃戦すら行っていたラウラだが、鈴はその懐に潜り込むと両肩の長大な砲身を同時に切り裂き、基部を砕いた。これにはラウラも舌を巻き、あとはワイヤーブレードとプラズマブレードによる剣劇へと移り、最終的にプラズマブレードで双天牙月を溶断し、龍咆をユニット毎破壊。最後にワイヤーブレードで鈴を縛り上げる形で決着となったのだ。最初こそは侮りもあった。しかし全く油断出来る相手ではないと今は敬意すら見せている。

「当然よ、ラウラ」

「ふ。心得ているよ、鈴音」

 そして鈴に応援されたラウラは、普段と全く違う口調で答える。

 少々皮肉気な口調で返されたその返答に、鈴は今度こそ呆れ返った表情を見せる。毒されてるなぁ、と。

「あんたもアニオタか。どこの自分殺しの英霊(サーヴァント)よ、そのセリフ……」

 過去現在未来の英雄達を配下に、たった一つの聖杯を奪い合う戦争を描いたゲームとアニメにその派生作品群。ラウラが口にしたのはその登場人物の一人のセリフだからだ。

「勿論、贋作者(フェイカー)な赤い弓騎士(アーチャー)だよ。ステラや優衣と見ていて楽しかった物で、つい、な」

「なーんか艦これはまだみたいだけど、それでも着実に染められてってるわね、あんた。まあ、あたしも人の事言えないけどね」

 そしてラウラ自身がその人物だと認めると、溜め息と共に同類ねと呟く。

「それも悪い気がせんのは、わたしも少しは変われていると言う事だろうか」

「そうなんでしょ」

 そんな鈴の様子に、少し笑みを浮かべたラウラの呟き。それに答える鈴も、やはり笑みを浮かべて同意する。

 

 準決勝第一戦。緒方ステラ・バレスタイン&ラウラ・ボーデヴィヒ組の勝利。

 続けて行われた第二戦はリィン・シュバルツァー&シャルル・デュノア組が更識簪&布仏本音組を破り、決勝戦は最も配当が低い緒方・ボーデヴィヒ組対シュバルツァー・デュノア組となった。

 

 

 ……そして。

 

「言う事など何も無い。ただ踏み潰して押し通る!」

「受けて立とう。この緋皇で、斬り進む!」

 

 決勝戦が始まる。




漸く準決勝が終わって次回、決勝戦です。

今回はネタに走りすぎた気もします。特に準決勝。セシリアがキャラ崩壊して戦闘狂(バトルジャンキー)になるわ、艦これやらFateやらのネタが混ざるわ……てのは筆と私の思考が暴走しただけです。決してゲームを(艦これとFGO)してたわけじゃありません。ついでにプロット上では全く問題ない範囲の脱線です。
いや、結構マジで。ここ二ヶ月はゲームにも殆ど手を付けられない感じだったのでお許しを(o_ _)o

しれっとセシリアのブルー・ティアーズ。ビットが三セット九基に増設。そしてレールカノンとリボルヴァーカノンを両肩に載せてるラウラ。どっちもオリジナル設定です。

次話の投稿は一ヶ月以内を目標に仕上げ中です。
先の方も下書き含め書き進めてますので、今後もよろしくお願いします。


以下作中設定

ゲーム「艦隊これくしょん」(IS-Apocrypha世界版)
突如現れて海を荒らし、世界から海を奪い取った謎の生物、深海棲艦。
相対するは、艦娘と呼ばれる、かつての戦争で活躍した戦闘艦の魂を宿す少女達。
君は提督となって艦娘の艦隊を指揮し、世界の海を人類の手に取り戻せ!
※現実の艦これと違いスパロボ的ゲームシステムのコンシューマゲームでレーティングは12歳以上。中破絵もあるが現実の物より露出は控えめ。課金システムは無し。それ以外は大体同じ。優衣曰く、艦種が違ったり中の人の名前が違うだけで、共通する艦名の艦の姿や声は殆ど同じらしい。
 ネットワークアップデートにより艦娘、装備、改装や特殊マップの追加実装も行われる。

ゲーム「Fate/stay night」(IS-Apcrypha世界版)
どんな願いも叶える聖杯を賭けて行われる魔術師達と英霊による戦争「聖杯戦争」に巻き込まれた主人公。
彼は偶然召喚した剣騎士(セイバー)の少女とともに戦い抜けるのか。
※リリース以来十年以上に渡ってゲーム、アニメと展開するシリーズ物。オリジナルは成人向けだが後にゲームはコンシューマやマルチデバイス向け展開し、アニメ化、コミック化もされる。近年はマルチデバイス専用のアプリゲーム「Fate/Grand Order」が年齢問わず大ヒットする。
 基本的にシリーズ展開含め現実とほぼ同じで、優衣曰く中の人の名前が違ったり、史実や伝承上の性別自体が向こうとこっちで違ってたりする程度とのこと。

作中の艦これとFateシリーズの設定はこんなもんです。以後もたまーにネタで挟むと思われます。
なお、Apocrypha世界版艦これは基本的に仮想戦記設定な感じです。
例:現実/加賀型空母「加賀」 → Apocrypha世界/加賀型戦艦一番艦「加賀」

またIS-pocryphaとISカッコカリも世界線が違います。カッコカリの方は2000年前後までは現実世界とほぼ同じ歴史を辿ってる設定で書いてます。

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