インフィニット・ストラトス Apocrypha   作:茜。

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少し不調が続いていましたが書き上がりました。
内容自体はサブタイトル通りなのですが……私の趣味というか蛇足というか色々なものを詰め込んでしまったため、少々、山無し意味無し落ち無し的なお話しになってしまってるかもです(;´Д`)
しかし、この姉妹の再会は今後のストーリー展開上で必須な要素ですので、「茜。の小説はこんなもんだよな」な感じで読んでいただけると幸いです。


姉妹の再会

 ラウラが鈴達をフルボッコにして、時同じくして学年別トーナメントがタッグ制になった事と、それを知ったリィンとシャルがチームを組んだ事で引き起こされた千夏を巡るパートナー争奪戦で一年生全体が混乱の坩堝となって早三日。大体の生徒はチームを組んで申請を行ったとかで、千夏も押し寄せる女子生徒達から逃れてルームメイトである箒とチームを組んだらしい。ある意味妥当、ある意味大穴な組み合わせに学年どころか学園全体でやっぱりね、という空気に。

 仲間内だと鈴とセシリアの全距離安定コンビと、レナとエマの攻撃型要塞コンビに簪と本音の主従近距離無双コンビ、優衣と静寐の全距離万能コンビ、フィーとティナのトリックプレイコンビ。そしてリィンとシャルの鉄板安定コンビと、僕とラウラの粉砕系武装コンビ。更に武術部関係者同士の、相対的に経験値が高いペアが幾つも出来た事で食券を賭けて行われる学園公認賭け試合のオッズは、一年に関しては割とカオスな事になってるらしい。因みに千夏と箒の完全近接格闘特化コンビの倍率はさほど低くない、寧ろ一般生徒ペアより酷い倍率の超大穴枠。「期待したいけど二人とも技量と戦術が知れ渡っちゃってるから出来ないらしいのよねー」と、トーナメントの管理者で賭けの胴元でもある楯無さんが苦笑いとともに教えてくれた。千夏と箒に関しては全然間違ってないから笑えねえです、それ。

 そんなこんなでIS学園に来てもうすぐ二ヶ月。そして千冬姉を見続けてやっぱりもうすぐ二ヶ月。トーナメントに備える中でも、凄く気になってる事だからリィンの部屋で、リィンとシャルに優衣を交えて束姉と相談。

「ねえ、束姉。千冬姉にさ、僕達の事話したら、駄目かな」

『……様子を見る限りは大丈夫だと思うんだけどね。やっぱり不安はあるかな』

「そうなんだけど」

 携帯電話(マルチモバイル)のウィンドウに写る姉さんの表情は思案顔。それでも、その目は言葉と裏腹に大丈夫っていう確信に満ちてる。

『でも、わたしは大丈夫。確かに不安はある。けど、それ以上に、今のわたし達を見て、知って欲しい。ちゃんとここに居るよって、ちーちゃんに伝えたいんだ』

 僕達の事を話すっていう事は、僕と姉さんが世界を超えてゼムリアに、エレボニアに渡って、僕が女になって、束姉も姿が変わって、そして遊撃士の協力者として命懸けの戦いの場に身を置いて、リィン達と出会って最後には戦争に身を投じた上に殺し合いまでした事までを伝えるって事。勿論導力技術やアーツ(導力魔法)に、本物であり且つ地球にはない武器である僕達の得物(ディオーネ達)の事も明かすって言う事。正直、こんなラノベのような荒唐無稽な出来事……実は信じてくれる人は意外と多いのかも知れない。鈴がそうだし、お父さん達に柳韻さん達やセシリア達も信じてくれた事だから。だから……。

「俺が見てる感じだけど、大丈夫だと思うぞ。セシリア達だって平気だっただろ。それにステラ……いや、一夏も束さんも、彼女の不安を取り除いて、安心させたいんだろ?」

「僕も、見てて少し気になってたけど、一夏は織斑先生……お姉さんに隠し事してる事に不安を感じてるんじゃないかな? 僕の時みたいに」

「うん。千冬姉を安心させたい。それで、僕自身、隠し事してるってのを意識しすぎてて、ちょっと辛くなってきたから。だから言おう」

 不安はやっぱり拭いきれない。でも、リィンとシャルに言われて腹を括る。ていうか、千冬姉に知って欲しい、伝えたいって思ったのは僕自身なのに、勝手に悪い方に想像して不安がってたのがバカみたい。

「だったら話は決まりだね。束さんも、それでいいんでしょ?」

『そうだね。なら、週末にでも』

 そうして、勝手ではあるけどスケジュールをひとまずこちらで決めて、翌日、千冬姉と真耶せんせーに週末を僕達のために空けて欲しいと伝えると、保護者に会うという名目でスケジュールを空けてくれた。一種の保護者面談という形かな。

 

 そして土曜日。

 僕や優衣、それにリィンや僕達の事を知ってる鈴達は全員、前日夜から外泊届けを出した上で自宅ではなく、開発部の保養施設である第三分室に泊まって。今朝は僕だけが最寄り駅まで千冬姉と真耶せんせーを迎えに行った。海岸沿いとはいえ小高い丘の上に建ってる分室には歩きじゃ時間かかるから、すず姉に車出して貰ったけど。

「緒方姉。呼ばれて来たはいいが、ここはなんだ? この様な山奥にこんなに大きな施設。月岡重工の関連施設と言う事でいいのか?」

「はい。ここは月岡重工IS開発部の設計室第三分室です。といってもここ、実は社員用の保養施設なんですけどね。表向きは宿泊設備付きの大規模設計室と会議室って事にしてるので、他言無用でお願いします」

 時間は午前九時ちょっと前。流石に呼び出すだけ呼び出して、こんな山奥まで連れてきてるからか、流石に千冬姉が少しだけおこです。

 だから素直に施設の概要を伝えてしまうと、今度はその事で怒られました。解せぬ。

「……は? ちょっと待て緒方! 貴様はなにを考えて部外者の私達にそんな重要な事を話したりした。私と山田先生を呼び出して、貴様は一体なにを考えている」

 でもここで言える事は何もない。だから、送ってくれたすず姉にお礼を言ってから二人を分室の一部屋。会議室という名の娯楽室に案内する。

「今はまだ、何も言えません。みんな待ってるので行きましょう」

 そこは会議室とは名ばかりな、ビリヤードにダーツとバーカウンターと、欧米辺りによくありそうな場末なバー的印象の部屋に二人は唖然として、そしてその中で待ってた(遊んでた)みんなを見て何か重い物を吐き出す様に、千冬姉が深い深いため息を吐いた。

 そのみんなは……。流石にアルコールは出てないけど、ドリンク片手にスナックをつまみながらビリヤードをしてる優衣とフィーに静寐。その側で、こっちで再現して作ったブレードに興じてるリィンとエマに簪と本音。当然ドリンクとフード完備。そして壁際では右腕を吊った鈴が、利き手じゃない左手でありながら器用にもBULLにダーツを突き刺した。刺さってる本数から多分桁数を多く取ったゼロワンだろうか。スコア票に書き込んでる鈴と交替した包帯だらけのレナもBULLに命中させ、勝負はまだつかなそう。そしてカウンターに目を向けると、鈴とレナ同様に包帯だらけでスツールに座って会話してるセシリアとテレサに、僕達に気付いて三人分のドリンクを持ってカウンターから出てこっちに近付いてくるシャル。学園どころか世界でも有数の戦力が、国や企業を無視してここに集結してる状態に、千冬姉も真耶せんせーも呆れるばかり。

「……これはまた見事と言うべきか、過剰戦力とみるべきか、はたまた子供が呑気に遊びほうけているだけと言うべきか。だが緒方妹にクラウゼルとミルスティン、シュバルツァー。それに更識簪まではわかる。布仏妹と鷹月もまあ、許容範囲ではある。だが他国代表候補生のオルコットに凰とシャンティ。更には他社所属のランプレディまで居るとは。一名を除いて見知った顔……いや、違う。お前は、デュノアか」

 千冬姉の小言も、わからないではない。ぶっちゃけそれなりの大国にケンカ売って負けない戦力保有者達が、組織の垣根を越えてここに集まって遊びほうけてるんだから。

「やっぱり、デュノア君はデュノアさん、だったんですね」

 でもってシャルはまあ、夏物のマキシワンピにカーディガンを羽織ってるだけで、髪型はいつもと同じだから直ぐにバレた。この二人に隠す気ももうないけどね。

「あはは……。その、すみません」

「まあ、流石にわかりますよね、これじゃ」

 当のシャルは勿論、真耶せんせーまで苦笑い。ま、当然だよねー。

「かまわん。元より疑っては居た。それにデュノア社やフランスと欧州各国の現状を含めて相当な事情があるだろうとも思っていたからな。各国も当然動いているが、学園には特記二十一項がある。例え形骸化していると言われていようとも、デュノアが生徒として学園にいる限り三年間は間違いなく保護する。その間に片を付けろ。難しいとは思うが、それが出来れば問題ないからな」

 とはいえ、シャルの入学に関しては学園側もフランスとデュノア社を調査してたんだろう。各国政府とその情報機関に日本政府は当然、楯無さん直々に更識本体も動かしたって聞いたし。そんな中で、贔屓はしないけど生徒として受け入れると宣言する千冬姉に、シャルも素直に頭を下げた。

「わかりました。ありがとうございます」

 ともあれシャルの事は主題じゃないというのは直ぐにわかる事なので、本題に入れと千冬姉に促されるけど、まだ残り二人が来てない。

「それで緒方姉。問題はデュノアのことなんかじゃないだろ?」

「もう少し待ってて下さい。優衣、時間は?」

 なので優衣に聞けば、今移動中というか、リアルタイムで着く直前だったらしく、優衣が話し始めた瞬間にカウンター裏の通用口から残る二人、束姉と樹お父さんが入ってきた。仕事片付けて、本棟から直接来たみたいだわ。

「もうすぐ、ていうか着いたみたい」

 一般的なドアよりも小さい通用口から身を屈めて入って来たあと、お父さんが室内を見回して軽口を言いつつ全員を呼び寄せると、各自スツールを持って集まってくる。

「盛り上がってるな。まあ、待たせてしまってすまない。悪いが一度遊戯の手を止めて集まってくれ」

 適当に移動してくるみんなを尻目に、お父さんが立ち尽くしてる千冬姉と真耶せんせーを視界に入れると、束姉を控えさせて前に出て、保護者として二人に挨拶を告げる。僕の本名を入れて。

「さて。こうして直接顔を合わせるのは初めてになりますね。初めまして織斑千冬教諭、山田真耶教諭。私は月岡重工IS開発部開発室室長の緒方樹。優衣とステラ……いや、一夏の父親です」

「一夏、だと……」

 その名前を聞いて、千冬姉が目を見開いたあと、僕の方を見つめてくる。見つめられて、少しだけ頷いてから、僕が一夏だって、はっきりと言う、伝える。そうすれば千冬姉はまたも目を見開いて、でも何かを確信したみたいに目を瞑って、黙ってしまった。でも、僕だけじゃ、ないから。

「あの、今まで黙っててごめん、千冬姉。その、いろいろあってこんな姿になってるけど、その、僕が、一夏なんだ」

 そう、僕だけじゃない。僕は男から女になって、それでも今もここにいる。それに束姉もここに居るから、姉さんの背中を押して千冬姉の目の前に出す様にすれば、姉さんは少しだけむくれた顔を僕に向けて文句を言ってくる。でも待ってるって言っても数分にもならないのに。

「それとね。もう一人、紹介しないといけない人が居るんだ。タリサ姉」

「もう、待ちくたびれちゃったよ、いっくん」

 そしてお父さんが姉さんの肩に手を置きながら姉さんの今の名前を告げ、かつての名前を呼ぼうとしたところで。

「千冬さん。コイツは俺のもう一人の娘、緒方タリサ・バレスタインだ。だがもう一つの名が……」

「お前は、たばね、なんだろ」

 気付いた千冬姉は、少し惚けた表情をしつつ、それでもしっかりと、お父さんの口からその名前が出る前に、束姉を名前を呼んだ。

「せいかーい! 流石ちーちゃんだね。この間の電話は声だけだったからいいけど、ほら、束さんもこんな姿になっちゃったからね。見てもわかってもらえるかドキドキだったんだ。……ほんとに、心配かけてゴメンね、ちーちゃん」

「ああ。……いや、その、すまない。もう少しだけ待ってくれ。その、二人とも見た目は変わっていても、面影自体に変わりないとわかってる。わかってるんだが、その、突然すぎてまだ混乱しているんだ」

 千冬姉に名前を呼ばれて大喜びの束姉は、感極まった気持ちのまま、立ち尽くす千冬姉に抱きついて、嬉しそうに、でも、最後は涙声で謝った。いきなり居なくなった事、心配させてただろう事を。千冬姉の方も、僕達二人の突然のカミングアウトでかなり混乱してるみたいで、家でだらけてる時とは違う感じで、心ここにあらずな状態。

「あのぉ、なんだか物凄い事を聞いてしまった気がするんですが、いいんでしょうか」

「山田教諭。いや、あえて真耶さんと呼ばせて貰おう。入学から今日までの間に、あなたの事は一夏や優衣からよく聞いています。二人やリィン、フィー、エマが信頼している人ならば、聞いて頂いた方が問題が少ない。そう判断した上で、今回の件に巻き込ませていただいたのです」

 それは真耶せんせーも同じで、副担任というだけの、千冬姉と比べるべくもないほどに薄い関係性で聞いて良かったのかと混乱中。それにはお父さんが色々説明して、一応納得して貰った感じだけど。ぶっちゃけると、みんなと相談した時、真耶せんせーにも知っておいて貰った方がいいってなって、一緒に来て貰ったから。巻き込んだだけとも言えるけど。

 それからは色々と詳しく説明タイム。小学校に入る前からあった千夏と、その周囲からの虐め。商店街での様子。千冬姉にも内緒で柳韻さんと束姉に習ってた篠ノ乃流の武術。第二回モンドグロッソで起きた誘拐とその顛末と、その後の束姉との生活。束姉が開発した平行世界を探す機械。それの暴走で僕と束姉が跳ばされた先、エレボニア帝国。そこであった様々な事件や出会い。エレボニア帝国、延いてはゼムリア大陸にある特異技術体系である導力技術、導力機関と導力魔法。魔物や猟兵(イェーガー)狂信者(D∴G教団)との因縁と戦い。士官学院でのリィン達との出会いと、テロリスト(帝国解放戦線)と対決に貴族軍相手の内戦。隣国クロスベルとの国境紛争に、学院での怪現象の解決と、そこから地球への帰還。リィン達が地球に来た経緯。本当に様々な事を明かしていく。セシリア達に説明する時に作ったプレゼン資料をタブレットに映しつつ、ARCUSでのアーツや導力式武器での実演を交えながら。

 結果はまあ、鈴やセシリア達同様、最初は小説かアニメかと呆れを込めて突っ込まれたのは最早お約束かな、と。

導力機関(オーブメント)導力魔法(オーバルアーツ)を始めとした導力技術(オーバルシステム)に、騎神と魔導人形(オーバーマペット)。更には鬼の血脈と魔眼に騎神の因子、か。確かに緒方姉の……。いや、一夏やリィン達の力や技術はどこか異質だと思っていたが、起源となる文明や人類種としての在り方自体。そして命が賭かった実戦経験の有無という大きな違いがあったからか」

 地球の科学では再現出来ない技術の数々に、物語の中にしかないような(魔眼持ち)リィン()の存在。それに命懸けの実戦経験なんて、僕達みたいに内戦や国境紛争の真っ只中を突き抜けて来た経験でもなきゃ、地球で普通に生活してたら遭遇するわけないしね。地球にも内戦地帯や紛争地帯は多々あるけど、さ。

「物理現象としてはそんなに違いは無いんだけど、その過程に関しては全く違う。私も向こうの文化と技術に触れて、ISの別の発展方向に目処を付けられたんだよ」

 それからオーブメント関係で起きる現象自体に関しては、地球の物理現象と違うのに似てる、似てるのに違う似て非なるモノなのに同じモノって、ちょっと矛盾した感じなんだよね。物が燃える過程、水が凍る過程は同じ。木を燃やすのに使う種火が火のオーブメントか、摩擦で生まれる火花か。水を凍らせのが水のオーブメントでの冷却か、触媒で冷却するかの違い。突き詰めるとたったそれだけの違い。地球とゼムリアでの基本的な物理法則に大きな違いは無い。そしてオーバルシステムの()()は、物理的量子的な理屈に置き換えた上で月岡製のISや船舶、自動車や、冷蔵庫やら洗濯機やらに載せられてる動力部や制御系に応用されてたりする。

「現在の月岡は、その束や一夏の着想を元に商品開発を進め、一部を実際の商品として販売しているんだ」

 と言っても、導力技術の応用に関しては低燃費省電力化位らしいし、その辺は今は関係ない。それよりも束姉を左腕に抱きつかせたままの千冬姉だ。

 束姉を懐かせたまま、僕の顔をずっと見つめてくる千冬姉が、改めて確認してくる。まあ、当然だよね。性別が変わっちゃってるんだから。でも……。

「そうですか。しかし……一夏。本当に一夏なんだな」

「うん。えっと、その、もう九年も女として過ごして、意識や考え方も前と違っちゃってるから昔みたいには喋れないんだけど、えっと、あの、ただいま、千冬姉」

 そう。もう()()経った。二回の転移で大きく出来た時差は、こちらでは四年半程だけど、僕と姉さんにとっては九年になる。僕が俺だった頃の記憶はまだ残ってる。それでも、女の子として七歳からやり直しになった九年間もの時間は、色々な物を変えた。姿だけじゃなく、価値観も含めて。そうじゃなきゃ、共依存が発端とは言えリィンに身体を許すなんてしない。価値観も意識も考え方も変わってなかったらきっと、リィン()の恋人になって、抱かれようだなんて思いもしてない。だから僕は一夏だけど、千冬姉が知ってる以前の(一夏)とは少し違う。それでも僕が一夏である事に変わりはない。だから、ただいまって伝える。

「ああ。おかえり、一夏。言い訳は言わない。あの時、助けに行けなくて済まなかった。お前のSOSに気付いてやれなくて、本当に……ごめん。私が、悪かった」

「うん、わかった」

 そういって抱きつく。いまでは身長差も殆ど無いけど、それでも僕より少しだけ背が高い千冬姉の肩に頭を乗せて、抱きつく。千冬姉も、空いてる右手で、頭を緩く撫でてくれる。そして謝ってくれた。千冬姉は別に悪くないんだけどね。僕と千夏を育てるのに必死だっただけだから。でも、千冬姉のその気持ちを簡単に否定してもダメだから、ただ、わかったって、一言だけ。

「世話が焼けるんだからさ、一夏は。男でも女でも、ホント変わりないんだもの」

「鈴音は……」

 そこに鈴がやって来て一言。まあ、否定は出来ない。鈴とはお互い様だけど、世話が焼けるんだろうね、僕達の事情って。そして鈴の様子に千冬姉が疑問を持ったように名前を呼べば、鈴は全部聞き終わる前に僕に気付いてた事を話し出す。この辺は、鈴は柳韻さん達と同じだからね。

「転入したその日、教室で一目見た瞬間に直ぐ気付きましたよ。当然疑問に思ったし、間違ってたらとも思いました。でもコイツ、髪と瞳の色が違うのと、後は、女の子になってるからちょっとだけ輪郭が丸くなったなって程度で、それ以外の面影や印象に、話す時の癖とか気の使い方とか、殆ど全部行方不明になった頃と変わってないですもん。寧ろ、なんで千冬さんとアホ千夏が気付かないのか、家族なのにって、そっちの方がワケわかんないくらいでした。千夏はあんなだからってのもあるとは思いますけど」

 初日に気付かれて、話しただけで癖とか残ってるの指摘されて笑ったもんね。まあ、家族って言っても千夏に気付かれなかったのはどうでもいいんだけど。でも鈴の話を聞いて、千冬姉が苦笑いして、少し自嘲するように話し始めた。本当は気付いてたんだって。

「……ふふ。確かに、その通りだ。本当に、私は愚かだよ。正直に言うと、実技試験の時には気付いていたんだ。面影も、印象も。そして斬り結んだ剣筋も。一刀一銃のスタイルの為か、片手持ち用のアレンジが入っていたが、一夏の剣筋は確かに篠ノ乃流剣術のそれだった。あの時、私は戸惑いで上手く動けなかった。試験だと割り切ってどうにかしたが。だが、その後一夏が入学してきて、私はその担任で。心の中では気には止めても、確信が無いからと敢えて私からは触れずにいた。いや、触れられなかったんだ。怖かったんだな、違っていたらなどと余計な事ばかり考えて。本当に……。これでは三人だけの姉弟で、一夏も千夏も平等に見ますなどと大見得を切ったくせに、殆ど見ていなかったという事になってしまう。無様なものだよ」

 試験の日、試験官は千冬姉だった。どんな縁と偶然なんだって思った。でも戦ってわかったんだ。千冬姉は確かにIS競技会で二度も最強(ブリュンヒルデ)になったけど、きっと、凄く悩んでたんだろうって。まさか気付かれてたとは今聞くまで思いもしなかったけど、あの時動きが鈍いと感じたのは、使ってたのが打鉄ってだけじゃなく、戸惑いもあってなのか。

「先輩。後悔しても、もう遅いです。全部終わった事ですから。それに、わたしはまだ、今聞いた話を全部理解出来たわけじゃありません。ですが、不思議な話ではありますけど、ステラさんは先輩の弟さんである一夏君だった、というのは事実としてここにあるんです。ですから、今はあれこれ考えたり、すぐ結論を出すのではなく、今日からは姉妹としてやり直す、ということで良いんじゃないですか?」

 そんな落ち込んだ様子の千冬姉に真耶せんせーが声をかける。あくまでも第三者として、結論を出すとかじゃなく、ただ事実だけ受け止めてしまえと。なんか、いつもふわふわした真耶せんせーだけど、やっぱり大人なんだよね。ごちゃごちゃ考えてないで動け、か。ある意味暴論だけど、正論だよね。

「ああ、その、一夏。ごめんなさい。こんな駄目な姉だがその、許して、くれるか?」

 千冬姉もそれに頷いて、僕に目を合わせてまた謝ってくれた。でもね……。

「勿論っていうか、最初から怒ったり嫌ったりなんてしてないよ、千冬姉。それに、自分のこと駄目とか言っちゃ駄目。僕は姉さんのいいところいっぱい知って、尊敬してるんだから。まあでも、その、僕は女になっちゃったから、なんだろう、前よりももっと、仲良くなれるんじゃないかな。姉妹の方が、そういうの強いって言うでしょ?」

 謝ってもらうことなんてなにも無い。謝る必要なんて無い。それよりも、姉弟じゃなくて姉妹になるけど、ちゃんと、家族として居たいと。尊敬するお姉ちゃんのままでいて欲しいって。ただそれだけを伝えると、ただ強く抱きしめてくれた。

「ああ……。ああ、そうだな!」

 但し、アイツ(千夏)だけは許さない事は伝える。更生はさせたい。でも、今までの行い、やられた事を許すつもりはないから。織斑千夏という個人には人として少しでも成長して欲しい。けど、(一夏)の双子の兄としての千夏を、僕は認めたくない。許さない。絶対に。

「あー。でも、今の千夏は許すつもりも認めるつもりもないからね。今のアイツが僕の兄だなんて、思いたくないから」

「……それを否定できないのがまた、辛いな。私もここ最近のあれこれで、あれが弟だというのを拒否したくなるときがあるからな。出来た事を褒めすぎて、甘やかしすぎてしまったのだろうか」

 それに千冬姉が同意してくれた事は意外だけど、まさか姉と妹の両方に見捨てられる事になるとは、アイツは思ってないんだろうな。鈴の追撃も含めてまあ、今のままだと人間関係どんどん微妙になるね。箒も含めて。

「そこは否定したくても出来ませんよ、千冬さん。一昨年までアイツを側で見てたあたしが言うんだから、外れてはいないと思いますよ」

「その通りだな、鈴。お前にも迷惑をかけたと思う。すまない」

 尚、中二の一学期までずっと千夏と同じクラスだったらしい鈴曰く、千夏の言動は僕が居なくなる前も、後も、今もまるで変わっていないとか。でもね。

「大丈夫ですよ。あたしも一夏も、これから本人に直接返してやる積もりですから」

「容赦なし、慈悲もない、だね」

 鈴と決めてたんだ。かけられた迷惑は、慈悲も容赦もなく丸々全部返してやるって。因果応報。こっから先は千夏じゃなくて僕達のターンなんだから。

「そ、そうか。まあ、色々壊さない程度に、程々にな」

「「はーい」」

 そんな僕と鈴に、呆れたような目を向けながら、やり過ぎだけ注意されたから指を絡めて手を繋ぎながら声を揃えて返したら。

「前よりも更に仲が良くなってるな、お前達」

 また呆れられました。さーせん。でも僕と鈴は、今は同じ人を愛する恋人仲間として。

「当たり前ですよ千冬さん。あたし達」

「親友だもん。ね?」

「ねー」

 そして昔からの親友なんだから。そう、千冬姉から離れてハグしながら改めての親友宣言。千冬姉と真耶せんせー以外は慣れてるけど、二人は揃って呆れ顔。でも仕方ないじゃん。これが今の僕達のデフォなんだもん。

 けど、そんな風に抱き合ったままの鈴が意味わかんない事言い出したんですけど、それはどういう意味かな、かな?

「それにしてもさ。ちょっと思ったんだけど、今ここに居る女性陣の中で一番女子力が高いのって、一夏なんじゃない? あたしはほら、自分で言うのもなんだけど短気だし、わりとがさつだし。千冬さんと束さんはまあ、言わずもがなですよね」

「突然なに意味不明な事を言い出すかと思えば……。でも、確かに家事無能だもんね、千冬姉。束姉もがんばってはいるけど、まだまだだし」

 女子力って言っても、なにを持ってって部分はあるけど、家事能力は一つの判断基準ではあるよね。世の中女子力(物理)女子力(権力)なんて人が沢山いるけど。なお、千冬姉の女子力はかっこ身体能力チートかっことじな感じです。ブリュンヒルデ二冠は伊達じゃないのよ、みたいな。なんであんなに家事がダメなのか、ホントにわからないけど。もしかしてステータスが身体能力と戦闘力に全振りなのかな。

「……放っておけ」

「ぶー。いっくん、いじわるだよ。がんばってるのに」

 そんな当人はいじけてるけど、料理したら小火だして、掃除したら余計に汚れて、洗濯機使うだけで壊されたら、ぶっちゃけ妹の僕でも弁護は出来ない。で、束姉はね。クロエとレイアのためにもとがんばってるよ。けど、やっぱり元が大の苦手分野。姉さんの女子力はかっこチートボディ&科学力チートかっことじで出来てるから。それでも、ちょっとずつ家事が出来るようになってきてるから、がんばりも無駄じゃないけど。

「でも、クーとレーの為には、新米お母さんはもうちょっとがんばらないとじゃないですか?」

「まーねー。ホント、がんばらなくちゃ、だよねー」

 それでも鈴の評価は厳しい。姉さん自身も、ちゃんと母親になりたいから諦める気は全くないみたいで、その酷評にも全く堪えた様子はないけど。まあ、鈴も厳しく評価しながら、姉さんがやってる事自体には全然否定してない。というか僕達みんな、姉さんが不器用にでもお母さんとしてがんばってるのを見てるから、どっちかっていうと温かい目で見守ってる感じかな。でもってセシリアとテレサだけど……。

「ふふ。束さんがちゃんとがんばってお母さんしてるの、みんな知ってますから。そんで、セシリアはお嬢様育ちってのを別にしても、努力はしてても根本的に家事が苦手みたいだし、テレサさんもセシリアと同じで家事苦手って言ってましたもんね」

 一応、掃除洗濯料理と自分で出来るようになったセシリアだけど、料理に関してだけ、相変わらずよくわからないアレンジをねじ込んで来るんだよね。それが一種の楽しみになってるから悪い事じゃないけど、大外れの時は食材が勿体ないなーとか思わなくもない。注意して料理教室開いて改善しつつあるけど。

「言い返せないのが悔しいですわ……」

「事実だからねー。ていうかホントに誰かあたしに教えてよー!」

 で、同じように改善しつつあっても、セシリアと違ってまだ及第点に届かないテレサは本当に悔しそな表情を浮かべて、遂にはうがーっと吠えた。立ち上がって吠えた。吠えてるけど、教えてるじゃんさー。だんだん良くなってきてるじゃん。もう少しだから耐えてと宥めれば、涙目になりつつ頷いてスツールに座り直してくれた。なんか、手間のかかるお姉ちゃんみたい、かな。サラ姉も、一通り出来るけど上手い方じゃなかったし。最初に食堂で出会った時にサラ姉に似てるって思ったのはそんなに的外れじゃなかったかも。

「そんで簪は出来るけど、放っておくと目の前の作業にのめり込んじゃうし、本音は逆に出来ても集中が続かなくて放り出しちゃう。フィーは、出来る事がかなり偏ってる感じよね」

 次いで簪と本音にフィーは、ね。全員一応出来るんだよ。出来るには出来るんだけど……。一点集中型の簪は作業が目の前にあると他を忘れる。逆に視野が広いと言えば聞こえがいい本音は、広すぎて移りすぎてほったらかして別の作業始めたりする。本当に真逆な主従だことで。そんでもってフィーはまあ、生活環境的に仕方ないとは言え、戦場で必要なサバイバル的な家事……兵站的作業が主体だからだね。最近は洗濯と掃除だけは普通に出来るようになってきたけど。料理はエマや優衣と一緒にやらないと未だに携帯食系に偏りがち。

「わ、わたしだってちゃんと家事できるもん。……確かに色々と忘れちゃう事が多いけど」

「うにー。当たってるからなにもいえないよー」

「傭兵時代の癖がまだ残ってるからね。でも、前よりは出来るようになってるし」

 当人達もわかってるからか不満顔。それでシャル達は性格と家事能力が直結してる分、その、確かに微妙なんだ。

「シャルと静寐にエマ、真耶せんせーが家事得意なんだけど、それぞれ微妙に欠点があるのよね。シャルとエマは細かすぎて、静寐は逆に大雑把。真耶せんせーはまあ、なんていうの、自分の魅力に対する自覚が薄すぎだから」

 鈴が言う通り、シャルとエマはホントに細かくて、そこまでしなくてもって所まできっちりやろうとするんだよね。その性格故にお菓子作りは凄く上手いんだけどね。レシピに慣れるとあっと言う間にパティシエか、とか言うくらい上手になるし、お店レベルで美味しいのが出てくるし。逆に静寐は手の抜き方が上手いんだけど、どれも普通にこなしつつ、明らかに手抜きがわかるから大雑把に見える。ちょっと損な感じかな。多分、普通に主婦って言われる女性には静寐が近いと思うんだ。

「細かくて悪かったね。気になっちゃうんだよ、いろいろと」

「ですが、細かいい所まで気になるのは……いけないのでしょうか?」

「わたしも。だってそれで大丈夫なんだからいいじゃない。出来ないわけじゃないんだし」

 そして真耶せんせーはねー。うん。自分の魅力と色気に無頓着すぎ。その凶器(胸部兵装)雰囲気(癒やしオーラ)は男女関係なく落とせるはずなのに、そこに自覚がないからただの誘蛾灯状態。まあ、色気成分より癒やし成分の方が大きいからクラスの癒やし(みんなのマスコット)で済んでるけど、ね。

「魅力って、自覚って……。十歳近く年下の女の子にまで言われちゃいました……。ていうか鈴さん! それ、家事に関係ない事ですよね!?」

 ぶっちゃけ、真耶せんせーは自分の魅力と気持ちを自覚したらあっと言う間にリィンを落とせるのに、勿体ない。なお本当に本人無自覚。でも、ね。周りはそんな気持ちにだって気付けちゃうからね。見守ってます。

「聞こえませーん。そんでレナがただ一人そつなくこなすけど、それ以上に一夏って凄いのよね。昔から割と炊事洗濯家事万能だったんだけど、今や裁縫や編み物までこなすし、みんなと違って、周りに適度に合わせてくれる。そんでもってまあ、彼氏持ちだしね」

「そうなんだよね。ステラって本当にスゴイよね」

 因みにそんな真耶せんせーの抗議に鈴はわざとスルー。最後のレナは、とっても家庭的といっていいほど。夢は国家代表よりお嫁さんとか言われた方が納得出来るくらいに。多分、生まれてから丁度十五年くらいになる五年前の僕よりも出来てると思う。本当に小さい時から当たり前みたいに家事を手伝ったりしてきたんだろうな。……たださ、鈴。僕の事持ち上げすぎじゃない? 僕はほら、戸籍年齢十五歳で肉体年齢十六歳、外見年齢と精神年齢も大体同じくらいだけど、生まれてからの実年齢なら二十歳超えてるから、単純に経験してる年数の差だよ、それ。あと彼氏がいるのは絶対に関係ない。それだと鈴も同じになるし。

「……裁縫と編み物。それに彼氏、だと? まさかリィンのことか、それは!」

 千冬姉も千冬姉で、以前の僕との違いと、彼氏って言葉に過剰反応しすぎ。ていうか、この前イチャつくなら放課後にとか言ってた癖に、ここで過剰に反応しちゃうんだ。

「いや、見ればわかるじゃないですか。あれで付き合ってないとかないですよ。まあ、諸事情あって一夏だけじゃなくてあたし達の半分位は、ですけど」

「そうだよね。一夏や優衣との関係を一目見ただけでわかっちゃったもん。もとからする気なんてなかったけど、これは同室になったからってだけじゃ付け入るとか絶対無理だなって」

「残る半分だって、それぞれの事情で様子見中ってだけで、好意自体は相当だしねー」

 シャルはもう、実家と会社にフランス政府の問題が片付いたらすぐにでもって感じの距離感だし、セシリア達も国や会社の方を様子見って感じで、お互い同意したらすぐにでもって感じだからね。

「あぁ、いや、そう、薄々気付いては居たんだ。シュバルツァーは自由国籍の上に日本は複婚制度の導入を考えているようだから、各国の思惑が絡まなければ何の問題も無いしな……。だが一夏、その、裁縫とは?」

 そんな僕達の仲に千冬姉はなぜか狼狽えてる。というか、あまり現実感がないような感じというか。まあ、付き合い始めたばっかのバカップルみたいにベッタリくっつくような感じではないから、そう見なければ、僕達が付き合ってる様には見えないかもだけど。それに裁縫に関しては、ボタンの付け直しとか位は家に居た時からやってるじゃないのさ。でも、あの頃は服を作っちゃうまでは行かなかったし、疑問に思うのも仕方ないのかな。

「僕のこの服と、リィンと優衣と鈴が着てる服、僕が作ったのなんだ」

 今日僕達四人が着てる服、ガイウスの故郷、ノルド地方の伝統衣装をベースにしてます。僕もファトマさんが小さい頃に着てたのを着させて貰ってからお気に入りなんだよねー。

「……今朝から四人が着てる服見てて、見た事無いデザインだなって思ったけど、まさか手作りだったの!?」

「さっき触らせて貰ったけどその、既製品よりずっと綺麗に出来てるんだよね。縫い目とか確りしてるし。このまま商品だっていっても、誰も疑わないと思う」

 興味津々に僕とリィンの服を触りながらそう言ってくれるのはテレサと静寐。流石に全部手縫いじゃなくてミシン使ってるよ? 型紙から作ったり、簡易防具になる程度には補強したり細工して縫ったりと手はかけてるけど。

「これね。向こうでの仲間の一人の、故郷の民族衣装をモチーフにしてるんだ。ね、リィン?」

「ああ。そこで一夏が着せてもらってたその衣装が印象に強く残っててさ。俺達も別口で着て気に入ったのもあって、その話をしたら再現してみるって言いだして、ちょっとした行事で着てもあまり違和感がないデザインで作ってくれたんだ」

 違和感ないとはいってもやっぱり民族衣装だから、こっち(地球)で言うとモンゴルのデールと中国の近代型漢服の中間みたいな印象かな。生地も、ノルドのそれっぽい感じのパターンで染めて貰ったんだよね。結構お金飛んだし。

「私は一夏とお揃いって頼んだから、上着とブラウスは同じで、スカートのプリーツかあるかないかだね」

「あたしも同じくね。生地に余裕があるって言うから、甘えさせて貰ったの」

 リィンと対になる僕と優衣に鈴のは、僕がファトマさんに着せて貰ったのとほぼ同じ型で作りました。ナショナルドレスに指定されない型の民族衣装だし、普段着には出来ないけど、今日みたいな仲間内の集まりとか、ちょっとしたパーティ向けに作ったのだ。……って、出来たてほやほやで今日下ろし立てだけどな。

「驚いたな。昔から簡単な解れ直しやボタン付けなんかはして貰っていたが、今の一夏はここまでの服を作る技術を持っていたのか」

「まあほら、これはあれ。束姉のところにいってたのと、向こうでは自分の装備は自分で修繕してたからだね」

「うんうん。わたしの服も殆どいっくんに直して貰ってんだけど、いつの間にか作ってくれるようになったんだよー」

 でもって僕達を見て関心しきりの千冬姉に、慣れと習熟だよと伝える。僕達の戦い方のせいだけど、総金属製防具なんて使えないから、必然的に厚手の生地と皮に金属補強したソフトタイプの防具が主体で、生地部分や接合部の解れは自分達……というか主に僕とエマが直してたし。そもそも実家に居た時も束姉の所に転がり込んでからも、基本的に全員分僕が面倒見てたわけで。ついでに、なんで服を作るようになったかって言うと、姉さん用のロリータ風ドレスを何度も直してる内に、これ、姉さんのあのワガママボディに合わせて作った方が壊れにくいんじゃね? て所から作るようになったしね。

「そ、そうか」

 そんな裏話に千冬姉は関心顔からちょっと引き攣った顔に。呆れるとこ、だもんね、今の。真耶せんせーなんかずっと呆れっぱなしだし。

 で、鈴がなぜかまたも僕を持ち上げるけど、やっぱ女子力って言葉の意味が迷走してる気がするのは僕だけなんだろうか? というかなんで僕の事で鈴が自慢顔すんのさ。リィンなんて呆れてる……癖になんか補足入れやがった。しかも優衣を引き合いに出して。……て、あれ? その優衣の引き合いの出し方、今はマズくない?

「てわけで、炊事洗濯裁縫その他家事万能。容姿端麗、学業優秀、文武両道、気配り上手な上に彼氏持ち。これ以上の女子力持ち、あたし達の周りにどの位居ると思う?」

「……正直な話し、俺からすれば得手不得手があるという程度で、みんなにそんなに差があると思ってないんだが、敢えて言うなら優衣が近いと思うぞ。それに、そう言えば優衣も……」

 流石に気付いた優衣も慌ててリィンに飛びついて口を塞ぐけど、出ちゃった言葉はもうみんなに聞こえてるわけで。

「リィンストーップ! それ言っちゃヤダー!」

「……ちょっと優衣。どういう事よ?」

 鈴が当然の様に優衣になにがダメなのか問いかけてるけど、これ、もうバラしちゃった方が丸く収まるんじゃないかな。

「言っちゃえば? ここに居るみんななら平気だと思うよ?」

「うー……。えっとですね。僕、実は前世の記憶を持ってるんです。その、転生ってやつかな。それでその、前世の僕、男だったんです。男と言い切れるかは微妙ですけど」

 優衣がなにを心配してるのかはわかるんだけどさ。僕やリィン達みたいな例があるんだから、優衣みたいな例も受け入れてくれるんじゃないかって思うんだよね。そもそも僕が元男で現女なワケだし。元々心理的に女性だった男性が生まれ変わったら女性でしたって優衣の方が、受け側のハードル低い気がするんだよね。元男って部分は変わんないけど。

「……なな、な。え、優衣、そうなの? ていうかあたし、一夏だけじゃなくてもう一人元男に負けてるってこと!?」

 この辺の事は、転生だなんて世界転移以上に物語的な事だから、お父さん達や僕と束姉にリィン達以外は誰も知らない事。だから、鈴は引き攣った顔で優衣を指さしながらこんなことを言うわけで。優衣も小さくごめんと鈴に呟いてる。ついでに驚きすぎてもう感情が消えかかってる真耶せんせーを余所に、どうにか呆れを保ってる千冬姉が惚けたように優衣をそう表する。僕やリィン達に起こった事と比べれば、五十歩百歩とは言え多分、一番突拍子のない事例だから。

「……」

「前世、とはな。一夏の性別変化に束の容姿の変化や、一夏と束、リィン達が異世界を渡ってきている事。どれにも驚かされたが、まさか転生などと、小説のような事例がまだ一人、近くに居たとは」

 けど、そんな二人に追い打ちをかけるようにお父さんが月岡IS開発部の内情を暴露。黒翼と黒鋼型に、各種兵装に凍牙とブラスターシステムの正体が、全くのオリジナルじゃない事。

「先程、我が社の製品や黒翼に導力技術を応用しているとお伝えした。それも間違いではないのだが、実はこちらの方が重要でな。黒翼と黒鋼シリーズの機体コンセプトや、凍牙、圧縮粒子砲などの関連技術は、優衣の記憶に残っていたSFアニメに出てくる機動兵器やその武装をモチーフにしているんだ」

 これには千冬姉達だけじゃなく、凍牙と同種の独立浮遊起動兵装(ブルー・ティアーズ)を扱うセシリアも唖然として、優衣を睨み付けながら愚痴る。そりゃそうだよね。ネタが創作物だなんて、ちょっと信じられないよね。ISが台頭したせいもあってか、僕達も優衣の話でしか知らないけど、彼女が前世で見てたって言う、黒翼達のネタ元になるアニメ(ガンダムやマクロス等々)に似た物も、元々少なかったのが今や作られなくなったし。なまじ現実にISなんて機動兵器が存在するせいか、ロボット物は評判が悪いんだって。動きがどうちゃらとか、武器や弾薬がどうやらとか。正直な話、機動性やら量子化での武器弾薬周りの理不尽さならISもどっこいのはずなんだけどなぁ。所詮はフィクションでファンタジーなんだから。女権団体め……。

「そんな……。まさかの妄想兵器でしたの、あれ。凍牙はブルー・ティアーズよりも遥かに優秀で。なのに、まさか、アニメーションが元でしたとは」

「あー、うん。なんかごめん、セシリア」

 閑話休題(まあ、それはそれ)

 優衣もそんなセシリアの目線に耐えきれず視線を逸らして謝るのみ。まあ、でもね、優衣が持ってた知識だけじゃどうにもならなかったんだよね、実際は。

「そう優衣を責めないでくれセシリア君。優衣が教えてくれたとは言っても、それはアイディアだけだ。それも創作物に登場する架空の物が元であるから、確立された技術理論があるわけじゃない。教えて貰った作品上の設定としての技術概念や表現上の効果を元に、どうにか実現出来ないかと研究したものだからな、作るのは相当苦労したよ」

「だよねー。粒子の圧縮とか、浮遊機動兵装のファジー制御とか。空想上の概念から実際の稼働品として完成させられたのは本当に最近で、凍牙や村雨辺りは黒翼の発表直前にやっと……て言いたいところだけど、実際は間に合ってなくて、今も随時改良と改修をかけてるくらいだしね」

 と、ぶっちゃければ黒翼自体と専用装備の半数くらいは未完成品だったりするんだよね。例えば凍牙のファジー制御部分やエネルギー変換系、ブラスターシステムの稼働と制御全般のプログラムにアルゴリズムはまだ調整中。粒子銃(ビームガン)荷電投射銃(レールガン)系の粒子コンバータや圧縮機、供給部に加速器はほぼ使う度に要点検で、月一オーバーホール必須とかいう状態だったり。そろそろ安定の目処が立ってきたらしいけど。

「そ、そうか」

 それなりに革新的な部分が多い量産型ISである黒翼だけど、裏を明かせば実はオーソドックス且つ枯れた技術の発展系以外はまだまだ試作機、試験装備の域を出てなかったりする。他よりも安定して動かせるから量産化を発表したけど、一部装備の不安定さは各国の第三世代装備全般と共通する不安事項なんだよね。

「そうだったんだ。それで、さ、優衣。その、あんたが男だったか微妙って、どういう事?」

 と、そこで鈴が発した尤もらしい優衣への疑問。これはまあ、転生なんて現象が絡んでるから複雑に感じるけど実際は……。

「僕の前世の世界も地球で、日本に住んでたんだ。多分、平行世界ってのが近いと思うんだけど、その、こっちにもあるからその症例で説明すると、性別同一性乖離障害だったんだ。だから前世の僕は、身体は男だけど、女として生活してたの」

「なるほど。ということは、お前の場合、前世からの持ち越しがあるという事か?」

 優衣が生前住んでいた世界は、別の星と言えるゼムリアとは違って、近しくも異なる可能性の道(歴史)を進んだ同じ地球。その中の同じ日本。ただ、向こうでは男性として生まれて死んで、こっちで女性に生まれた。ただそれだけ。それで優衣本人は、向こうに居た時から心理的に女性だったから、今の方が自然、てこと。一つあるとすれば、生まれ持った身体の性能は、努力や訓練だけじゃ覆せない部分が多いってわかって、前世での身体の性能の低さを嘆いてた事かな。

「それ、言われるとは思いました。けど、それはないです。前世の僕って、今の僕と違って凄く不器用で、要領も悪くて、社会人としては底辺這いずってました。身体能力も、この身体の方がずっと高いんです。それと家事能力も、どっちかって言えば家事無能の方でしたね。女としての生活歴だって十年と少ししかなかったですから。そうだなぁ、大目に見ても、家の家事をよく手伝ってる小中学生女子と同レベルってところじゃないかな。それに女性として生きるための常識を身に付けるのも大変だったし。ね、一夏?」

「まあ、僕は優衣と少し違うとこあるけど、共通する部分で、後追いで女になってるって所で、割と苦労したかな。こう、みんなが生まれてから育つ過程で自然と身に付ける仕草とか慣習とかクセとか、後は生理的な部分とかか。意図的に変えたり身に付けたりするのって割と無茶だったもん。正直、束姉とサラ姉が居なかったら折れてたね」

 因みに身体性能にはさっき話題に出た女子力的部分も多分に含まれてるみたいで、余計に嘆いてたのを覚えてる。それよりも……。

「……ていうかさ、不毛じゃね、この話し」

「……うん。みんな、僕らの黒歴史掘り返して、楽しい?」

 なんか僕と束姉と千冬姉の再会のハズが、僕と優衣の過去暴露になってね、これ?

「ま、そうよね。ごめん一夏、優衣」

 そんな感じで、この日の集まりは、当初の予定を全部クリアして円満に終わるはずが、鈴の一言でどこか締まらない終わり方になったとさ。

 ま、僕達らしいっちゃらしいのかな?




以上、一夏と千冬(と束)の再会と、リィン達との関係、エレボニア帝国とゼムリア大陸の技術、月岡製ISの(アイディア元の)秘密の一部。そして優衣の正体(バレバレ)と、詰め込みすぎな暴露回でした。
前書き通り、決定的な事が多少書かれつつ、その場のノリで話す女子高生をエミュレートして書いたら鈴が暴走してこうなったよ、と言う感じです。鈴ェ……。
これで千冬と真耶が完全に一夏側になります。例えば福音事件とかでも……。

なお、優衣の前世はMtFの性同一性障害(GID)です。そしてIS世界でのGIDにはそれっぽい感じで架空の病名をつけてますが、そんな病名はありませんので悪しからず。あくまで世界が違えば病名も似て非なるモノになるかも、位な感じです。
……タグつけ忘れてたので、小説更新後に「TS転生」タグを付けておきます。致命的なのって多分これくらいかな?

次話で漸くタッグマッチトーナメント開催です!
一夏とラウラはどこまで蹂躙するのか。決勝戦は誰と。そしてあのシステムの行方は……。

次回投稿はなるべく早めにと考えてます。
それでは、次回もよろしくお願いします。

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