インフィニット・ストラトス Apocrypha   作:茜。

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閑話のような本編のような内容です。
ぶっちゃけ趣味だけで書いた様なお話しですが、シャルはやっぱり執事服が似合う(断言)


執事ごっこ

 衝撃の告白? から僅か二日後の土曜日。僕とリィン、優衣、シャルロットの四人は外出届けを出して一路実家へ。

 そして今、別邸のリビングに置かれたソファにはゴシックな服を身に纏った中学生位の白髪の少女、クロエとレイア。そして二人の母親にしてISの発明者であり、僕の姉でもある束姉と、ついでに優衣が座ってる。で、僕は執事服に身を包んでワゴンを押しながら、同じく執事服を身に纏って不安顔のシャルルと、そんな彼女の表情に苦笑いしてるリィンを引き連れて四人の側に行く。

「えっと、これはどういう事?」

「当面はシャルルも男の振りをして学園に居るだろ? だから、僕も付き合うから男としての振る舞いや仕草を少しでも身に付けて不自然さを無くそうって作戦。……多分」

 当然、今の状況にシャルルが素直に納得してるわけでもなく、僕でさえも疑問に思ってることを口にする。というか、ちょっと怒ってる? でも知らない。僕もこの考えは悪くないと思ってるから。

「ステラ今、多分って言ったよね。ねえ、言ったよね!」

 確証はないけど。だからシャルルもさっきより怒ってる感じになるけど……。

「いいからやるよ。ほら、リィンも同じ格好だから、僕達三人で優衣とタリサ姉とクロエにレイアの相手をして、楽しませる。まずはそこから。でいいんだよね?」

「そうそう。接客業の役割上の性差って割と大きく出るから、結構使えると思うんだ。……多分?」

 なにをするかって言うと、僕達三人で束姉達四人をおもてなし。執事喫茶かホストクラブか。一応前者だけど。そんな感じ。

 接客業と言えば、僕も鈴の両親がやってた《鈴音亭》と、帝都で住んでたアパートのオーナー、アーヴィンさんがやってた喫茶店《子猫の憩い場》位だけどまあ、優衣が言うようにウェイトレスとウェイターって、全く同じに見えて、微妙に違うんだよ。基本的には同じで、本当に微妙な差なんだけどね。

 それでまあ、優衣もその辺を前世で経験してるらしくて、八割本気。でも二割位は半ば冗談での発想だからか、最後に濁しちゃったから余計にシャルルがおこです。怖くないけど。

「今度は優衣が言ったよね。しかも今のは疑問系だったよね!?」

「ほらほら、いいからいいから」

 執事服を身に纏い、あの話し合いの夜からは三つ編みにしてる金髪を、今日は首筋で一纏めにして先端に紅いリボンを小さく結んでる。その姿は、小柄だけど十分貴公子というに相応しい姿。そしてもともと素養があったのか、ヴァネッサさん(お母さん)の教育の賜物なのか。なんだかんだ言いながらもクロエとレイアに給仕する姿はなかなか様になってる。所作の一つ一つが丁寧で、クロエもレイアもそんなシャルルを見て顔を紅くして、目を潤ませてる。……ていうか、女の子にもてる女の子の一種だよね、これ。王子様役って言うか。束姉と優衣も感心しきりだし。

「……なんで。なんで、これで上手く行く、わけ? なんで僕、自信付いたとか思っちゃってるの!? 正直、全然納得出来ないんだけど!」

 そして二時間のティータイムが終わって最初のシャルルの一言がこれだよ。言いたいことわからなくもないけど、そんな不満気な顔して怒鳴らなくてもいいじゃんさー。クロエとレイアもご満悦ですっかり懐いちゃって。うん、有能な執事ってよりホストな感じではあるけど、二人とも悪い風には感じてないんだから。

「いやぁ、一日で形になるなんて思わなかったよ。シャルルって、ホストになってもやってけるんじゃない?」

 でもって優衣は優衣で、思い付きが図に当たってこちらもご満悦。最後の一言は要らなかったけど、言いたいことはよくわかる。

「ないから! それ言われても全然嬉しくないから! そのホストって、日本のホストクラブのホストって意味でしょ!?」

 当然言われたシャルルは優衣に怒鳴るけどまあ、それは当たり前のこと。特に日本で言うホストって、元来の主催者(主人役)って意味から外れて、あまりいい意味ではない水商売の一種になっちゃってるからね。

「……そうなのですか?」

「そうなの?」

 けどその辺りの違いをわかってないのか、クロエとレイアが首を傾げながらシャルルに問いかけるもんだから……。

「うぇ? ク、クロエちゃん? レイアちゃんも、なんで?」

 思わぬ追い打ちにシャルルも慌てるというか、微妙に引き気味というか、狼狽えながら二人に問い返す。

 でも一応、テレビとかで覚えたのか二人ともホスト(主人役)ホスト(水商売)執事(Butler)の差位はわかってたみたいで。

「ホストでは印象が悪いでしょうが、その、執事の様なシャルル兄様にお世話して貰えて、私はとても楽しかったですよ。本当は女性だとわかっているのに、男性のように感じて、胸が少しドキドキしました。一夏姉様やリィン兄様の時には、その様に感じなかったのですが」

「わたしもー! シャルお兄ちゃん、格好よかったよ。一夏お姉ちゃんも格好いいけど、なんか違うの。シャルお兄ちゃんはなんかドキッとして、ポーってなっちゃたから。ねね、シャルお兄ちゃん。またぎゅーってして!」

 さっき見惚れてたのは見間違いとか勘違いじゃなくて、二人とも本当に見惚れてたらしく、クロエはニコニコと、普段は余り動かない表情が緩んでるし、レイアの方は幼い子供が専属執事さんに甘える様にシャルに抱きついて、抱きしめて貰ってたり。うん。これは本当に有能な執事候補なのか。

「え? うん、はい、レイアちゃん」

「ぎゅー!」

 そんなシャルに抱き上げられてご満悦のレイアに、それを見る優衣と束姉の目が優しい。

「ほら、やっぱり。ホストは冗談だけど、執事みたいな職に向いてるのかも。世話好きっぽいしさ」

「そうだね。それは私もそう思ってたよ、シャル君。君、元の素養が良いからか、ちょっとした表情とか仕草にドキッとするんだよ」

 執事や家政なんかはこっちの世界でも今もちゃんとした職として存在して、それなりに残ってる貴族階級や資産家を初めとした上流階級なら彼等を雇っている事は少なくない。イギリスの一貴族であるオルコット家の当主であるセシリアにも執事や家政達がちゃんといて、彼女が不在の家を守ってる上、幼馴染みが専属の付き人(メイド)をしてるらしいし。エレボニア……というかゼムリア大陸ではシュバルツァー家みたいに執事も家政も持たない貴族の方が珍しい。まあ、あの家は専属が居ない代わりにお手伝いに来る近所の人達が沢山いたけどさ。

「それは……。それより、僕としてはあの篠ノ乃束さんと織斑一夏君がこんなところにいた事の方がビックリなんですけどね。まさか女の子になってたり、ここまで容姿が変わってたら、誰もわからないだろうけど」

 そしてレイアを横抱き(お姫様抱っこ)にして甘えさせたままソファに座ったシャルが、今度は矛先を僕と束姉に向けてきた。一応、ここに来る途中、僕と束姉、リィン達三人の正体をバラしておいたんだ。写真見せてやっと納得して貰えたけど。やっぱ髪と目の色って人の識別に大きく影響するんだね。

 容姿を含めた印象自体は、束姉は向こうに行く直前と。僕も、女として生まれて育ったらって方向性だけど、ゼムリアに跳ぶ前からは余り変わってない。でも纏う色彩のせいで印象が違って同じ人には見えないって、何回もシャルに言われた。

「あはは……。まあ、僕達にもいろいろあったんだよ。ね、束姉」

「そうだね。とりあえずシャルちゃん。私といっくんのことは他言無用だよ?」

「わかってます束さん。決して誰にも言いませんから」

 ともかく、エレボニアでの出来事をざっと説明して、リィン達との出会いやら、なんでリィン達がこっちにいるかなんてのも話してある。当然、僕が女になった理由もね。ここはステラルーシェとタリサの事に関する憶測が多分に含まれてるけど。

 どちらにしても、ある意味最重要機密事項にもなりかねない僕と姉さんの秘密。当然口をつぐんで貰います。その分の対価は、それなりに出すつもりだけど。

「まあ、いっくんやゆいちゃん、リィン君に聞いてる感じだと、セシリアちゃん達には言っても良いんじゃないかなって感じなんだけどね」

 そして姉さんが思わぬ事を口にしてくれる。鈴はともかく、セシリア達は、大丈夫かな。心配はしてないけど、不安がないと言えば嘘になる。でも友達として、みんなを信じたい気持ちもあるし、どこか騙してるって意識もないわけじゃないから、話しちゃっても、いいのかな……。

 なんて考えてるところでシャルが至極真っ当な、でも普通は聞かないだろうって事を聞いてくる。

 性別が変わった感想に、エレボニアでの生活って、その辺はねぇ。

「ねえ一夏。君は一体、どんな暮らしをしてきたの? その、性別が変わっちゃって、苦しかったりした事は、ないの?」

「最初の内にちょっとだけ。でも、中身が十二歳って言っても、身体年齢七歳の身体が感じる感覚って割と曖昧だったみたいで、気付いたら慣れた。僕自身、元々成長が少し遅かったし。それに、この身体になってもう八年超えてるからね。寧ろ男だった頃がわからないよ」

 千夏とは一卵性の双子だけど、それまで受けてた虐めやら差別やらの精神的ストレスで、アイツと比べて少し幼かった。で、向こうに行ったら行ったで、気付いた瞬間にレイプされかけてそれどころじゃなかったし、その後も猟兵崩れに対するトラウマやら魔獣や猟兵、狂信者達(D∴G教団)相手にして生き残るのに必死で、しかもステラルーシェ(この身体の本来の持ち主)の記憶まで混ざり込んできた上に魔眼と特異体質に騎神適合因子による騎神(ラインヴァール)との同調まであって。ぶっちゃけ苦しむとかそういうレベルは超えてたからなぁ。それでも、身体自体が七歳の子供に戻ったからか、異世界での同位体だったからか。変わった身体そのものは割とすんなり受け入れられたんだよね。そういう病気だったとかでもないけど、僕自身が違和感を感じなかったから。

「そういうもの、なのかな」

「そういうもんじゃね? 他に似た経験してる人なんて居ないだろうからわかんないけど。僕はそうだからね」

 だから、疑問一杯の顔でこっちを見るシャルに、目を見て頷き返すしかなかったりするわけですよ。

「そっか。一夏がいいなら、そうなんだね、きっと」

「そうだよ」

 と言うわけで納得してもらえた様なそうでもないような。でも納得顔のシャルに、改めてそうだよとだけ伝える。実は直ぐ真横に一人、似た例がもう一人(優衣)居るんだけど、そこは別の話だし、優衣の前世では肉体的にはともかく、心理的には女性だった上にこっちには完全に生まれ直しだから全く問題なかったらしいから。

 なんてことしてたら、唐突に優衣とリィンがとち狂ったこと言い出してくれやがりましたよ? 僕はまあ、殆ど無くなったとは言っても、男だった頃の記憶がないわけじゃないから。シャルは知らないけど、僕に関しては見かけと所作はそういう雰囲気を作ってるからかな。

「ねえ。一夏とシャルルって、ホントに男の子の格好似合ってるよね。こう、貴公子然とした雰囲気があるって言うか、そんな感じ。女の子なのに、どこか男の子っぽさがあるの」

「そうだな。俺からすると、雰囲気の柔らかくなったユーシスやセドリック皇子と良い勝負になるんじゃないかと思うぞ、あれは」

 でもって比べる先がユーシス兄とセディ様ですか、そうですか。うん、シャルとセディ様はなんか納得出来るけど……。

「言われてみるとそんな感じだねー。特にシャルちゃんはセド君にそっくりかも」

「……うわ、なんか想像出来た」

 僕とユーシス兄? 似てないって。ていうか優衣、そこ想像すんなよ!

「そこ、うっさいよ」

「済まない、我が君よ」

 と思わず怒鳴ったら、リィンに頭撫でられつつ、宥められました。うぅ、チョロくないもん。チョロくなんか、ないんだ、から。

「……っう。ばか、リィン」

 けど悔しいから罵ってやる。恥ずかしいから俯いてたけど。目を見てなんて言えなかったけど。

 それからシャルうっさい。見てればわかるでしょうに。

「やっぱりそうなんだよね、リィンと一夏って」

「ていうかハーレムだから。リィンてほら、次期男爵様だし、私もだし?」

 IS学園組だと僕と優衣、エマとフィーに、なぜか鈴がいつの間にやら入ってきてます。ナゾだし。嫌じゃないけど、どこでそうなったんだろう……。でもってセシリアやレナ、テレサ達は今もってわかんない。リィンとの距離感が殆どなくなってるし、好感度も凄く高くなってるのにそういう雰囲気にならないのは、まだどこか一線引いてるのか、代表候補生や企業専属の立場故か、はたまた別のことか。真耶せんせーも似た様な感じだけど、こっちは生徒と教師って線引きがあるからわかるんだけどさ。まあ、どっちも、どうなってもいいんだけどね。今更一人二人増えた位、リィンと僕達の許容の問題だけで大した差じゃないし。

「そう、なんだよね」

 なお一番リィンに懐いてるのは簪と本音、そして何気にアプローチしてくる楯無さんだったりする。主従と当主が揃ってそれでいいのか暗部の家、とか思ってたりするけどまあ、いっか。本人達楽しんでるし。でも簪と楯無さんの仲はまだもうちょっと間が空いてる模様。楯無さんが簪の事になるとヘタレすぎで。なんで本音のお姉さんで楯無さんの従者をしてる虚さんとはよく相談してて、そろそろ無理矢理進めちゃいますかと検討中。虚さんがとびっきりの笑顔で話し合いにのってくれてるのが逆に怖いけどね。

 

 そんなこんなで実家で過ごした半日を終えて寮に戻って、直ぐにリィンとシャルの部屋に。

「この部屋に居る間は、好きな格好をしてるといい。必要なモノがあれば、一夏達に言えば用意してもらえる。だろ?」

「当然。必要な物、沢山あるからね」

「ていうかさ。シャル、その辺はどうやって手に入れる算段してたの?」

 そしてシャルが、シャルロットとして必要な物で、シャルルとしては買えない、買い辛い物はごまんとある。下着しかり、生理用品しかり。その辺は僕と優衣がついでで仕入れてくれば問題なし。……というか、最初からこの計画(シャルの擬装)って破綻してるんだよね。女の子の必須品を男が手に入れるのって、今や運が悪け(女尊主義者と鉢合わせ)れば犯罪者扱いされかねないことだから。それがなくても、態度や仕草、そして行動の不審さから、シャルロットがシャルルとして誤魔化せるのは、長くて一月。フランスもデュノアも、一体何を考えてこんな無謀な賭けに出たんだか。追い詰められると意味のないことを良案とか思い込んじゃうっていうアレ。窮鼠猫を噛もうとして、結局猫に喰われた感じで。

「あー……。えっと、その、ね。全然考えてなかったって言うか、命令ばっかり気にしてて頭から抜けてたんだよ。だけど、うん。ありがとう、いち……ステラ。リィンと優衣も、本当にありがとう」

 こんな感じでシャル自身、与えられた命令に一杯一杯になって他に考えが回らなかったって白状した以上、本気で計画破綻する前に手が打てて良かったわ。とにかく、当座シャルが必要な物は、物のついでで僕か優衣が適当に仕入れる事に変わりはなくて、でもきっと、それは今後一ヶ月かそこら。少なくとも学年別トーナメントが終わった頃には解決出来る見通し。もうね、笑えない証拠が笑える位にザクザク集まってるのよ。だからこそ、万全に甘えさせて、シャルにはきっちり男を演じて貰うことにするって方向で。

「まあ、依存されるのは困るが、適度に甘えるのは悪いことじゃないからな。それよりも夕食に行こう」

「そうだね」

 そんなわけで、本人も何もかも僕達に委ねるつもりはないみたいだから。ある意味今まで通り、甘えて騒ぎながら過ごしましょうって事で。

 因みにエマやフィーは勿論、鈴や簪達にもこの事は伝えてある。夕食はその報告会がわりでもあるし。とりあえず、対フランス情報戦は、もうこっちがアドバンテージ取ってるから、後は推して知るべし、てね。




本文中の「接客業の男女差」についてはまあ、これも私の体験談から抽象的に表現した物です。

最近は本作の書き溜めの他に、構想したまま止めてた別作品(二次一本とオリジナル一本)も平行して少し書いていたためちょっと遅れてしまいました。
一応本作をメインに書いていますが、執筆量的に相変わらず不定期な更新になると思います。
それでは、次回はなるべく早めに、年内に一話と年明け直ぐに一話の更新を目指そうと思っています。

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