インフィニット・ストラトス Apocrypha   作:茜。

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お昼休みです。一日分のお話しに何話使うことやら……。
短いですが、一夏達のお昼休みの一時を。


一夏達の食事事情

 実習も終わって午前の授業は終了。

 いやまあ、その、リィンとのことは一旦封印しよう。リィンに後でって言われたし、今夜甘えに行けばいいって事で今は終わり。

 なんにしても今日のお昼はお弁当の日だし、新入りさん達(ラウラとシャルル)も誘ってみるかな。みんなも反対はしないでしょ。

 てことでまずはダメ元でラウラに声をかけてみたんだけど……。

 

「ねえボーデヴィヒ。お昼、僕達と一緒に食べない?」

「……いや。誘ってくれたことには感謝するが、わたしはやることがある。それから、済まないのだが、出来れば放っておいてほしい」

 一瞬、声をかけた僕を、眼帯に包まれていない深紅の右瞳でジッと見つめて来た後、軽く目を瞑ってから断られました。

 何かを考えてたみたいだけど、それがなにかはわからない。目を逸らしたり、嫌悪の感情を瞳に表していないから悪い印象はないみたいだけど、意味なく連むつもりはないってところかな。この子、人付き合いが少し苦手そうだし。

「そか。悪かったね。あ、それと、さっきの実習中、アドバイスありがとね。助かったよ」

「……そうか。いや、わたしの方こそ助かった。礼をいう。ありがとう、緒方ステラ」

 そうして、足早に教室から出て行ったボーデヴィヒはまあ、彼女の言う通り今は放っておくとして。今後に期待ってとこで。

 次はある意味本命のシャルルの席に近付いて、ボーデヴィヒとは逆にゆるーい感じで声をかけてみる。 

「シャールル! お昼ご飯、僕達と一緒に食べない? えっと、鈴の他に、妹とフィーの姉貴分。それと三組と四組の代表に二年の人も来るけど」

 何人かの女の子達に声をかけられつつも、どこか手持ち無沙汰な感じで机を見てたシャルルは、僕の声に反応して顔を上げて、なぜか助かった言わんばかりに安心したような表情をした。一部以外の女の子に声をかけられるのは、お困りの様子?

「いいの? それじゃ、お邪魔してもいいかな?」

「当然。じゃあシャルル。屋上に行こう。リィン、セシリア。行くって!」

 まあ、なんでもいいけどさ。貰ったからには有無言わせないで強制連行決定! シャルルの手を取って、リィンとセシリアと一緒に屋上に。もちろん、各自のお弁当も忘れずに、と。

 

 屋上に着くと、庭園状になってる一画にシートを敷いて寛いでる一団が、こっちに向かって手を振ってくる。中心は鈴。

「遅いわよ、ステラ。待ちくたびれたわ」

「もう、鈴ちゃんてば」

 さほど遅れてはいないけど、間に合ってもないから仕方なし。とりあえず隣に座ったエマがフォローしてくれてるけど、まあなんていうか、予定調和だよね、このやりとり。

 ともかくシャルルを引っ張ってみんなの側に行って鈴の隣に座って、その隣にシャルルを座らせる。

 その時に形だけ謝っておくのもいつも通りな感じで。シャルルは本当に謝ってるけど、その内、僕達の内輪な雰囲気に馴染んでくれると信じたい。

「ごめんね。シャルルとお話ししてたらちょっと遅れちゃった」

「ごめんなさい」

 まあ、鈴も本気じゃないってすぐに言ってくれてるし、大丈夫かな。

 ちょっと落ち着いたから、まずは持ってきたお弁当というか、おかずを入れたお重をみんなのそれの近くに置く。持ち寄りだから今日もメニューは多種多様、沢山あるから楽しめそうだね。

 そして食べる前に始める自己紹介はシャルル向け。特に優衣達やテレサはまだ面識自体がないしさ。

 なお一組からの参加者は僕とリィンにフィー、セシリアと静寐に本音の六人。後は鈴達にテレサ。そしてシャルルの合計十四人。屋上だから出来るちっちゃな昼食会って感じかな。

「ふふ、冗談よ。一応さっきの授業ぶりね。二組代表で中国代表候補生の凰鈴音よ。鈴で良いわ。よろしく、シャルル」

「鈴と同じくさっきの授業振りの、二組で鈴のルームメイトのティナ・ハミルトンよ。そのままティナって呼んでくれればいいわ。よろしくね、シャルル君」

「三組代表でカナダ代表候補生のイレーナ・シャンティです。よろしく、シャルル君。私のことはレナかイリィって呼んでね」

「四組の代表で、日本代表候補生の更識簪。簪で、いい。よろしく、フランス代表候補生君」

「三組。ステラの妹で緒方優衣です。優衣でいいよ。よろしくね」

「おなじく三組のエマ・ミルスティンです。エマとお呼びください」

「二年整備科のテレーザ・ランプレディよ。テレサかテッサでいいわ。よろしくね、シャルル君?」

 僕達一組は実習終わった後に個別で自己紹介してるから、中途半端になってる鈴達の自己紹介。まあ、軽くって感じで。シャルルも同じく。なお鈴と簪にテレサがシャルルの正体に気付き始めてるっぽいかな。目線がちょっと探る感じになってるし。まあ、バレた時には本音共々、こっちに協力をお願いする方向でいいでしょ。

「えっと、鈴とティナにレナと簪と、優衣とエマ。それからテレサさんだね。僕はシャルル・デュノア。フランス代表候補生で、同じ男性操縦者がいる一組に入る事になりました。よろしくお願いします。えっと、もう呼ばれてるけどシャルルって呼んでください」

 そうして挨拶も終わって和気藹々、多国籍なお昼ご飯にみんなの目線が集中。優衣とレナにエマの三人が冷やした紅茶や麦茶をみんなに回してくれる。再利用前提のステンレスマグカップって便利だよなぁ。軽くて壊れにくくていいし。向こうで旅する時に使ってた陶器製のカップは壊れないかひやひやしながら使ってたしね。

「じゃ、挨拶終わったから食べよう! 自信作の持ち寄りだよー!」

「お茶を汲んでおきましたので、配りますね」

 因みにメニューはローストビーフやパストラミとレタスやトマトを挟んだティナのアメリカンクラブハウスサンド。セシリアもハムやチーズがメインのサンドイッチを三種類ほど。鈴は冷めても美味しい酢豚にエビチリ。エマとフィーが最近覚えた日本食から出汁巻き玉子に和風唐揚げを。レナはなんと野菜のポタージュスープを作ってきてる。野菜不足対応、だってさ。そして僕は汁気の少ない肉じゃがに鰺の竜田揚げ。で、最後にご飯物として優衣と簪に本音と静寐の四人で大量のおにぎりを作ってくれてます。うん、見事にバラバラ。けど、みんなそれなりに工夫して作ってきてるからか、なぜか合わない物は少ない。なお、リィンとテレサは作ってきてません。リィンにはみんなのを食べて貰うためで、テレサは……料理が出来ないから。本人すっごく悔しがってるけど。最近少しずつ出来るようになってきたセシリアと一緒にがんばってお勉強中でも、合格にはちょっと届かないからね。

 そしてテレサと違って一応合格したはずのセシリアが作ってきたハムサンド……なんだけど、食べたら久し振りの大外れだわ、これ。

 やりたいことは何となくわかってるんだけど、これはないわー。てことでちょっとお説教だね。

「……おーいセシリアー? これ、ハムサンドのソースに何を入れたのかなぁ?」

「……ま、マスタードにその、隠し味、を」

 そしてセシリアも何となく自分がしでかしたことに気付いてるのか、引き攣った笑顔を向けてくる。顔色は、当然青。うん、でも許さないし。

「よーし。わかってるけど一応聞く。隠し味って、何を入れた?」

 マスタードソースを作る時に少しハチミツを入れると酸味が和らいで風味が引き立つ。いわゆるハニーマスタードなんだけど、ね。こんな風に入れすぎってのはねーでしょ!

「それはその、あの、ハチミツを、少々」

「……またやらかしたのか、お前はっ! これ少々じゃなくて沢山だ! マスタードの味がほとんど消えてるでしょ! 隠し味じゃなくて別物になってるよ!」

 そう。ただハニーマスタードソースならよかった。なのに入れ過ぎちゃったから酸味が和らぐどころか……。

「あ、甘すぎ……」

「ごめ、これは、ちょっと」

「コンフィテュールのソースとも違って、ちょっと、キツイです」

「……だね。ごめん。残すのは悪いと思うけど、僕も、ちょっと」

 ピリッとくる辛味に酸味と、微かな甘味が入るんじゃなくて、だだ甘いのになぜか辛味が残る後味の悪いソースになっちゃうんだ。レナが言うコンフィテュール、いわゆるジャム系ソースならまだしも、甘すぎて風味が壊れたマスタードソースならぬハニーソースなんて美味しくない。だからレナもそうだし、今日初めて会ったシャルルでさえも残す選択をすることに。

「ごご、ごめんなさいー!」

 こんな状況に、さすがにセシリアも泣きが入って平謝り。

「まったく。前に言ったとおり、僕達で料理教室強制開催決定だね。がんばってるのはわかってるけど、これ以上は大目に見れないよ」

「……はい」

 まあ、悪気はないのも、わざとじゃなくて間違っただけってのもわかってるからこれ以上は責めたりしないけどね。

 でもホントに不思議な子だよなぁ、セシィって。味見したりしなかったり、余計なことしたりしなかったりと、なぜか料理でギャンブルするんだから。

「セシリアってば家事苦手なクセに、変なアレンジしたがるから」

「だねー。ほんねさんはせっしーのご飯食べる時、いつもどきどきだよー。楽しいからいいけどねー」

「うん。たまに大当たりがあるから、こう、逆に油断出来ない。たまに、凄く美味しいから、ね」

 まあ、本音の言うように、そんなギャンブルなセシリアメニューを楽しみにしてる部分も無きにしも非ず。どんなヘタウマアレンジしてくるのか。それともレシピ通りなのか。はたまた大当たりアレンジで出てくるのか。簪が言うように、その辺をいつもどきどきしながら見守ってる感じかな。

「あはは。みんな仲が良いんだね」

「そりゃそうよ。仲間で、友達なんだから。ね?」

「そうですね」

 そんなちょっとしたトラブルがありながら、そしてそのトラブルを起こした若干一名(セシリア)が少し落ち込みつつも、和気藹々と進むお昼ご飯に、シャルルがどこか懐かしむような目をして、感慨深げに呟いた。

 まあ、期間はたったの一ヶ月前後ってとこだけど、ケンカしたり組み手したり戦ったりと、いろいろあって仲良くなったからね。意外と壊れないんだよ、こういう感じの仲って。

 仲間で、友達はとても大切なんだからさ。




と言うことでセシリアさんの失敗談でした。
原作より人数大幅増の上、出てくる料理も大幅増ですが、実は単にセシリアさんのメシマズ脱却話が書きたかっただけという。
とりあえずレシピの写真通りに作る、なんていうお粗末はこのお話ではやらかしませんし、やらせません。原作ブレイク上等ですので。
ただし一癖も二癖もあるのは変わらない感じですが。

それでは今回はここまで。次回は砲火後もとい放課後訓練タイムです。
次回更新時にタグが追加されます。確定で。

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