インフィニット・ストラトス Apocrypha   作:茜。

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二巻目本格開始です。
まあ、この時点での彼女達は変えられる点が少ないのがちょっと悩みどころですが……。
今回は少し短めです。


金の憂鬱と銀の涙
金と銀の転校生


 波乱のクラス対抗戦があった日から早くも週が明け、世間はゴールデンウィーク? で、何それ美味しいの? なIS学園は今日も元気に授業日和な五月の第一週。箒の謹慎も解けて、一応授業には出てくるらしい。反省した様子は見られないって、真耶せんせーがぼやいてたけど……。

 何はともあれ、土日で随分羽を伸ばして気分一新。今は緋鋼が手元にないけど、授業は平常運転がんばりましょうって感じで教室に入ると、清香達が集まってなにやらきゃいきゃい言ってる。なんだろ?

 因みに今日は珍しく全員別行動。僕が教室に一番乗りで、セシリアまで居ない。

「おはよ清香、海波。なんか賑やかだったけど、どしたの?」

 とりあえず一番近くに居た清香と因幡海波(みな)に挨拶ついでに声をかけてみると、二人はこっちを見て挨拶してくれると同時に、なにやらカタログみたいなのを大量に僕に渡してきた。なにこれ?

「おはよー、ステラちゃん」

「あ、おはようステラ。あのね、みんなでISスーツ選んでたんだよ」

 でもまあ、それは清香の一言で解決。学年別リーグが近付いて、そろそろ一般生徒も学園指定じゃない、自前のスーツを作らなくちゃいけない時期だっけ。

「あー、そっか。みんなは選ばなきゃいけないんだもんね。ごめんね、自分が要らないからって、すっかり忘れてた」

 ぶっちゃけ言うと、僕自身のスーツは緋鋼の前身の黒百合より前、黒翼の試作機に乗り始めた時にもう専用で作ってたから、マジで忘れてた。

「だいじょぶだよ。それより参考までに、ステラちゃんのスーツって、何処製なの?」

 因みに海波が渡してきたのはミューレイとハヅキ、デュノア。それに月岡のカタログだった。他にもイングリッドやらアルマート、トロイメライ等など、有名どころは国を問わず置いてある。なお、アルマートはテレサの所属会社フィアットのIS部門の名前。トロイメライはドイツBMWのIS部門で、シュバルツェア型を開発して欧州イグニッションプランでセシリアの愛機であるイギリスBAEのティアーズ型やテレサの愛機の原型機テンペスタⅡ型と争ってる最(コンペティション)中。月岡(ウチ)やデュノアを含めて、機体からスーツまで引っくるめて開発してる総合メーカーも多いけど、スーツだけや装備、機体だけってメーカーもかなりある。トロイメライやアルマートは基本的に機体のみで、第三世代装備とスーツ以外の装備は関連会社や専業メーカー任せらしい。で、アーマライトやベレッタ、ミツルギなんかは装備専門。逆にミューレイやハヅキがスーツと量子接続装置専門メーカーになる。

「月岡製だけど、完全オーダーメイドだからカタログには載ってないよ。強いて言うと、弦月型のフルカスタムが一番近いかな」

「弦月型のフルカスタム……て、これ最上級モデルじゃん! めちゃくちゃ高いし! でも、これっってやっぱり専用機持ちだから?」

 閑話休題(まあそこはおいといて)。海波の問いには月岡製のオーダーメイドと答える。月岡では専属も専従も全員、個人毎に生地から設計してるから。既製品としてなら、生地の性能を置けば最高級モデルの弦月という型が一番近い。弦月型もフルカスタムする場合は生体精密測定と生地の選定から始めるから。因みに価格は……適当な国産中級車を新車で買う位かな、と。

 ついでに、千夏のは本人曰く、イングリッドのストレートアームモデルをどっかの研究所がフルカスタムしたモノらしい。尚、白式を建造した倉持自体は機体と装備専業で、千夏のモノも含めてスーツ自体作ってない模様。

「専用機だから、かな。実際、機体との量子転送帯域や伝達率を細かく調整しながらスーツを作ってるんだ。そうじゃないとオーバーフローやアンダーランを起こして機能停止しちゃうからさ。これが黒翼用の方なら、そこまでシビアじゃないんだけどね」

「そうなんだ。おんなじISスーツに見えても、汎用型と専用機用ってやっぱり違うんだね」

「うん。不思議だね、同じに見えるのに」

 実際はブラスターシステムとの親和性のための専用スーツなんだけどね。なお一番シビアに作ってるのはブラスターシステムの適正値が()()()()優衣。逆にほぼ汎用品(弦月型)に近いのはフィーだったりする。ぶっちゃけると専用機(シルフィード)持ちのフィーよりも、試験専従操縦者(テストパイロット)の沙耶香や亜子の方が調整値高く作ってたりもするし。けど、他の会社はよくわかんないんだよね。ウチはその辺も公開してるからここで言っても問題ないけど、セシリアやテレサ達は機密情報に触れる部分もあるのか、特に教えてくれないしさ。

「ま、他の会社は知らないけどね。ウチはその辺まで公開して作ってるから」

「へえ。それじゃ、リィンさんのは?」

 そんな説明で大体納得してくれたのか、清香の質問はリィンの方に流れてく……ってリィン、いつの間に来てたし。

「俺は別の理由で完全オーダーメイド且つ、常に試作品だよ。設計主任曰く、通常モデルを無理矢理俺の体型に合わせるんじゃなくて、試験と観察も交えて一から作ってしまえ。一つで足りないなら沢山作ってしまえってな」

 ともかく、来て早々に話を振られたリィンだけど、清香の質問に何の躊躇もなく答える。現状、世界でたった二人しかいない男性操縦者としての自分の立場を理解して、さらに束姉や樹お父さん達の実験や研究、開発に対する姿勢を見てるからこそ、そこに忌避感を抱いてないらしい。

「……それって、実験ってこと?」

「まあ、海波の言う通りだな。良くいえば試験協力だろうけど、モルモットという言い分は、否定できないからな」

 だから海波が言うように実験、もっと言うとモルモット扱いではあっても、特に気にしてなかったりする。

「酷くない?」

「それでも、別に身体を切り刻まれてるわけじゃないから平気だ。定期的な検診と、頻繁にスーツが替わる位しか負担はないから問題ないさ。次に繋がる可能性があるからな」

 尤も、外から見たら海波が言うように酷い扱い、という風にしか見えないだろう。それでも、実のところ専用試験機での男性によるIS起動実験が成功しつつあるという、まだ世間に公表されてない事実もあって、なおのこと気にならないそうだ。リィンが自身のIS(ヴァール)を動かすことで取ったデータが、確実に後続の成果に結びついてるから。

「うー。でもでもぉ」

「心配してくれてありがとう、海波。それに清香達もそんな泣きそうな顔をするな。俺は全部納得して協力してるから大丈夫だよ」

 それでも、そんな内情を知らない海波からすれば酷い扱いにしか感じないだろう。泣きそうな表情でリィンの制服の裾を掴む海波達に、頭を撫でながら慰めるリィン。

「うん」

 それで少し落ち着いたのか、海波達が涙を拭きながらリィンから離れ始めた頃、千冬姉……織斑先生と真耶せんせーが教室に入ってきた。

「お前達、時間だ。着席しろ」

 主に僕達の周りと、千夏の周りに集まってた全員が一斉に席に戻って、一応クラス長である千夏の号令一下、朝の礼をする。そして全員が着席した所で真耶せんせーが唐突に転入生がいるとか……あれ? もしかしてシャルロットとラウラの事? なんて思ってる所で小柄な金色の貴公子(男装少女)と、更に小さな銀色の軍人(眼帯チビっ子)が教室に入ってきた。

「今日は転校生を紹介します。それでは、自己紹介をお願いします。まずはデュノア君から」

 話しに聞いてはいたけど、どう見ても小柄かつ華奢過ぎる体格で、姿勢や体型的に男には見えないシャルル(シャルロット)・デュノアが偽りの名前で自己紹介をする。

「はい。えっと、フランスから来ました代表候補生のシャルル・デュノアです。こちらに、僕と同じ境遇の人が二人もいると聞きまして、急遽編入することになりました」

 少し低めに作り出されたメゾアルトの声は、確かに声が高めの少年の声にも聞こえる。そして彼女の仕草や笑顔には清香達でも黄色い声で歓声を上げてる。けど、怪しすぎでしょ。わかる人なら一目で女だってわかる体型と体格なのに、なんで誰も疑わないかな。……ていうか清香達、観察力不足。今日からじゃ不自然だから、シャルルが正体をバラした後で部活の訓練倍増決定。なお本音は気付いて首傾げてるけど、きっと流す。知ってて流す。あの子の家柄(暗部の家系)は伊達じゃないから。

「ありがとうございます。それでは、ボーデヴィヒさん。お願いします」

「……」

 まあ後はなんだ、ラウラはこう、寡黙というより、周囲は眼中にないって感じなのかな。真耶せんせーの催促も無視してある一点(千夏)を見つめたままだし。

「えっと、ボーデヴィヒさん?」

 これには流石に真耶せんせーも訝しがってもう一度声をかけるけど、またも無視。

「ラウラ・ボーデヴィヒ。挨拶をしろ。それがここでの習わしだ」

「……はい、教官。ラウラ・ボーデヴィヒだ。貴様達と馴れ合う気はない。以上」

 しゃーなしとばかりに動き出した千冬姉が呆れを隠さない声音で声をかけるとやっと反応。でも身も蓋もない挨拶が飛び出す。なおこちらも低く作った声だけど、シャルルのそれとは違って拒絶の色が凄い。周囲に壁と言うより、寧ろ周囲に装甲板レベル。今は簡単に近付ける気がしない。今後の展開を考えると、少しでも距離を縮めたい気はするけど、まあ時間はあるからゆっくりいこうか。ぶっちゃけ、彼女の専用機に例のシステム(VTシステム)が乗ってないってのが一番いいんだけど。でも、ないよね、そんな都合いい展開。優衣曰く、世界線が大筋では変わってないとか、世界の修正力が働いてる影響じゃないか、とか言ってたけど、ようは、現状では僕の変化や優衣、リィン達居る程度の差異はあっても、大筋では原作(小説)に似た経緯を辿るんじゃないかって。実際、事件の起こり方や原因が違うだけで大差ない方向で動いてるしね。問題は優衣が読んでたのは十巻まで。時期的には十二月にある修学旅行に関しての事件までしか知らないこと。まあ、頼らないって決めたのも僕達だけどね。一応、ちょっとした予備知識程度には役に立つかも、てことで。

「……あの、えっとぉ」

「まともに言う気はないか。まあいい。二人とも、山田教諭に席を聞き、着席しろ」

「はい」

 とにかくこんなラウラの挨拶には真耶せんせーが絶句して、千冬姉も完全に呆れ顔。話が進まないから無理矢理進めるつもりらしい。シャルルの方は素直に席に向かったけど……。

「……貴様が織斑千夏か」

「……ああ、そうだが?」

 ラウラは千夏の前に立つと名前を問いかけて。

「貴様の様なヤツが居たから、教官は!」

「がっ! ってぇな! いきなりなにすんだよ!」

 確認が取れると同時に原作通り、千夏の左頬に平手打ち。スナップ効いたそれは綺麗なパシンという乾いた良い音がした。軍で鍛えた力に技も加わって、千夏の頬はさぞ痛いだろうなあ。小さくても真っ赤な紅葉模様がくっきりはっきり付いてるし。因みにほーきさんがラウラをガン睨みしてます。先生ズを含めて誰も気にしてないけど。

「認めん。お前も、すでに居ない織斑一夏も。どちらも織斑教官には釣り合わん。わたしは、お前達を認めない」

 それでもって理由もまあ、原作とほぼ同じ。しっかしなぁ。僕も千夏も、一体ドコでどうして、ここまで恨まれてんのか。いやまあ、僕が第二回モンド・グロッソの時に誘拐されたのが一端だとは思うよ? でも一応あの大会は千冬姉が優勝してるし、そもそも僕はいなくなったことになってるのに、それでも未だに恨まれてるってのはいい気分しないな。

「そこまでだボーデヴィヒ。さっさと着席しろ」

「はい」

 それと、さすがにあんな暴挙を千冬姉が許すはずもなく、命令口調でラウラに告げれば、それには素直に応じる。

「ああ、ボーデヴィヒ。今回の事はなかったことにしてやる。だが、次はない。いいな」

「……肯定であります」

 まあ、許したわけでもないからお小言付きだけど。……ドイツ軍で教官してた頃の千冬姉の印象を引き摺ってるんだろうな、ラウラのヤツ。

「そ、それではホームルームを終わりにします」

「シュバルツァー、織斑。デュノアの世話をしてやれ。では、遅れるなよ」

 しかし真耶せんせー、動揺しすぎ。だからみんなに友達感覚で接されちゃうんだよ。僕もそうしちゃってるけど。年齢が近い、可愛い先生(マスコット)だもんね。

「えっと……」

「リィン・シュバルツァーだ。だが、挨拶は後回し。織斑、急ぐぞ。デュノアも付いて来い。急ぎでな」

 でまあ、一応紹介も終わったってことで、これからIS実習のためにアリーナに移動。僕らはここで着替えてから行くことになるけど、流石にリィン達は、ねえ?

「あいよ」

「うぇ? あ、うん」

 てことで挨拶もそこそこにリィンはシャルルの手を取り、千夏を引き連れて教室を出て行った。

 はてさて。今日はリィン達、時間内に辿り着けるかな。新入り(シャルル)もいることだし、今日は五分五分って感じかねえ。




予定調和的な転入シーンになってしまいましたがまあ、ここは変える部分も少ないですし、その分短くなった感じですね。
次回はIS実機実習です。さてさて、どうなることやら。

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