インフィニット・ストラトス Apocrypha   作:茜。

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異世界(遠いホシから)での別れ(また会う日まで)

 時は少し流れて、七燿歴1205年3月末。

 Ⅶ組メンバーの全員とサラ姉の士官学院卒業を目前に控えて、トールズ学院旧校舎で三度起こった異変解決のため、Ⅶ組と協力者達が集結した。

「いっくん! この歪みで帰れるよ! 束さんのラボの波長がこの先にある!」

 旧校舎最下層から入った異界、夢幻回廊の最深部。更にその奥、白い闇を超え、ロア・ルシファリアと自ら名乗ったモノを打ち倒して最深部に戻って来たところで、白い闇への入り口があった場所に、今度は青黒い靄が生まれ、渦巻き始める。

 その光景を見てリィン達は動揺するが、一人の女性、束……こちらではタリサ・バレスタインと名乗っている……が唐突に一人の少女にいっくんと、大きな声で呼びかけた。

 呼び掛けられたいっくんたる少女、一夏……ここではステラ・バレスタインと名乗っている……は、束の言葉に興奮を抑えられない様子で返し、側に居た女性、サラ・バレスタイン……一夏の母親代わり……と、青年、リィン・シュバルツァーに呼び掛ける。

「ホントですか! サラ姉! リィン達も! 僕とタリサ姉、帰れるかも知れないんだ!」

 数年前のある日、実験中の機械の暴走によりこの世界に来てしまった一夏と束は、今この時、発生した渦を通れば元の世界に戻れる、という事である

 しかし、そんな二人の突然の呼び掛けに、サラと金色の髪の少女、アリサ・ラインフォルトは、今まで絆を深めた一夏=ステラと束=タリサとの突然の別れに対して困惑の叫びを上げる。

「こんな急に!?」

「うそでしょう!」

 叫び、絶句するサラとアリサに、束と一夏は自分達も別れがたいという感情を大きく表し出しながら、それでも自分達は元の世界に帰る必要があると、伝える。

「サラ。アリサちゃんも。私達は自分の、元の世界に帰れる可能性がある今を逃す事が出来ないの。だから、これでさよならに、なっちゃうかな」

「本当に急でゴメン。サラ姉に助けられて、一緒に暮らせて嬉しかった。アリサ達との冒険、凄く楽しかった。でも、本当にゴメン! 僕、やっぱり元の世界に帰りたいんだ」

「……そうよね。でも!」

 一夏と束の思いは覆らないとわかるアリサは、それでも希望に縋ろうと、一行の頭脳であった束に問いかける。

「タリサさんならまた、来られる様に出来るのよね!」

 しかし当の束はその返答には、若干言葉を濁してしまう。世界の壁を任意に超えて移動する。その方法を実現する理論は作っている。可能性もある。しかし、確実性がないからだ。

「……うん。て言いたいけど、断言は出来ないかな。一応いろいろ調べてたから、不可能じゃないとは思うけど。うん。アリサちゃん、サラ。また来られるように、がんばるよ」

 そんな束の心中をわかっているのか、サラとアリサは揃って怨念を送り始める。

「あんた達がいつまでも来なかったら、呪ってやるわよ!」

「ええ。ずっとずっと、怨念送ってやるんだから!」

 そんな、来なかったらではなくもう既に怨念を送り初めている二人に苦笑いを浮かべつつ。しかし、二人のその想いが、また引き合わせてくれると確信できてしまった。

「うん。呪って。私といっくんをたくさん呪って。そうしたら、また来られそうだから」

 だからどちらも、笑顔で伝えられる。

「また会いに来なさいよ。絶対に。あなた達の事は忘れない。お姉ちゃんって言ってくれた事も、妹だって言ってくれた事も、絶対に忘れないから!」

「そうよ。あんた達はずっと、あたしの娘で、妹なんだから! その事を忘れるんじゃないわよ! だから、いつでも帰ってきなさい」

「うん。サラ姉にも、アリサや、リィン達とも、また会いたいから!」

 アリサも一夏も、もう会えなくなるサヨナラではなく、再会を誓う、またね、という挨拶を交わせる。

 そしてそれは、この場にいる他の仲間達にとっても同じ事である。

「サヨナラは言わない! ステラ、タリサさん、またな!」

「絶対にまた会おうね、ステラ、タリサさん!」

「良き風が共にあるように」

「息災で。また会おう」

「ふん、また見えよう。それまでは、無事でいろ」

「へ、助けられた礼がまだちゃんと出来てねえからな、絶対にまた来いよな」

 まずはリィンが。優しげな印象の少年エリオット・クレイグが、長身の槍使いの青年ガイウス・ウォーゼルが。

 銃使いの青年マキアス・レーグニッツと、ブロンドの貴公子ユーシス・アルバレアに、リィンの宿敵であった青年クロウ・アームブラストも。

「絶対に会いに来なさいよ! じゃないと、呪い続けてやるんだから!」

「ふふ。ああ、そうだな。私は忘れない。必ず会いに来てくれ」

「ええ。お二人ともお元気で。また、お会いしましょう」

「もう一度会いに来てくれると、嬉しいね」

「そうだね。また、こうやって会えるのを楽しみにしてるね!」

「またお会いできることを、ずっと待っていますよ、ステラ」

「そうね。これで最後だなんて面白くないもの。必ず帰って来なさい、ステラ」

 アリサと、騎士然とした女性ラウラ・S・アルゼイド、リィンの導き手である魔女の末裔エマ・ミルスティンが。

 鋼都の放蕩姫アンゼリカ・ログナーに、生徒会長のトワ・ハーシェルと、リィンの妹エリゼ・シュバルツァー、エレボニア帝国皇女アルフィン・ライゼ・アルノールが。

「また、ゆっくりとお茶を頂けるように、準備してお待ちしておきますね」

「二人とも無理や無茶が多いですから、身体を壊すような無理をしてはいけませんよ」

「君達に教えて貰った理論、いつか実現してみせるから、見に来てくれよ」

「だな。また無事な姿を見せてくれよ!」

 完全無欠なメイド、シャロン・クルーガーが、鉄道憲兵隊の才女クレア・リーヴェルトが、束姉が世紀の技術者の卵と呼んだジョルジュ・ノームが、帝国遊撃士の雄トヴァル・ランドナーが。

「……礼は言わないわ。絶対に。でも、あなた達にはまた会える気がする。魔女の感は、割と当たるのよ」

「そっか。魔女さんがそこまで言うなら、束さんもがんばらなくちゃだね」

 そして、なぜかクロウに引っ付いてきた元結社の使徒(ウロボロスのアンギス)であり、クロウの導き手たる魔女ヴィータ・クロチルダまでもが、一夏と束に再会の言葉を告げれば、束が軽口で返す。

 最後に一夏と束は全員の顔を見回してから、どちらともなく手を繋ぎ、渦へと向かって歩き始めた。

 そんな二人の背中に、今まで黙っていた二人の少女が声を掛ける。

「ステラ! わたし、負けないから! 次は絶対に、負けないから!」

「ボクもだよ! また今度、ちゃんと決着、つけようね!」

「ああ。また勝負しような、フィー、ミリィ!」

 サラが保護している元傭兵の少女フィー・クラウゼルと、情報局のエージェントにしてⅦ組最年少の少女ミリアム・オライオンの二人が勝負を宣言すれば、一夏もそれに応える。

「みんな、またね!」

「絶対に来られるように、がんばるからね!」

 そして渦に足を踏み入れる直前で振り返り、空いている手を振りながら最後の挨拶をして直ぐ、二人の姿が渦の中に消えていった後、何事も無かったかのように青黒い靄の渦も消えた。


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