インフィニット・ストラトス Apocrypha   作:茜。

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作中ではほぼ描かれてなかったデブリーフィング回。
誰がどうなるのかは、お楽しみに。


後始末。そして疑念と真実

 クラス対抗戦で起こった無人機乱入事件の終息から約五時間。

 校舎棟にある会議室の一室に、担当教員である千冬と真耶。戦闘に参加した当事者である一夏達。そして問題行動を起こした箒が集まっていた。

 なお、箒にケガを負わされた放送部員四名は、医務室に運び込まれた後にナノマシン治療を施され、二時間前には全員の意識が戻った。だが、ケガの内容が骨折などのため、真耶が簡単な事情聴取と説明を行った後はそのまま医務室で安静にしている。

 また一夏達と放送部員達の保護者や関係者には一年担当の各教員が手分けして連絡し、事件の概要説明と現状を報告済みである。当然、内容は口外無用であるが。

 そして会議室に関係者全員が集まり着席したところで、千冬が一言、僅かな苦言を最後に加えながらも戦闘に参加した一夏達に労いの言葉をかけた。

「……諸君、よくやってくれた。おかげでアリーナから負傷者も犠牲者も出ていない。……とある生徒の暴行で負傷した四名の放送部員を除いて、だがな」

 四名の放送部員を負傷させたとある生徒(篠ノ乃箒)を僅かに睨み付けながら。

 こうして始まったのは事件の反省会という名の後始末である。

「まず織斑」

「はい」

 最初に千夏が指名され、戦いの場に居ることの覚悟のなさ、その為に必要な知識と経験のなさを指摘され、落ち込み、項垂れることになる。

「戦況の推移、即席とは言えチームとの連携無視、そして自身の機体状況及び経戦能力を顧みない攻撃行動。いずれも危険な行為だ。今回は生きていたから良かったが、ISによる戦闘には生死が関わっている事を忘れるな。状況判断能力を身に付けろ。彼我の戦力差を測る事を身に付けろ。以上だ」

「……わかり、ました」

 実際、意味のない突撃を繰り返す事は、意味のない死にも繋がりかねない危険な行為。更にチームを組んでの戦闘を行っている中での単独行動。

 ただ不慣れだけでは言い訳にならない失点の数々があった。その為の千冬による叱責である。

 続けて、千冬は一夏に視線を向ける。

「緒方姉」

「はい」

 ピットから飛び出す前、状況を把握した際の会話で緊急時の現場指揮官でもある千冬や真耶に対しての暴言について。だが、これは千冬と真耶の側にも状況を詳細に把握しようとしなかったという責任もあり、一夏の暴言は不問にするという、僅かに甘い裁定となった。

「教員に向かっての暴言……ではあったがまあ、私も山田先生も動揺していたのは事実。また状況を把握したのも緒方の方が早かったと言う事。これは現場指揮官である私達の状況把握が遅かったということに他ならず、よって今回の暴言自体は不問とする」

「ありがとうございます」

「うむ」

 尤も一夏も、許されたわけではないと理解しているので、千冬と真耶に向かって深く頭を下げて礼を述べる。

 次には一夏も含めた戦闘に参加したメンバー全員へ。

「そして待機中のピットより出撃した緒方姉妹、クラウゼル、ミルスティン、更識妹、オルコット、ランプレディ、シャンティ、シュバルツァーの九名と、試合中だった織斑、凰の二名。ISの起動及び、敵性ISとの戦闘行動は緊急時条項の適用により不問となる。また、敵性機体の全機撃破も確認された。よくやってくれた」

 三機もの重武装ISによる襲撃を、被害を殆ど出さずに終息させた十一名……実質的に十名だが、彼らには緊急時のIS展開と戦闘行動を許容する事項を適用することで、平時におけるISの展開及び戦闘行動に関する問題を不問とし、全員を労う。

「はい!」

 これには一夏達全員が一斉に返事を返し、小さく頭を下げた。

 そして最後に、この場で唯一労われることなどない、一種の罪人である箒の番となる。

「最後、篠ノ乃箒。本日より60日間、停学と反省室での謹慎。期間中の1日8時間の労働奉仕。更に期間中1日50枚の反省文提出。また期間中に受けられない中間及び期末の試験と就業日数の不足を補う補講、補習が夏期及び冬期休暇中に課せられる」

 彼女に告げられたのは、普通の学生に与えられるにはそれなりに重い罰則の数々であった。尤も、暴行事件を起こし、四人もの生徒に重傷を負わせながらこの程度なのだから、重すぎると言うことはないだろう。

「何故ですか! 私はただ、不甲斐ない千夏に活を入れただけです!」

 しかし告げられた本人は相当に不服そうにしているが、その理由が理由だけに、僅かな情状酌量の余地もない。

「何が活を入れるだ。お前の行動には、罪に問えない危険行動を除いても待機指示命令違反、放送室への不正侵入と不当占拠、放送機材の無許可私的使用、放送部員四名への暴行傷害。少なくとも5件の重大な罪状と、それに付随する10件以上の違反行為が確認されている」

 箒に課せられる罪状としては、まずは管制室で待機を命じられていたはずがいつの間にか放送室へと向かった事。関係者と認可された者以外の立ち入りが制限されている放送室への侵入と、その際に入り口の鍵を破壊している事。箒が無断で放送機材を利用するのを止めようとした放送部員四名に対し、木刀で殴打して負傷、気絶させた事。当然、放送機材の無断使用自体も問題となる。更には、途中途中で待避を促す教員や上級生に対して威嚇行動を行っていた事も確認されている。その為、箒の罪状は想像以上に積み重なることになった。

「それとですね。あの時放送室に向けて放たれた敵性ISからのエネルギー砲を防いだステラさんとエマさんの防御装備全てが完全に損壊。装備損壊後もエネルギー砲が破壊されるまでの間、補助盾と機体本体での防御を続けた緋鋼及びゾディアックはダメージレベルB-に及ぶ実体ダメージを受けています」

 また箒が放送室から余計な放送を流したことで、緋鋼とゾディアックが持つ盾である緋鋼、蒼鋼、群雲の全てが全壊。凍牙もほぼ全てが損壊した上、両機ともに機体の前面装甲が一部融解し、機体自体も辛うじて稼働が可能な程度と、決して少なくないダメージを負っていた。

「よって先の処分に加え、緒方姉とミルスティンのISの修理並びに破損した装備の補充交換等に対する全費用の負担が課せられる……と、本来であれば言いたいのだが」

 そのため、緋鋼及びゾディアックの修理並びに損壊した各種装備類の補填にかかる費用、金額にして数十億となる費用が箒一人にかけられる事となる……。

「非常に不本意ながら、国際IS委員会と日本IS協会並びに日本国政府の要請により全て不問となってしまった」

 はずだった。本来なら個人にかける負担としては法外にも等しいが、それだけの事をしているため、通常であればどこからも苦情など来るはずなく、箒個人に課せられることになる負債である。しかしISを管理する組織の総本部である国際IS委員会と麾下日本支部である日本IS協会。さらには日本国政府からの要請という形をとった命令により、それら箒に課せられるはずの負債が全て不問とされてしまった。これには千冬や真耶のみならず、学園長の轡木十蔵や生徒会長の更識楯無をも含めたIS学園全体として抗議をした。しかし、強権により話し合いにすらならなかったのである。

「そうですか」

 そのような理不尽な裁定だが、箒はそれが当然だと言わんばかりに頷き、あからさまに安堵の表情を浮かべている。千夏を除いた周りにいる全員が冷たい目で彼女を見ているのも気にせずに。

「しかし。それではお前と負傷した四名の放送部員を命がけで守った緒方姉とミルスティン。戦闘に出ていた織斑以外の八名。負傷した四名の放送部員全員、合わせて十四名の生徒とその家族、保護者及び関係者が納得しなかったのでな。今回課すことが出来る最大限の裁量権限である私の学年主任権限により、今日より6日間の反省室での謹慎。後に1日4時間の放課後労働奉仕を15日間。それから、謹慎及び奉仕期間となる計21日間、毎日50枚の反省文提出を課す事にした」

 当然、千冬達がその理不尽な要求をただで呑むはずもなく、また事前にその裁定を告げられていた一夏達や放送部員とその保護者達、一年生教員全員での話し合いの下、学園ではなく千冬の学年主任権限内で課せられる最大限の罰則を与えることになった。

「なぜですか。不問とされたのでしょう!」

 千冬が箒に課した罰則は、罪状に比して非常に軽い内容だと思われる。しかし、一学年の主任教員が課すことが出来る中では十分に重い物だろう。

 当然、箒は不問にされたはずの罰則が千冬によって課せられたことに文句を言うが、千冬も言うことはまだある。

「されたさ。国際機関と国家機関の強権によってな。だが、それは許されたと言う事ではない。緋鋼とゾディアックの修理及び装備補充。さらに、貴様のせいで余計な攻撃の必要が増えた参加各機の整備補修及び弾薬補充等にかかる費用は全てIS学園が負担する事となってしまった」

 国家機関と国際機関が相手では、国際的にも独立性の高いIS学園と言えど、逆らうことは出来ない。しかしなかったことにするほど、箒の罪は軽くない。だがそれを不問にした上、彼女が負担するべき緋鋼とゾディアックの修理費用や破損装備の新規購入費用。箒の介入により参加各機が余分に使うことになった武器弾薬の整備補充と機体自体の整備にかかる費用。実に三桁の億単位に登る費用をIS学園単体で賄う事となったのだ。

「それは当然なのでは」

「当然なわけがあるか! 本来ならば、余分な負担と損傷を負う原因となったお前が負担するべき負債を他人に背負わせているのだと自覚しろ! こんな判断は、お前があの篠ノ乃束の妹だからと下された理不尽な特例に決まっているだろうが! 貴様の罪は、その、自らを律していないところだ。以上。解散」

 そんな千冬の言い分に対してさも当然だと返す箒に、流石に千冬も感情的になり、怒鳴り声と共に彼女の言を一蹴する。

 当然などではない。ただ篠ノ乃箒という少女が、篠ノ乃束の妹であると言うだけで決められた特例に、当の箒本人が反省するどころか甘受するなど、あってはいけない。IS学園に入学して以来、箒の言動を常に気にかけていた千冬はついにその我慢の限界を超えた。彼女の置かれた状況に同情の余地があるのは確かだ。しかし同情することは出来ない。彼女はまるで、悲劇のヒロインのように振る舞っているのだから。

「全員、今日はゆっくり休む事。明日からも普通に授業及び訓練があるからな。では篠ノ乃、行くぞ」

「ぃた……ひ、引っ張らないで下さい」

 これ以上の問答は無意味と判断した千冬は、一夏達全員によく休むように伝えると、箒の腕を強く握り、彼女を引き摺るように会議室から足早に出て行く。

「織斑君は補習です。明日から5日間、放課後に夕食を挟んで4時間の戦術理論講習を受けてもらいますので、放課後に予定を入れないようにしたください。5日間は訓練などが出来ませんが、流石に、今回のような無謀な戦闘行動は看過出来ませんので」

「……はい」

 残された中で今度は真耶が、千夏に対して現状直ぐに必要な講習を受けるように促す。この講習は当然強制であり、千夏に拒否権はないため、項垂れながらも小さく頷き、指示に従うのであった。

「それではみなさん解散です。長い時間おつかれさまでした。今日はゆっくり休んでくださいね」

 そして最後に一夏達を労い、休むように伝えると彼女は一夏達全員に退室を促し、全員が出たところで会議室に鍵をかけ、彼女も職員室へと戻っていった。

 

 事件の後始末は終わった……訳ではないが、一夏達生徒が関われる部分はここまでとなる。

 

 

 その日の夜、両方の針がほぼ真上を向いた深夜に、千冬と真耶の姿は学園の中でも限られた者しか立ち入れない区画にあった。

 IS学園の施設内において、あらゆる意味で最も深い階層の一つ。地下十二階に位置する高セキュリティ区画。千冬や学園長を始め、IS学園関係者でも僅か数名しか立ち入る事が許されていない最高機密区画である。

「これは……」

 そんな秘匿された場所にある二人の目の前には、今日の事件で一夏達によって徹底的に破壊された三機分の無人機の残骸が広がっている。そして……。

「撃墜した敵性機体から回収されたISコアです。運もあるのでしょうが、皆さんがコアを破壊せずに撃破してくれたので詳細を調べることが出来ました。まずこれらのコアは全て、各国から盗まれたはずの物で、公開されているリスト一覧にあったコアナンバーとも一致しました。そして……」

 真耶の両手に乗せられた三つの幾何学的な形状の物体に注目する千冬に、真耶は明確な答えを返す。

 各国がひた隠しにしつつも、しかし報告せざるを得ずにリスト化されている盗難コア。真耶の手にある三つのコアのナンバーは、厄介な事にこのリストに載せられたコアナンバーと全て一致してしまった。そして更に厄介な事が……。

「無人で稼動するISか」

 無残に切り刻まれている三機分の残骸。これらは確かにISのはずなのに、人が乗っていた形跡は全くない。

「はい。中央の物は比較的残骸が綺麗だったステラさん達が撃破した機体です。潰された右腕部と内部から破裂した頭部以外はほぼ全て残っています」

「空洞がないな。しかし、そもそも何故、あいつ達はこれが無人機だと気付けたのだ?」

 一夏によって綺麗に輪切りにされた胴体が残った一機分の残骸に目を向ければ、その胴体部に人が乗れるような隙間などなく、様々な機械や導管、ケーブルなどがぎっしりと詰まっている。

 だが千冬が最も疑問に思うのは、なぜ一夏達はこれが無人機だと気付けたのか、と言うことだ。常識的に考えればこれらは有人の全身装甲(フルスキン)型ISとして対処するはずで、実際、戦闘開始直後は全員がそのように動いていた。しかしある時点を境に、一夏達は完全に人を考慮しない攻撃をこれらに加え始めたのだ。

「一つは、全身装甲のISなのに、本来十二分に施されていなければならない筈の肘関節部の装甲がほぼ皆無だった事と、当時ステラさんが装備していた武器ではISの装甲材をシールドごと断ち切るのは不可能との事です」

 その理由として真耶は、一夏が報告した装備のシールドと装甲材に対する攻撃力及び切断力を千冬に告げる。IS用装備はシールドごと装甲材を切断出来るように作られることはない。競技用レギュレーションとして、厳然と規定に定められているからである。なのに、一夏が振るった透徹の刃は、無人機の肘関節を見事に切断してしまったのだ。

 なお一夏が使っていた透徹は実体剣を搭載してはいるが、実際には銃火器と鈍器を組み合わせた様な装備であり、実体剣部分も大型剣の例に漏れず、叩き潰すタイプの物である。よって、透徹で関節を()()()()などと言う芸当は不可能、ということになる。

「二つ目に、腕部を切断したにも関わらず、血液や損壊した肉片などが流れ出る様子がなかったうえ、漏れたオイルと千切れたケーブルを確認。更に敵性機体の活動パターンに動揺が一切なかった。というのがステラさんとテレーザさんの見解です」

「なるほど」

 更に付け加えられた理由を聞けば、これが有人機では有り得ない証拠ばかりが出てくる。腕を斬り飛ばされて動揺しない人間など、普通の人間ではない。切っても血と肉と骨が出ないモノもまた、人間とは言えない。人間はオイルとケーブルなどでは動かないのだから。

「それから、参加各機から抽出された戦闘データを解析した所、この三機は人体の可動範囲と許容負荷を大きく超える回避機動及び運動を行っています。それも、人間が操縦した場合は確実に人体破壊が起こるレベルで、です」

 また十枚を超えるフロートディスプレイに同時に表示された、各機が記録した戦闘映像と稼働ログ。そして、それらデータを解析した結果を表示した報告書代わりのタブレットを見せられれば、千冬とてこの三機のISが、無人でなければ動くことすら儘ならない運動性と機動力を有していることが如実にわかってしまった。

「わかりました。それからコアのことは……」

 納得したくはないが、納得せざるを得ない証拠の数々。痛む頭に右手を当てた千冬は内心、早く部屋に戻って眠りたい、出来るなら酔い潰れて寝てしまいたい。そうまで思っていることはおくびにも出さず、真耶に確認を取ると、コアの処理を指示する。

「コアはデータの収集後に封印処理を施し、残骸も凍結処理は終わっています」

「ありがとうございます。コアは破壊。機体の解析は不可能でした、と」

 尤も、三つのコアは既に真耶によって動態状態の確認と内部データをアーカイブした後、初期化した上で稼働停止処置、即ち封印を行った後であり、目の前に広がる残骸達も特殊な封印処理が施された後であった。後はコアは専用の格納容器に。残骸も適当な格納容器に入れて保存するのみである。

 見た目と性格でそうは見えないが、真耶もこの秘匿区画への立ち入りを許可される程に優秀な人材である。そんな真耶に礼を言い、コアと機体に関しては状況を隠蔽するように告げる。

「はい。学園本部及び国際IS委員会にはその様に報告します。それでは織斑先生、おつかれさまでした」

「はい。おつかれさまでした」

 真耶も問題が多いこれらに対して隠蔽することは賛成であり、千冬と轡木に渡す本物の二部を除いた、()()()の報告書はすでにその形で整えられ、翌日には関連部署全てに提出される形になっている。真耶はその手に持った()()の報告書二部の内の一部を千冬に渡すと、先に部屋から退出していった。

 

 見たくもないが見なければいけない報告書を手に、一人きりになった広大な部屋の中で千冬は自らのマルチモバイルを取り出すと、特定の操作をした後にとある端末番号に通信を繋げる。

 数年ぶりにかける通話相手だが、どうやら今現在その端末は生きているらしく呼び出し音が聞こえる。そして数回の呼び出しの後、相手の端末と通信が繋がった。

「……やっと、繋がったか」

「やあやあ、ちーちゃん、ひさしぶりだねえ。何年ぶりだっけ? まいっか。とりあえず、聞かれる前に言っておくけど、今日のIS学園襲撃の件、束さんは何も知らないよ。むしろ驚いてるくらいだね。まさか無人ISを作れる技術者がいるなんて。ほんと、びっくりだよ」

 四年程前を境に、一切繋がる様子がなくなった相手との、文字通り数年ぶりの通話に、一言目がやっと繋がったになってしまった千冬。

 だが通話相手は余り気にしていないのか、それとも久し振りすぎてなにか思うことがあるのか。しかし最後に会話を交わした時と殆ど変わらぬ声音と口調で、聞いてもいない事を勝手に話し出す相手に僅かな呆れを覚える。

 千冬の通話相手は篠ノ乃束。なぜか四年程前から端末自体が応答しなくなった相手。しかし今は再び繋がった昔染みで、ISの()()()。そんな彼女は今日学園で起こった事件を既に把握し、事件を起こしたモノが無人機であったことに素直に驚いているようだ。

 そんな束の言いように千冬は思う。束が作ることは出来ないのか。無人機制作はそんなに難しい事なのか、と。

「なんだ。お前では作れないのか?」

「そうだねえ。意味ないからやらないだけで、作れるかどうかなら、作れるとしか言えないし、あんな適当なのじゃなくてもっと高機能なの物を作れるよ。でも、面白味も何も無い。ていうか、どれだけ高性能だろうとあんな不様なガラクタ以下な、ゴミ同然のモノなんて作りたくないよ」

 それには束自身が持論を含めて説明してくれた。無人機を作ること自体は難しくない。自分(篠ノ乃束)ならばもっと出来のいい物を作ることも可能。しかし彼女は無人機という、そもそもにゴミにもならない作品(モノ)を作る気などないと断言する。

「そう、か。ありがとう」

「どーいたしましてー。それじゃー、またね、ちーちゃん」

 そんな束の心と気持ちを聞いて、僅かに生まれていた疑念を完全に捨て、親友を疑った自分を恥じながらも、それらの感情は隠して素直に礼を言えば、束も気軽に答えてくれた後、またねと別れの挨拶をしてから束が通話を切った。

 

 紐解けば束が犯人ではない。それだけで別の疑念も生まれるが、今は事件が無事に終わったことを受け入れ、ゆっくり休むことにしようと、手順に従って物理電子双方の施錠とセキュリティを厳重に施し、秘匿区画を出て自室に戻る千冬。

 自室に戻った後彼女が、思わずいつも以上に飲酒してしまい、翌朝寝坊寸前の所を真耶に起こされるのは別の話である。

 時間になっても職員室に現れない千冬を迎えに行った真耶が、そんな千冬の痴態に彼女も人間なんだなと変なところで安堵し、千冬によってヘッドロックされたのもまた、別の話である。




一巻もここで漸く終了となりました。
原作沿いでありながら、原作とは違う設定、状況、展開を考える内に書くのに時間がかかってしまいました。
プロットや下書きをしてても、ちゃんと文章としてアップしようとするとなかなか難しいのですね。ずっと書き続けている方や完結させた方のこと、本当に尊敬します。
私もエタらないようにがんばらないと、と思ってます。

次に二巻序盤を兼ねた閑話を一話入れて、金銀コンビの転入から始まる二巻分の開始となります。
今作の一夏は鈴と一緒に中学に通っていない=ある人物と会ってない。そして鈴には恋人がいた。それは一体誰反田君なんだろうか(ネタバレ)

それでは、以後もよろしくお願いします。

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