インフィニット・ストラトス Apocrypha   作:茜。

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中国の猛虎、襲来

 最終的に単なる大騒ぎになった代表就任パーティから3日。今日もまた平常運転の授業日和。

 二年生の格闘訓練と爆発物解体実習の見学もあるらしいけどまあ、それはそれ。リィン達だけじゃなく、セシリアと一緒に行動するのも大分日常になった感じだなぁ。まだ何日も経ってないのに。

「あー。りーんにすーちゃん。ふぃーちゃんとせっしーも。おはよー」

 そうして教室に入ったところで本音と静寐とエンカウント。苦笑いしてる静寐を引き連れた本音がぱたぱたとこっちへ駆け寄ってくる。

「おはよう、本音、静寐」

「おはよ本音、静寐」

「ああ、おはようだ本音、静寐」

「おはようございます。本音さん。静寐さんもおはようございます」

 集まって全員でおはようと挨拶をすれば、なんか日常の優しさを感じる。贅沢、なのかな。こんな日常が続いて欲しいって思うのは。

「おはよう、みんな」

「えへへー。あ、そうだー。今日ね、二組に転入生が来るんだってー」

 そう思ってた所に、本音が転入生が来るって言い出す。生徒会情報だな、これ。いいのかな、言っちゃっても。いや、いいから言ってるのか、多分。

 というか中途半端な時期の転入って言うと思い出すよなぁ、とフィーとちょっと思い出話をする。

「随分と中途半端な時期に来るんだね。まるでクロウやミリィみたいだ」

「うん、そだね」

 クロウこと帝国解放戦線の元リーダー、クロウ・アームブラストと、ミリィこと帝国軍情報部エージェントのミリアム・オライオン。

 二人は恣意的且つ意図的な転入だったけど、今度の転入生もそんな感じなのかな。リィンと千夏がいるし。

「うん? えっと、それでね。なんか、二組の代表さんがその人に変わっちゃったんだってー」

 ともかく、僕達の話にちょこんと首を傾げた本音は、二組代表がその転入生に変わったことまで教えてくれた。

「それって、代表候補生とかって事?」

「そうだって聞いたよー」

 昨日の今日で代表交代って早いな、おい。まあ、二組は一般生徒しか居なかったから、代表候補生の転入は渡りに船だったんだろうけど。

 千夏は訓練の延長で考えてるのか、若干過小評価に見てるけど、まあ痛い目見ればいい。それを糧にしてくれれば。

「いい事聞いたぜ。そりゃ、気になるな」

 ていうかその代表候補生ってもしてかして……鈴、なのかな。代表候補生で多分、専用機持ち。もし原作に近い流れなら、鈴が来るはず、なんだよね。

 と、そんな風に考えてるところで箒が千夏に対して割と真面目に突っ込みを入れる。珍しく正論だよ、それ。

「お前にそんな事を気にする余裕があるのか?」

 とはいえ千夏自身、自己を過大評価してる面はあるけど、入学当初に比べれば若干自己評価を下げてる。代表候補生のセシリアと簪、レナを乗り越えるべき仮想敵にしてるからか、確かに技術面での技量の向上が見えてるし。

 因みに機体が完成してないのに専用機持ちと認識されてる簪は、本当は訓練機を借りられないんだけど、裏技使って訓練機を借りて訓練しはじめました。テレサ様々だね。

「別に余裕があるワケじゃねえよ。やればやる程アイツ達との差がわかっちまうし。でもよ、相手が代表候補生なら、戦う相手としては丁度いいだろ?」

 実際、たった二、三回程度の僕達や簪達との訓練でさえ、目に見えて千夏のIS戦技能は向上してる。それでも実戦では誰にも届かないから評価はまだまだ、だけどね。

「何が丁度だ、身の程知らず。お得意の近接戦でさえ、僕達の中で一番不得手のセシリアにも届いてないくせに。戦い方のパターンがまだ限られ過ぎてるんだよ、織斑はさ」

「そうですわね。織斑は近接戦に特化していますのに、中距離射撃戦が主体のわたくしやテレサさんにさえ、ナイフ一本で迎撃されているのは大問題でしてよ」

「うん。近接装備が殆ど無い遠距離型のエマにもぶっ飛ばされてるし。まだまだ、だね」

 だからお約束の皮肉タイム。こうやって焚き付けて煽って少しでもやる気を引き出す。飴と鞭の鞭は厳しめで。飴は箒が勝手に与えてくれるから、僕達は何もしなくても問題なし。

 当面はやっぱり近接戦と各種の機動パターンを身体に覚え込ませるのが先決かな、と考えてるところに箒が割り込み。確かに箒は近接戦の相手としてレベル的に適性なんだろうけど……。

「ならば私が!」

「専用機を持っていませんのに? 篠ノ乃さんは剣を使った近接戦が得意ということは存じています。織斑のお相手にも丁度良いかも知れません。ですが未だ、一度も訓練機を借りられていないのでは?」

「それは……」

 セシリアが言う通り、箒は未だ訓練機の申請が通ったことがない。因みに僕達や生徒会は妨害してない。本当に空きが少ないから通ってないだけ。実際、本音や静寐達も借りられなくてIS訓練には参加出来ないでいる。代表選出戦から今日までの間に借りられたのは、簪とレナのも合わせてたった二回だけで、本音達は一機を交替で使ってもらってた。まあ、借りる時に一回で三機も借りられてる時点で割とくじ運に恵まれてる。けど、箒が訓練に参加するのには訓練機云々以前の、もっと重大な懸念事項がある。

「それにさ。織斑の訓練するって言ったって、多分君のやり方じゃかえって混乱するんじゃない? 剣道場での様子見てて思ったけど、擬音ばっかりで意味がわからないし、直す気もないでしょ」

「うんうん。しののんの教え方じゃわかんないよー。てっさも言ってたしねー。しののんのは擬音語だけで理解が出来ない。教える気があるのかーって」

 何かと言えば箒の指導の仕方だ。模擬戦形式で打ち合うだけなら問題ないけど、何かを教える段になると途端に擬音だけになって意味不明なことになる。箒が剣道に関しては天才肌且つ感覚派だからこその弊害だね。ここをこうして、ばんっと行く、とか言われても意味分かんないよね。

「いや、千夏はそれが解りやすいと言ってくれる」

 当の箒自身は、その事について必死になって千夏の同意を得ようとしてるけど。

「ふうん。で、当の織斑はどうなのさ?」

 千夏本人に聞いてみれば瞭然。コイツは箒の指導では何一つ吸収出来ないでいる。

「……いや、流石の俺でも、あれじゃわかんねえし」

「ばかな!」

 千夏が口にした否定の言葉に愕然とした様子の箒だけど、実際問題、箒との訓練で役立ってるのは試合形式での剣道の打ち合いだけ。中学では竹刀を握ってなかったらしいから、その間に錆び付いて鈍った剣を振るう感覚を取り戻させることに留まってる。まあ、白式のコンセプト上、それはそれで十二分に役立ってるんだけどね。今は。

「ま、とにかくさ。二組に代表候補生が来るっていうなら、俺も代表としてもっと鍛えて迎え撃つまでだぜ!」

 ともかく、今の箒を無視して、新しく代表候補生が来ることに威勢を良くする千夏だけど、その声に被せるように、最後に会った頃と余り変わらない、でもどこか獰猛さを滲ませた懐かしい声が教室内に響き渡った。

「ふん、甘いわよアホ千夏! このあたしが二組の代表になったからには、あんたなんかには絶対に勝たせないし、大きな顔させないんだから!」

 声の元。教室の後ろ、ドアを背に猛々しく仁王立ちして千夏を指さす、小柄な女の子がそこに居た。

 小柄とは言っても、あの時よりも背が伸びてるし、ずっと女の子らしくなってる。けど印象も面影も余り変わらない、一目見て分かった僕の親友、凰鈴音。やっぱり転入生は鈴だったんだね。

「……転入生って凰、鈴音、なのか?」

「そうよ。凰鈴音よ。転入生があたしでなんか文句あるか、アホ千夏!」

 千夏の方は鈴が苦手なのか、若干引き気味になって鈴に確認する。僕と違って同じクラスに居たから確認するまでも無いと思うけど。でも鈴の返しもまたなんというか、変わらないな、あの頃と。僕を庇ってくれてたあの時と。

「いや、けどお前が代表候補生、なのか?」

「そうだって言ってるじゃない! あんたの耳は風穴でも開いてんの? あたしが中国の代表候補生、凰鈴音よ! しっかり覚えておきなさい!」

 中国国家代表候補生で、恐らく専用機持ち。代表交代が早かったのも多分、一般生徒より専用機持ちの代表候補生でってことだろう。ていうか、鈴、いつの間にか中国に帰ってたのか。お店があった場所に行っても建物毎無くなってたから気にはなってたけど、鈴の家族にも何かあったんだろうな。

 優衣曰く、原作では中2の頃に両親が離婚して母親に連れられて中国に帰った、て聞いたし。こっちではどうか分からないけど。今までの大筋に変わりがところから、こっちの鈴もそうなんだと思う。だとすると、たった一年で代表候補生になるって、凄い。というかなんで僕の周りってこんなに天才肌の人間が多いんだろう?

「そ、そうか」

 なんて考えるけど、そんなことよりもいつまでもそこに居ると危険なんだよね、と思って彼女()に声をかける。あくまでも初対面を装って、後ろに注意(チェックシックス)と。そろそろ千冬姉達が来る頃だからね。

「あー、その、凰さん。お話中ごめんね。後ろ、見た方が良いよ。そろそろ鬼が来るから」

「え……。ううん、えっと、鬼って……あー、うん。なんかわかった。ありがとう。また昼休みに来るわね。あなたも、その時に一緒に」

 すると鈴は僕の顔を見て目を見開いて、でも直ぐに首を振って、続けて首をやや後ろに向けて誰が来るのか理解した所で納得してくれたのか、過ぐに踵を返して教室を出ようとしながら、お昼のお誘いをしてくれた。

「うん、わかったよ」

 そのお誘いにはもちろん肯定を返す。でもさっき目を見開いたのって、どうしたんだろう。なにか信じられない物を見たような目だったけど、もしかして……。

 そう思ってると、横に居たセシリアが鈴と千夏の関係を呟いた。それには幼馴染みなんじゃ、とだけ答えておく。鈴は千夏を嫌ってたから、どちらかというと腐れ縁だと思うけど、説明出来ないし。

「……先程の凰さん。織斑とお知り合いなのでしょうか?」

「多分、そっちで言うChildhood friendってヤツじゃない?」

 ともかくセシリアはそれで納得したからよしとするか。

「ああ。なるほどですわ」

 でもってついでにお昼の席取りを千夏に頼むと、千夏は悪態ついた返事を寄こした。

「てわけで織斑。昼、席取っておいてねー」

「テメエはいちいち俺に命令すんな! クソが!」

 でも威勢はいいんだけど、なんていうか、悪ガキって感じだよな、これ。  

「悪ぶってるだけなのか、単にバカなのか……」

「どちらでも同じではないでしょうか。わたくしには関係がありませんし」

「あはは。それどーかん」

 思わず口にした僕の言葉にもセシリアは律儀に、でも呆れを隠さずに答えてくれた。確かに同意だわ。

 

 そして午前の授業と見学が終わってお昼休み。宣言通り教室まで来た鈴と一緒に食堂に行くけど、いつものメンバーも当然集まるわけで。

 今回だけは席数の関係で静寐と本音には遠慮して貰って、だけど代表候補生と専用機持ちの企業専属だらけなこの空間。食堂の中でも群を抜いて目立ってる。一般生徒扱いは千夏と箒のみ。それでも千夏が世界最強の弟で、天災の妹の箒と共にやっぱり視線を集める。未だに。

「け、結構な人数が集まったわね……。でもま、軽く自己紹介と行きましょうか。まずはあたし。二組代表で中国国家代表候補生の凰鈴音よ。認めたくないけど、そこのアホな二人目の男性操縦者様とは、小学4年の後半から中学2年の始め頃までの腐れ縁て所ね」

「……相変わらず口悪いよな、凰は」

 初日から使ってる食堂で一番大きい円卓に集まって、まずは鈴の自己紹介……て、ホントに千夏の事が嫌いなんだよね。腐れ縁って言いきったし。しかも吐き捨てるような言い方してたから、悪い意味での腐れ縁って事だし。

「あんたがやってきた事に比べれば大したことじゃないわ。それで、あなたの名前、教えてほしい」

 次は僕がご指名みたいだ。どこか探るような視線を受け止めながら、僕も自己紹介する。

「緒方ステラ・バレスタイン。ステラでいいよ。こんな名前と、髪と眼の色だけど一応、純日本人。こっちの優衣は義理の妹で、揃って月岡重工の専属操縦者をしてるよ」

「……そっか、ステラっていうのね。あたしも鈴でいいわ。よろしく、ステラ。妹さんも、よろしくね」

 すると何かを見透かされた気がする視線を感じた。何かを確認してる。そんな感じかな。まあ、それもほんの一瞬で、優衣に声をかけた時にはそんな雰囲気は一切なかったし。やっぱり僕の事に気付いてるのかな……。

「うん。ステラの妹で緒方優衣。優衣って呼んでね、鈴」

「了解よ、優衣。で、一人目の男性操縦者よね。確か、リィン・シュバルツァー」

 こちらも無難な感じで終わった優衣の自己紹介。まあ、名前だけだしね。それで次がリィン。

「ああ。リィン・シュバルツァーだ。ステラと同じ月岡重工の専属操縦者で、男性操縦者の状況調査と稼働試験を受け持っている。歳は十九になるが、呼び捨てで構わない。よろしくな、凰」

「よろしく、リィン。あたしの事も鈴でいいわよ。他の人もね。硬っ苦しいのは好きじゃないから」

 年齢的にはリィンとエマが最年長だけどまあ、学年一緒だし、鈴が言う通り堅苦しいのは微妙だしね。

「で、順番に聞いてもいいかしら?」

 そうして、鈴がリィンの隣に座るエマ達に声をかけて、みんなが一遍に自己紹介。

「ええ。エマ・ミルスティンといいます。エマと呼んでください。ステラちゃんと同じ月岡重工の専属操縦者です。歳はリィンさんと同じ十九ですが、よろしくお願いします」

「フィー・クラウゼル。フィーでいいよ。月岡重工の専属操縦者で、歳は十七。けど気にしなくていいよ。よろしく、鈴」

「セシリア・オルコットと申します。セシリアとお呼びください。イギリス国家代表候補生で専用機、ブルー・ティアーズを預かっています。よろしくお願いいたしますわね、鈴さん」

「イレーナ・シャンティです。レナかイリィって呼んでください。カナダ代表候補生です。よろしくね、リン」

「更識簪。簪でいい。日本の代表候補生で、専用機は今、月岡重工の手助けで作ってるところ。あの、よろしく、鈴」

 そしてエマ達の自己紹介が終わると最後に箒の方を向いて、促す。

「エマとフィーにセシリア。それにレナと簪、でいいかしら。みんなありがとう。これからよろしくね! それで、あんたは?」

「……篠ノ乃箒」

 それにはやや苦虫を潰したような顔で名前だけを告げた箒。

「あー、あたしの前の居た千夏の幼馴染みちゃんか。よろしくね、箒」

 対する鈴は、箒が自分と入れ替わりで出て行った千夏の幼馴染みだと把握し、気楽に呼びかけた。

 しかし箒の方は、嫌そうな顔を隠さず、名前で呼ぶことを拒否。けど鈴がそんな程度でめげるはずもなく。

「……気安く、呼ぶな」

「あ、そ。ま、いいわ。早く食べちゃいましょう。食事は、みんなで楽しく、てね」

 しれっと箒をスルーして、お昼ご飯を確り食べようと、みんなに促すのだった。

 本当に、裏ではいろいろ考えてる癖に表に見せないで、安心させてくれる。変わらないな。

 

 それより、未だに僕の食事量にビックリされるのは仕様ですか、そうですか。でもね、食べても食べても足りないんだよーっ!




二十話を超えて漸く鈴が登場!
サブタイトルに猛虎と入ってますが、そこまでな感じじゃない気もしてます。……が、猛虎な鈴はまだ牙を隠してるだけです。猛虎は猛虎。その予定です←

しかし難産でした。イメージは出来るのに、そのイメージをなかなか文章に出来なくて時間がかかりました。
仕方なくと言うか、文章が湧いて来た先の方の話しを書いたり、プロットから下書きを書いたり、突発的な閑話を書く計画したりしてたのも時間がかかった理由ですが……。

そして、いちかわいいが最近の個人的トレンドというか、あの作品凄いですよね。
この作品では甘い表現がないというか、敢えて出さないようにしてるのですが、あの作品を読んでるとこう、自分も書きたくなってきます。
……どこかで閑話としてデート話でも書こうかな、と。

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